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「なぜデザインが大事なのか、僕らで話してみよう」。 4人が語る、ソーシャルとデザインマインド談義[ミラツクフォーラム2016]

フォーラム

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2016年12月23日に開催された、毎年恒例の「ミラツク年次フォーラム」。
一般公開はせず、いただいたご縁の感謝をお返しする会です。

26人の登壇者と10のセッションを行い、ミラツクと共に取り組んでくださった全国各地の方々、ミラツクのメンバーの方々を中心に、100人を超える多くの方に足を運んでいただきました。

第二会場の午後のセッションでは、 「創造性によるインパクトの創出」をテーマに、NOSIGNER株式会社の太刀川瑛弼さんがモデレーターになり、発酵デザイナーの小倉ヒラクさん、松華堂の千葉伸一さん、株式会社シルバーウッドの下河原忠道さんと3名のゲストが登壇。その様子をお届けします。

(photo by baba kanako

登壇者プロフィール
モデレーター
太刀川瑛弼さん
NOSIGNER株式会社 デザイナー・CEO
慶應義塾大学大学院理工学研究科修了。在学中の2006年にデザインファームNOSIGNERを創業。現在、NOSIGNER株式会社代表取締役。ソーシャルデザインイノベーション(社会に良い変化をもたらすためのデザイン)を生み出すことを理念に活動中。建築・グラフィック・プロダクト等のデザインへ の深い見識を活かし、複数の技術を相乗的に使った総合的なデザイン戦略を手がけるデザインストラテジスト。その手法は世界的にも評価され、Design for Asia Award大賞、PENTAWARDS PLATINUM、SDA 最優秀賞、DSA 空間デザイン優秀賞など国内外の主要なデザイン賞にて50以上の受賞を誇る。
小倉ヒラクさん
発酵デザイナー・アートディレクター
1983年生まれ。生態系や地域産業、教育などの分野のデザインに関わるうちに、発酵醸造学に激しく傾倒。「見えない発酵菌たちのはたらきを、デザインを通して見えるようにする」ことを目指し、発酵を研究しながら、全国各地の醸造家たちと商品開発や絵本・アニメの制作やワークショップを行っている。アニメ&絵本『てまえみそのうた』でグッドデザイン賞2014受賞。日本各地の醸造メーカーと知り合い、味噌や醤油、ビールなど発酵食品のアートディレクションを多く手がけるようになる。2015年より「こうじづくりワークショップ」を 全国で展開中。最近は自宅のキッチンで発酵デザインラボを制作中。
下河原忠道さん
株式会社シルバーウッド代表取締役 
1971年生まれ。1992年より父親の経営する鉄鋼会社に勤務し、薄鋼板による建築工法開発のため、1988年に単身渡米。「スチールフレーミング工法」をロサンゼルスのOrange Coast Collegeで学び、帰国後2000年に株式会社「シルバーウッド」を設立。7年の歳月をかけ、薄板軽量形鋼造「スチールパネル工法」を開発し特許取得(国土交通省大臣認定)。2005年、高齢者向け住宅・施設の企画開発を開始。2011年、千葉県にてサービス付き高齢者向け住宅「銀木犀<鎌ヶ谷>」を開設。介護予防を中心に看取り援助まで行う終の住処づくりを目指し「生活の場」としての高齢者住宅を追求する。一般財団法人サービス付き高齢者向け住宅協会理事。2016年認知症の一人称体験を実現する「VR認知症プロジェクト」開始。
千葉伸一さん
松華堂 店主 
1975年生まれ。2005年に『ni vu ni Connu café』、2007年に『cafe Loin』、2010年に地元素材を使った菓子の製造販売をする『松華堂菓子店』をオープン。2011年8月、仲間と共に地元のお祭り「松島流灯会 海の盆」を起ち上げる。2012年、そのお祭りがグッドデザイン賞を受賞。2013年には被災して廃墟になってしまった「cafe Loin」でジョルジュルースアートプロジェクトを仲間と共に行う。バブル崩壊や東日本大震災の被災というものを経験して辿り着いた「ゆたかさ」を軸にして新しい経営を考えている。その経営方法が評価され、農林水産省食料産業局長賞を受賞。「松島流灯会 海の盆」初代実行委員長。

“点”ではなく“線”で物事を考える

太刀川さん今日は、極めて“デザイナー的デザインマインド”が高く、おもしろいことをやっていると思う方たちにお越しいただきました。普段どんなことをやっているのかをお話しいただきましょうか。

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下河原さんこんにちは。私は「株式会社シルバーウッド」を経営しています。もともとは父が経営していた鉄鋼会社で、現在は厚さ1㎜の鋼板を加工した薄板軽量形鋼と木製合板を組み合わせた「スチールパネル工法(薄板軽量形鋼造)」が代表的な製品です。

これは1mmの鉄板で3階建てを建てられる新建築工法で、自分たちで考案しました。オープン工法のため、すべての設計事務所や建設会社で活用できます。特許を取得し、国土交通省から大臣認定も取得しました。

この仕事がきっかけになって、今は「サービス付き高齢者住宅」という、認知症のある人が多く住む高齢者向けの賃貸住宅を11棟ほど経営しています。

さらに2016年から、認知症の人たちが見ている世界を体験できるVR(バーチャルリアリティ)の映像コンテンツの制作を始め、事業化に向けて突き進んでいます。よろしくお願いします。

千葉さんはじめまして。「松華堂菓子店」の千葉と申します。私は宮城県の松島町という観光地にある菓子店の5代目として生まれました。でも、私自身はずっと菓子店だけをやっているわけではありません。東日本大震災前は松島で「cafe Loin(カフェロワン)」というお店を経営していましたが、震災で壊れてしまい、閉店しました。

震災後、この先どういった地域をつくるかを考えたとき、“点”ではなくもっと“線”で物事を考えなくちゃいけない、と。自立していくための土壌を耕して整えていくため、地元でお祭りを復活させたりもしています。よろしくお願いします。

小倉さん皆さんこんにちは。僕は今日、山梨の標高1000mくらいある山から下ってきました。ふだんは微生物と戯れているので、久しぶりに人間の世界に来た感じです。

僕は発酵デザイナーと微生物研究家の二足のわらじをはいています。前はソーシャルデザインの会社を経営していましたが、数年前から微生物が好きになって、山の中に住んでいろいろな菌の研究をしながら発酵食品を仕込んだりする、ちょっと不思議な仕事をしています。

2015年からワークショップも始めました。麹を手づくりして麹カビというカビを自分の手で育て、培養するワークショップをやっていて、もうすぐ参加者が1000人になります。

太刀川さん下河原さんはデザインを使って事業を構想し、社会と接点をつくってインパクトを出している人で、ヒラクくんは僕と元々は同業だけど、微生物好きが高じて研究者になった人ですね。

千葉さんはたぶん、ライフスタイルをつくりたいから仕方なく事業をしている人だと思います。「cafe Loin」は知る人ぞ知るお店で、ライフスタイルを発信していたんですよね。

彼は今、松島観光協会の常務理事をやっているんですよ。僕がすごいと思ったのは、彼が「松島流灯会 海の盆」というお祭りをつくったこと。花火大会やアイドルを呼んで観客動員数を重視しがちな町のスタンスを切り替えて、灯篭流しなどをしています。そういうライフスタイルをつくっていくところや、カステラ屋やカフェの事業がおもしろいと感じています。

使う人が理解できるものに昇華させる

太刀川さん今日のテーマは、「なぜデザインは大事なのか?」です。

下河原さんデザイン、大事ですよね。それ次第で相手への伝わり方が変わってしまいます。デザインの力で人の動員や動線が変わってきますし、特に福祉業界はデザインに疎い人たちが多いので、デザインを取り入れていかなくてはいけない業界だと思います。

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千葉さん僕、ずっと「正しさには限界がある」と思っています。「こうしなければならない」、「こうやったからおいしい」、「こうやったから未来のためになる」ということはたくさんあると思うんですけど、はたしてお客さんや一般の人が興味を持つのかどうか、どこに引き込まれていくのか。デザインは思いを人に届けるためのツールというか、そのものが目的ではないと思っているんです。

田舎の人って、地元のものに誇りがなかなか持てないんですね。やっぱり、東京から来たものがいいというところがあります。私は一回でも外で評価されると一気に自慢できるものに変わる、そういう田舎の状況がわかっていたので、「松島流灯会 海の盆」をグッドデザイン賞に応募しました。そうしたらグッドデザイン賞をいただけたんです。

デザインは、人を気持ちよくさせるもの、例えばおいしいとか、そういうことを絶対的に助けるものだと思っています。

小倉さんポイントは3つあって、一つ目は今お二人がお話したことで、コミュニケーションを促進させるツールであるということですよね。

二つ目が、デザインから逆算すると生産性がすごく上がるということ。なぜかというと、最終的なアウトプットとしてのデザインをつくると、すべてのディテールに渡って逃げが許されません。例えば、ペットボトルをつくろうと思ったとき、直立できないペットボトルは許されないんですよ。

ちゃんと直立するような形にしなければいけないんですけども、クライアントは直立しないような、今までにない形のペットボトルをつくりたい、と。プロダクトとして存在するためには、新しい形と、ペットボトルの基本的な定義を兼ね備えたものを生み出さなければいけないので、そのためのディテールをどうするか考えつくさないとゴールが訪れないんです。

思考のときには許されていた逃げが許されなくなってくるので、最終的に納得できるものに変換していかなくてはいけない。そのプロセスで非常に生産的な会話ができるし、より解像度が上がって「そもそも僕たちは何を必要としていたのか」がフェアに見えてくる。

プロセスで、デザインというもの、目的を入れてあげることで、仕事がはかどる。そしてよいものができると感じています。これはコミュニケーションの結果ではなくプロセスとしてのデザインの意味です。

三つ目は、最近気付いたんですけど、デザイナーがテクノロジーを身につけると、とっても楽しいということ。僕今、ある意味ではバイオテクノロジストなんです。今まではテクノロジーを翻訳する側だったんですが、今はテクノロジーの中側に入っています。プロダクトをつくったり技術開発をしたりするときに、技術に意味を持たせやすいです。

ちゃんと世の中の役に立つ技術の使い方、コミュニケーションとして盛り上がる提示はこうだ、それをつくるときになるべくみんなが迷わないように一致団結してつくれるプロセスはこうだ、という風にやりやすいと思っています。

太刀川さんヒラクくんはすべてをまとめてくれますね。つくる人の都合をいかにミニマライズして、使う人が理解できるものに昇華させてあるのかが大事だと思います。デザインの本質は、関係性の強度を上げるために、形の純度を上げるということです。

ここでデザイナーが取り違ってしまうと、「形をよくすることだけがデザインを良くすることだ」となってしまう。でもそこはあくまでもツールであって、関係性やコミュニケーションに本質があるのです。だから僕はヒラクくんの話はおもしろいと思うし、千葉くんや下河原さんの話もおもしろいなと思うのは、そういう部分です。

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入居者を歩かせるポストのデザイン

小倉さん経営者がデザインをどこまで意識的に使っているのか、聞いてみたいです。

下河原さん先日、我々の高齢者住宅にポストを置くことになったんです。入居者さんたちが朝新聞を取りに行くポストです。そこで、それをつくる家具職人さんに僕が出したリクエストは、「歩き出しそうなポストをお願いします」。そうすると職人さんは、ワクワクした顔で「それ、超楽しそうっすね!」と言って、本当に歩き出しそうなポストをつくってくれました。

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小倉さん本当だ! このポスト、歩きそうですね。かわいい。

下河原さん 木でつくったポストなんですよ。そうやってデザインを高齢者住宅の随所に取り入れ始めたからかどうかは分かりませんが、結果として入居率が全国ナンバー1になり、それが3年間続きました。経営にデザインを率先して取り入れていく影響は大きいと思います。

小倉さん下河原さんの「銀木犀」は、素敵さを大事にしてらっしゃいますよね。「高齢者はこうでしょう」ではなくて、「こうしたほうが住む人にとって素敵だろう」という視点の優先順位が高いのがすごくいい。非常にデザインマインドだと思います。

太刀川さんこれは、歩き出しそうなポストをリクエストしているようだけれども、それだけではない。寝たきりから立ち上がりたくなる状態を想像して、その状態の役に立つポストをデザインしてくれというオーダーに転換したんですよ。

高等なテクニックですよ。寝たきりの人たちが自力でそこに行きたくなっちゃう形を探り当てるのは。これはデザインでもアートディレクターでもなくて、クリエイティブディレクターの仕事です。そういう意味で僕が凄腕クリエイティブディレクターだと思っているのが、下河原さんと千葉さんなんです。

千葉さん私も経営者であって、デザイナーではないと思っています。でも、経営が好きではないし、どちらかと言うとせざるを得なくてしているところはあって。カフェなどをやっていって、「インテリアや音楽はこれだ」とか、「カステラを食べるフォークは金属ではなく木製にしよう」とか、少しずつ気持ちいいものに整えていくことを細かくやった結果として、そうなっているような気がしています。

下河原さんの施設も、業界は違うけれど同じベクトルというか、共感するところがたくさんあります。僕の地元は田舎なので、カフェにおしゃれな人だけが来るのがいやだったんでね。デザインって言うと「おしゃれにしなくちゃいけない」ってみんな思っているかもしれないけれど、そうではなくて「対象者をいかに喜ばせるかを探していくこと」です。それはその人たちにとっての“ちょうどいい”を探していくことなんだなと思っていて。

最近、それを考えすぎて松華堂内に「世界ちょうどいい研究室」を設立しました(笑)。「BIGになるよりGOODになろう。RICHになるよりHAPPYになろう」を合言葉に、幸せな経営を研究しています。本当の意味で人を幸せにすることは、“ちょうどいい”を探すことかなと思って。人を幸せにするために努力していけば、自然とデザインの質が上がると思っています。

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人が談話していない「談話室」って……。

太刀川さん僕は形の立場と関係の立場の両方に立って、ハイブリットに設計することが多いんです。ディテールで専門家に訴えて、分かっている人に響くものをどこまで込めるのか。大衆との関係をどう生み出すのか。どのくらいのバランスにするのが理想なのか、たまに悩みます。皆さんはどう感じていますか。

小倉さん微生物の話、していいですか? 微生物っていっぱい種類があるんですよ。大きく分けると、一つの機能の高みを目指して収斂進化していく生きものと、いろいろな機能をそこそこ兼ね備えているお百姓さんみたいなものがいて、僕はどっちも好きなんです。

たぶんデザイナーの世界にも同じようなのがいて、僕は太刀川さんのことを尊敬しているんだけど、太刀川さんはめちゃめちゃ収斂進化している高等種ですよ。ディテールも完璧だし、強いコンセプトで突破していくところがあります。

対して僕は、けっこう野生というか、野良っぽいんです。収斂進化している黄金率ではないけれど、「ま、いっか」みたいな(笑)。僕の中で最高なのは、銭湯に置いてある黄色い洗面器のケロリン。あれ、究極を目指すデザインの真逆で大好きなんです。微生物学的にみると両極があって、両極がせめぎ合うことで生態系ができているんだなと思うんですよね。

太刀川さんおもしろいね。僕は、先鋭化したほうがムーブメントにしやすいけれども、先鋭化させないことで社会的に広がりを産むことができるということの間で、どれくらいの距離感がいいのかはよく悩んでいます。

例えば、僕の2人の先生は2人とも巨匠なのですが、僕は巨匠のスタイルを取らないと決めた。技術は磨くんだけれども、技術を磨いただけで使わないことを選択できる存在になるぞということが、一つのテーマであったりします。正しいと思ってやっているんですが、これが本当に100年後にとって正しいのかは分からない部分もあって。

小倉さんそれはデザインのオーナー側に聞いてみたいよね。

千葉さんそれも“点”と“線”の話になってくると思うんです。バブル時代の先代は“点”でビジネスをして流行りの事業を全部やっていました。清里のペンション風の建物にしたり、某芸能人の漬物屋さんのフランチャイズをやったりして、一時期は儲かったんだけどすぐダメになって、要するにインパクトはあるけども、結局続かない。

私はバランスがとても大事だなと。平均値や平凡ってことではなくて、一旦、極めるんです。両極はかなりレンジを広げるんですよ。その上で対象者に対してどこが“ちょうどいい”のかっていうことなんですね。

例えばカフェで「こういう場所で、おじいちゃんたちがこの比率で、若い人がこの比率だな」というとき、その中で席数があと何席あるかをふまえ、「東京だったら1年で回収できるけれど、この田舎だったらこうなるな」という両極のバランスを緻密に考えて“ちょうどいい”を出しています。でも、それを「緻密に考えているから“ちょうどいい”んだよ」と言ってしまうと面倒くさいので、言わずにアウトプットしています。

下河原さん今、かなり手の内をばらした感じありますね。(笑)

僕はこんなことがありました。皆さんが知っているような有名なゲーム会社で会長や社長を務められた方が認知症になりました。その方は、世田谷にある入居一時金がウン億円の超高級老人ホームに入居していたんですね。

その方がなぜか「銀木犀」に移り住んできました。ご家族に理由を聞いたら、「超高級有料老人ホームのデザインはどうしてもホテルのようになるので、毎朝カウンターに行ってチェックアウトをしようとするんです」と言うんです。要するに彼にとってそこはホテルで、家ではないんですよ。

ご家族はいたたまれなくなり、もう少し家庭的なデザインの家を探して「銀木犀」を見つけ、世田谷から千葉の船橋に移り住んできたと。入居したら、なんとチェックアウトをしなくなったそうです。デザインって、実はこういう力も持っているんだなと実感しました。

太刀川さん僕もたぶん、そこなんですよ。なるべく家に近い高齢者住宅。僕はそこに「率直さ」を感じます。いかに率直であるか、そこにこだわりを持っているのが、僕のデザイナーとしての唯一の個性かもしれない。率直すぎるものを提供したいんです。そうすれば奇をてらわなくとも見たことがないものになる。僕もそんなデザインがしたいんですよ。

下河原さん我々の高齢者住宅は、入居者の7割以上が女性です。そこで、玄関に入ってすぐのところに大きなキッチンとして「みんなのキッチン」をつくったんです。女性が集まる場所は水回りですから。そのキッチンは我々のオフィスと繋がっていて、いつも人がいる場所に人が集まるという法則も取り入れて設計したら、うまくいきました。

一般的な高齢者施設の談話室って、誰も談話してないんですよ。でも「みんなのキッチン」ではいつも人がいて、ワイワイと楽しんでいます。みんなでお菓子をつくったり。これまでの高齢者施設がいかにデザインを取り入れずにやってきてしまったかがよくわかります。

小倉さん人のいない談話室って、まったくワークしていないですよね。なんのためにあるんだ、みたいな。それを「談話室だから人がいっぱいいなきゃね」って、超率直ですよね。そういう風にしていくのがデザインの役割なのかもしれないと今聞いていて思いました。

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「そもそも何のためにあったんだっけ?」

太刀川さんあともう一つ、源流に帰るということもキーワードです。千葉さんのお祭りはいい話だと思っていて、源流に帰ることのほうが、実は時間を超えられる魅力に近づけるんじゃないのかと。みんなが気付いていない源流を適切に発見していく力が大事なことだと思います。

小倉さんどんなお祭りなんですか?

千葉さん僕たちが子どもの頃のお祭りに戻した感じです。受け身ではなくて自分たちでつくるほうが楽しくない? と、思考が停止している人たちに対して考えさせたい、というお祭りでもありました。

昔の花火って、現代のような花火大会ではなくて、元は供養花火が源流にあって、それが大きくなりすぎたのが花火大会。ほとんどの花火大会は前夜祭で、その翌日に供養祭や祈祷行事があるんです。それが日本であり、地方、地域です。そういう多様性を取り戻していくような感じでした。みんな花火しか見ていなくて、花火が終わったら帰っていくのがいやで。

具体的には、提灯とかそういう昔ながらのことを整え、美しくしていくっていうことですかね。あと、できるだけビニール素材をなくしました。

太刀川さんブランディングをするとき、ビニールをなぜなくすのかというと、文脈をそろえるためなんです。時代劇にペットボトルが写ってしまったら問題があるわけです。それと同じで、そこの流れを整えて文脈を形成するために、あってもいいものとあるべきなもの、どういう空気であるべきで、この空気に必要ないものを適切に振り分けていくには、実は素材や形状、回路の部分が大きくて。

下河原さん僕も、ビニールクロスの使用を止めました。でも塗装にすると、隅のところが少し黒ずんでくるんだけど、あれがいいんですよね。家具もメラミンではなくて無垢材にしているのは、みんなが一生懸命磨くとつやが出てきて、住宅としての良さがでて、あたたかい気持ちになる。

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小倉さん今回のセッションのテーマの、デザインのインパクトと聞くと、「100万枚レコード売りました」、「いっぱい売れました」みたいなインパクトに思えるけど、今僕が話を聞いていて思ったのは、もっと違うインパクトの形ですね。

「談話室や花火大会って、何のためにあったんだっけ?」、「そもそもデザインって何のためにあったんだっけ?」ということを思い出すとき、僕たちの心の中でさざ波のようなショックがあるでしょう。これが、もしかしたらデザインがもたらすインパクトの大きな形なのかなと、今思って。こういう話を聞くと、心が洗われます。

太刀川さんそうですよ。あるべき状態になると上手くいくはずだと、信じてやるしかないんだと思いますね。

小倉さんデザイナーって、「自分はこう表現したい」というアーティスト的な部分は許されていたけど、広告代理店やエージェントの下にデザイナーがいたから「社会はこうあるべきだ」というのはなかなか難しかった。でも今、何十年かぶりにデザイナーが「社会はこうあるべきだ」と言える時代になったんだよね。その最先鋒は、僕は「NOSIGNER」のような気がしています。

太刀川さんうれしい。頑張ろうと思います。僕が尊敬するデザイナーに、19世紀末に活躍したルドルフ・シュタイナーがいます。彼は教育方法をつくったと言われていますけど、実は建築も手がけていたんです。

チャールズ・イームズも、家具デザイナーだとみんなが思っていますが、実は「IBM」のデザインコンサルティングを最初に行った人です。さらに、骨折時に使う添え木や担架、脚用の添え木「レッグ・スプリント」なども開発しています。戦時中でも、社会的事業として患者を癒す部分に自分たちの技術を使っていました。

みんな社会起業家なんだよね。だからヒラクくんが言ったように、どうしてデザイナーがそうじゃなくなっちゃったんだ、というのは、昨今の我々デザイナーの怠慢でした、みたいな感じ。

小倉さん申し訳ない気持ち。

太刀川さん俺も今勉強中です。デザインマインドを持った事業家。頑張ります。

逆に言うと、クリエイティビティを持った経営者がデザインマインドの使い方を理解して、その表現もできる時代になっていくから、うかうかしているとこの40年間の専門家的なデザインはあっという間に終わりを告げる。僕はそんなことが早く起こったらいいなと思っているんです。

分かりにくい世界を適切に表す方法論が、デザイン

小倉さんいろいろなデザイナーさんと仕事されていると思うんですけど、デザイナーに求めるものってあります? ちょっと怖いけど、聞いてみたいな。

下河原さん「その人が楽しんでやっているかどうか」は重要視しています。僕が「こういうのをつくりたいんだ」と言ったとき、僕のつくりたいものを一生懸命つくろうとしてくれるのではなくて、そこから先の自分のクリエイティブを発揮して自発的に作ってきてくださる人がいいですね。

千葉さん正直、デザイナーに求めるものはそんなにないんです。このお祭りやうちの商品のパッケージは、うちのお客さんだった方の奥様につくってもらっています。

どうつくっているかというと、お祭りなんだけれども「ドビュッシーの『月の光』みたいな感じに」などと話して、ロゴをつくったり。そうやって楽しくやっているので、コミュニケーションが取れる人、楽しくお話ができる人が一番いいなあと思いますね。

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小倉さんわかるな。僕もいろいろな企業と一緒に仕事をして、一つ基準があります。「その人の家に僕が泊まったら、仕事が長く続く」というジンクスがあるんです(笑)。だってもう、それはクライアントと発注先の関係を超えているじゃないですか。朝パジャマで起きてきて「おはようございます」「朝食できてるよ」「いただきまーす」みたいな(笑)。そこから、「デザインどうしようか」と。楽しいし、腑に落ちますね。

下河原さん僕は、先ほど話したポストをつくってもらっている家具職人と、屋久島の縄文杉の前で出会ったんですよ。お互いに旅行中で、彼は絵を描いていて、僕は夢中で写真を撮っていて。気が合って、そこから仲良くなったんです。

当時の彼はまだ家具職人ではなかったけれど、その後に家具職人の道を選んで、銀木犀の家具をつくってもらいました。ちょうど僕が「銀木犀」を立ち上げたときとも重なったんですよね。「銀木犀」に彼の家具が入ってきたとき、本当にうれしかったことをよく覚えています。

太刀川さん自分と相手の共通する部分があると、いいですよね。僕の中では「クライアントを好きになれるかどうか」が、すごく大事ですね。

下河原さん僕のことは、大丈夫ですか?

太刀川さんなにか一緒にやりたいです! 下河原さんももちろんですし、ここにいる人たちはクリエイティブディレクション力が高くてワクワクします!

下河原さんありがとうございます、良かった(笑)。

千葉さんさっき話した“ちょうどいい”って、日本に元々あった感覚で、日本人は上手だったんじゃないかなと思うんですね。調和を前提とした何か。これは日本が誇るべき感覚で、世界に広げていきたいと思い始めています。

下河原さんさっきテクノロジーをデザイナーが手に入れるとすごくいいっていう話がありましたよね。僕はデザイナーではありませんが、VRという新しいテクノロジーを手に入れました。

そのVRを「社会課題の解決に使おう」と発想した。これが実は一番のデザイン、発見だったと思うんですね。そんな日本人ってほとんど見たことないんですよ。なので、僕はここをどんどん進めていきたいと思っています。

いろいろな社会課題が山積しているこの日本において、そこを無視して、ただ楽しいとか美しいとか、そこばかりに走るのは反省するところがあります。そのつけを次世代に回さないことを考えると、社会課題とちゃんと向き合って、しかもそれをビジネスとしてきちんと回していく形が一番美しいんじゃないかと。

小倉さん僕はここ2、3年、ディープに微生物の研究をするなかで、デザイナーとしてもアイデンティティの転機を迎えました。今までは「どうやってデザインするか、いかに良くデザインしていくか」と考えていたんですけど、ちょっと浅かったかもしれないと思い始めて、最近はもう「デザインしかないんだ」という感じになっているんですね。

それは何かというと、僕が向かい合っている領域は、そのままだと普通の人が分かりにくい世界なんです、目に見えないから。それを社会に埋め込むには、適切に表す方法論が必要なんです。それをやっていくことが、デザインなのだとわかって。

僕たちは、既にみんながわかっているもの、合意形成ができているもののコミュニケーションスピードをいかに上げるか、というデザインを考えているんだけど、そうじゃなくて、そもそも存在してない、誰も見たことがないコミュニケーション回路がある。

いったい人間の社会にどう埋め込まれるのかわからないものに対して、僕はこれから、デザインということを、本当にスコップで一番先から掘り起こすみたいな、そういう仕事になっていくんだなと思ったんです。

だからデザインとは、人間が社会的生きものになるために最初にやったことだったと、最近思うようになりました。

下河原さん深いなぁ。

太刀川さん最近、未来を語る人や未来を可視化する人が少なくなっていると思うんですよね。だからここにいる人たちが、たとえ小さくてもケーススタディをつくることが、未来をつくっていくのではないかと。大変刺激的な話をお三方にしていただき、大変僕はうれしい時間でした。ありがとうございました。

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小久保よしの 編集者
フリーランス編集者・ライター。編集プロダクションを経て2003年よりフリーランス。担当した書籍は『だから、ぼくは農家をスターにする』高橋博之(CCC)、『わたし、解体はじめました ─狩猟女子の暮らしづくり』畠山千春(木楽舎)など。 当サイトの他、雑誌『ソトコト』やサイト「ハフィントンポスト」などの取材で全国を駆け回り、東京と地方の行き来のなかで見えてくる日本の「今」を切り取っている。「各地で奮闘されている方の良き翻訳者・伝え手」になりたいです。
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