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SHIBAURA HOUSE、オランダ大使館と描く「オルタナティブな未来」。リサーチ&メディアラボプロジェクトが始動

シンポジウム

ミラツクはこのほど、「株式会社SHIBAURA HOUSE」と「オランダ大使館」が共同で取り組む市民参加型の学びのプラットフォーム「nl/minato(エヌエル・ミナト)」のプロジェクトの一環として、「オルタナティブな未来」をテーマにしたリサーチ&メディアラボプロジェクトに参画することになりました。2019年5月25日には、各界の5人の実践者によるトークや、未来社会をデザインするワークショップなどで構成するキックオフイベントを開催。「オルタナティブな未来」とは何なのか。また、どうリサーチし、発信することでその未来に一歩近づくことができるのか。ゲストによるトークを中心に、当日の模様をまとめました。

この記事は、ミラツクが運営するメンバーシップ「ROOM」によって取材・制作されています。http://room.emerging-future.org/

登壇者プロフィール
土谷貞雄さん
株式会社貞雄 代表/コンサルタント、建築家、住まい・暮らしに関する研究者、コラムニスト
1989年、日本大学大学院理工学研究科建築史専攻修士課程修了。ローマ大学への留学や住宅不動産系のコンサルティングなどを経て、2004年に「株式会社良品計画」のグループ会社に入社し、「無印良品の家」(現・株式会社MUJI HOUSE)の開発に従事。2008年に独立し、住宅系の商品開発やWEBコミュニケーションの支援を行う。無印良品のコミュニケーションサイト「くらしの良品研究所」や家のサイト「みんなで考える住まいのかたちみんなで考える住まいのかたちみんなで考える住まいのかたち」の企画・運営をはじめ、現代の暮らしについてアンケート調査やフィールドワーク、執筆活動などを行い、未来の暮らしのあり方を提案。また、住まいに関する研究会「HOUSE VISION」を企画・運営し、アジア7カ国で展覧会や調査を行ってきた。現在はベースを深圳に移し、中国での暮らし調査を本格的に始めている。
杉下智彦さん
東京女子医科大学 医学部 国際環境・熱帯医学講座(教授・講座主任)
1990年、東北大学医学部を卒業。1995年から約3年間、青年海外協力隊に参加し、「マラウイ共和国」の国立病院の外科医長として活動。2001年よりアフリカを中心に世界30カ国以上で技術協力プロジェクトの立案や実施、評価などに携わる。2015年に発表された「持続医可能な開発目標」(SDGs)の国際委員として策定に尽力する。第7回ソーシャルビジネスグランプリ大賞、第44回医療功労賞を受賞。専門は保健システム学、医療人類学、呪いの研究など。
塩浦政也さん
株式会社SCAPE 代表取締役/建築家
早稲田大学理工学部大学院修了後、「株式会社日建設計」に入社。東京スカイツリータウンなどの設計業務に携わった後、2013年に「アクティビティ(=空間における人々の活動)が社会を切り拓く」をコンセプトに、社会や空間にイノベーションをもたらすデザインを行うチーム「NIKKEN ACTIVITY DESIGN lab」(NAD室)の立ち上げメンバーに。近作は羽田クロノゲート、仙川キユーポート、ポピンズナーサリースクール、東京インターナショナルスクール、ほか多数。2018年に日建設計を退き、株式会社SCAPEを創業。
小澤いぶきさん
認定NPO法人PIECES 代表理事/児童精神科医、精神科専門医
精神科医を経て、児童精神科医として複数の病院で勤務。トラウマ臨床、虐待臨床、発達障害臨床に携わり、多数の自治体のアドバイザーを務める。さいたま市の子育てインクルーシブモデル立ち上げ・プログラム開発に参画。2017年、世界各国のリーダーが集まるザルツブルグカンファレンスに招待、子どものウェルビーイング達成に向けたザルツブルグステイトメント作成に参画。医療の現場を通じて、社会にある暴力的構造に対して、想像力による寛容性が生まれる構造にシフトする必要性を感じ、「PIECES」を立ち上げる。東京大学医学系研究科 客員研究員。

これからの時代に求められる調査、メディアとは

「SHIBAURA HOUSE」はデザインや広告などの事業を手がけるほか、社屋を会社員や地域住民などが利用できるコミュニティスペースとしても開放しており、そこでさまざまなイベントを開催するなど、ユニークなプロジェクトを生み出しています。2017年からは、「オランダ大使館」とともに「nl/minato」プロジェクトを始動。これは、さまざまな団体・個人が参加する市民参加型の学びのプラットフォームで、LGBTやジェンダー、メディア、教育、福祉など多様な課題に対し、オランダの先進的な事例を学んだり、識者を招いたイベントや勉強会を開催するなどしながら、対話を重ねています。

そうしたなか、2019年度は新たにミラツクとタッグを組み、リサーチ&メディアラボプロジェクトを立ち上げました。これは、「オルタナティブな未来」をテーマに、参加者がフィールドワークや現場の実践者へのインタビューなどを通じたリサーチを行い、オルタナティブな未来の姿を浮かび上がらせようという試みです。さらに、調査・分析した内容を何らかのかたちで“メディア化”することで、新たなメディアやジャーナリズムのあり方も探ります。

「SHIBAURA HOUSE」の代表取締役・伊東勝さんは、「今回のミラツクさんとのフレンドシップを通じて、『nl/minato』のコミュニティをさらに広げていきたいですね」とプロジェクトのさらなる盛り上がりを期待。また、リサーチやメディア化ついても、「例えばオランダでは、調査報道に特化したメディアがあったり、ジャーナリストを支援する仕組みがあったりします。これからの時代に必要なメディアのあり方も探りたいと思います」と話します。

一万人のアンケート調査から想像した「住まい」と「暮らし」

キックオフイベントでは、土谷貞雄さんが基調講演を行いました。土谷さんは、現代の暮らしに関する膨大なアンケート調査やフィールドワークを行うなどして、未来の暮らしのあり方を考えています。土谷さんが考えるオルタナティブな未来、そしてそれを探るために有効な手段とは——。

土谷さん僕は今、中国に週5日ほど滞在する生活を送っています。中国の暮らしに関する大規模な調査を行うためです。また、ライフワークとして企画・運営に携わっている「HOUSE VISION」では、企業や建築家などとアジア7カ国をフィールドに、実際に足を運びながら生活調査を行うなどして、日々新しい暮らしのあり方を研究してきました。

さて、今日のお題は「情報を集めること(リサーチ)」や「未来」についてですね。まずお伝えしたいことは、「知らないことを知ることから始める」ことの重要性です。

長く住まいや暮らしの調査をやってきて、確信を持っていること。それは、調査とは、とにかく自分の知らないことを知っていくことなんですね。具体的に何をするのか。まず、「見る・観察する」、そして「聞く」。これが最も重要です。その際、自分の価値判断をしないで聞くことが大事です。人は何かとジャッジしてしまいがちなんですよね、「この話はこういうことなんじゃないの?」とすぐに理解したり、判断したりしようとする。そうではなくて、徹底してその人に寄り添って、話を聞いていくことが大事です。

それと、「体験する」ことです。その場にいることが大事で、体験したことのないことは本当の意味で理解できません。今必要なのは、「ここに課題があるんじゃないか」と課題を見つけ出していく能力だと思うんです。これまではどうやって課題を解決していくか。そのことに多くの時間を費やしてきました。そのためにも、知らないといけない。知ることから、すべてが始まります。そして最後に、「想像する」ことです。未来を想像するのです。

僕は2004年に縁あって「良品計画」に入社し、「無印良品の家」をつくることになりました。今でこそそれなりに売れるようになりましたが、始めた当初はまったく売れなかったんです。そのことが原因で、事業の前線から身を引くことになりました。いわゆる左遷ですね(笑)。上司も部下もいない、たった一人です。どうせ時間があるなら、みんながどんな暮らしをしているのか。売れるかどうかよりも、暮らしについて徹底的に調べてみようと思ったんです。これが、人生の転機になりましたし、そのことで今の調査の基礎を気づくことになりました。

調査というのは、WEB上での住まいに関するアンケート調査です。「みんなで考える住まいのかたち」というWEBサイトを立ち上げました。一回目のアンケートになんと一万人近い人が参加してくれ、一気に盛り上がったのです。これには驚きました。はじめは誰も答えてくれないだろうと思ってましたから。その後もアンケートやコラムを書くことを繰り返し、コミュニティが広がって大きな力となっていきました。

僕のアンケートは、とにかくしつこく、頻度が高いのが特徴で、毎月のようにやりました。しかもテーマも細かく細分化し、趣味や家族、仕事から収納、洗濯機置き場、寝室、テレビの見方などまで、あらゆるお題を投げかけました。そして、聞く内容が少しマニアックなのです。例えば「テレビの見方」なら、どんなテレビか、どんな大きさか、床から◯センチメートルの位置にあるか、あなたがテレビを見ているときに子どもは何をしているか、とテレビにまつわる行動を徹底的に調べていくのです。他にも持ち物調査などは徹底して持ち物の量や種類を聞いていきます。答えるのも結構大変ですね。

一般に多くのアンケート分析は結果から平均値を出して、分析したりするわけですね。ただ、ここが僕のマニアックなところですが、まず平均値を出して、それぞれの人の平均値からの“外れ値”に目を向けています。例えば、アンケートから世帯平均の靴の数を調べたことがありました。でもそのなかには、200足も持っているような人や、逆に家族全員で6足しかないという人がいます。暮らしは平均値にあるのでなく、外れ値の方におもしろいヒントがあるのです。

僕はそういう外れ値の大きい人に取材に行くことにしたんです。すると、200足も持っている人はとても丁寧に手入れして、きれいに靴を並べている。そういう方の家に行って現場を見たり話を聞くと、「シューズクローゼットはどうあるべきか」「こんなシューズクローゼットもいいんじゃないか」なんて、いろんなことが頭のなかに浮かんでくるんです。それは平均値を見ても浮かんできません。平均値を外れたところに、想像力の源泉があると思うのです。
なにしろ当時はやることがなかったわけですから、朝から晩までずっとアンケートの結果を読んでるんですよ。どんどんはまっていきました。もうそれがおもしろくて仕方がなかったのです。毎週のように大量のアンケートを読んでいると、その人の名前はわからないのに、「あ、これはあの人だな」「この人はきっとこんなものが家にあるな」とか、だいたいわかってくるんですよ(笑)。ひたすら調査して、結果を見て、コラムを書いて、頭の中で妄想を巡らす。このプロセスがとにかく楽しくて、今考えても幸せな時間でしたね。

さきほど、「聞く」ことはジャッジせずに、ひたすら耳を傾けることだとお伝えしましたが、まずは先に知ることが大事です。妄想と合わせて、その後にだんだんと想像が膨らんでくるんですよ。そうやって想像をどんどんつなげていくことで、次々と新しい発想が生まれてくるんですね。

ここで、あるアンケート回答者のコメントを紹介します。「自分自身でもどんな家が住み心地がいいのかを考えるきっかけになった。アンケートの度に、自分で気づいていなかった住まいに対する隠れた希望がわかって楽しかった。いつかシンプルで使いやすい、スタイリッシュな『無印良品の家』に住んでみたい」と。これを見たときに、僕は一人で飛び上がって喜びましたよ。ただ「調べてみたい」という動機で始めた仕事から、あれだけ売れなかった「無印良品の家」に住んでみたい、と言ってくれたわけです。このコメントもそうですが、実際にアンケート調査を始めてから、家が売れるようになったんです。そのときに大事なことは、まずは価値観を共有できるコミュニティを広げて行くことだと理解したのです。その後僕は、「くらし良品研究所」という家だけでなく無印良品全体のためのサイトを立ち上げて、先の家のサイトと同じようなアプローチを繰り返しました。

さらにその後は、独立してこうした手法をさまざまな企業でつくって展開していきました。いつのまにか僕は、暮らしの調査という仕事の専門家になってしまいました。 

こういう調査の仕事をしていて、よく言われることがあります。「その調査は何かにつながるんですか?」と。それは、みなさんにとっても調査をするときに重要なポイントです。僕はいつも「“単純には”つながりませんよ」と答えるんです。いきなり何かを開発したり、何かにつなげようとするために調査しているわけではありません。200足ある家を取材して、すぐにそれを収納できるシューズクローゼットを開発しようとか、そういうことではないんです。調査して、すぐに商品開発するというのは危険だということは気に留めておいてください。それより、そこに目を向けることで、想像力が働いてくるのです。そうやって見聞きして、知らないことを知っていくこと、課題を発見していること自体がクリエイティブだと思うんです。

最後に、未来について僕が考えていることを紹介します。「Multi Creative Society」と名付けてみました。

昔は「日常」が平凡でしたので祭り事のような「非日常」が楽しみでした。それをさらにおもしろく、刺激的にしていこうという社会が続いてきました。つまり、少ない非日常からたくさんの非日常、さらには刺激を求めていくのです。言い換えれば、毎日スペクタクルを見ているような暮らしです。しかし、僕はこうした動きはさらに刺激を求めて行くのではなく、もう一度日常の中に美意識を見出すような動きが始まっていると感じています。日々の暮らしそのもののなかに、小さな創造的なことを発見していくのです。これは、そういう動きを感じているというのもありますが、もう一方で未来がそんな社会になったらいいな、というのが僕の思いです。

こうした未来を「Multi Creative City」(日常の中にcreativeがある暮らし)と名付けてみました。こうした未来へのシナリオづくりはとても大切です。ビジョンといってもいいですね。もちろん、僕は占い師ではないので未来のことがわかるわけではありません。でも、未来を考えることそのものが創造的なことだということを強調したいと思います。そうした思考のうえに結果的に未来はやってくると思っています。それは誰か一人の人がつくるのでなく、社会の意識がつくっていくともいえます。そのために、こうした調査を通した社会との接点をつくり、コミュニティを形成していくことはとても大切だと思っています。

アフリカの「懐かしい未来」にヒントがある

杉下さん私は健康課題について、アフリカを通して考えています。20年以上にわたって、医師としてアフリカで仕事してきました。今は日本で、主に大学で講義をしたり、アフリカ関連のイベントを主催するなどしてます。

突然ですが、今日ここに来ている人で、病気の人はどれくらいいますか? はい、ちらほらいらっしゃいますね。でも、ほとんどの人が健康のようですね。日本でこの質問をすると、いつも同じような結果になります。ただ、アフリカで同じ質問をすると、全員が手を挙げるんです。違うんですよ、アフリカでは病気の意味が。健康そうに見える女の子に「何の病気なの?」と聞くと、「最近父親を亡くして、とても心が痛いんです」と言う。またある人は、「彼女にフラれて、毎日泣いてるんです。寂しいんです」と訴えるんです。

日本では考えられないですよね。病院に行って、医者に「失恋したから治してください」と言ったら、門前払いされますよ。「学校でいじめられていて、苦しんです」と訴えても、病院は診てくれませんよね。ただその結果、誰にも相談できずに悩みを抱え、場合によっては追い込まれて自殺をしてしまったりするわけです。社会のなかで弱い立場にいる人たち、障害者や高齢者もそうです。そういう人たちが、誰も面倒を見てくれずに自分だけで解決しようとしている社会。それが今の日本ですね。

「オルタナティブな未来」をつくろうと思ったときに、僕自身は「懐かしい未来」をコンセプトにしています。つまり、アフリカから学べることがあると思うんです。そこには僕らが忘れてしまったもの、すばらしい社会システムがあるんです。そこから、未来をつくっていくヒントが得られるのではないでしょうか。

マラリアという病気を巡るエピソードを紹介します。アフリカで患者さんに「あなたはマラリアですよ、この薬を飲んでください」と伝えると、必ず母親は「知ってます」と言うんですね。「なぜ私の子供がマラリアになって、別の子供がならないの?先生、治してください。そうじゃないと、あなたはヤブ医者ですよ」と。僕にはどうすることもできません。ただ、アフリカの伝統医はちゃんとそれを意味付けるんですよ。「こんな悪い遊びをしたから、あなたの子供はマラリアになった」と、ストーリーをちゃんと言えるんですね。なぜなら、昔からその子や家族のことを知っているからです。

「オルタナティブな未来」は、誰がつくっていくのか。必要なのは、トランスフォーマー(変革者)です。つまり、医者をはじめとするプロフェッショナル(専門家)でありながらも、その知識やスキルをどうやってソーシャルチェンジにつなげていくか。医者に関して言えば、なぜこの人は病気になったのか、なぜいじめられているのか。貧困かもしれない、ジェンダーかもしれない。原因がどこにあるのかを見抜いて、そのためにはどんなリソースを使えばいいのか。どんなネットワークをつくればいいのか。そういう社会構造をつくることができれば、状況はもっとよくなると思うんです。

それと、アフリカの人たちは、問題を解決するのは常に自分なんだ、という意識をもっています。彼らにとって、誰かが解決してくれるのは幸運でしかないんです。自分がなんとかしないといけない。そう思って生きてるんです。ですから、困っている人がいたら必ず助けようとするし、火事が起きたら大勢の人が救助に駆けつけます。行政のせいにしたり、学校や会社のせいにはしない。たとえ弱い人たちでも、助け合う。これが、本当にレジリエントな社会だと思います。

時代遅れに見えるかもしれませんが、アフリカには僕らが忘れてしまったすばらしい社会システムがあります。僕らはそれを忘れてしまったがために、今こうしてさまざまな課題が生み出されてしまったのではないでしょうか。懐かしい未来、つまりアフリカのソーシャルな生き方に立ち戻ることで、何か新しい未来が拓けるのではないか。そう考えています。

未来は「DO IT OURSELVES」で切り拓く

ショートプレゼンテーションの二人目は、建築家の塩浦政也さんです。有名建築物を多数手がけてきた塩浦さんは、建築の未来をどう想像しているのでしょうか。自身が手がけるプロジェクトや世界の先進事例を交えながら、力強く語りました。

建築家は、建築学をもとに都市に関するさまざまなプロジェクトをデザインしてきました。だた、私たちが生まれた20世紀後半あたりからは、どうも建物の“形”をデザインするだけの専門家になってしまったように感じています。21世紀の今こそ、建築家が持つ構想力を、都市、あるいはイノベーターの頭脳のなかに解放して、都市革命に役立てるときだと考えています。

近年は、物質的な建築物だけではなく、都市のなかの人々の生活やマインドにあらゆるデザインを打ち込み、違和を与えて、「都市生活にはこんな可能性もあるよね」「こんな生き方がありそう」といったことを表示するようなプロジェクトにも力を入れています。例えば、「資生堂」とご一緒したプロジェクトで「スマイル ライン」という作品があります。電車のなかにアンドロイドがいる未来の風景をインスターレーションに落とし込み、公共空間におけるコミュニケーションの可能性を探りました。

さて、今日はみなさんに考えてほしい「5つの未来潮流」を紹介したいと思います。①SPACE TECHNOLOGY②MIXED USE③NIGHT ACTIVITY④SHARING ECONOMY⑤DO IT OURSELVESです。

①SPACE TECHNOLOGYの例として、NADで取り組んだ“歩く壁”があります。壁は本来動かないものと認識されていますが、それがお客さんの会話に反応して動く。そんな空間をつくりました。もはや3LDKなどの間取りの概念を越えて、そこには何か大きな社会課題を解く可能性が秘められているんじゃないか。そんな狙いを込めました。

②MIXED USEについては、イスラエルの都市・テルアビブの事例を紹介します。その中心街にある施設や空間は、昼間は工場や学校、駐車場に使われているのですが、それが夜になるとナイトクラブやレストランに変身するんです。どんどん高密化している都市で、今後はこういう事例が増えてくるでしょう。

③NIGHT ACTIVITYでは今、アムステルダムやベルリン、ソウルなど、各国の都市でナイト アクティブティを都市の資源にしてGDPを押し上げようという動きが目立っています。夜をどういう風に楽しむか。これも空間の可能性を広げるジャンルです。

④SHARING ECONOMYは、例えば配車アプリ「ウーバー」ですね。ただ、強調したいのは便利さではなく、もはやシェアリングを越えて新しい価値を生み出していることです。先日アメリカで利用したんですが、運転手と30分ほど話すことで、彼がどんな音楽を聴いていて、どんな家族がいて、なぜドライバーをしているのかを知りました。これはつまり、便利を越えた新しい時間的価値だと思うんです。

最後に⑤DO IT OURSELVESです。これは今日、最も強調したいことですね。これからの都市、空間、建築は、一部の専門家や行政などに任せずに、自分たちでつくることが重要です。僕たちのようなプロフェッショナルは、みなさんの欲望をうまくファシリテートする側に回らないといけません。

これだけ社会課題が山積していて、それらが都市にどんどん降りかかってくるなかで、それを正面から問題解決していくことも大事ですが、少しおもしろい未来を見せていく、つまり「こういうことっていいよね」というビジョンを見せていく。最近では、スペキュラティブデザインやクリティカルデザインという言い方をしたりしますが、そういった新しい未来を見せることによって「こっちの方向に行ってみようよ」と方向性を示すようなことも、建築家の仕事だと思っています。

私の会社は「22世紀の景色へ」をミッションに掲げています。みなさん、イメージしてみてください。22世紀と聞くとずいぶん先にあるように思えますが、意外とそんなに遠くないという言い方もできるのではないか。そのときにどんな未来をつくるのか。22世紀へ向かうこれからの約80年、自分たちの住む都市や社会は、自分たちの手でつくる。そういう意気込みで、ぜひみなさんとご一緒できればうれしいです。

人の想像力から生まれる、やさしいつながりが溢れる未来

最後は、児童精神科医で「認定NPO法人PIECES」の代表理事を務める小澤いぶきさんです。子どもが安心して生きられる未来をつくる。小澤さんは団体の活動を紹介しながら、そう訴えました。

小澤さんみなさん、ちょっと困ったことやうれしいことがあったときに、「この人に話したいな」「あの人に相談したらなんとかなるかもな」と思える人の顔は思い浮かびますか?

私たちは、いろいろな社会の制度のなかで生きています。同時に、日々発生するちょっとした名もなき困りごとや痛み、逆にうれしいことを共有したい感情って、それは例えば行政の福祉課の窓口に連絡して、共有することって少ないんじゃないかと思います。おそらく無意識のうちに、人と人との関わりのなかで、痛みが癒されたり、うれしさを共有したりして、新たな世界の扉が開かれる。そういうネットワークのなかで生きているのではないでしょうか。

私が医療機関で目の当たりにしたのは、例えば自死しようとしたり、虐待のなかで生命の危機に晒されて初めてそのしんどさに気づかされる、孤立した状態のなかで生きている子どもたちの姿でした。その背後には、目に見えない小さな痛みがたくさんあります。危機のなかにいる子どものことを丁寧に聞いていくと、実は子どもの周りにはいろんな人たちがいました。ただ、そこに果たして良好な関係があったのか、安心できる関係があったのか。つながりは目に見えないからこそ、とてもわかりづらいんです。

「家族がいるから大丈夫じゃないか」「学校に行っているから大丈夫じゃないか」などと思われながら、亡くなっていった子どもたち。何事もないように見えるなかでも、実は何かを抱えている。私たちは、もっと他者に対しての想像力を広げられないか。医療機関にいたなかで、ずっとそんなことを考えていました。

子どもたちが孤立のなかで生き続け、信頼できない明日よりも、子どもたちの周りに人の想像力から生まれるやさしいつながりが溢れる未来をつくりたい。そう思って立ち上げたのが「PIECES」です。

社会的孤立とは、たとえ関係性があったとしても、安心できるつながりがないために頼り合うことが困難な状態だと考えています。頼り合うとは、どういうことか。私たちは、無意識に三つのハードルを越えているのではないでしょうか。

「自分の現状を問題だと認識する」「相談したい相手が思い浮かぶ」「実際に相談しにいく」。この三つです。これは、とても主体的な行為ですよね。同時に、この頼れない状態は本人の責任ではなく、社会がつくり出している構造的な問題だと思っています。

人と人との間に、やさしさが生まれていく生態系をつくること。これが、「PIECES」のミッションです。そのために取り組んでいることが三つあります。「人材育成」「支援の場づくり」「啓発」です。

まず「人材育成」は、子どもの周りにやさしさを生む人を育成することです。子どもに何ができるのか、考え、実践していく人、私たちは「コミュニティユースワーカー」と呼んでいます。スキルや知識も大事ですが、プログラムではマインドセットをいかに耕していくかを大事にしています。自分の価値観の上に知識やスキルを積んでも、それはその価値観の上にしか乗らないので、狭い視野になってしまいがちです。ですから、子どもの価値観とは違うことを前提に、どんな観察をすればいいか、どう関わったらいいか。それをひたすらリフレクションしていくプログラムです。「コミュニティユースワーカー」は、これまでに50人を育成しました。この育みを通して、自分のことだけでなく、“私たち”の範囲を広げていく文化の醸成を目指しています。

次の「支援の場づくり」は、それぞれの地域で子どもたちが安心できる場所をつくっていくことです。地域の人たちが主体になり、耕していく。東京を中心に行ってきましたが、これからは他の地域にも広げていきます。現在実施している水戸市でのプログラムをはじめ、今後、地域で予防的な処方が生まれていく仕組みをつくっていきたいと考えています。

最後に、「啓発」です。これは、“やさしい間”とは何かを問い続けることです。それは時代によって変わっていくものだし、定義した途端にそこから何かがこぼれ落ちてしまいます。だから、常に問い続けるんです。具体的には、これからアーティストやさまざまな分野の方々と一緒に作品をつくっていく事業を始めます。人と人の間だけではなく、例えば人と動物の間、人と植物の間など、いろんな可能性を作品にしていきます。未来は予測するものではなく、断続的に生まれるものだと思うんです。さまざまな見えない痛みや声を聞きながら、どんな“やさしい間”があったらいいかを問い続けていきます。

東北芸術工科大の学生が「コミュニティデザインの心得」を披露

そして、この日は最後にもう一人ゲストが登場。東北芸術工科大学(山形県)のコミュニティデザイン学科に在籍する加賀谷果歩さんです。加賀谷さんは、2018年にミラツクと共同でコミュニティデザインの知見創出プロジェクトに取り組んだ学生の一人。このプロジェクトで行ったインタビューやフィールドワークの方法論などを紹介するとともに、地域のコミュニティデザインの現場から見えた未来の可能性について話しました。

加賀谷さんこのプロジェクトは、日本各地でコミュニティデザインに取り組んでいる人にインタビューを行い、言語化されていない知見=「暗黙知」を集約するのが目的です。

私たち学生は2つのチームに分かれて、全国のコミュニティデザインの現場を訪ねてきました。私のチームが訪ねたのは、滋賀県近江八幡市と神戸市三ノ宮です。近江八幡ではまちづくり会社「まっせ」の田口真太郎さん、三ノ宮では「神戸モトマチ大学」の村上豪英さんにお会いし、インタビューをさせていただきました。

インタビューにあたっては、事前に質問項目を用意しました。大きく「時系列、プロセスに関する質問」と「価値観、考え方、ノウハウに関する質問」「最後に問い直しを行う質問」に分けて、計13個の質問をリスト化し、インタビューに臨みました。

インタビューを行った後は、その内容の集約・分析です。私たちは、インタビューの内容から611個の要素を抽出し、その要素を同じ意味の塊ごとに集める作業を行いました。さらにその後、集めた各グループに対して、代表性をもとに、具体性が損なわれないような名前をつけていきます。

この一連の作業を経て、私たちは最終的にコミュニティデザインの「十の心得」を導き出しました。これが、その内容です。

インタビューさせていただく前は、緊張や不安もありましたが、お二人ともとても親切に応じてくれて、とても貴重な経験ができました。私たちのこの方法論やノウハウが、みなさんの活動の小さなヒントになればうれしいです。ありがとうございました。

キッフオフイベントではこのほかにも、ミラツクが作成した560枚の未来予測カードを用いながら、未来のシナリオ・ロードマップを作成するワークショップも実施。参加者は、オルタナティブな未来について語り合い、理解を深めました。

この記事は、ミラツクが運営するメンバーシップ「ROOM」によって取材・制作されています。http://room.emerging-future.org/

近藤快 ライター
フリーライター。1983年、神奈川県生まれ。2008年〜化粧品の業界紙記者を経て、2016年〜フリーランスに。東北復興新聞(発行:NPO法人HUG)で震災・復興現場の取材、50人インタビュー企画「Beyond 2020」を担当。災害時における企業・NPOの復興支援や、自治体の情報マネジメントを集積したWEBサイト「未来への学び」(グーグル社)のほか、化粧品業界やCSR・CSV、地方創生・移住、一次産業などを中心に取材〜執筆活動している。