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新たなライフスタイルを支える未来の創出[ミラツクフォーラム2016]

フォーラム

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2016年12月23日に開催された、毎年恒例の「ミラツク年次フォーラム」。一般公開はせず、いただいたご縁の感謝をお返しする会です。

当日はメイン会場と第2会場合わせて26人の登壇者と10のセッションを行い、ミラツクと共に取り組んでくださった全国各地の方々、ミラツクのメンバーの方々を中心に、100人を超える多くの方に足を運んでいただきました。

メイン会場で行われたセッション1では、「新たなライフスタイルを支える未来の創出」をテーマに、コメンテーターに「慶応義塾大学大学院SDM研究科」前野隆司さんを迎え、「Discover Japan」編集長の高橋俊宏さん、「株式会社日建設計 NAD」チーフの塩浦政也さん、「株式会社和える」代表取締役の矢島里佳さんと一緒に行われました。その様子をお届けします。

(photo by kanako baba

登壇者プロフィール
Discover Japan 統括編集長
高橋 俊宏
1973 年岡山県生まれ。1999年エイ出版社入社。建築やインテリア、デザイン系のムックや書籍など幅広いジャンルの出版を手掛ける。2008 年に日本の魅力の再発見をテーマにした雑誌、『Discover Japan』を創刊し、編集長を務める。現在は同誌プロデューサーとして、海外発信の拠点をつくるなど、多岐にわたり活動中。
日建設計株式会社 NAD(Nikken Activity Design)室長
塩浦 政也
日本最大の建築設計事務所である日建設計で、スカイツリータウンをはじめ、さまざまなプロジェクトに取り組む。2009年から、ハコモノをつくらない新たな事業チームを立ち上げ、2013年に新規事業としてNADを設立。NADでは、空間におけるアクティビティのデザインに取り組む。
株式会社和える 代表取締役 
矢島 里佳 Yajima Rika
1988/7/24東京都生まれ。職人と伝統の魅力に惹かれ、19歳の頃から全国を回り始め、大学時代に日本の伝統文化・産業の情報発信の仕事を始める。「日本の伝統を次世代につなぎたい」という想いから、大学4年時である2011年3月、株式会社和えるを創業、慶應義塾大学法学部政治学科卒業。
2012年3月、幼少期から職人の手仕事に触れられる環境を創出すべく、 “0から6歳の伝統ブランドaeru”を立ち上げ、日本全国の職人と共にオリジナル商品を生み出す。オンライン直営店から始まり、2014年、東京直営店「aeru meguro」、2015年京都直営店「aeru gojo」をオープン。“aeru room”、“aeru oatsurae”など、日本の伝統や先人の智慧を、暮らしの中で活かしながら次世代につなぐために様々な事業を展開。
慶応義塾大学大学院SDM研究科委員長・教授
前野 隆司
慶東京工業大学卒、同大学院修士課程修了。キャノン株式会社勤務、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、ハーバード大学客員教授、慶應義塾大学理工学部教授などを経て現職。博士(工学)。ヒューマンインタフェース・ロボット・教育・地域社会・ビジネス・価値・幸福な人生・平和な世界のデザインまで、さまざまなシステムデザイン・マネジメント研究を行っている。

社会課題解決の先にあるライフスタイルとは?

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西村 さて、ここはライフスタイルについて考えてみようというセッションになっています。

先ほど井上先生に、「ソーシャル・イノベーション」についてお話をしていただいたんですが、社会課題解決ではなく、社会課題解決の先を目指すのが「ソーシャル・イノベーション」。そこで、社会課題解決の先にある新しいライフスタイルとはどういうものなのか、それを一緒に考えてみたいなと思っています。

ライフスタイルというキーワードに興味を持ったのはつい最近のことなのですが、ライフスタイルって聞いたときにどういうものをイメージされるのかを、まず順番に伺ってみようと思います。いかがですか?

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塩浦さん 僕の活動の起点にあるのは、やはり都市や空間や建築であるといった部分からなので、ライフスタイルを豊かにするものは、多様性とか空間性だとか、そこに置く何かによる、相互作用みたいなものというイメージですかね。

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矢島さん 私は人間って、生きるために生まれてきていると思うんですよね。それなら何のために働くのか、これも生きるためなのではないかと、最近考えているんです。

“生きる”という1つの大きな円があると思ってください。私の場合、その中に、寝る、食べる、遊ぶ、美しいものを見るなど様々なことが入っています。

そこにもちろん“働く”というのも含まれているのですが、みなさんの円の中には、どんな小さな円が入っていますか?イメージしてみてください。そして、イメージができたら、その円を、自分のライフステージに照らし合わせてみてください。

大きさのパーセンテージが変わっていくはずなのです。例えば、20代の方は、社会と繋がって“働く”ことがものすごく楽しいという人もいれば、40代の方は、子育てが一段落して、今度は再び“自分”と“働く”が増える人もいるかもしれない。でも、“働く”がなくなることはないと思うんですよね。

自分が好きなことを通して人の役に立てるのが仕事です。子どものときよりも大人になったときの方が、“働く”という新しい要素を通してより広がっていく。それは、大人の醍醐味だと思うのです。

そういうのを全部合わせて、「自分はどうやって何のために生きていくのか」が少しずつ統合されていくと、自分らしく素直に生きていきやすくなっていくのかな、と考えています。

私が日本の伝統を次世代につなげたい理由は、今の日本人に最も足りていない“心の豊かさ”という要素を、伝統産業や伝統文化の世界はたくさん持ち合わせていて、そこから少しでも今の私たちの暮らしの中に、そのエッセンスを取り入れていくことができたら、実は“経済”と“文化”を両輪で回していくことができるのではないか、と感じているからなんです。

だから、私は「伝統を守る仕事」をしているわけではなく、暮らし方や働き方に伝統を活かした形が、今私が目指しているライフスタイルのイメージかなと思います。

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高橋さん 矢島さんのおっしゃる通り、働くと生きるはイコールだと思います。僕は今の会社が実は2社目なんですが、そう思ってこの会社に来たところもあります。

うちの会社の出版物は、趣味の本がすごく多いんです。バイク、自転車、釣りはバス釣りや海釣りで分かれていますし、犬の雑誌はレトリバーという犬種に特化しています。

本当にマニアックなものばかりなんですが、そんな中で『湘南スタイル』や、『田園都市生活』といった、エリアに特化して、ライフスタイルを提案する本もつくっています。

すると、「このあたりには犬連れで行けるレストランがないね」ということに気がつくんですね。そうするとうちの会社、お店をつくっちゃうんです。ゴルフの雑誌もあるんですが、ゴルフショップもやっています。

カリフォルニア工務店という名前の建築部門もあって、『湘南スタイル』に出てくる、サーファーが犬と暮らすような家をつくる工務店です。全部役員たちの趣味です。それをどんどんビジネスにしていっているんですね。

僕たちは、遊びをどうビジネスにするかを追求している、そんな会社なんです。仕事と遊びの境界がなければ、みんな真剣にやるんですよ。楽しいから。

そういうことをどんどんやってほしいなあと思いますし、僕の趣味はシーカヤックなんですが、僕も津々浦々あちこち行って、ライフスタイルを楽しみたいと思ってます。

大事なことは、訪ねて、歩いて、体感すること

西村 今思ったんですが、この3人って、いろんなところに足を運ぶのが好き人たちですよね。足を運ぶとか、行ってみるとか、体験してみるとか。それは与えられたものじゃなくて、自分がそこに行きたいという感じなんだなぁ。

塩浦さんは町や建物のことを考えるために、町歩きをされることもあると思うんですが、どういうものを見て、どんなことを考えているんですか?

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塩浦さん 私は、会議室には答えはないと思っていて、新しい仕事が始まるときには必ずクライアントと「アナロガスツアー」に行くんです。“アナロガス”っていうのは“アナロジー”の形容詞形ですが、類似空間体験みたいなものですね。

なぜそんなことをするかというと、建築都市の世界は、プロトタイプがしづらいからなんです。ドバイの王様じゃあるまいし、つくったけど「やっぱり駄目だった」ってできないですよね。そこで、どんな空間で、どんな経験を提供したいかを、擬似空間で体験しようと試みるわけです。

ただ、それはスペックがいいとか、ガラスが大きくて気持ちがいいとか、ある有名な建築家の設計だとか、そういうことではなくて、あるテーマを提示して行います。

例えば、「ふとした情報に出会える経験って何だろう?」とか「3分時間があったら立ち止まりたい場所って何だろう?」とか、「裸足になって寝ころべる芝生って何だろう」とか。こういういくつかのスポット的なアクティビティをテーマにして、町を見ていくんです。

それで、上野動物園に行ったり、新宿ゴールデン街に行ってみたりする。その時に大事なのは、バスでそこに行って、スポットを見て終わりではなく、必ず歩くんです。かなり歩きます、1万歩とか2万歩とか。それでくたくたになって、町のシークエンスを見ながら、夕方になってやっと分かるんです。

「そうかそうか、予期せぬ出会いってこういうことなのか」って。それを繰り返していくと、実は企業問題や社会問題みたいなものが身体感覚としてわかってきて、解決の突破口になっていきます。

そういう意味で、僕にとって町を歩くというのは、町に興味があるというよりも、自分の問題を解決するために町で何かを試す、というイメージです。ただ、それは確かに95パーセント遊びのような感覚がありますよね。

西村 そういう視点を、矢島さんと高橋さんにも聞いてみたいなと思います。矢島さんが、「これいいな」って思うのはどういう瞬間なのかなと。いろんなところに行きながら、こういうのがあるんだ、いいなあと思う瞬間を教えてもらえますか?

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矢島さん 何ってことではないんですよね。人間ならみんな実はやっているはず。どこかに行ったら、今まで自分が出会っていなかった感性とか価値観とか、物とか言葉とか、何かしらに出会っているはずなのです。

それを人よりも意識して、より多く収集して帰ってくるみたいな、そういう感じですかね。それは時と場合によって全く違うのですが、ただ、それが新規事業のピースになっていくことが多いんです。

いろんなところから自然のパズルを集めてきて標本にしておいて、何か新たなことを考えているときに、その標本集から取り出してはめると、「あぁこれだった」みたいなことが結構ありますね。

日本って多民族国家なんですよ。でも、ついつい言語や顔が似ているから一緒だと思いがちじゃないですか。何となく、日本人って思いますでしょう? でも、都道府県ごとにも違いますし、都道府県の中でも、それが県北なのか県南なのか中央なのかでも違います。

例えば、秋田の県南の方に行くと、同じ秋田県の県北よりも、山形の文化圏の方が言葉や食べ物も近かったりします。そういう風に見ていくと日本の中でもかなりの多民族がいて、それだけでもすごくおもしろいんですよね。

私が、各地に行くのは、そこは異国で、必ずおもしろいことに出会えることを知っているからなんです。だから、「何をしに行くんですか?」って、和えるの社員は誰も聞きません。私が何かを必ず得て持って帰ってくるだろうと、みんな信じてくれています。

塩浦さん 企業のお仕事をしていると、困る時がありますよね。「何のために行くんですか?」って聞かれて、「それを探しに行くんです」とか言うと、稟議書が下りない(笑)。

ワークショップも、「上野動物園に行きます」とか言うと「それによって何が得られるんですか?」って聞かれたり。今の矢島さんのお話を聞いて勇気をもらいました。

矢島さん 大丈夫ですよ。稟議書の本質が何なのかを、問うてみたらいいんじゃないでしょうか。なぜ稟議書を書かないといけないのか。「その稟議書という制度設計の本質を教えてください」って(笑)。

塩浦さん だんだん面倒くさくなって、最後は判子を押してくれますよね(笑)。

西村 理由がないとなかなか行けないんだけど、理由なく行かないと新しいものってなかなか見つからない。

矢島さん そうですね。もう理由があるんだったら行かなくていいのに、って思いますよね(笑)。

塩浦さん そうそう(笑)。

矢島さん 高橋さんは理由なく行ってそうですよね(笑)。

高橋さん ……はい。ただ、ありがたいことに僕には雑誌があるので、行ったところを記事にすればいいんです(笑)。僕たちの仕事は編集者でもあるんですが、今起きているおもしろいことを、一般の人たちに伝わるように変換する翻訳でもあると思っています。

昔、ホテルの連載をしていたんですが、始めたきっかけは1泊80万円の部屋がどんなにすごいのか見たかったからなんです。塩浦さんのおっしゃる通り、見ないと分からないし。そして、見て分かったのは、空間ももちろんなんですが、おもしろいのはディテールにあるということでした。

それは、タオルやボトルなどのアメニティーだったりする。そこを紹介したいんです。いいものの、いい理由をどう伝えるかってことがとても大事です。そういうことをやっていると思っています。

対象を見たことがない人に、良さをうまく伝えるには?

西村 伝え方のことをちょっと聞かせてもらえますか? 伝えたいものを見たことがない人に伝えないといけないとき、どうやったらその人にうまく伝わるでしょう?

高橋さん その良いものの、どこがいいのかを、しっかり格好良く、美しく、分かりやすく伝えるということです。それはある時は“テーマ”だったり“切り口”だったりします。その辺りは、僕たちに任せて欲しいですね。

西村 矢島さんにも聞いていいですか? 伝えることを仕事にされているので、どういうふうな工夫をしたらうまく伝わるか、もしくはどうやって伝えようとしているか。

矢島さん 日本の伝統を伝える入り口を増やしていくために、新規事業が増えていっていて、2031年には、今のところ10個の事業が存在しているという計画です。つまり、10個の伝え方を生み出すのが和えるです。

例えば、「0から6歳の伝統ブランドaeru」は、物を通して、日本の伝統を伝える事業です。これは学生の時、なぜ大人たちは日本の宝物に気が付かないんだろうと思って始めました。
私自身、伝統に触れる機会がほとんどなかったので、赤ちゃん・子どものときから、日本に出逢える環境を生み出したいと思いました。

学生のときに出逢った職人のおじちゃん、手を動かすとすごい物を生み出せるんですよ。だけど、このおじちゃんが生み出す物や、おじちゃん自身も宝物であるということに、大人たちはどうも気が付けないみたいと。

であれば、このおじちゃんのつくる宝物の正当な価値を見える化して、つまり物を通して伝えようと。「この人日本の宝物ですよ!」と、言ってもわからないけれど、「物を見てください!」って言うと分かりやすいですよね。

また、今年の9月からはホテルの1室を、私たち和えるが日本の地域の伝統を生かしてプロデュースする、“aeru room”という新しい事業が始まっています。この事業は、空間を通して、その地域の伝統を伝える事業です。

そのお部屋に対して私たちが物語をつくるというよりは、その地域に元々ある物語を編集して、語れるお部屋をつくるということなのです。どうしてホテルがそこにあるのかを考えてみると、地域に魅力があるから、お客さんが泊まるわけです。

ということは、ホテルは地域の魅力の恩恵を受けて営業できているわけですよね。それであれば、もっと地域の魅力を発信する拠点になっていくべきなのではないかと思いました。

様々な日本の伝統をどういう風に伝えると、伝わりやすいのかということを常に考えて、その都度、一番伝えやすい方法を選択すればいいと、私は思っています。それが私にとっての“伝える”ですね。

西村 先ほど、いいホテルはディテールにこだわるって話がありました。いいホテルって何かのメッセージやコンセプトがぐっと伝わってくると、いうことがあると思うんですが、失敗すると、「気持ちは分かるけれども全然伝わってこない」みたいな感じになっちゃう。イケてるホテルのディテールってどんな感じなんですか。

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高橋さん 『Discover Japan』の創刊号で、京都にある俵屋旅館さんの特集をしたんですが、そこの佐藤年さんという方の審美眼と美意識がもうすさまじいんです。

その時も旅館の料理やお酒などを全部網羅しながら、布団とかも全部切り抜きで撮ってサイズまで載せて、タオルが何枚あるかとかまで見せていったんですが、スリッパまで羽毛なんですよ。

石鹸は花王さんと4~5年もかけてつくったオリジナル。夏布団はオランダ製のなんちゃらグースの羽を使ってて、重さが230gしかない。そういう話が、ぽんとすぐ出てくるんです。

一流のところは、そこまで配慮されているわけです。もう、“道”ですよね、旅館道です。そして、細かいところが良ければ、自ずと全体もいいですからね。

最後に間取り図を載せたんですが、不思議なのは、俵屋旅館に行くと、チェックインした後に他のお客と出会わないんですよ。僕は京都の小宇宙って呼んでいるんですが、麸屋町のど真ん中ですよ? すさまじいんです。ほんとに。

西村 ちなみに、どこを目指したらそういう旅館になれるんですかね?

高橋さん 旅館としての在り方じゃないですか。さっきも旅館道って言いましたが、やっぱり日本人って道をつけますよね、サラリーマンにはサラリーマン道があると思うんです。

だから、そこの分野でてっぺん立とうと思ったら、究極はどこがあるんだろうってなる。高見が見えてくる、じゃあそこ行こうみたいな。道を究めるライフスタイルは、いろんな分野にあるんじゃないかなと思いますね。

町のアクティビティが、人の生き方を実現する!?

西村:塩浦さんに聞きたいんですが、建物や空間だけじゃなくて、自分の生き方が実現していく町みたいなものをつくっていくために、どういうことができるでしょう? 町のアクティビティ自体が自分のこだわりを許してくれたり促進してくれたりするような町ってつくれないですかね?

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塩浦さん つくりたいですよね。今、特に日本に足りないのって、広場やパブリックスペースだと思うんです。自分の生きざまを投影する場所がない。ライフスタイルとか個人個人はおもしろいんですが、みんな無言で、何も考えずに通勤電車に乗っちゃったり、エレベーターの中で黙ってみたり。

こういうものにすごく機会損失を感じています。例えば、とある電鉄会社さんが3社ぐらい集まって、とある世田谷区の駅前に、地元のシニアの方々を集めて花壇をつくるというプロジェクトをやったらしいんです。

通常だとランドスケープデザイナーを入れて格好良くつくるんですけど、最初、ボランティアが集まらなくて失敗したらしいんです。

そこで考えて、名前を書くようなシステムを導入したら、急にオーナーシップが芽生えて、花壇がどんどんきれいになって、暇で元気なおじいちゃんおばあちゃんが見回りを始めたりして、子どもに自転車置いちゃ駄目だぞとか言って、最終的に紙芝居までするようになっちゃったんです。それが10年続いています。

そういう小っちゃな成功体験を都市の中に投影するみたいなことができたらいいなと思うんです。先ほどの話に戻りますが、都市をそういう目線で見ていくと、特に東京はおもしろいですよね。

何がおもしろいかというと、やっぱりイノベーションに溢れてるんです。企業からなかなかイノベーションが生まれないというのが、この国の問題なんですが、実は東京って、動物的イノベーションが起きてる、すごく不思議な町だと思うんです。

「自撮り棒」って日本人の発明なんですが、町で「自撮り棒」で撮影していると、大体中国の方と間違えられる。「いきなり!ステーキ」は、高級ステーキを立ち食いするというまさかの発想ですよね。あと、アメリカ発信ですが、「エニタイムフィットネス」。靴を脱がずにいつでもできるって、これだけでイノベーションが起きている。

こういうことが自分の都市や企業、職業で何かできないかなとうまく思わされる、非常に大きなインスピレーションになっている。

例えば、高層マンションの避難階段って、避難する時にしか使わないイメージがあるんですが、よく考えると、あれうってつけのアスレチックじゃないですか。

とあるデベロッパーとの仕事でそのことに気が付いたんです。高層マンションの30階に住んでるお金持ちの女性で、高齢の方なんですけど、毎日非難階段を往復して、私は元気よと。

これはいいなあと思って、避難階段に絵を描いたんです。何てことない、10万〜20万円でできますよ。でも、そうしたら、そのマンションめちゃくちゃ売れるわけです。これもイノベーションですよね。

先ほど高橋さんが“道”の話をされましたが、まさにそうして突き詰めるエクセレントもありますけど、もうちょっとフレンドリーなこだわり方、ちょっとした隙に何か新しいアイデアを置いてみるとおもしろくなることが、都市や空間の中にたくさんあると思っています。

西村 ありがとうございました。それでは、前野先生にコメントをもらおうと思います。いかがでしたか?

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前野さん 日本人全員がこの3人のように、ディテールにこだわり、審美眼と美意識を持ち生きていくと、本当に幸せな世界ができるなあと思います。いいことは、星の数ほどあるから、長生きしないと全部見れないなあって。だから、僕本当に満喫しながら生きていきたいなあと思いました。

ちょっとうんちくを言うと、物事に満喫しながら生きていく人は、満喫しない人より幸せ度が高いんです。当然そうですよね。何かを見たときに「普通の町じゃん」ではなくて、ここにすごいものがあったって思いながら見ていると幸せだし、それがまさにみなさんの場合はちゃんとビジネスにつながっている。ビジネスにつながるということは、社会をつくっていくことになる。満喫するっていうのはすごい幸せなんだなあと思いました。

西村 ありがとうございました。最後、みなさんから一言だけコメントをいただいて、セッションを閉じようかなと思います。

高橋さん ありがとうございました。『Discover Japan』は、大儀をもって日本を紹介する媒体があったらいいなあって恐れながらも思ってつくったんです。

ちょっと長くなるんですが、そう思ったきっかけというのが、『北欧スタイル』と雑誌をつくっていた時にデンマークに行って、ハンス・ウェグナーさんの自邸に行って怒られたことだったんです。

ウェグナーさんの奥さんはもう90歳ぐらいなんですけど、「あんた何しに来たの?」って言われまして。「こういう本をつくってるから来ました」と答えたら、「何を言ってるの? あなたの国の方がいっぱいいいものあるじゃない」と言われたんです。

そこで、はたと気付くわけです。そうかと。

僕は岡山の生まれなのですが、国宝の日本刀の中の3分の1は備前おさふねなんです。あと、備前焼もありますし、林原美術館は能装束のコレクションが日本一のところです。

実は、子どもの頃から親父に、そういうところばかりに連れて行かれて、遊園地や動物園に連れて行ってくれなかったんです。

刀を見て「これいいだろう?」って親父が言うんですが、子ども心にさっぱり分からなかった。でも、恐ろしいもので、そういうところに通っていると、だんだん「いいなあ」と思うようになるんですね。お寺に行って仏像を見たら「格好いいな」って。

それで、小学校の頃に仏像をちょっと彫り始めたら、おばあさんに怒られて。勝手に仏像を彫っちゃいけない、魂がうつるからやめなさいって。そうやって、子どもの頃に、日本ってすごいなあって思ったんです。

でも中学ぐらいになって、デートで「お寺に行こうよ」って言っても誰も行かない。「刀を見に行こうよ」って言っても誰も来てくれないんですよ。悔しいなってずっと思っていて。

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やっぱり日本はいいものを見過ごしているんです。それに気付くことによって、みんながそれぞれの価値感でこだわりのものを見つけて、こだわって生活できるようになると、日本ってもっと素敵なんじゃないかなあという思いますし、そう思ってこの仕事をしています。それが僕のライフスタイルです。

矢島さん 私は、次世代を担う子どもたちが今から送っていくライフスタイルが、日本のこれからの基盤になっていくと思っていて、その子どもたちが見ているのは、この会場にいらっしゃるみなさんのことだと思うんです。

大人の背中を見て子どもは育ちます。よく見ていて、よく真似している。だから、「何でそんなことするの?」ってことは、大体親御さんがやっていることなのです。

私自身、親の背中だけではなく、いろんな社会の大人たちの背中を見て育ってきましたし、そういう方々がいろんなチャンスをくださったり、協力をしてくださったから、今の私があります。

私1人では何もできなくて、「こういう暮らしを次の世代に残したいよね」という暮らしについて、みんなで考え行動することが、心の豊に幸せに暮らせる日本を生み出す、一番早い方法だと思っています。

だから、ぜひみなさん、日本の伝統に限らず、次世代を担う子どもたちに。何か手を差し伸べてチャンスを与えてあげてください。

そうして活き活きとした日本人がもっと増えたら、素晴らしい若者に老後を支えていただけますよ(笑)。みなさん、自分に素直に、良い大人の背中を見せていっていただけたらうれしいです。私もそうなれるように頑張ります。今日はありがとうございました。

塩浦さん 私が空間の建築に興味がある上で思うのは、みなさんの参与がちょっと足りないんじゃないかということです。家を建てたことがある方も、オフィスのプロジェクトに携わった方もいらっしゃると思いますが、どうしても空間とか建築になると、専門家に任せたらできるというイメージを持ってるんじゃないでしょうか。

おもしろいのでみなさんも興味を持ってくださいということではなくて、生きるって自分の空間をつくっていくということだと思うんです。

お手本になるのが、伝統的な日本の庭師。ずっと自分の庭を剪定して、いじっていく。あの状態を人生に取り入れることが、人生を豊かに生きる上でとても大事かなって僕は思います。つまり、自分のお庭を持つことです。

文字通りの庭ではなくて、自分が毎日寝るベッドであるとか、座っている椅子とか。それがどういう視点でデザインされて、なぜ私はここに座っているのか、みたいなことを問い続けながら、少しずつ増やしていくというのがすごく重要になってくると思います。

それと、空間って実はものすごくシステム化されているんです。

例えばリビングではリビングっぽく過ごさなければならないとか、オフィスでは何となくオフィスっぽい顔でいなければならないとか。これは結構怖いことだと思っていて。

僕がなぜアクティビティデザインみたいなことをしているかというと、アクティビティをもう一度捉え直さないと、豊かな人生がすぐに制度化されて絡め取られてしまうからなんです。いったん、「自分がなぜここで寝ているのか」といったことを考えてほしい。

今、待期児童の問題がありますよね。いろんな企業さんから、「企業内託児所をつくりたいんです」って相談がくるんです。

それってなんとなくいいことのように見えますけど、そもそもまず、その企業内託児所に、お母さんが電車で連れて来ること自体が大変じゃないですか。だったら、そんなものはいらないかもしれない。

そういう制度もあって、フレックスにして、企業内託児所を置いたらば、上司の息子を部下の息子がなぐってしまったとお母さんからクレームが入ったりする。それなら企業内託児所なんてない方がいいって気付く。

託児所をつくれば解決するというのは、ものすごく制度化されている発想なんです。それを変えていくってことがすごく大事だと思っています。

今、ワーキングプレイスをつくっています。実験をしてやってみたら、子どもが3人だとうるさいんですよ。それぞれの個体識別が行われてしまって。

でも、6人以上になると雑音になるから、逆に集中できる。だから6人以上の子どもがいれば、がやがやしていても集中できるし子どももハッピーだと……。この気付きが新しい空間をつくっていく。

みなさんが、そういったところに関与できるようなきっかけを見つけるようにすれば、日本も、都市もおもしろくなっていくと思っています。今日はありがとうございました。

西村 メイン会場セッション1は、ここで終わりにしたいと思います。みなさんありがとうございました。

赤司研介 ミラツク研究員
SlowCulture代表
1981年、熊本県生まれ奈良県在住。東京の広告制作会社でライターとしてのキャリアを積み、2012年に奈良県へ住まいを移す。2児の父。移住後は大阪の印刷会社CSR室に勤務。「自然である健やかな選択」をする人が増えていくための編集と執筆に取り組んでいる。奈良のものごとを日英バイリンガルで編集するフリーペーパー「naranara」編集長。Webマガジン「greenz.jp」や「京都市ソーシャルイノベーション研究所 SILK」のエディター・ライターとしても活動中。
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