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人類の未来と未来社会のデザイン。テクノロジーと人類の進化の“幸せな関係”を考える【ミラツクフォーラム2018】

フォーラム

ミラツクと親交の深いオピニオンリーダーや企業関係者が集結し、白熱の議論を繰り広げる年の瀬の恒例イベント「ミラツク年次フォーラム」。2018年は舞台を東京の新名所としてオープンした「東京ミッドタウン日比谷」に移し、12月23日に開催しました。今回も、「未来社会」「ソーシャル・イノベーション」「人材育成」「まち」などをテーマに、さまざまなトークが繰り広げられました。メイン会場で行われたセッション1のテーマは、「人類の未来と未来社会のデザイン」です。最先端のテクノロジーや研究から、アフリカに伝わる「呪い」の話まで。さまざまな角度から、人類や社会の未来について語り合いました。進行は、ミラツク代表・西村です。

(photo by Yoshiaki Hirokawa)

この記事は、ミラツクが運営するメンバーシップ「ROOM」によって運営されています。http://room.emerging-future.org/

登壇者プロフィール
深堀昂さん
ANAホールディングス株式会社 アバター・プログラム・ディレクター
2008年に、「ANA」に入社。パイロットの緊急時の操作手順などを設計する運航技術業務のかたわら、営利と非営利のタイアップモデル「BLUE WINGプログラム」を発案、Global Agenda Seminar 2010 Grand Prize受賞、南カルフォルニア大学MBAのケーススタディーに選定。2016年10月に開催された「XPRIZE財団」主催の次期国際賞金レース設計コンテストにて、「ANA AVATAR XPRIZE」のコンセプトをデザインしグランプリ受賞。2018年3月に開始し、現在74カ国、570チームを超えるグローバルムーブメントを牽引中。2018年9月、「JAXA」とともにアバターを活用した宇宙開発推進プログラム「AVATAR X」を立ち上げる。
丸幸弘さん
株式会社リバネス 代表取締役 グループCEO
東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命工学専攻博士課程修了、博士(農学)。大学院在学中に理工系学生のみで「リバネス」を設立。日本初「最先端科学の出前実験教室」をビジネス化。大学・地域に眠る経営資源や技術を組み合せて新事業のタネを生み出す「知識製造業」を営み、世界の知を集めるインフラ「知識プラットフォーム」を通じて、200以上のプロジェクトを進行させる。ユーグレナなど多数のベンチャー企業の立ち上げにも携わるイノベーター。
小出直史さん
国立研究開発法人理化学研究所 生命機能科学研究センター 研究員・プロジェクトマネージャー
2012年、名古屋大学大学院医学系研究科博士課程修了、薬剤師・博士(医学)。大学院在学中は学術振興会特別研究員(DC1)としてがん幹細胞をテーマに幹細胞生物学や発生工学の専門知識を習得。現在は、理化学研究所/神戸アイセンター病院で、iPS細胞を用いた再生医療(網膜再生)の研究開発に従事。プロジェクトマネージャーとして再生医療開発の最前線でアカデミアと産業界の連携スキームを創りつつ、医療機関へ橋渡しする仕組みづくりに取り組んでいる。
杉下智彦さん
東京女子医科大学 医学部 国際環境・熱帯医学講座(教授・講座主任)
1990年、東北大学医学部を卒業。1995年から約3年間、青年海外協力隊に参加し、「マラウイ共和国」の国立病院の外科医長として活動。2001年よりアフリカを中心に世界30カ国以上で技術協力プロジェクトの立案や実施、評価などに携わる。2015年に発表された「持続医可能な開発目標」(SDGs)の国際委員として策定に尽力する。第7回ソーシャルビジネスグランプリ大賞、第44回医療功労賞を受賞。専門は保健システム学、医療人類学、呪いの研究など。
井上有紀さん(コメンテーター)
一般社団法人イノラボ・インターナショナル 共同代表
慶応義塾大学大学院卒業後、革新的な社会起業の「スケールアウト」(他地域拡散)をテーマに、リサーチやコンサルティングのほか、国際ネットワークの共同創設やフォーラムの開催など、社会起業セクターの生態系づくりに従事。スタンフォード大学(Center on Philanthropy and Civil Society)客員研究員、クレアモント大学院大学ピーター・ドラッカー・スクール・オブ・マネジメント客員研究員、慶應義塾大学大学院非常勤講師などを経て現職。社会のシステム変化理論であるU理論と、ダンスや表現アートなど、体を使った変容を組み合わせた、個人や組織の変化を導く手法「ソーシャル・プレゼンシング・シアター」公認シニア・ティーチャー。「NPO法人ミラツク」理事。「一般社団法人ソーシャル・インベストメント・パートナーズ」理事。

テクノロジー、呪い…異色の4人で議論スタート

西村最初に、4人それぞれの自己紹介からお願いします。

深掘さんこんにちは、“深堀りできない”深堀と申します(笑)。それは冗談ですが、私は瞬間移動手段「ANA AVATAR(エイ・エヌ・エー アバター)」(以下、アバター)を深掘りしています。離れた場所にあるアバターを遠隔操作することで、感覚や意識を瞬間移動させ、あたかもそこに自分自身が存在しているかのようにコミュニケーションや作業を行うことができる未来の移動手段です。

場所や身体、時間などを飛び越えて瞬間的に移動できれば、ものすごく可能性が広がるはずです。アバターを用いることで世界中の知恵や技術が共有化され、社会問題を解決する、人類が進化する。そういう時代になるのではないか。そんなことを考えています。

丸さん世界を“丸く”収めて、幸せを“広(弘)げる”丸幸弘です(笑)。研究者であり、「株式会社リバネス」のCEOをしています。ほかに、「株式会社ユーグレナ」と「SMBC日興証券株式会社」と3社で運営している、研究開発型ベンチャー企業を支援する「リアルテックファンド」の共同代表なども務めています。技術はこの世の中に山ほどあるのに、どうもうまく使われていない、もったいない。その技術を、企業と連結させながら世界を丸く収めよう。そんな仕事をしています。

小出さん私は、「理化学研究所」でiPS細胞を使った再生医療のプロジェクトマネージャーをしています。2017年から、他人の細胞を使って網膜の疾患を治す治療を行っています。神戸市で、目専門のリハビリと研究、治療が一緒にできる施設のハンドリングもしています。

杉下さん「東京女子医科大学」で教授をしています。それ以前の約20年間、アフリカで医療に携わってきました。最新技術とはまったく逆の、アフリカの伝統医療や呪いについて研究してきたなかで、私たちはアフリカ人の思考から学ぶことができるのではないか。そんなことを考えています。最近は、学生の研究課題で「ペンギンは、なぜ人間に癒しを提供できるのか」とか珍しいことをやっているので、大学から目をつけられています(笑)。

アバターで変わる私たちの暮らし、未来

西村このセッションは、とにかく“変な人”に来てもらいました(笑)。最先端のテクノロジーを研究している人もいれば、呪いに詳しい人もいます。そういうまったく違うもののなかから、何かが描けるのではないか。そう思ったからです。

さて、まずは深掘さん。アバターでやっていることはどんな可能性の拡張なんでしょうか。単純にテクノロジーとして遠くのものが見えるようになるとか、そういうことだけではなくて、人類の可能性を拡張していくんだと思います。例えば、「こんな新しい暮らしができる」「こんな文化が新しく生まれる」とか、そういうイマジネーションの話をぜひお聞きしたいと思います。

深掘さんアバターと聞くと、みなさん10年後や20年後の話と思うかもしれませんが、「ANA」として近いうちに、実際にみなさんに体験いただけるようなサービスが公開できると思いますよ。

アバターは操作する人の脳が電気信号を出して、インターネットを経由してロボットのボディを動かしてフィードバックします。人間の身体と一緒なんです。つまり、“新しい体”をいろんな人が手にすることができるんです。

これは少し先の話ですが、例えばアバターを宇宙に打ち上げる計画があります。そこで、世界中の子どもたちがアバターに接続して、地球を眺めながら平和について語る企画を考えています。教育も変わると思います。教室で話を聞くだけの退屈な授業ではなく、アバターを使っていろんな場所に行って、体験しながら学べるようになります。実際、私たちは「沖縄美ら海水族館」とタイアップして、生物の授業で水族館にいるアバターに接続して、魚に触れたりする授業の実証実験などを行っています。

単身赴任者が家族とつながることもできます。先日、一緒に海外出張に出かけた私の同僚は、栃木県の自宅に置いてあるアバターに接続し、子どもと遊んでいました。これは、テレビ電話とは違うんですね。アバターに接続することで、“存在感”が転送できるんです。そばにいる奥さんも、「ちょっと子どもの面倒を見といて」と頼めたりするわけですね。“存在感”の転送には、動くことと、目が2つあることが大事だと思うんです。動いていて、それには目が2つある。すると人間は、本能的にその存在を意識せざるを得なくなるんです。それが、テレビ電話などの今までのシステムとは決定的に違うところです。

ほかにも、アバターを使えば遠隔でショッピングができたり、老人ホームにいて外出ができない人でも、外出したり友人に会いに行ったりできるようになるでしょう。究極のモビリティ、そしてボディシェアリングの時代が来ると思っています。

杉下さんお話を聞いていて、現代社会がものすごく呪術的、呪いの世界になっていると感じました。私が経験した、あるエピソードを紹介します。

約20年前、アフリカ東部のマラウイ共和国で手術をしたときのことです。その翌日、患者さんが「昨夜はケープタウン(南アフリカの都市)に行っていた」と言い始めたんですね。こちらは「どういうことだろう?」と思うわけです。どうやらケープタウンには昔、亡くなった奥さんが住んでいたようなんです。だから、彼は「妻に会いに行っていた」と。「まさか」と思って看護婦さんに聞いたら、看護婦さんも「(彼は)ここにいなかった」と言い始めたんですよ。

つまり、彼らのマインドセットのなかでは、呪術的な世界が私たちの現世と一緒に動いていて、どうも自分たちの目に見えるものだけではない感覚世界があるようなんです。現世のその向こう側の世界に行って、会話したりしているんですね。

今、アバターのように科学技術の分野で身体性や時間をリープ(跳躍)して“向こう側”にタッチできるようになる動きが出てきています。それと同じような感覚世界が、マラウイの人たちにはあるんですね。

丸さん私もまったく同じことを考えてます。私はいつも、“アバター”してますよ。今この瞬間も、アメリカ人やマレーシア人、シンガポール人と、いろんな人と“会話”していますから。

これからの時代は、人間の想像力をもう一段引き上げていくトレーニングをしないといけません。テクノロジーや技術に頼りすぎるのは危険ですよ。そこに、「こういうことがしたいよね」という考えがないといけません。人間がもっている身体性を拡張することに、どう知性を使うのか。これが重要です。

深堀さん私たちのアバターのWEBサイト(https://ana-avatar.com/)をご覧いただくと、ビジョン動画のなかにロボットは出てこないんです。これは、こだわっていることの一つです。技術はあくまで手段だと思っていて、ですから、例えばアバターに3本目の手をつけたらどうなるのか。もしかしたら脳の機能が拡張するんじゃないかとか、そういう領域まで到達したいと思っています。

一方でリアリティも必要で、例えば病院の集中治療室にいる病気の子どもたちが家族に会えるようになったりとか、企業として求めている人にいち早く技術・サービスを提供することも大事だと考えています。

すぐに“ググる”のではなく、まず想像してみる

丸さん小出さんにお聞きしたいことがあります。先日、中国のある研究者が世界で初めて、ゲノムを編集した赤ちゃんをつくり出したと主張したことが話題になりました。仮に感性をもった人類を増やそうと思ったら、ゲノム編集で可能なのか。生命科学の観点から、そのあたりは「理研」のなかで議論されているんでしょうか。

小出さん生命倫理的な議論は、それほど活発には行われていませんね。実際、2013年にiPS細胞からつくった細胞を初めて人に移植する計画を出すとき、倫理委員会が開かれたんですが、そこで主に議論されていた内容は倫理的な議論ではなく、細胞の安全性の話でした。科学技術が考える倫理観と、世の中が求めているニーズと、あとは実施する人間がやりたいこと。これらがほとんどマッチしていないことを実感しますね。

私たちが、他人の細胞を使って移植手術を行うときも一緒です。国がやりたいことと、医療がやりたいこと、患者さんが求めていること。これもまた、それぞれ違います。それぞれの目線が合ったときに、一気に進み出します。

丸さんの指摘は大事なことで、中国のゲノム編集についてはいろんな議論がありますが、個人的な考えとしては「あり」だと思っています。それは、実際にやってみないとわからないことがかなり多いからです。やってダメだった場合に誰が責任取るのかという問題はありますが、やったからこそわかることが数多あるので、安全に十分配慮したうえで、トライする機会を与えることは大事だと個人的には思いますね。

西村先ほどの丸さんの話に戻ります。新しいテクノロジーが増えるのはいいけど、ちゃんと「こういうことがしたいよね」という考えがないといけない——という話について、もう少し詳しく聞かせてもらえますか。

丸さん私はインターネットが嫌いで、“ググる”(検索する)こともしません。人間の脳ミソは、使えば使うほど幸福な感覚になるんです。ネットは脳をサボらせます。今の社会は、脳が汗をかく回数がどんどん減ってますよね。

ですから、やたらとすぐにググるのではなくて、自分のなかでまず想像してみることが大事なんですよ。例えばiPS細胞の話だって、きっとみんなすぐにググりますよね。「いやいや、いったん落ち着いて、想像してごらん」と言いたいですね。iPS細胞が作られたことで、何が起こるのか。これ、考えるとめっちゃ興奮しませんか? iPS細胞に限った話ではありません。どんなことも、いいか悪いかも含めて、まず自分で想像してみませんか。

そういう想像力の集合知が、世の中や人類の方向性なんですよ。今怖いのは、世の中を想像する人が減ってるから、集合知がそもそも出てこないで、よくわからないネットの広告に感性が引っ張られてしまっています。危険な状態ですよ。もっとみんなが想像して、脳ミソで考えて、今ここで目を閉じれば昔いたおばあちゃんと触れ合えるような感覚や、それを拡張していくことがこれからの時代に必要なことですよ。

定義を変えれば、もっと広い世界が見えてくる

西村小出さんにも、ぜひお聞きしたい。例えば、再生医療というテクノロジーがあったときに、これはどうやって社会に求められるかたちしていくんでしょうか。実際に社会に組み込んでいくときに、それに合わせてかたちを変えていく必要があるんだと思います。そのときに、直面している壁はありますか。

小出さん私たちが常日頃、直面している課題ですね。例えば、企業と仕事をするときに毎回言われることがあります。「事業計画を出してくれ」と。こうした企業のマインドには、最近はついていくことはせずに、基本的には門前払いをしてます。というのは、数年前までは頑張ってプロジェクト化しようとしていたんですが、結局目線が合うことはない、という結論に達しました。

私も丸さんと同じように、Googleで検索はほとんどしません。検索すると、そっちの情報に引っ張られちゃうんですね。ネガティブな考えや意見も多いですからね。すると、自分たちが本当に創造したい医療には、なかなかたどり着けないんです。今は周りの人たちに笑われながらでも、前に進めればいいと思って研究しています。

一定の人たちから理解は得られるので、そういう人たちと一緒に仕事するようにしています。お金でも技術でもない、基本的にはマインドです。そんなに儲からないけど、将来的に新しいコンセプトが打ち出せる。そういうことに夢をもってお金を投じてくれる人が大事ですね。企業のなかでも役員クラスではわかってくれる人も多いんですが、現場に近くなってくると、そういう理解をいただけず、目線が合わないことによく直面しています。

杉下さん今、門前払いしているという話がありましたが、「呪い」は門前払いを超越しているなと感じました。

今この場で、病気の人はどれくらいいますかね。日本でこういう質問をしても、ほとんど手は挙がりません。でも、これがアフリカだとほぼ全員が手を挙げます。例えば、若い女の子は「失恋して心が痛い」、別の人は「人間関係でいざこざがあって悩んでいる」なんて言います。健康な人は誰一人としていません。これがデフォルトなんです。

「病気」や「医療」とは、そもそも何なのか。医者は、診断が可能な症状を治療することでお金をもらっています。医療システムはある意味で、病気を定義することで生まれたビジネスなんですね。例えば、「自殺したい」という人が病院に行っても門前払いですよね。「行政に掛け合いましょう」とか「カウンセリングに行きましょう」となって、結局行き場が見当たらない。「悩んでます」という人が行く場所がなかなかない。その結果、場合によっては命を落としてしまったりするわけですよね。

ですが、病気の定義を変えれば、もっと広い世界がそこには生まれます。アフリカの人たちは、例えばお金や食べるものがなくてお腹が痛いという人に対して、“お金持ちになる薬”をあげるんですよ。そういう薬草が“ある”んですよ。みなさん、冗談に思うかもしれませんが(笑)。それは効果があるかないかではなくて、“存在する”んです。科学的なエビデンスであろうがなかろうが、本人にとって意味があれば、それは意味が“ある”んです。

そこには、みんなが「いいね」と言ってくれるような社会があります。彼らのほうが、よっぽど生きやすい心豊かな社会なんじゃないか。そう思うことがたくさんあります。「医者はこうだ」「病院はこうだ」と決めつけてしまうと、本当に社会的に脆弱な人たちの行き場がなくなってしまいます。現代社会は今、まさにそういう状態なのではないでしょうか。

もう少し広い意味で病気を捉える、つまり「私は専門外だから帰ってくれ」と突き放すのではなく、「みんなでやろうよ」と捉え方を変える。そういう社会デザインを描くようにならないと、ますます生きづらい社会になっていくと思いますよ。

西村丸さんがおっしゃっていた“ググる”の話に近いと思いました。「病気」とググるとその定義が出てきますが、「病気ってそもそも何なんだろう」というところからしっかり考えないといけないわけですね。

小出さん今のお話に少し補足させてください。私が再生医療に従事していて、一番驚いたことについてです。私たちは目の病気の研究・治療を行ってるんですが、患者さんはみんな目が見えなくて「困っている」と思うじゃないですか。でも、必ずしも困っている人ばかりではないんですよ。これは衝撃でしたね。

例えば、生まれながらに盲目の人は、そもそも「見える」ことを知らないわけですから、「困る」という感覚がないんです。困るのは、かつて見えていたけど、今は見えなくなってしまった人なんですね。医療とは、「治す」ことだけではないのかもしれない。私たちは何を解決しなければならないのか。そんなことを考えさせられる体験でした。

オープンイノベーションに必要な「祈祷師」の存在

深堀さん少し遡りますが、小出さんがお話しされていた企業に対する「門前払い」の話についてです。私自身、企業の人間として感じているのは、「大企業単独によるイノベーションはなかなか難しいんじゃないか」ということです。というのは、いくら「イノベーション推進室」といった専門部署をつくって社内体制を整えたり、イノベーションに関するいろんな会議に出席したりしても、いざ構想や実行に移そうとすると上司から「3年で利益を出せ」なんて言われるわけですよ。そうなると、社内で提案する側はアイデアや企画が小さな枠に収まってしまうんです。

一方で、大企業とベンチャーがもっとうまく連携していく必要性を強く感じています。やはり大企業がお金を投じないと、リアルテックファンドやそれによるベンチャー企業支援の動きなんかを加速させるのは、なかなか難しいはずです。ですから、ベンチャーや開発者には大企業をうまく利用してほしいと思っています。

そのときに大事なのは、やはりビジョンの共有とともに、大企業側を動かすことができる同じ想いを持ったライトパーソンを見つけることだと思います。強い想いがなければ、企業側も動きませんし、さらにサービスとして社会にリリースされることはありません。小出さんは苦労されているようでしたが、大企業のなかにも、先のビジョンが見えていて、共感してくれる担当者がいるはずです。ベンチャーや開発者の人たちには、大企業にビジョンを語り、さらに大企業側の内部を動かすことができる担当者を見つけ、ともに突き進んでいく。そうやってうまく連携していきたいですね。

丸さんただ、これは大企業とベンチャーの二者間だけでは無理なんですよ。もう一人、祈祷師(きとうし)のような人が必要なんです。両者の間に入って、丸く収める助っ人です。私たちは、コミュニケーターと呼んでいます。「リバネス」は、そういうコミュニケーターの集団です。「深堀さん、この会社(ベンチャー)に投資してみなよ」と祈祷師である私たちが言うと、相手のベンチャーに言われるよりもすんなり聞き入れてくれるんですよ。

実はオープンイノベーションは簡単で、祈祷師(コミュニケーター)を雇えばいいんですよ。でもみなさん、気をつけてくださいね。大企業にべったりで、「御社の新規事業は……」なんていう人は危険ですよ。大企業のための新規事業をつくる人は“偽物”ですから。そうじゃなくて、人類を進化させて、地球をよりよくすることができる。そういうプロジェクトのため、お金を使うんです。

大企業とベンチャーの真ん中にいるべき祈祷師がどっちかに寄ると、その時点で破綻します。ただ、目的意識が統一されていれば、そのプロジェクトは現実になります。人類を進化させるために、地球をよりよくするために。そういう考え方をもった祈祷師を選ぶと、結果的に大企業もベンチャーも、両方とも得をすることになりますよ。

西村では、コメンテーターの井上さんに感想をお聞きしましょう。

井上さん最初に登壇者の4人を拝見したとき、専門分野がテクノロジーから呪いまで幅広くて、一体どうなるんだろう?と思いましたが、非常におもしろかったです。テクノロジーと聞くと、新しい技術など目に見える部分や、分析・解析したりするイメージが強いんですが、みなさんがやってらっしゃることは、つくりたい未来を意図して、想像しながら、今はつながっていない全然違うものをつなげることなんだなと感じました。

さきほど基調鼎談で、私の夫でもある井上英之から、ネイティブ・アメリカンの聖地に行ったときの話がありました。脳科学者や経営者などいろんな専門家が集まって、対話したり、自然のなかで土や石や動物の存在を感じながら、一人でキャンプする時間を過ごして、また改めて対話したりするなかで、これからの社会をつくっていくための方法を集合的に探求するんです。

要は、人類を進化させたり、よりよい社会にするためには、一人のリーダーやイノベーターが何かを考えるだけでは限界があって、多様な人の集合知が必要なんだと思います。人だけではなく、土や生き物も含めた集合知かもしれません。人と人や、人と生き物、人と地球との間にある無意識的な関係性の中で、よりよい社会への進化につながるようなもの、英語でいうと、「ジェネラティブ(生成的、生み出す力がある)・ソーシャルフィールド」をどうつくっていくか、ということなんです。

祈祷師という言葉が出てきましたが、これからは一人ひとりのなかに祈祷師が必要だと思うんです。企業のなかのロジックに合わせていく自分も時に必要です。ただ、いったんそれを脇に置いて、もう一回俯瞰して自分のなかの祈祷師の力を借りながら、本当に叶えたいことはなんだろう?というところに再度アクセスして、現実世界に降りてくる。その行ったり来たりをしている個の集まりが、集合知を生み出せるのかな、というようなことを考えながら、お話を楽しませていただきました。ただ、私はすぐに検索しちゃう検索魔なので、今日からは気をつけたいと思います(笑)

「人間中心」ではなく、「地球」のためにどうするか

西村最後に、テーマである「人類の未来」への提言や、ご自身の今後の抱負などを教えてください。

杉下さん私からは最後に、アフリカのマサイ族のエピソードを紹介させてください。私たちは、彼らから学べることがたくさんあると思うんです。

マサイ族は、戦争を結構するんですね。谷を挟んで対峙し、弓矢を撃ち合う戦いです。でも、なぜか人をめがけて撃たずに、斜め上に撃つんです。すると、敵の陣地から放たれた弓矢が頭上から落ちてくるわけですね。滅多に人に当たることはないんですが、たまにかすったりするんですよ。そしたら戦いは終わって、勝敗が決まるんです。

「どういうことなの?」と聞いたら、「人間同士の争いは人間が決めてはいけない」というんです。聞けば、どうやら先祖たちが空の上で戦っているらしいんです。はるか上のほうで戦争をしていて、勝敗は上にいる先祖が決めているというわけです。本当に殺し合ったら、憎悪やいざこざがずっと続いてしまいますが、どっちも「先祖が決めたならしょうがない」と納得し、負けても認めざるを得ない。それが、彼らの戦争なんですね。

私は国連が定めた「SDGs」(持続可能な開発目標)の策定に携わったことがあるんですが、そこでは「人間中心」ではなく、「地球」をどうするかという発想から議論が行われていました。実はそういう発想に近いことや感覚を、マサイ族は昔からやっていたり、もっていたりするわけですね。彼らを見習って、どういう地球をつくりたいのかという観点で、企業や個人一人ひとりが力を発揮していくことが、豊かな社会をつくることにつながると思っています。

この記事は、ミラツクが運営するメンバーシップ「ROOM」によって運営されています。http://room.emerging-future.org/

次回ミラツクフォーラムに参加を希望される方は、ミラツクが運営するメンバーシップ「ROOM」にご参加ください。ミラツクフォーラムは、メンバー向けの招待制の会として開催されます。
ROOMの登録:http://room.emerging-future.org/
ROOMの背景:https://note.com/miratuku/n/nd430ea674a7f
NPO法人ミラツク では、2016~2019の4年間でミラツク年次フォーラムにおいて行われた33のセッションの記事を分析し、783要素、小項目441、中項目172、大項目46に構造化しました。詳しくは「こちら」をご覧ください。
近藤快 ライター
フリーライター。1983年、神奈川県生まれ。2008年〜化粧品の業界紙記者を経て、2016年〜フリーランスに。東北復興新聞(発行:NPO法人HUG)で震災・復興現場の取材、50人インタビュー企画「Beyond 2020」を担当。災害時における企業・NPOの復興支援や、自治体の情報マネジメントを集積したWEBサイト「未来への学び」(グーグル社)のほか、化粧品業界やCSR・CSV、地方創生・移住、一次産業などを中心に取材〜執筆活動している。
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