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畏れを手放した先に待つ、ライフシフト時代の社会のあり方とは?【新たな時代に求められる未来企業 -100年人生時代のライフシフトと共創型人材の育成- シンポジウム その1】

シンポジウム

ミラツクでは、2017年6月から「経済産業省」とともにライフシフト人材に関する調査プロジェクトを、2017年9月から「富士通株式会社」「株式会社ワコールホールディングス」「レノボ・ジャパン株式会社」「株式会社日建設計」「大阪大学」の5つの組織とともに、「共創型人材に関するコンソーシアム型調査プロジェクト」を実施してきました。各プロジェクトでは、実際にライフシフト、共創型の取り組みを行なってきた実践者15名程度のインタビュー調査と分析、集約に取り組みました。

今回、成果共有と調査から得られた知見を交えながら、12名の方をゲストにお招きし、「新たな時代に求められる未来企業 -100年人生時代のライフシフトと共創型人材の育成-」をテーマにシンポジウムを開催。3つのセッションを行いました。

本記事では4名のゲストと進行役のミラツク・西村によるセッション1、「ライフシフトと未来の価値観・働き方」の様子をお届けします。会場は東京・六本木にある「ウィルソン・ラーニング ワールドワイド株式会社」イノベーションセンターです。

(写真撮影:yoshiaki hirokawa)

登壇者プロフィール
梶川文博さん
経済産業省 経済産業政策局 政策企画委員
早稲田大学法学部国際関係コース卒。2002年、「経済産業省」入省。中小企業金融、IT政策、デザイン政策、経済成長戦略の策定、産業競争力強化のための人材育成・雇用政策、経済産業省の人事企画・組織開発、ヘルスケア産業育成、マクロ経済の調査分析を担当した後に、2017年6月から現職。
井上浄さん
株式会社リバネス 取締役副社長CTO
東京薬科大学大学院薬学研究科博士課程修了。博士(薬学)/薬剤師。大学院在学中に理工系大学生・大学院生のみで「リバネス」を設立。「リバネス」創業メンバーのひとり。博士課程を修了後、北里大学理学部生物科学科助教および講師、京都大学大学院医学研究科助教を経て、2015年より慶應義塾大学先端生命科学研究所特任准教授、2018年より熊本大学薬学部先端薬学教授、慶應義塾大学薬学部客員教授に就任・兼務。研究開発を行いながら、大学・研究機関との共同研究事業の立ち上げや研究所設立の支援などに携わる研究者。ほかに、株式会社ヒューマノーム研究所代表取締役、株式会社メタジェン技術顧問、株式会社サイディン技術顧問などを兼務。著書に『抗体物語』(共著)、『iPS細胞物語』(共著)などがある。
高嶋大介さん
富士通株式会社 マーケティング戦略本部 デザインシンカー
総合建設業にて現場管理や設計に従事後、2005年に「富士通株式会社」入社。ワークプレイスやショールームデザインを経て、現在では企業のワークスタイル変革や自治体の将来ビジョン、地方創生のデザインコンサルティングなどを担当。「社会課題をデザインとビジネスの力で解決する」をモットーに活動中。「HAB-YU」を軸に人と地域をつなげる研究と実践を行う。富士通では、浜松町の「FUJITSU Digital Transformation Center」、蒲田の「FUJITSU Knowledge Integration Base PLY(通称PLY=プライ)」など、「共創」の場を広げている。
松本紹圭さん
未来の住職塾 塾長/神谷町光明寺 衆徒
1979年北海道生まれ。東京大学文学部哲学科卒業。武蔵野大学客員准教授。超宗派仏教徒のウェブサイト『彼岸寺』(higan.net)を設立。お寺カフェ『神谷町オープンテラス』を運営。2010年、ロータリー財団国際親善奨学生として、南インドのインド商科大学院(ISB)でMBA取得。2012年、お寺の経営を指南する「未来の住職塾」を開講。2013年、世界経済フォーラム(ダボス会議)のYoung Global Leaderに選出される。著書に『お坊さんが教えるこころが整う掃除の本』(ディスカヴァー21社)などがある。

これから大事になるのは「貢献寿命」

西村今回のシンポジウムは“ライフシフト”がテーマです。昨年、経産省とライフシフトについてのプロジェクトをやらせていただきました。100年ライフに向けて、新しい働き方や暮らし方をしている実践者にインタビューし、その人たちはこういう価値観やこういうきっかけを持って動いているんじゃないかという仮説をつくっていきました。セッション1は、そんな背景を持った4人の方に登壇していただきます。

梶川さん「経済産業省」の梶川と申します。経済産業政策局という部署で、政府の成長戦略の策定などに従事しています。

“人生100年”というテーマは、ひとりひとりにとって自分の人生が長くなるという話です。霞が関では、マクロからのトップダウン方式での議論が多いのですが、個人が何を考えているかに密着して、ボトムアップ型の政策立案ができるといいなと思い、試行的な取り組みとして、官と民で「フューチャーセンター」という名前でこうした政策をつくっていく活動を、2016年の夏から始めています。

この活動を通じて、今後どういう風に生き方が変わっていくのかをさまざまな方とセッションさせていただき、人生100年時代のライフデザインを考えるための冊子を「DESIGN 100’s LIFE」という形でまとめました。

「DESIGN 100’s LIFE」より

このセッションを通じて出てきたのが「貢献寿命」という概念です。これまで政策の目標は、平均寿命、健康寿命と変化してきました。しかし、人生100年時代を考えると、ずっと健康でいる人は実は少ないのではないかという議論になりました。

なんらかの疾患を抱えながら、それでも生きていく時代になる。だから健康じゃなくても誰かとしっかりつながって社会に貢献できる、そこに価値を置いてものを考える必要があるんじゃないかという話が出てきました。このため、健康寿命という概念だけでなく、「貢献寿命」をコアコンセプトにして、個人の生き方や経済社会システムも考えていく必要があるのではないかという議論を行ってきました。

企業や個人の行動変容までをどういう形で政策としてつくっていくか、というトライをしているところです。

好奇心をエネルギーにして生きる

井上さんみなさんこんにちは。井上浄といいます。僕はいろいろなことをやっていますが、結局何がやりたいかって、ただ研究がやりたいっていうだけなんです。なんでそんなに研究が好きなのかというと、僕の生きる力って「世界初の事実を目の前で、自分の手で証明できる」、これだけなんです。

研究の世界では、論文を調べると世界の端っこが見えてきます。世界の端っこで、その端っこよりちょっと出た部分を覗くのが研究者です。それが事実であれば、また世界の端っこが広がるわけですね。そんなイメージで、僕は毎日世界の端っこを見たいなと思い、好奇心をエネルギーにして生きています。ちなみに専門は免疫学です。

大学院で研究していたときに、教授に「これは絶対に面白いからやりましょうよ」と言っても、いろいろな都合でできなくなることがありました。これが悔しい。じゃあ自分で研究所つくっちゃえばいいやと思って、16年前に仲間と集まってつくったのが「リバネス」という会社です。

僕らは16年経って、9つの研究所をつくることができました。今、社員が70名ぐらいいて、半分博士で半分修士っていう、相当おかしな研究者集団です。研究者集団が会社を立ち上げて、奇跡的に16年間生きてこられたんですね。このノウハウは、これから技術を使ってベンチャーを立ち上げたい人の力になるんじゃないかってことで、創業支援という形で、シードアクセラレーションプログラムやファンドを使って研究を進めながら社会実装していこうというベンチャーのサポートもしているところです。

共創とデザイン思考で課題を解決する

高嶋さん高嶋大介といいます。「富士通」のマーケティング戦略本部という部署で、インハウスのデザイナーをやっています。2014年に、ここから歩いて2分ぐらいのところに「HAB-YU」という共創の場所を立ち上げて、そこで企画や運営をやってきました。一時期よく言われた“デザイン思考”というものを使ってお客様の課題を解決していくなかで、それを今度は社内に伝達し、浸透させる仕事などもしています。

六本木に拠点を置く共創プラットフォーム「HAB-YU」

そしてもうひとつ、先日ちょうど1歳を迎えたんですけど、「一般社団法人INTO THE FABRIC」を立ち上げて、副業を始めました。ちなみに「富士通」自体はまだ副業は解禁していません。人事と掛け合って、こういうことがしたいんだと思いを伝え、昨年4月に会社の了解を得られて起業しました。そのほかに、2016年ぐらいから「100人カイギ」というコミュニティも運営しています。

最近よく言われる“共創”と“デザイン思考”で課題を解決することが、ここ数年、僕がやっている活動そのものです。僕はテクノロジーのICT企業にいるんですけど、テクノロジーだけでは解決できないことがたくさんあるなと思っています。

IT業界の仕事はまだまだ受託型が多くを占めます。お客さんからこういうものをつくってほしいという要件が出てきて、それを入札して、確実に動くものをその通りにつくるのが我々の仕事だったんです。

でも最近は、お客さんも明確な答えを持っていないことが多いんですね。明確にはなっていないけれども、何かしなくてはという思いはあるので、そこを引き出して、「要はこういうことですよね、こういうことだったら富士通でできますよ」っていうところを一緒に考えていく、それを期待されているんだと思っています。

「培ってきたものを教えてください」と言われることも増えています。“デザイン思考”は、最近はもう普及期に入っているので会社員が身につけるのは当たり前になってきていて、人材育成というところで非常に注目が集まっています。「富士通」でいうと、昨年から営業5000名に対して、“デザイン思考”の教育を始めています。

ただ、散々“デザイン思考”って言ってますけれども、果たしてそれで「共創型人材」が生まれるのかということについては疑問だったんですね。“デザイン思考”を身に付けた人がどうやったら「共創型人材」に変わるのか。その次の一歩を考えようということで、昨年からコンソーシアム形式で「ワコール」さんと「レノボ」さん、「日建設計」さん、「大阪大学」さんと一緒に調査を始めています。こういった活動を通して“デザイン思考”を身に付けた人が、未来をどうつくっていけるのかを考えていきたいと思っています。

家住期が終わらない日本

松本さん松本紹圭と申します。神谷町の「光明寺」というお寺から歩いて参りました。もともと寺の出身ではないんですが、お坊さんになりたくて、15年前に門を叩いて行ったところが「光明寺」でした。

僕は歴史の長い業界の、業界変革がやりたかったんだと思うんですね。たとえば「神谷町オープンテラス」というお寺カフェもそうですし、ずっとやってきているのが「未来の住職塾」というお坊さん向けのビジネススクールです。卒業生が全国に600人ぐらいいまして、ネットワークもずいぶん広がってきました。ほかに最近、力を入れてるのは掃除ですね。「テンプル・モーニング」というお寺の朝掃除の会をやっています。

インターネットがこれだけ普及して、いろいろなものが横並びで可視化できるようになってきました。その中で感じているのは「ポスト宗教」ということです。最近、新聞でオウムの事件に関するインタビューを受けました。そのときに話したんですけど、果たしてオウムを笑える人がいるのかと。

「オウム真理教」、それはもうエクストリームカルトなんですけど、じゃあオウムに入らなかった同時代の人たちも、会社で社長がつくった変な歌を歌わされたり、構造的には大して変わらないんじゃないかなと。オウムがエクストリームカルトだったとしたら、普通の会社もマイルドカルト。それはもう日本社会、至るところにはびこっていると思うんです。そういう意味で、宗教っていうものはそろそろ終わりにしようじゃないか、もっと前に進んでいこうよっていうことを考えているところです。

最後に関連するテーマとして、「四住期」という、インドの伝統的な人生の4つのステージを紹介します。「学住期」「家住期」「林住期」「遊行期」。まずは学生でいいんですね。ここから社会人となって家庭を持ち、仕事をバリバリする。でもこれで終わりじゃないんです。「林住期」。林に住んで、仕事や肩書き、義務から解放されて、自然に親しみながら人生を振り返り、死生観を深める期間。そして最後に「遊行期」。この世への一切の執着を捨て去って、死に親しみながら思いのままに祈り、巡礼して過ごす期間。

でも今の日本の人生って、「家住期」が終わらないんです。元気に働くのもいいんですけれども、なんのために生きているのか、どういう風に死を受け入れていくのかっていうことにも目を向けていく必要があるんじゃないかなと思っています。

四住期は、インドの伝統的な人生の4つのステージ

日本は家住期が終わらない

西村ありがとうございます。官僚と科学者と企業人とお坊さんという組み合わせでディスカッションを始めたいと思います。最後に松本さんがお話していた4つの人生のステージというのが面白いなと思いました。「家住期」が終わらないということは、移れずに済んでしまっている、ということなのかなと思います。「家住期」から「林住期」には、どういう風にトランジションしていけるんでしょうか。

松本さんインドは「巡礼の旅に行ってきました」みたいなことが身近な国なので、そういうシフトが自然にできているんだと思うんですね。

一方で日本を見たときに、お寺で話題に上がるのは、お葬式がどうの、お墓をどうする、戒名料がどうだとか、全部経済の話なんです。最近は終活が盛んですけど、あれも事務手続きですよね。遺産をどうするかとか、そんな話で終わっている。なんのために生きていたんだろうという問いを持たないまま、死に触れることを先送りした結果、気がついたらお葬式。

それは医療の問題とも結びついていて、医療費がどんどん上がっていくことにもなっています。つまり、本人も周りの家族も死生観を持てていないから、先送りして延命するしかないんですね。延命した先に何があるのかよくわからないけれども、自分で死を決められない。別にバチっと切らなくてもいいとは思うんですけど、そろそろそういうことにも親しんでいこうか、みたいなトランジションは意識的にするのが大事かなと思います。

西村親しんでいくという感覚はすごくいいですね。悩むとか変わらなきゃみたいなプレッシャーじゃなくて、次の人生に親しむ、そういう感じですね。

井上さん僕はお話を聞いていて、全部データを取りたいなと思いました。幸せってなんなのかについては、サイエンティフィック(科学的)にも物差しがないんです。たとえばドーパミンが出ていれば幸せなのか。だったらスイッチ入れて「パチン」と指鳴らしたらドーパミンが出る、みたいにしたらみんな幸せかといったら、たぶん違いますよね。

幸せをサイエンティフィックに考えると、「今までよりもどうか」という自分の中の差分なのかな、っていうのはいつも考えています。つまり、何がベストは存在しない世界。とにかく1回データとらせてもらっていいですか(笑)。

西村600の寺でデータが取れますから。

井上さんやばいですね。ずいぶん取れますね(笑)。

会社のリソースを使えるうちに次のチャレンジへ

西村高嶋さんに普通の人代表として話を聞きたいんですけど(笑)、たとえば自分の会社を立ち上げるとか、コミュニティ活動に入っていくとか、そういうことをやってみようと思ったきっかけを教えてください。

高嶋さんじゃあ普通人代表としてお話したいと思います(笑)。でも浄さんが、「モチベーションは好奇心だ」って言いましたけど、基本的にそれと一緒なんですよね。やりたいからやるっていうだけ。会社の枠組みでできないから諦めるんじゃなくて、できないならできる枠組みを考える。研究所をつくるのと同じ発想で、どうやったらできるかを考えた結果、会社つくっちゃおうと。そういう発想ですね。

西村そのなかにある普通の人の不安感はどうですか。

高嶋さん不安だらけですね。当然、企業には楽しいこともいっぱいあります。でも、なんで副業を始めたかっていう話にもつながるんですが、数年先を見たときにどうなっていくのかという不安が圧倒的に大きかったのが、始めたきっかけのひとつなんです。

企業の方はわかると思うんですけど、営業職、開発職、総務職、あるいはデザイナー、エンジニアっていう風にいろいろな職種がありますよね。でも企業が大きすぎると、あなたは産業担当の営業です、あなたは医療担当のデザイナーです、みたいな形で、さらに業種で分かれるんです。そうやって切られていくと、定年を迎えて次どうしましょうとなった段階で、自分が会社員時代にできるようになったことって本当に少ないんですね。

今は大企業でも数年後はどうなるかわからない時代だと思っています。それと、終身雇用というシステムはもう崩壊してるんじゃないかなと思います。だからこそ、会社のリソースを使えるうちに次のチャレンジをやってもいいんじゃないかなと。本当に不安、ですよね。社会に対しての不安、って言えばいいですかね。

西村その不安を松本さんのありがたい話で解消してもらえますか。これが普通の現代人の不安なんですが。

松本さんみんな不安ですよね。最近は、人生相談でもそういうものが増えています。お寺でいうと檀家制度は終わりましたっていう話でもあるんですけど、終身雇用は終わりましたよね。

西村ってことはお寺にも不安があると。

松本さんうちはお寺さんの駆け込み寺化してます。

西村ちなみに駆け込まれたらどうするんですか。

松本さん駆け込まれたら、やっぱりそれは「傾聴」します。

西村なるほど(笑)。

松本さん不安感は蔓延してるなと思います。さっき「宗教が終わった」って言いましたけど、会社だってマイルドカルトみたいだし、たぶん官庁もそうじゃないかなと思いますし。

井上さん今、日本の人口は減ってるんだけど、世界的には増えているんですね。みなさんお肉食べますよね。でもこれ、まもなく足りなくなるんですよ。そんな中で、「そうだ、肉は筋肉細胞だ、自分たちは細胞の培養ができる、じゃあ筋肉細胞を培養したらいいじゃん、培養して増えたらそれを食べればいいじゃん」っていうベンチャーが、3億円の資金調達に成功したんですよ。すごいですよね。

ほかにも尖った技術を持ったスタートアップや驚くような研究に没頭している研究者もいます。だからもう、これってある意味カルトなんです。ただ、それぐらい集中して信じ込まない限り、世界初はなかなか実現できないと思うんですよね。だから僕は、マイルドカルトも使い方によっては悪くないんじゃないかと思います。

松本さんそうですね。それをちゃんとわかったうえで、今とりあえず自分はこれにハマっとこうと。でも大切なのは、ハマりつつ、ハマっている自分をちょっと引いて見られるメタ視点だと思います。

目的意識はあるが、コアコンテンツがない人はどうするのか

松本さん今もっとも急速に信者を減らしているのが、国という宗教じゃないでしょうか。20代の人と話していると、年金ももらえなさそうだし経済もやばそうだし、大丈夫かなと思っているのをすごく感じるんです。

だからこそ就職した会社を逃したら本当にやばいかもしれないと思って、しがみつかざるを得なかったりする。今までは抑圧構造は抑圧構造だったとしても、ある程度安定していたからわかりやすかった。それがぐちゃぐちゃになってきて、本当に心底不安な状況が出現しているのかなと。

西村ここは梶川さんに聞きましょう。

梶川さんみなさんの不安に応えられるかわかりませんが、すごく個人的な見解をお話しさせていただきます。

「経済産業省」に入ってくる人は、ふたつの属性を持っています。ひとつは、国全体で抱える課題をトップダウンで解決したい人。もう一方は、「経産省」というプラットフォームを活用して、NPOとかベンチャーとかいろいろな方に触れながら、ボトムアップで自らが大事だと思う社会課題を解決したい人。

僕はどちらかというボトムアップ志向が強いのですが、世の中のために何かしたくて、それは国の仕事でできるんじゃないかと思って「経産省」に入りました。私が就職した時点では、多くの同僚は、自分自身にコアコンテンツがない状態なので、専門性で貢献するというよりは、目的意識と仕事へのガムシャラさを持っている集団というイメージでした。

最近、入省15年目ぐらいで辞めた仲間がいましたが、その人は自分なりのコアコンテンツを追求していきたいという方でした。それは何を意味してるのかというと、国そのものの価値がなくなったっていうよりは、それまで「経産省」っていう下駄を履いていろいろな人に会わせてもらい、個人の名前だけじゃないところでその価値を活用させてもらっていた人が、「もう下駄がなくても生きていけるよ」っていう風に思えたということだと思うんです。

ライフシフトの観点でいくと、コアコンテンツがある人は組織に縛られる必要がなくて、まさに自分のやりたいことに対して場所をつくっていけばいい。ただ、なんらかの形でまだ探しているとか、やりたいことが必ずしもこれだと決められない人間は、そういう場を使いながら下駄を履かせてもらってやっていくっていうのもありなのかなと。

高嶋さんなんとなくつながりそうなんですけど、2ヶ月ぐらい前に「自分のキャリアって意外と考えてないよね」っていう話になって、キャリアをデザインするワークショップをやってみたんですね。若い女性が多いかと思っていたら、年齢層が高い方も3割ぐらいいて。ワークショップの途中で実際にキャリアを描きだしたら、40代ぐらいの男性陣の手がピタッと止まったんですよ。自分たちが「この後何をしたいか」というキャリアを考えるところで書けなくなっちゃう。

たぶん今、梶川さんがおっしゃったように、何かしたいけど得意分野がなくて、でも思いはあるんだよねっていう人たちは、すがるところが会社しかないっていう気がしています。でも、会社はそういう人たちを外に出しちゃいけないとも思うんですよね。そうしないと、本当にただすがる人しかいなくなってしまうので。

井上さんお話聞いてて思ったんですけど、現状を解決するという意味で、50歳になったら森に解き放たれるという選択肢を選べる形にしたらいいんじゃないですか。そちら側に価値を感じる人は50歳で退職できて、残りの給料を含めて退職金としてあげますと。その代わり、森でなんかやってっていう。

西村森じゃなくて林ですね。森はちょっと奥深すぎます(笑)。

大切なのは、お互いに畏れを取り除く「無畏施」

西村松本さんに聞きたいんですが「なんか不安なんです」みたいな人がどうやったら「さぁ! 研究だ!」っていう風にトランジションしていけるんでしょうか。

松本さん「お布施」ってあるじゃないですか。

西村「お布施」とか「傾聴」とか、出てくる仏教用語がいちいち面白いですね。

松本さん布施には「法施」「財施」「無畏施」と3種類あるんですね。法施は仏法の法を差し上げる。知恵をおすそ分けしていく。財施はお金と金品。財産を手放して、手放すことで自由になる。3つめ、あまり言われないんですけど、これこそが重要です。「無畏施」、つまり、畏れが無い。不安を取り除いてあげるという布施です。

畏れから行動すると萎縮するし、抑圧からも抜け出せないんですね。心の底の声を聞くと、そろそろ次に移ったほうがいいんじゃないかって言ってるんだけど、いろいろな理由を挙げて進めなくなる。それは自分だけではなかなか乗り越えられないことでもあるので、お互いに畏れを取り除く布施をし合うんです。

さっき浄さんが「データを取りたい」って仰ったじゃないですか。企業の人事の方と話していると、どうやって社員のパフォーマンスを上げるかとか、その人に物差しをあてて、一人あたりの売り上げがどうだとか生産性がどうだとか、結局最後は個にいっちゃうんですね。

でも仏教の世界観、ものの考え方にそもそもコアはないんですよね。諸行無常で諸法無我なので、ほかと独立して存在するものは何もない。だから今、私がこうして喋っている言葉ひとつとっても、こうやって聞いていただける方がいて初めて出てきているわけです。今喋っていること自体、言ってみれば共同作業である。

そうすると、データを取るのは個じゃなくてありとあらゆる関係性、その間の変数でとっていかないといけないんじゃないかなと思います。

梶川さんちょっと違う視点からになりますが、ポスト宗教と畏怖みたいな話ってこの先どうなっていくのかを考える必要があると思ってます。今まで宗教が培ってきたものが崩れる、信頼するものがあった時代から、それがなくなっていき、多くの人はなんらかの形で拠りどころを必要としています。その時代に松本さんが宗教じゃないって仰ることに、どういう意味合いがあるのかなと。

つまり、今の話だと個人が強くあるべきだっていう話でもないですよね。「貢献寿命」って話をしましたが、幸福感は関係性の中でどうやって感じられるんだろうか。価値観なのか関係性なのか、何を求めて我々の社会は良くなっていくのだろうかみたいなところは、すごく大きなテーマかなと思いました。ポスト宗教とは何かをお聞きしたいです。

松本さんはい。ありがとうございます。私が言う意味での宗教って、やっぱり「イズム」だと思うんですね。

もともと仏教は宗教じゃなかったんだと思うんです。縛るものでもないし、ブッタは「私の教えは筏に過ぎない」と言っています。「川を渡っちゃったらもう要らないから捨ててね」って言ってるんですね。そのぐらいのさばけ方で、「俺が渡らせたんだからずっと筏乗ってろよ」、あるいは「誰のおかげで渡れたと思ってるんだ」っていうイズム的なものは、そこには全然ないわけです。でも人がやることなので、だんだんそういう風になっていっちゃう。絡め取られていっちゃうっていうんですかね。

私は宗教の真ん中にいるからこそ、1歩先に進んでいくために、そういう宗教はもうやめようというメッセージを発していくことが重要かなと思っています。私の用語になりますけど、宗教というのはイズム的なもの。畏れで縛っていくもの。大事なのは、ほかの物差しやイズムに明け渡すことなく、自分の頭で考えて、自分の頭で行動していくこと。

でもそのときの自分っていうものをどのレベルに置いていくのかは、やっぱりポイントになってきます。それをエゴにしてしまうのか「BEYOND ○○」にしていくのか。そのときには、仲間やつながりが大事になるっていう結論なんです。

これからは「喜怒哀楽ワク」!

西村そろそろ時間です。最後に、「畏れを手放した先にどんな社会があるんだろう、これがライフシフト時代の社会のあり方なんじゃないか」と思うことをひとことずつコメントいただきたいと思います。

井上さん僕は、そのうちお金を払って働く時代がくるんじゃないかと思っています。さっきのお布施って、その考え方と近いのかなと思いました。それとポスト宗教って話がありましたが、僕はポストヘルス、健康の向こう側の研究をずっとやっているんです。最先端のベンチャーと一緒にやっていると、世界が健康になるのが見えてくるんですよ。

僕が生きている間かどうかはわからないですけど、比較的早い時期にみんなが健康を手に入れる。今、健康のためにジムに行ってお金を払って体動かしますよね。昔の人がジムを見たら「うそ〜ん、金払って走ってるぞ! 」みたいに、たぶん混乱するんです。でも同じように今度は「あいつ金もらって仕事してるぞ!」って笑われる可能性があるんです。お金を払ってワクワクすることを仕掛ける、それが仕事と呼ばれる世界。実はこれがハッピーな社会じゃないかと思っています。

高嶋さん残念ながら、大企業にいると不安はなくならないんじゃないかなと思っています。だけど、軸足をいくつか持つとそれが和らぐんじゃないかなとも思っていますね。

最近の働き方改革って、ネガティブな印象を持ってる人も多いと思うんですけど、それによって僕が大きく変わったことは、やっぱり自分の時間ができたことなんです。平日の夜に人に会いに行ったり、勉強会に参加したり、副業の時間に充てたり。それはライフシフトとは言わないかもしれません。でもその1歩として、これが進むと会社員の不安が少し和らぐ。

ちょっとした変化が世の中に起き始めているのかなと感じます。だから時間ができてラッキーぐらいに考えて、好きなことしようとか、家庭の時間を持とうとか、そういう風に人の気持ちが変わっていけばもっと楽しくなっていくのかなっていうのが最近の気持ちです。

松本さんもう、畏れでモチベーションを無理やり高めていく、人参をぶら下げて走らされるっていう時代ではなくなっていると思います。そして宗教よりもむしろ企業のほうが、今までの宗教モデルから脱しようとしている感じがします。

畏れじゃないところで、その人自身の精神性や仲間との共創で相乗効果を生んでいく。じゃあ最終的なアウトプットは何かというと、たぶん「遊ぶように生きる」だと思うんですよね。好きなことをやることだったり、お金を払って働くこともそのひとつでしょう。そういう風にどんどん変わっていくんだろうなと。

でも周りを見れば、畏れの中で身動きが取れなくなっている人がまだあちこちにいるわけです。それは日本の中でもそうだし、紛争地帯とかではもちろんそうです。そういう人たちに対して、自分は何ができるんだろうかっていうことがだんだん広がっていくと、理想としてはいいなと。簡単にはいかないと思いますけどね。少しずつでも変わっていくことが大事なんじゃないかなと思います。

梶川さん最後に、「経済産業省」という霞ヶ関の役所でさえこんなことやってるんだ、っていうことを持ち帰っていただいたらいいかなと思います。今は組織の目的と個人の目的、それを一致させるっていう難しい世界に入っていると思います。

私は政策企画委員というポストをやっていまして、入省15〜6年目の中堅が、組織マネジメントを真剣に考えることをミッションとして持っています。いくつか、組織と個人の関係性を変えていく具体的な取り組みを開始しております。たとえば、「政策インキュベーション制度」という制度をつくりました。今の部署でやっている政策課題と違うことをやりたいと思えば提案して、それがよければやれるというものです。

あとは国内の有識者の方々に、「経産省」の名刺を使ってもいいよという「政策アドバイザー」という制度をつくろうとしています。国の立場で仕事をしてみたいっていう方がたくさんいるし、我々としても一緒にやらせていただきたい方がたくさんいるんですね。そういう人たちを仲間に入れたいので、政策的な方向性が合って担当管理職が了解すれば、名刺を使うことも可能となります。

歩みは一歩一歩ですが、少なくとも僕らの世代は、個人の思いでものごとをなし得るような組織にしたいし、外の力もうまく取り込んで一緒に協働して世の中を変えていくみたいな方向に踏み出している、ということをお伝えしたいと思います。

西村ありがとうございます。僕はもともと人格心理学という分野を研究していました。修士論文では、人が人間性を高めるためにどういうプロセスを取るかという研究をしたんです。すごく簡単にいうと、人の視野が広がったり視座が高まると、人間性が高まると。で、自分にはない価値観を取り込むことによって、視野が広がって、視座が高まるんです。

違う価値観を取り込む体験にはいろいろな方法があります。自分がやってみるという手段もあるし、人に話を聞くということも大事です。そのなかで僕がいいなと思っているのが、自分の価値観にはなかった人と出会うこと。こんな科学者がいるのか、こんなお坊さんがいるんだ、みたいにある種の変な人と出会うことによって、自分の人生の幅みたいなものがだんだん広がっていくのかなと思っています。

井上さんいやもうたぶんね、ワクワク感を解放すればいいんですよ。それによって出会える数が増えるし、出会う価値観が増えるんです。喜怒哀楽っていう感覚あるじゃないですか。僕ね、あれにワクワクを足したほうがいいと思うんです。

ワクワクって言葉は日本にしかないらしいんですよ。ワクワクの語源をウィキペディアで調べると、9世紀半ばぐらいの地理書に出てくるらしいのですが、大航海時代、東の端っこに金に溢れた島があって、その島の名前が「ワークワーク島」だったっていうことのようなんです(笑)。それがどこかっていったら、おそらく日本じゃないですか。黄金の国ジパング。日本がワクワク島だったら、僕らがワクワクしなきゃダメですよね。だからこれからは「喜怒哀楽ワク」。最後に、これが言いたかった。

西村はい、ありがとうございます(笑)。

平川友紀 ライター
リアリティを残し、行間を拾う、ストーリーライター・文筆家。greenz.jpシニアライター。1979年生まれ。20代前半を音楽インディーズ雑誌の編集長として過ごし、生き方や表現について多くのミュージシャンから影響を受けた。2006年、神奈川県の里山のまち、旧藤野町(相模原市緑区)に移住。その多様性のあるコミュニティにすっかり魅了され、気づけばまちづくり、暮らし、教育などを主なテーマに執筆中。
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