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暮らしを豊かにしていく移動手段って? Walkable City(歩きやすい都市)の価値と可能性。

シンポジウム_DENSO

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私たちはほとんど毎日、“移動”をして暮らしています。
人によってその距離は違いますが、
歩いたり、車や電車、飛行機などを使ったりして、日々動き続けているのです。

未来でも、同じようなことを繰り返しているのでしょうか?
いえ、時代が変われば、動き方も変わっていくのではないでしょうか——。

そこで各ジャンルの各地域で活動している5人の方に、“移動”を軸に話をしていただきました。
キーワードは「歩く」、公園、道、自転車、ベンチ……と、身近なものばかりなのにも関わらず、
日常の目線が変わるようなトークが展開されました。
そして話は個人の“移動”から、町との関係性についても掘り下げられていきます。

進行役は、NPO法人ミラツクの代表理事・西村勇哉です。
(本フォーラムは、2017年6月23日に「株式会社デンソー」にて開催されたものをまとめています)

(photo by Rie Nitta)

登壇者プロフィール
筧裕介さん
NPO法人issue+design 代表理事
1998年、「株式会社博報堂」入社。2008年、ソーシャルデザインプロジェクト「issue+design」を設立。以降、社会課題解決のためのデザイン領域の研究、実践に取り組む。代表プロジェクトに東日本大震災支援の「できますゼッケン」、子育て支援の「日本の母子手帳を変えよう」他。主な著書に『ソーシャルデザイン実践ガイド』(英治出版)など。グッドデザイン賞、竹尾デザイン賞、日本計画行政学会学会奨励賞、カンヌライオンズ(フランス)など、国内外の受賞多数。
http://issueplusdesign.jp/
村上豪英さん
アーバンピクニック 事務局長
神戸モトマチ大学 代表
株式会社村上工務店 代表取締役社長
小さい頃から自然に興味をもち、京都大学大学院で生態学を学んだ後、シンクタンクに勤務。その後、「自然を破壊する力をもつ建築の世界に飛び込んでこそ、自然を守り育てる力を持ち得る」と考え、村上工務店に入社。2002年に神戸青年会議所(神戸JC)に入会した後、日本青年会議所の議長などを経て、2012年度に神戸青年会議所第54代理事長。2011年に神戸モトマチ大学を設立。2015年より、神戸市内の公園「東遊園地」にて「アーバンピクニック」を開始。
http://urbanpicnic.jp/
室谷恵美さん
LIFE CREATION SPACE OVE(オーブ) マネージャー
1968年、大阪府生まれ。スポーツ用品会社にて、新規事業企画開発を経て、マーケティング会社に勤務。住生活関連や食品メーカーなどのマーケティング戦略、企画立案に従事。2004年から、国内サイクルスポーツイベント企画運営や、自転車まちづくりに関する支援を行う。現在、株式会社シマノが運営するLIFE CREATION SPACE OVEマネージャーとして、自転車を活用した新しいライフスタイルの提案=自転車文化創造へ向けて取組む。
http://www.ove-web.com/
石川初さん
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科/環境情報学部 教授
1964年、京都府宇治市生まれ。東京農業大学農学部造園学科卒業。鹿島建設株式会社建築設計本部、Hellmuth、Obata and Kassabaum Saint Louis Planning Group、Kajima Design ランドスケープデザイン部、株式会社ランドスケープデザイン設計部を経て、2015年4月より現職。東京大学大学院新領域創成科学研究科非常勤講師。早稲田大学創造理工学部建築学科非常勤講師。登録ランドスケープアーキテクト(RLA)。
http://hajimelab.net/
平賀直武さん
株式会社デンソー バリューイノベーション室 ソーシャルデザイン課 
1984年、三重県志摩市生まれ。早稲田大学商学部中退。多摩美術大学の造形表現学部デザイン科卒業。在学中からデザイン事務所にて働き始め、アートピース製作やインスタレーションを主に担当。卒業後、家電メーカーでの勤務を経て、現在は株式会社デンソーの技術戦略企画室・ソーシャルデザイン課に所属。

全国各地で、人の暮らしに携わるメンバー

西村みなさん、簡単に自己紹介をお願いします。

筧さんこんにちは。issue+designの筧と申します。日本の社会課題や地域課題をデザインの力で解決するプロジェクトを全国各地でやらせていただいています。もともとは阪神淡路大震災元年のプロジェクトからスタートしました。

現在取り組んでいるフィールドが高知県の佐川町です。人口が1万4000人ぐらいの町に、この3年ほど入っています。4年前に新しい町長が就任されて、その就任のタイミングで声をかけていただき、佐川町のクリエイティブディレクターという職種をいただいてプロジェクトが始まりました。

町の10年ビジョンの「総合計画」をつくって、新しい産業と暮らしをつくっていくことを行政や町長と共にやっています。今、事務所も高知に移してより本格的にその町で活動しています。よろしくお願いします。

IMG_8871写真右が、高知県佐川町で活動する筧さん。
 

村上さん神戸から参りました、村上と申します。1995年の阪神淡路大震災のあと、16年間何一つしなかったんですけれども、2011年の東日本大震災で目が覚めまして、学びの場を通して町のために社会関係資本をつくれるんじゃないかと思い、「神戸モトマチ大学」を立ち上げて活動しています。

また、「東遊園地」という神戸市役所の真南にある公園をよくしようと、「アーバンピクニック」という名前で活動しています。神戸って地理的にコンパクトシティとしての魅力を発揮すべき町なのに、ど真ん中の公園が砂漠のようなまま放置されていて、誰一人歩いていない公園だったんですね。

この公園をよくしていくことが歩きやすい町につながるんじゃないかなと思って、自分たちで芝生を敷いて実験することにしました。人力勝負でアウトドアライブラリーと称したカフェを開き、芝生を敷いたら、一気に人がきて賑わいが生まれました。

ただ気持ちのいいところに人が集まるということではなく、その空間を自らがつくっていくことが大事なんじゃないかと思って市民からの本を集めたアウトドアライブラリーをしたりして、なるべく市民が主催者側に回れるようなプロジェクトを行ってきました。今日はこんな事例をもとに私なりにお話できればと思っています。

IMG_8894神戸市の「東遊園地」のプロジェクトに取り組む村上さん。
 

室谷さん「LIFE CREATION SPACE OVE」のマネージャーの室谷(むろたに)と申します。OVEは「株式会社シマノ」という自転車のパーツや釣り具の製造メーカーが、2006年1月から運営しているコンセプトストアです。

Opportunity(機会) Value(価値) Ease(気軽さ)をコンセプトに、自転車文化の向上を目指しています。具体的には、「散走」という愉しみ方や、カフェでは健康的な「食」のご提案、セレクトグッズやイベントなど、価値のあるコト・モノにふれる体験を通じて新しいライフスタイルを創造し、情報発信を行っています。

「散走」とは、自転車だけを主目的にせずに自転車プラスアルファを楽しむもので、文化、芸術、歴史、地域、食、自然、風景など、さまざまなキーワードをテーマに季節を楽しんだり、場所に会いにいったり、時間を楽しんだりします。スピードを競うのではなくて、散歩感覚で、とにかくゆっくり。

2014年に『散走読本』を発刊したことを機に、「健康・観光・環境に優しい自転車まちづくりの活性化」を目的に、全国各地で自転車まちづくりを推進する実践リーダー対象の「地域交流会」という学び合いの場をつくり、「散走」を提案しています。全国各地でも「散走」が実施されるようになりました。よろしくお願いします。

IMG_8906写真右が、自転車文化の向上を目指す室谷さん。
 

石川さん私は農学部の造園学科を出まして、専門が造園の設計でした。それでゼネコンに入り、建築の屋外空間の設計とか、デザインから実施設計までやっていました。

2015年4月から大学で研究室を持って教員をしています。研究室に、自分自身が仕事を長く続けてきた外部空間、地図、地理だとか、そういうものへのリテラシーを注入するのが今の課題です。

これまで、テレビ番組「タモリ倶楽部」に4回出ました。GPS受信機を持ってあらかじめ設計した道順に沿って歩き、地上に大きな絵を描いて、それを地図上に表示する「GPS地上絵」っていうのを盛んにやっていたころに注目いただいて。初めてGPS受信機を買ったのが2000年で、それから18年間ずっと自分の位置を記録し続ける生活をしています。

私自身が蓄積していくこの移動の記録を「一人ビックデータ」と呼んでいるんですけれども、日常的な移動の軌跡を何年も積み重ねていくと、自分自身の移動によって街の意外な構造や、道路や鉄道などのインフラのありかたなど、様々な物事が読み取れるようになります。

大学に移ってからは、研究室の学生たちに協力してもらって、スマートフォンのライフログアプリで位置情報を記録し、データを集めたりしています。

IMG_8920写真右が石川さん、写真左がデンソーの平賀さん。
 

人の暮らしを本当によくするための移動って何だろう

西村ありがとうございます。今日のセッションテーマは、「もっとも未来的な移動手段は、実は歩くことではないだろうか」です。企画に関わってくれた「株式会社デンソー」の平賀さん、プロジェクトの話も含めてお話をしていただけますか。

平賀さんソーシャルデザイン課の平賀と申します。本日のテーマは「ウォーカブルライフ」と設定していて、自動車でも自転車でもありません。「デンソーがなんで『歩く』やねん!」と思う方がいらっしゃると思います。実は、僕は2040年以降の未来がどうなるかを考える仕事をさせていただいています。自動運転車が町にあふれたとき、生活がどう変わるのかをずっと考えていたんですね。

車ってもっと公共交通機関に近しい存在になっていくんじゃないのか、町のインフラの一部として考えていかないといけないんじゃないのか、ずっと疑問に思っていました。

アメリカのポートランドという町は、先進的な公共交通の仕組みなどで有名です。マルチモーダルっていわれるバス、電車、自動車、自転車がシームレスにつながって、どこでも自由にいける素敵な町なんです。公共交通がちゃんとできていると、住みたい・住みやすいことに影響があるのではと思い、実際に2回いきました。

実際どうなのかというと、とても自家用車に冷たいですね。歩行者と自転車、トラムとバスしか走れない。自分の車を使ってくるんだったら遠回りしてくれっていうような、歩いている人に優しい町の設計がされていました。

DSC_0459ポートランドの自転車用信号機。(写真提供:デンソー)
 

都市計画の方にお話を聞いたんですけれども、「私たちは歩いて気持ちのいい町をつくろうとしている」と。交通は先ではなく、まず人が歩くっていうところが先にあるという話をされていました。住民の方にもインタビューをしてみると、彼らも「ポートランドは歩くのと自転車に乗るのが一番だ」とおっしゃるんですね。要するに健康によくて地域の活性にもよくて、環境保全にもいいっていうところに対して意識が高いのがポーターの特徴です。

そう考えたときに、われわれ自動車会社の人間として「人の暮らしを本当によくするための移動って何だろう」と。もしかして徒歩みたいな移動でしか出会えない何かがあるとか、そういう何かに出会えたり、何かいいことしたなというフィードバックがあるような移動が、暮らしを豊かにしていくんじゃないのか。何となくそう思ったんですね。

人と移動と暮らしがお互いにどういう距離感・関係性である状態が一番幸せなのか、歩けるところは歩き、どうしてもいけないところは車を使うっていう、いい関係性をつくっていくことはこれからのまちづくりに大事なんじゃないのかなと思って、今日のテーマとして挙げさせていただきました。

slideデンソーでは、ウォーキングプロジェクトを進めている。(画像提供:デンソー)

自分たちはこの町でこれから何をしていくか

西村筧さんは都市工学で博士号も取られているので、都市課題の観点もお持ちですし、地方で社会課題をデザインの力で解決することに取り組まれています。社会課題を解消して人が暮らしやすい町や、積極的に人の暮らしをよくするような町って、どういう町なのでしょう。

筧さん暮らしたくなる町……。今、町長と二人三脚でまちづくりをやっていて、一番大切にしているのは「住民の人たちが自ら何かにチャレンジしたり、自己実現できるような機会や場、つながりがある町にしていくこと」です。

自ら何かにチャレンジをして達成することが増え、町の産業が活性化していって、住民の人たちが幸せになって、それが結果的に町の未来を変えていくのではないか。それを一つの目標に、「総合計画」っていう町の10年後のビジョンをつくりました。

丸2年かけて「総合計画」をつくりました。2年で18回ぐらいワークショップを中学や高校などで開催し、500名ほどの住民の方に参加してもらいました。

ワークショップでは、みんなで議論しながら「町をどうするか、町にどうなってほしいか、何をしてもらいたいか」という視点ではなく、「自分たちはこの町でこれから10年何をしていくのか」を語ってもらいました。多くの意見や声、アクションが出そろいました。

集まったアクションを整理し、453枚のカードをつくって、役場の中心メンバーがカードを元に施策を立案していきました。それがまとまったものが町の未来だ、というプロジェクトですね。

総合計画01
総合計画03佐川町での「総合計画」づくりの様子。(写真提供:issue+design)
 

西村どんなところが大変だったんですか。

筧さん人がきてくれないと始まらないから大変ですよね。こういうワークショップの話をすると、だいたい行政の職員の方に「ワークショップって人がきてくれないんですよね」と言われるんですけど、参加してくれる人をどんどん増やしていかないと、こういう活動は前に進んでいかないので、そのための仕掛けを念入りにつくりました。

石川さん町長さんは、任期はいつまでなんですか。

筧さん2017年11月に次の改選です。

石川さんその体制が続いているのは重要ですよね。

筧さん人口が3万くらいまでの自治体は、強力なキーパーソンが一人いて、その人をサポートする人間がいれば、結構すぐ変わりますよね。ただし、定着させるには最低5年かかるかと。5年やれば、いなくなっても何とか地域が回り始める。

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町での「公園」のポジションとは

西村村上さん、公園の活動ではみんなに企画提案してもらっているそうですが、そのお話を伺いたいです。

村上さん今、日本中の公園で起こっていることって、それまであまり使われてなかった公園に芝生をきれいに生やして、周りにカフェをつくって、人がきて、人気が出たという、それは絶対いいことだと思っています。

でも一方で、「それもいいけど、その空間を自分でつくれるっていうことのほうがもっと素敵じゃないかな」と思うんですよね。僕も消費者のマインドがあって、「映画にいこうか、どこに遊びにいこう、素敵な公園があったらそこにいこう」と、選択をしている自分もいるんですけれども、そういう消費者の自分をちょっと越えた「つくる側に回りたい、市民でありたい」という自分もいたんです。

「東遊園地」は市民発案で、市民が手を動かしてよくしてきました。このまま市民が自分の市民性を育てられるような公園にしていきたいと思っています。公園を育てる側に回る市民をいかに増やせるか。そこをやっていこうと思っています。

自分のステージを自分たちでつくれるんだ、という町があったらちょっといってみたいと思いません? 自分もよくする側に関われるところをリバブルシティの新しい指標として入れられたらいいなと、夢見ています。

934A3105_kazuyayamawakiphotographs_066_cut「東遊園地」でのイベントの様子。(写真提供:アーバンピクニック)
 

石川さん私は公園を設計するサイドにいたので、あえての質問なんですけど、公園のミッションがあるじゃないですか。そこの地域に住んでいようがいまいが、そこにきた人は自由に使っていいというパブリックな場所であることが最大の建前としてあるわけですよね。

地元の人が育てている公園は、地元じゃない人たちにも同等に開かれていなくてはいけないっていう建前との折り合いはどういうふうについていくのでしょう。

村上さん町でこの町を本当によくしたいと思う人が、例えばセミナーやイベントをするとか、それが町にしっかりと残されて刻まれていくような改善の仕方を考えたとすると、実践できるところは公園ぐらいしかないと思うんですよね。そういう意味で公園という場を、自分のアクションを町にポジティブに刻んでいくための道場のようにしていきたいと思っているんです。

一方で先生がおっしゃるように、先にやった人の既得のコミュニティが生まれて、あとの人は入りにくい……みたいなことはありますよね。それも常にものすごく気を付けていて、「そこに参加するハードルが常に開かれているよ」っていうことが見えるようにしたり、極端な話かもしれませんが、仲のいい人が公園内にいてもあまりべたべたしない、みたいな。そこにコミュニティがないように見せることに、常に気を遣っていますね。

石川さんコーディネーターはいたほうがいい感じなんですか。

村上さん公園は、もっている宿命や、やっちゃいけないことは結構あるはずなので、そこをジャッジできる人はいるべきだと思いますね。

今日のテーマがウォーカブルライフなので、お話ししたいんですけど、本来は道を人がよりよくできたらいいんじゃないかと思っていて。道って移動のための通りになっているけど、もとは道で人と出会ってしゃべったり、子どもが遊べたりする空間じゃないですか。そういう場所としての道を復権していきたいんです。

石川さん道の可能性は感じておられると。

村上さん道はすごいですよね。ありとあらゆるところにあるわけですし。

石川さんパークの次はストリートに進出みたいな。

村上さんしたいですよね、本当は。歩くっていう交通手段は一番コミュニケーションと近いところにあるはずです。例えば公園がよくなるだけで、普段からそこをずっと通過していたはずの人たちが3年ぶりに出会ったりするんですね。居心地よくなるとコミュニケーションを誘発されるみたいなことがあって。

石川さんいい話ですね。

村上さん本来はその役割は道のほうにもっとあるはずで、道がよくなるとコミュニケーションが生まれるはずだと。

IMG_0448大人も子どもも一緒に楽しめるのが、公園の魅力の一つ。(写真提供:アーバンピクニック)
 

「いい道」って、どんな道?

西村石川先生、ランドスケープ的な観点や暮らしの観点から見ると、「いい道」ってどういう道なのでしょう。

石川さん一つは空間的によく設計されていて、歩きやすいとか景色がいいっていう道はちゃんとあるんですね。いろいろと研究されているし、歩きやすい歩道、どういう風景がここにふさわしいか、尾瀬のどこに木道を通したらいいかっていう話から、町の中の公園、緑道とか歩道の設計まで、いろんな設計者や研究者が考えていることですよね。

もう一つ、地元を歩き回ったりして実感するのは、細い道のほうが遠くへ続いているんですよね。太い道のほうがすぐに終わっちゃう。細い道って古い道が多いですよね。例えば駅までいくのに、計画的に新しく通ったバイパスじゃなくて、「こっちのほうが気持ちいいな」と無意識に選んでいる道って、あとで地図に重ねてみると、明治時代からある農道のあとだったりするんですよ。

古くから人が歩いていて残っている道のほうが楽しかったりするんですね。で、ここまでが建前的な、いい話です。

西村今すごく納得して聞いていたのに(笑)。

石川さん学生の集まりだったらここで終わりですよね。「君たちもいい道つくれ」みたいな。でもここは大人の集まりなので、その先があるんです(笑)。

道は、国道や車道といった一般的な道のほかに、「この道何年」などの自分のやり方や哲学、華道や茶道などでも使います。さらに、「抜け道」「近道」など、自分が主体的につくり上げているルートを指していることがあるんですよね。私は、この抜け道や近道に興味があるんです。

制度としてレイアウトされている道や、地図上には道として出てこないようなもので、自分が好きで通っているルートやコースがあるわけです。「近道や抜け道を教えて」って人に聞くと、おもしろいインタビューになるんですよ。その人がその土地とどう関わっているかが見えてくることがあります。

移動することでそこを通り抜けていく。主体的に加わっていけばいろんな組み合わせによって、その町に自分の道をつくることができるんですよね。それが自分にとっての「いい道」だと思うんです。

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「いい道」の発見って、必ずしも空間的に優れたところだけを選んでいってできあがるわけではないんですよね。「GPS地上絵」って、地図上で大きな絵が描けるところを探して、その通りに描くことで地上絵にするんですね。実際に路上へいくと、「人間はそこを左に曲がらないだろう」みたいなところを曲がらされる。だけど、そこを曲がらないと絵にならないからやむを得ずいくんですよ(笑)。そうやっていると、町歩きがいかに気持ちいいところを選んでいたかがよく分かるんですよね。

地上の事情とは違うルールで歩かされて出会う町って、発見があってすごくおもしろいんですよね。自分の意志では絶対にいかなかったようなところにもいくし、いい感じのカフェが見えているのにこっちに曲がっちゃうみたいなことも起きて、享受するものがまったく違う。そういうものが組み合わさっていくことで、「いい道」ってできていくんじゃなかなと。

西村そうするとさっき「ランドスケープ的な」と質問したんですけど、そういう意味ではあまり関係ないと……。

石川さんそれはまた水準が違うと思うんですよね。ポートランドのように町のクオリティをあげるためには、歩いたほうが気持ちいい空間をちゃんとつくることが重要だと思うんですよ。

だけどそれを享受しているだけでは、それこそ役所がつくった公園を単に使っているだけですよね。そこに自分が関わっていくことはどういうふうに発生するか。そのやり方の一つとして、道って意外と自分のチョイスと移動の仕方でクリエイティブにおもしろいものを発見できるんです。

西村同じ町でも関わり方を変えていけるってことですね。おもしろい。

「散走」で町の資源を見つける

西村室谷さん、自転車で町との新しい関わり方をつくっていくのが「散走」なのかなと思っているんですけど、自転車を使って町との関係をどう変えていけるんでしょう。

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室谷さん限られた時間で歩くと絶対に回れない距離や範囲を、自転車だったら端から端まで、濃密にじっくりその町を味わうことができるんですね。裏路地が楽しくて「こんなところがあったんだ」という発見がおもしろい。

自転車に乗ることが目的ではないので、自転車を止めて歩くこともあります。すぐに立ち止まれるスピード感で散歩のようにゆっくり走る、という意味で「散走」ですね。

自転車のイベントっていうと、サイクルジャージを着た参加者が集まるんですけど、そういう方は「走ること、自転車に乗ること」が目的の方が多いんですね。

石川さん止まらないんですね。

室谷さんOVEが行っている「散走」は、観光ガイドのように決められたコースを「ここからここにこういうコースでいきます」ってあまり解説しません。いうと予定調和になって、たぶん楽しくないんですよ。「ワインとチーズの旅散走」、「鎌倉紅葉散走」などのテーマや目的だけは伝えますが、どこを走るとかあまり詳しく言わないんですよね。「どこへいくんだろう?」というワクワク感が参加者に発見や感動をもたらしているのかもしれません。

DSCF1929「散走」イベントの様子。(写真提供:LIFE CREATION SPACE OVE)
 

西村「散走」でいく距離ってどのぐらいなんですか。

室谷さん20キロ前後です。短いので12キロとか。南青山にOVEがあるんですけど、そこから代々木公園にゆっくり遠回りしていく、9キロくらいの「散走」をやっても、参加者さんの満足度がとても高いですね。

長いものでは、OVEから横浜の中華町まで、40キロ弱。中華街で自転車を乗り捨てていただいて、ビールで乾杯しておいしいものを食べて帰る、いきっぱなしのものもあります。距離(長さ)ではなく、限られた時間の中で濃密な体験ができることが、満足度につながっていると思います。

三重県多気町にある中学1年生向けの課外授業コミュニティスクールで「散走」をやっているんですけど、このまちで暮らす中学生の9割が自転車通学なんです。

その子たちが考えた散走コースがとっても楽しくって、車が通らない農道や路地裏など、「こんなところに道があるの?」って驚くほど、自転車通学している子どもたちは道や町をよく知っています。自転車を置いて山の薮に入って抜け道を抜けると小さな滝があったり。子どもたちにとっては、景色や秘密基地のような場所、空気さえも、当たり前のように過ごしている町かも知れませんが、子どもたちが案内する「散走」に、とても感動しました。

子どもたちも、外の人から評価されるとさらに得意げになって、次々と大好きな場所に連れていこうとするんです。それってその町の資源であり、そこで暮らす“誇り”(価値)だと思うんですよね。

_DSC2567自転車を使って、町の魅力や価値を再発見する。(写真提供:LIFE CREATION SPACE OVE)
 

町を見直すことになった、ベンチづくり

西村筧さん、社会課題を解決するためには人々にいろんな行動や参加を促していくことになると思うんです。どういうふうにデザインが生きてくるのか、「こういうことをやると動く」というものはあるのでしょうか。

筧さん高知県佐川町のプロジェクトで、ちょうど一旦完結したものがあります。

佐川町は林業の町で、新しい産業づくりのテーマとして「林業とデザインとデジタルで新しいものづくりにチャレンジする」ことをやっています。具体的には、町の地域資源を使って新しいものづくりをする、デジタルファブリケーションの工房「佐川発明ラボ」を2016年4月からオープンしました。

この町は素敵な山野草がいっぱいあったり、歴史的な町並みもあったりするんだけど、みんなあまり歩いていない。「もっとみんなが散歩するような町にしたい。ベンチがあまりないからなかなか座れないんだよね」と言っている人たちが「つくりましょう」と話していて、「おもしろいな」と思って総合計画の柱の一つのプロジェクトにしたんですよ。

「この町で散歩をしたい、そしてちょっと休憩したい場所」をみんなで見つけて、そこにどんなベンチをつくりたいかを考えて、ベンチをつくるプロジェクトをやったんですね。

座ると山野草が見えるスポットとか、歴史的な鳥居があって座ると鳥居と桜並木と空の風景がすごくきれいに見えるとか、そういうのを持っていたりするんですよね、町の人たちって。6チームに分かれてそういうのをみんなで探してきて、町産の木材を切り出してきて、一つのベンチを2カ月かけてつくり、みんなでやすりがけをして、塗装をして設置しました。

みんなで座って「よかったね」ってビールを飲んで、「次回はこの班のベンチをつくりましょう」と、1年かけて6個つくりました。さすがにそのベンチは、みんなものすごく愛着が……。

石川さんそうですよね。“私のベンチ”になりますよね。

筧さんはい、自分でも使いますし、人にも座ってもらえて、散歩を促しています。

石川さんお気に入りの場所を提案する人は、何歳ぐらいですか?

筧さん子どももいれば、60代70代くらいのおじいさんとかも。幅広いですね。あと、「何をデザインというか」という話なんですけど、僕の仕事は全体の設計ですね。「町で皆さんが歩きたい・座りたいと思うところにベンチをつくるので、それをみんなで一緒にやりましょうよ」という、その動きをつくれるかどうかが僕の仕事です。

それをつくるために意味のあることがすべてデザイン。チラシのデザインもありますし、ベンチのスタンプラリー的なものをつくったり、広報誌で「このベンチが完成しました」と情報発信することで参加者が増えたりすることもそうだし。住民の方たちに全部を任せてしまうと、最終的にいいものができないとその動きは止まるんですよね。いいものができたと喜んでもらえない。

石川さんそこ、重要ですよね。

筧さんそこは狭い意味でのプロダクトデザインの仕事も必要で、まず段ボールで試作したものをどう木材のベンチに仕上げていくか。だけど「この人はこういった」、「これはなくしちゃだめだよね」っていうポイントもあるわけですよ。

石川さん
非常に重要な意味のデザインですよね。物体化する前のクオリティをそこで保証するというか、それがよくないと手ごたえがないというか、やってよかった感がなくなりますね。

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筧さん住民の人たちに考えてもらうワークショップの場のデザインも僕の仕事です。ワークショップの場で「みんながここにこういうものを置きたいよね」っていう緩やかなところを固めて、安全上の問題もクリアして設計する。そういう意味で、全部がデザインですね。

西村「これだったら使わないよ」っていうようなベンチと、みんなが「これだったらいいね」となるベンチのちょっとした差って、何なのでしょう。

筧さん一つは自分ごと化できるかどうか。自分ごとになれば「いいね」と思ってもらいやすいです。もう一つは、絶対的な美しさというか。

石川さんやっぱりものとしての強度というか、造形のよさって力を持っていますよね。

筧さん美しさの力は大きいですよね。その美しさの力に最後に触れられるように、その前のところを設計しておく。

石川さん今のセリフを、ものづくりに対する情熱を失いつつある昨今のデザイン系の学生に聞かせたいですよね、本当に。

西村ないんですか、そういう。

石川さんみんなソーシャルみたいなものになっていくなかで、形にすることが一緒くたに……軽んじられてきた空気があるじゃないですか。でもやっぱり形がよくないとね。

村上さんみんなができるようになってくると、質が落ちてくるときもあって。誰しも消費者としての目は持っているはずなのに、自分の熱量が高まるにつれて、「俺は今盛り上がっているからこれくらいのクオリティでも気にならない」と基準が下がってくる。

そういうときに筧さんのようなプロの方が、「いや、そうは言ってもあなた、消費者として見たらそれを選ばないんじゃないの」とうまくサポートしてあげる。クオリティが下がらないっていうのはとても大事。プロがすべきアドバイスなんじゃないかなと感じています。

筧さんでも、いろんな人がいろんな立場で関わってつくったほうが、絶対的にいいものができるんです。そのこともあまり信じられていなくて。「プロの人が上手にベンチをつくったほうがいいものがつくれる」みたいな価値観と、「みんなが楽しくつくればみんな楽しいけど、そこそこだよね」という、そのあたりが両極化しています。

みんなでつくったほうが絶対にいいものができるんですよ。僕はその中で最終的なフィニッシュをいいものにする役割を果たしているだけのプレーヤー。そこはチームワークですよね。そのチームをつくるのも、すごく大切なデザインだと思います。デザイナーって、周りとのコラボレーションが苦手な人がまだ多いですよね。

「歩く」ことと人の暮らしのつながり

西村最後に一言ずつお願いします。

石川さん「ウォーカブルライフ」っていうと人が歩いている絵を思い浮かべて、結局「歩いている私」みたいなのが先にきちゃうんだけど、実は自転車、公園、ベンチだとか、要するに周りの環境やステージ、ツールが重要なんだなと感じました。

そう思うと、目的や手段などを超えて「歩く」を実現する状況を僕らは考えていったほうがいいだろうなと思いました。

室谷さん歩くことや自転車に乗るのを目的にすることが、町で暮らす人々の心の豊かさにつながるとは思わないですね。「本当に豊かだなぁ」と思えたのは、ベルギーのブルージュやゲントで観た暮らしの風景でした。町中にはほとんど信号がないのに道を譲り合うモラルがあり、さまざまな文化が交流するコミュニティがあったんですね。

そこにしかない伝統や歴史、その町を誇りに思う地域の人たちに触れることができるゆっくりとしたスピード感だから、自転車も暮らしを豊かにしていると感じました。

村上さん「東遊園地」が芝生になったとき、毎日その横を通って散歩していた親子が「こんなところに公園ができてよかった」とびっくりしていたんです。でも、今まで公園だと見ていなかっただけで、公園ではあったんですよね、ずっと。

みんな注意深く歩いているわけではない。存在に気づいたときにウォーカブルライフとマインドフルネスな生活が結びついて、さらにWell-beingになるんじゃないかと。

僕たちができることは、移動のルートにしか過ぎない道がもっと気付きにあふれたところであると、気付かせてあげられたらなといつも思っています。

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筧さん歩くっていう行為や言葉、文脈が、とても人の生活と結びついている感じがしなくて。人は何かやりたい目的があった上で動くので、結果のほうばかりを考えながら町づくりがされています。そこに人の生活や気持ちがないことが、日本の都市企画やまちづくりの一番大きな問題ですね。「歩く」ことと人がどうつながっているか考えたいと思いました。

平賀さん筧さんがおっしゃったことがごもっともで、目的があって初めて移動だっていうのもまさしくその通りですね。そういうところを町の中でいかにつくりつつ、移動を提供する会社としてそこをどう進めていったらいいか、今後考えたいと思っているところですね。

西村みなさん、今日はありがとうございました。

小久保よしの 編集者
フリーランス編集者・ライター。編集プロダクションを経て2003年よりフリーランス。担当した書籍は『だから、ぼくは農家をスターにする』高橋博之(CCC)、『わたし、解体はじめました ─狩猟女子の暮らしづくり』畠山千春(木楽舎)など。 当サイトの他、雑誌『ソトコト』やサイト「ハフィントンポスト」などの取材で全国を駆け回り、東京と地方の行き来のなかで見えてくる日本の「今」を切り取っている。「各地で奮闘されている方の良き翻訳者・伝え手」になりたいです。
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