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大切なのは、一歩を踏み出すノウハウよりも、そこに込められた思いや行動だ。【新たな時代に求められる未来企業 -100年人生時代のライフシフトと共創型人材の育成- シンポジウム その3 】

シンポジウム

ミラツクでは、2017年6月から「経済産業省」とともにライフシフト人材に関する調査プロジェクトを開始し、2017年9月からは5つの組織とともに「共創型人材に関するコンソーシアム型調査プロジェクト」を実施しました。

2018年6月15日には、その成果共有と調査から得られた知見を交え、12名の方をゲストにお招きし「新たな時代に求められる未来企業 -100年人生時代のライフシフトと共創型人材の育成-」をテーマにシンポジウムを開催。3つのセッションを行いました。

本記事では4名のゲストと進行役のミラツク・西村によるセッション3、「ライフシフトから共創型人材へ − 新たな一歩の踏み出し方 −」の様子をお届けします。会場は東京・六本木にある「ウィルソン・ラーニング ワールドワイド株式会社」イノベーションセンターです。

(写真撮影: yoshiaki hirokawa)

この記事は、ミラツクが運営するメンバーシップ「ROOM」によって取材・制作されています。http://room.emerging-future.org/

登壇者プロフィール

米良はるかさん
READYFOR株式会社 代表取締役 CEO
2010年 慶應義塾大学経済学部卒業。2012年同大学院メディアデザイン研究科修了。大学院在学中に米国・スタンフォード大学に留学。帰国後、2011年3月にWebベンチャー「オーマ株式会社」の一事業として日本初のクラウドファンディングサービス「Readyfor」を設立。2014年7月に株式会社化し、NPOやクリエイターに対してネット上での資金調達を可能にする仕組みを提供している。2012年には世界経済フォーラム「グローバルシェイパーズ2011」に選出され、日本人として最年少でダボス会議に出席。「St.Gallen Symposium Leaders of Tomorrow」首相官邸「人生100年時代構想会義」の議員や内閣官房「歴史的資源を活用した観光まちづくり推進室」専門家を務める。「一般社団法人クラウドファンディング協会」代表理事。
山中礼二さん
グロービス経営大学院 教員
一橋大学経済学部卒業。ハーバード大学経営大学院修士課程修了。「キヤノン株式会社」で新規事業の企画・戦略的提携に携わった後、2000年に「グロービス」に参加。「グロービス・キャピタル・パートナーズ」でサービス分野、メディア・コンテンツ分野、およびヘルスケア分野の投資を担当。その後、医療ベンチャーの「株式会社ヘルス・ソリューション」専務取締役COO、「株式会社エス・エム・エス」を経て、「グロービス経営大学院」の専任教員。2015年から「一般財団法人KIBOW」のインパクト・インベストメント・チームのディレクターとして、社会起業家への投資や、また、グロービス卒業生・在校生が起業した組織の経営支援を行なっている。主な支援先は「愛さんさん宅食株式会社」や「特定非営利活動法人STORIA」など。
川路武さん
三井不動産株式会社 ワークスタイル推進部ワークスタイリンググループ統括
1998年、「三井不動産」入社。官・民・学が協業する街づくりプロジェクト「柏の葉スマートシティ」など、大規模案件におけるコミュニティづくりや環境マネジメント案件の企画開発に多数携わる。現在は新規事業「WORKSTYLING(ワークスタイリング)」の立ち上げ運営業務がメイン。「三井不動産レジデンシャル」出向時(マンション事業の新商品開発などを担当)に、朝活「アサゲ・ニホンバシ」を開催するNPO法人「日本橋フレンド」を立ち上げる。
清原博文さん
株式会社デンソー東京支社 特プロ・共創HUB推進室 担当次長
デンソーデザイン部門で自動車用計器類デザイン、店舗用スキャナーデザイン、携帯電話デザインなどのプロダクトデザイン経験を経て、さまざまな製品の技術PR映像制作、自動車用HMI(Human Machine Interface)デザインなどを行う。現在は「特プロ・共創HUB推進室」において生活者と共に価値共創するためのサービスデザインおよび移動に関する社会課題をビジネスで解決するための企画に取り組んでいる。

一歩を踏み出したい人々を後押しする4つの企業

西村まずは簡単に自己紹介していただいて、セッションに入りたいと思います。

米良さん「Readyfor」というクラウドファンディングのサービスをやっている米良と申します。2011年にサービスを立ち上げて、会社自体は2014年にスタートし、今は70人くらいの規模になりました。最近は、どうやったらより社会のインフラとなるサービスにしていけるのかということを考えています。今日のゲストの中では、私が一番小さな会社をやっていると思います。いろいろとご意見を伺いながら、どうやったらみなさんのような大きな会社にしていけるのかを考えていきたいと思っています。

山中さん 山中礼二と申します。私はふたつの帽子をかぶっています。ひとつは「グロービス経営大学院」でベンチャー関係の科目を教える教員です。もうひとつは「一般財団法人KIBOW」という財団で、「インパクト投資」をやっています。「インパクト投資」というのは、社会的なリターンと経済的なリターンの両方に目的を持って行う投資のことです。いろいろなタイプの「インパクト投資」があるんですが、「KIBOW」の場合はベンチャー投資に近い形で、社会を変えるような事業を手がけているベンチャー企業に投資をしています。

私は「キヤノン」で働いていましたが、アメリカのベンチャーキャピタルに派遣され、ベンチャー大好き人間に生まれ変わりました。その後「グロービス・キャピタル・パートナーズ」というベンチャーキャピタルに入り、アメリカに留学したときに、ヘルスケアの分野に関心を持ちました。日本に帰ってきてからはヘルスケアを中心に投資し、その世界にますます魅了されて自分がヘルスケアのスタートアップに移りました。その後、別のヘルスケアのベンチャーに移り、グロービスに教員として戻りました。さらに教員をやっているうちに、「インパクト投資」をやるチャンスをいただいたというそんな流れです。

清原さん「デンソー」の清原と申します。東京支社が日本橋にありまして、5月に「特定プロジェクト・共創HUB推進室」という新しい部署ができました。そこで、将来の移動の課題、地方の移動の課題を解決するプロジェクトを立ち上げようとしています。よろしくお願いします。

川路さん「三井不動産」の川路と申します。私は「ワークスタイル推進部」というところで、ひとつのIDでサラリーマンが30箇所自由に使えるシェアオフィス「ワークスタイリング」という新しい事業を去年からやっています。ずっと新規事業部隊にいる、ごく普通のサラリーマンです。

ただ、朝ごはんを食べながら老舗の社長さんの話を聞く「アサゲ・ニホンバシ」という朝活をやっている「日本橋フレンド」というNPOを6年半前に立ち上げていたり、「つなぐ人フォーラム」という、150人くらいで2泊3日ワークショップをしまくる、わけのわからない団体の実行委員をやっていたり、いろいろなことをやっています。

あなたの志はなんですか?

西村僕は、企業の人が「グロービス」や「Readyfor」でプロジェクトを始めることが増えていったらいいなと思っています。このセッションでは、一歩を踏み出すってどういうことなんだろう、どうやったらそれが企業の人たちにつながっていくんだろうということを考えたいなと思っています。たとえば、「グロービス」で山中さんの授業を受ける人って、どんな人たちが多いんですか? ほぼ全員、社会人だと思うんですけど。

山中さんだいたいふたつのパターンがあります。ひとつは、志は明確に決まっているんだけど、どうすればそれを実行できるのかがわからないというパターン。もうひとつは、今の自分に危機感を持っていて、このままじゃいけないと思っているんだけど、それをどういう風に自分の人生へ展開したらいいのかがわからないっていうパターンです。このふたつのパターンのどちらかから、一歩踏み出して「グロービス」に来る人が多いように感じます。

西村そういう人たちにこういう授業をやったらすごく響いたとか、このコースではすごく輝き出す、みたいなことがあったら教えてほしいです。

山中さん「企業家リーダーシップ」というコースが一番輝き出すコースですね。「あなたの志はなんですか?」という問いを100回くらい投げられて、ひたすら考え続けていくコースです。全6回で、ネルソン・マンデラとか西郷隆盛とか、歴史上の人物を主人公にしたケースディスカッションを行います。自分の命を何に使うのかを痛切に考え、命を燃やし切った人をケースにして、じゃあ自分はどうするのかという順番で考えていくんです。

西村たとえばネルソン・マンデラのケースを学んで「君がネルソン・マンデラだとしたらこういうときどうする?」という風に考えるということ?

山中さんそういう問いを与えていますね。最終的には自分の人生をどうしたいのかを決めてもらい、最終日に発表して卒業していくという流れになります。

西村MBAだとファイナンスやマネージのされ方を学んでるイメージだったんですけど、だいぶ違いますね。

一歩を踏み出すハードルは、どんどん低くなっている

西村「Readyfor」にも、実際にプロジェクトを始めようという人がものすごい数いらっしゃると思います。それはどんな人たちなんでしょうか。その中でも繰り返し挑戦する人や、挑戦がだんだん発展していく人がいたら、そういう事例も知りたいです。

米良さん「Readyfor」はクラウドファンディングなので、お金集めという目的が主になりますが、お金集めには、大きく2種類あると思っています。ひとつは自分がやっている事業や会社、NPOの活動、そういうものに対して必要なお金を集める手段として利用しているケース。もうひとつはアイデアなど、何か思いついたものに、ある種の自己実現的にチャレンジしたいと思って利用するケースです。

前者は、一定のファイナンスの手段ですね。一方で後者のお金集めはこれまでになかったもので、そこはクラウドファンディングが補っている部分だと思っています。私たちのプラットフォームだけでも、毎月何千件と手を挙げていただいてる状態で、そういう人たちがどんどん増えていることは実感しています。

つまり、一歩を踏み出すことは、昔より簡単になっていると思います。ゆるく何か始めることがやりやすくなって、始めることのハードルはどんどん低くなっている。そういう意味では、始める人と始めない人で括る必要はもうないんじゃないかなと思います。

ただし、事業を成功させるかさせないかというところでは、昔同様、大きく線引きがある気がします。何十年もプロジェクトを続ける人や、売り上げが右肩に上がっていく人については、昔も今も志の高さが変わらないなと感じるので。

西村なるほど。ちなみに今日の参加者の中で、クラウドファンディングに挑戦したことがある人ってどのくらいいますか? じゃあ、ほかの人のプロジェクトをサポートしたことがある人は?

西村お、結構いますね。つまり、何らかの形でクラウドファンディングに関わったことがある人が8割はいるんですね。米良さんの中で利用者が増えてる実感ってありますか?

米良さんここ2年くらいですごく一般化したし、増えていると思います。東京だけでいうと「クラウドファンディングなんて言葉、初めて聞きました」みたいな人には本当に会わなくなっている。さすがに今日の会場みたいに、8割の方が使ったことがあるっていう状態まではいってないとは思うんですけど、会社で調査しても、国民の6割くらいは「クラウドファンディングはお金を集めるもの」くらいには知っている状態になっています。

あと最近は、事業をされている方と話すと「クラウドファンディングも考えたんですけど」って言われるようになりましたね。資金調達の手段として想起されるようになっているのかなと思います。

西村それはクラウドファンディングについての認識が広がっているのと、心理的なハードルが下がってきていることの組み合わせの結果で?

米良さんそうですね。認識が広がって、人が集まって何かやろうというときに「クラウドファンディングを考えてみよう」という風になっている。そしてその中にひとりくらいは、すでにやったことがある人が出てきているんじゃないかなと思います。

クラウドファンディングサイト「Readyfor(レディーフォー)」

西村もうひとつだけ米良さんに聞きたいんだけど、「READYFOR」のビジョンは「誰もがやりたいことを実現できる世の中を」っていうことですよね。誰もが、というのは、つまり広げていこうということでもあると思うんだけど、どうやったらもっと広がっていくと思いますか。

米良さん私は公共性がある仕事が好きなんですね。自分のつくっているサービスや事業を、みんなにとって当たり前のインフラにしたい。それは、会社をスタートさせたときからずっと思っていることなんです。でもまずは、求められている人に良いサービスを提供して使っていただく必要があると思っているので、「誰もが」とは言っても、「ここの人が使っていないからここに届けよう」みたいなことを無理に考えたりはしていません。「ここに需要があってこういう風にサービスを届けられたら、この人たちがもっと喜んでくれるかもしれないよね」みたいな形で掘り下げていっているというのが現状です。

西村「Readyfor」は、日本でもっとも使われているクラウドファンディングのひとつだと思います。その「Readyfor」が、無理にやらなくてもどんどん広がっているということは、ものすごくたくさんの人が自然にそこに加わっているということだと思うんですね。みんなが一歩を踏み出しているから、そういう今があるのかなと思うんですが。

米良さんそうだと思います。ふたつ目の、人がゆるくつながってお金を集めるための手段というのは、これから増えていく始め方だと思っています。クラウドファンディングは今の時代とマッチしていて、どんどん需要が大きくなっていると感じます。

効果的な出会いをつくる「ビジネススタイリスト」

西村無限に聞きたいけど男性陣が暇そうなので(笑)、ほかの方にも聞いてみたいと思います。
まず川路さん。「ワークスタイリング」は、大企業に勤めている人でも利用しやすいシェアオフィスですよね。企業で働いている人が、決まったオフィスに限らず、「どのオフィスで仕事をしてもいい」という一歩の踏み出し方をサポートする動きをつくっているのかなと思うんですが、そのために工夫されていることや、実際に1年やってきてわかってきたことを教えてもらってもいいですか。

川路さん知らない人もいると思うので説明すると「ワークスタイリング」という事業では、全国に30拠点ほどのシェアオフィスをつくりました。これまでは会社は1箇所しかなくて、毎日9時-5時で同じ場所に通うのが当たり前でした。だけどみんな、家の都合やお客さんの都合でいろいろな場所に机が欲しいと思ってるんですよね。

カフェに行けば仕事はできるけど、打ち合わせやカンファレンス、チームミーティングとなるとなかなか難しい。そういうときに「ワークスタイリング」なら、30箇所どこでもひとつのIDで入れて、打ち合わせでも個人ワークでも自由に利用することができるんです。しかも利用料は会社に請求がいくので、個人は払わなくていいという仕組みです。

この事業の最初にあった思いは、「ずっと会社にいても何も生まれてこないよな」ということでした。かといって、ブラブラ外出するなんて会社は絶対に許してくれません。だから「これは働き方改革だから、君たちも外に出ていいよ」とトップに言ってもらうための仕組みとして始めたんです。

さまざまな工夫を凝らしていますが、一番大きいのは「ビジネススタイリスト」という、人と人をつなぐことだけをやるスタッフを配置したことです。まだ六本木と八重洲の2箇所だけですけど、これが非常に評判がいいです。その子たちは、日がな一日ずっと人と喋っています。一年間で3,000人くらいと喋って、そのうち300組をマッチングしています。たとえば「デンソー」の誰々さんと「ドコモ」の誰々さんとが気が合いそうだからとか、同じマーケティング職の人だからとか、88年生まれらしいですねとか、そういうことをやっています。

川路さん僕は「Clipニホンバシ」という、新規事業の担当者同士が傷を舐め合う(笑)コワーキングスペースをつくったことがあります。そこで事業マッチングを試みたんですけど、まったくうまくいきませんでした。あっちの会社は「3年以内に100億の事業をやりたい」と言っているけれども、こっちの会社は「5億で今すぐに始めたい」と言っている。それが合うわけがないんですよね。そんなことよりも、知り合いが増えて、いつか何かあったときに「そういえばあの人いたよね」って思い出して電話できる環境をつくれたらなって思ったんです。

西村僕も「ビジネススタイリスト」につないでいただいたことがあるんですが、めちゃめちゃ感度がいいと思いました。どういう人を採用しているんですか?

川路さん「ビジネススタイリスト」は今、4人います。彼女らは本当に感度が良くて、あまり教えなくても傾聴のスキルが身についていますね。写真家と、企画会社で企画100本ノックをやっていた子と、大手外資系化粧品会社のマーケティングをやっていた子と、小さいベンチャーでなんでもかんでも全部やらされてたみたいな子なんですけど、これはもう彼女らの素養だなと思います。簡単に言うと「デザインしないデザイナー的な人たち」。テクニックというよりも感度が優れている人たちなんですね。

西村セッション2でも外の人と出会う大切さの話がありましたが、出会うのはいいんだけど変な出会いをするとむしろ嫌になると思うんですね。だから、ビジネススタイリストみたいにいいタイプの出会いをつくってくれる人は貴重だし、川路さんはそれを仕事にしちゃってるのがすごく面白いなと思います。

共創できる地域の違いと、イノベーションが起こる瞬間。

西村清原さんは僕と一緒に地域をたくさん巡りましたよね。「デンソー」からミラツクに、「1ヶ月で15箇所に視察に行きたい」というすごく無理なオーダーがきたんです。「本当にやるんだったらやりますよ」って3回くらい確認して本当にやったんですが、結果、こことは一緒にできるかもしれないという地域が何箇所かにしぼられました。そういう地域と他との違いはなんだったんですか。

清原さん他との違いは、そんなにはっきりとはないかなと思います。ただ、「デンソー」という企業の事情は理解していただいていた気がします。もちろん、他の地域の方も理解はしていただいていると思うんですけど、理解していただきつつ、企業は企業でやることがあるし、自分たちは自分たちでやることがある。でも課題は共有しましょうよという、ある意味クレバーっていうんですかね。そういう地域に惹かれました。
企業が地方にいくと、一体何をやってくれるんだという上下関係みたいなものが見え隠れするんですけど、惹かれた地域はその力関係を感じさせないというか。

西村ファーストインプレッションで、お互い自立して対等に付き合えるという風に感じたということですか? いずれそうなるかもしれないとかは置いておいて、最初からそういう風に感じられた。

清原さんそうですね。「デンソー」が来なくても自分たちでやるよ、でも「デンソー」が来たら来たでそれなりに価値はあるよっていうくらいの強さを感じたところですね。

西村地域の話は山中さんにも聞きたいです。「グロービス」では、特に東北を中心とした地域に人を送り込んだり提案したりということをしていますよね。そこでどんな化学反応が起こったときに、何かが生まれ始めたなって思いますか。

山中さん「グロービス」は、東日本大震災の後に仙台校をつくりました。そこは、各被災地でイノベーションを起こそうと頑張っているリーダーたちが通うような場所になって、その人たちの熱いつながりができて、いろいろな事業が立ち上がるようになっていきました。それを間近に見れたのは本当に感動的な経験で、自分の人生を変えたという実感もあります。

ビジュアル的なことをいうと、仙台校のラウンジに人がいっぱい集まって「お前最近どうよ」ってワイワイがやがや話をする光景。そういう「ワイがや感」を見た瞬間に「時代が動いている」と感じました。人がどんどん巻き込まれていく感じといいますか。

まず各地域で、すでに立派な活動をされている起業家たちが、仙台校全体の10分の1くらいいました。その活動に感動して、その活動に参加するようになった人たちが3割くらいです。それとは全然別に「そもそもやりたいと思っていたことがある」みたいな人たちが、周りの人を巻き込んで新しいNPOを立ち上げるみたいな光景も生まれました。そういうものがあちこちで勃発している感じがいいなぁと思いましたね。

個人としてインプットし、会社にアウトプットする

西村「READYFOR」は、いろいろなところと組んでやっているじゃないですか。「READYFOR」として一緒にやってみたいと思う人と、何か違うなって思うときの差を聞いてみたいです。

米良さん人で見ることはないかもしれないですね。会社としては事業戦略ありきなので、それを遂行するために一緒にできそうな会社さんとやっているという感じで、かなり普通です。もちろん、すごくやりやすくはなっています。クラウドファンディング自体がメジャーになったし、その中でも「Readyfor」は評価されている方なので、基本みなさんウェルカムです。国全体の流れとしても、新しいお金の流れを生み出しているということは評価されやすいんですね。今は「何かやりましょう」と言って微妙な顔をされることはほとんどありませんね。

西村「Readyfor」がもっと広がっていけば、一歩を踏み出す人はさらにやりやすくなると思うんだけれども。

米良さんそれを考えるのが、社長である私の仕事ですね。未来に向けてどういう事業をつくっていくのか、どういう企業と提携していくのか、これから先どうしていくのかは全部、基本的に私が決めなきゃいけないことだと思っています。

でもそれを考えていく上では、インスパイアリング(鼓舞する)なことが自分の周りにたくさん起こらなければいけません。だから、米良はるかという個人としていろいろな場に行っていろいろな人と話をして、社会がどうなっていくのか、その中でどういう風に生きていくのかを考え、エネルギーにして、最後は会社に返すということをやっています。

最後のアウトプットは会社に活きるんですけど、まず私という個人が意思決定するためにも、いろいろな人たちと関わらないといけない。感覚的にいうと、ベンチャーの社長とかCEOみたいな人は仕事の6割くらいは外に出かけて、いろいろな人たちに情報を聞いて、それを自分の中での確信度に変えていく作業をしてるなという風に思います。

西村たとえば今、個人としてどんなことに興味があるんですか?

米良さん既存の金融の仕組みだと、まだまだお金が流れていかない問題があるので、そこに対してどういうアプローチをすればいいのかなっていうことは考えています。

水戸黄門は最強のフィールドワーカーだった

西村川路さんもいろいろな事業をされてるじゃないですか。普段、個人としてどんなインプットをしているんですか。

川路さん最近は「amazonプライム」に移行したんですけど、「映画の地上波全部録り」っていうのをやっていました。地上波で放映された映画を全部録っておいて、朝からひたすら流すんです。トイレに行くときも歯を磨くときも止めません。ずっと流しっぱなしです。

たとえば、サメが台風に巻き込まれて殺人ザメになるっていうホラー映画があったんですけど、それって正直、何の教養にもならないんです。ならないんだけど、ずっと見ていると1950年代のカリフォルニアの風景とか、きらりと光る一瞬があるんですね。そういうセレンディピティに出会うために、わざとそんなことをしています。

川路さんあと、関係企業の方がいたら申し訳ないんですけど、僕は、「路線検索」ってつまらないなと思っているんです。これは僕が不動産屋だからっていうのもあるんだけど、路線検索を使うなら、一番下に出る、一番時間がかかるやつで行こうとします。「新橋から渋谷まで行く」じゃなくて、今この地点から相手の会社までどうやって行くのかを考えて調べると、電車だけじゃなくてバスという選択肢もあるし、いろいろな行き方が考えられるんですね。そういうことを結構真面目にやっています。

西村その中で一番面白かった手段はなんですか。あと、ダメだったやつも教えてください。

川路さん「食べログ」の47都道府県のランキングトップ10を全部見ていたことがありました。30分とか1時間もあればタダでできるインプットなのに、これが面白いんですよ。仮想で美食ツアーを組んでみたり、出張で秋田に行ったらあそこに行こうってなったり。あとはインプットした翌週にそこの出身の人に会って「何とかっていう店知ってますか」「知ってるよ。地元じゃ超有名な店だよ」「行ったことないんですけどね」とかって話のネタになるんです。それが僕的にはすごくヒットでした。エクセルで表もつくったりしましたね。

ダメなやつは、子育ての話になるんですけど、子どもに世界選手権とか日本選手権ばっかり見せていたことがありました。レベルが高いから見てても楽しいだろうなと思って、卓球とか柔道とかいろいろ見に行ったんですけど、子どもにはひとつも刺さりませんでしたね。近くの野球の試合を見に行ったほうが良かったな、僕のエゴだったなと思いました。

西村山中さんのインプットの話も聞きたいですね。どんどんいろいろなことをやられているじゃないですか。

山中さんいやいや、まだインプットが足りないなって、川路さんの話を聞いていて思いました。

山中さん私は仕事で大阪に行くことになったら、ちょっと足を伸ばして姫路まで行ってみるとか、できるだけ旅に出るようにということは意識しています。
水戸黄門って最強のフィールドワーカーだったっていう話はご存知ですか? 参勤交代で行ったり来たりするだけじゃなくて、周りをフラフラして、他の村にわざわざ寄り道するんですね。それがあの水戸黄門のストーリーにつながっているんです。だから、ちょっとでも水戸黄門的に動こうということは心がけています。

あと、新聞はあえて地方紙の河北新聞を購読するとか、自分の視点をちょっとズラして、大都市優先中心主義から外れるように心がけています。

その人が幸せに感じる瞬間をどれだけ知っているのか

西村清原さんはもともとプロダクトデザイナーでしたよね。プロダクトデザイナーから全然違う仕事に変わっていく中で、どのインプットが自分を変えてくれましたか。

清原さんプロダクトデザイナーから仕事が変わった理由を少し話していいですか?

私は企業の中でインハウスデザイナーをやっていました。そうすると企業がつくりたいものを、それが売れるかどうかという見方でデザインするんです。「デンソー」ですから、メーターとかナビとか車の計器をつくっていました。でも全然、人を幸せにしている実感がなかったんです。

清原さん「デンソー」が一時期、携帯電話をつくっていた時期がありました。当時は携帯電話が高価だったので、それが使えるようになって誇らしげにしているユーザーさんを見ていたら嬉しくて、自分はそういう、人を幸せにするものを提供していきたいと思うようになりました。

でも「デンソー」が携帯電話から撤退してしまい、またメーターとかナビだけをつくるようになったら、自分の幸せ度がどんどん下がっていってしまったんですね。そのときに、「デンソーは車の部品をつくっているけど、そもそも何がやりたいんだろう」っていうことを考えたんです。そうしたら、やっぱり車の原点にある、移動をよりよくさせたいんだろうなと思いました。じゃあ移動で困っている人の困りごとを解決するプロジェクトを自分で立ち上げられないかなと思ったんです。

そのとき、私はデザインセクションの管理職になっていました。企業では、管理職になるというのは、出世コースは出世コースなんです。だけどもう、ちっとも面白くなくて。それでデザインから飛び出して、今のようなプロジェクトをやるようになりました。

ようやく本題なんですけど、そのときにやっぱりインプットっていうのは、現場で困ってる状態を直に見たり、困っている人の話を直接聞いたりすることだなと思いました。

最初に、福祉系のタクシー会社さんと一緒にプロジェクトをやったんです。そのタクシー会社はものすごくホスピタリティが高くて、フレンドリーというか、お客さんに家族のように接するタクシー会社でした。お客さんが苦労して車の乗り降りをしてるんですけど、なぜかものすごくニコニコしていたので、なぜニコニコしているのか聞いたんです。そうしたら「リハビリは辛くて本当は行きたくないんだけど、アテンダント(運転手)と話をする時間が楽しいから行くんだよー」って教えてくれました。

私は、そういうシーンに出会うことが大事なんじゃないかと思います。本当に求められていることや、本当にその人が幸せに感じる瞬間をどれだけ知っているのか。それは狙いどおりに出くわすこともあるんですけど、今、川路さんがおっしゃられたように、予想だにしないところで出会うこともあります。その機会を増やすということなのかなと、今は思っています。

信頼の源泉は、応援してくれる人との出会いへの感度

西村清原さんの話が、予想以上にいい話でびっくりしました(笑)。米良さんが「Readyfor」をやってて良かったなって思う瞬間も知りたいですね。

米良さん経営自体がすごく楽しいなと思います。特に会社が大きくなると、自分がやりたいことがどれだけ大きくても、その夢に向かってレバレッジが効くようになってきます。そういう意味で、今はそういう状況になれたから楽しいんだろうなと思います。

それこそ会社がゼロだったときは、プレゼンに行っても「女の子が何か喋ってる」くらいだったんですけど、会社が認知されるようになると、悩みを打ち明けてくれるようになって、そのために何をやればいいのかということがどんどん見えるようになりました。会社が7年、コツコツやってきたことで社会からも信頼を得られて、何をやるにもすごくやりやすい状態になれているので、それは良かったなと思っています。

西村信頼の源泉はコツコツ積み上げてきたこと?

米良さんそうじゃないですかね。サービスについても、誠実にやってきた誇りを持っているし、西村さんをはじめ、昔からずっと応援してくださっている方々に見守られながらやらせていただけていると思います。

私は、自分の人生は13歳くらいから決まっていたと思っているんです。原点は中学時代の家庭教師の先生が慶應大学の経済学部出身だったことなんですね。その人がすごく楽しそうに大学の話をするので、慶應経済に行けばこんなに楽しいんだと思って慶應経済にいきました。ミクロ経済のゼミに入って、旦那さんとはそのゼミで知り合って結婚したし、ゼミを通じて東京大学で人工知能の研究をやっている松尾先生に会って、松尾先生が考えるAIの世界が面白いと思って研究室に行くようになって、ベンチャーを始めて。なので、本当に人とのつながりみたいなのがずっと続いて今があるっていう感覚です。

信頼の源泉みたいな意味で言うと、ずっと応援してくださる人との出会いに自分は反応してきたんだと思います。その出会いが未来の自分や社会にとって良いものだと信じるから何かが生まれる。それはすぐじゃなくても、何かのタイミングで生まれることもあると思うので、そういう出会いに対して自分はすごく敏感に動いている人間だなとは思っています。

西村なるほど。僕の中で、今の米良さんの話でこのセッションは完結しました。テーマが「新しい一歩を踏み出すには」みたいな話だったんですが、一歩の踏み出し方とか、そういうノウハウはどうでもいいなと途中から思い始めました。

いや、すみません。どうでも良くはないんですけど、つまりノウハウじゃないんだなと思って。結果として新しいものが生まれるとか何かが始まることはあるけど、なぜほかの人が協力したくなるんだろうとか、なんで自分はこの人と一緒にやりたいと思うんだろうとか、そっちのほうが大事なんだなと。

たとえばクラウドファンディングのサービスは他にもいっぱいあるんだけれども、僕は「Readyfor」を応援してるんですね。それはなぜかと言うと「Readyfor」が目指す先がいいと思っているから。

やり方はやり方で大事なんだけれども、そこにある「ここを目指している」みたいな話とか、それを誠実に積み上げている態度とか行動みたいなものがもっと大事なんだなと思い、もう結構、僕の中で納得して完了してしまいました。時間もちょうどいいので終わろうと思います。ありがとうございました。

この記事は、ミラツクが運営するメンバーシップ「ROOM」によって取材・制作されています。http://room.emerging-future.org/

平川友紀 ライター
リアリティを残し、行間を拾う、ストーリーライター・文筆家。greenz.jpシニアライター。1979年生まれ。20代前半を音楽インディーズ雑誌の編集長として過ごし、生き方や表現について多くのミュージシャンから影響を受けた。2006年、神奈川県の里山のまち、旧藤野町(相模原市緑区)に移住。その多様性のあるコミュニティにすっかり魅了され、気づけばまちづくり、暮らしなどを主なテーマに執筆中。