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集合知の力と社会進化としてのソーシャルイノベーション[ミラツクフォーラム2016]

フォーラム

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2016年12月23日に開催された、毎年恒例の「ミラツク年次フォーラム」。年次フォーラムは、毎年一般公開はせず、一年間お世話になった方をお招きして行う完全招待制の会として開催しています。

26人の登壇者と10のセッションを行い、ミラツクと共に取り組んでくださった全国各地の方々、ミラツクのメンバーの方々を中心に、100人を超える多くの方に足を運んでいただきました。

フォーラムのスタートを飾る基調対談では、慶應義塾大学特別招聘准教授の井上英之さん、京都市ソーシャルイノベーション研究所所長の大室悦賀さん、ミラツクの西村の3名が登壇。ソーシャル・イノベーションについて語り合いました。その様子をお届けします。

(photo by kanako baba

登壇者プロフィール
井上英之さん
慶應義塾大学 特別招聘准教授、NPO法人ミラツク アドバイザー
2001年から、NPO法人ETIC.にて、日本初のソーシャルベンチャー向けプランコンテスト「STYLE」を開催するなど、若い社会起業家の育成・輩出に取り組む。03年、NPOや社会起業にビジネスパーソンのお金と専門性を生かした時間の投資をする、「ソーシャルベンチャー・パートナーズ(SVP)東京」を設立。05年より、慶応大学SFCにて「社会起業論」などの、ソーシャルイノベーション系授業群を開発。「マイプロジェクト」と呼ばれるプロジェクト型の手法は、高校から社会人まで広がっている。12~14年、米国スタンフォード大学、クレアモント大学院大学に客員研究員として滞在した。近年は、マインドフルネスとソーシャルイノベーションを組み合わせたリーダーシップ開発に取り組む。軽井沢在住。
大室悦賀さん
京都市ソーシャルイノベーション研究所 所長、NPO法人ミラツク アドバイザー
1961年、東京都生まれ。株式会社サンフードジャパン、東京都府中市庁への勤務を経て、2015年4月より、京都産業大学経営学部教授に就任。著書に、『サステイナブル・カンパニー入門』『ソーシャル・イノベーション』『ソーシャル・ビジネス:地域の課題をビジネスで解決する』『ケースに学ぶソーシャル・マネジメント』『ソーシャル・ エンタープライズ』『NPOと事業』など。社会的課題をビジネスの手法で解決するソーシャル・ビジネスをベースに、NPOなどのサードセクター、企業セクター、行政セクターの3つのセクターを研究対象として、全国各地を飛び回り、アドバイスや講演を行っている。

社会がどう変わっていくか。そしてそれをどう助ける?

西村 今日、このメンバーでは「集合知の力と社会進化としてのソーシャルイノベーション」をテーマにお話しします。

最近『進化は万能である』という本を読みました。進化といえば、生物学者のチャールズ・ダーウィンの進化論が有名で、適者生存で世の中の状況に応じて生き残っていく生物がいることを「進化」と呼んでいます。

もしくはテクノロジーの進化という一面もあって、前の時代に起こったテクノロジーが積み重なって次のテクノロジーが起こっているように、社会も今の状況が積み重なっていって次の状況が生まれてくる。

「すごいイノベーションがあって世の中が変わりました」とか「すごいリーダーがいて変えていった」という話ではなくて、いろいろな元の状況や動きがあり、それが積み重なって世の中が変わってきた。これは、僕の中でしっくりくるものがあったんです。

「それをソーシャル・イノベーションと呼ぶのだったら、やりたいこととけっこう似ているな」と思い、このテーマを掲げてみました。

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大室さん 京都からまいりました、大室といいます。普段はソーシャル・イノベーションについて研究している身で、いろいろな地域に入ってNPOの方や企業の方を応援させていただきながら研究をしています。

「集合知の力」というとすぐ集団の話になるんですけれど、今日本で一番足りないのは「個の力」だと思っています。日本には集団で考える傾向がありますが、「個の力」をどれだけ上げられるかを、もっと考えないといけない。企業も「マネジメント」というと必ず組織のマネジメントの話になってしまうんです。

集団の社会進化というよりも、一人の「個」の新しい動きに社会が反応し始めて自己組織化していく、というふうに僕は思っています。

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井上さん 皆さんおはようございます、井上です。僕は、この1年間の大きな変化として、結婚8年目で初めて子どもが産まれました。明日で9ヶ月になります。軽井沢に住んでいるんですけれども、この東京出張で子どもつきの5泊の荷物をパッキングして移動するのは大変で、いろいろな社会課題を感じながらやって来ました。

以前、アンダーセン・コンサルティング(現・アクセンチュア)で働いていた頃、会社で一生懸命働いている人の経験や、テクノロジーなどの一つひとつの力が、何かの目的やより良い世の中のために向かったら、例えば汚れた海岸が短期間できれいになるような、目に見える変化になると思っていて。

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そんな気持ちから、「社会起業」という分野を日本でどうしてもつくりたくて、ソーシャルベンチャー向けプランコンペを始めてみたり、みんなで1人10万円ずつ出し合ってファンドをつくり、資金とそれぞれの専門性を提供する「ソーシャルベンチャー・パートナーズ(SVP)」を始めたりしてきました。

でも、そんななか、好きで始めた仕事なのに、僕自身が働きすぎて自律神経が随分おかしくなってしまって、今思えば、「俺が変える」という気持ちが強かったと思うんです。「世の中が変わっていくのを助ける」というようなことを口で言っておきながら、「こんなにやっているんだし、なんでもっと変わらないの?」と、勝手に背負っていたところがありました。

体調を悪くしたことをきっかけに軽井沢に移住し、日本財団様の国際フェローシップをいただいてカリフォルニアに行きました。そこで、仏教にもルーツのあるマインドフルネスや瞑想、その科学的な背景にもなっている脳科学や、ポジティブ心理学などを学びながら、少しスピードを落とすことによって、大小たくさんある自分のパターンに「気づき」、違うパターンを繰り返すことによって、新しい自分のパターンをつくれるようになっていったんです。

ソーシャル・イノベーションにとって、マインドフルネスは3つの意味があると思っています。

1つ目は、すごく頑張っている人やリーダーの、その頑張り方を少し変えて、よりサスティナブルにするという「セルフケア」とか「セルフマネジメント」としての意味。

2つ目は、例えば落ち着きのない子供たちがこれで落ち着くとか、犯罪を繰り返してしまう人の行動パターンが変わっていく。直接に、社会を変えていくプログラムとなり、ソーシャル・イノベーションにつながっていく。

3つ目は、自分自身に繋がり、それが他者への理解にも繋がること。例えば、自分が気に入ってもいない水を「いりませんか?」と言っても多分売れませんよね?でも、心から気に入っている水の素晴らしさを語ることができたら、だいぶ飲んでもらえる。

マーケティングの基本って、本当はこの「Self-Compassion」という、自分への共感から、私と仕事と世の中がより繋がっていくことなのだと思います。より深い自分への気づきや自己理解が他者理解に繋がり、市場や世の中への理解に繋がりやすくなる。

このように、マインドフルネス的な分野とソーシャル・イノベーションとの接続面をつくっていこうと、今いろいろとやっています。

自立した「個」と、穏やかなリーダー

大室さん 実は僕も最近同じような経験をしていて、今年(2016年)の夏まではいろいろあって眠れないし、本当にいつ死んでもおかしくないみたいな状況でした。その頃ってすごく孤独だったんですね。

僕、井上さんから「マインドフルネス」を勉強させていただいて、「自立」について気がついたんですけれど、人は、実は周りに人が存在しないと自立できないんですね。

脳は、相対の世界がないと自己認識できないそうです。つまり、相手がいないと僕たちは自分を認識できないんですね。相対の人たちが存在しないと自分は存在できない、自立できないということに気がついたらすごく楽になって、孤立感から抜け出すことができました。

日本は、集合知とかソーシャルイノベーションって言った時に、集合的なところで見るんですね。システムチェンジを集合としてやるんですよ。ソーシャル・ビジネスも、すぐ群れるんです。「ソーシャル・ビジネス業界」や「NPO業界」みたいなものをつくって。

日本人ってすぐ群れていくんですが、そうではなくてもっと、「個」が立ってこないといけないと思うんです。「個」が立っている人とは、実はすごく相対の世界で、周りに人がたくさんいる。「支えてもらっている」ということを理解していると自立ができるので、そういう人達をもっと増やしていくことが、ソーシャル・イノベーションに繋がっていくと思っています。

もう一つ、井上さんから僕が学んだことは、本当に素敵なリーダーって喋っていてもすごく穏やかだということ。そういう人たちは、感情をマネージメントできていて、全部許容できるんですよね。

怒りとか、人に対する感情が生まれてしまった時、その前提がどこから来ているのかを見られるようになると、自分がすごく穏やかにいられます。

穏やかでいればいるほど、繋がっていくことができます。僕が変わることによって、自ずと周りが変わっていくんです。結果としてそれがソーシャル・イノベーションに繋がっていくと思っています。

自分の感情は欲です。欲もパフォーマンスを下げます。そのことを社会企業家やソーシャル・ビジネスをやっている人に伝えると、怒られるんですが、欲なんですよ、「社会を変えてやろう」なんていうのは。

それと、ソーシャルビジネスも社会企業も、実は社会的課題を解決するっていう対処療法なんです。目の前のことに捉われるほど、ソーシャル・イノベーションも起こせないし、自分自身も進化していかないんですよね。

社会を進化させるために、個々が進化するためにソーシャル・イノベーションという言葉が出てきている。マーケットって、市場のメカニズムそのものをいかに自分の進化や成長につなげて活かせるかってことが大事なんじゃないかなと、最近すごく思っています。

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どんな未来をつくりたいか。どうビジネスをしていくか

西村 経営者やリーダーの話が出てきましたが、「やってやろう」「これを達成しよう」という、外向きではないリーダーはどう活躍し、どう前に進んでいくのか、例を教えてもらえないでしょうか?

大室さん みなさんがよくご存知のところで言うと、「ライフネット生命保険」の代表取締役会長兼CEOである出口治明さんが『全世界史 講義』という本を出されています。ぜひ読んでいただきたいのですが、「経営者がこういう本を書くんだ」って感じますよ。世界の歴史に対して、経営者なりに意味づけをしているんです。

また、「伊那食品工業」の代表取締役会長の塚越寛さんも素敵で、本当に穏やかな方です。「世界を変えるぞ」なんて殺気立っていない。殺気立つとうまくいかないということは、その人たちからすごく感じますね。

どなたも特徴として、「未来型の理念」をしっかり持っている方です。僕は、関わる企業経営者や行政の方には必ず「未来設定」をしてもらいます。どんな未来をつくりたいのか、それに対してどうビジネスをしていくのかっていう、その「未来設定」が一番大事だと思っていて。それができていると、チャネルや手法にこだわらなくなるんですね。

チャネルっていくつもあって、常にたくさん持っていて、どれがベストチョイスなのかを考える、ということが僕はビジネスだと思っています。一つひとつのビジネスにこだわらなくなり、執着せずポジティブに選択できるようになるので、穏やかになるのかなと思います。

例えば、「環境負荷をかけないような生き方をしたい」と言ったら、環境負荷をかけないで、未来へどう進んでいくのかということになります。目的地が大事なのであって、あみだくじのように、経路は何でもいいんです。

井上さん 途中はなんでもね。

大室さん あみだくじに横棒を一本を足すだけで、欲しい未来に行けるようになることもある。

今いくつかの企業が、逆ピラミッド型の組織構造を持ち始めています。トップがいてフロアがいるピラミッド型ではなくて、トップが下にいて、その上にスタッフがいる逆ピラミッド型の組織。京セラのアメーバ経営がそうですが、ポイントは、企業のトップが意思決定をしないことですね。あくまでも理念や未来、そこに向かっているかどうかを、各フロアが設定している。トップは何をしているかというと、ひたすらコミュニケーションをとっています。

なので、コミュニケーションのクオリティが、企業のパフォーマンスに繋がっています。それぞれの企業の経営者が穏やかにならないと、そういう組織構造がつくれないんです。

自分の反応のパターンを知る

井上さん 大室さんありがとうございました。僕はいろいろ行き詰まってどうしようという時、2つのことをしました。まず、食事を変えました。久司道夫さんという偉大な日本人がいて、怪しいと言われたり叩かれたりしながらも、アメリカ全土にマクロビオティックを広げました。その食事の仕方や身体的な変化から、すいぶん学びました。

もう一つが、先ほどもでてきた、マインドフルネスといわれる分野を学び、実践もしました。ロサンゼルスに、ドラッカーがつくったビジネススクール「ピーター・ドラッカー・スクール」があって、そこのジェレミー・ハンターという僕と同じ歳の先生が、十数年ずっと「セルフマネジメント」という名前の授業をしています。

これは伝説の授業と言われていて、ドラッカースクールに行ったら必ず取らなきゃいけないって。そして、彼自身がこういうことをするきっかけには、やっぱり体のことがありました。

彼はハーバード大学に行ってスカラシップも取って、まさに順風満帆だった20代の始めに、腎臓に大きな問題があるとわかり、余命宣告をされたんですね。

そこからどう生きればいいか分からなくなって、お母さんが日本人だったこともあって、禅をしっかり学んだり紆余曲折ののち、今でいうマインドフルネスの実践やその科学的な説明にたどりついたんです。

8年ほど前、腎移植を受けることになって、ドナーが必要になった時に、彼がそれまで教えてきたドラッカースクールの学生たちの多くが手を挙げてくれて、その内の1人が90数%の非常に高い適合率というミラクルが起きて、それで彼は今生きています。

マインドフルネスをやっていますと言うと、聖人君子的なイメージがあると思うんです。

穏やかで、素敵でって。全然違うんですよ。人間らしく怒るし、ムキになるし(笑)。大室さんが言っていたことを否定するのではなくて、みんなダライ・ラマのようになっていくわけじゃない。

ダライ・ラマも実際には笑うし、怒るし、いろいろな感情を持っている。ただ、そうである自分を知っているというだけ。だから、怒っちゃいけないんじゃない。自分の感情をコントロールしようとするんじゃなくて、知っているっていうことがすごく大事です。

よりよい「結果」のために、今のパターンを変更する

井上さん 自分が、今疲れているなとか、こんな反応をしてるのはこういう背景からだよね、とか。上司からの命令にカチンときやすくなっているのは、もしかすると父親との関係が原因で、これまで必要があって自分を守ろうとしてきたのかもしれません。

自分のパターンに気づいて、受容して、理解する。そうすると免疫のように反応していた自分の体が少し治まるんですね。するとそこにスペースができ始めて、じゃあ違うオプションを考えようか、となる。

たしかに、上司は父ではないし、話の内容は締め切りの確認だけだった… これまでのやり方で、よい結果がでていればいいけれど、そうでないのなら、自動反応的に繰り返していた今のやり方を手放してみる。無意識的に繰り返していた、よい結果につながっていないやり方に気づいて、こんどは意識的に、新しいやり方を繰り返して、パターンを変更するんですね。

「脳の可塑性」という言葉があります。子供の頃によく「年をとってから英語を学んでも遅いから、今やろう」って言われていましたよね。脳は、ある時期から退化していくばかりだって。これ科学的に否定されていて、むしろ脳の変化や進化は死ぬまでずっと続くんです。

ある行動を繰り返し行うと、特定の脳の部位が強化される。たとえば、瞑想を続けると、自分の感情に気づきよりよく判断する脳の部位が分厚くなっていく。新しいパターンを繰り返すと脳が変化し、進化するということです。

これだけ変化の多い経営環境、経済環境、社会環境の中で、リーダーシップを発揮したり、もしくは個人的な決断をしなければいけない時に、今までにないような状況なのに、これまでと同じパターンの対応をしてしまう。人間は、急にカーッとなった時には、過去のパターンによって無意識に、過去と同じ選択をしやすいんです。

リーダーシップ教育の中で、感情に対する知性「エモーショナル・インテリジェンス」が非常に重要になっています。忙しく刺激に反応するばかりでなく、一日の中で、静かに今に心をおくような時間を繰り返し持つ。それによって、脳が変化し、いざという時にも、よりクリアに、適切な判断ができるようになっていく。こういうことが、かなり科学的に言えるようになってきています。

大事なことは、今の自分の状態に気づいている、ということです。欲しい結果につながっていない、今の自動反応的なパターンに気づき、そのパターンを手放して、意識的に、別の選択肢をみつけていくことなんです。

無意識にやっている「よいやり方」を意識化する

井上さん 一方で、実はなんとなくやっていて、いい結果が出ていることもよくあります。無意識にやっているいい行動に気づいていないから、なぜいい結果が出ているか気づいてない。

「子育てキッチン」という文京区にあるNPOはとても面白く、子どもに早くからキッチンで料理をしてもらうと、自立が早まることに気づいたある主婦が始めたんです。

その方に、「これはもっとプログラム化して展開できるはずですよね」と言ったら、当初「これは私たちのような、子どもが好きで、特定の資質をもった人でないとできないんです」と仰っていたんです。

そこで「何をしたらうまくいったか、記録をとってみてください」とお願いしてみたら、かなりの打率で、特定のパターンがあることがわかりました。

こういう言葉をかけていたとか、このタイミングですることとか、失敗しかかった時に注意をしないとか、いくつかのパターンがあったんです。これをプログラム化する。再現可能になるし、展開もできるようになる。

無意識的に、よい結果につながっているやり方に気づいて、それを意識化して、プログラムにする。欲しい未来に近づけるんです。

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僕らは現実を必ず何かのフレームに入れている

西村 気づくっていうのはポイントだなと思ったんですけれど、気づくっていうことと、情報がたくさんあることはちょっと違うじゃないですか。近い情報をたくさん集めることは、気づくこととちょっと離れているなと。

どうして離れているって思うんだろう。脳のキャパシティをどのくらい残しておけるかみたいなことが大事だなと思いました。

あれもこれもと考えれば考えるほど情報はたくさん入ってくるんですけれど、一方で今何が起こっているかに気づきにくくなっている。情報を掴むということと、気づくことが似ているようで、正反対というか。実はどんどん遠ざかっていくみたいな。

井上さん スペースをつくるということがすごく大事ですね。脳が1秒間、1分間に処理できる情報量が決まっているんです。昔はマルチタスクができると、採用されたんですが。最近は、マルチタスクの弊害は、科学的にも指摘されていますね。

例えば、人の話を聞きながらFacebook眺めつつ、サンドイッチを食べている場合。人の話を聞いてメモをとるだけで、処理能力の70〜80%は既に使っているとか。

それに加えてチャットをするとさらに15%使う……と、どんどんパフォーマンスが落ちていく。

キャパがない時、人間はどんな行動をするのかというと、さっきの話のとおり、これまでと同じパターンの行動を無意識的にするんです。急いで、いつもと違う場所に向かってる時に限って、思わず、いつもの駅で乗り換えたり(笑)。新しいものを創造したい時ほど、一定のスペースや空間、意図してひと呼吸いれたり、脳のキャパが必要です。

大室さん 会場のみなさんに質問です。絵で、抽象画が好きだという人はどのくらいいますか? (参加者の手があがる) はい、ありがとうございます。具象画のほうが好きだという人は? (参加者の手があがる)ありがとうございます。

これが、現実をピックアップするみなさんの一つの癖だと思うんですね。絵ってすべて現実をピックアップしているんですよ。

抽象とは、心の投影が入ったものが抽象化していくもので、一つひとつの細部までをピックアップしたものが具象だと思うんですよね。僕らは現実を必ず何かのフレームに入れながら、キャッチアップしていくん。それが大きな癖です、僕らの。

つまり、どういう癖で現実を見ようとしているのかを見つめると、非常におもしろいことが起きる。一つの現象もいろいろな意味づけができると思うんですよね。

井上さん流に言うと、気づいていくということですね。なぜそういうふうに捉えるのか、それが好きなのか、ということを僕も学生たちによくやらせています。

現実は絶対にキャッチアップしきれない。必ずそこで、抜き取るわけ。みなさんの頭と心がどういう現実の抜き取り方をしているかによって、見え方が変わっていく。

そこにも心のパターンがあって、そこに気づくことも、すごく大事なのかなって今思いました。

「腐敗」と「発酵」の違いは「おいしいと思うかどうか」

西村 大室先生が、個の力が重要なんだけれども、個の力ではなくむしろ共感をすることによって、もしくは井上先生の自分のスペースを作ることによって、自分のパターンに気づいていき、新しいものを創造できるようになることの積み重ねが、ソーシャル・イノベーションって呼ばれるものなのかなって、今自分なりに解釈し始めていたんですけれど。

進化って、前に進む感があるじゃないですか。退化ではなくて、進化していく。つまり、変化すれば何でもいいというわけではなく、進化していくような変化が起こる。もしくは退化に入らないようにするために、同じ変化でも進化のほうに入るような変化の生み出し方。新しかったら進化なのかな。

なんか同じニュートラルな変化だけではなくて、前か後ろか……みたいのがちょっとあるなと思って、後ろに行かない変化の方法って何ですか? みたいなことを聞こうと思いました。

井上さん 難しいことを聞くなぁ(笑)。その変化が退化なのか、進化なのか、それも、一つの価値判断なので。そうやって、ジャッジしなくてもいい。だから、分からない。答えになってるか分からないけれど。

大室さん 答えになってないんですけれど、ちょっと言葉を変えると「腐敗」と「発酵」という言葉と同じかなと今捉えていて。どちらも同じ作用です。じゃあ「発酵」と「腐敗」がどう違うのかということなんですけれど、実は環境が違うだけで、同じメカニズムで動いているんですよね。

環境があれば「発酵」するし、環境がないと「腐敗」していく。例をあげると、お酒とかですね。今日、会場に発酵の専門家がいらっしゃいますね。

同じメカニズムだけれども、環境が変わるだけで、その両側にふれるというような。悪いことではないんですね。だから「腐敗」も、進化と退化。退化っていうのも必要だから退化していく。井上さんが「それジャッジメンタルだよね」っていうのもそういう意味だと思うんですけれど。

西村
 (会場にいた、発酵デザイナーの小倉ヒラクさんに)「腐敗」と「発酵」ってどう違うんですか?

小倉ヒラクさん 一応専門家ということで答えさせていただくと、違いはですね、自分がおいしいと思うかどうかです。広い部分で言うと自分が好きか、嫌いかです。一緒なんだけれど、それが益虫か害虫かみたいな違いで。分かりやすい例がくさやですね。これが「腐敗」と「発酵」の微妙な違いです。

今の進化の話から言うと、自分が「この変化が役に立っている」とか「これによって世の中が良くなっている」と思えれば「発酵」だし、「これ意味ねえな」って思ったら「腐敗」です。

世の中の大多数の人が、「役にたっているな」と思うと「発酵」側に認定されるんですよね。くさやは真ん中ぐらいです。

西村 ありがとうとうございます。では、最後にお二人から簡単にまとめのコメントをいただきたいと思います。

Weから始めるとIが溶けてしまう

大室さん 今日はありがとうございました。京都を中心にこんなことをやっていますので、どうぞよろしくお願します。

井上さん 大室さんの未来設定のように、“欲しい未来”を描くというプロセスってとても大切で、僕も「フューチャーコラージュ」というのをたまにやります。

雑誌を山にして、印象的だったり、体感的に気になる写真をざくざく切りとって、模造紙にぺたぺた貼ってコラージュにする。あまり考えず、感じるままに。体が発している声にしたがって、10年後の自分を描くんです。

頭でなくて、体が知っている未来がある。体の反応って、すごい情報をもっています。でも、「体イン、体アウト」で、体の情報って、そのままだとすぐに体感って忘れちゃう。一方、「頭イン、頭アウト」、頭から入って、頭で表現しても、表層的になる。だから、「体イン、頭アウト」で、体からの情報に耳を傾けたうえで、それを可視化したり、言葉に落としておくと、驚くようなビジョンに出合います。

また、最近「コレクティブ・インパクト」という言葉が流行っていますが、FSGというコンサルティング会社が世界をリードしています。彼らも言っていますが、その成功って、いろんな分析的な要素もあるけど、協働に一番大事なのは、互いの背景やマインドセットの違いを、よく知っていること。そういう時間や空間を体感的に持っていないと、うまくいかない。

そのときに大事なのが個なんです。Weよりもまず、Iを知りあうことが大事なのに、私たちは、会話をWeから始めやすい。最初から、業界や会社などのWeを主語で考え出すと、Iが溶けてしまう。自分自身と繋がっていないから、なぜこれがしたいのか、欲しい未来がわからなくなる。目の前の相違点で、話が止まって、大きなものにつながらなくなる。

多様なものが、違うからこそ、自らと他者を受容し理解しあいながら、大きな目標に向かって役割分担していくのが、「コレクティブ・インパクト」なのかなと思っています。

今、世界には、どんどん分断しようという流れがあります。つながる、ということの大切さが、リアルに増していると思う。そんな中で、新しい未来を作るためのつながり。年の一度のこの機会が、そうなればと思っています。今日がどういう会なのかが、ようやくわかった気がしました。

西村 それでは、基調対談はここまでです。ありがとうございました。

小久保よしの 編集者
フリーランス編集者・ライター。編集プロダクションを経て2003年よりフリーランス。担当した書籍は『だから、ぼくは農家をスターにする』高橋博之(CCC)、『わたし、解体はじめました ─狩猟女子の暮らしづくり』畠山千春(木楽舎)など。 当サイトの他、雑誌『ソトコト』やサイト「ハフィントンポスト」などの取材で全国を駆け回り、東京と地方の行き来のなかで見えてくる日本の「今」を切り取っている。「各地で奮闘されている方の良き翻訳者・伝え手」になりたいです。
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