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リビングラボと未来社会への道をつくる共創型の価値創出とは【ミラツクフォーラム東京・春の回】

フォーラム

2018年6月2日、ミラツクフォーラム東京・春の回を開催しました。フォーラムは一般には公開していませんが、異なるセクターや領域の方々が集まり、意見を交換しながら新しいつながりを生み出すための場です。

本記事では、4名のパネルディスカッションによる、セッション1「リビングラボと未来社会への道をつくる共創型の価値創出」の内容をお届けします。

(写真撮影:Sayaka Mochizuki

登壇者プロフィール

浅野大介さん
経済産業省 商務サービスグループ 教育産業室長
2001年、入省。資源エネルギー(石油・ガス)、流通・物流・危機管理、知的財産管理、地域経済産業、マクロ経済分析等の業務を経て、2015年6月より資源エネルギー庁資源・燃料部政策課長補佐(部内総括)、2016年7月より商務流通保安グループ参事官補佐(大臣官房政策企画委員)として部局再編を担当し、教育産業室を立ち上げる。2017年7月より大臣官房政策審議室企画官、10月より教育産業室長を兼務。
秋山弘子さん
東京大学 高齢社会総合研究機構 特任教授
イリノイ大学で「Ph.D(心理学)」取得、米国の「国立老化研究機構(National Institute on Aging)」フェロー、ミシガン大学社会科学総合研究所研究教授、東京大学大学院人文社会系研究科教授(社会心理学)、「日本学術会議」副会長などを経て、2006年より、東京大学高齢社会総合研究機構特任教授。専門は「ジェロントロジー(老年学)」。高齢者の心身の健康や経済、人間関係の加齢に伴う変化を20年にわたる全国高齢者調査で追跡研究。近年は超高齢社会のニーズに対応するまちづくりにも取り組むなど超高齢社会におけるよりよい生のあり方を追求している。
下河原忠道さん
株式会社シルバーウッド 代表取締役社長
家業の鉄鋼会社での勤務を経て、2000年に「株式会社シルバーウッド」を設立し、独自に開発した薄板軽量形鋼造による躯体販売事業を手掛ける。2011年より「安心して生ききる場所」をコンセプトに、サービス付き高齢者向け住宅「銀木犀」を運営開始(現在12棟を運営)。認知症に対する社会的心理環境の変革を目指し、認知症を疑似体験できる「VR認知症体験会」を企業や学校等に提供している。「アジア太平洋高齢者ケア・イノベーション・アワード2015大賞」を受賞。
柏谷泰行さん
株式会社mellow 代表取締役
1986年、秋田県生まれ。2011年に「株式会社イグニス」に参画し、取締役として30以上のスマホアプリを開発し、累計3000万ダウンロードを記録。2014年に東証マザーズに上場。2016年に取締役を退任し、サラダのフードトラックでの修⾏を経て「株式会社mellow」を創業。空きスペースとフードトラックをマッチングするプラットフォームを運営し、都内を中心に80ヶ所でランチスペースを展開している。移動できるというフードトラックの長所を生かして、日替わりで別々のフードトラックを配車することで「毎日飽きずにランチを楽しめる」という生活をプロデュースしている。

生き生きと働く人でまちが満たされる景色をつくる

西村こんにちは。「リビングラボ」とは、ものづくりやサービス開発において、市民やユーザーを長期的に巻き込みながら生活者のニーズを拾い上げ、そのニーズに沿ってサービスを共創していく手法のことです。欧米の事例が先行するなか、日本ではどんな取り組みができるのかを考えてみたいと思い、4名の方にお越しいただきました。まずはそれぞれ、どんな活動をされているのかお聞きしましょう。

柏谷さんこんにちは。僕は秋田県生まれで裕福ではない家だったのですが、交通事故の保険金で大学に進学して、やりたいことも特になく、卒業後もやはりやりたいことがないので、自分でやりたい会社をつくるしかないと、25歳のときにものづくりの会社を起こして、28歳のときに上場したんです。

アプリの企画・開発をしていたんですが、半年とか1年くらいでみんな飽きてしまう。もやもやしながらも、株主もいるので頑張ろうとしていた矢先、大腸ガンを患って。明日死ぬかもしれないというとき、どうせだったら半年、1年で使われなくなるサービスよりも、自分が死んでも残りそうな、人を元気にする仕組みをつくってお金を稼ぐ会社をやろうかなと。

そうして始めたのが、フードトラックサービスのプラットフォーム「TLUNCH(トランチ)」です。コンビニ弁当を食べている人の目が死んでいたり、ランチが空腹を満たす作業になっていないか。移動型店舗だったら毎日違う専門店の、でき立ての料理を楽しめますよね。活用されていない空きスペースと、個性豊かなフードトラックをマッチングさせて、あたたかい料理を気軽に楽しめる場を提供すれば、午後からまた頑張ろうと前向きに思えたりするかなって。

飲食店の料理人って、いずれ独立したいと思ってその世界に入るのに、自分の店舗を持っても、2年で49%くらい、3年で70%くらい潰れてしまう。1000〜2000万円かけて店舗をひらいても、借金を抱えて退場していくんです。固定店舗でなくフードトラックであれば、200〜300万円の資金で、自分のこだわりで勝負ができるじゃないですか。そうした料理人の開業支援もしながら、車の中で調理できるフードトラックをどこに、どの時間帯に、どんな頻度で送り込むと人の幸せと売り上げが最大化されるのか、それをテクノロジーで最適化しながら配車をする。「TLUNCH」は、そんなプラットフォームです。

「50cm革命×越境×試行錯誤」で教育の社会システムをデザインする

浅野さんこんにちは。経済産業省、教育産業室長の浅野です。経済産業省では、第4次産業革命、人生100年時代を生き抜くための「教育の社会システム」をデザインする取り組みを進めています。

教育というと、文科省の仕事だと思われてしまうことが多いのですが、学校以外の塾など、いわゆる民間の学習支援業は、基本的に経産省の範疇なんです。

学校の中か外か、つまり公教育であろうがなかろうが、最終的におもしろい人が育って、楽しく生きて、その人の人生がハッピーだったらいい。そうした観点から、幼子からご高齢の方まで人が変わり続ける、何かを生み出し続けることを手助けする社会システムをどうつくるか。そこで去年、学校も塾も社会の現場もない新しい学び方に向けた「未来の教室」プロジェクトを立ち上げました。

そして大人向けにリビングラボを始めたんです。これは「リカレント教育(※)」の一つだと思っているんですが、僕らがラーニングイノベーションとしてやりたいのは、課題の本質を見つけること、すばやく何でも取り組めること。そして、オープンイノベーションができること。今の日本の経済や産業界、日本社会全体を見ても、自分でアジェンダ(課題・論点)が設定できない人が多いと考えていて。自ら課題を見つけ、設定して、「50cm革命」ともいうべき小さなレベルの変化をつくっちゃおうぜ、分野を越境しようぜ、と。迷走し放題ですが(笑)、とにかく試行錯誤しています。

また、高齢社会をデザインするリビングラボという位置づけで、「ビンテージ・ソサエティ・プラットフォーム」という事業も始めました。歳を重ねるたび人の「最盛期」が更新されていくような、「ビンテージ(Vintage)」な人生にあふれる社会にしていこうというコンセプトで、「川崎ラボ」(介護×イノベーション)、「鶴岡ラボ」(温泉地×ヘルスケア)、「所沢ラボ」(ニュータウン×起業)、「狭山ラボ」(大学×起業)と4つのラボをつくり、企業・大学・研究機関・地域社会など幅広く集めたオープンイノベーションの運営をハンズ・オンで進めています。

※リカレント教育:生涯にわたって教育と他の諸活動(労働,余暇など)を交互に行なう教育システム。

産学官民が一緒になって、高齢社会の社会インフラを共創する

秋山さん東京大学の「高齢社会総合研究機構」は、まだ10年ほどの新しい組織ですが、日本が世界のどの国も経験したことのない超高齢社会を迎えるにあたって、新たな価値観の創造と社会システムの抜本的見直しをはかるためにつくられました。

人生100年時代、画一的な人生コースはなく、自分の人生をどう設計して舵取りをしていくかが問われていますね。また、現在の社会インフラは、公共交通機関から雇用制度、教育制度、医療や介護の制度も含めて、日本の人口ピラミッドがまさにピラミット型をしていたときにできたものです。ご存知のように、今人口は逆ピラミッドに近い形になっていて、これまでの社会インフラでは、現在の少子社会のニーズにはとても対応できない。そのため社会インフラをソフト、ハード共に見直してつくり変えていく必要があります。

こうした高齢社会のデザインは、イノベーションの宝庫です。これまで企業や行政がやってきたのは自己完結型のイノベーションでしたが、今求められているのは、オープンイノベーション。イノベーションのプラットフォームがあって、そのなかに生活者がいて、大企業や中小企業、起業家、大学や行政、そういった人たちが誰でもアクセスできる共有リソースをつくって、協働することで化学反応が起きる、そうしたイノベーションが生まれる場をつくる必要があります。

そうした思いから、2017年、リビングラボの日本で初めての本格的な取り組みとなる「鎌倉リビングラボ」を創設しました。鎌倉市今泉台は、鎌倉市でも特に高齢化が進んでいて、高齢社会の課題が凝縮している地域です。

この今泉台をテストコミュニティとして、「鎌倉市役所」、「三井住友銀行」法人戦略部など産学官民のメンバーが一緒に、リビングラボのスキームづくりや住民のニーズ策定、行政の課題や企業の課題を解決しようと取り組んでいます。最近は、共有リソースの構築に力入れています。

「鎌倉リビングラボ」は、スウェーデンのリビングラボと連携した、国際連携型であることも特徴です。スウェーデン側は、高齢者向け商品やサービスを日本のリビングラボでテストをして、世界の高齢者の6割がいるアジア仕様にして市場に出す。
逆に私たちは、スウェーデンのリビングラボでテストをして、欧米仕様にして市場に出す。リビングラボを、こうしたゲートウェイとして活用しようという関係づくりも進めています。

最優先すべきは、社会的インパクトが高くて学びも多い仕事

下河原さん僕は鉄工所の長男なので、鉄をたくさん売ろうと、建築工法の開発で特許を取得して、建築躯体を販売するメーカーを経営していました。その工法は、薄い鉄のパネルを現地で組み立てるもので、工期が早くて安くつくれることから、建築業界ではイノベーションだったんです。コンビニエンスストアやファミリーレストラン、高齢者施設をつくるなどニーズが広がっています。

そこから高齢者施設に興味をもって、2011年に高齢者向け住宅「銀木犀」の運営をスタートして、現在は12棟の高齢者住宅を直轄で運営しています。ここだったら住みたいと思えるような住宅づくり、つまり建築的アプローチから始めて、地域の子どもたちや住民たちが集まってくれる仕掛けをたくさんつくっています。

「銀木犀」の1階には駄菓子屋さんがあるのですが、店長は入居しているおばあちゃんで、銭湯の番頭をやっていた経験があるせいか、駄菓子を相当さばいていて、月の売り上げが40万(笑)。子どもたちだけでなく、近所のお父さん、お母さんも「銀木犀食堂」にご飯を食べにきます。

ママ向けのダンススクールもあるし、高齢者たちが地域のみなさんにおもてなしをするお祭りもしょっちゅう開催していて。二階から流す、スーパー流し素麺とかね。認知症のおじいちゃんが考案したんですよ。

高齢者と接することで、認知症について考える機会も増えました。認知症になってつらいのは、おかしくなったと思われて、人が離れていくこと。そして、できることはまだあるのに、役割を奪われてしまうことなのだそうです。

そこで2019年4月に「仕事付きサービス付き高齢者向け住宅」をオープンします。高齢者だけでなく、若年性認知症の方の就労の場となるように、1階に「恋する豚研究所」と連携した豚しゃぶ屋さんをオープンします。メニューは一つだから、注文を間違えようがない。

「スポーツジム付き高齢者向け住宅」もつくりますよ。目指すは、稼ぐ高齢者向け住宅です。社会保障費は枯渇しているので、ビジネスの力で社会課題を解決する取り組みをどんどんつくりたいですね。

これからは、社会的インパクトが高くて学びも多い仕事がいけてるんじゃないかなと。学びが低くて社会的インパクトが低い仕事は、アウトソーシングやクラウドソーシングされて、どんどんAI化していく。学びがそこそこ高いけど社会的インパクトが低い仕事は、投資はするけど様子見。明らかに社会に与えるインパクトが高いこと、そして僕らにとって学びが多いことは何か。そこに優先して力を注ぎたいんです。

そして、社会的インパクトが大きくて僕らにとっても学びが多い事業として、認知症の人が見えている世界を一人称体験する「VR認知症プロジェクト」を始めました。2017年2月から、日本各地でVR認知症体験会を実施しています。自治体や教育機関、医療介護関係者や一般企業の人など、既に参加者は17,000人くらい。VRというとエンターテイメントのイメージが強いですけど、VRこそ社会課題の改善に使う効果が高いということが分かりました。

ワーキングマザー、LGBT、外国籍社員、新入社員、発達障がい……。そうしたコンテンツをつくり始めています。それから、全国の中学高校で「いじめ」を取り上げたいんですよね。いずれやりますよ。最近は、海外展開も始まっています。

最後に、発酵デザイナーの小倉ヒラクくんが「この時代の希望って、個々人の美意識や倫理でまわっている世界が大きくなっていって、持続的な社会モデルになり得る可能性をみんなに見せること」と言っています。だから、小さくても個人的でもいいんです。可能性をみんなに発信することで、やっていこうぜ!って気分を高めていく流れをつくる。僕も、小倉ヒラクくんに続けと頑張っています(笑)。

リビングラボって何だろう?

西村ありがとうございます。ここからパネルディスカッションに入りたいと思います。最初に、リビングラボでもイノベーションでも、共創でもいいんですが、どうしてそれが大事だと思ったのか、背景や原点も含め伺いたいと思います。

秋山さん「リビングラボって何?」とよく聞かれますが、リビングラボには二つ重要な特性があります。

一つは、ユーザーを巻き込んだ共創であること。生活者であったり、介護施設で働いている人だったり、病院の医療機器の利用者だったりしますが、その人たちが本当に不便に思っていること、こんな生き方をしたいけどできていないといった課題を解決する共創であること。

もう一つは、つくったものを生活の場で徹底的にテストをして、専門家と一緒に評価をして、改善してというサイクルを回して、本当にニーズのあるものが市場に出していくこと。これまでのマーケットリサーチでつくるものは、ユーザーの必要としているものではないケースが多かった。それは商品やサービスだけでなく、システムや行政の政策や施策も同じです。鎌倉市と一緒に、政策や施策の市民との共創もやっていきたいと考えています。

浅野さん秋山先生のお話のとおりですね。僕ら役所の役割って「一緒にやろうぜ」って、号令をかけることなんですよ。そこで思うのは、日本の企業人のみなさんは「自己規定」が強すぎるということです。

「どこの会社の何部の何課の何係です」という自己規定を超えない限り、イノベーションは起こらない。「越境しようぜ」「試行錯誤しようぜ」という声がけを、場として表現できないか。それがリビングラボだと思います。

川崎のリビングラボでは、いろいろな議論がされていくうちに、介護施設の現場の人たち、介護士さんたちに小さな変化が起こり始めています。例えば、博士号を取っている大企業のエンジニアのみなさんに意見なんて言っていいものか……。そういった遠慮や壁が一切取り払われる場でこそ、越境と試行錯誤が始まっていく。そんな場ができ始めていますね。

西村なるほど。柏谷さんに、リビングラボについて、自分としてはここがおもしろい、という点があったらお聞きしたいです。例えば、フードトラックを運営していく中で、自分だったらこう使うとか。

柏谷さんリビングラボっていう言葉を初めて聞いたんですよね。これまで交わらなかった人たちと共通のテーマで話す場があったんだ、という。いいと思うんですけど、今のところ、フードトラックでどう使うかは、全然思いつかないですね。

浅野さんでも、フードトラックって、仕事そのものがリビングラボになってるじゃないですか。死んだ目で作業のようにランチを食べている人たちが、どうしたらハッピーになれるかを試行錯誤している。しかも売り上げというデータが集まって、どういう配車をすると何が起こる、そうしたことを次々と実験していくことそのものが、僕はリビングラボだと思いますよ。

柏谷さんそうですね。ありがとうございます。

西村なるほど。つまり日々やっているから気づかない。

柏谷さん今聞いて、確かに、と思った部分もあります。僕らのビジネスって法律的に路上でやってはダメなので、不動産のオーナーから私有地を借りて、その立地とそこで働いている人の属性に応じた配車を考えて、売り上げが最適化されるというシステムなんですが、料理人と不動産管理会社と不動産オーナーとオフィスで働いている人って、ほぼ交わっていない人種なんですよね。

不動産オーナーに、ただ単に私有地を貸してくださいと言うのではなくて、「景気が衰退して人口が減っていくとオフィス需要も減っていく。そういうときに人を幸せにする経済合理性の手段を持っていないと、選ばれないビルになるじゃないですか」という話からするんです。

経済合理性の世界から人間の世界に降りてきてもらって、テナントでオフィスワークしている人に思いを馳せてもらう、みたいな話なんですね。

それってある意味、リビングラボっぽい要素なのかなと。不動産オーナーが、フードトラックが来ないと「どうして休みなの? せっかく貸しているのに」と言うんですよ。「今日は車検なんです」とか、料理人の都合をしっかり伝えないと、場所を貸しているという意識から抜けられない。そうした対話を重ねると、人に思いを馳せるようになっていくんです。

浅野さん経産省のリビングラボでも全く同じ現象が起こっています。介護施設で働いている「現場の人たち」と、メーカーのエンジニア、そして同じメーカーでも経営企画の人たちって「人種」が違うわけですよ。

見ている観点が違う。そして介護施設で働く人と一言で言っても、車椅子の担当、ベッド担当、トイレ担当、お風呂担当、食事担当とさまざま……。全てが異業種で、会社の中でも、全部役割も問題意識も違うんです。

介護サービスは人間の生活が中心にあって、その人の一日、そして一生の、その施設を中心にした一人ひとりのモビリティ(可動性)から自己実現の過程まですべてをデザインしないといけないわけです。

しかし、介護施設の現場の人たちが使っている言葉と、メーカーのなかでも経営企画の人たちとエンジニアの言葉の違いがあって、よくよく耳を澄ませると、言葉が通じているようで通じていないんです。リビングラボを回していると、そうしたギャップにだんだん気づいていく。

日本では、教育現場であまりこういうアクティブ・ラーニングの経験をしないから、大人になってもなかなかできないわけです。それを「リカレント教育」としてやる必要があるなと思います。

秋山さんリビングラボって、人が生活しているところがラボになるので、リビングラボなんですね。「鎌倉リビングラボ」で住民の方と話し合っていくと、一番の課題は、若い人が暮らしたいと思うまちにしたいということなんです。

昭和40年代に開発された、一戸建ての空いている部屋をリノベーションして、快適なホームオフィスをつくったらいいんじゃないかとか、子どもがいると家では仕事をしにくいので、近所にサテライトオフィスがほしいとか。

オフィス家具企業、住宅企業が手を挙げられて、技術ありきで何をつくるかという発想ではなくて、こういう課題があってそれを解決するためにはどんな技術が必要で、どんな事業にしたらいいか、というふうにつくっていく。今までの一社で自己完結型とは全く違うアプローチでやっているのです。

そうするとお昼も若い人たちがまちにいることになるので、まちに「こんなものも、あんなものもあったほうがいい」という話になってくる。そうするとまた異なる企業が手を挙げてくれることで発想が豊かになって、解決ソリューションもたくさん出て、お互いに刺激しあうようになる。

産業界も行政も、大学も一緒になってそれぞれが自分らしい暮らしのできる長寿社会をつくる、それができるのがリビングラボだと思います。

課題ありきではなく、ビジネス先行で考える

西村さっきの柏谷さんの話を聞いて思ったんですが、ランチ難民がいるとか、死んだ目でランチを食べている、というだけだと、課題で終わってしまうじゃないですか。高齢者がいっぱいいる、というように。それが、こうなったらいいなと、ワーキングオフィスをつくろうという話に変わったと思うんですね。その転換点というか、どのようにそういう話になってきたのでしょうか?

秋山さんわかりやすい例を挙げると、移動手段は高齢社会でとても大きな問題です。駅から離れた分譲地は、車があることが前提でまちができているので、車の運転ができなくなると、困ったことになるんですね。医療機関にも買い物にも行けない。そこで20人くらいの高齢者を対象に、ある企業が試作した高齢者向けのモビリティのプロトタイプをテストしました。そのあと話を聞いてみると、これに乗って自分一人であそこまで行けるなら、こんなことがしたいというニーズが出てくるんです。

西村下河原さんは、こんなことがしたいという生活者のニーズについてどう思いますか?

下河原さん課題解決するために何かをつくるというスタートではなくて、ビジネスとして魅力のある商品、場所をつくって、そこにあとから課題解決をくっつけていく文脈がいいんじゃないかなと思い始めていて。福祉って、課題解決という文脈があるから、どうしても課題ありきになっちゃうんですよね。そうすると、リスクとかいろいろなことを配慮していくうちに、結局つまらないものができ上がっていく。

先ほどの「恋する豚研究所」を運営する福祉楽団は、スイートポテト屋さんもやっているんです。社会福祉法人ですよ。スイートポテトで一個530円。でも午前中で完売しちゃうんです。材料となる特殊な芋を県内の農家さんから買いまくって、それでも足りないから他県の農家さんに仕事の機会をどんどん増やして、さらにはスイートポテトの売り上げで、障がいを持つ人たちを採用していく。

その順番が大事だと痛烈に感じたんです。高齢者住宅を稼働させて、初めてプラスアルファのことができるというビジネス先行型であることが、福祉だとか、社会課題へのアプローチの仕方として必要な時代のような気がするんですよ。

浅野さん世の中に存在する仕事って、必ず何かしらの社会課題や小さな生活課題にソリューションを与えることで対価を貰って成り立っていると思うんですよね。課題を明確に見極めて、この課題の解決をするんだと的は絞りつつも、下河原さんがおっしゃったように、この課題を解決することで別の何かもできるよね、という話になったときに、そこで壁をつくらず解決してしまえ、という話じゃないかと。

リビングラボにおいても同じです。結果的にビジネスになるんじゃないかという話になっても、「うちは社会福祉法人ですから」とそこで話が終わってしまうことも多いのではないかと思います。別法人をつくることもできるし、そこは融通無碍ですという世界にすれば、生まれたアイデアの活かし方に広がりが出てくるんだろうなという気がしました。

西村下河原さんが運営している高齢者向け住宅って、いわば「サービス付き高齢者ラボ」じゃないですか。下河原さんのような、やりたいこと、やったほうがいいことをやろう、というマインドの人って「一人リビングラボ」なんじゃないかと。そうではない人は、ここまでしかできないという発想に陥りやすいと思うのですが、それをどうやって壊せるのか。柏谷さんにお伺いできますか。

柏谷さんこれは、あくまで僕がよくやっている事業のつくり方、企画の考え方なんですが、社会課題とは何か、自分が思い入れを持てるのは何かを結構深掘りするんです。でも、それは一旦放置しておく。事業をつくるときは、それを企画には持ち込まないですね。日常の業務において、楽しい気分でふと思いついた企画が月に何十個とあって、そのなかで、これはうまくいけば社会課題が解決できるかもって、後からすりあって、そのうち事業展開のタイミングがきたときに発動される。

発動を待っている事業がいくつかあるのですが、課題から入って深く掘っていくと、ちょっと暗くなるというか、人を惹きつける太陽のようなビジネスとして成り立つ誘引力が出にくいこともあるかなと。

秋山さんリビングラボで生活者と話していると、いろいろなアイデアや意見が出てくるのですが、例えば高齢社会の移動手段や排泄を一つ一つ解決していくことも大切だけれども、先ほどのように、それが実現するならこういうこともやりたい、という夢もある。

人生100年時代には、人生50年時代ではできなかったこと新しい可能性がたくさんあります。私たちの祖父母には想像もつかない自由な生き方ができる。そういう長寿時代の新たな可能性や夢を実現するための商品やサービス、システムもつくろうとしています。常に新しい社会や生き方を追求することを念頭に置いてリビングラボを運営しています。

浅野さんまったくその通りだと思います。結局人それぞれ、プロジェクトへの入り方は全然違うんですよね。真面目に社会課題解決だと言って入っていく人もいるし、とにかく儲けたいんだという人もいるかもしれない。共通の言語で話したつもりでも、福祉の人たちは「儲けるなんて……」みたいな話になっていくし、ビジネスの人たちは「ボランティアじゃないんだから……」というところがあるかもしれない。でもこういうのは、コミュニケーションで超えられるんです。

リビングラボのファシリテーターは、今話したようなコミュニケーションで「揺らす」機能が必要なんです。役所の人間って、普通結論を「固める」ために行くんですが、基本的に僕らは揺らしまくる。出口にもっていく事を常に意識はしていますけども。議論がこっちに行きかけたら、違う角度で揺らすとか、振りまくって揺らしまくって、そうするとみんな不安になる。適当な結論を見て、早く安心したくてしょうがないわけですよ。

だけど、そう簡単に安心するなよってことです。そこで安心したら、つまらないことしかできないから。目的はなんだったっけ?と戻りながら考え抜く習慣が必要。結局のところは、そういうコミュニケーションができる人をつくり、習慣づける、人づくりっていう話になるんですよね。

何のためのテクノロジーか。何のためのイノベーションか。

西村ファシリテーションをする人が、「おまえらこの課題をわかっているのか?」という高圧的な感じだと、しょんぼりしちゃうじゃないですか。すみません、わかっていませんでした、と。そうではない呼びかけを最初にしてくれることが結構鍵なんじゃないかと思うんですよね。誰が、どういう呼びかけをするのかってすごく大事だなと思っていて。下河原さんはどういう呼びかけを心がけていますか? 呼びかけの背景なども。

下河原さん僕、中学の頃、すごくいじめられていたので、学校の先生にしょっちゅう呼び出されて、母はいつも泣いていました。だから「VR認知症プロジェクト」を始めるときも、いじめの体験をつくって、いじめる側もいじめられる方も両方体験して、「どんな気持ちになった?」っていうのをやってみたいということを決めていました。そうした原体験があるんです。

浅野さんあたかも自分がそこにいるかのように主人公になりきれるのがVRですよね。これまでの映像にあるような、ここを見なさいという設定ありきではなく、自分で見たいところを見れる。そこがリビングラボ向きですよね。

下河原さんそうなんです。だから僕らは、カメラデータで高齢者の動きをとにかく写しているんです。高齢者がつまづきそうになったりとか、どこかで不自由になっているその体の動きを全部データで拾って、アーカイブにして、高齢者の体の特徴を出している。それを見て、どこに困難があるのかを捉えて、手すりをデザインしたり、扉をデザインしたり、ベットをデザインしていく。

要するに、キッズデザインの発想なんです。キッズデザインって、例えば子どもが歯ブラシを持ったまま歩くと危ないから曲がるようにしようとか、リスクがあるからこういうデザインにしよう、という考え方ですよね。それを高齢者でやるためにはデータが必要だから、ビッグデータをつくろうと。でも、人を観察するという角度だけじゃなくて、自分が体験してみると、全然違うんですよね。

柏谷さん今、動向解析の技術が進歩していますよね。人間の感情を解析するものですが、例えば高齢者施設に人のふるまいを解析するカメラじゃなくて、人間の感情を解析するカメラが入るとしたら、どんな未来がつくれるのでしょうか。

下河原さんテクノロジーを活用して高齢者たちの生活をよりよくするという文脈はいいと思うんですが、行き過ぎかもしれませんね。高齢者がベットから離れたらセンサーが鳴る、という提案を受けたことあるんだけど、それ必要なの?って思ったんですよね。何のためにテクノロジーが存在するのか。そこをよく考えてつくらないと、つくったけど誰がそれ喜ぶの?という。

浅野さんそれ多いですよね。2017年、「国際福祉機器展」に行ったんですが、どこのメーカーの福祉機器もIoT押しとかAI押しで、とにかく「全部つながっています、コネクティッドです!」みたいなのがウリなんですけどね。なんだか重装備ではあるけど、一体何のためのIoTなんだっけ?ということは、よくわからないものばかりだった。

秋山さん多くのテクノロジーの開発は、尖ったものをいかにさらに尖らせるかに躍起になっているように見えます。それを使う人の顔は想像もしていないだろうし、おそらく人の生活に興味も持っていない。何十億円という開発費をかけてつくっても結局使われていないようなことがたくさんあると思います。もったいないことです。

浅野さんそれぞれの領域の専門家が専門性を尖らせれば尖らせるほど、別の専門家たちとの距離がどんどん離れていく傾向はありますよね。

リビングラボでも、これから尖った研究している人たちを集めて、異分野との融合を通じた変容をもたらす仕掛けをやってみたい。いろいろな分野を組み合わせたりしてもっと面白いことができる、といった編集者機能がここで必要になるんでしょう。

つまり車に例えると、みんなフェラーリをつくりたくなっちゃうんですよ。F1の車づくりになってしまう。それに対して僕ら役所の人間も、「尖ってていいね!」と予算をつけちゃう。それも重要なんだけど、その技術を使ってどんな社会システムをつくるか、そういうイノベーションにつなげるエコシステムづくりがすごく難しいですね。

これからの「共創」のかたちとは

西村以前は、テクノロジーと現場って比較的近くて、それほど山が高くなかったと思うんですけど、今はどんどん山が高くなって、どんどん距離が開いてしまって、もはや登り降りが簡単ではないのかもしれませんね。以前は自分で登り降りできたけど、今は現場に降りるのが大変だから行けない。登るのはもっと大変だから、一度登ったら降りたくない。

そうしたことを、このようなセッションで考えてみることって、みんなで一回降りて考えてみる、それが許される時間をつくる、ということかなと。一番上まで登ったところで横につなげるのは難しいけど、みんなで一緒に降りて、そこから新しい山をつくることだったらできるかもしれないですよね。

秋山さんのお話から生活者という言葉がたくさん出てくるのは、つまり降りているということだと思いました。70億人中1000万人くらいしかできていないことだとすると、70億人中10億人くらいの人ができるようになるといいと思うので、できるようなるための方法論がポイントになるのかなと。そしてテクノロジーは目的ではないし、山を登った先に宝物はあっても目的はなくて、目的は山の下にあります、というようなことかなと。

そろそろこのセッションを締めようと思うのですが、みなさんからそれぞれ、取り組みを進めるために、こんなことが起こったらいいなといった願望をお聞きできますか。まずは浅野さんから。

浅野さん願望というか、僕らも今、尖ったイノベーションが実際に生活現場に降りて、本当に身のあるものに変わっていくサイクルがつくれずに苦しんでいるんですよね。その過程で役所がリビングラボをつくって自分たちで手を加えて……って話はあまり聞きませんが、それを僕は当たり前にしていきたいし、日本全国、どこでもそんなことが起こっているという状態をつくりたいなと思っています。そのためにできることを何でもやりたいと思います。

西村ありがとうございます。

秋山さん経産省もそうですが、東大がリビングラボをやるなんて、20年前にはきっと誰も想像もしていなかったですよね。やりそうもないところがやり始めたということ自体が、西村さんがおっしゃったような、いびつさがあるというか、テクノロジーと生活者のニーズがずれていることに気づいてきたのだと思います。

今、ヨーロッパでは「シチズンサイエンス」をキーワードに、リビングラボのコンセプトや手法の研究が進んでいます。2018年は8月24日にジュネーブでリビングラボの大会があります。ものづくりにおいても、政策づくりにおいても、市民と一緒に共創するシステムができるといいなと思っています。リビングラボは始まったばかりですが、うまく広げて行きたいですね。

柏谷さん僕は2社目をつくって初めて、ビジネスをしていてすごく気持ちがいいという感覚があって。現場に行くと、つくりたい料理をつくれずにいた料理人が勇気を出してフードトラックのオーナーシェフになって、生き生きと仕事をしている。並んでいるお客さんも、本当に生き生きとした顔で待っていて、コンビニで並んでいる人とは顔色が全然違うんですね。日々大変なことはあるけど、その結果、これだけ人を元気にする世界につながっている。現場に行くたびに気持ちがいいって思えるのが、すごくいいなと思っていて。

人ってどうすれば元気になるんだろう、人ってどういうときに目が死ぬんだろう、それが起きてしまう人間の感情だったり、経済合理性の強制力って何だろうと探求しているんですが、今日のように別々のフィールドで近いことを探求されている方とお話しできると自分の視点も多角的になるし、僕ももしかしたら協力できることあるかもしれない、と思いました。

下河原さん高齢者施設において、できれば介護士がいない高齢者住宅を目指す文化が広がってほしいという気持ちが最近強くなっています。テクノロジーも、心理的環境も変化しているなかで、自立して生きていく方向にどんどん進んでいると思うんです。高齢者たちもなるべく介護施設に入らない、入ったとしても自分でなるべくやっていく、ちょっと足りない部分が出てきたらテクノロジーで補っていく、といった自分自身をハックするような文化が当たり前のように広がっていくことが目指すところかなと思っています。

介護士が足りないと言われているけど、介護士、本当にいませんから(笑)。とにかく頑張ってくださいと。日本中の介護士たちが仕事をボイコットしたら、ほとんどの高齢者たちって自立するんじゃないかなと思っているんです。北海道の夕張市が財政破綻したじゃないですか。そうしたら、住民たちが急に運動を始めたんですって。

もちろん、そこには予防医学を地域住民に伝える村上智彦先生という偉大な方の尽力あっての話だったのですが、それでも平均寿命には大きな影響はなかったんです。つまり、そういう環境になってしまえばみんな勝手に頑張り始めるみたいな、そんな流れをつくっていけたらと思っています。

西村ありがとうございます。僕が思ったのは、経産省だったり、大学だったり、経営者としてだったり、「共創」をやっている人ってたくさんいるんですよね。視点は違うにしても、やろうとしていることは近いと思うので、交流をする場があるといいのかもしれませんね。浅野さん、秋山先生、柏谷さん、下河原さん、本日はありがとうございました。

増村江利子 編集者/文筆家
編集者/文筆家。国立音楽大学卒。Web制作、広告制作、編集を経て現在はフリーランスエディター。主なテーマは、アート、建築、暮らし、まちづくり。二児の母。長野県諏訪郡へ移住し、八ヶ岳の麓でDIY的暮らしを始める。“小さく暮らす”をモットーに、賃貸トレーラーハウスにてミニマルライフを実践中。
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