single-news

「オープンイノベーションの仕掛け人」たちが語る、都市のイノベーションから見出す企業内イノベーション

レポート

IMG_7503

完全招待制で定期的に開催されているミラツクフォーラムでは、毎回、異なるセクターや異業種の方々をゲストにお招きし、一つのテーマについてディスカッションを行い、新たな知見を対話の中から見出しています。2016年9月10日のフォーラムは「オープンイノベーションが都市で実現するには?」をテーマに、4名の登壇者をお迎えしディスカッションが行われました。イノベーションを生むための仕掛け、イノベーションと人材、都市のイノベーション、オープンイノベーションを生むための取り組みなど多岐にわたる話題に広がったディスカッションの様子をお届けします。

IMG_7500

竹林一さん
オムロン株式会社 IOT戦略推進プロジェクトリーダー
オムロン入社後、関東のパスネットシステム”等大型プロジェクトのプロジェクトマネージャを務める。以後、新規事業開発、事業構造改革の推進、オムロンソフトウェア代表取締役社長、オムロン直方代表取締役社長、ドコモ・ヘルスケア代表取締役社長を経て現職。各種委員会の諮問委員他、プロジェクトマネージメント、モチベーションマネージメント、ビジネスモデルマーケティングなどの講演、執筆などを通じて“日本のエンジニア”“日本の経営者”を元気にする活動を実施中。

榊田隆之さん
京都信用金庫 専務理事
京都経済同友会「大学のまちを考える委員会」、「大学とイノベーション委員会」の委員長として、イノベーション都市とし ての京都を目指す取り組みを展開。NPO法人グローカル人材育成センターの代表理事も務め、PBLを活用した学生と京都企 業との交流にも取り組む。

蓑田佑紀さん
パナソニック株式会社 先端研究本部 主幹研究員
2006 年⼤阪⼤学院⼯学研究科 博⼠後期課程修了。松下電器産業(現パナソニック)⼊社後、本社R&D 部⾨にてネットワーク技術の研究開発を推進。2012-2014 年MIT メディアラボ客員研究員。現在は先端研究本部にて脳機能センシングプロジェクトを推進。パナソニック先端研究本部内のオープンイノベーション空間「Wonder LAB Osaka」⽴ち上げにおいては空間およびコミュニティの基本コンセプト策定を担当。

塩浦政也さん
Nikken Activity Design lab Chief
1999年、早稲田大学修士課程修了後日建設計に入社。専攻は建築意匠。入社以来、様々な規模や種類のプロジェクトを担当。設計部門設計主管を経て、2013年に、デザイン思考を駆使し、空間ユーザーの能動性を豊かにし、空間や社会にイノベーションをもたらすNikken Activity Design labを設立。アウトプットはもはや建築物だけでなく、映像や組織デザインに及ぶ。現在、様々な企業や都市・地域にイノベーションを起こすための多数のプロジェクトを担当。

現場の体感を持ち寄った先にある「新たな発見」を探す

IMG_7434

⻄村:まず、今⽇のテーマなど、前提の整理をしてから、ディスカッションに⼊っていきたいと思います。

今⽇、この4 名のゲストの⽅々を組み合わせたのにはいくつか理由があります。⽵林さんや蓑⽥さんに、企業の中でどうオープンイノベーションを起こすのか、もしくは、それを場としてどう実現していくのかといったお話を聞きたかったことが1つ。そしてそれを、都市の中、街の中にどう組み込んでいくのかという部分のお話を 塩浦さんや榊⽥さんにしていただくことによって 街の中にいろんな⼈が⼊り乱れて いろんなクリエイティビティが⽣まれ、イノベーションが⽣まれていくための道のり、ルートのようなものが⾒えてくるとおもしろいかなと思っています。

オープンイノベーションの⽅法論についてはいろんな場で説明がなされています。でも、本当に実践しないと分からない難しさや、やろうと試みたけれど周囲の理解が得られない、といった体感を含んだ情報は多くはないと感じています。

そこで、今⽇はそれぞれ現場を持っている⽅にお越しいただいて、「意外とこんなことが後々効いてきて、結果につながった」などといった、現場にいるからこそ分かったことを確認し合い、それを持ち寄ったときにどういう新しい発⾒があるか、という視点でディスカッションを進めていけたらなと思っています。さて、改めて、最初に「オープンイノベーションをやりたいのであれば、ここは押さえておこう」というポイントを⽵林さんからお話しいただいてから、それをどう街に落とし込んでいけばいいか、他の3名の⽅にお話を振っていこうと思います。それでは⽵林さん、宜しくお願いします。

コミュニケーションなくしてイノベーションは起こらない

IMG_7506

竹林さん:企業の中でイノベーションってよく言いますよね。これまで「イノベーションとは何か?」を、社内の中で追求してきて、分かってきたことが1つあります。それは、コミュニケーションのないところにモチベーションは起こらない、そしてモチベーションのないところにイノベーションは起こらないということです。

ところが、みんないきなりイノベーションを起こそうとするんですね。でも、そもそもモチベーションがありませんとか、その前のコミュニケーションがありませんということが多いんです。

イノベーションを起こそうと思ったら、コミュニケーションをデザインして、そこで何をやりたいのかを明確にしてモチベーションを上げる必要があります。この、コミュニケーション、モチベーション、イノベーションという順番を設計しておかないと、イノベーションは起きません。コミュニケーションも無茶苦茶で、何にもないという状況で「イノベーションできました」となれば、それこそがイノベーションですよね(笑)

じゃあなぜコミュニケーションとモチベーションが必要かというと、イノベーションを起こそうとするとハレーションが起きるからなんです。イノベーションってこれまでと違うやり方をするということですよね。でも、人間は基本的に変わりたくない生き物で、前と同じやり方がしたいんです。

どれだけ事業がダメになってきても、どこかが破綻していても、前と同じやり方のほうが楽なんですよね。帳票でもなんかの仕組みでも、変えたくないんです。にも関わらず、さらにハードルの高いイノベーションって言われても、コミュニケーションのないところでは怖くてそんなことできないですよね。

良質なネットワークをつくるための2つの法則

また、イノベーションを生むプラットフォームを創出するには、良質なネットワークを構築することがポイントになるのですが、そこには2つの法則があることに気がつきました。

1つめの法則は「システム品質の法則」です。僕はネットワーク業界でエンジニアをやっていたのですが、できたものとできたものをつないで、ネットワークにつないでテストする、ということをやるわけですね。当時、時間がなくて8割くらいできたものを、8割くらいできたものとつなぐという場面があったのですが、このとき何が起こるかというと、0.8×0.8=0.64くらいの品質のものができあがるんですね。さらにそこに8割くらいできたものをつなぐと、0.3くらいの品質になってしまう。

何を言っているかというと、少なくとも、たくさん人が集まればイノベーションが起こるかというと、そんなことないということです。下手をすると、0.8の人が50人集まって、限りなく0に近かったです、ということになりかねません。

ちなみに、分業は1.0×1.0×1.0=1.0だと思っています。とすると、オープンイノベーションが起こすためには、少なくとも、1.0以上のアイデンティティや熱量を持った人が集まらないといけないんですね。そこに0.8の人が入ってきちゃうと、今度1.0以上の熱量の人が集まらなかったりするので、1.0以上の人で集まるということが大事になってきます。これが「システム品質の法則」です。

そして、2つめの法則は「ミツバチの法則」です。

IMG_7510

昔、上司に「大阪が元気で、おもろいビジネスがあるのは、ぶらぶらしたやつがたくさんいるからや」と教えてもらったことがあったんですが、その言葉通り、昔の大阪ってぶらぶらした人がいっぱいいたんですね。

そういう人が「おもろいやつがおったで」とか「おもろい技術があったで」とか「あの店おもろいで」といった情報を持っていて、おしべとめしべをつなぐ役割を担ってくれていたわけです。そんな必要以上におしべとめしべをつなぐミツバチのような人がいるから、イノベーションの花が咲くんだと思っています。

イノベーションを起こすには、プラットフォーム自体のデザインが重要です。それをしないと集まってくるだけになってしまうので、押さえておきたいところではないかと思います。

西村:今のお話を伺って、蓑田さんはいかがですか? そうだなと思うところや、付け足したいことなどはありませんか?


IMG_7511

蓑⽥さん:1 つは、僕たちの現場も、どうやってモチベーションを上げていくかというのがポイントだと感じていて、モチベーションが⾼い⼈が集まることが、イベントや空間をつくる上でやっぱり⼤切なんだなと思ったということ。
それから、イノベーションを起こすところから逆算して、「モチベーションをつくるために、コミュニケーションをとって試⾏錯誤するところから始めているんです」と社内の関係者に話をしても、そのフェーズだとモノがないので、なかなか理解してもらうことが難しく、この状況をどうやって乗り越えるかなというのが⽬下考えているところなんです。
なので、イノベーションを起こすための順番が⼤切だ、という話は「そうなんだよな〜」という感想を抱きながら聞いていました。

⻄村:蓑⽥さんの感想について、⽵林さんはいかがですか?

⽵林さん:そうですね。新規事業が⽴ち上がるとき、あるいはかつて企業が元気だったとき、企業の中にはどんな⼈たちがいたかという話を、ちょっとさせていただきます。

あなたはどのタイプ? 起承転結型人材育成モデル

IMG_7514

「起承転結型人材育成モデル」というのを考えているのですが、「起」の人は、0から1のことを仕掛ける人材で、新しいことが好きなんですね。承の人は、「そのアイデアおもろいからやってみようや」という人。10とか100にしていく人ですね。「転」の人は、「それなんぼ儲かるねんとか、いつ儲かるねん」という、第三者目線でレビューしてくれる人ですね。そして「結」の人というのは、決まったことを最後までオペレーションして、やり続けてくれる人です。

この起承転結を企業の中でバランスよく配置するのが難しくて、往々にして、かつての事業で勝ってきた人が上にいくと、「転」の人の割合が増えてきてしまうんですね。この転の人は、新しいことをするよりもコストダウンして、地道にマーケティング広げて、という「成功パターン」でやろうとするわけです。

これは、どれが良い悪いじゃなくて、本来は「起承」を認めてあげて、時間がかかっても見守る度量がいるでしょうし、もっと言うと、この起承転結をさらに上から見ている経営者や谷町が大事になってきます。谷町が会社にいるのが一番よくて、2つぐらい上のレイヤーから「金を出してやる」と言われたらやりやすいですよね。

この「起承」を直属の「転」の上司が見ちゃうと「起承」の良さを潰しちゃうから、そこより上の、世界観を語れる人にお金を出してもらうのがいいだろうなと思いますね。

また、往々にして「起」や「承」の人というのは「変な奴」という扱いになって、だんだん力を発揮しなくなってきてしまうんですね。そして「転」や「結」の人ばっかり増えてくる。でも、「結」の人も重要で、「起」の人ばかりになると、会社が潰れるんですね(笑)。おもろいけど、モチベーションが高いのはいいけれど、お金にならへんやんと。

だからバランスが大事。「起」や「承」の人はある種新しいイノベーションが起こり始めると、別のことを考え始めて、興味をなくしていたりしますからね。「起承転結」の人材のバランスをうまくコントロールしながらラボなんかを立ち上げるといいと思います。

組織の中で起こるようなイノベーションを街で起こすには?

西村:ありがとうございます。では、このインプットを持って、街の話に入っていこうと思います。例えば起業家育成やコミュニケーションといった話も出てきていましたが、組織の中で起きているようなイノベーションを、どう街の中に持っていけるか考えていきたいのですが、榊田さんお話しいただいてもいいですか?

榊田さん: では、先日訪ねてきたアメリカ西海岸にあるポートランドの話をさせていただこうと思います。

IMG_7524

この街が実は、今アメリカ人が最も住みたい街ランギングのトップに君臨しています。そして、世界の多くの都市が、今ポートランドに注目しています。ナイキの本社やアンダーアーマーの本社、アディダスのアメリカ本社、ミズノといったスポーツアパレルと言われる企業のデザイン企画がポートランドに集結しようとしています。

IMG_7523

そこにあるイノベーションの秘訣を知るために行ってきたわけですが、結果的に私は7つのことを感じました。

自然志向が強いこと。人が集まる場所が町中にたくさんあって、人々が気軽に声を掛け合い、街全体にとても自由な雰囲気があること。カウンターカルチャーの気質が色濃いこと。利他・共生・共同型のものづくりの精神。都市の成長にアートが貢献していること。そして、クリエーターやアーティストといった「クリエイティブクラス」という人たちにとって居心地のいい、人的なつながりがあること。まちづくりに対する市民意識が高いこと。

本当に半端じゃなかったです。ほぼ毎週、どこかでタウンミーティングが開催され、この地域のあり方をどう開発するか、保全するべきかなど、行政だけではなく、NPOを介して市民参加型でダイアログを多用しながら行われます。ときにはコンテストの形式で、クラブでワインを飲みながら、この街をどのようにしていくかを話し合います。

クリエイティブ都市を目指すのであれば、みんなで参加して街のあり方を考えていくことが必要で、それにはお互いに場を通じて共有したり、アイデアを競う合うように出したりしながら、みんなの意識を高めていくこと、そういう風土があるということが条件なのではないかと思いました。

西村:ありがとうございます。では、塩浦さんに話をつなぎたいと思います。ディスカッションに入る前の自己紹介で、ニューヨークにある、人で賑わうブライアントパークと、ベルリンにある利用者の少ない公園を例に出していらっしゃいましたが、その違いはどこから生まれてくるんでしょうか?


IMG_7533

塩浦さん:僕たちは、「愚直なまでに街を⾒る」ということをやります。都市の中でイノベーションといったときに、フレームワークで考える⽅法はみんなよくわかっている。その後、やるかやらないかとなったら、街に出て歩くしかないんです。本当に歩くと⾒えてくる。

海外に視察⾏ったりすると、⼀⽇30,000 歩くらい歩くんですよ。都市計画だとか建築家だとか全部忘れて、なんでこんなところにこんな標識が⽴っているんだろう?というのを⾒るんですが、そうしていると、ここでイノベーションが起きている理由が⾒えてくることが多いんです。

とある超⾼級マンションを⼿がけたことがあったんですが、住んだことがないので、調べようということで、飲⾷店、パン屋さん、動物園などに⾏って、いろんなサービスを受けに⾏きました。⾼級マンションなのでコンシェルジュカウンターがあって、帰ってくると「おかえりなさいご主⼈様」と⾔われるわけです。直感的に「果たしてそんなことでいいのか?」と考えながら、いろんなところで⾷べたり、飲んだりするうちに、パン屋の⼥の⼦がカウンターの向こうで作業をしながら「こんにちは、ちょっとお待ち下さい」と挨拶してくれる感じや、カフェの店員さんが他の作業をしながら「いらっしゃいませ」と⾔ってくれる、そんな「ついで感」がちょうどいいのではないかという仮説が⽣まれました。

さらに、住⼈の⽅にインタビューをしたら、超⾼級のタワーマンションに住んではいるが、ステテコはいて⽸ビールを買って帰ってくることもあるし、そういうときに「お帰りなさいませご主⼈様」は少し疲れるいう声が聞かれ、これだと思いました。結果としてコンシェルジュカウンターを少し奥まらせて、コーヒーサービスをわざと反対側において、コンシェルジュの男性⼥性がふらふらと歩いているような空間モデルをつくったんです。

もちろんそれだけじゃなく、さまざまな施策は打ったんですが、今までにない、都市に対する住まい⽅のスタイルだと好評を博すことができました。今、空間の中におけるおもてなしだとか、銀⾏も、病院も、学校もそうですが、空間に対してどういうサービスをするかと考えたときに、「ながら」というのはキーワードだと思っています。

それからもう1 つ、ニューヨークのブライアントパークの話をすると、あの公園にある椅⼦って、とても軽い椅⼦なんですが、4,000 脚もの数を公園内にばらまいたんだそうです。

それで何が起きるかというと、動かせないベンチだとすごく限定的な使い⽅しかできないのが、動かせることによって多様な使い⽅が⽣まれるんですね。また、それをメンテマンが⼀個⼀個古くなったら直しているんですよね。直しているおじさんがその場にいると、さすがのアメリカ⼈も⼤事にしようとか、盗まないようにしようとなるんです。

このように、都市におけるイノベーションって、⼤きなシステムとか広告などフレームワークではなく、⽇常のちょっとしたことから起きるんだと思っています。僕たちの仕事で例えて⾔うなら、「芝⽣のある公園」をデザインするではなくて、「靴を脱いで楽しめる芝⽣のある公園」をデザインするというのが及第点、⽬指しているのは「靴下を脱いで楽しめる芝⽣のある公園」をデザインすることです。

靴下を脱ぐというのは素⾜になるということ。そこに⻑時間いたい場所であり、それはマネジメントと管理がしっかりしていなければそうなりません。加えて、それだけおもしろいこと、映画祭とかコンテンツもないといけない。通常だとそこでイベントやりましょう、⼈が集まりますよね、という順番になるんですが、⼈間のアクティビティから考えたほうが腑に落ちるんですね。

そういったものを徹底的に積み重ねた都市がポートランドです。道には⾄る所におもしろいものがあって、勝⼿に歩きたくなるようになっている。ふと曲がるとコーヒーショップがあって「気持ちいい〜」となる。そういったものの積み重ねで、都市の中にイノベーションが起こる場が⽣まれてくるんじゃないかということを、僕⾃⾝は毎⽇実感しているところではあります。

⻄村:ありがとうございます。では次は蓑⽥さんに聞いてみたいのですが、塩浦さんの話されたちょっとした仕掛けのようなことを、「Wonder LAB」でされていることはありますか?

今までと違う何かを入れることで、既存の最適を壊す


IMG_7512

蓑⽥さん:僕らは「Wonder LAB」をつくるときには、なるべくオフィスにない家具を揃えましょうというのを意識しました。オフィスって既存の仕事の仕⽅で最適化されているので、何か違うものを⼊れましょうね、ということをやっています。それは座り⼼地は悪いけれどちょっとおもしろいソファとかです。

116_2

そのときに⼀番苦労したのは、輸⼊家具など、ちょっとずつ違う物、普通のオフィスにない物を⼊れているので、決裁を承認する関係部⾨の⽅から問い合わせが来て、そのたびに⼿続きがストップすることになるわけです。なんでかというと、企業においては、経済的な合理性でという観点でオフィスの物を選ぶので、その枠から外れていると当然社内⼿続きで⽌められるわけです。

これはある意味正常なことです。で、僕がそういう部⾨の⽅にこれから新しい活動をする時に、余⽩があった⽅がチャレンジしたくなりますよね、という話をしても、既存のロジックを効率よく運⽤する⽴場にあると簡単にYES とは⾔えない。そこをどうやって突き抜けるかに苦労したのですが、でもそこがとても⼤事で、⼀個ずつ諦めていくと簡単に通っていくんですけれど、諦めちゃうと何のためにやっているのか分からなくなってしまう。

ちょっとずつの事例が積み重なると⼤きな違いになっていくので、社内のカルチャーの中で、諦めずにどうやってちょっとずつをいかに通すか、ということはとても⼤事なんじゃないかなと思いますね。

⻄村:「Wonder LAB」って椅⼦が全部違うんですよね。伺ったときに、これ注⽂したらとても⼤変だなと思ったんです。ひとつひとつ全部違うので、全部カラーリングなど変えて発注しなきゃいけないから、100%経理に⽌められるだろうなと。

蓑⽥さん:テーブルとかその他も、ほぼほぼ全部特注品なのですが、今までと違うことをするときに、ちょっと余⽩がある⽅が何か違うことができるよね、という「なんとなく感」が⼤事だと僕らは思っていました。

⻄村:それって、「絶対そうした⽅がいい」と思っていないと、そこを突破をしようとしないと思うんですが、何らかの確信はあったんですか? また、その確信ってどのように掴んでこられたんですか?

蓑⽥さん:いろんなコワーキングスペースを⾒せていただいたのですが、ちゃんと活動がワークしているところは、ディティールにも気を遣っているなという印象があったんです。ディティールで⼿を抜くって簡単なんですけど、そこをちゃんとやれるというのは、それをやれるだけの⼈間の体制があるということなので、やっぱりディティールも⼤事だよなと感じたのがひとつです。

もうひとつは、個⼈的な意⾒ですが、ちょっとした家具ひとつ変えられないのにイノベーションなんて起こせないだろうと。「それくらい変えられなくてどうするの?」という思いがありました。それは⾔い換えると覚悟ということになると思いますが、それがあったから、ちょっと前に進めたかなと思っています。

⻄村:「ちょっと」とおっしゃる背景には「もっともっと⾏きたかった」、という思いもあるんですか?蓑⽥さん:空間に関しては、検討できることは検討して、ちゃんと反映したという意味ではもちろん納得のいくものができあがりました。ただ、僕たちのゴールはアウトプットが出ることなんですね。場所があって、活動があって、活動に対していろいろ⾔われて、おもしろかったり、つまらなかったりして、アウトプットが出て初めてゴールなので、そういう意味では、最初のスタートラインには⽴ったところだと思っています。

西村:なるほど。では、塩浦さんにお聞きしたいのですが、先ほどのコンシェルジュの話も、普通じゃない提案をするじゃないですか? それを説明して理解してもらうプロセスが発生すると思うんですが、そのあたりはどうされているんですか?


本気でイノベーションを起こそうとするチームとしかやらない。

塩浦さん: 最初にお断りするのは、経営者としっかり話しがしたいということ。本気でイノベーションを起こそうというチームとしかやりません。それでもやりたいとおっしゃるのであれば、お話しをします。

そして、私たちと組んだときに、「アウトプットが何になるかはわかりませんが、それでも契約しますか?」と伝えます。普通は契約しないですよね。でもたまに奇特な方がいるわけで、理解してもらった前提を持って、スタートしていきます。

IMG_7534

僕の中では「似非正義の味方」という言い方をするんですが、前例主義やリスクをとらない人とは、僕の考え方では、1万年議論していても通じ合えないと思っています。僕のキャリアにはあと数十年しか時間がないわけで、そういう人たちといかに交わらないでイノベーションを起こすか、ということを考えています。

そして心がけているのは、僕たちはやっぱりデザイナーなので、かっこいいとか、美しいとか、圧倒的な現象をつくること。それでしか人間は変わらないと思うんです。僕たちがやっていることは、似非正義の味方と対峙することではなくて、圧倒的な現象を見せつけることなのかなと思ってやっています。

西村:ほぼ何をやってもいいという状況の中で、相当たくさんの選択肢から打ち手を絞っていっていらっしゃると思います。例えば、NADでされている東京メトロで行ったファッションショーなども、どこで「これでいこう」という確信を持つんですか?

塩浦さん:デザインの打ち手はたくさんあっていいと思っています。ファッションショーもそのうちのひとつなので、ファッションショーにこだわりがあるわけではないんですね。そんな中でファッションショーに行き着いた理由は、たまたま良いファッションプロデューサーに出会った、などの条件が揃ったにすぎません。

目的は、「電車は動くパブリックスペースである」と示すことなんです。いろんな鉄道会社さんもイベントをされてますし、僕がファッションショーをやって「二番手だね」とか言われることもあるんですが、僕は二番煎じでもなんでもいいんです。

「電車が動くパブリックスペースである」ということが、電車の関係者や都市生活者に届けばいいと思っているので、もちろん質にもディティールにもこだわりますが、一番かどうかには意味がないですよね。そこで行われるイノベーションや価値の転向に意味があると思っています。

西村:なるほど。では竹林さん。組織にイノベーションを起こそうと一番上が思っても、働いているスタッフがついてこなかったら進められないわけですが、組織として前に進めていくときのポイントってありますか?

組織にイノベーションを起こすためのポイント

IMG_7515

⽵林さん:これまでやってきて分かるのは、⼀番上と⼀番下はやりたい、変えたいということ。真ん中が変わらないだけなんです。真ん中を変えるためにあらゆる⼿段を使うわけですね。あと、燃えやすいところを探して、そこにどう⽕をつけるかという設計をしないと、パワーをかけても動かないので、真ん中をどう燃やすのかが⼤事だなと思っています。

先週、⽇本の巨⼤なIT メーカーの社⻑と話していたんですが、ある部⾨を垂直の組織から外して、「失敗してもいいからやれ」と明確にメッセージを打ち出したらしいんです。「失敗してもいいからやれ」とトップが⾔っても、全員がやるかといったらそうではありません。それなのにその社⻑はなぜそんなメッセージを出したのか、⾔われなくてもやる社員を守るために「失敗してもいいからとやれ」と⾔って、⼤義名分を渡しているんです。

⼤⼿⾃動⾞メーカーでも、電気⾃動⾞は垂直型の組織から外してつくっていたと聞いています。そのように、社員が動きやすい設計を上の⼈がしてあげるといいんですが、真ん中の⼈たちはそれまでの価値観でやっているから、変えたくないんですね。

これはいい悪いではなくて、これまで⽣きてきた世界で頑張って、より効率化してもらったらよくて、燃やす部分は異なる世界観の中にっておくのがいいというのが、質問に対する答えです。

それから、空間が⼈に与える⼒ってものすごくあるなと思っています。僕が東京にいたときに、社内でややこしい問題が起こると、その部⾨にいたトップから、「○⽉○⽇の⼣⽅の17:00 に○○商店街の○○の⼆階に集合」という指⽰がくるんですね。持ち物は、⾃分の飲みたいビールとおつまみと書いてあるんですね。

そこは組合事務所になっていて、朝まで使っても1,000 円とかだったんですが、そこに⾏くと、どんなややこしい問題でも2 時間以内で解決してしまいました。会社の中でディスカッションしているとみんな背負っているものがあって、会社という概念の中で⾃分の脳を働かせているから本質論になりにくいんです。

新会社を⽴ち上げたときにも、勉強会は事務所以外のマンションの⼀室でやってました。会社の中でディスカッションをすると、本来の⾃分ではなく、会社や組織に属している⾃分として話しをしてしまうんですね。

ところが場の空間を勉強会のマンションに変えると、ビールなんか飲みながらディスカッションをすると、やっぱり2 時間以内で解決してしまうんです。2 時間以上難しい話ができなくなってくるとも⾔えますが、本質論がでてくるようになるんです(笑)。

新しいサービスを⽴ち上げる時も、最初はそっちでやりました。そうじゃないと⾃分が持っている会社という空間の中だけで考えてしまう。⾃分がやりたい社会イノベーションがあったら、会社もその⼀つのツールなんですね。だから、会社というのを⿃瞰できるくらいの場を持っておくと、さらにおもしろいイノベーションが起きると思っています。

⻄村:なるほど。そういう、普段とちょっと違う空間を都市の中でつくるにはどうしたらいいですかね。ポートランドはいかがでしたか? 榊⽥さん。

普段と違う空間を都市の中につくるには?

榊田さん:ポートランドは徒歩20分圏内で、ほぼ生活に不自由しないようなものが揃うようにしようとしていますね。どうやったらイノベーティブになるかはわかりませんが、はっきりしている大切なことは、人を中心にまちを考えるというところ。

ポートランドの区画は、マンハッタンのそれの16分の1の大きさなんです。とても小さいんですね。30m歩いたら街角になる。人と人が交差する場が工夫して設けられている。それは、大きな道具だとか、大きな歩道ではありません。せまくてごちゃごちゃっとしているのがポートランド流なんですね。

うちの信用金庫もどうやってイノベーションを起こすかということを一生懸命やっているんですが、銀行というのはカチカチっとした組織なので、イノベーションってなかなか起こらないですよね。上の指示を待つだけの弊害ばっかりが出てきて、とりあえず壊すことから始めようと。

そこで、すべての会議をダイアログにしました。お客様への講演会もやめて、お客様ともダイアログをして、相互方向でのコミュニケーションを始めています。支店長会議もダイアログです。従来の会議は寝にきているようなものだったのが、画期的に変わりました。

また、研修をやめて、ワインとハンバーガー・ピザなどを飲み食いしながら、みんなで自由に話し合う「放課後キャンパス」という取り組みも行っています。最初にプレゼンテーターがいて、それを受けてダイアログをします。かたい服装も禁止です。ワインを飲みながら、Tシャツで話し合うと、普段と異なる個性がどんどん出てくるんですね。自分のバックグラウンドなど、みんないろんなことを喋って、なんとも言えない爽快感につながっています。

社内を変えるのは、最低10年かかると思っています。もし変わることができたら、コミュニティと目線を合わせられるような真のコミュニティバンクになれるのではないかと思いますし、それこそが私たちの社会に対する価値じゃないかなと思っています。

IMG_7500

西村:ありがとうございます。イノベーティブすぎて、榊田さんが金融機関であることを忘れそうになりますね(笑)。それでは、そろそろまとめに向かっていこうと思うのですが、最後に「オープンイノベーションを都市で実現するために、こういうことをしたらいいじゃないか」というコメントをそれぞれにいただきたいと思います。榊田さんからお願いできますか?


オープンイノベーションを都市で実現するための提案

榊⽥さん:やっぱり、世の中が変わり、従来の常識が変わっていっている中で、関係が希薄になって格差も広がっているからこそ、⼈と⼈の関係が深まったら、その先に新しい知恵やアイデアが⽣まれてきてくるはず。そのために、機械やロボットなども使いながら、⼈にしかできない領域を突き詰めながら、コミュニティやコミュニケーションを⼤事にできる世の中づくりをしていく必要があると思っています。

蓑⽥さん:エンジニアとしては、アイデアを具体化する場所を都市の中に持つことが⼤事だと思っています。具体化するという観点で場所を⾒たときには、パナソニックの⾨真という場所であればエンジニアというリソースがたくさんある。それと何かをくっつける事ができるし、最近東京に開設したパナソニックラボラトリー東京あればまた違うリソースがあって、くっつけることができる。具体化する部分を持ち続けるというのが次のステップかなと思っています。

塩浦さん: 僕の定義では、携帯がつながる場所はすべて都市だと思っています。つながっていなければ都市ではないので、都市に住むということは、オープンイノベーションを受け⼊れているということになるわけです。そうすると、都市=オープンイノベーションの場であると、まず思わなければいけないのかなと。

では、なぜ都市の中でノベーションを起こさないといけないのか考えると、このままではこの国が死んでしまうからですね。そうならないために、僕は、圧倒的なおもしろさとか、ワクワク感とか、かわいいとか、そういうものをつくっていく必要があると思っています。そして、それは個⼈の「I want」から⽣まれると思う。「もてたい」とか「⾦持ちになりたい」とか。それがないとイノベーションなんて起きるわけがない。そんな⼀⼈ひとりの「I want」をかき集めたときに、どんなイノベーションが起こるかというと、⾰命だと思うんです。

みんなが集まれば⾰命であるというわけではないんですが、みんなと「I want」を共有していくことで、それがみんなの関⼼になり、社会的なテーマになって、ドンと発射される、そんなイメージを持っています。

空間のプロとして提案したいのは、⼀番お気に⼊りの場所で、誰とどんな服を着て、何を⾷べて飲みながら、どんな会話をすると楽しいか想像すること。このパターンをたくさん持っている⼈が、これから強いんじゃないかと思うんです。そんな時空間をたくさんコレクションしていただくのがおもしろのかなと思いました。

⽵林:イノベーションというのは、頭の中では起こらないと思っていて、最後はやるかどうかなんですね。私、東京を314 に分けて全部歩いたんです。なんでそんなことをしたかというと、⾃動改札機を通ったユーザーに街の情報をメールで配信するしくみを鉄道会社に提案したことがあったのですが、そのときに「京都のやつに東京のことはわからんだろうと」⾔われて、むかっときて歩いたんです。

3 年半かけて、昭⽂社の地図を全部塗りつぶしました。これをして何が起きるかというと、鉄道事業者よりも街に詳しくなるんですね。東京には銭湯が当時1574 軒あったんですが、順番に回っていく。すると、街というのが肌感覚でわかってくるんですね。

つまり、実際にやってみるというのが⼒になっていくということなんです。都市空間の話をするのであれば、都市のことをどれだけ知っているのか。そして、⾏き着く最後は、⾏動するか、Do するかになってきます。頭で考えるTHINK はみんないっぱいするんですが、最後はDo するかどうかです。皆さんも「年中夢求」で、やっていっていただけたらと思います。

⻄村:それでは、パネルの時間はここまでにしたい思います。みなさんありがとうございました。

(編集:NPO法人ミラツク 研究員 赤司研介)