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企業という存在がもっと進化するために、何ができるだろう。企業だからこそ生み出せる社会価値とソーシャルイノベーションとは?[ミラツクフォーラム2016]

フォーラム

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2016年12月23日に開催された、毎年恒例の「ミラツク年次フォーラム」。一般公開はせず、いただいたご縁の感謝をお返しする会です。

26人の登壇者と10のセッションを行い、ミラツクと共に取り組んでくださった全国各地の方々、ミラツクのメンバーの方々を中心に、100人を超える多くの方に足を運んでいただきました。

今回お届けするのは、メイン会場で行われたセッション3。コメンテーターに「多摩大学大学院」教授・紺野登さんを迎え、「JT(日本たばこ産業)株式会社」副社長・岩井陸雄さん、「Berlitz Corporation」CFO/EVP・三木貴穂さん、「生活協同組合コープこうべ」執行役員・本木時久さん、「ロート製薬株式会社」広報部・CSV推進部部長・河崎保徳さんというメンバーと共に、「企業が生み出す社会価値とソーシャルイノベーション」について語り合いました。

(photo by kanako baba

登壇者プロフィール
岩井陸雄さん
日本たばこ産業株式会社 代表取締役副社長/たばこ事業本部長
1983年日本専売公社入社。人事部、経営企画部、銀行研修(富士銀行ロンドン支店)を経て、経営企画部にて、ビジョン策定、中期計画、組織文化変革、コントローラー、ビジネス・ディベロップメントなどを経験。1998年から加工食品事業の本格立上げのため、旭化成食品部門を譲り受け、統合等を手掛ける。2002年には、たばこ増税、マールボロライセンス終了に伴う全社改革プラン策定のプロジェクトに参画。2006年取締役食品事業本部長として加ト吉買収等を手掛ける。2008年に中国ギョウザ事件発生。事業責任者として事態の収拾、対策に奔走。企画部門に戻り、2011年から2年間海外たばこ事業子会社JTインターナショナル副社長等を経て、2013年より現職。
三木貴穂さん
Berlitz Corporation 取締役上席副社長/CFO
2006年ベネッセコーポレーション入社。M&A・海外戦略・新規事業を担当後、2012年よりソーシャルイノベーションを所管。社会的価値と事業価値双方にインパクトのある事業の立ち上げをリード。日本の民間企業初となるソーシャル投資ファンドを設定。2014年から現職。前職はUFJ銀行(現三菱東京UFJ銀行)にて、経営企画・投資銀行業務・国際銀行業務に従事。1995年Northwestern大学Kellogg校でMBA取得。
本木時久さん
生活協同組合コープこうべ 執行役員
福祉介護事業部、商品開発室を管掌。また、株式会社協同食品センターを始め、子会社2 社の取締役を兼任。大学卒業後、1989 年に灘神戸生活協同組合(現コープこうべ)入所。宅配の現場を経て、宅配事業の改革に2010 年まで従事。夕食サポート事業「まいくる」を立ち上げた後、2012 年より組織改革「次代コープこうべづくり」を担当。創立100 周年となる2021 年のビジョンとして「社会的課題を解決する事業体のトップランナー」を掲げ、生協価値の再構築を推進している。
河崎保徳さん
ロート製薬株式会社 広報・CSV推進部 部長
1960年大阪生まれ、日本生命保険相互会社を経て1986年ロート製薬入社。商品企画部長、営業部長、営業企画部長を歴任。その後、3.11東日本大震災復興支援室長として3年間を被災地で震災復興に尽力する。部門参加に地域連携室も率い、地域と企業の連携による地域課題解決にも取り組む。
紺野登さん
多摩大学大学院教授
KIRO株式会社 代表、京都工芸繊維大学新世代オフィス研究センター(NEO)特任教授、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(SDM)特別招聘教授、東京大学i.schoolエグゼクティブ・フェロー。一般社団法人 Japan Innovation Network(JIN)及びFuture Center Alliance Japan(FCAJ) Innovation Network代表理事。知識経営、ナレッジマネジメント、デザイン経営戦略やリーダーシップ・プログラム、ワークプレイス戦略等、実務に即した知識経営研究と実践を行っている。著書に「ビジネスのためのデザイン思考」「利益や売上げばかり考える人は、なぜ失敗してしまうのか(目的工学)」などがある。

企業内でソーシャルイノベーションを起こすのは難しい?

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西村それでは、セッションを始めます。ここで話したいテーマは、「企業が生み出す社会価値とソーシャルイノベーション」。企業もしくは組織が目指す社会価値ってどんなものなのか、または組織としての難しさや壁、可能性などについて考えていく、そんなセッションにしていきたいなと思っています。

それでは最初に、三木さんと本木さん、企業内でソーシャルイノベーションを起こす際に何が難しかったのか、伺いたいです。

本木さんそうですね、うちは古い組織ということもあり、大企業病にはまっている状態でしたので、特に職員の意識を変えるのは難しかったです。よくマネジメントやコーチングの研修に行くと「結果を変えるためには行動を変える、行動を変えるために思考を変える、思考を変えるためには環境を変える」って言われますけど、そんなの簡単にできるんだったら苦労しないんですよね。実際にやってみて思ったのは、変われないのは変わった先に自分の居場所が見つけられない人たちだということです。だから居場所をつくってあげないといけない。

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皆が同じ船に乗っているんです。その船が転覆するときは皆が海に投げ出されるんですけど、どこかに「自分だけは違う」みたいな意識がある。それを変えるのに苦労しました。

本当にあの手この手を使いました。例えば、上手く理解してもらえない人の横に自分の机を持って行って、嫌でも毎日顔を合わさないといけないような状況にもっていくとか。

最初のうちは無視ですよ。でも半年ぐらい経ってくると人間おかしなもので、「おはよう」ぐらいは言うようになる。最近はむしろよく話すようになりました。そんなこともひとつで、「これをやったら正解」みたいなものはなく、あの手この手を、失敗してもやり続けることが大事なんだろうなと思います。

三木さん難しさっていうよりも、元々教育や介護をやっている会社なので、会社の事業自体がソーシャルイノベーションを起こしていかないと存続しないような会社のはずなんです。

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「Berlitz」の場合ですと、社会の情勢にうまくフィットして、世界の中でもユニークなポジションをつくって大成功したのですが、環境が変わって、それが通用しなくなった。だからどうしてもイノベーションを起こしていかなければいけないんですけども、人間ってやっぱり、過去の成功体験から離れることが難しいんですよね。

そういう成功体験を積み上げていった人たちが組織の上の方にいる。前例踏襲型ビジネスが展開されるのは、「それが一番勝てるんだ」と信じ込んでいる人たちが偉くなっているからなんですね。

ここでイノベーション起こすのは大変です。先ほどお話しされていたオムロンの竹林さんの「起承転結型ビジネスモデル」のお話に当てはめてみると、その偉くなっている人たちはレビューをする「転」の人ばっかりです。

でも、自分では、イノベーションを起こしたり1を100にしたりする「起承」の人だと思っているんです。「俺は起承の立場から転をやってやる」と思ってるんですけど、若い人たちから見ると、「あの人、新しいこと何にもやらないんですよね…」となってしまう。この意識のギャップを埋めるノウハウが、「起承」の人や若い人たちにはない。「転」の人たちの心象風景も分からない。

逆に、偉い人たち、この20年、ホワイトカラーの生産性をあげるためにいろいろな工夫をしてきて、実際に生産性が上がってきているにも関わらず「俺が若いころは現場でイノベーションが起きていた」といった具合に、環境が変わったことが分からないんです。

この両者のズレを埋めるのが一番難しいところなんですが、偉くなった後に自分が信じている世界を疑える「インタープリター」のような人がいるかいないかで、多分状況が違ってくるんじゃないかと思いました。

西村河崎さんは元々営業責任者だったのが、東日本大震災後に東北に行って、そこでインタープリター的な役割になって帰ってこられたわけですよね。そのことによって、部下の人たちもやりやすい環境が生まれてきているのかなと。

目的と自己否定が次の段階への道標に

それと、紺野先生から「目的が企業経営とイノベーションに重要だ」という話が出ていて、岩井さんに聞いてみたいのですが、「JT」にとっての目的って、どういう設定になっているんですか?

岩井さん今の世の中で言うと「煙たい」「臭い」「体に悪い」という影の面がフィーチャーされているので、たばこを嫌いな方っていっぱいいると思うのですが、でも、400年以上の歴史があって、人間にとって何か意味があるものとして存在してきた側面もあるわけです。

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では、人間にとってどんな意味があったのか? 突き詰めていくと、栄養のような人体に必須なものや、機能的なものではない喜び。一言で言うと「心の豊かさ」みたいなものを提供していると私たちは考えているんです。

これから先、AIが普及したり、人間にとって、もしかするとすごく生きにくくなっていくような世界でも、「心の豊かさを届けるためにはどうすればいいのか」という問いに戻って、将来の事業を考えていくことが大事ではないかと思っています。

そのためには、先ほど三木さんがおっしゃっていた「転」の人に邪魔されないためには、既存の組織から切り離して、トップが庇護してくれるような形にしてしまって、育んでいくという方法も必要かもしれません。既存の中から何か生み出そうとすると、なかなかうまくいかないかなとも思っています。

西村例えば「たばこを売ること」が仕事だと思い込んでいる社員に対して、「心の豊かさを届けること」が仕事だと認識してもらうのは結構大変じゃないですか。かなり深く考えていかないと、目的が「心の豊かさだ」というところまでたどり着かない。

ではどうやって、そこを伝えていくのか。例えば、専売公社時代からいる方々がまだ残っていて、そういう人たちにとっては、ある種売れることも当たり前だし、「ものスタート」で考えることが起こりやすいのかなと思うのですが、いかがでしょう?

岩井さん毎朝新聞を見ると、たばこについてのネガティブな記事がたくさん載っています。その中で、「自分たちはなぜたばこを売り続けてるんだろう」って考える機会は結構あると思うんです。先ほど言ったように、商品の中には光と影があって、影の部分がすごくフィーチャーされているし、そこを改善していくための努力はしなければなりません。それは、電子タバコみたいなもので有害物質を減らしたりといった商品レベルでもだし、もっと違うこともやらなきゃいけない。

でも、光の部分もあって、たばこの場合だと、人と人とのコミュニケーションを円滑にしたり、個人的にはある瞬間から次の瞬間へ、間を置いて気分を切り替えるような作用があると思っています。それは製品の機能としてではなくて、所作とかも含めて、そういう良さがあるということを社内では共有しています。

ただ、社員は国内だけでも8,000人ぐらいいますので、そう言われてみんながそう思えているかというのは不安になることもありますし、発信は常にし続けないといけないと思っています。

西村河崎さん、例えばロートさんのように薬をつくっていて、一方で健康づくりをしようとするって、ほぼ自己否定じゃないですか。薬を使わなくていい人を育てることになるので、やればやるほど目薬が売れなくなる確率が上がっていくと思うんですよね。

でも、自己否定が入ったときに、ちょっと目的を大きくすることができたり、新しいフェーズに入れたりするのかなと思っていて。さっきの岩井さんの話は自己否定ではないですけど、周りから否定されて、考えざるを得ない状況になると「次にどうしよう」みたいなフェーズに入れるんだなあと。でも、自己否定になることを、河崎さんはどう社内に伝えていったのか。「それをやればやるほど目薬売れませんよね」と言われたときに、どう伝えていったんですか?

河崎さん自己否定って、会社の存続理由とか、例えば目薬売ったりする意義を考えるために、ものすごいチャンスなんですよ。ある意味ショック療法に近いんですけども。僕は東日本大震災が大きなきっかけでした。あそこで2万人近い人が犠牲になられた。「そこから何を学びましたか?」と聞かれたときに、最初答えられなかったんです。

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ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、ロートとカゴメとカルビーと3社で、親を亡くした子供の大学・専門学校進学をサポートする基金を設立したんです。入学資金から卒業までの全額。海外留学、大学院も含めて返金不要、人数制限なしの基金です。

そこで出会った子どもたちから教えてもらったのが、金とか物よりも大事なものがあるということ、人間ってショックを受けないと考え方が変わらないということ、そして、未来を見ることがすごく大事だということでした。

子どもたちが進学するときに、530人全員を面接するのですが、ペロッと舌を出して「ラッキー」と言った子は一人もいない。17歳の子どもが人のお金で進学するかどうか迷うんです。そのときに出る結論が、誰かの役に立ちたいということだったりする。これってすごい学びで、僕らの創業者も、きっと誰かの役に立ちたいから目薬会社を起こし、薬を開発して売っている。僕らもきっと同じのはずやと。

ある子どもが「将来美容師になって、津波に流された母ちゃんの店を再開したい。そして、あのとき原付のガソリンを分けてくれたおばちゃんの髪の毛を切りたい。それが僕の復興なんだ」と言うんです。

まだ10年かかるか、15年かかるかわかりませんが、本当にドラマみたいやけどそういう話が多くて、自分の生き様が恥ずかしくなる。会社にも、元々それぞれ大きな目的があったはず。

そういう話を社員にすると、必ず「会社の売り上げよりもそっちの方が大事ですよね」とか、二元論で考えようとする。「馬鹿野郎、売り上げがなかったら給料出えへんやないか」と。売り上げも大事。でも、志もすごく大事。そのどっちもが大事なんだっていうことを、震災の現場で3年間も会社の仕事せえへんでやってきた人間が言うと、意外と染みていくっていうか。それはタイミングでしかないですね。そんな感じで、少しは社員に広まっているような気はしています。

目的を本来あるべきところに定めると、結果的に支持が集まる

本木さん僕たちも一緒です。小売りがメインの事業ですので、食品ロスの問題を僕たちが言い出すと、「無駄なものは買わないようにしましょう」とか、「節約して使いましょう」とか売り上げが下がる話になり相反するんです。福祉も自立支援をして要介護度が下がれば下がるほど収入が下がるので「それってどうなの」って、なるんです。

でも違うと。それをすることで、支持者が増えて総数が上がるんだと。神戸で暮らし、「コープこうべ」の商品や福祉を利用したい人の総数が増えれば、必ず継続的な利益につながる。その支持を集めているんだと言っています。

西村支持を集めるって、いい言葉ですね。目的を本来あるべきところに定めると、結果的に支持が集まって、そうするとちゃんとビジネスのことも考えている話になってくる。では、岩井さんにばかり聞いて申し訳ないんですけど、どんな瞬間に「JT」が、本来あるべき目的のために進んでいったらいいなあと思ったんですか?

岩井さん仕事柄、経営企画部門が長く、ビジョン、ミッションも整理しなければいけないので、その中でいろいろ考えてきたという感じですが、そもそも、JTに入ったのは、たばこがとてもおもしろい商品だと思ったからなんです。栄養も何もないのに、人はなぜたばこを吸うのでしょう。世の中に悪いものが全くないというのが一つの正義の考え方かもしれないけれど、人間が人間らしくあろうとすると、ちょっと悪いこともしてしまう。その方が人間らしいと感じます。

例えばお茶。水を飲めばいいのに少しカフェインが入っているものを飲みますよね。そこには、いい作用も悪い作用もあるんだけれども、そういう嗜好品みたいなものって、人生をとても豊かにするものだと思っています。

そうは言っても、逆風も吹いているし、そこをどうやって解決すればいいか考えているわけなんです。たばこという商品をつくるために、葉たばこを世界中で栽培していると、例えばアフリカの児童労働にも関わってくる。やっぱりそこの子どもたちがちゃんと学校に行けるようにしながら、また森林を伐採しないようにしながら、再生産ができるような葉たばこの産地を形成していく。そういう仕組みが必要だと考え、「ARISE」という活動もしています。

西村紺野先生、これまでの話を聞かれていかがですか?

紺野さんたばこというのは一つの社会的技術、テクノロジーだと思うんです。たとえば食品はそれを使う、食べるとその効用で人間が変化する。ですから、食べ物という形をしているけれど、自動車や原子力などと同じ、人間が使うテクノロジーなんです。

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一方、技術にはそれ自体としては目的はありません。それは人間が決めることなんです。今は、たばこは悪い方の目的に傾斜している。あるいは良い方の目的に反している。アメリカでは、マリファナはいい方の目的に近づいている。砂糖は、昔「食べ過ぎると歯に悪い」という悪者だった。そこで人工甘味料が出てきたのですが、今は、人工甘味料はナチュラルじゃない、オーガニックな砂糖は良い、といわれる。

そうやって、技術に対する社会の価値観は、マーケティングやイノベーションによって変わっていくといえます。ところが、そのときに提供者に社会的に意義ある目的がないと、売らんがためのマーケティングになりますよね。だから、なんのためにという、目的の創造が大事になるわけです。

みなさんの場合、今、本業が何らかの問題を抱えていて、次に何か新しいものを創っていかないといけない状況にあるわけです。そこには強い意志が必要です。スタートアップ企業は全部が新しいことですから、みんな死ぬ気でがんばりますが、大企業になると本業があるので、なかなか死ぬ気でやる人がいない。つまり意志が生まれないんです。

意志が生まれないのは目的がないからだと考えられます。目的もなく意志だけある奴って変じゃないですか。意志は目的があるので存在し、そして目的が達成されたときに消滅する。当たり前の話ですが。

すなわち、イノベーションのための意志を生み出すには、目的の創出、設定、共有が必須です。そして、同時にそれをサポートするトップマネジメントや、社内の支持も必要です。

一橋大学の野中郁次郎先生がよくおっしゃるんですけど、「イノベーションは有事にはできない」んです。これまでの事業環境では本業が傾きかけてもなんとか策を打って生き永らえてこれた。けれども、今、環境は激変しています。本業が生き永らえる時間がものすごく短命化している。

ですから、いざ有事になったときには、イノベーションに取り組む暇がない。キャッシュが生まれている間に、つまり常にイノベーションを起こす努力を行っていく必要があります。これが「イノベーション経営」なんですね。

目的があってトップが仕組みをつくる。そういう社内のエコシステムをつくっていくような経営をしないといけなくなっている。そして、目的が定まって、我々のリソースがここで使えるんだ、という観点が発見できれば、技術の新しい意味が見出せると思うんです。

さきほどの岩井さんのお話だと、何か脳内物質とかの研究が進むと、たばこは脳が消費する食べ物になるかもしれない。成分のことがもうちょっと明らかになってくると、なぜアメリカインディアンがたばこを吸っていたのか分かるようになる。そうして社会的な価値観が変わったときに、「たばこは良いものだ」と変わる可能性もある。それがイノベーションなんですね。なんてことをつらつらと考えていました。

西村ありがとうございます。すごくすっきりしました。では次、ちょっと話を変えて、例えば河崎さんが過去の経験を元に、次に何をしようとしているか伺えますか?

企業の中に埋没している資源がたくさんある

河崎さん今僕は、企業の中には埋没している資源がいっぱいあると思っています。例えば、その地域に住んでいる人が土地の魅力に気づきにくいように、企業の中にもそういう資源がいっぱいあるんだと思っているんです。僕らはビジネスを叩き込まれてきたので、お金に直結するものに一生懸命努力をしてきた。ところがそうじゃないもので人を幸せにできることがいっぱいあるんじゃないかと。

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そこには確信に近いものがあります。震災の後、東北で企業が連合して新しいことをする例ってあんまりなかったんです。協業して、お互いのいいところを持ちよれば何かが起こる、とそのときに学んだ。

昔、企業と企業が手を組むM&Aを、金のためにやっていたときがありました。つまり生産効率が良くなるとか、規模の拡大が何かにつながるとかですね。そうじゃなくて、未来に向かって人々を幸せにするために手を組むのなら、敵が味方になるということを学んできました。

例えば小売りさんとロートの営業マンは、目薬を10円でも高く売ろうというのと、10円でも安く買おうというので、敵同士になってるんです。でも、高齢化で本当に目が辛くなってきているお客さんを喜ばしたい、ひ孫が生まれるおばあちゃんの目を守るんだという未来に目的を合わせれば、実は小売りさんと一緒にやっていかなあかん素敵な話があるわけです。

未来を見てみたら敵が味方になる、僕はそれを企業の中でやりたい。つまり、うちの会社の中に、例えばオムロンさんでも、阪急電鉄さんでも、三菱不動産さんでも、全然関係のないと思われるところと協業すれば、実は人の役に立つものが自社にいっぱい眠ってるような気がしています。

社内外とのコミュニケーションで繰り返したこと

西村本木さんと岩井さんに伺いたいです。組織開発を進めていく中で、その経験値を他の人とも共有したいなと思って、難しかったんだけど乗り越えたみたいなことってありますか。外との協力、中の関係性の改善、両方で。

本木さん外とのコミュニケーションでいうと、物怖じせずどこでも出掛けて行って、いろんな人と話をすることをひたすら繰り返すことでしょうか。そうしているうちに自然と協力してくれる人が出てきたりして。

中とのコミュニケーションですと、とにかく振り子を思いっ切り振るということですかね。振り子は小さく振ってるだけでは大して戻ってきませんが、大きく振ってやると、周りがちょっと「それは行き過ぎじゃないのか?」って動き出す。そういうことを繰り返しやります。

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「自分は聞いてない」とか「うちの部署の仕事ではない」とか、組織内ではよくあるじゃないですか。そういうときに、部署が3つあって部長が3人いるから調整コストが発生するので、ひとつの部署、1人の部長にしたりする。

普通に考えたら、そんなことをすると皆が大慌てになるんですけど、思いきってやってみると、今度はそれに対応してどうしようかと考えるようになる。それぐらいになるまで、しつこくしつこくやってます。

「会議室がたくさんあるから無駄な会議をするので、会議室そのものをなくす。」とか「3年先のことすら分からないのに、5か年の中期計画なんて立てられない。」と言ってしまうとか。こういう人間でも排除されずに役員をさせてもらっているということは、うちの組織にはまだ良心回路があるとうそぶいてみたりする(笑)。

企業だから生み出せる社会価値とは?

西村「企業が生み出す社会価値」が元々のセッションテーマなんですけど、どうやったら企業が社会価値を生めるのかが知りたいんです。企業には役割があるみたいな話もありますが、でもやっぱり企業はリソースをたくさん持っていますし、大きなインパクトを生める可能性もあります。特に、隅々まで届けられるオペレーションは圧倒的に企業の方が強くて、個人の連携で同じものを届けるってすごく難しい。

だからこそ、企業だから生み出せる社会価値がきっとあるんだろうなと。企業という存在が、人が協力して何かをやるための一つの進化だと考えたときに、その役割を終えたんだとしたら、もっと進化すればいい話であって、もっと進化するためにどうしたらいいのか。今のこの形態が、社会価値を生むためにどう生かせるのかを知りたいんです。そこで岩井さん、今日一番の無茶ぶりですけど、企業が社会価値を生み出すために何ができると思いますか?

岩井さん組織と個の関係が、すごく変わってきてるんじゃないかと思っています。もともと、科学も哲学も個人がやっていたんだけど、それを集団で行うために1600年頃に東インド会社や英国王立学会が生まれたわけです。

それが企業になって、企業の中でR&Dセンターをつくってみたりして、組織の中に知を集積することで、世の中を良くするためのものを生み出してきたという流れが、ここ400年ぐらいあったと。でも今は、例えば原爆だって、丹念にインターネットの情報を拾って勉強すればできてしまうくらい、知を誰でも手に入れられるような時代になっている。

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その中で、やっぱり企業という組織を考えれば、どんどん自分の中に集積していくという内側の方向性を考えるよりも、壁を低くして対話をしていかないと、企業自体が生き残れないし、世の中に何か良いことが生まれていかないのかなと思っています。

個人的には、JTだからとか、こういう技術があるからという前提ありきではなくて、社会課題に対して、みんなで一緒になって考える中で、自然と「うちの会社にはこんな人材や技術がありますよ」、という順番で提案が生まれるようになるといいんじゃないかと思っています。

今のマネジメントの仕組みで壁を低くするのは難しいですが、「そんなこと勝手に外に出しちゃったら、それは知的財産が流出したことになっているじゃないか」と言われてしまうところをどうやって突破するか、または自分たちで許容していけるのかというところがキーになるのかなとずっと思っています。

西村これはもう紺野先生しかいないと思うのですが、いかがですか?

紺野さんこれはオープンイノベーションですよね。しかも、従来の一対一のオープンイノベーションではなくて、いろんなパートナーと、社会や顧客の視点から価値を見出して、そこに自社のリソースを積極的に共有していくということなんです。が、あんまりオープンイノベーションがうまくいっている会社って多くないんですね。

それがなぜか聞いてみると、ほとんどが、やはり目的がはっきりしないことによるんです。でも、岩井さんや河崎さんがおっしゃったような、敵も味方もない、より大きな目的を見つけていくのは、実は日本企業は、米国企業よりも素直にやれるんじゃないかなと思いますし、そこに大きなチャンスがあるんじゃないかと思いました。

西村ありがとうございます。それでは最後、みなさんに一言ずついただいて終わりにしたいと思います。

本木さん企業といっても人の集まりですので、正しく言うと社会価値やイノベーションを生み出すのは企業ではなく、その中の人が企業のリソースを使って生み出すんじゃないかと思います。

だから、自分たちのリソースを使って何ができるのかとか、何がしたいか考え行動する人をどれだけ排出できるか、ということに尽きるのかなあと思っていて、それが出来るところと出来ないところの差が、変化の速い時代に対応して生き残っていくところと、なくなるところの差なのかなと思います。

岩井さん今日、紺野先生がおっしゃったような目的を自分の言葉で常に持っているということが大事だと改めて感じました。そして、組織の中で、志を同じくできる人が集まるとイノベーションが起こせるんじゃないかということ、そういう人たちの活動を許容できることが組織の力なのかなと思いました。ありがとうございました。

三木さん先ほど、大企業はこのままではだめだというお話がありましたが、これだけ環境や技術が変わっていく中で、どうやって生き残るかを考えること、すなわち、どういう社会的インパクトを残せるかを常に考えていかなきゃいけないんだと。

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そのとき我々がちょっと忘れがちなのは、これまでのサービスがちゃんとマーケティングができていたのか、今まで顕在化してなかったニーズにフィットしたのか、ちゃんとエコノミクスを計算したのかというようなことを繰り返し考えて実行することじゃないかと。それがおそろかになって、価値が提供できていないことがあるんじゃないかと思いますし、改めてそこを見直さなければと思いました。

河崎さん僕は、今日1日いろいろ過ごして、やっぱりオープンイノベーションは違う者同士が本当につながっていくみたいな感じだと思いました。企業同士もそうですし、NPOさんとか、行政とか。

行政と組むとイライラすることが多くて、邪魔だけはせんといてっていつも思うんですけども、過去のそれは水に流して、眠っている技術を掘り起こして、組み合わせることで新しいものを生む、ということを本気でやっていきたいなと思います。

それと、オムロンの竹林さんが言われていたように、僕らは、発想力豊かな若者のどんぶり勘定をつぶしてきたところがあるので、少なくとも自分の過去の成功体験を重ねて抑え付けないことを肝に銘じたいと思います。ありがとうございました。

紺野さんある調査では、今日の企業の最大の脆弱性は、目的を持たずに働く従業員の存在にある、というんです。アメリカの場合は、28パーセントしか目的を持っている奴がいない。日本もわかりませんが、もっと、ひょっとしたら3分の2ぐらいはいるんだと思うし、そこのポテンシャルを生かすべきなんです。

そして、目的意識の高い企業はあらゆる面でパフォーマンスが高いんです。目的がしっかりしている企業ブランドの方が時価総額伸び率が高い。これも当たり前なんです。でも意外と金銭的目的の方が優先されてしまって、まだ「株主利益の最大化が目的だ」って言っている人が多いんだけど、そうじゃない。アメリカでも変わってるし、みんな変わってきている。

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株主総会などでも、もうすこし目的をはっきり出して、期待価値でもって時価総額を高めるといった、メッセージングをしていくべきでしょう。そうしないと遅れちゃう。日本の会社は3月末に「これくらいの業績を出しました」って通信簿みたいに過去の実績で評価されようとしますが、そうじゃなくて、「これからこういうことを我々はやっていくんだ」という未来期待をきちんと株主やアナリストにコミュニケーションしてやっていくべきだと思います。

そして、最後に1つだけ。これからの21世紀は大地球変動期みたいな状態になっている。そこで、大規模なイノベーションが起きてきます。例えば、中国の一帯一路構想なども見てください。あるいはNASAの火星有人計画。 2030年代に火星への移住が始まりますよね。そういう大規模なイノベーションの時代になったときに、日本の企業のポテンシャルが絶対に使えます。日本の企業同士が大きな目的でタイアップしながら、大規模な社会的イノベーションのためにどんどんやっていく……というのを岩井さん、よろしくお願いします(笑)。以上です。

西村ありがとうございました。それでは、セッション3「企業が生み出す社会価値とソーシャルイノベーション」は、ここで終りにしたいと思います。登壇者のみなさんも、ありがとうございました。

赤司研介 ミラツク研究員
SlowCulture代表
1981年、熊本県生まれ奈良県在住。東京の広告制作会社でライターとしてのキャリアを積み、2012年に奈良県へ住まいを移す。2児の父。移住後は大阪の印刷会社CSR室に勤務。「自然である健やかな選択」をする人が増えていくための編集と執筆に取り組んでいる。奈良のものごとを日英バイリンガルで編集するフリーペーパー「naranara」編集長。Webマガジン「greenz.jp」や「京都市ソーシャルイノベーション研究所 SILK」のエディター・ライターとしても活動中。
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