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ビジネスで社会を動かす。新しい生き方や豊かさ生み出す、企業のためのソーシャルデザイン。

フォーラム

毎回イノベーターとして注目される企業人をゲストに招き、企業や部門の枠組みを超えた新たな知のネットワーク形成を目指す「ミラツクフォーラム」。NPO法人ミラツクの主催で開催される本フォーラムの「秋の会」が、2017年10月7日、東京・日本橋に新しく登場した理化学研究所・未来戦略室にて開催されました。

フォーラムは登壇者によるプレゼンテーションとパネルディスカッションの二部構成で行われます。今回のテーマは「企業の新たな事業創出と社会デザイン」。当日は各パネラーから、企業活動を社会デザインに有機的につなげる取り組みとその手法について多様な具体事例が紹介され、活発な意見交換が行われました。

環境、医療、教育などさまざまな社会課題を解決し、新たな価値を生むしくみを作り出すために、企業はどのようなプロセスで事業を立ち上げ、進展すればよいのか。参加者にとって、社会デザインを加速する事業創出の実践的手法を学ぶ好機となった一日を振り返ります。

(photo by 樗木美紀

登壇者プロフィール
清原博文(きよはら ひろふみ)さん
株式会社デンソー 東京支社 バリューイノベーション室 ソーシャルデザイン課 課長
デンソーデザイン部門で自動車用計器類デザイン、店舗用スキャナーデザイン、携帯電話デザイン等のプロダクトデザイン経験を経て、様々な製品の技術PR映像制作、自動車用HMI(Human Machine Interface)デザインなどを行ってきた。現在はソーシャルデザイン課において生活者と共に価値共創するためのサービスデザインおよび社会課題をビジネスで解決するための企画に取り組んでいる。
高嶋大介(たかしま だいすけ)さん
富士通株式会社 ブランド・デザイン戦略統括部 デザインシンカー
富士通総研 実践知研究センター 研究員
大手ゼネコンにて現場管理や設計に従事後、2005年に「富士通株式会社」入社。ワークプレイスやショールームデザインを経て、現在では企業のワークスタイル変革や自治体の将来ビジョン、地方創生のデザインコンサルティングなどを担当。「社会課題をデザインとビジネスの力で解決する」をモットーに活動中。「HAB-YU」を軸に人と地域をつなげる研究と実践を行う。富士通グループは、大田区の「FUJITSU Knowledge Integration Base PLY(通称PLY=プライ)」や、浜松町の「FUJITSU Digital Transformation Center」など、「共創」の場を広げている。
山川知則(やまかわとものり)さん
株式会社文祥堂 クリエイティブプランニング室室長代理
NPO法人「日本橋フレンド」副代表
1981年生まれ。大学卒業後、オフィス関連総合商社「株式会社文祥堂」入社。オフィス家具、文具事務用品などの営業、経営企画室を経て現職。成果につながるオフィスづくりワークショップ主宰。文祥堂が創立100周年を迎えた2012年、間伐材をオフィス空間で活用する「ニッポン木環プロジェクト」を立ち上げ、国産間伐材のオフィス家具ブランド「KINOWA」を企画・プロデュース。オフィス空間の設計・施工で培われた知見をもとに、企業空間における間伐材利用を通じた“都市からの森づくり”に取り組んでいる。企業勤めの傍ら、NPO法人「日本橋フレンド」では副代表を務め、朝活イベント「アサゲ・ニホンバシ」などを中心にまちづくりにも携わる。

「成果につながる行動」という共通言語を通じたオフィスづくり

フォーラム第一部では、各パネラーによる自己紹介とプレゼンテーションが行われました。先陣を切るのは、「株式会社文祥堂」の山川知則さん。他社と協働して開発した国産間伐材のオフィス家具ブランドや、オフィス設計のフレームワークの開発など、老舗企業にイノベーションを起こすためにさまざまなプロジェクトを立ち上げています。

山川さん私が勤める「株式会社文祥堂」は、1912年創業の歴史の長い会社です。オフィス関連の総合商社で、オフィスの設計・施工を手がけています。

オフィスでは、メンテナンスのしやすさやコストが重視されるため、味気ないスチールパーティションや木目が印刷されたフェイクの化粧板など、金属・石油製品が多く使われます。私は常々、一番大切な「居心地の良さ」が置き去りにされているように感じていました。

そんななか、創業100周年記念事業として新規プロジェクトを立ち上げられるチャンスをもらいました。ヒントを探すために社史を調べると、創業者が丁稚奉公に出て、植林を手伝っていた記録が残っていたんですね。

当時求められていたのが、植林だとすると、いま求められているのは間伐材の活用。本物の木を使ったオフィス空間は、人間の五感できっと心地よさを感じられるはずだと思い、間伐材を使ったオフィス家具シリーズ「KINOWA」の企画・開発をスタートさせました。

KINOWAのプロダクト。(写真提供:株式会社文祥堂)

最初は全く売上につながらず苦労しましたが、デザインをデザインファーム「NOSIGNER」代表・太刀川英輔さん(ミラツク理事)にお願いしたことが転機になりました。

杉やヒノキなどの日本の木を使うと、和風のデザインになりがちですが、彼らのデザインの力で木の質感はそのままに、どんな空間にも合うシンプルなプロダクトができました。「間伐材の丸太と角材と板を素材のかたちのまま使う」というデザインルールを設定したことで、余計な要素が入る隙間がなくなり、結果として空間の質が下がることを防ぐことができています。現在、「KINOWA」をオフィスや店舗で導入いただけるケースは着実に増えてきています。

また、常々オフィスづくりのプロセスにも問題を感じていました。空間設計のプロセスは専門性が高く、どうしてもプロ中心でつくってしまいがちです。もっとユーザーを巻き込んでつくる方法があるのではないかと思い、ミラツクの西村さんと始めたのが「成果につながるオフィスづくりワークショップ」という新しい企画です。

まずミラツクの方々に依頼して、「成果につながるオフィス内の行動」について、成果が出ているチームのマネージャーにインタビューを行い、得られたデータを分析してもらいました。そこで得た180の要素カードをもとに、新しいオフィスづくりのサービスを共同開発しました。

ワークショップでは、このカードを机に並べ、「自社のチームで起こってほしい行動」をピックアップしてもらい、なぜそのカードを選んだのか相互にインタビューをしてもらいます。



180の要素のカードと、ワークショップの様子。(写真提供:株式会社文祥堂)

その上で「成果につながるフィス内行動」を横軸、「オフィスを構成する要素」を縦軸にマッピングし、ミラツクの強制発想法の方法でこれらをかけ算し、アイデアを出していきます。こうすることで、働く本人たちが中心となってオフィスの設計要件を整理することができます。

http://www.bunshodo.co.jp/workshop/
(2018年2月にサービス紹介用WEBサイトがオープン)

プロの目線でいきなり設計するのではなく、「成果につながる行動やコミュニケーション」という共通言語を通じて、プロとユーザー(顧客)がコミュニケーションをとってオフィスを共創する。そういう実験的なオフィスづくりに、今は最も興味があります。会社の主力事業と間伐材、ワークショップを有機的につなげることで、お客様にも社会にも貢献できる、そんな好事例を今後もつくっていきたいですね。

ソーシャルデザインが「Well-beingな暮らし」をつくる

清原博文さん。

つづいて登壇したのは、自動車部品のシェアで知られる「株式会社デンソー」の清原博文さんです。清原さんは現在、2016年10月に新設されたソーシャルデザイン課にて、デザイン思考のアプローチを用いながら社会や人々のライフスタイルを変革する新たなビジネス創出を目指しています。

清原さん私は現在、東京支社(※本社は愛知県刈谷市)のバリューイノベーション室ソーシャルデザイン課というバズワードだらけの部署に籍を置いています(会場笑)。

デンソーは自動車部品の開発・製造を行うメーカーですが、近年は新事業として生活関連機器や産業機器の開発も行っています。

さて、今年の初め、当社の社長が「デンソーグループ2025年長期構想」を発表しました。来たる事業環境の大変化に備え、今を第二の創業期ととらえ、我々も変わらなければならない……ということなんですが、なぜか縦軸も横軸もない、こういう絵が出てくるわけです。


2025年長期計画。(画像提供:株式会社デンソー)

(会場笑)

どうやら私たちはこの(黒線と赤線)間のギャップを埋めないといけないようです。

とにかく、バリューイノベーション室もそんな第二の創業期によって誕生したプロジェクトの一つですが、そこに関わる者として、まずは自分なりに「バリュー」と「イノベーション」の解釈について考えてみました。

私の解釈では、その時代において正しいことが「バリュー=価値」だと思っています。そして「イノベーション」は、今のお客さんを大切にしないことだと解釈しています。今のお客さんを大事にしすぎると新しいことに踏み出せない。つまり、今までの成功を否定することから始めないといけない。私はそのための方法論が「ソーシャルデザイン」だと思っています。

今までは常にニーズが先にあり、それをひたすら追い求めるのが企業としての正義でした。しかし、これからは「社会的に正しいこと=ソーシャルグッド」を見定め、追い求めていく必要がある。どうやって市場のシェアを奪い取るかではなく、「すべての人々がいい生活を送れる状態=Well-being(ウェルビーイング)」を作ることが求められる時代。そのエコシステムの構築が今のバリューなんです。

Well-beingな暮らし。(画像提供:株式会社デンソー)

私たちが考えるWell-beingな暮らしとは、「心身ともに快適さが担保された状態で、自分らしい生き方を送れること」。ここで言う「自分らしさ」には、ネガティブな要素や経験も含みます。例えば常識的には是とされない喫煙や飲酒、失恋なども、本人の生活に潤いが生まれたり、後々経験が糧になるなら、多少は認めようじゃないか、という考え方です。

重要なのは、これらを自分が意思決定して、自律的に行うこと。そして、その結果得られる快適さが、自堕落ではなく社会との良好な関係性につながること。今は、そのバランスが取れた状態から生み出される「利他」や「他愛」の気持ちを、社会の資源として流通・活用するしくみを作りたいと考えています。

具体的に取り組んでいるのは、次の三つです。一つ目は「生活が輝く移動」。これはミラツクさんの協力を得ながら、人々が出歩きたくなる、生き生きとしたまちをデザインしていくプロジェクトです。二つ目は「#アルカル」と言って、歩くことをカルチャーにするプロジェクトに取り組んでいます。移動の基本である「歩くこと」の価値を再発見し、新たな文化を作ろうとしています。

DELITA。(写真提供:株式会社デンソー)

最後の「DELITA」は、徹底的に効率の悪い物流を目指すプロジェクトです。本来、スピードや効率が最重視される物流のプロセスにコミュニケーションを付加することで、単に「モノが届く」「モノを届ける」という行為に豊かさをプラスするようなしくみを考えています。

オープンな共創の場から始まる「人づくり」と「ことづくり」の好循環


高嶋大介さん。

三人目は、「富士通株式会社」のデザイン部門で働きながら、社内外との協働でさまざまな新規プロジェクトを立ち上げてきた高嶋大介さん。共創プラットフォーム「HAB-YU」の立ち上げに関わり、人と人をつなぐ場づくりを目指す一般社団法人「INTO THE FABRIC」の設立など、企業のフレームを超えた活動に注目が集まっています。

高嶋さん現在の私の主な仕事は、東京・六本木の共創スペース「HAB-YU」の企画・運営です。

「HAB-YU」のオープンは2014年9月。人と地域とビジネスのハブ(HAB)となり、デザインの力でさまざまな課題を解きほぐし、新しい価値に結い直す(結う=YU)というコンセプトで運営しています。お客様と対話しながら課題を解決したり、社内の新規事業について議論したりして、新たな価値を生み出す実験場を目指しています。

ただ、当初は「ワークショップ専用の会議室」のような色合いが強かったんです。イベント運営のノウハウがないので、スペースの使い方がわからず、社内のワークショップやイベントに場所貸しをしているような状態でした。

風穴を開けたのは、「地域の新しいワークスタイル」をテーマにフィールドワークを行い、都内のワーカーたちをつなぐイベントを企画したことでした。私は当時、地域の新しいワークスタイルに関するリサーチプロジェクト(注:2013〜2014年にかけて行われた「富士通株式会社」と「ミラツク」による共同研究プロジェクト)に携わっていたので、そこで得た知見に「HAB-YU」でのイベントとウェブメディアによる情報発信を掛け合わせてみようと考えたのです。

これを機に、地域の課題を都市の人々と一緒に考えるプロジェクトがいくつも誕生しました。例えば、静岡県牧之原市との事例。廃校になった小学校でのマルシェ開催を目指していた彼らを、「HAB-YU」のイベントに招いて都会の人たちと共に販売戦略を練り、「ヒルズマルシェ」(六本木アークヒルズ内で広場定期開催される朝市)で実際に販売体験してもらいました。

もう一つ、印象的な事例が地元・港区の課題を行政や区民とともに解決する「ミナヨク」というフレームワークです。ここで重要なのは、行政が私たちに業務を丸投げするのではなく、プロジェクトに関わるメンバーすべてが「次世代の人づくり」という目標を共有し、地域アイデンティティの育成に取り組んだことです。


麻布のまちを舞台とした実験プロジェクト「おつかい大作戦」。(写真提供:ミナヨク)

具体的には、さまざまなワークショップを通じて港区のことを知り、地域課題の解決手法を学ぶプログラムで、現在3期目となりました。このプログラムでは、参加者がその後、自らプロジェクトを立ち上げる事例も相次いでいます。お使い経験の少ない都会の子供たちに、前述のヒルズマルシェで「初めてのお使い体験イベント」を実施したときは、参加待ちの大行列ができるなど大成功を納めました。

これまでの実践をもっと外にひらいたらどんなことが起こるのか? そんな思いから、2016年1月には「港区100人カイギ」をスタートしました。港区で活躍する5名のゲストを囲み、都市におけるコミュニティのあり方を考える全20回の企画です。最初20人だった参加者は、最終的に約650名まで増え、先日無事に20回を終えることができました。

現在は、渋谷に拠点を置くクリエイティブエージェンシー「株式会社ロフトワーク」、IT関連企業「株式会社インフォバーン」の有志とチームをつくり、同様の取り組みを渋谷区でも展開しています(渋谷区100人カイギ)。

このように、今では私の仕事の約半分は、協働プロジェクトによる共創のノウハウを社内外に伝える教育事業にシフトしています。地道に取り組みを続けてきた結果、「共創」によることづくりの重要性が理解されつつある手応えを実感しています。

企業人としての役割と社会的価値を生む活動は両立するか?

西村ここからはパネルディスカッション形式で進めたいと思います。今回は、企業の中でソーシャルデザインを円滑に進めていくためのフレームワーク、そして組織人としての役割とのバランスの難しさについて議論したいと思っています。まずは山川さんから、困難を感じた事例について教えていただけますか?

山川さん先日、あるお客様のオフィスに納入した間伐材の床材が、この夏の湿気で膨らんでしまったんです。

オフィス用の建材はローメンテナンスでローコストが鉄則ですから、通常は表面に木目が印刷されているフェイクの床材を使います。でも、それってやっぱり人間の五感をばかにしている気がするんです。だからこそ、ちゃんとした無垢の床材を使いたい。実際、無垢材を使うと、お客さんの満足度は段違いに良い。でも、今回のような事故が起きると、こうしたチャレンジングな製品を使うことがお客様にとって本当にいいと言い切れないのがつらいです。

西村なるほど。ほかの失敗体験もお願いできますか?

山川さん 「社会的報酬の罠」と呼んでいるものです。社会課題に取り組んだことでメディアに取り上げられ、社内外から褒められて、何かを達成しているような勘違いをしてしまうという状況を勝手にそう名付けました。実際には社会的なインパクトはほとんど出せていないので、早く勘違いから抜け出さなければいけません。

今は、いいオフィスをつくってお客様に価値を認めてもらい、その結果仕事のボリュームが増えて、使える間伐材も増えていく、という正の循環こそが本当の社会的価値であると今は思います。

調整力ばかりが求められる環境でイノベーターをどう育てるか?

西村ありがとうございます。続いて清原さんはいかがですか?

清原さん7年ほど前のことです。当時、東京支社のデザイン部のナレッジ戦略企画室という部署にいまして、そのときふと「デンソーのなかだけでデザインをし続けても、誰かが喜ぶ顔を直接見ることはできない」と気づいてしまったんです。

「ユーザーと直接向き合い、デザインで人を助ける仕事がしたい」。そう思ってデザイン部を飛び出し、新規事業として外出に困難を抱える高齢者や子育て中のお母さんを対象とした支援サービスを都内のタクシー会社さんと始めました。

勝手にプロジェクトを立ち上げて予算をもぎ取り、予約配車システムの開発に取り組んだりもしましたが、結論から言うとプロジェクトは断念せざるを得ませんでした。

西村なぜでしょう。

清原さん売り上げが伸びず、会社から「事業化の見込みがない」と判断されたからです。すでに開発した予約システムを試験運用している段階で手を引けば、先方に多大な迷惑がかかる。それでも上司はダメだの一点張りでしたね。

タクシー会社に事情を説明し、「志はあるので別の形で続けたい」と率直に伝えたところ「志だけでは関係の継続は難しい」と言われ、距離を置くことになりました。同志として二人三脚でがんばってきただけに、無念でしたね。でも、このときの苦い経験が、先ほどお話しした「生活が輝く移動」の原点でもあるんです。

西村プロジェクトを継続するモチベーションになっているんですね。二つ目は?

清原さん昨年(2016年)、東京支社のバリューイノベーション室ソーシャルデザイン課の課長に任命されたのですが、初めて課のデザイナーたちと対峙したときは衝撃でした。彼らがやっていたのは「クリエイション」ではなく「調整業務」だったんです。

一度、新規事業をゼロイチで生み出す経験をした私には、ギャップが激しすぎた。彼らに「それ、クリエイションじゃないよね?」と何度言っても理解してもらえないんですよ。これが二つ目の困難ですね。

西村本人たちには自覚がなかったんですね。

清原さんまずは彼らが自分たちで何かを発見し、生み出す力を養う環境をつくらなければと考えました。そこで、課の外から非デザイナー人材をどんどん引き込むことにたんです。社内のあちこちから「こういうシステムをつくりたい」といった声を自ら上げている人たちを探し出し、集めていきました。

おかげで素浪人のような自立心あふれる人材が高度に集積する部署になりました。周りから心配されるたびに「イノベーションには彼らの発想力が必要なんですよ!」と説明しています。いつのまにか一番やりたくなかった説明責任を果たす立場になっていた、これが三つ目の困りごとですね。

西村でも、だからこそ「アルカル」や「DELITA」が誕生したわけですよね。どちらもデンソーらしからぬプロジェクトですが。

清原さん「アルカル」は、文字通り「歩きながらアイデアを出す」、言わば「歩くハッカソン」のようなイメージですね。「DELITA」はモノの移動の未来像を具体化した自律移動ロボットです。無機質な物流というシステムに、コミュニケーションを付加することで生まれるWell-beingな価値を追求しています。

(★DELITAのコンセプトムービー

「DELITA」は箱の上部が開いて、モノを入れて自律的に運ぶことができます。ただ、モノを運ぶために移動する過程で、中身が入れ替わったり、付け足されたりする。例えば、りんご10個を運ばせると、道中で勝手に“おすそわけ”をしたりして半分に減っていたりするんですね。

(会場爆笑)

西村開発を担当したのは羽田さん(同社ソーシャルデザイン課係長・羽田成宏氏)という方なんですけど、彼は天才ですよね。

清原さんまあ……紙一重ですよね(笑)。彼に限らず、メンバーが全員アンコントローラブルで、自由なタイプの人たちです。

「社内でできないことは社外でやる」という発想の転換

西村高嶋さんにも困っていることをうかがいましょう。


高嶋さん社外での活動が多かったので、僕にとって仕事は「つくるもの」という意識がある。だから、組織の一員として言われた仕事を「こなす」ということが得意でなくて、モチベーションを上げるのに苦労しています。

例えば、僕はこれまで「会社の仕事80、自分のやりたい仕事20、将来に必要な活動50」というバランスで働いてきたのですが、働き方改革で「将来に必要な活動50」の活動を諦めざるを得ない状況になってしまった。

さらにデザイン関連の子会社から富士通本体に戻ったことで事務が増え、「80対20」の割合が「90対10」ぐらいになっている。どんどん自由がなくなっていくなかで、どうやって働くモチベーションを上げるのか。これが現状、一番困っていることですね。

西村組織のなかで、どう働くべきなのかが見えなくなっている、と。

高嶋さんデザイナーの仕事って、もう色・形をデザインするだけの時代ではないと思うんです。色の配置やレイアウトの組み合わせから最適なパターンを見つけ出すのは、むしろAIの得意領域ですから。インハウスのデザイナーがそこを突破するには「どのようにデザインするのか」というデザイン思考を身につけるしかない。企業人の役割を果たしながら、そこをどう導いていくかは悩ましい問題です。

西村「HAB-YU」の運営についてはどうですか?

高嶋さん「HAB-YU」は今年で3年目ですが、もともと「2年間は実験」として始めたプロジェクトなのでKPIは必要なかった。ところが3年経ったらあたりから、「ビジネスとしての成果」が求められ始めました。

こういうプラットフォームを提供するビジネスは、それ単体では利益化するのはかなり厳しいです。とは言え、会社が理解してくれているので色々な機会がある。できるだけ単体で稼げるようにシフトしていっているので、昔に比べれば凡庸になってきているかもしれません。

西村それで最近はより外部との連携を強めているんですね。

高嶋さんこの2年間、自由にやらせてもらったことが新しいスキルになって、新たな仕事を生み出しているなと今となっては思っています。利益を考えず自由にやったことでも、ちゃんとビジネスになって戻ってくるんです。だからこそ「将来に必要な活動50」は続けないといけない。そこで人事と話し合い、自分に合った新しい働き方をしたいと説得し、会社から公式に副業の認定をもらって2017年6月に一般社団法人をつくりました。

自由な環境を手にいれるためのそれぞれの方法論

西村高嶋さんが指摘したように、自由な活動は新たなビジネスを生むけれど、そもそも自由に振る舞う土壌がないというジレンマは、多くの組織が抱えています。とはいえ、パネラーのみなさんは比較的自由に動けている印象がある。その自由をどうやって確保してきたのか、山川さん、清原さんにも聞いてみたいのですが。

山川さん先ほど失敗談として「社会的報酬の罠」の話をしましたが、社内外で認められている雰囲気を演出するのは一つの方法かもしれません。

私の場合、社内からの見方が変わった瞬間が二つあって、一つは弊社で発行しているPR誌「BUNSHODO eyes」に大きく取り上げられたとき。これは営業担当がお客様に配る会社案内のような冊子なんですが、それまで無関心だった社内の人たちも「こちらKINOWAという弊社オリジナルの間伐材の家具でして……」と説明せざるを得なくなります。これまで無関心だったのに、いきなりめっちゃ説明してくれます。

(会場笑)

二つ目は、社内外の人が交流できるスペース「Linc」に「KINOWA」の商品を置いてもらったことですね。そういう場があると、「KINOWA」やその開発の背景について語る機会が増えます。同じ理屈ですね。社員の意識より、社内の環境やツールを変えるほうが、最終的に行動の変化に与える影響は大きいと実感しています。

だから今回のミラツクとの協働プロジェクトも、単にワークショップをやるだけでなく、カードという具体的なツールに落とし込むことが大切だと思っています。

西村清原さんはいかがですか? 個性的なチームが活動する自由を確保するための方法論はありますか?

清原さんチームには自由にこだわるメンバーがいる一方で、自由を嫌うメンバーもいる。そこは切り分けて考えます。自由にやりたい人は止めたって何したってやりますから、ほかのメンバーや場外から攻撃されないよう守ってあげる必要はありますね。

西村自由を確保する方法論として、社外との付き合いにも関心があります。山川さんは社外との協働案件も多いですが、社外の仲間たちとはどのように付き合っているんですか?

山川さんふつうの友達づきあいに近いですね。プロジェクトも進むにつれてだんだん友達感覚が強くなります。数字に対するシビアな意識が薄れそうになる点には注意が必要ですが、深いところで思いを共有しながら一緒にものづくりができる喜びは、得がたいものだと思います。

西村なぜそういう感覚になれたんでしょう?

山川さん自分の活動に自信が持てるようになったことが大きいです。いい製品をつくって、お客様に感謝されて、国産材の製材所の仲間に新しい仕事を還元できる。このサイクルを繰り返すことが、社会的な価値を提供できている自信につながっている気がします。

西村それは今取り組んでいる森林の保全や間伐材の利活用というテーマが「自分ごと」になっているからでしょうね。もともと森を守る活動に関心があったんですか?

山川さんいえ、まったく。銀座で働きたくて、リクナビで「銀座」というキーワードで検索して出会った会社なので(笑)。入社時には理想も目標も何もなかったですね。

西村仕事の一環で始めた森林保護や間伐材活用に、ここまでのめり込むきっかけは何だったんですか?

山川さん今の日本の山々には、戦後造林された木々が林業の不振によって今も大量に放置されています。でも、適切なしくみとデザインの力を掛け合わせれば、この問題は解決できる。「KINOWA」のプロジェクトを通じて、そういう希望や確信を得たことが大きかったですね。

西村信じた方向にまっすぐに突き進んでいく迷いのなさは、副業認定を取って社団法人をつくってしまった高嶋さんにも共通していると思います。高嶋さんはどのような判断軸で、自らの行動を決断しているんでしょうか。

高嶋さんどうしてもやりたいことを抑えられないときに行動に移しますね。社内でも社外でもこだわらない。大事なのは、お客様が喜んでくれるかどうか。お客様が一番喜んでくれることを提供できる人と、それが実現できる場所で挑戦すればいいと思っています。僕のポリシーは、「上を説得するのに1週間かかるなら、1時間説教されてもいいから実行せよ」。そのほうが圧倒的に事業スピードが早いからです。もちろん、できる限りの根回しはしますが。

西村失敗しても、とにかく始めてしまったほうがいい。

高嶋さん怒られたら、許容ポイントを探りながら、その都度方向転換していけばいい。そもそも僕は性格的に、コツコツ同じことを繰り返すのが向いていないんです。常に新しいことをしていたい。

あとは、やはり“多様な人との出会い”がおもしろいんです。もちろん富士通にもグローバルでは16万人の社員がいるので、なかにはおもしろい人たちもたくさんいるんですけど、たとえ同じ社内の人間でも、社外で出会うことが大事だと思っているんです。

西村社内というフレームを外したところで出会うことが大事なんですね。

高嶋さんじつは僕が立ち上げた一般社団法人は、8人いるメンバーのうち2人が富士通の社員なんですよ。意図したわけではなく、たまたま紹介された相手が富士通の社員だったという完全なる偶然で。それは個人対個人という関係だから出会えたわけで、会社という枠組みだったら出会えなかったと思っています。

実に不思議なんですが、社内でチームをつくってもどうしても誰からが指示をしてそれを受けての作業になりがち。社外でつくったチームは、全員がプレイヤーとして自律的に動いてくれる。同じように課題やゴールを設定しても、事業スピードや結果が大きく変わってくる。いったいなぜなのか、誰か答えを知っていたら教えてほしいです(笑)。

でも、これは社内外の両方で何十ものプロジェクトを運用した経験から感じることでもあります。みなさんにも、ぜひ社外とたくさん協働して、その違いを感じて見てほしいですね。

西村なるほど、それは興味深いです。みなさんに共有いただいたエピソードからは、現在の自分の肩書きや所属といった規定の枠組みにこだわらず、積極的に外側とつながること、そして外部のリソースを活用しながら地道に活動を続けていくことの重要性をあらためて認識しました。みなさん、貴重なお話をありがとうございました。

庄司里紗 ライター/ジャーナリスト
1974年、横浜市生まれ。国立音楽大学卒業後、フリーライターとして活動を始める。インタビューを中心に雑誌、Web、書籍等で活動後、2012~2015年の3年間、フィリピン・セブ島に滞在。親子留学事業を立ち上げ、早期英語教育プログラムの開発・研究に携わる。現在は人物インタビューのほか、地方創生、STEM教育、バイオテクノロジー、食の未来などをテーマに編集・執筆活動を展開中。明治大学サービス創新研究所・客員研究員。http://risashoji.net/
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