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「地域を元気にする視点」って? 都会と地方の多拠点で活動しているからこそ見える、地域の今と未来[ミラツクフォーラム2016]

フォーラム

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2016年12月23日に開催された、毎年恒例の「ミラツク年次フォーラム」。
一般公開はせず、いただいたご縁の感謝をお返しする会です。

26人の登壇者と10のセッションを行い、ミラツクと共に取り組んでくださった全国各地の方々、ミラツクのメンバーの方々を中心に、100人を超える多くの方に足を運んでいただきました。

セッション3では、田村大さんがモデレーターになり、渡邊さやかさん、筧祐介さん、黒井理恵さんと地域の未来について語り合いました。その様子をお届けします。

(photo by kanako baba

登壇者プロフィール
田村大さん
株式会社リ・パブリック 共同代表
東京大学i.school共同創設者エグゼクティブ・フェロー。2005年、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。博報堂にてグローバル・デザインリサーチのプロジェクト等を開拓・推進した後、独立。人類学的視点から新たなビジネス機会を導く「ビジネス・エスノグラフィ」のパイオニアとして知られ、現在は福岡を拠点に、世界の産官学を結んだイノベーション創出のネットワーク形成とその活用に力を注ぐ。
http://www.kidnext.design.kyushu-u.ac.jp/k2/
黒井理恵さん
株式会社DKdo 代表取締役 
北海道名寄市出身・在住。静岡県立大学卒業後、東京の出版社、企業PR・ブランディング企画会社を経て、2014年に東京の北海道人仲間と「北海道との新しいかかわり方を創造する」を企業理念とした「株式会社DKdo」を設立し現職。同年に名寄市にUターンし、道内の市民対話の場づくり、道北地域の観光・移住プロモーションのサポートをしながら、名寄市ではコミュニティスペース「なにいろカフェ」を運営。道内や東京などさまざまな場所でファシリテーターとして活躍中。
筧裕介さん
NPO法人issue+design 代表理事
博士(工学)。 2008年ソーシャルデザインプロジェクト「issue+design」を設立。 以降、地域課題・社会課題解決のためのデザイン領域の研究、実践に取り組む。 主な著書に『ソーシャルデザイン実践ガイド』(英治出版)、共著に『地域を変えるデザイン』(英治出版)がある。グッドデザイン賞、竹尾デザイン賞、日本計画行政学会学会奨励賞、Shēnzhèn Design Award (中国)、カンヌライオンズ(仏)など、国内外の受賞多数。
渡邊さやかさん
一般社団法人re:terra 代表理事
長野県出身。東京大学大学院修士。国際協力に関心を持ち、大学・大学院は国際関係論を専攻。ビジネスを通じた社会課題の解決の必要性を感じ、2007年に「IBMビジネスコンサルティングサービス(現IBM)」に入社。新規事業策定や業務改善などのプロジェクトに携わりながら、社内で環境や社会に関する(Green&Beyond)コミュニティリードを経験、プロボノ事業立ち上げにも参画。2011年6月退職。現在、(株)re:terra代表取締役、その他女性支援やBoPビジネスに関わる組織の理事や、岩手県女性活躍推進委員。2017年4月より慶応大学SDM博士課程。

東京と地域。多拠点で活動しています

田村さん今日ここにいらっしゃったお三方は、東京と地域、さやかさんの場合だと海外と、多拠点で活動されています。どんなところでどんな活動をしているのか、自己紹介からお願いします。

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黒井さんこんにちは。黒井理恵と申します。私は北海道の名寄市に住んでいます。北海道の北部で、旭川と稚内の中間ぐらいに位置する、人口約3万人の町です。2014年に東京からUターンしました。

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帰る時に、理想として「いろいろな5つくらいの仕事から毎月3万円ぐらいずつお金をいただいて、月15万〜20万円くらいで生きていけたらいいな、それがリスクヘッジにつながるな」と思っていたんですが、今それにけっこう近い形で生きています。

「株式会社DKdo」は東京に本社を置き、北海道の社会課題を東京にいる北海道出身者や北海道好きな人たちで解決していく、という取り組みをしています。取締役4人で経営しており、私以外は東京在住の北海道出身者です。

プロボノで北海道の課題解決に向けて動き、プロジェクトを通じて自分たちの能力を開発していく。北海道も元気になって、北海道出身者も成長していくという、土地と人がお互いに高め合えるような関係性を築いていきたいと思っています。具体的には、私の住んでいる名寄市の移住促進施策を東京在住者が考えたり、釧路湿原近くの鶴居村の観光プロジェクトを運営したりしています。

そのほかに、私は名寄市でコミュニティスペースを運営していまして、20〜40代の若手とイベントをやったりしています。収入源は主にファシリテーターと場づくりで、市民対話の場づくりやまちづくりのコンサルティング、企業向けにもやっています。よろしくお願いします。

筧さん「NPO法人issue+design」の筧と申します。僕は博報堂にまだ一応籍を置いているんですが、この法人を自分で立ち上げて、今100%の仕事をここでやっています。オフィスは神保町にあるのと、もう一つ、もともとこの「issue+design」が阪神淡路大震災から10年経った節目のプロジェクトからスタートしていて、神戸にも拠点があります。

さらに、2017年4月に新しい法人を高知に立てる予定で、東京と高知と神戸という3拠点で仕事をしています。高知のプロジェクトは、3年前から2年かけて、町の未来ビジョン総合計画に携わっています。約500名の住民に参加していただき、「これから10年、この町をどうしていくのか」を考えています。

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その流れの中で仕事づくりのプロジェクトも生まれました。もともと林業が盛んで、先祖が植えたヒノキが町の約7割を占める町なので、ヒノキをどう活用して新しい産業を起こそうかと。今、佐川町という人口約1万3千人の町にデジタルファブリケーションを作って、ヒノキとデジタルの工作機器を掛け合わせた、新しいものづくりにチャレンジしています。

僕自身、東京にいてこういう仕事をすることの限界を感じていて、地域に法人をつくってもう一歩踏み出して、地域の事業者にもなることをこれからやっていこうと考えています。

渡邊さん渡邊さやかといいます。私は東日本大震災の後に陸前高田に行き、そこでとれる椿油を使って化粧品を作り始めました。その結果、地域の人たちが椿をロゴにいろいろなプロダクトを作って一つのブランドになっていて、商品を作ったり、売ったりする時のお手伝いをしています。

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カンボジアでも活動しています。カンボジア人の女の子が起業家で、美容サロンで聴覚障害の女の子たちが働いています。また、起業家が大変なのだということもよくわかったので、アジアの女性起業家たちのネットワークもつくっています。アジアとアフリカの女性起業家を連れて久米島でイベントをしたり、日本の起業家がアジアで事業をする時のお手伝いやコンサルもしたりしています。よろしくお願いします。

誰のためのイノベーション?

田村さん最初に「誰のためのイノベーションなのか?」というところから話したいんですけど、僕が住んでいる福岡って、高島さんという若い市長が就任して、そこからスタートアップ都市宣言をして、「福岡はITスタートアップの中心地にしよう」と盛り上がっています。でも、ITスタートアップをやるんだったら、東京のほうが良くないですか(笑)?

筧さんやっぱりそうだよね。

田村さん東京のほうが人材やお金を出してくれる人がいっぱいいますから。でも福岡は盛り上がっていて、なぜ福岡でやるかというと、「だって福岡の暮らしって良いじゃないですか」という話になるわけですよね。でも、仕事だけを考えれば、東京のほうが良いのではないかと。

「じゃあ何のため・誰のためにイノベーションを起こしているの?」と。皆さんはなぜ東京だけではなく、他の地域とも関わりながら活動しているのか、動機も含めて知りたいんです。誰のために取り組みをやっているのか、それぞれお話しいただけたら。

黒井さんイノベーターはインパクトで変えていくイメージがあるので、自分がイノベーターだという認識はまったくなくて。それと比べると、地道すぎるし常に暗中模索で「とりあえずこれやってみよう」みたいな感じなんです。

東京に10年くらい暮らしていた人間がUターンすると、だいたい何をやってもイノベーションになるんですよ、良くも悪くも。「名寄市のために何かやりたい」と、自分が持っているスキルを投入したら、それはその町にこれまでなかったものなので、イノベーションになったという感覚ですね。

田村さん東京ではできないことってありますか?

黒井さん2016年の夏、地域の人たちを巻き込んでお祭りを20年ぶりに復活させたんです。そういうことは東京じゃできないですよね。東京にはものすごいクオリティのイベントのプロがいるので。
あと、山や川などの自然がらみのことや、地域や人と深くつながって何か起こすことは東京だとやりにくいと思います。東京だと個人でも生きていけるし、多くの人は住んでいるところと働く場所が違うので、住んでいる町で何とかしようとはならない。名寄などの人口約3万人の町だと、仕事でもプライベートも同じ場所なので、常に同じ場所のことを考え、行動していくことになります。自然とつながりも濃くなりますよね。

お金が町で滞留していくには

田村さん筧さん、高知との馴れ初めはどんな感じだったんですか。

筧さん町長が会いに来てくれたんです。佐川町の小・中を出て、高知の高校を出て東大の建築学科に進学した地元の有名人で、3人兄弟の3人とも東大に行った人で。新日鉄に勤めて、そのあと自分の建築事務所を奥さんの地元の静岡でやっていたんですが、その頃のうちの町がひどくて、町の人が町長になれる若手を探していて白羽の矢が立った。

彼は「地元のためにこれから20年生きよう」と戻ってきて、町長選挙の公約で言ったのが、先ほども話した総合計画です。「町の10年のビジョンを町民たちとつくる。10年かけて俺はこの町を立て直す」と言って、圧勝で当選されて。そこで、総合計画を共につくるパートナー探しをするため、いろいろな本を読んでいろいろな人に会いに行って、僕のところにも会いに来てくださった。妙にウマが合ったんです。

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田村さん運命的な出会いですね。そこで発見した可能性はあったんですか。

筧さんさっきの田村さんの「福岡でスタートアップするのは意味がないのでは」っていう話、なるほどなと思って、スタートアップと地域にどういう関係があるのかなと、ちょっと今書いてみたんです。

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横軸は、スタートアップの時の素材が地域の中にあるかないか。普遍的なものなのか、外にあるのか。ITのスタートアップって基本的に地元のものは関係ないじゃないですか。

縦軸は、市場が地域なのかいわゆる都会などの外なのか。ITのスタートアップは、正直あんまり意味ないなという気がしなくもないです。東京のほうが人に会いやすいし、お金を集めやすいのはその通りだとは思います。

でも生活というか、貨幣経済ではないところで得られるメリットがあって、佐川町におしゃれな雑貨屋が1軒あるんですけど、いいものが並んでいて、100キロ圏内くらいから女性たちが来てガンガン買っていくんですね。

地元のものを使った食も、外から持ってきたものも含めて、地域の市場はプレビューが非常に少ないので、頑張れる人にとっては、東京で戦うより絶対的に勝てるんじゃないかなと思っています。

一番難しいのは、地域の資源を外で売ること。例えば、農作物を使った加工品を開発して、東京や海外の百貨店で売るビジネス。これができる存在が地域にある程度いないと外貨を稼げないので、お金が回らないんですよね。そういう人材が地域に生まれて、ある程度お金が入ってくれば、お金を地域で使うような店が増えて、お金が町の中に滞留していく。

でも、稼いだお金でナショナルメーカーの住宅メーカーで家を建てて、日用品はイオンで買う、みたいなことになってしまうと、お金は外に出ていって町の中に滞留しないんですよね。だから、まずは外から稼いでこれる人が必要で、次に、町の中のサービスをサポートする人、例えばいい家をつくる工務店や素敵なデザイナーが必要。そこがうまくつながるようなことをやりたいなと今考えているんですよ。

黒井さん市場が外で素材が中にあるのが一番難しいと言っていましたけど、そういうプロジェクトはけっこう多いですよね。どうして一番難しいところでやっているんだろう……と今思いました。だからうまくいっていないんだなと。

田村さんさらにウルトラCがあって、地方の経産局がやり始めているのが、「ローカルクールジャパン」という地域のものをパリなどの海外に売りに行く活動。これはさらに難易度が高いだろうなって感じがあるんです。

渡邊さん私の場合は、「ハリウッド化粧品」さんと一緒にできていることが続いている大きな要因だと思っています。一緒に売ってくれる存在がないと、やっぱりなかなか地域の中の資源を使って外で売るって難しいです。

そこをみんな目指すじゃないですか。それは、価格が合わないからなんですよね。手仕事で時間をかけてつくると、どうしても高くなっちゃう。そうすると地域の人たちって、例えば1,800円のハンドクリームは高くて買わないから、市場を東京や海外に求めてしまう。アジアの企業はほとんどそうですよね。

5年で市場を1億円にした栗ビジネス

田村さん素材はあって市場が外、というのが難しいスポットではあるんだけど、実はそこに潜在的に地域が持っている力があるんじゃないのかなと思っていて、うまくやれば商売が成り立つんじゃないのかという気もしています。

筧さんブランドやプロモーションの話ってかなり限界があって、地域でつくったものをブランディングで価値を上げて、付加価値をつけて東京で売っていくモデルって、そんなにうまくいくわけないですよね。よっぽど突出した何かがない限り。

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それより比較的できるんじゃないかなと思うのは、内側の、生産とか良いものをつくるところのイノベーション。まずいい素材がいっぱいあることはもちろんなんですけど、そこにちゃんと手をかけて、ニーズがある形で世の中に出すためにひと手間をかけている人が全然いなくて。

高知の西部にある四万十町には、「四万十ドラマ」という栗やお茶、ヒノキなどを使ったおもしろいものづくりをしている会社があるんです。代表取締役は農協出身の畦地履正さんで、この方が素晴らしいんですよ。今、町の栗ビジネスを仕掛けていますね。栗を使った渋皮煮や栗きんとんを伊勢丹などに並べていて、この5年ほどで1億円ぐらいまで市場を大きくした。

まず何をしたかというと、収穫できる栗のサイズを大きくしたんです。もともと四万十町の栗は一般的なサイズよりも1.1倍ぐらい大きかったんですって。でも、岐阜の栗の剪定師から「葉をたくさん落とすと栗に栄養がたまって1.5倍ぐらいの大きさになる」と聞き、それをこの5年ぐらいやっているんです。

そうすると同じ木でも大きくなれば収穫量が変わりますよね。さらに、それでつくった大きな栗くりきんとんが伊勢丹で1個800円で売れるという世界がその先にあった。今は栗農家を育てて、栗剪定師の仕組みもつくって、「これからの10年でそれを10倍の10億にする」と言っているんです。

意外と、内側に資源はいっぱいある。資源の本当の強みを見つけて、そこと市場がつながるポイントを真摯に考えることができれば、勝てるんじゃないかと思いますね。

渡邊さんおもしろいですね。陸前高田でこんなことがあったんです。漁師さんがこれまで、市場に出すもの・家で食べるもの・捨てるものと分けていた魚介類で、捨てられていたものが外の人から見ると、「いやいや、それ加工したら使えます!」というものだったんです。それで今まで捨てていたものを佃煮にして市場に出すことが始まりました。

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漁師さんからすれば「こんなの食えたものじゃないよ。くださいって言われてもお金払ってもらうなんて申し訳ない、持ってってくれ」というものだったけれど、「あなたが時間をかけて獲った、これを売ってください」と伝えると、少しずつ価値に気づいていくんです。「味は変わらない」と言われれば、「そういえばそうだった」と。

「それには価値がありますよ」と、外からちゃんと見てあげる。そこに目を向けないと、おそらくずっと捨てられていた。だけど現場で漁師さんと一緒に作業したことで、ようやく気づいたそうです。

気づいた人は、それまでに2年かかったんです。2年かけて商品にしたのはすごいと思うし、生産のほうに目を向けると新しいものが生まれるのかと。

筧さん前にさやかさんの話を聞いて、目の付け所とつながりが上手だなと思ったのは、「ハリウッド化粧品」ってナショナル化粧品メーカーに仕入れてもらって、商品をつくってもらい、売ってもらっていると。でもそれって、ぶっちゃけ儲からないじゃないですか。ナショナルメーカーで売ってもらっても、椿オイルを仕入れてもらえる値段はたかが知れているので。

ただ、そういうことがありつつ、町で直販すると6割くらい利益が出て、一方では利益があまり出ないけど、一方で利益が出るという売り方の事業モデルを丁寧にやっていらっしゃる。でも、そうやって頑張るのは、あんまりかっこよくないみたいな文化がちょっと地方にはあって。

さっきの四万十町の話も、伊勢丹で栗きんとん売っても、実は大して儲からないんですって。儲かるのはふるさと納税やネットでの直販だそうです。一方では自分たちがつくった商品に高い利益率をのせて売るモデルをちゃんとつくって、さらに伊勢丹にも並んでいることに非常に意味があるという。販路をちゃんと考えながら売る、ベーシックな工夫をやることのほうが、ブランディングより大切なのではないかと最近思っています。

田村さんハイブリットですね。中と外を組み合わせることによって、両方に効果をもたらすみたいな感じ。地域では、ちょっと商売っ気があって、1憶、10億とかってなると「あの人はガツガツしてるね」みたいな話になるんですか。

筧さんなります。やっかみとかもありますし。

田村さん内の人だと特になりますよね。もともとはガツガツしていない人たちだと思うんですけど、そのあたりの“動かなさ”みたいなところって、どうですか。

渡邊さん悩んできたこの5年間なんですが、商圏の大きさもビジネスの仕方も、東京と陸前高田でまったく違ったわけです。そういうところに私が入って、さらに「ハリウッド化粧品」が後ろにいるとなると、一時期やっぱり限られた資源がなくなっていく状況が生まれ、そこは反省しました。

ただ、私が今も続けていられるのは、東京と現地を行き来するなかで、現地側にも、東京やビジネスのことを分かってくださる人がいて、クッションになってくれているんです。その存在がすごく大事だなと思って。

単に大きな会社が入って、「原材料ください」って言うと、その地域のそれまでのエコシステムや社会資本が崩れてしまう。そうなると、地域は長く生きないといけないから、いくつかのクッションを持って地域の人とかかわり合いながら事業をゆっくり育てる人が要る。それもやりつつ、一方では伊勢丹とかでも展開させていただいた、この両方を行き来する存在が、内と外を徐々にグレーにして繋げていくんだなと。

筧さん時間軸が違うから、早くビジネスにするのは無理ですよね。そういう意味で戦うのは結構しんどい。だから僕はその時間軸が違うところを、助成金や補助金がちゃんと支えるのはいい士気になるんじゃないかと思っています。

地域で事業をするんだったら、それが回るような仕組みをつくって、銀行から融資してもらったほうがいいという考え方もあると思うんですけど、東京の大手資本と同じ戦い方では戦えない。そこをちゃんと支えてあげるのが行政の役割かと。

黒井さん東京に売っていくのがメインになると、東京の貨幣経済に呑み込まれちゃって、高く売らなければならないみたいな話になるんですよね。あくまで中の人たちに地元の価値をわかってもらうために、外で売る感覚です。東京に売れれば価値が高まる。

若者や担い手不足の問題を解決する

田村さんどの地域にも共通して、若者や担い手不足の問題があると思うんです。2015年の企業の倒産件数に対して、休業廃業件数は3倍くらいあるんですよね。儲かってる会社なんだけど担い手がいなくてたたむっていう会社。それが実はいいビジネスチャンスだという考え方もできるんじゃないかと思っているんですが、どう思われますか。

黒井さん今私がやっている、北海道の課題を東京の人たちが解決する会社では、東京の北海道人コミュニティとしてfacebookグループに100人くらいいて、そこから10人以上はUターンしているんです。北海道の情報に触れる機会が増えて「帰りたいんだ」と気づいて、帰っている。

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帰りやすくなるような仕組みや、「帰ってきたら楽しいよ」という雰囲気づくりが必要なんだろうなと思いますね。今まで帰ってこなかった理由って、親が「こんな田舎にいてもしょうがねえぞ、外に出て行け」って呪縛のように言い続けたことが大きくて。

でも一方で、移住やUターン促進のイベントが東京で増えて、ちょっと気になっているのが、「地域活性っていいよ」と、きれいでかっこいい形でショーケース化されていることです。 すごい成功例をショーケース化することで、イノベーターって特別な人にしかなれないと思っちゃうような。そしてそれらのショーケースの見せ方が、なんとなく一過性のムーブメントのような雰囲気もあって。本当は、地域には小さくて地道なイノベーションもたくさんあるんですよね。

筧さん若者、佐川にも全然いません。片手で数えられるんじゃないかな。50、60代以上でおもしろい人探したらいくらでも見つかりますけど、20代から40代前半で、「この人と一緒に仕事したら楽しいだろうな」と思えるような人って、3年通っていますけど、片手くらいですよ。

要は、地域に残っている人はこもっていたりとか。これってもう、国や地方がこの10年20年やってきたミスの結果じゃないですか。だからどうしようもなくて、でもやれることは次の二つかなと思っています。

一つは、これから10年先、今の小・中学生が大学に行く時に「自分は大学に行っても戻ってくる」と思えるような教育を施せるかどうか。海士町の「島前高校魅力化プロジェクト」がいい例です。すごいですよね、海士町。10年経たないと結果が出ないので、今すぐにでもやらないと10年後も変わらない。

あともう一つは、佐川町では「さかわ発明ラボ」というデジタル工作機器の工房を運営していて、地域おこし協力隊の募集や面接も全部僕らでやっているんですけど、ものすごい数の応募があります。優秀な大学を出て四国に来たこともないような子が、あまり躊躇せずに、新卒で佐川に来てくれることが普通に起きていますよね。

僕らの世代では、就職でそういうことは考えられなかった。確実に時代が変わっていって、優秀な若い世代でそういう価値観の変化が起きているので、これは逃しちゃいけない。ここをちゃんと捕まえて、この10年、20年の負債をなんとか取り戻すしかないっていう感じはありますね。

地域に若者を呼ぶための工夫

田村さん地域おこし協力隊の人たちが3年やって、その地域で定着する割合って極めて低いじゃないですか。地域で起業する人は数%だそうですけど、何が難しいんですかね。

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黒井さんさっきのイノベーションの話とは少し矛盾するかもしれませんが、「起業家」となると全人口の数%しかいないから、地域おこし協力隊も同じだと思うんですよね。今、地域おこし協力隊がここまで一般化して、一つの町に10人以上いるような町もでてきたら、その中から一人ないし二人かな、起業する人は。街に変化や新しい考え方や動き方を生み出す人は多くいますが、起業して経営者になるというのとはまた次元が違うんでしょうね。

ただ起業しないとなった時に、「起業しないけど地域で就職しよう」となるような土壌はつくられていない。それをやっていないのは、行政と町の人たちの責任も大きいと思います。「田舎だったら起業できるかも」と思って来た人に、「能力が足りなかった、じゃあ帰ります」とは思わせないように。「起業はできなかったけど、この町が好きになっちゃったから残ろう」と思わせるだけの魅力が、町と人と土地になかったということかなと思います。

田村さんそうか。ちょっとそれは残念な話ですね。

渡邊さん起業を目指している地域おこし協力隊は意外に少ないんだろうな。この間久米島に行って、久米島は「誰でもいいから来てください」という募集はしていないんですよね。「久米島にはこういう能力とこういう能力が必要です」と、テーマを狭めて役割を提示しているんですよ。

その結果、自分の能力を発揮してから帰る人もいるし、発揮できたからここに僕は求められていると思って残る人もいる。うまい使い方だと思います。

もう一つは、起業する時に、起業のテーマを見極めるって難しいことなのかもと思っていて。遠野などで展開されている「Next Commons Lab(ネクストコモンズラボ)」を主宰している林篤志くんは、テーマを絞って、かつそこに地域のメンターをつけているんです。そこまでお膳立てすると、来たい人がいっぱいいる。でも何にもないところに来て起業してくれって言うと、応募してくる人はほとんどいない。それが日本人の気質なんじゃないかって思います。

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2020年以降の未来を見つめる

田村さん最後に、2020年に向けたことをお聞きしたいと思います。2020年に向けて東京にいろいろなものがやってくる一方で、地方創生が反転していくと思っているんです。2016年までは「地方創生加速化交付金」がついていたんですけど、2017年からなくなって、自治体の情勢自体もシュリンクしていくステージに入る。ある種の地方創生ブームが、そろそろおしまいかなと。

東京にしても地方にしても、みんな2020年までのことは考えているんだけど、その後のことって全然考えていない気がしています。今、何をやっておくべきなんですかね。

黒井さんお祭りも復活させて、対話の場やイベントなどいろいろやっていますが、正直いって暗中模索で、「2年でまだここなんだ……」っていう感覚なんですよ。やっぱりまちづくりは10年かかるのかなって思います。そう考えると、何でもいいから始めたほうがいい。うまいやり方やアドバイスなんて、できないです。

現場にいると、進化か退化かの軸じゃなくて、海に落ちて深海にいるような感覚なんです。どっちが海面でどっちが海底かもわからない。もがきながら気づいた段階で、「あぁこっちが上か」って進むしかないような気もしています。もうちょっとカッコよく前に進めたらいいのにとも思うけど、進めない感じ。がむしゃらにやるしかないっていうのが、今の感覚で。

田村さんこの間、有田焼の産地に行って、「この蓄積はすごい」って思ったことがあって。人々の生活にしみこんでいて、一般家庭が有田焼のタイル張りだったりするわけですよ。それにみんな可能性を感じていないのが歯がゆい気持ちもしていて。

渡邊さん私は、その地域の人が幸せそうに生きていることが根本だと思います。ブータンの住民たちは「この国の歴史はこうなっていて、ここに山があって、なぜ自分がここにいるか」を理解しているんですよね。「だから僕はブータンにいつづけて、伝統的な衣装を着続ける」と誇りも持っているし、過去と同時に未来を見ているんです。

久米島でも、「ここに海があって土があり、それに生かされているんだ」と感謝をしていて、飲みながら久米島のプライドを語っているんですよ。それはこの人たちの幸せなんだなと思ったし、そこに戻っていくことは、東京にはできないことかもしれない。地域らしさを残しながら、その地域に住んでいる人が幸せそうにしてると、帰ってくる人たちがいるんだと思います。

田村さんありがとうございます。皆さんがいろいろな地域で活動しているように、今後地域に絡んでいく人が増えたらいいなと思います。お三方、今日はありがとうございました。

小久保よしの 編集者
フリーランス編集者・ライター。編集プロダクションを経て2003年よりフリーランス。担当した書籍は『だから、ぼくは農家をスターにする』高橋博之(CCC)、『わたし、解体はじめました ─狩猟女子の暮らしづくり』畠山千春(木楽舎)など。 当サイトの他、雑誌『ソトコト』やサイト「ハフィントンポスト」などの取材で全国を駆け回り、東京と地方の行き来のなかで見えてくる日本の「今」を切り取っている。「各地で奮闘されている方の良き翻訳者・伝え手」になりたいです。
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