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「地球をなおすリーダーシップ」。私たちはどうやって“ワールドシフト”させればいいのか[ミラツクフォーラム2019]

フォーラム

年末恒例の「ミラツク年次フォーラム」が2019年12月23日、東京・日比谷で開催されました。ここでは、第二会場で行われたセッション3「地球をなおすリーダーシップ」の模様をレポートします。

一向に歯止めがかからない地球温暖化。2019年は、スウェーデンの環境活動家であるグレタ・トゥンベリさんのスピーチや行動がきっかけで、世界各国に早急な対策を求めるムーブメントが広がりました。SDGs(持続可能な開発目標)への関心も高まっています。地球をなおすには、どうすればいいのか。そのために、どんなリーダーシップが求められるのか。「地球環境をよくするためには、文明を転換させないといけない」。そんな言葉も飛び出した議論は、果たしてどこへ着地したのかーー。

(photo by Yoshiaki Hirokawa)

この記事は、ミラツクが運営するメンバーシップ「ROOM」によって運営されています。http://room.emerging-future.org/

登壇者プロフィール
谷崎テトラさん
放送作家 / 京都芸術大学客員教授
1964年、静岡生まれ。環境・平和・社会貢献・フェアトレードなどをテーマにしたTV、ラジオ番組、出版を企画・構成する傍ら、新しい価値観(パラダイムシフト)や、持続可能な社会の転換(ワールドシフト)の発信者・キュレーターとして活動中。国連地球サミット(RIO+20)など国際会議のNGO参加・運営・社会提言に関わるなど、持続可能な社会システムに関して深い知見を持つ。その他、音楽プロデューサー、一般社団法人ワールドシフトネットワークジャパン代表理事など、肩書き多数。
井上浄さん
株式会社リバネス 代表取締役副社長CTO
1977年、群馬県生まれ。博士(薬学)、薬剤師。リバネス創業者の一人。博士課程を修了後、北里大学理学部助教および講師、京都大学大学院医学研究科助教を経て、2015年より慶應義塾大学先端生命科学研究所特任准教授、2018年より熊本大学薬学部先端薬学教授、慶應義塾大学薬学部客員教授に就任・兼務。研究開発を行いながら、大学・研究機関との共同研究事業の立ち上げや研究所設立の支援などに携わる研究者。
田崎佑樹さん
KANDO Founder & CEO
1977年、愛媛県生まれ。ビジュアルデザインスタジオ・WOWのコンセプター/クリエイティブ・ディレクターとして、アート&サイエンスと建築プロジェクトを中心に、コンセプト構築、クリエイティブ・ディレクションにおいて国内外、メディア領域を問わず活動。リアルテック特化型クリエイティブファーム・KANDOを設立。リアルテックベンチャーのクリエイティブな社会実装とリアルテックとアート、デザイン、哲学を融合させた次世代文化創造の役割を担う。
村上豪英さん
株式会社村上工務店 代表取締役社長 / アーバンピクニック 事務局長 / 神戸モトマチ大学 代表
小さい頃から自然に興味をもち、京都大学大学院で生態学を学んだ後、シンクタンクに勤務。その後、「自然を破壊する力をもつ建築の世界に飛び込んでこそ、自然を守り育てる力を持ち得る」と考え、村上工務店に入社。2002年に神戸青年会議所(神戸JC)に入会した後、日本青年会議所の議長などを経て、2012年度に神戸青年会議所の第54代理事長に。2011年に神戸モトマチ大学を設立。2015年より、神戸市内の公園・東遊園地にて「アーバンピクニック」を開始。
黒井理恵さん(コーディネーター)
株式会社DKdo 代表取締役 / ミラツク理事
北海道名寄市出身・在住。静岡県立大学卒業後、東京の出版社、企業PR・ブランディング企画会社を経て、2014年に東京の北海道人仲間と「北海道との新しいかかわり方を創造する」を企業理念としたDKdoを設立し現職。同年に名寄市にUターンし、道内の市民対話の場づくり、道北地域の観光・移住プロモーションのサポートをしながら、名寄市ではコミュニティスペース・なにいろカフェを運営。道内や東京などさまざまな場所でファシリテーターとして活躍中。

「地球をなおす」のは誰か?

黒井さんみなさん、本日はよろしくお願いします。はじめに、コーディネーターの私から簡単に自己紹介させていただきます。ミラツクの理事をやっておりまして、北海道名寄市出身で、現在もそこに住んでいます。仕事は、ファシリテーターがメインです。まちづくりや人材・組織開発、最近ではSDGs(持続可能な開発目標)などのテーマが多いですね。地元ではコミュニティスペースを運営しています。

では次に、登壇者の方々からも自己紹介をお願いできますか。

村上さん『村上工務店』の社長ですが、2011年から『神戸モトマチ大学』というまちの勉強会を始めて、人と人とのつながりをつくるために活動しています。2015年からは神戸市内の公園・東遊園地で、社会実験として『アーバンピクニック』を始めました。毎年ずっとやっていたら、2019年にはPark-PFI(公募設置管理制度)というスキームで今後20年間、公園を運営する事業者に選ばれました。

そうこうしている間に、今度は神戸市兵庫区で140年以上続き、5年前に廃校になった小学校の跡地利用についてもコンペに通ったんです。セッションのテーマは「地球をなおすリーダーシップ」ですよね。そんなリーダーシップを、ぜひ私も学びたいと思ってます。

田崎さん専門はデザインやアートです。ただ、デザインというより、僕らはビジョンを重視しています。それはなぜか。ビジョンこそが、未来を牽引するパワーを持っているからです。概念的に重視しているわけではなく、ビジョンは半分がファクト、半分がイマジネーション。僕らはその掛け合わせを、ビジョンと言っています。

『KANDO』ではデザイン・クリエーションとファイナンス・ビジネス、サイエンステック、これを三位一体にしたビジョンデザインで社会実装と新文化の行く末を描く。それを目的にいろんなプロジェクトをやっています。過去のアートプロジェクトとしては、彫刻家の名和晃平さんと一緒に、広島の神勝寺に巨大なアートパビリオンをつくったりしてきました。(井上)浄さんの会社(『リバネス』)もジョインしている先端技術系ベンチャーキャピタル『リアルテックファンド』のメンバーでもあります。

「地球をなおすリーダーシップ」という意味では、2019年は環境問題の事業をやろうと思って動いてきました。今日西村さんに呼ばれたのは、きっとそれが理由だと思います。

谷崎さん京都造形芸術大学(※)で映像メディア論などを教えてますが、もともとは放送作家です。テレビやラジオ番組の台本づくりを約30年やってます。このうち25年ほどは、環境番組をつくってきました。きっかけは、1997年のCOP3(気候変動枠組条約第3回締約国会議、通称:京都会議)で地球温暖化の話を聞いたことです。「地球がやばいじゃないか」と思ったわけです。それ以降、『素敵な宇宙船地球号』(テレビ朝日)や『里山資本主義 SATOYAMA-CAFE』(NHK-World)、『アースラジオ』(Inter FM)など、環境問題の番組を何十本もつくってきました。

そうやって「地球環境にいいことをしたい」と一生懸命頑張っていると、だんだん友達がいなくなってくるんですよね(笑)。「地球がやばいんです」なんて言うと、「おまえ偉そうになったな」とか言われて、少しずつ離れていってしまう。その後は、どうしたら地球がよくなるか、そのグッドプラクティスを探そうと、世界のエコビレッジやエココミュニティ、つまりエコの新しい取り組みをしているところをずっと取材してきました。

すると、だんだんわかってきたんです。地球環境をよくするためには、文明を転換させないといけないんじゃないか、と。それで10年ほど前に『ワールドシフトネットワークジャパン』を立ち上げました。

そして2012年、ブラジル・リオデジャネイロで開催された「地球サミット2012」(国連持続可能な開発会議)に参加します。コーディネーターの黒井さんとも一緒でした。世界約200カ国の代表が集まって、地球の未来を考える大きな会議です。でもこの会議で、国際社会は地球の未来をあきらめたんですよ。この絶望的な状況のなかで、何一つ合意できなかったんです。僕はすごくショックを受けました。すると、閉幕する最後の最後に、ウルグアイの代表が「このまま会議を終えてもいいのか。せめて、これから先の持続可能な未来のゴールを決めることだけでもしないか」と言ったんです。それが、SDGsのスタートなんです。

それから約3年かけて、学者やNGOが中心になって、2030年までに達成する17の目標・169のターゲットを決めました。これがSDGsです。ですから、単なるブームではないんですよ。僕がSDGsのバッジをつけていると、「SDGsおじさん」なんて言われることがあるんですが、ただバッジをつけてるだけじゃない、行動してるんです。

井上さん私は研究者です。大学院修士のときに『リバネス』を立ち上げました。科学技術の発展と地球貢献を実現することをビジョンに、いろんな新規事業や人材育成などに携わっています。私はとにかく、世界初の事実を自分の手で、目の前で証明することに興奮を覚えて、そのおもしろさを多くの子どもたちに伝える出前実験教室の活動からスタートしました。

研究者ですが、難しいことはわかりません(笑)。例えば「地球が……」なんて言われていると、もうわからない。『リバネス』は地球貢献をビジョンに掲げていますが、もう今いろんなところでいろんなことが起きているじゃないですか。それを見聞きしてると、つい「それって本当かな?」と思っちゃうんです。本当に氷河は溶けているのか。それが本当にダメなことなのか。その「本当はどうなのか」を、誰が知ってるんでしょうね。もちろん、僕も地球をよくしたいという思いがあるのが大前提ですよ。でも、ついついそんなことを考えてしまうんです。

「地球をなおすリーダーシップ」ですが、僕は一つだけ方法を知っています。教育です。これしかないと思うんです。だって、僕らの次世代や次々世代、さらにその次の世代がやっている研究を想像したら、おそらく地球のためにとんでもなくいいことができるようになっていると思うんです。僕らはそんな次世代にしっかり引き継いでいくという、もう少し長期的なスパンで物事を考える必要があるんじゃないでしょうか。今この時代にはおそらく達成されないけど、そのための教育を本気でやれる人。僕はこれが、本物のリーダーシップじゃないかと思っています。

ネットの半分は温暖化懐疑派?必要なのはイマジネーション

黒井さんでは早速、本題に入っていきましょう。(谷崎)テトラさんと私が一緒に参加した「地球サミット」、第一回は1992年にリオデジャネイロで開かれました。今、環境活動に取り組んでいる人たちには、そのときのセヴァン・スズキさんという少女の伝説のスピーチに心を打たれて活動している人が多いんです。

セヴァンさんは、どんなスピーチをしたのか。簡単に言うと、「なおし方のわからないものを壊すのはやめてください」ということです。それから27年経って、今度はグレタさんが出てきて、同じように怒っています。2人の怒り方は同じなんですが、論理というか、内容が違うんですね。セヴァンさんは、「なおし方がわからないものを壊さないで。私たちは共生していくものでしょう」と本質的、道徳的な話からの怒り。それに対してグレタさんは、データを軸にした怒りなんですよ。「◯◯な数値が出ているのに、なぜあなたたちは目を背け続けるんですか?」と。

30年近く経っても、まだこうやって子どもたちが怒り続けています。私たちは道徳的な観点だけでなく、サイエンスの力でデータも見えるようになってきた。みんな、このままの状況ではよくないとわかり始めているのに、なかなかぐっと前に進めない。それはどうしてなのか。こんな問題提起から、始めていきたいと思います。

例えば、田崎さんがおっしゃっていた、ファクトとイマジネーションからビジョンが生まれるという話。つまり、データと想像力。このあたりから話を聞いていければと。

谷崎さんまず、ファクトの話をさせてください。温暖化に関する番組では、実は温暖化懐疑論のほうが視聴率が取れて、“おもしろく”つくれるんですよ。真面目な話ではなく、権威が言ったことを茶化すほうがおもしろいんですよね。

一方で、科学者の世界では温暖化懐疑論は一つもありません。科学者のコミュニティは、気候変動は100%ファクトとして捉えています。でも、権威を疑うような“おもしろい”情報を発信しているせいで、ネットでは半分が温暖化懐疑論なんです。懐疑論への反論は『国立環境研究所』のホームページにしっかり書かれているので、まずはそれを参考にしていただくのがいいと思います。

黒井さん田崎さんは先ほど、2019年は環境問題にもフォーカスしてきたとおっしゃってましたね。今の状況をどう見ていますか。

田崎さんファクトについては、いろいろ調べてきました。そのなかで感じたのは、既得権益との結びつきが非常に強いジャンルだということですね。だからその分、妨害もたくさんあります。

表現のジャンルでは、例えば手塚治虫や宮崎駿などが、そういう危機的な状況も含めて次の世界に人がどうあるべきかを描いてきました。ですから、やっぱりファクトにイマジネーションを掛け合わせていくこと、一カ所だけを見ずに相対化していくような作業が非常に重要だと思うし、逆にイマジネーションの力が弱いと飲み込まれやすい。そういうジャンルなんじゃないでしょうか。

井上さん気を悪くする人がいたら申し訳ないんですが、あえて言わせてください。地球温暖化に、まったくいいことはないんでしょうか。一つくらい、ないんでしょうかね。

谷崎さんじゃあ、一つ言っておきましょう(笑)。人間の心は、気温が高いと比較的温かくなるという心理学の実験結果が出ています。例えば、冷たい飲み物を飲んでいるときと、温かい飲み物を飲んでいるとき。それによって話を聞いているときの、心の批判的な状況が変わるらしいんです。批判的な精神は悪いことだけじゃなく、論理的な思考をつかさどることもあります。例えば、北の寒いところで哲学や論理的な思考が生まれている一方で、南の温暖な地域ではあまり論理学や哲学が発達しない代わりに、楽しさを共有したりとか、そういう精神が醸成されやすい面があるようです。

世界の幸福度を測る調査がよくありますよね。みなさん、北欧が高いイメージあると思います。確かに、福祉や社会の充実を測る指標で見ると北欧がトップを占めているんですが、実際に自分が幸せを感じているかどうか、そういう主観的な指標で行った調査だと、実は北欧はあまり高くないんです。ところがフィジーやコロンビアなど、犯罪が多かったりGDPが低かったりする国に、「幸せだ」と感じている人が多い。そういう意味で、温暖化によって、もしかしたらみんながハッピーになるかもしれない。危機的状況に対して、楽観的に対処できる人が増えるかもしれないですね(笑)。

井上さんありがとうございます(笑)。地球をなおすとか、リーダーシップの話をする前に、先ほども言いましたが「本当にみんなわかって話しているの?」とそもそもの問いが重要だと思うんですよね。

例えば、水面が上昇して何が困るのか。海の近くに住んでいる人が引っ越さないといけない。でも裏返せば、「それだけじゃん」と思う人もいるでしょう。何がいけないのか。本質的に語れて、ブレずに大きなビジョン掲げて、突っ走れる人。そういう人がリーダーシップを取らないといけないと思いますね。

黒井さんビジョンでいうと、SDGsは一つのビジョンになるかもしれません。でも、最後の最後には、個人が幸せになるかどうかに落ちるじゃないですか。私が幸せかどうか。そこと、大きなビジョンとをどうリンクさせるか。さきほど出た、温暖化で海の近くにいる人が引っ越さないといけないという話。本人にとっては当然嫌なことですよね。でも、周りから見れば「それだけじゃん」となるかもしれない。この個と全体の関係性をどうしていくか。これは一つ、埋めないといけないものですよね。

「アイデア」ではなく、「問い」を編集できるか

谷崎さんSDGsの本質は何か。ここに、答えられる人はいますか? 大学や政治塾などの授業で「SDGsを知っているか」と聞くと、ほとんどの人が「知っている」と頷くんですが、じゃあ「本質は?」と聞くと「?」を浮かべる人が多いんですよ。

SDGsの本質は何か。国連はこう誓っています、「誰一人取り残さない」と。これこそが、国連が言っている本質なんです。でも、一人も取り残さない社会って、人類が今までやったことがないんですよ。世界の誰かが取り残されていて、今この日本でも取り残されている人がたくさんいます。でも2030年、あと10年で誰一人取り残されない社会をつくる。すごいチャレンジですよね。新しい文明が生まれるくらいのことですよ。というか、人類の文明がようやく始まる。今までは練習、これから本当の文明が始まるんだと思います。

村上さん一人も取り残さない社会というのは、一握りの人が引っ張って、残りの人に目配りしている社会ではなくて、目配りしている人がすごく増える社会なんだと思います。SDGsのゴールを目指すために、手段・手法はもっと人々の身近な課題意識に落としたほうがいいだろうと感じますね。例えば、近所で困っているおばあちゃんの家にときどき「元気ですか?」と声をかけること。そういうことの延長線上にある気がしました。

神戸市内の東遊園地で活動していたときのことです。僕らは、砂漠のような場所を、市民みんなで芝生を植えて、人がたくさん集まるようにしました。でも、最初はそんな風になることをみんな実感できていなかったと思うんです。ほんのちょっとしたことでも、自分が動けば変えられる、その可能性に気づいていない人がとても多いなと感じています。

違う言い方をすると、アイデアが大事にされすぎている社会だと思うんです。最高のアイデアを見つけるまでは一歩も動かない、そんな人が増えているような気がして。それよりも、「おれも一歩動く」「あなたも一歩動く」みたいなことが普通になっていったときに、結果としてSDGsの達成に近づいていくんじゃないか。そんな風に感じました。

田崎さんSDGsもそうですが、最近気になっていることがあるんです。SBIR(スモール・ビジネス・イノベーション・リサーチ)です。浄さんとやっている「リアルテックファンド」の話です。僕らは、人類の課題を解決する技術をつくるスタートアップに投資しています。

社会課題のリサーチは、それそのものがマーケティングに置き換わってきていると思うんです。つまり、企業利益追求のマーケティングは終わり、社会課題自体がマーケットとイコールなんです。でも、リサーチにはめちゃくちゃお金がかかるじゃないですか。どうもアメリカでは、それを政府がやっているらしいですね。「こんな課題があるよ」と示して、できる会社は「手を挙げてください」といった感じで。

今村上さんがおっしゃった、「おれがやる」という実行力の話につながると思いますが、アイデアの話ではないんですよね。それよりも、問いをしっかりつくれるかどうかのほうが大事なんです。スタートアップの技術はすでにたくさんあるんですよ。その前の、問いを編集することのほうが大変なんです。

黒井さん田崎さんはさっき、環境問題は既得権益が支配している部分が大きいとおっしゃってましたね。

田崎さん人類学的に言うと経済・文化・文明の発展期はあまり変わりません。経済はIPO(上場)などでインパクトが生まれて、ライフスタイルまで溶け込むと文化になり、それが50年くらい続くと文明になります。

浄さんの『リバネス』は、数年前に僕がジョインしたときは科学と技術に特化していましたが、今はデザイナーも含めてすべて包括的にやらないと課題は解決できないし、一発の経済性や技術では解決できないので、持続的に取り組むためには文化にしないといけないんですよ。そうやって文化になったときに、ようやく持続的に解決できる状態になります。そのときに、例えばドローン一つとっても、法律を変えないといけませんよね。だから僕らは、ロビーイングもやっています。とにかく、すべてやらないといけない。そこに難しさがあり、楽しさもあると思っています。

何のために学ぶのか。「とは?」を問い、正解を自らつくる教育

谷崎さんリーダーシップの話をしますね。僕も新しい時代のリーダーシップについて講演したりする機会があるんですが、これからのリーダーは、今までのリーダーとは明らかに質が変わってくるだろうと感じてるんです。

最初に「地球環境が今やばい」と訴えてたら友達が少なくなった話をしましたよね。どうやら、単に知識を伝えようとしてもダメなんですよ。そうじゃなくて、「みんなどう思う?」と言わなきゃいけなくて、こういう人はリーダーじゃなくて、ファリシテーターとかモデレーターというんですよね。おそらく、何かについて一方的に演説するのは、20世紀型のリーダーシップなんです。今、黒井さんがやってくれているようなことが、新しいリーダー像だと思います。

黒井さん井上さんは、冒頭で「教育だ」とおっしゃってましたね。

井上さん教育は、世界を変える唯一の武器なんじゃないですかね。僕らは「サイエンスキャッスル」という中高生のための学会を主催しています。全国でトータル2000人を超える中高生が参加しています。彼らと10年後に一緒に研究していると思うと、もうワクワクが止まらないんですよ。今この段階でその研究レベルや課題感、知識を持っていたら、10年後どうなるのか。頼もしくて、彼らに夢を託したくなります。もちろん、僕自身まだ負けたくないですけどね。

将来、彼らがどういう世界をつくっていくのか。次の世代が生み出す価値を、僕らにとっても共通する価値だと捉えて、たとえ長い時間がかかっても、教育からリーダーシップを育んでいく。それが重要だと思いますね。

谷崎さん僕は京都造形芸術大学の創造学習センター(※)で教授をしてますが、そこで最初に学んだのは、僕らがやるのは「教育ではない」ということでした。僕らは教育ではなく、学習という言い方をします。教育とは、制度や教科書から何かを覚えること。「アンラーニング」という言い方があるように、学び直し、つまり僕らが考えたことをむしろ一旦捨てることがとても重要なんです。

僕は大学に呼ばれたときに、「あなたの最終学歴は?」とは聞かれませんでした。「あなたの最新学習歴は?」と聞かれたんです。要するに、世間は学びのレベルや質を判断するときに、大学の卒業論文に関わることを学歴と言って、それがその人の知性だと思っているわけです。学校は僕らが生まれてから死ぬまでの間のうち、せいぜい5〜6歳から20歳くらいまでの、しかも昼間の時間帯だけですよね。でも僕らは、毎日毎日死ぬまで何かを学び続けている人生なんですよ。

すると、逆に今度は「じゃあ学びの目的は何ですか?」という問いが出てきます。「教育が大切だ」と言うと、「そうだよね」とみんな頷く。でも、SDGsの本質を聞くのと同じで、僕はみなさんに聞きたいんです。何のために学ぶのか、と。

井上さん僕は経産省の「未来の教室」とEdTech研究会の委員をしてるんですが、そこでは今を前提にしない教育の話をしています。簡単に言うと、今までの教育においては「◯◯では」、つまり「教科書では」「あの人が言うには」ということを学んできました。そうではなく、「◯◯とは」と問える段階に行き着けるかどうか。しかも、正解を当てにいくのではなく、正解をつくる、見つけられる力を育むこと。それが教育の一番重要な、今やらないといけないことだと思います。「では」と「とは」の違いを、ぜひ覚えていただけるとうれしいですね。

「ロゴス」と「レンマ」。ロジックよりも、身体性を磨こう

黒井さん村上さんと田崎さんにも、新しい時代のリーダーシップについてお聞きしたいと思います。

村上さん教育が大事である一方で、おじさんたちの鎧(よろい)を外す。こういう現実的な問題をクリアすることも大事だと思いますね。

大企業に目をキラキラさせて入っていった若い人たちが、本当は夢ややりたいことがあるのに、20年、30年と滅私奉公している姿を見ると、大きな組織やおじさんの壁が厚いことがよくわかります。リーダーシップという言葉から少し遠い話かもしれないけど、おじさんたちが一体何にこだわっていて、何が怖いから若い人たちを止めようとするのか。若い人たちの可能性を広げるために、僕たちのような世代が何を一緒に体験して、どう解き放てばいいのか。そんなことも考える必要があるのかなと感じてます。

私が神戸でやっている、地域で何か一つの出来事をシェアするような活動は、遠い未来をシェアすることにはつながりづらいかもしれないけど、「次の一歩はこれをしようか」と一緒に合意したり、体験したりしやすい手段なのかなと思いますね。意外とそういうことも、重要なリーダーシップなんじゃないでしょうか。

田崎さん僕は宗教史学者の中沢新一さんが好きなんです。彼が書いた『レンマ学』という本があります。

レンマには「手で触る」といった意味合いがあり、その対比で用いられるロゴスは「物を並べる」というような意味。ロゴスは基本的に言語性に基づいていて、レンマは身体性に基づいています。今の世界は、ロゴスが支配しています。テトラさんが言っていたワールドシフトは、レンマの世界だと思うんです。世界が複雑化したときにデータに頼るのは限界で、自分は何を信じているのか、何をしたいのか、そういうイマジネーションや直感性を磨かないといけないと思うんです。

谷崎さんワールドシフトのコンセプターで、世界賢人会議「ブタペストクラブ」の会長であるアーヴィン・ラズロ博士は、「ロゴス文明から、ホロス文明へ」と提唱しています。僕たちの文明は、ずっとロゴス、つまりロジックによって経済も法律もできあがってきました。ただ、これからはホリスティックなホロス文明だと唱えている人がいて、雑誌『WIRED』の創刊編集長であるケヴィン・ケリーもその一人です。彼は『〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則』という本のなかで、これからの社会についてホロスをキーワードに挙げています。

おそらくそれは、田崎さんが話したレンマの身体性の話につながると思うんです。僕は大学の授業で、必ず学生に言うんです。僕の話を覚えたり、知識として学ぶことにはあまり意味がない。それは昔の教育だ、と。そのときに自分の心が何を感じたか。頭で考えるのではなく、ハートはどう感じているのか。受けた情報を、自分の身体性に取り入れて腹落ちさせるか。自分のなかに起きた心の動きを観察すること。それが大切で、それを唯一持って帰ってくださいと伝えます。身体性は、大事なキーワードかもしれませんね。

井上さん村上さんがおっしゃった、おじさんとのコミュニケーションについてですが、鎧を外す魔法の言葉があります。「子どもの頃の夢は何ですか」と聞くんです。すると、ものすごいワクワクしながら、すごい勢いで語り始めるんですよ。その瞬間に、「できますよ!やりましょう!」と連れ出すんです。子どもの頃の夢を突き動かして、ワクワクさせる。これが一番です。

谷崎さんちなみに、浄さんの夢は何ですか?

井上さん全人類研究者計画ですね。「誰もやっていないことを、自分がやる」。それに全員が挑戦することです。そうしたら、地球はよくなると思いませんか?

おもしろい話があります。AIの実験で、「スーパーマリオ」のようなゲームの主人公に、ゴールまでの距離をしっかり進んだことに報酬を与えるよりも、新しいチャレンジをすることに報酬を与えるほうが、早くゲームをクリアするらしいんですよ。誰もやってないことをやる。それを全員が繰り返していけば、未来は明るくなるんじゃないでしょうか。それが僕のやりたいことです。

村上さん小さなことでもいいから、一人が課題解決のために行動し、それがもう一人、二人と伝播していく。リーダーが山ほど出てくる、そんな社会にしたいですね。

黒井さん続きは、お酒を飲みながらにしましょうか(笑)。みなさん、ありがとうございました。

(※)2020年4月に、京都造形芸術大学は京都芸術大学に名称変更しました。創造学習センターは芸術教養センターへと改変しています。

この記事は、ミラツクが運営するメンバーシップ「ROOM」によって運営されています。http://room.emerging-future.org/

次回ミラツクフォーラムに参加を希望される方は、ミラツクが運営するメンバーシップ「ROOM」にご参加ください。ミラツクフォーラムは、メンバー向けの招待制の会として開催されます。
ROOMの登録:http://room.emerging-future.org/
ROOMの背景:https://note.com/miratuku/n/nd430ea674a7f
NPO法人ミラツク では、2016~2019の4年間でミラツク年次フォーラムにおいて行われた33のセッションの記事を分析し、783要素、小項目441、中項目172、大項目46に構造化しました。詳しくは「こちら」をご覧ください。
近藤快 ライター
フリーライター。1983年、神奈川県生まれ。2008年〜化粧品の業界紙記者を経て、2016年〜フリーランスに。東北復興新聞(発行:NPO法人HUG)で震災・復興現場の取材、50人インタビュー企画「Beyond 2020」を担当。災害時における企業・NPOの復興支援や、自治体の情報マネジメントを集積したWEBサイト「未来への学び」(グーグル社)のほか、化粧品業界やCSR・CSV、地方創生・移住、一次産業などを中心に取材〜執筆活動している。
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