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個人の力を活かす新たな企業・組織像とは【”企業のなかの新しい価値”プロジェクト・報告会】

プロジェクト

ミラツクは、2017年10月から半年間にわたって大手企業から3人の出向者を受け入れ、「”企業のなかの新しい価値”プロジェクト」を進めてきました。副業の解禁や本業以外の活動に使う「2枚目の名刺」に代表されるように、個人の多様な生き方が広がっています。そうした個人の力を活かすために、企業や組織はどうあるべきか。そんな新たな企業・組織像を探るのがプロジェクトの目的です。

そして2018年6月21日、出向メンバー3人によるプロジェクトの調査報告会と、関係者を招いたパネルディスカッションを都内で開催しました。また、調査をもとに作成した新たな企業・組織像を探るためのツールプロトタイプを使ったワークショップも実施。今回はその調査結果の概要とともに、パネルディスカッションの様子を詳報します。

出向メンバーは、「NTTドコモ」の金川暢宏さん(イノベーション統括部グロース・デザイン担当)と「オムロン」の高塚皓正さん(イノベーション推進本部ビジネスクリエーション室グループリーダ)、若者の家庭訪問プログラム「家族留学」を展開する「manma」の青木優さん(取締役副社長)。パネルディスカッションには、「一般社団法人Work Design Lab」の代表理事・石川貴志さん、「アワシャーレ」の代表取締役・小嶋美代子さん、「NTTコミュニケーションズ」の金智之さんの3人に加わってもらいました。

(写真撮影:Yoshiaki Hirokawa)

出向メンバープロフィール
金川暢宏さん
株式会社NTTドコモ イノベーション統括部 グロース・デザイン担当 39worksアクセラレータ
大学院(建築)卒業後、株式会社NTTドコモに入社。自動車関連新規事業部門を経て、携帯電話の商品企画に従事。2011年から、シリコンバレーやイスラエルなどの技術スタートアップとの連携によるオープンイノベーションに関わり、顔パス決済サービスを社内起業。ベンチャーキャピタル子会社を経て、現在、社内新規事業創出プログラムの事務局・アクセラレータとして、イノベーションを生むための場やエコシステムづくり、人づくりに取り組む。2017年、企業出向にてミラツクに参画し、その他ASAC(青山スタートアップアクセラレータ)メンター、渋谷区100人カイギ共同発起人などの活動にも取り組む。
高塚皓正さん
オムロン株式会社 イノベーション推進本部 ビジネスクリエーション室 グループリーダー
画像処理スタートアップを経て、2008年にオムロン株式会社へ入社。研究開発、商品開発を経験した後、2012年より技術をコアとした新規事業創出および社内での推進組織構築に従事している。2017年、ミラツクに参画し、今回発表したプロジェクトを進めてきた。
青木優さん
株式会社manma 取締役副社長
2018年、お茶の水女子大学卒業。大学在学中まで工学を専攻する一方で、自身の生い立ちも影響し女性のキャリア形成に関心を抱く。「トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム」の第2期生としてフィンランドと台湾に留学。日本の若者が仕事も家庭も両立させたキャリアを自由に設計できる世の中にすることをテーマに、現地でインタビュー調査などを実施。以降、多様な生き方が尊重される価値観と家族の枠を超えた人々の交流の大切さに気づき、manmaやNPO法人ミラツク研究員の活動を通して、企業・自治体を巻き込み、新しいライフキャリアスタイルの提言などに取り組む。
登壇者プロフィール
石川貴志さん
一般社団法人Work Design Lab 代表理事
1978年生まれ。「リクルートエージェント(現リクルートキャリア)」の事業開発部門のマネージャーを経て現在、大手出版流通企業にて勤務。2013年に「Work Design Lab」を設立し「働き方をリデザインする」をテーマに対話の場づくりやイントレプレナーコミュニティの運営、企業や行政などと連携したプロジェクトを推進している。新しいワークスタイルに関する講演・執筆多数。三児の父。
小嶋美代子さん
株式会社アワシャーレ 代表取締役
1989年、「株式会社日立ソリューションズ」にエンジニアとして入社。金融機関向けシステム開発に従事。先端技術教育や大規模システム導入教育などのプロジェクトリーダーを務めた後、企業合併に際してブランド構築を牽引。2012年、ダイバーシティ専任部門で社内のダイバーシティを推進。2017年に退職し、「アワシャーレ」を設立。ダイバーシティに関する講演や研修、コンサルティングなどを手がけている。
金智之(キム・ジジ)さん
NTTコミュニケーションズ株式会社 経営企画部デジタル・カイゼン・デザイン室 担当課長
1981年生まれ。大阪府出身。九州芸術工科大学芸術工学部卒業後、「NTTコミュニケーションズ」に入社。コンタクトセンターの運用や映像・音楽配信事業での開発・運用を経て、2011年にUXデザインを社内に普及するチームを立ち上げ、経営戦略の立案や事業部門との実践活動、人材育成活動などに携わる。2016年、経営企画部デジタル・カイゼン・デザイン室に統合後も同業務に従事。

「企業の枠にはまらない」個人の11の力

今回のプロジェクトで出向メンバーの3人は、企業に属しながら外の世界でも精力的に活動している人や、会社を辞めて起業するなど主体的に活動の場を求めている人など、計11人のイノベーターにインタビューを実施しました。その内容を集約・分析し、彼らに共通する価値観や考え方をまとめたのが「『企業の枠にはまらない』個人の11の力」です(下図を参照)。

企業のなかの新しい価値PJ報告資料 11の力抜粋

一方で、出向メンバーの金川さんによると、これら「11の力」には”相反する””矛盾する”ような項目が並んでいることもわかったといいます。例えば、「現実にも向き合う」と「決まったやり方にとらわれない」、あるいは「社会的意義を大切にする」と「(売上増加など企業の)『目的』を意識した活動をする」などです。当事者である個人や企業は、この狭間のなかでときに悩みながら、突破口を見出している様子がうかがえます。

パネルディスカッションは、この調査結果と問題提起を踏まえて行われました。パネリストの石川さん、小嶋さん、金さんはインタビューに協力してくれた人たちで、「企業のなかにいながら外でも活動する人」「企業を辞めて外の世界へ飛び出した人」「企業のなかで活躍している人」の3つの異なるタイプのイノベーターたちです。さて、パネリストや出向メンバーが提起する新しい企業・組織像とは果たしてーー。

出向者とイノベーター。6人のセッション

金川さん(進行役)まずは自己紹介から始めましょう。

左から石川さん、金さん、小嶋さん

石川さん「Work Design Lab」の代表理事をしています。2013年から活動を開始し、個人の働き方や組織のあり方などに関するセミナーや勉強会などを開催しています。理事が5人、メンバーは40人ほどいます。それと、本業の出版流通企業では経営企画部門で新規事業の開発と既存事業の収益改善、主にこの二つの仕事をしています。会社は副業OKではないため、「Work Design Lab」については例外的に覚書を交わして活動できる状態にしてもらっています。40歳で、共働きの妻と小学二年の長女、幼稚園年中の長男、二歳の次女と都内で生活しています。

金さん所属している経営企画部デジタル・カイゼン・デザイン室は、IT・デジタルを活用して強い会社にしていく、そのカイゼン活動がメインの仕事です。それまでは音楽・映像配信などWEBサービスのエンジニアリングなどを経験し、7年ほど前からデザインの勉強を始めました。最近はUX(user experience=ユーザー体験)デザインの考え方を社内に啓蒙し、経営戦略やブランディングなども手がけるようになっており、「何やっているのか」を一言で言い表しにくいですね。

小嶋さん私が「日立ソリューションズ」を退職したのは2017年のことです。エンジニアとして入社し、28年間働いてきました。その間、教育やブランディング、ダイバーシティなど、異動を繰り返しながら様々な役割を経験してきました。次第に社内の仕事だけでなく、「二枚目の名刺」を持つようになったんです。最初は会社に申請するほどの活動ではありませんでしたが、理事として要請されたときから、名前を出して活動するようになりました。そして2017年に退職し、今はダイバーシティに関する仕事をしています。

青木さん子育て関連のスタートアップ企業「manma」を経営しています。私たちの先に待ち構える就職、結婚、出産、育児。ただ、それに対する教育機会がないため、将来に漠然と不安を抱える若者が多いのが現状です。就活でOG・OB訪問があるなら、「家族バージョン」があってもいい。そう思って始めたのが、家庭を訪問する「家族留学」です。学生組織を2017年1月に法人化しました。私は2018年3月に大学を卒業し、「manma」専業で活動していくつもりだったんですが、ミラツクで修行すれば「manma」もより成長できる。そう思って出向させてもらいました。

高塚さん新しいことを起こしていかないといけない。そういう課題意識から2018年4月に新設されたイノベーション推進本部に所属しています。もともとはR&D部門でエンジニアをしていましたが、2017年にイノベーション推進本部の前身組織に異動して、会社を俯瞰するような立ち位置で仕事をするようになりました。

そうしたなか、ミラツクの代表・西村勇哉さんが投稿したFacebookの人材募集に手を挙げさせてもらいました。ミラツクのような活動の重要性を感じたからです。「オムロン」の社内には出向の仕組みがなかったので、”出向のようなもの”という扱いで参画させていただきました。

金川さん私はイノベーション統括部という組織に所属し、主に社内新規事業を生み出すプログラム「39works」を運営しています。社内ではイノベーションの創出を実現するために、個人のモチベーションの関係などに取り組んでいて、次第に外でも活動するようになり、社外で知り合った方と一緒に渋谷区で「100人カイギ」というイベントを開催したりしています。上司がミラツクの西村さんと知り合いだったことが縁で、私自身が高塚さんと同様に出向のようなかたちでミラツクに関わることを希望しました。

組織”内”のコミュニケーションのあり方

金川さんさて、今回の11人のインタビューで見えてきたことの一つに、「会社・組織の内と外」というキーワードがあります。従来は会社以外の「外」といえばプライベート(家庭)だけという人が多かったのに対し、最近はプライベートとは異なる「もう一つの外」が存在する。11人は、共通してそうした価値観を持っていました。

最初にお聞きしたいのは、金さんです。金さんがやっている組織変革や経営戦略の仕事は非常にタフだと思います。インタビューでは「外」の経験を「内」で活かしているとおっしゃっていましたが、具体的にどう活かしてきたのですか。同時に、社内に新しい考え方や取り組みを浸透させるうえでどんな苦労があったのか。ぜひお聞きしたいです。

金さん2011年からUXデザインの考え方を社内に広め、実践していく活動をしてきました。当時所属していたR&D部門の所長が柔軟な人で、「やりたいことがあるならチームをつくってやっていい。予算もつけるよ」と言ってくれました。そこで、UXデザインの専門チームを4人で立ち上げたんです。R&D部門は社内にいろんな事業・部門があるなかで、営業などと比べると”やや外っぽい”部署でした。そこで社内コンサルのような立ち位置で、各部署で新しい事業をつくっていくような支援をしてきました。

純粋な外とのつながりという点では、勤務時間外にIT系の勉強会などに通ったりしていました。楽しく刺激的だったので何度も通うようになり、そこで得た知識を会社で実践することを意識していましたね。

ただ、「外」から「内」へのコミュニケーションは当初、まったく受け入れてもらえませんでした。「それをやる意義がわからない」と、ひたすら言われ続けてましたね。数少ない共感してくれる人は、大抵若手や現場寄りの社員です。中間・マネジメント層にまで理解を広げるのには、5年以上かかりました。

転機になったのは、社長が賛同してくれたことです。そこから私たちのチームは経営企画部に統合され、取り組みを一気に全社に広げるステージに突入しました。今は各部署のなかで、中間層の方々と一緒にプロジェクトを進めながら、成果を出していくことに力を入れています。成果・結果は、説得の大きな材料になりますからね。同時に、「外」へ連れ出すことも意識しています。経営幹部などに研修やセミナーに参加してもらったり、外部の講師を社内に招いて幹部を中心に話してもらう。そういう活動も地道に続けてきました。

石川さん私からも、金さんに質問させてください。社長が「やろう」と言ってくれれば、それは一番やりやすいですよね。ただ、社長の元に届くまでのアプローチが一般的には非常に難しいと思うんです。どういうルートで社長に行き着いたのか。詳しくお聞きしたいですね。

金さん今から4年前のことです。当時の私たちのチームには全然リソースがなかったのですが、カスタマーサポートを担当する部長と意気投合し、その人が幹部会議で「これからはデザインだ」と主張したらしいんです。カスタマーサポートの部署には日々、お客様からの意見がたくさん集まります。ただ、それを改善するには、サービス全体の設計にまで踏み込まなければならない。

でも、サービス部門は首を縦に振りませんでした。それでも、その部長は「組織が連携しながら、いいサービスをつくっていく必要がある」と強調していたそうです。社長も同じような課題感をもっていたので、「やろう」と方針付けられた経緯があります。

石川さん個人が外へ出る”越境学習”が広がっていますが、外で新しいモノ・コトを発見して、それを組織へ戻って再結合させることは重要です。ただ一方で、難しいことでもあります。社内のどこへ持って帰るのか。上層部なのか、それとも現場なのか。いずれにしても、私は「その人の気持ちに寄り添う」ことを意識しています。

「社会的意義があるからやりましょう」というだけでは、どうしても社内から攻撃されやすい面があります。だから一度、話す相手のことを”親族”と思って考えてみる。ムキになって正面突破だけを試みるのではなく、そうした意識を持つようにしています。それが再結合のルートの一つになり得るのではないか。そう思ってるんです。

金川さん小嶋さんは28年間も会社に所属したうえで、外へと出る選択をしました。「企業にいたからこそできたこと」をどんな風に考えていますか。

小嶋さんまず言いたいのは、企業に属しながら「これをやったらいいのに」「だけど上司がOKしてくれない」などというのは、自分が上の立場に立っていないから出てくるセリフであって、本人が上の立場に上がっていけば実現できるわけです。裁量を持てるようになれば、企業の「内」にいながらでも変えられるものはたくさんあります。ですから私自身は、常に裁量や権限を得られるようになろうと思って動き回っていました。

私の場合は、やりたいことを企業のなかで実践してきましたし、あるときから「どうすればできるのか」という方法論やロジックが見えるようになってきました。ただそうすると、逆に私が実践する意味が薄れてきたんです。私が会社を出た後に、後輩たちに「こうすればできるよ」とアドバイスをすればいいわけです。自分だけの場所やチャレンジを探そう。そう思って、会社を辞めて外へ飛び出しました。

金川さんそういう意味では、金さんは「企業内にいること」が少なくとも今は新鮮で、かつこれから新たに見えてくる世界があると考えているのでしょうか。

金さんそうかもしれないですね。例えば、UXデザインの考え方をベースにした経営戦略の構築やブランディンクから、そうした考え方を根付かせるための各部署への社内コンサルのような仕事を行っている一方で、WEB画面のコーディングなどの仕事もあります。会社全体のことを見る一方で、末端の業務もある。担当している業務の振れ幅が大きすぎて、かえってそれがおもしろいですね。

最初は理解してくれる人や部署が少なくて、少し腹が立つようなこともありましたが、次第に「うちの会社にはこんなにいい人材がいる。会社が変われば、社会にもっと大きな影響を与えられる」などと、思考もプラスに変化するようになりました。

左から金川さん、高塚さん、青木さん

誰がリスクと責任を背負うのか

金川さん「何かやりたい」という個人と、上司やマネージャーとの関係性はどうあるべきなのでしょうか。上司としては部下に外で好きなことをやられると、その分リソースが抜けてしまう。一方で、個人がやりたいことを大事にする意義も大きい。マネジメントする立場からすると、外の活動は最終的に社内で活かして形にしてほしいと考えているのか、あるいは別の意図や目的があるでしょうか。

小嶋さん決して最終的に形にならなくてもいいと思います。そんな小さいことにこだわっていたら、大きなことなんて何もできませんよ。「それで何ができるんだ」と言うような上司は、きっと行かせたくないんでしょうね。それに対して、例えば「売り上げが2倍になります」なんて言っても、それは本人も上司もお互い「やってみないとわからない」と心のなかでは思っているはずです。

それをお互いわかっていながらも、何らかのロジックを持ってきて”わかったふり”ができるような大人な関係もあれば、いつまで経ってもロジックは効かないけど、例えば三回飲みに行ったらOKしてもらえる。そんなパターンもあるでしょうし、口説き方や説得方法はケースバイケースだと思いますよ。

私も若い頃は正面突破しか考えていませんでした。ただ、正論で正面突破しようとすると、相手もムキになって折り合いがつきづらい。上司も本当に止めたいかというと、決してそうではない人も多いのではないでしょうか。上司が心地よくハンコを押せるストーリーをどうつくるか。それが重要でしょうね。

石川さん社内でリスクを誰が吸収し、受け止めるかは難しい問題ですよね。自分個人の活動なのに、社内の誰かにリスクを背負ってもらおうというのは正直難しいと思います。人事部長も、例えば何かあったときに社長から「誰が認めたんだ」と言われたら困るわけで、簡単にOKなんて言えません。人事部長に対して、先ほど言った”親族”のように寄り添そうとするとなおさらです。

部長にも家族がいて、子どもの教育費を払わないといけないかもしれない。左遷されて、給料を下げられてしまったら……。そんなことを考えると、部長にリスクを押し付けられません。
ですから私の場合は、ダブルワークすることのリスクは私自身についています。会社はOKともNGとも言っていません。「確認しました」と言っているんです。そうやって何らかの”抜け道”をつくるしかないのではないでしょうか。

バーターの関係をつくるのもいいかもしれません。例えば新規事業部門の幹部は、散々「オープンイノベーションだ」などとその必要性を叫んでいても、社内を見渡すとそんなイノベーティブな社員が全然いないわけです。
そこに私みたいな人間がいると、「石川くん、少し手伝ってくれない?」「こんな人を紹介してくれない?」と頼ってもらえることがあります。何か問題あったときに、私を切り離せるような状態を向こうにパスしておけば、うまく活用してもらえるわけです。そうすれば、こちらの無理なお願いにもたまには応えてくれる。そういうバーター関係です。

青木さん私はこのプロジェクトを始めた当初は、大企業に対して斜に構えていました。今は個人の幸福度を指標に生きていけばいいはずなのに、なぜ依然としてGDPや売り上げで成長を測ろうとしているんだろう。個人のやりたいことを突っぱねて、理解してくれない頭の固い上司がいる。そんな疑念を勝手に抱いていました。大企業にはきっとそういう空気があると想像したりして、就活もしたくないと思ってたんです。

でも、今は逆に好きになりました。みなさんの活動は自分がやるからには自分で責任とリスクをとって動いていることがわかりました。上司に突っぱねられて闘うだけではなくて、組織の枠のなかでストーリーをつくりながら一緒にやっていく。そういう風にして成り立っていることを痛感しました。

個人の力を発揮しやすくするために

金川さんそもそも、大学を卒業して大企業に就職するような安定志向の価値観も少しずつ変わってきているなかで、個人の力を存分に発揮してもらうために、会社・組織側はリスクの取り方を含めてどうすべきなのでしょうか。

石川さん私には、2つの考えがあります。まず、マネージャーやチームをまとめる側の立場から言うと、私のところで一緒にリスクを取ってあげることです。これがチームメンバーとのエンゲージメントを高めたり、その後の組織開発に活かしたり、あるいは逆にメンバーの力を借りる側に回るときなどにもコストパフォーマンスがいいと思ってるんです。

以前勤めていた会社のことを思い出しました。今考えてみると、私のあの無謀なアイデアをよく部長は受け入れてくれたなと思うわけです。ですからその部長には非常に恩義を感じていて、今でも何か頼まれたら”いざ鎌倉”ですぐに駆けつけたいと思っているほどです。

例えば、そういう熱い思いを持ったメンバーに囲まれている上司は、仮に失敗して社内評価が下がり、左遷されたとしても生き延びられると思うんです。私ならお世話になった上司がそうなってしまったら、異動申請してでもまた一緒に働きたい、助けたいという気持ちにさせられます。

チームメンバーがやりたいことの価値は十分わかる。でも会社を説得するロジックはつくれない。その”ずれ”を私のような立場の人間が吸収する。そういう関係性をつくっていけると、組織は強くなりそうな気がしています。

金川さん上司や先輩、あるいは部下とフラットな関係をつくる。そうした信頼関係を築くことは非常に大事ですよね。そうでないと、本来個人が持っている価値を活かすことができないはずです。金さんは、同じ経営企画部のなかに「変革しよう」という同じような熱をもったメンバーは数多くいるんでしょうか。

金さん感覚的には、経営企画部のなかにも複数の部門があり、もっと連携できれば効果的に動けるのに、と思うことが多いですね。私たちの会社には大きく「サービス」「サービス」「オペレーション」の三つの主要な機能別組織に分かれていて、その間でこぼれ落ちる仕事は誰も率先して拾おうとはしません。ただ、実はそれが重要な仕事であるケースが少なくないんです。それを私たちのカイゼンチームが拾う。経営企画部のなかでも、異質なチームです。

他の部門との距離を縮めるうえで意識しているのは、相手のことを分析することです。経営企画のなかで、「この人はこんなことがやりたいはず」というのをすべてリスト化して、「こういう考えでやったらうまくいくと思うので、私がやるから一緒にやらせてください」と相手に合わせてネタを変えながら実践していく。そういう意味では、リスクは私たちがとっているのかもしれません。

組織と個人の関係を考える際、両者の間にある「共通のやりたいこと」や、個人がやりたいことだけでなく「会社のメリット」をしっかりと伝えるべきだと思いますし、だからこそ上司も個人を自由に泳がせてあげる。そういう合意形成やコミュニケーションがうまくできるようになると、動きやすくなるでしょうね。

石川さん以前所属していた会社では、リスクの預かり方に関しては「とにかく課長が預かれ」と言われていました。最も水際にいる存在だからです。実際、私がメンバーのときには課長がよく預かってくれました。非常に助かりましたよ。

その会社ではもう一つ、「怒られるまでは怒られてない」とよく言われていた。「上司に怒られそう」とよく言いますが、それはまだ実際には怒られていません。つまり、「怒られそう」と勝手に萎縮してしまっている面があるわけです。ですから、実際に怒られてみることで、自分自身で「ここまでならやれる」というNGラインを確かめて、その範囲内でやれるところまでやる。当時はそんなことも意識していましたね。

会社のブランディングと個人の多様性は一致する

金川さん企業と個人の間にあるリスクや矛盾。それは、「社会的意義」と「利益」といった関係にも当てはまりそうです。社会的意義はあるけど、どう経済性を担保するのか。頭を悩ますケースが少なくないのではないでしょうか。

高塚さん企業のなかで社会的意義を大切にすることはビジョンとして掲げていながら、一方では売り上げや株主に対する説明責任なども当然必要です。バランスをとりながら両方を意識した活動を行うことが重要だと思いますが、そのバランスの取り方をみなさんはどう考えているのでしょうか。

小嶋さん利益を出すことは、社会的意義ですよ。それに反すると考えているところに、まず矛盾のスタートがあります。つまり、自分で無意識に相反するストーリーをつくり始めてしまっているんです。中学・高校の社会科の教科書に載っているような話なのですが、忘れてしまうんですよね。まず前提として、そこに立ち返ることが大事だと思います。

ただ、社会や組織のなかには小さいものから大きくて不条理のものまで、多くの矛盾があります。ときに個人の力だけではどうにも動かないことがあるわけです。この社会で生きていくことは、そうした矛盾や不条理に直面したとき、それを吐き出してはもう一度飲み込みしているうちに、少しずつ体が慣れてしまいます。
それをそのままにせず、しっかり考え続ければ、しかるべきタイミングで是正されていきます。私は大企業にこそ、その不条理をいち早く見つけて変えていく力があると感じながら働いていました。新しい矛盾や不条理を発見することが、むしろ活力になっていました。

私は、ダイバーシティの推進役を担っていた時期がありました。そうしたときによく言われるのは、「社内に抵抗勢力がいる」といった話です。ただ、なんのことはありません。会社や多くの社員からすれば、新しいもの持ち込んだり変えようとする人、つまり私自身が”抵抗勢力”なわけです。

むしろ自分が不条理をつくり出している分子だということに冷静に気づくことができればいいのですが、渦中にいるとなかなか気がつけません。そういうときに、二枚目の名刺をもったり外部へ越境してまったく異なる経験をすることで、そのことに気づかせてもらえるメリットはあるでしょうね。

青木さん今、小嶋さんにインタビューしたときのことを思い出しました。小嶋さんがブランディングを担当していたときに、すぐ隣にダイバーシティを推進する部署があったんですよね。つまり、会社を一つにまとめようとしているブランディングのチームと、一方で多様性を認めようとするチームが隣り合わせにある。でも、小嶋さん自身はダイバーシティのチームの人と仲が良くて、よく一緒にランチに行っていたという話でした。

小嶋さん一つのものを共有しようと言っている私と、違いにこそ価値があると言っている人。その二人がランチをしている。社内では「不思議だね」とよく言われていました。私たち自身は矛盾を感じていないのに、反発し合う部署だと思われていたようです。私は会社のブランドや理念を保つことと、一個人の間のエンゲージメントが高い状態にあることは一致すると考えています。

「日立ソリューションズ」を辞めるときに感じた最大の不条理、葛藤があります。それは、愛情と理屈です。会社から飛び出して新しいことにチャレンジしたい思いがある一方で、”日立愛”が非常に強くて、辞める最後の日まで会社が大好きで離れたくない思いもありました。今でも鮮明に覚えているのは、東日本大震災が発生した日、会社のヘルメットを被って帰宅していたときのことです。通りの向こう側に、同じ日立マークの入ったヘルメットを被った人を発見しました。その瞬間の安心感といったら……。あんなに危機的な状況で、日立マークにこんなにも安心感を感じるのかと、自分でも驚いたほどです。

金川さん今回のインタビューでは、会社に対してネガティブな感情を抱いている人はおらず、むしろ感謝している人が多かったのも印象的でした。いろんな方々にインタビューさせてもらい、本当に勉強になりました。どうもありがとうございました。

近藤快 ライター
フリーライター。1983年、神奈川県生まれ。2008年〜化粧品の業界紙記者を経て、2016年〜フリーランスに。東北復興新聞(発行:NPO法人HUG)で震災・復興現場の取材、50人インタビュー企画「Beyond 2020」を担当。災害時における企業・NPOの復興支援や、自治体の情報マネジメントを集積したWEBサイト「未来への学び」(グーグル社)のほか、化粧品業界やCSR・CSV、地方創生・移住、一次産業などを中心に取材〜執筆活動している。
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