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個が成長すれば、組織の許容力も上がっていく。【新たな時代に求められる未来企業 -100年人生時代のライフシフトと共創型人材の育成- シンポジウム その2】

シンポジウム

ミラツクでは、2017年6月から「経済産業省」とともにライフシフト人材に関する調査プロジェクトを開始し、2017年9月からは5つの組織とともに「共創型人材に関するコンソーシアム型調査プロジェクト」を実施しました。

2018年6月15日には、その成果共有と調査から得られた知見を交え、12名の方をゲストにお招きして「新たな時代に求められる未来企業 -100年人生時代のライフシフトと共創型人材の育成-」をテーマにシンポジウムを開催。東京・六本木にある「ウィルソン・ラーニング ワールドワイド株式会社」イノベーションセンターを会場に、3つのセッションを行いました。

本記事では4名のゲストと進行役のミラツク・西村によるセッション2「共創型人材からオープンイノベーションが生まれる未来企業の姿」の様子をお届けします。

(写真撮影:Yoshiaki Hirokawa)

登壇者プロフィール
三浦英雄さん
ウィルソンラーニング・ワールドワイド株式会社 執行役員 / イノベーションセンター 越境リーダーシッププロジェクト ジェネレーター
2012年10月、グローバル営業部長兼務にて、「越境リーダーシップ」プロジェクトを産学連携で設立。自らの思いを起点に、既存の枠組み(組織、事業領域、国)を越境し、社会的課題を事業で解決するため、異分野との共創関係を構築して価値創造を目指す「組織内個人」のリーダーシップを支援。個人の思いを起点とした社会的価値を生む事業創造活動の実践研究・リサーチ、価値創造の仕組みづくりを行う。
笹原優子さん
株式会社NTTドコモ イノベーション統括部 グロース・デザイン担当 担当部長
1972年三重県生まれ。1995年、日本女子大卒、「NTTドコモ」入社。iモードサービスおよび対応端末の企画、仕様策定にサービス立ち上げ時より携わる。その後、プロダクト部にて端末のラインナップおよびデザイン・UX戦略を策定。現在は新事業創出を目的としたプログラム「39works」を運営。プライベートでは東北エリアの社会起業家とともに未来を創造中。2013年「MITスローン・フェローズ・プログラム」卒。
大野敦子さん
パナソニック株式会社 アプライアンス社 日本地域CM部門 コンシューマーマーケティングジャパン本部 / デジタルマーケティングセンター カスタマーエンゲージメント推進部 主幹
現在働く、忙しい人の食生活をサポートするウェブサイト「ウィークックナビ」を企画・運営。バブル期に「旧松下電器(現パナソニック)」に入社。半導体部門にて約10 年間半導設計開発業務を担当した後、全社横断のIT を駆使した業務革新プロジェクトが発足。自ら希望して移籍し、業務改革コンサルティング業務を担当。その後、本社研究開発部門に異動。家電のネットワーク接続サービスの企画に関わり、家電だけではお客様の生活を変える提案は難しいと知り、2014 年に「ウィークックナビ」を立ち上げ、現在に至る。
鈴木由香里さん
トヨタ自動車株式会社 未来プロジェクト室 インキュベーショングループ長
ニューヨーク大学卒業後、トヨタ自動車に入社。アジア部にてアジア向け商品の企画を経て、現在は未来プロジェクト室にて、10〜20年先の将来シナリオを描く「未来年表」制作や、そのシナリオに即した新しいモビリティ・サービスのプロジェクト、また、未来のモビリティやモビリティサービスの全社公募制新規提案制度を立ち上げるなど、さまざまなプロジェクトを手がける。プライベートでは3児の母。

チームの行動指針は「エベレスト・ヒャッホー!」

西村昨年「共創型人材の育成コンソーシアム」というプロジェクトで、「人に言われて嫌々始めたタイプの共創型人材」に焦点を絞り、共創型人材とはどういう人のことなのかを調べました。

その中には自分の人生を振り返って何かを始める人と、仕事の中で新しい価値観に出会って、人と協力しながら仕事を生み出していく人がいたんですね。そういうふたつのものを混ぜていくと何か新しいものが見えてくるんじゃないかなということで、「共創型人材からオープンイノベーションが生まれる未来企業の姿」というテーマのセッションを組みました。まずは自己紹介していただき、ディスカッションに入りたいと思います。

笹原さん「ドコモ」の笹原と申します。1995年に入社してiモードサービスの立ち上げ時から端末の商品企画をやっておりました。その後は端末のラインナップ戦略ですとか、デザイン、UX戦略を担当していました。今はイノベーション統括部というところで、新事業創出プログラムである「39works」を運営しています。ちなみに39は39階から始まったプロジェクトなので「39works」です。

社外では異業種の女性7人の企画コンサルティンググループに2000年から所属しています。ほかに社会起業家支援をさせていただいたり、今年度からは大学で教える機会もいただきました。副業でベンチャーのお手伝いもしています。最近では、ミラツクのパンケーキ部の部長もしています(笑)。パンケーキが好きな人はぜひお声掛けください。

西村ちゃんと真面目な部活です(笑)。パンケーキ部は。

笹原さんはい(笑)。「39works」は2014年7月に始まった取り組みです。サイトを見ていただければわかるのですが、10個ぐらいの新規事業に取り組んでいます。社外のパートナーと一緒にプロジェクトを組んで、企画から開発、運用までを一貫して実施しています。

小さく早くスタートして、高速PDCAで回転を繰り返し、ブラッシュアップしたりピボットしたりしていくような仕組みです。当たり前に聞こえるかもしれないですけど、「ドコモ」で新規事業をやろうとすると、企画して会議にかけて開発して1年半経って、ようやく出るようなところがあって。そうすると「え、もう時代が違う」みたいなことになるんですね。なので、小さく早くスタートすることに主眼を置いたプログラムになっています。

立ち上げ時にKPIを決め、KPIを達成したら本格事業化します。不発だとそのままサクッと終了です。ただ、フェイルコン(失敗談を披露する会議)みたいな形で、終了事由もノウハウとして共有しています。このアクティビティは、社内では結構人気になっています。

笹原さんうちのチームの行動指針は「エベレスト・ヒャッホー!」です。新しいことをやる時は楽しんでやらないといけないなと思っているので、エベレストのような高い山に「ヒャッホー!」と言いながらみんなで登ろうね、みたいな話です。

たとえば目標を決めた時に「それは本当にエベレスト・ヒャッホー!なのか?」「それは高尾山ゼェゼェではないのか?」という話になります。「それはチャレンジングではないんじゃないか」「本当に頑張ろうとしているのか」と言うと角が立つんですけど「高尾山ゼェゼェではないのか」という話だとコミュニケーションも円滑になって、目標も立てやすくなるんですね。せっかくなら楽しんでやりたいので、行動指針もこんな風にポップな感じでやっています。

移動を起点にした新しい価値をつくり、よりよい移動を提供していく

鈴木さん「トヨタ自動車」の鈴木と申します。私は大学卒業後からずっとトヨタにおりまして、入社当時はアジア向けの量販車「カムリ」という車のフルモデルチェンジの担当をし、その後に商品企画部という部署に移動しました。

車って、3万点とか、すごく多くの部品を使ってつくるので、何年の何月にフルモデルチェンジを出すとか、5年くらい先までガチガチに計画が決まっているんですね。でもその先の考えがなくていいのか? みたいな話が出てきて、やっぱり考えるべきだろうということで「新コンセプト企画グループ」というのができました。

そこでは、計画にないまったく新しい車を企画するということをやっていました。団塊シニア向けの車とか、独身キャリア女性向けの小型車とか、米国向けのピックアップとか、まぁいろいろやっていましたね。その後、2012年に新コンセプト企画グループが「未来プロジェクト室」と名前を変えました。そこから将来シナリオづくりや新規事業企画に携わっています。

「トヨタ自動車」って今もそうなんですけど、車をつくって売るという売り切りのビジネスしかしていないんですね。でも私たちはその先を考えていたので、このままでは「トヨタ自動車」がなくなってしまうんじゃないかという危機感がありました。

そこで始まったのが「未来プロジェクト室」です。未来のお客様のために、移動という大きな枠組みで考えて、もっと広義なモビリティであるとかサービス、移動を起点にした新しい価値をつくって、よりよい移動を提供していこうということをやっています。

あとはやはり共創主義です。新しいことをやろうとしても、社内にはその知見を持っている人材がいないことがあります。そうするとなかなか新しいことをやっていけないので、移動に関わるステークホルダーの方々と一緒に、アイデアやソリューションを考えるということもやっています。

ただ、新しい提案がいくら良いものでも、社内に引き取り手がいないという課題がありました。そうすると、せっかくのいいアイデアが立ち消えになってしまうことがあるんです。なのでここ数年は、小さな予算で小さなプロトタイプをつくって実験し、それで社内を説得するということもやっています。

「i-ROAD」という三輪のEVがあるんですが、これも提案だけで立ち消えになりそうだったのを、面白いからやってみましょうということで、プロトタイプをつくって実際にモニターさんに乗ってもらいました。

こういう新しいモビリティはハード単体だけを提供しても、電気がいつ切れるんだろうとか、いろいろな不安があるんですね。やはりサービスが大切で、移動体験全体をデザインしないといけないと学んだんですが、これも社内だけでは難しいので、ベンチャーの方々と一緒に取り組みました。

トヨタの未来年表(写真提供:トヨタ自動車)

鈴木さんうちがやっていることで、社外の方がいちばん敏感に反応されるのが「未来年表」です。将来どんなライフスタイルになるか、どういう社会になっていくのかということを純粋に発想するためにつくっているもので、自動車業界に縛られず、広く社会全般の変化を300個くらい描き出しています。国が発表している確度の高い将来予測だけではなく、不確実な変化も含めてシナリオ化しているというのが特徴です。

たとえばドイツで猫と結婚した男性がいるというニュースを拾ってきたとします。それって今は点での事象でしかないけど、もしそれが当たり前になるとライフスタイルや社会の価値観が変わりますよね。そういうものも含めてシナリオ化しているんですね。

最後に、今年4月に新しいサービスやモビリティを考える全社応募制度というものを立ち上げました。会社の風土や意識の改革もしていかなきゃいけないということで、全社を巻き込んでやっちゃおうみたいなことに取り組み始めています。

トータルで食生活を提案するレシピサイト「ウィークックナビ」

大野さん「パナソニック」の大野です。会社の話というよりも、自分が立ち上げた食生活提案ウェブサイト「ウィークックナビ」の話を中心にしたいと思います。

実は「パナソニック」は、家電だけではなくレシピウェブサイトもやっています。「ウィークックナビ」は4年ほど前に公開しております。どのようなサイトかというと、月曜日から金曜日までの1週間の献立の提案です。それだけだったらどこにでもあるやんかと思われると思います。

ただ、「ウィークックナビ」は1週間で食材をすべて使いきるレシピになっているんです。もうひとつ特徴的なのが下準備です。下準備を1時間以内にやるとして、レシピの工程を分解して、1週間分の手順の中でどういう組み合わせにしたらもっとも早く、洗い物も少なく、ストレスなくつくれるのかというアルゴリズムを考えました。そういう意味で言うと、これは世界初なんですね。

今、つくりおきおかずが流行っていますが、半分調理しておくと通常3品つくるのに1時間かかるところが15分でできたりする。短時間でいかにまともな夕食をつくって毎日食べられるのかを追求したら、私はこれかなと思いました。働いている人、忙しい人向けのレシピサイトですね。

レシピサイト「ウィークックナビ」

大野さんなぜそんなことを始めたのかの背景をお話したいと思います。2012年ごろ、Wi-Fi家電、今でいうIoT家電について研究していたんですね。家電同士がお話ししたらもっと良いサービスができるんちゃうか、新しい大きなビジネスができるんちゃうかと考えたわけです。

それって、技術的にはできるんです。たとえば冷蔵庫とレンジがつながって、このお肉は冷凍庫に2週間入っていたので、解凍時間はこれくらいですとか、そんなサービスは技術的にはできるんですけど、それをプランに落とそうとした時にハタと気づいたんですね。それで今の食生活の課題が解決できるのか、ちょっとした便利な機能の一部でしかないんじゃないのかと。

私は、料理の献立を考えるのが苦手でした。週末、今週こそ頑張ろうと思って食材を買っても、ほとんどが冷蔵庫の中でミイラになる。みなさんも、そんな経験があるのではないかなと思います。みんなが求めているのは、家電に話しかけたら献立を提案してくれる機能ではなく、忙しくても毎日、短時間でまともな手料理をつくれるようになることだよねって思っちゃったんですよね。

そこで私は食生活を変える提案をしていきたいと思いました。「ウィークックナビ」のコンセプトは「段取り上手で無駄なくおいしい1週間」です。並行調理で時短できて、効率的で無駄がない。まとめてつくると、エネルギーのムダもありません。レシピはプロの料理研究家に開発していただきました。

それが、当時は1分刻みで段取りを書いていたので「これ面白い」となって、ネット上でめちゃくちゃバズったんです。まとめサイトで1位になって、1年分のアクセスをすぐに稼いで、上の人たちがびっくりして「継続していいよ」ということになりました。

将来的にはお買い物連携であったり、家電との連携であったりもできればいいなと考えております。お客様との接点としてレシピを提供し、その後ろで家電と連携し、トータルでお客様の食生活を提案していくプラットフォームにしていきたいと考えています。

価値創造できる人材を育成する「越境リーダーシップ」プロジェクト

三浦さん「ウィルソン・ラーニング」で「越境リーダーシップ」というプロジェクトのディレクターをやっている三浦と申します。

「ウィルソン・ラーニング」は50年前にアメリカで生まれた会社です。行動科学と心理学をベースに、営業行動を科学的に体系化したプログラムを世界で初めてつくった会社ですが、現在は企業の戦略遂行に伴う行動変容のお手伝いが主流になっています。

今までの企業の仕事の仕方は、定まった事業モデルを効率的に遂行する分業制でした。与えられた役割や職務を全うしていれば、みんなが幸せになれた時代でしたが、現在は市場も成熟化していますし、差別化も難しくなっています。そういったパイの奪い合いの中では、自分の職務を全うしたとしても、それが企業の成長につながるかどうかわかりません。つまり従来の延長線で頑張っても閉塞感は強くなり、人が疲弊してしまう状況があります。

だから、これからは所属組織や仕事の役割をいったん外し、個人として向き合った時にどんな未来をつくりたいのかを見据え、組織の枠組みを越境して、社会的な価値創造を興していくことが大切だと思っていました。そこで2012年に立ち上げたのが「越境リーダーシップ」というプロジェクトです。

三浦さん「越境リーダーシップ」プロジェクトでは、実践研究成果をベースにして、組織内の想いある個人が挑戦し、実践する機会を組織の中につくり出すことで、価値創造できる人材を発掘、育成、活用していくプログラムを開発、運営しています。自らの意志で境界を超え、さまざまなセクターの人たちと解決したい課題に取り組むことで、違う側面の課題も見えて本質的な解決につながります。

新しい事業創造をしている人に共通しているのは、社会課題にアプローチしている場合が多いということです。そうすると、いろいろな文脈で違う領域がつながっていく。個人と個人がつながって、自分の所属している企業のリソースを使ってチームをつくっていく。そして、大企業にいるからこそ社会への大きなインパクトがつくれる。そう考えました。

「越境リーダーシップ」プロジェクト発足当時は、会社内で納得を得て、自分の職務や部門と関係のないテーマを事業化していっていました。現在は状況が変わり、新たなイノベーション創出を目的にした、組織的な取り組みが増えています。

本来的には、実践者の視点で実践機会としてのプログラムや組織環境をデザインすることが大切です。それによって組織の文化が変わり、個人を主体とした価値創造が生まれていくと思っています。想いをもった個人が生かされ、組織も価値ある成長、変容を遂げる。そんな組織が日本に増えることに貢献したいんです。

言葉や仕組みでいかに楽しくチームを回せるか

西村最初に笹原さんにお聞きしたいと思います。さきほど「エベレスト・ヒャッホー!」の話がありましたが、笹原さんがいくらこうしたいと思っても、どこか新しいところに向かうには、ただ押せばいいというわけではないんじゃないかと思います。いろいろな人と協力したり、チームとして今までの働き方とは異なるやり方でやっていかないといけない時、どうやってアプローチしてこられたんでしょうか。

笹原さん新規事業って、自分も目標をもらっていないし、チームのみんなにもあまりはっきりした目標はあげられないところがあります。なので「これをやってくださいね」ベースだとお願いするのが難しいんですね。かつ、イノベーションはオープンで、フラットで、ダイバーシティがあるところで、いろいろな人が意見を言って、それをちゃんと汲み取るから起こるのだと思っています。

だから、チームのメンバー一人ひとりが意見を発しやすくて、自分の特技が出しやすいことを考えていきたかった。それをいかにポップに実現できるかと考えた時に「エベレスト・ヒャッホー!」みたいな表現方法を思いつきました。

で、提示してみたら意外とみんなハマってくれて。そうやって遊びながら仕事をしていく感じがいいし、義務というところから一歩解放されるところがありますよね。言葉や仕組みでいかに楽しくチームを回せるかということは、日々妄想しています。

外部の力を使って意識を変えていく

西村鈴木さんにも同じようなことを聞いてみたいと思います。「未来プロジェクト室」には、よくわからないまま異動で来た人もいるわけですよね。ほぼ島流しみたいな状態でくる人もいると思うんだけど、そこから始まった人も変わっていくんでしょうか。

鈴木さん異動させられちゃったみたいな人に対しては、東大の「ischool」に行ってもらうとか、外の力を使っていますね。そうすると「なんだあの人たちは」みたいな感じになって帰ってきます。

「トヨタ」は仕事が細分化されています。だから、目の前の仕事をこなすだけでほかはあまり気にしないというのが、ある意味でのトヨタウェイなんじゃないかなと思います。でも「未来プロジェクト室」の仕事は、広い視野といろいろな視座を持ちながら課題を見つけて、その解決策を考えていかなきゃいけない仕事です。だからなるべく社外に連れていって、異業種の人と触れさせるということをしています。

ただ、今はもう室の三分の一が出向者なんですよ。「トヨタ」本体の企業文化とは違う仕事の仕方をしている人がたくさんいるので、室で仕事をしているだけでも影響を受けていると思います。あとは生活者視点へのマインドシフトみたいなところで、未来年表の新しいネタを探してシナリオ化する宿題が毎月課せられています。そうすることで、いろいろな情報を取ってきて刺激を受け、シナリオを発想するための訓練をしているんですね。

西村未来年表は、どんどん更新しているんですね。

鈴木さんそうです。3ヶ月に1回くらいは新しいシナリオが追加されています。

家族と音楽、好きなものを両方とる選択肢をつくる

西村三浦さんは「ウィルソン・ラーニング」の人という顔もあるんですけど、じつは銭湯が好きで銭湯プロジェクトをやっていたり、音楽イベントも企画していたり、個人としても幅を持っていろいろなことをされていますよね。普通だったら仕事だけ、もしくはこの仕事が自分のやりたい活動だということになって、だんだんそっちに収束していくと思うんですけど、むしろ、やってることがどんどん増えていっているじゃないですか。

なぜ個人として新しい取り組みを増やしているのか。そして、ほかの人はなぜそれがやれないと思うかを聞いてみたいです。

三浦さんやっているのはただ面白いと思えるから、なんですけどね。

私は大学時代にバンドをやっていました。就職活動中に発見したことなんですが、仕事をすごく一生懸命やっている人と、仕事は趣味のために頑張っている人、どちらかの人が多いんですね。音楽をやっていた人に「今はバンドやってないんですか?」って聞いたら「もう今更やってないね」って言われる。それで、みんな大人になると好きなことをやめちゃうのかと思ったんです。自分はどっちにもなりたくないと思いました。1週間あったら7日間、ちゃんと7分の7、自分の人生を生きたいと思いました。だから、とにかく自分が好きなことはやり続けようと決めました。まぁ、往生際が悪いだけかもしれませんが。

西村やりたくてやっているとはいうものの、やっぱり大変な時もあるじゃないですか。どういう工夫をして、それを乗り超えていくんですか?

三浦さん私はスウィングジャズイベントのオーガナイズやDJをしています。結婚してからも毎週末イベントをやっていました。妻はイベントを一緒に立ち上げたチームのメンバーだったので、理解はしてくれていました。ただ、2人目の子どもが生まれた時に、さすがに育児面で大変な状態になってきたんです。

ふたりの子どもが泣き喚いて妻が参っている時に、イベントに出かけなくてはいけなかったんです。主催者だから絶対に行かなくてはなりません。レコードバッグを持って玄関を出る時、背後からいつもは寛容な妻に「この状況で本気で行くわけ!?」って問われたんです。僕は思いました。「こうやってみんな、自分の好きなことを辞めていくのか」と。家族を最優先する、それが大人であり責任だ、という達観した気持ちになってですね、辞めることも考えたんです。

ただ、冷静になって考えると、辞めた後で「音楽やっていたかったな」って後悔するイメージしか持てなかったんですよね。7分7の人生を生きる状況ではなくなるかもなって。

三浦さんそれでモヤモヤしていた時に、ふと気がついたんです。家族か音楽かという、安易にどちらかの選択肢を選ぼうとしている自分がバカで無能なんだと。両方とも大好きなのに、大好きなもののどちらかを削ぎ落とそうとしている。両方を得られる選択肢を自分でつくればいいじゃないかと思って、それで、下北沢で昼間に、子連れでこれる大人向け音楽イベントを始めました。

妻も音楽が好きだし、めちゃめちゃ喜んでくれると思ったんですよ。でも、めちゃくちゃ怒られました。「あなたね! 子どもふたり連れて遠出するのがどれだけ大変かわかってるの!?」って。そこで20人くらいの子連れのお母さんにインタビューして、何が面倒くさくて、何があったら行きたくなるのかをリサーチして、すぐに試して、フィードバックもらって、必要なことを全部実装していきました。当時は知らなかったのですが、今考えるとデザイン思考ですね。

実装した結果わかったことは、子どもが生まれたことで音楽活動を辞めてしまった人、ライブに行けなくなっている人が自分の周りにはたくさんいたということでした。子連れ音楽イベントにはたくさんの人が来てくれました。お店やミュージシャン、同じようなことを考える人が社会にはたくさんいて、ニーズがあることがわかってからは同じようなイベントも増え、僕の周りでは子連れで気兼ねなく、良い音楽を楽しめる環境が広がっていきました。

つまり行動変容が起こっていったんです。自分の小さなニーズだと思っていたことが、俯瞰してみるとたくさんの人のニーズだった。何かを得るために何かを諦めるトレードオフの選択ではなく、両方を満たす選択肢を社会に創造する。それが好きなこと、大切なことであればワクワクしてできるから乗り越えられるし、変化し続けられるのかなと思います。

子連れ音楽イベントの様子(写真提供:三浦英雄)

いつ何があってもいいように、傍に何かある生活を

西村笹原さんは「ドコモ」の部長ですけど、自分がやりたいことを諦めるんじゃなくて、往生際が悪い選択というか、両方を手元に置いていますよね。

笹原さん聞いていて思ったんですけど、私は別にいつでも会社を辞めてもいいなと思っていますね。そういう意味でいうと、往生際はあんまり悪くないと思います。お金が儲かるかどうかは別にしても、ずっとやりたいことをやってきたので、辞めても暇ではないことは確かなんです。間違いなくそこそこ忙しい。

私は結婚して18年なんですけど、旦那は大阪にいて、単身赴任歴が16年なんです。もともと大阪と東京の遠距離恋愛で、結婚するなら私が大阪に転勤するんだなと思っていました。でもちょうどその頃がiモードの立ち上がり期で、仕事がすごく楽しかったんですよね。それで「行きたくない」と思ってしまって、遠距離のまま結婚することにしたんです。

こういうことって結婚だけじゃなくて、子どもを生む時や介護が必要になった時なんかでもあることですよね。いつかキャリアを続けられなくなる時はくるかもしれない、とずっと思っているんです。で、いつそうなってもいいように2000年くらいから複業みたいなことを始めて、傍に何かある生活をしてきました。ずっとは(ドコモに)いないだろうという意識を持ったまま、結局23年いる、みたいな感じです。

「もしかしたら自分もいけるんちゃうか?」とみんなが思えるように

西村僕は3年前まで東京に住んでいたんですけど、こんなに人がいっぱい住んでいる都市なのに、全然知り合いが増えないなって思ったんですね。これはなんだろうと思って始めたのが、みんなで集まって話し合う、ミラツクの最初のアクティビティだったんです。

人はいるけど出会わないとか、できるけどやらない、あるんだけど手に入らない、みたいなことってすごく多い。そういうことと共創みたいなものって実は近いところにある気がしています。

共創というと、イノベーションみたいな話になって「アイデアいっぱい出してよ」となりますよね。もちろんそれもあるんだけど、そもそも何のアイデアが必要なのかがわからないと仕方がないし、何をつくるためにどんな問いかけやきっかけがあったらいいのか、ということが大切だと思っていて。

でもこれだけ人が多くて情報が多い都市ですら、むしろきっかけは少なくなってきている。だから、きっかけがたくさん手に入って溢れかえる企業は、ちょっと未来志向だなと思うんですね。そういう未来志向の企業はどうやったらつくれるんでしょうか。

大野さん今はオープンイノベーションブームもあって、会社の枠組みでスタートアップしたい人を支援することはやっています。応募して選ばれれば会社から予算がついて、プロフェッショナルな人たちにコンサルしてもらって、アイデアを育てていける。会社以外の時間でそういうことをやってもよくなっていたり、業務時間内に研修を受けに行くこともできたりします。

つまり私から見ると、今はすごく恵まれているなぁと思うんです。会社が土台をある程度用意しているし、逆に用意してあげないといけない人たちも増えているんだろうなと。ただ、そういうことを経験する人の数をどんどん増やしていくと、イシューがだいぶ変わってきますし、「もしかしたら自分もいけるんちゃうか?」ってみんなが思えるようになっていきますよね。だから、そういうことをさせてあげる余裕が会社にあればいいのかなって思います。

西村大野さんが今、新規事業に取り組むとしたら、もっと楽だったと思いますか。

大野さん思いますね。でも、結局最後はどこまでやりたいかという自分の思いなので。まぁちょっと楽だったかなと思うくらいですね。

個人起点の強い思いが、分厚い壁をも突破する

西村みなさん感じてると思いますけど、仕組みがあっても結局それだけでは動かないじゃないですか。一方で、放っておけばいいのかというと、それも根性論になって嫌だなと思うんですね。苦労しなきゃできないんだったら、いつまでたっても3人くらいしかできないので。

だから、楽なんだけど、でも楽を求めるわけではない状況をどうやったらつくれるんだろうかと。楽になる仕組みと、個人の思いが結局は大事だよね、みたいなところをどういう風に重ね合わせていくといいのかなと。

笹原さんすごくいい人材も、企業の中にいて3年くらい経つと、箱に押し込められて与えられた仕事しかできなくなってしまうと感じています。その時にやってあげるといいなと思うのは、よく言われていることですが、いろいろな人に会ってもらうことですね。

自分も意図せず、遠距離結婚を機に複業を始めて、社外の女性7人と仕事をしてみたら、「私って何?」「私の個性って何?」みたいになって、自分を見直す機会になりました。その時はめっちゃ苦しいんです。でもそういう経験をすると、自分の個性を知って、自分のアイデンティティに自信を持てるようになるんですね。

西村それはそうなんですけど、個人が成長していくだけだと最終的に会社を出ていっちゃうじゃないですか。個人が組織とともに成長して、組織とも共創できる関係のつくり方があると面白いかなと思うんですが。

笹原さん個が成長していくことでダイバーシティを許容できることになっていくので、お互いがよりつながりあえると私自身は思っています。

西村個が成長すれば、組織側の許容力が上がっていく?

笹原さんそうです。そういうイメージです。

鈴木さん結局、新しいことをやる時って社内の壁がめちゃくちゃ分厚いんです。そこを突破できるものって、やっぱり個人起点で課題感が強いものや、「これがやりたい」というすごく熱い思いがある企画なんですよね。なので、個人起点でこれをやりたいという人をいかに増やすのか、というところで仕掛けが必要なんだなとは思っています。

全社の公募制度を始めたのもそれが大きな理由です。やっぱりきっかけがないと、課題感ってなかなか持てないと思うんですね。実際、やりたいんだけど何をやればいいかわからないみたいな人も多いんです。
外からのきっかけがあることで新しい領域に踏み出せるし、想いを持った人が一気通貫にそれが体現できる仕組みをつくりたいなと思って、今年チャレンジしているところです。今年は400名ほどが参加登録してくれました。

大事なのは、自分の仕事を再定義する、新規事業開発の立て付け

西村アイデアはあるとか思いはあるみたいなところからもう一歩進んで、壁が出てきても突き抜けられるところまで行くには、どんなことが必要だと思いますか?

三浦さん越境リーダーの手前の段階の人たちが価値創造に取り組むプログラムを実施しています。新規事業の結果にコミットするよりは、一歩踏み出すための準備を整え、自らの行動、体験を通じた変容を目的としています。

何をやっているのかというと、たとえば自分が考えているビジネスの顧客は本当に自分が考える課題を抱えているのか? 考えた解決策は本当に人を幸せにするのか? これは企画の段階ではわかりません。ですから実際にフィールドに出て、当事者10人以上に話を聞き、フィードバックをもらう活動をしてもらいます。

「自分は〇〇な社会の未来をつくりたい」「〇〇の課題を解決したいと考えており、ぜひアドバイスをいただきたい」というように自分の意図を伝えると、意外と人は会ってくれます。「30分だけだよ」と言った人が3時間くらい話してくれたり、別の人を紹介してくれたりということを体験することになります。

だからすごくシンプルなことで、自分のアイデアや思っていることを行動に移すと、自分が思っているよりも人は会ってくれるし協力者もできる。そういう体験が重なると、大変だと思い込んでいたことはへっちゃらになってきます。現実の自分の行動体験からそれがわかるからです。

最終的に事業になるかどうかは、能力や内容だけでなく、市場や組織のタイミングの問題もあります。重視していることは、自分の想いから行動し、具体化できるリーダーシップです。

リーダーシップを発揮し、一定の成果まで至った人が共通して言う印象的な感想があります。それが「社会に出てから初めて自分の人生を生きている、自ら仕事をつくっている感覚をもてました」ということです。自分から生まれたテーマが、行動していくにつれて具体化し、出会いとともに確信が生まれてドライブがかかっていく。そうなると、これは自分の使命なんじゃないかと思えてくる。こういう経験をすることが、自分が変化をつくりだせるという自信につながっていくんです。

要は、自分の仕事、やりたいことを再定義する経験につながる、新規事業開発のプロセスをデザインすることが、人が育つ上では大事なのかなって思うんです。

西村最近イノベーションのケースを調べているんですけど、たとえばエジソンは蓄音機をつくったんですが、実は音の手紙をつくりたかったんですね。レコードをかけると声の手紙が届けられる。でも実際は音楽の再生に使われました。かたや同い年のベルは、家で音楽が聴けるようにしたいと思って電話をつくったんです。でもつくってみたらやり取りのために使われている。

つまり、思いっていうのは思い込みだなぁと思うんです。思い込みでやってみると新しいものができちゃって、こういう風にも使えるみたいに言ってもらって、それが実現していく。イノベーションの経緯を見ながら、人間はエラーで進化しているんだなぁと思ったんですよね。だからわからないんだけど、ひょっとしたらこうかもしれないと思っちゃったのでやってみたいんです、ぐらいのものが意外と新しいものを実現するんじゃないかなと感じました。

最後に、企業って本当はこういう形になったらいいんじゃないかな、みたいな未来企業の姿をお一人ずつ聞いて終わりにしようかなと思います。

三浦さん欧米と違って日本は職能で就職するというよりも、理念や、やっていることに共感して入る人が多いです。だから、会社から与えられた今の職種が自分の仕事だと思わないほうがいいと思います。企業と自分の目的を重ね合わせてどう実現していくか。個人がリーダーシップを発揮して、価値創造が生まれていくと、個人の多様性が生かされる組織へ変容していくのかなと思います。

大野さん私が個人的に大事だなと思っているのは、もし家電で家事を変えたかったら「まずは一生懸命家事をせえ」ということです。家で洗濯機を回したことのない人が洗濯機を語るなと。やってみたらいろいろな課題が見つかって、そこから新しいものが生まれます。だから、やっぱり本質的には自分にすべてがあるんじゃないかなと思います。

笹原さん一人ひとりがポップに楽しみながら企業生活ができる、というのが将来的な企業の形かなと思っています。

鈴木さんうちに限った話かもしれないですが、オープンイノベーションで外とつながろうとずっとやっていたんですね。でも最近思うのは、もっと社内でつながったほうがいいなということなんです。セクショナリズムで、同じようなことを違う部署でやっていてすごく非効率だったり、つながったらもっといい仕事ができるのにって思うことがたくさんあります。なので、まずは社内で人がつながろうということで、全社応募制度も立ち上げたんですけど、そういう風に会社が変わっていくといいなと思っています。

西村ありがとうございます。僕は今日、パンケーキ部の部員が増えたのが何よりの成果だなと思っています(笑)。パンケーキって仕事の話を遥かに超えてるからすごくいいなと思うんですね。そういうどうでもいいというか、普通のことを普通の人として話せることがすごく大事だなと思っていて。社内でも「こんな人いたんだ」っていう風に人として出会えるとすごく面白いし、結果的に共創になっていくのかなと聞いていて思いました。

平川友紀 ライター
リアリティを残し、行間を拾う、ストーリーライター・文筆家。greenz.jpシニアライター。1979年生まれ。20代前半を音楽インディーズ雑誌の編集長として過ごし、生き方や表現について多くのミュージシャンから影響を受けた。2006年、神奈川県の里山のまち、旧藤野町(相模原市緑区)に移住。その多様性のあるコミュニティにすっかり魅了され、気づけばまちづくり、暮らし、教育などを主なテーマに執筆中。
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