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地域と都会。人と人。私たちが進めている「共創」の景色

シンポジウム

IMG_1023(画像提供:富士通株式会社)

2017年3月16日、地域や場づくりに関わっている、「株式会社ロフトワーク」の林千晶さん、「NPO法人issue+design」の筧裕介さん、「株式会社ウエダ本社」の岡村充泰さん、「富士通株式会社」の高嶋大介さんの4名に集まっていただきました。

会場は、「富士通株式会社」が六本木にオープンさせた共創プラットフォーム「HAB-YU(ハブユー)」。トークのテーマはずばり「地域と共創」です。それぞれの現場で、どのようなことを感じているのでしょうか。

まず前半でそれぞれの活動について一人ずつ話していただき、後半はミラツクの西村勇哉のファシリテートでディスカッションを行いました。

登壇者プロフィール
林千晶さん
株式会社ロフトワーク 共同創業者・代表取締役
1971年生、アラブ首長国育ち。早稲田大学商学部、ボストン大学大学院ジャーナリズム学科卒。「花王株式会社」を経て、2000年に「株式会社ロフトワーク」を起業。Webデザイン、ビジネスデザイン、コミュニティデザイン、空間デザインなど、手がけるプロジェクトは年間200件を超える。2万人のクリエイターが登録するオンラインコミュニティ「ロフトワークドットコム」、デジタルものづくりカフェ「FabCafe」、クリエイティブな学びを加速するプラットフォーム「OpenCU」を運営。森林再生とものづくりを通じて地域産業創出を目指す官民共同事業体「株式会社飛騨の森でクマは踊る(通称ヒダクマ)」を岐阜県飛騨市に設立、代表取締役社長に就任(2015年4月〜)
筧裕介さん
NPO法人issue+design 代表理事
1998年、「株式会社博報堂」入社。2008年、ソーシャルデザインプロジェクト「issue+design」を設立。以降、社会課題解決のためのデザイン領域の研究、実践に取り組む。代表プロジェクトに東日本大震災支援の「できますゼッケン」、子育て支援の「日本の母子手帳を変えよう」他。主な著書に『ソーシャルデザイン実践ガイド』(英治出版)など。グッドデザイン賞、竹尾デザイン賞、日本計画行政学会学会奨励賞、カンヌライオンズ(フランス)など、国内外の受賞多数。
岡村充泰さん
株式会社ウエダ本社 代表取締役社長
1963年、京都市生まれ。 1986年、繊維専門商社である「瀧定株式会社」に入社し、ヤングレディースの服地部隊で企画販売を担当。1994年、独立し「有限会社エムズカンパニー」設立。1999年、長年の赤字の本業建て直し役として「株式会社ウエダ本社」の非常勤取締役に就任。2000年、同社の代表取締役副社長に就任し、リストラクチャリングを本格化。この年同時にIT業界との連携のため、「クニリサーチインターナショナル株式会社」の非常勤取締役に就任。2002年、「株式会社ウエダ本社」代表取締役社長に就任。2003年、子会社である「ウエダシセツ株式会社」を統合し、現在に至る。2008年よりイベント「京都流議定書」を毎年開催している。
高嶋大介さん
富士通株式会社 総合デザインセンター チーフデザイナー
富士通総研 実践知研究センター 研究員
大手ゼネコンにて現場管理や設計に従事後、2005年に「富士通株式会社」入社。ワークプレイスやショールームデザインを経て、現在では企業のワークスタイル変革や自治体の将来ビジョン、地方創生のデザインコンサルティングなどを担当。「社会課題をデザインとビジネスの力で解決する」をモットーに活動中。「HAB-YU」を軸に人と地域をつなげる研究と実践を行う。富士通グループは、大田区の「FUJITSU Knowledge Integration Base PLY(通称PLY=プライ)」や、浜松町の「FUJITSU Digital Transformation Center」など、「共創」の場を広げている。

最終的に「お客さんとの関係をつくる場所」

西村今日は4人の方にお越しいただきました。まず富士通の高嶋さんから、「HAB-YU」の取り組みを伺おうと思います。よろしくお願いします。

高嶋さん皆さん、初めまして。私はゼネコンで建築の仕事をしたあと富士通に移りました。はじめは空間デザイン・サービスデザインをしていましたが、地域の方に広がっていき、地域全体の美観づくりをしていました。今はこの「HAB-YU」を担当しています。

「HAB-YU」は、2014年9月にオープンしました。デザイナーを中心とした「共創」による新たな価値づくりやさまざまな課題発見・解決に取り組む「場」であり、「HAB-YU」とは「活動」の総称です。

富士通という企業が共創にてどんな価値を創れるのか、2年は実践と実験の繰り返しでした。

やってみて気がついたのは、人材育成が重要だということ。例えば、新しい図書館サービスをつくっても、実際にそこを使う司書たちが育たないと、そこは普通の図書館になってしまうんです。

だからこそ、自分たちのサービスがキチッとお客さん届くよう、人を育てないといけない。そこにいる人たち、使う人を育てることも大切だと気がつきました。

また「HAB-YU」では六本木と地方をつなぐ活動もしています。地方の人は、都会の人たちをターゲットにしていることが多いと思います。でも、都会の人たちのニーズがわかっていないことが多い。そこにミスマッチが起きるのではないかと思っていて、都会のニーズや思いを地域に伝える交流の場としても使っています。

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そして最終的には、「HAB-YU」は「お客さんとの関係をつくる場所」になるのかなと思っています。接点をつくるだけではなく、いろいろな方と対話をしながら、ここで生まれたナレッジやアイデアを溜めて、蓄積したものを活かしていくようにしています。

いろんな方が「HAB-YU」を紹介してくださり、富士通で出会う以外の方たちとの接点を持てています。ある意味、今日のこの場があるのも、「HAB-YU」があるからだと思っています。

DSC_9964「HAB-YU」でのイベントの様子。(画像提供:富士通株式会社)

あとは、港区から「何か一緒にできませんか」という話があり、地域コミュニティに関わる人たちの育成もしています。

おもしろいのは、港区在住または在学の方を対象にしているんですけど、その中から自発的な人たちができてきて、自分たちで地域を変えようとしていることです。

テレビ番組で『はじめてのおつかい』ってありますよね。あれをやっている感じです。お子さんのいる方は想像がつくと思うんですけど、都会では怖くておつかいさせられないんですよね。

アークヒルズで毎週土曜にマルシェが開かれているんですが、マルシェって限られた環境で比較的安全ですし、生産者と消費者を直接つなぐところも親子との親和性が高いかなと思い、マルシェでおつかいをするというのをやっています。これが大好評で、おもしろいドラマをつくっているようなんです。

その他、この場を使って港区の人と活動もしています。オープンイノベーションってつながる人がいない限り生まれないと思っているので、人と人がつながる機会づくりもしています。

西村港区の話、すごくおもしろくて、マルシェに交渉に行って、子どものおつかいをやって、「よかったなら、またやろう」とやっているうちに、広がっていっているんですよね。

多様性やモチベーションを生み出す場を増やす

西村では2人目。「株式会社ウエダ本社」の岡村社長です。よろしくお願いします。

岡村さん岡村でございます。京都で今年79年目を迎えた会社です。もとは文具卸から始まった会社ですが、倒産の危機があり、大変化をして、オフィス向けディーラーとして「働く環境」をなんとかしようと、「働く環境の総合商社」として展開しています。

よく「会社名がウエダで、どうして岡村なんだ」と聞かれるんですけども、母方の祖父が創業した会社で、家業なんですね。私は弟でしたので、継ぐ前提はなく、繊維専門商社の「瀧定株式会社」に入社しました。

30歳で独立しまして、独自性を創る為に、英語もろくにしゃべれないのに貿易をやって、商社に売り込んでいくなかで発見がありました。海外から商品を持ち込んで商社に出入りしていると、日本は流通が縦割りになっていて、日本の商品はいいものであっても、流通で詰まっていて売れていないという場面に出くわすのです。それを違う業界に、企画を考えて展開するだけで売れるので、その事から、4社ほどと契約してその営業代行をやっていました。

そのあと、家業の「ウエダ本社」が倒産するかもしれない、という状況になって相談がきて、潰れかけた会社に入らざるを得なくなり、今に至ります。

私は京都生まれで京都人なんですけど、ずっと「京都が嫌い」でして。この中で京都の方がどれだけおられるかわからないんですけど、京都人好きですか? イメージ、あんまりよくないでしょう(笑)。腹が黒いとか、YES・NOがはっきりしないとか。私も実はそう思っていまして、そういうところが嫌いだったんです。

どうしたら潰れないか、会社のことをいろいろ考えたとき、シンプルに言えば、役に立たないから消えるんだろうなと。世の中で役に立つ存在を目指さなあかん、と考えました。我々のキーワードは、やはり「京都」と「オフィス」やなと、存在価値をつくるため、この2つに軸足を置こうと思いました。

まず「京都」を俯瞰したときに、京都には数値化されない資産が結構あるなと思いました。家元がたくさんおられたり、職人技、宗教、教育なども本来は数値化されない価値ですね。考えてみれば、それって日本がもともと持っていた価値で、そういうことを再発見・再発信していくべきじゃないかなと思いました。

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次に「オフィス」を俯瞰してみると、いわゆる日本のオフィスは人を管理しているようで息が詰まるな…と思いました。人にスポットを当てて、人の価値を出していけば、自社の存在価値をつくっていけるんじゃないか、と。

そこで人に注目し、多様性やモチベーションを生み出す場、働く人が生き生きとする、人を活かす企業を増やしていくことを目指しています。

京都は暗黙知だらけなんです。腹が黒いとかYES・NOがはっきりしないのが嫌だったんですけど、考えたら外国人が日本人を評価するときにも同じことを思っているんですね。「そうか。京都って日本の縮図で、よくも悪くも古き部分が残っていて、そこにこそバリューがある」と考えました。それで、「京都流議定書」というイベントを毎年開催していまして、今年で10年目になります。

2015_day3毎年3日間開催されている「京都流議定書」。(画像提供:株式会社ウエダ本社)

会社は五条通という、国道1号線沿いにあります。南北両側にビルがあって、南側の古いビルを全面リノベーションしました。3階から上はバス、キッチン、トイレ付のオフィスになっております。地域食堂ということで1階にカフェを入れ、近所の人も食べに来れるようなスペースにしました。

このビルが、雑誌の五条通特集のトップに載ったんです。五条通は京都市内では珍しい片側4車線の車の通りが多いところなんですけど、人の通りはなかった。「このビルがどんどん町を変え始めていっている」と、書いていただくことができました。

ueda-bldg02株式会社ウエダ本社の登記上の本社がある南ビル。北ビルもある。(画像提供:株式会社ウエダ本社)

イベント、リノベーション、オフィスのことをやっていますが、実はやっていることは同じで、人それぞれのよさを発揮する環境をつくること。そういうつながりが価値を生むことを証明したいと思っています。

そんな目に見えない価値を生み出していけば、日本の強みになると思いますし、そういうことを活かした企業運営や働く環境の運営をやっていきたい。ひいてはそのことで日本を変えていきたいと思っています。ご清聴ありがとうございました。

拾う神様がいっぱいいるのが「共創」

西村ありがとうございました。次は「株式会社ロフトワーク」の林さんです。年に1回ぐらいお会いして、ご飯を食べる仲なんですが、やっていることをちゃんと聞いたことがなくて(笑)。お願いします。

林さんこんにちは、林です。今日は「共創」がテーマで、最近よくいわれている言葉ですけど、これって何なのでしょう。

みんなが同じものをほしがり、同じものを捨てていたら社会ってうまくつながらないですよね。でも誰かが「いらない」といったものが、誰かにとっては「こんなものがほしいの」ということもある。私は、不思議なものをほしがる神様がいっぱいいるのが、楽しい共創空間じゃないかなと思っているんです。

捨てる神様と、拾う神様。それもいろんな種類の拾ってくれる神様がいっぱいいるのが「共創」であり、多様性かなと思っていて。

私は「株式会社ロフトワーク」を経営していて、自社事業として「FabCafe」というものづくりができるカフェも経営しています。ヘンテコなものをほしがり、ヘンテコなものをつくり、っていう変な拾う神様がいっぱいいるところです。

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例えば、台湾の会社が、「IoTの時代なので、スマートフォンでコントロールして野菜を育てる、水耕栽培の機械をつくる」と言った。私は、飛騨で林業の事業もしているので木を売りたいという思いがあって。「FabCafe」にいた人たちに意見を聞きながら、木を使った水耕栽培機をつくってもらったんです(笑)。

でも、レタスってスーパーで150円ぐらいですから、わざわざスマホで育てて、電気代もかけて、木を使ってくれるのはうれしいけど、どうなんだろう……と思っていたんです。

でも、ガストロノミーの美食家のシェフが、これを「ものすごくいい!」って言ったんです。なぜかというと、水だけで育てる利点が二つあって、一つは、与える水の色や香りを変えると、葉の色も食べたときの香りも触感も変わる。つまり、カスタマイズした野菜を育てられるようになること。

もう一つは、根っこまで食べられること。普通は根を食べないのは、土に菌が多くてお腹を壊しやすいから。でもこれは食べられる。彼は、根っこごと食べるレシピをつくって、開発が始まっているんです。これが、不思議な拾う神様。

カスタマイズできるという意味では、野菜に多く含まれているカリウムを摂ってはいけない病気があるんですけど、水をコントロールすればカリウムがグンと減らせるので、その病気を持った人でもおいしく食べられる。そう思うと、プロジェクト初期の「贅沢な嗜好品としてIoTでつくった製品」ではないところに価値をおくことができる。

こうやって価値をつくっていける人たちに、いっぱい出会えるのが「共創」のおもしろいところなんじゃないかと。不思議なものをいっぱい拾ってくれる神様を呼べる場所です。

では私が今、何を拾ってくれる神様が最もほしいかというと、木です。木の使い方、木を持っていってくれる人を探しています。今、飛騨で「株式会社飛騨の森でクマは踊る」という会社を経営しています。飛騨は平安時代から京都や大阪の城をつくったり、組み木の技術を守っていた地域なんですけど、ご存じの通り日本は森を切り倒して放置し、あまり幸せな状況をつくれていない。今は安い輸入材に頼っているんです。

でも、外国から持ってくるよりも自分たちの国の木をうまく使えるようになったらいいんじゃないのと。自分自身も、自分の国の木をうまく拾える神様になりたいと、そんな実験をしています。

いろんな人たちのアイデアが必要なので「FabCafe Hida」もつくりました。従来の木材の流通ではない新しい形の、使われ方を見つけようとしています。

29789344050_d99e47cfe8_k飛騨市古川町にある「FabCafe Hida」。コーヒーを飲みながらものづくりを楽しめるデジタルものづくりカフェ。(画像提供:株式会社ロフトワーク)

こういう取り組みがあることで、製材所の人にも、いわゆる流通させるためのサイズではなくて、「そんなに薄くていいの? え、割れててもいいの?」といわれるような使い方をしたりもして。新しい発見がどんどん生まれています。このようにいろいろな木の側面や、効果・効能を探すっていうことをやっています。ありがとうございます。

住民ファースト”を守っていく

西村最後は、筧さんですね、よろしくお願いします。

筧さん皆さん、こんにちは。「isuue+design」の筧と申します。僕らは神戸をベースにした団体で、神戸市がユネスコのデザイン都市に認定された記念プロジェクトとして、2008年から活動をしています。特に、大震災が起きたときの避難所や避難生活のためにどういうことができるのかを問う社会実験のプロジェクトをしていました。

東日本大震災が発生したとき、既に行っていたプロジェクトから「できますゼッケン」が採用されました。自分は何ができるのかを、色と文字で可視化するツールです。神戸市経由でさまざまな自治体に運ばれ、ボランティアのツールとして使っていただきました。

今は、東京と神戸と高知という3拠点で、日本各地の地域の仕事をさせていただいています。今日お話ししようと思っているのは、高知県佐川町の話です。高知市から車で40分ぐらいのところにあり、人口は14,000人ぐらいで、牧野富太郎さんと銘酒「司牡丹」で知られる町です。

この町とのお付き合いが始まったのは2013年11月。静岡で建築事務所をされていた、佐川町出身の当時45歳の男性が、佐川町に戻って町長に初当選をして「この町のこれからの10年の総合計画、ビジョンを住民みんなでつくりたい。手伝ってくれないか」と声をかけてくださいました。

全17回、「未来づくりサロン」という名前で、住民の方に手伝ってもらって、「これから、こういうふうにやっていったらいいんじゃないか」という453個の未来のアクションが生まれました。まとめて総合計画にし、書籍にもしました。

総合計画01佐川町の人々が参加して案を出し、総合計画がまとめられた。(画像提供:NPO法人issue+design)

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また、雇用もないので、若い人たちがこの町でチャレンジできるような仕事をつくることが課題の一つでした。そこで、「さかわ発明ラボ」という新しい場をつくりました。地域にある木材・農作物といった新しい資源を使ってチャレンジする人が増えていくような町づくりをしようと。生活を豊かにする発明が続々と生まれる場です。

1年ぐらいやっているのが、「集まりたくなるベンチづくりワークショップ」。総合計画で、ある住民が、「町の中にベンチがほしい」と言っていたんです。もっといろんなところにベンチがあったら、みんなが仲良くなれたり、散歩できるようになったりする、と。「じゃあみんなでつくりましょうよ」と、30名ぐらいの、8歳から75歳ぐらいの方に集まってもらってつくっています。

また、学校教育も変えないと、5年後10年後に新しいチャレンジをする若者が生まれてこないので、総合学習の時間を年に10個いただいて、小学生に動物型のロボットをつくってもらっています。

プログラミング教育の授業で、この動物ロボットの動きと光と音を制御するプログラムを自分たちで学び、独自の動きをつけていきます。最後には1人1台ずつつくり上げて発表もします。「佐川ロボット動物園」という授業です。

robo小学生がプログラミングを学ぶ授業「佐川ロボット動物園」の様子。(画像提供:NPO法人issue+design)

運営しているときに大切にしていることが三つあります。一つ目は、“住民ファースト”を守ること。こういうテクノロジーの空間って外の視線が強くなっていきやすいんですけど、あくまでここで暮らしている人たちの場所だということを守っています。

二つ目は、10年後にこの町で何が生まれるのかという視点に、絶対的にこだわっています。

三つ目は、あまり盛り上げるのはやめようと思っています。盛り上がると、絶対に盛り下がるので(苦笑)。いろんな人を無理やり巻き込んでいくことはせずに、ゆるやかに進めていくことです。最終的に新しいものづくりが町の文化になることを目指しています。ご清聴ありがとうございました。

私たちは何に多くの時間を使っているか?

西村ありがとうございます。ここからはパネルディスカッションで話していこうと思います。

林さん私、アメリカでとても信頼されている、アジャイル開発をやっている創業者に会ったとき、「パフォーマンスが低いプログラマーって何に時間を使っているか知っている?」って聞かれたんですね。

プログラマーってコードを書いている時間は実は短くて、「どこを間違えているのか」をあてもなく探し直す作業と、それがわからなくてアイドリングしている作業に、かなりの時間を割いてしまうそうです。

そこで、彼がやったのは「ペアプログラミング」。一人が書いているときに、横にもう一人いる手法。わからなければ横の人に教えてもらえるし、人も育つし、チェック機能も働く。常に動かし続けられて、パフォーマンスも上がる、と教わったんですね。

では、自分も含めて「私たちって何に時間を使っているか?」と問いたいんです。日頃あっという間に時間は過ぎるのに、何にもしてない気もするんです。悩んでいるから、皆さんはどうかなと思って。

岡村さん企画を考えている時間よりは、それが実現するまでにいろんな壁があるので、それを突破することにかける時間が一番大きいかな。

高嶋さん僕も企画を書くときは、ガーッて書けるんですよね。だけど、自分の気づきとか、アタックまでには時間がかかる。いろんな人と会ったり、いろんなものを見たり、そういうところに一番時間がかかっているような気がしますね。

林さんなるほどね。

岡村さん私は人との関わりと、それから出てくることの課題解決とか、そういうことばっかりで回しているかなっていう感じです。

西村僕もそう。

林さん先日、アメリカのデザインコンサル企業フロッグのチーフリサーチャーだった人と一緒にプロジェクトをやったとき、200ページのドキュメントを3週間でつくったんです。どうやってつくるかというと、ホワイトボードをいっぱい用意して、全部のページをブワーッて張り出すんです。

それで、「できてる」「できてない」「これは林さん」「これは誰々」と、関わっている人の名前も全部書いて、ステータスを赤帯・黄色帯・緑帯に分けて、2時間ごとにできあがったものを張り出していきました。

「これどうしようかな」って4時間悩んじゃうなんてことはなく、「2時間やってできてない、じゃあ○○くんそれ代わりにやって。私はこれできた」っていうふうに、2時間ごとに全部アップデートするんです。

そうすると、どこが進んでどこが難しいかが分かるので、「じゃここやめよう、こっちに替えよう」と。ホワイトボードで、やっていることをすべて可視化することをセットにした空間がそこにありました。

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パネルやホワイトボードを活用した空間づくり

西村空間って物理的なので、例えば、今やっていることを残しておくことができますよね。物理的な空間が持つ感覚によって、時間は途切れるんだけど継続できる可能性があるんじゃないかと思うんですけど、どう思いますか?

林さん人の行動を規定しますよね。例えば西村さんが、「こうやって座ろう」と言ってみんなが中心を向くと、視線も合いやすいから、なんとなくつながっている感情を起こしやすい。

高嶋さんここの空間に子供がいて、チョークで絵を描いていたりすると、すごく場が和むんですよね。場が与える影響って大きいと思うんです。

六角形になって座って対話すると、ワークショップのような固い感じかもしれないけど、距離を少し縮めただけで印象って変わると思うんですよね。距離感、温度差、熱量って、普段は意識しているわけではないんですけど、無意識に結構コントロールしているな、と思います。

筧さん3日間同じこと考えるようなプロジェクトは理想的だと思うんですけど、なかなかそうはいかないじゃないですか。みんな複数の案件を抱えながら、分断されるなかで仕事をしている。そんなときに、プロジェクトの進捗とか記憶をどうつないでいくか、意識してやりたくて。

僕らは、三六判(1820×910mm)のパネルを30枚ぐらい常備して、プロジェクトごとに進捗をそのパネルに貼っています。過去のものが痕跡として残っていくし、打ち合わせをするときはそれを広げて、ほかの打ち合わせをするときはそれを畳んでいます。それを置いておけるようなスペースを用意して、そこをつないでいくことを意識して、空間をつくっていますね。

林さんわたしもまったく同じです。部屋の中心に丸太を置いて、ホワイトボード立てにしています。ボードは複数あって、そのまま脇に置いておいたり、使うときに差し込んだりして使います。集中して議論するときの方法の一つですよね。

さっきお話ししたように、アメリカのクリエイティブも時間を圧縮して密度の高い時間の使い方をする方向にいっているから、いつまでも細切れで長期的なやり方をしている日本にはものすごく危機感を持っています。それは変えればいいだけで、2日間集中して議論する。で、切り替えてまた2日間、ってやるとどうなんでしょう。

まだ答えに至っていないけれど、やったら面白そうだと思っているのは、自分の中をデリートして真っさらにすること。いっぱいいっぱいになっている脳をどうやってニュートラルにするか。そのための仕掛けはできてない気がしていて。どうしたら、いっぱいいっぱいになっている状態のメモリを減らしていけるかは、おもしろい実験だと思う。

西村おもしろいですね。スマホを見ながら歩くとか、コーヒーを飲みながらパソコンの画面見てるとか、ありますもんね。

筧さんそういう状況が今、人々をマインドフルネスにいかせているんですよね。僕も「忙しくてやばい、もう駄目だ、頭完全に振り切れるな」って思ったら、睡眠時間を削ってでも朝6時からヨガに行くんです。1時間ヨガすると、3メモリぐらいは減らせる(笑)。

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林さんすごい。私は走ります。頭いっぱいでヘトヘトになったら、「走ろう!」って感じです。

地域の文化を知ろうとし、文脈を読む

高嶋さん先日、はじめにここでメンバーと話をして、2週間後に長野でまた話をするプロジェクトをやったんですけど、その2週間でコミュニティがすごく活性化したんですよね。

近いスパンで、ちょっと時間を置くことによってオンとオフをうまく使うと、脳が冷やされて、メモリが下がるのかわからないですけど、「2週間でこんなに変わるんだ」っていうぐらい、変化が出て。

林さん地方と東京の「共創」関係なのかな。どっちかだけじゃないですよね。どっちもっていう組み合わせがいいんじゃないかな。はじめに地方に行って仲良くなると、あとは東京でもやっていける感じもあるんです。

岡村さんうちは中小企業でオフィスが一カ所なので、各地でシェアハウスやシェアオフィスなどを運営している方たちとタイアップして、中小企業に勤める社員さんも、地方に行けるような場をつくりたいんです。

ライフステージに合わせて、それこそ佐川町で働けるとか。シェアオフィスでその間仕事ができる。そんなことをしたいなと思っているんです。

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西村筧さんは、どう関わってもらうかを相当考えられているだろうなと思います。どういう苦労があったのか、聞きたいです。

筧さん苦労はいっぱいありますよ。木材を加工することができる「Shopbot(ショップボット)」と呼ばれる機械を運転していたら、「キンキンキンキンうるせえ!」と苦情を言われたり。

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筧さん怒られて謝りに行って(笑)。でも謝りに行くのは、結構チャンスなんです。うちのスタッフは基本的に20代前半の女子で、地方に入ろうと頑張っています。そういうときにこそちゃんと対応し、地元の人たちに「まあ、事前に言ってくれたらいいよ」と言ってもらえるような関係性をつくるんです。

事前にちゃんと、「今日は何時から何時まで、こうやって使いたいんで、ちょっと音がするけどいいですか? 申し訳ないですね」と言いに行くと、ほとんどみなさんが「いいよ、いいよ。別にその時間、昼寝もしないし」というコミュニケーションになっていきます。

あとは、ラボをゆるやかに開いておいて、いろんな機会にちょっとずつ関わってもらい、その人の中で「やりたい!」と火がつくのを待っている感じです。

今、「さかわ発明ラボ」に週4日ほど通ってくれている中学生4人組の女子がいるんです。最初は一人が、僕らのワークショップにたまたま来てくれて、彼女がハマって妹や親を連れて来て、同級生も連れて来てくれた。自発的な学びになったんです。毎週来て自分の作品をつくろうとがんばっています。

西村なるほど。岡村さん、受け入れ側・地域側として、外から来た人たちがこう振舞ってくれるとやりやすい、みたいなことってあります?

岡村さんあるソーシャルビジネスを行う会社の方が、京都のど真ん中に入っていって、知らない間に町内会の活動とか参加している人を見て、思うところがありました。京都の町内会なんて、本当に僕らでも入っていくのは嫌な感じなんですよ。ちょっと恐ろしい(笑)。でも、その方々は、1年ぐらいの間にスッと、難しそうなところにも喜んで入っていった。

そこの文化を知ろうとする姿勢や、地元の文脈を読む力が大事ですね。対立しているところに入りたくないなんていう人が、地域の課題を解決できるわけないですから。

また、同質な人たちだけで集まっていても、課題解決なんてできないやろうなとも思います。だからいろんな人たちのことを、知る・聞くことが重要なんでしょうね。

西村林さん、例えば林業者が減ったとか、地域の課題があったとき、外の人だからできること、もしくは場があることでできることって何でしょうか。

林さん今、お二人の言葉がとても重たくて……。というのは正直、飛騨、すごく難しいんですよ。地域に入る難しさに加えて、第三セクターという形を取ったので。

第三セクターは、利益のためだけじゃない、だけどNPOだけでは解決できない課題を、民間の力も使って一緒に解決していく新しい株式会社の形という定義自体は間違っていないと思っています。でも、新聞に「三セク」って出たときには、いいニュースを見たことが一切ないんです。

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林さん森の課題解決って、株式会社にもNPOにも解けないから「三セクじゃない?」と思ってやったんですけど、本当に大変で。でも、「時間をかけたら解けた!」っていう風にしたいから、今やっています。

三セクの難しさって、地元の政党、要は「あの市長がつくった○○なんて応援しない」と、長年の歴史の派閥を全部引き受けてしまうところにあると思っています。市がそれを解決したくて言ったはずなのに、市長が変わると、「そんなこと、なんでやる必要があるの。やめていいんだよ」なんて声も聞こえたり。

私はもともと「日本の森っていいな。広葉樹の森は歩いて気持ちいい」と思ったところから始めているんです。間伐されていない針葉樹の森を歩いても、なんの気持ちよさもマインドフルネスもない。広葉樹の森がいいなと思ったところから始めているから、結局は何を言われてもやるつもりなんですけどね。

「勝手に楽しみます」ぐらいの気持ちで

西村行政と一緒にやるとか、深くて抜け出せないみたいなこととか、京都もがんじがらめな部分がありますけど、「そこはこういうふうにやっていますよ」という明るい話を聞きたいのですが。

岡村さん京都にいる、京都の真ん中の人だったらそれこそがんじがらめだから、京都は変えられないなと思ったんです。僕は完全に外れてもないし、ど真ん中でもないというポジションだったので。そこからフリーハンドでやらないと、京都は変えられないなと思って。

「京都流議定書」というイベントの枠、つまり勝手に器だけつくって、「京都府のイベントと思ってやりませんか?」と話しました。京都市に行ったら「京都市のイベントと思ってやりませんか?」。商工会議所に行ったら「商工会議所のイベントと思ってやりませんか?」と回っていったんです。気づいたらみんな乗っかっていた、みたいなことにしたんですけども。

いろいろ言われたり、しがらみが出て、逆に言えなくなるのが嫌だったので、お金は一切受けなかったんです。全部自分たちのお金でやり、全部自分で決めてやっています。そうしないと動かせない。

京都が変わらないというのは、実は実質困っていないからです。放っておいても年間5,000万人以上の観光客が来るところですよ。伝統産業が衰退しているといっても、各カテゴリーで一番手の人は困っていなかったりするので、なかなか本質が変わらないんです。

でも、あんまり外で勝手にやっている様でもスポイルされるので(笑)。この辺の間合いがすごく難しいんですけど、そういう位置を取りながら、しがらみがない形でできるような、自分のやり方でやっていますね。

林さん「余計なお世話でやってます」ぐらいの気持ちじゃないと。「よかれと思ってやってる」なんて思ったら、やってられない。「勝手にやっているだけで、勝手に楽しみます」ぐらいの気持ちじゃないと、押し売りしてもだめってことだと思う。

筧さん「楽しいことやろうか、それいきましょうよ」みたいな。それしかないです。

岡村さんそれが理想ですよね。PDCAとかもやめて、楽しさを追求するっていうのは理想形だと思う。

僕は、カルビーの松本晃会長兼CEOのことをプロ経営者やと思っていて、とても好きなんです。松本さんはカルビーに入られたとき、はじめに半日ずつの徹底的なディスカッションを三つやったそうなんです。

一つは、当時カルビーが60周年で、「60年間でやってきてよかったことは何でしょうか」ということを半日、一般社員も交えて徹底的に話をさせた。二つ目が、「やればよかったけれども、やれていないことは何だろうか」と半日徹底的に話させた。三つ目は、「今すぐに止めたほうがいいと思うこと」を徹底的に話させて、「そのすぐ止めたほうがいいということを、すぐ止めさせた」と言っておられました。

筧さん岡村さんの話を聞いて、今思い出したことがあります。僕は、「東京でつまらなく働いている若い人たちっていっぱいいるんじゃないか」と思っているんです。その人たち、困っているんじゃないかなと。

だったら、今地方には充実した新しい仕事ができるチャンスがあると思うので、そういう人たちに地方で楽しい仕事をしてもらいたい。困る人がいなくなるような仕事をしよう、と。

高嶋さん今日、いろんな話をしているなかで、場の持つ可能性ってすごいと思いましたよ。ここの可能性とか、場が持つ人への影響力ってあるんだなと気づけてよかったです。

岡村さんうちの会社に勤めている人も、困っていないんですね。でも、中小企業で働いている人は、慢性疾患みたいに、なかなか変わることができない。そこをなんとか変えたいな、というのが我々の向かっている大きな課題です。

だから、副業などでも、ちょっと違う視点の刺激を受けて帰ってきてもらうとか、地方に行く仕組みづくりなども行って、生き方、働き方を考えてもらえるようにしたいと思っています。ありがとうございました。

林さん人が一番わからないのは、自分のことなのかなと思いました。議論する場でもいいし、泊まらせる場でもいいし、人が見てくれる関わり方が仕組みとしてできるといいですね。そういう人たちを引き付けるときには必ず場が必要になって、またそれでリノベーションが進んでいく。相互に見つけ合う場を日本中に、もっと多様なかたちでつくっていったら楽しそうだなと思いました。

西村みなさん、ありがとうございました。

小久保よしの 編集者
フリーランス編集者・ライター。編集プロダクションを経て2003年よりフリーランス。担当した書籍は『だから、ぼくは農家をスターにする』高橋博之(CCC)、『わたし、解体はじめました ─狩猟女子の暮らしづくり』畠山千春(木楽舎)など。 当サイトの他、雑誌『ソトコト』やサイト「ハフィントンポスト」などの取材で全国を駆け回り、東京と地方の行き来のなかで見えてくる日本の「今」を切り取っている。「各地で奮闘されている方の良き翻訳者・伝え手」になりたいです。
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