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コレクティブでいること自体がインパクト?ミラツクが生み出す新たな社会の可能性について。[ミラツクフォーラム2016]

フォーラム

図1

2016年12月23日に開催された、毎年恒例の「ミラツク年次フォーラム」。一般公開はせず、いただいたご縁の感謝をお返しする会です。

26人の登壇者と10のセッションを行い、ミラツクと共に取り組んでくださった全国各地の方々、ミラツクのメンバーの方々を中心に、100人を超える多くの方に足を運んでいただきました。

今回お届けするのは、メイン会場で行われたランチセッション。コメンテーターに「INNO LAB International」の井上有紀さんを迎え、「READYFOR株式会社」米良はるかさん、「NOSIGNER株式会社」太刀川瑛弼さん、「株式会社リ・パブリック」の田村大さん、「一般社団法人re:terra」の渡邊さやかさんとミラツクの理事5名が集まり、ミラツクのこれまでの取り組みや各理事が感じている社会状況に触れながら「ミラツクが生み出す新たな社会の可能性」について考えました。

(photo by kanako baba

この記事は、ミラツクが運営するメンバーシップ「ROOM」によって運営されています。http://room.emerging-future.org/

登壇者プロフィール
米良はるかさん
READYFOR株式会社 代表取締役
2010年 慶應義塾大学経済学部卒業。2012年同大学院メディアデザイン研究科修了。大学院在学中に米国・スタンフォード大学に留学。帰国後、2011年3月にWebベンチャー「オーマ株式会社」の一事業として日本初のクラウドファンディングサービス「Readyfor」を設立。2014年7月に株式会社化し、NPOやクリエイターに対してネット上での資金調達を可能にする仕組みを提供している。2012年には世界経済フォーラム「グローバルシェイパーズ2011」に選出され、日本人として最年少でダボス会議に出席。St.Gallen Symposium Leaders of Tomorrow、内閣府国・行政のあり方懇談会委員など国内外の数多くの会議に参加。「一般社団法人クラウドファンディング協会」代表理事。
太刀川瑛弼さん
NOSIGNER株式会社 デザイナー・CEO
慶應義塾大学大学院理工学研究科修了。在学中の2006年にデザインファームNOSIGNERを創業。現在、NOSIGNER株式会社代表取締役。ソーシャルデザインイノベーション(社会に良い変化をもたらすためのデザイン)を生み出すことを理念に活動中。建築・グラフィック・プロダクト等のデザインへ の深い見識を活かし、複数の技術を相乗的に使った総合的なデザイン戦略を手がけるデザインストラテジスト。その手法は世界的にも評価され、Design for Asia Award大賞、PENTAWARDS PLATINUM、SDA 最優秀賞、DSA 空間デザイン優秀賞など国内外の主要なデザイン賞にて50以上の受賞を誇る。
田村大さん
株式会社リ・パブリック 共同代表 / 東京大学i.school 共同創設者 エグゼクティブ・フェロー
2005年、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。博報堂にてグローバル・デザインリサーチのプロジェクト等を開拓・推進した後、独立。人類学的視点から新たなビジネス機会を導く「ビジネス・エスノグラフィ」のパイオニアとして知られ、現在は福岡を拠点に、世界の産官学を結んだイノベーション創出のネットワーク形成とその活用に力を注ぐ。 http://www.kidnext.design.kyushu-u.ac.jp/k2/
渡邊さやかさん
一般社団法人re:terra 代表理事
長野県出身。東京大学大学院修士。国際協力に関心を持ち、大学・大学院は国際関係論を専攻。ビジネスを通じた社会課題の解決の必要性を感じ、2007年に「IBMビジネスコンサルティングサービス(現IBM)」に入社。新規事業策定や業務改善などのプロジェクトに携わりながら、社内で環境や社会に関する(Green&Beyond)コミュニティリードを経験、プロボノ事業立ち上げにも参画。2011年6月退職。現在、「株式会社re:terra」代表取締役、その他女性支援やBoPビジネスに関わる組織の理事や、岩手県女性活躍推進委員。2017年4月より慶応大学SDM博士課程。
モデレーター
工藤瑞穂
ミラツク主任研究員 / NPO法人soar代表
1984年青森県生まれ。宮城教育大学卒、青山学院大学ワークショップデザイナー育成プログラム修了。日本赤十字社宮城県支部で勤務中、東日本大震災を経験。その後、多くの人が社会課題に目を向け、よりよい社会をつくるため行動していくことを促す任意団体「HaTiDORi」を設立。音楽・ダンス・アートと社会課題についての対話の場を融合したチャリティーイベントや、お寺、神社、幼稚園など街にある資源を生かしたフェスティバルを多数開催。 2014年よりミラツクに研究員として参画。セクターを超えたソーシャルイノベーションのネットワーク形成、社会課題を基盤とした共創的なプラットフォーム構築プロジェクトの運営などに携わる。

ミラツクがもっている地域の多様性

図2

工藤みなさん、それぞれご自身の会社を経営し、さまざまな分野で活躍されていらっしゃいますが、今の世の中にどういうことが必要か、どんな変化を起こすべきか、どんな取り組みがあるべきかをお話ししていただいて、そこに対してミラツクに何ができるのか、その可能性をお聞きしたいと思います。まず田村さんから、お願いしていいですか?

田村さん昨日もミラツクの理事会で、いろいろ話していたんですけど、人ベースで起点を考えるとおもしろいと思っています。

図3

今日、東京以外から来ている人が結構多いですよね。大体こういう集まりを東京でやると、9割ぐらいが東京の人ってことが多いんですが、ミラツクには全国各地からいろんな方がいらっしゃっている。

僕も地方に住んでいて思うんですけど、例えば、母親に洋服を買ってもらって「これ着なさい」って言われると、それが良かったとしても、何だか嫌な気分になるじゃないですか? 何が言いたいかというと、“選び取る”ってことがすごい重要なんだと思うんです。その“選び取る”ことが東京だと意外とできにくいなって感じていて。

最初からセレクトされていて「これどうぞ」って、お母さんが100人ぐらいいる状態になっている。地方に行くとそれがなくて、いろんなものがごちゃごちゃになってる中から選べる楽しみがあるし、そこに可能性があるなってよく感じたりします。

そういう意味でいうと、ミラツクは全国からいろんな人たちが来ているので、東京のスタンダードじゃないところでいろいろできる。そこが今までとは結構違うよねっていう。

太刀川さんミラツクそのものが地域の多様性を持ったものであると…。

田村さんそうそう。

工藤今、地方という話が出たんですが、渡邊さんは岩手を軸に活動していらっしゃいますよね? その辺りはどうですか。

渡邊さん今東京はライフとワークが分断されているなと感じているのですが、地方はまだそうではないんです。ライフの中にワークが組み込まれていたり、逆もしかりなところが地方のおもしろさ。

図4

そういう意味では、ミラツクの中は、ライフもワークも友達も友達じゃないも関係なく、ガサッと枠の中に入れてみました、みたいな感じがしています。そうすることによって、それぞれの生き方で、そのとき必要な人に出会える人たちが集まってきているのかもしれない。

「これを変えなきゃいけない」じゃなくて、「これを変えたい」とか「こういう生き方をしたい」という人たちがここにいるから、新しい何かが生まれていくのかもしれないなって思います。

米良さんの「Readyfor」も工藤さんの「Soar」も、そういう人たちの最初の応援者になってあげるようなところがあるなって思って、ミラツクに集まっている人はみんな、そういう可能性を見ているのかもしれないなと。……どうでしょう皆さん?

世界は分断されて閉じている

米良さん全然まとまってないんですけど、今の社会って格差がひどいなあと思っていて。

図5

太刀川さん何の格差?

米良さん貧富の格差しかり、アメリカ大統領選挙とかを見たら、自分の生きている世界は本当に分断されていて、すごく閉じてるところにあるんだなあって改めて思います。

その格差を是正するためにいろいろな取り組みがなされているんですけど、私は結局、「お金がない人にお金をあげましょう」ではなくて、今の社会の中で、希望を感じられずに何もできないと思っている人が、「できるかもしれない」と思えるような光を少しでも見せることが大事だと、自分の事業に対して感じています。

私も起業するタイミングでベンチャーキャピタルの人に「君はそれ本気でやりたいと思っているの?」って言われたことがあって、それに対して「ちょっと分からないです」って言って退場したことがあったんです。

そんなにみんながみんな自信を持って挑めないと思っていて。そんなに自分に自信がないし。特に周りに挑む人たちがいないような環境の中で、自分が一歩進んで何かを率いるとか、何か価値を出すということを是とできるような社会になったらいいと思うんですけど、絶対そうはならない。

だからこそ、ちょっとでも「何かやりたい」って思った気持ちが行動に移るようサポートする社会の仕組みが必要だなと思っていて。個人の自己実現の世界かもしれないけど、ともかく一歩目を踏み出したときに、その気持ちを最大限信じて後押しして、とにかくアウトプットにつなげることを支え合う、そんな社会が必要なのかなと思っています。

ミラツクの話で言うと、西村さんは立場とかやっていることとか、あまり関係ない感じで、「こんなすごい会社の社長が?」みたいな人をポンと置いたりするじゃないですか。それも西村さんの魅力だと思うんですけど、その力で、「このテーマについてみんなでゆるりと考えよう」みたいな場づくりがミラツクはすごく上手ですよね。

自分の立場とか地位とか名誉のせいで、普段だとなかなかつながれないような人たちを、こうやって何となくみんなでゆるりと考えるところからつなげて、新しい社会の形をみんなで考えるような場をずっとつくってきたんだろうなって。

この場も、「なんでここにきているの?」っていうようなすごい肩書きを持った人がたくさんきていたりするんですけど、それがおもしろいし、それが何かが生まれる一歩目なのかなと思います。だから、そこのコラボレーションがもっと進むといいし、それが最終的には、可能性を感じられていない人まで引っ張り上げていけると、よりよい社会をつくることにつながるのかなって思っています。

新しい形は新しい概念からしか生まれない

太刀川さんその流れで話すと、僕はデザインとアイデアをつくることにしかほとんど興味がないんですが、そういう視点で見たときに、新しいものが生まれるってことは、当然なんだけど古いものがあるってことなんですよね。

図6

今までのものがあり、それが変わらない。ずっと変えちゃいけないもののように何となく、「同調圧」ないし「予定調和」な形であるんですよ。この圧に触れている人たちは、その圧から逃れられないから、その圧が変えられるものだって分からない。

それはいじめの構造とかに似てるのかもしれないんですけど、そういうものが変わる瞬間、何がその圧を乱しているのかなとか、どうしそうなっているのかを丁寧に観察していくと、クラック(裂け目やひび割れ)みたいなものが入っていることがいっぱいあると思っていて。

そのクラックの部分には、その圧に関係ないところの、例えば外来の植物とかがそこにぽーんと入ると、いきなりわーっと広がって解決するみたいなことがいっぱいあると思っているんです。それって何かは分からないですけど、例えば、うどん屋さんが困ったときにカレーを混ぜてみたらカレーうどんができて流行ったみたいな話かもしれない。

つぶれるはずだったうどん屋さんがカレーうどんによって大きなチェーンになって、地域の文化になったみたいな話かもしれない。でも、そういう風に何か異質な者同士が出会うということが、価値が生まれるために一番必要なことだと思う。

それでいくと、大体カレー屋さんがカレーをつくれる自分に価値があるなんて考えないです、カレー屋さんだから。カレー屋はいっぱいいるし、「俺なんかただのカレー屋だよ」って思っているんです。

でも、もっと言えば皆さんは、ないし僕はなんですけど、それはひょっとしたら横から見たら、「いや、それちょっと混ぜるだけですごいものになるじゃないのか?」ってことはいっぱいあって、そういうことが発芽する瞬間が見たいんです。

その瞬間が見えると、その瞬間からしか本当に新しいデザインって出てこないんだと思う。新しい形っていうのは新しい概念からしかできないと思っているので。だから新しい概念が萌芽する瞬間が見たいんです。

そういうことのためには、地域や職業や立場を超えた場があって、そこがフラットにつながっていることがすごく大事で、それがミラツクで起こっていることだし、多分ここにいる人たちがミラツクの外でもつくろうとしていることなんじゃないかな。「そういう場所が必要だぞ」って信念を持っている人たちが集まっているのがミラツクだからおもしろいんじゃないかなと思います。

地方に共通する隙間の可能性

工藤田村さんはいろんな地方で活動をされていらっしゃいますが、異質なものが入ることで多様性が生まれたとか、価値がどんどん生まれる感覚ってありますか?

田村さんこの前、有田焼の流通団地に行ったんです。いろんなお店があったんですけど、作家さんは自分が考えたものをつくるってところまで一貫して取り組むことによって、いわゆる自分の思想から具象化までを1人でやっているんですよね。

その結果、お茶椀が1個5,000円ぐらいとか結構高いんです。でも、有田で最近「2016」っていう新しいブランドが生まれて、製陶屋さんとオランダ人のデザイナーが組んでつくった器が1,500円とかでびっくりするわけです。何でこの値段でできるのって。

その時感じたのが、やっぱり今までって結構“分断”されていたなってこと。つまり「つくる技術」といったパフォーマンスが価値化されていない状況が地方にはあって、それは別に有田の話だけじゃないんですけど、例えば「2016」の事例では、つくる技術とデザインの力が組み合わさることによって、こんなにも新しいことが起こるのかって、結構感動したんです。

そういう可能性が埋もれまくっているのが地方だというのは確かにあると思います。東京だったら、みんな気付いちゃう。そんな隙間なんか許さないっていうところがあると思うんで。隙間だらけっていうのは地方にある種共通しているんじゃないかな。

工藤渡邊さんも地方で見つけたものに価値を見出してプロダクトをつくられたりしていますが、どうですか?

渡邊さん地方に隙間があるっていうのは確かにありますよね。その隙間にちょっとおじゃまさせていただきつつ、私は、2代にわたって椿の油を絞っていた家庭と一緒に、陸前高田で椿の化粧品をつくったんです。でも、悩むところでもあって。

というのも、それは地域の宝ではあるけれど、もしかしたら別に外に出したかったわけではなかったかもしれない。商品化したことで、今まで注目してもらえてなかった椿の油をみんなが競って搾り取るようになったんです。大きな資本主義がその地方に入った結果、人間関係が今までと変わっていったんですよね。

外の視点は大事だし、外から見るからその隙間が見える。でも、隙間があるから新しいことが生まれるのに、隙間に自分が入っていっちゃうと、その隙間が埋まってしまって、そのことによって戦いが生まれてしまう場合もあるなって。

じゃあ今度、自分が隙間を埋めに行っているのだとしたら、違う隙間を持って行かなきゃいけないなって、最近思います。その隙間をうまく残しながら新しいものが入っていける風も残しつつ、次のものをつくっていくみたいなところは、悩みながら今やっているところですね。

深く寄り添うことで可能性を加速する

工藤太刀川さんも地方でいろんなプロダクトをつくっていらっしゃいますよね。

太刀川さんそうだね。今のさやかさんの話の答えになるか分からないんですけど、いろんなプロジェクトをやっていていつも思うのは、デザインと企画を相手に提供して、それで勝利の道みたいなものを見い出すことができたとしても、そのすごく高い山につながっているはずの道を自発的に走るのは、僕じゃなくて彼らなんです。

彼らがその自覚を持ってる場合も持っていない場合もある。持っていたら、「いやあ、すげえ困ってたけど、めっちゃいいアイデアとデザインをくれてありがとう。がんばるよ」って言って勝手にやってくれるからすげえ楽なんです。

だけど、そうとは限らない。でも、自覚を持っていない人が可能性を持っていることの方が世の中多いから、そういうときにその人たちに覚醒してもらうってことをめっちゃ意識します。端的にいうと励まします。

「めちゃめちゃ可能性あるのに、もったいなくないですか?」みたいなことを言い続けてやる気を高めてもらうんです。そういうことってデザインの仕事なのか仕事じゃないのかよく分かんないですけど(笑)。

図7

そういうことをなるべく加速したい、可視化したいがために、目線を合わせる必要がある。そこで難しいのは、自分自身の可能性に気付けないのが人だけれども、自分のことを一番よく分かっているのも自分ですよね、でも、外の人からすると、その人たちの可能性を見い出してあげることが、当人ほどできないはずなのに、当人は自分の可能性に気付かないってことなんですよ。

だから、その人に結構ディープに近づけるかどうか、寄り添えるかどうかというのが大事なんだと思います。その人のオーセンティックな部分にどれだけ触れられるのかとか。それは少なくともプレゼンに3案持ち込んでどれかを選んでもらうような関係では絶対できない。

その前に、相手のいる前でどんどんラピッドプロトタイプして取捨選択して、「どうありたいの?」って話をいっぱいすることにしか答えはないかなって思う。その隙間に自分で入ってみて埋めた時間は、その人が自分で埋めるべきだと思う。結果的には。

渡邊さんそれはすごく思います。その隙間を埋めつつ、その人と一緒に何かをつくっていく時間、そして今度その人がやっていく時間というのができてきて。励ましたけど、ちょっと進むと「やっぱり無理」ってなって、すごい時間がかかるじゃないですか。その時間って並走しなきゃいけない。

多分地方にしてもイノベーターにしても並走しなきゃいけないし、私もクラウドファンディングでやらせていただいたときに、「Readyfor」に手を挙げるのが一歩目だったりするけど、その後みんなが応援してくれると「やるぞ」ってなってくるんですよね。

その覚悟のプロセス、お金もだけど言葉をもらうことがすごく大きくて、そこに走っていくと、後はどうぞってなるというのは、すごくそれは感じる。おっしゃるとおりだなと思います。

工藤私も1回、「Readyfor」でクラウドファンディングをさせていただいたんですけど、必要以上の手助けはしないんだけど、キュレーターさんがものすごく励ましてくれて、だんだんできるような気になっていって、最終的には「絶対に成し遂げる」気持ちができあがっていくんですよね。

米良さんそこはうちのサービスが大事にしてるところです。私たちのミッションは「誰もがやりたいことを実現できる世の中をつくる」なんですけど、普通に考えたら、自分のやりたいことがはっきりしていて、計画もある人たちに利用してもらう方がよっぽど楽ですよね。

図8

それがいわゆるコンサルティングのお仕事だったんだと思うんですけど、私たちはまだアイデア段階だったり、もはや気持ちしかないというような人たちに、「できるかもしれない」って可能性を感じてもらったりして、アウトプットをつくるという、かなり手が掛かることをやろうとしているんですごく大変です。

でも、さすがに5,500件ぐらいやってくると、どういうふうに人が変化していくかとか、どういうふうにサポートしていくべきかという知見がたまってきて、サービスとして提供価値になってきていると思っています。

抽象が具体になる場としてのミラツク

米良さんあと、ミラツクの可能性についてなんですけど、私、ダイアログってすごく嫌いなんですよ。だらだらしゃべってるだけで、生まれてるようで何も生まれないじゃないですか。しゃべると満足度が上がるんですよ。しゃべり倒したら何かやった気になるんで。でも、西村さんのダイアログに初めて行ったときに、そこでちゃんとつながってアウトプットが生まれる瞬間を見たんです。

「あ、そうか。ダイアログって設計によっては、しっかりとアウトプットになるんだ」と思って感動して。

図5

何が言いたかったかというと、ミラツクに来ると、どんどん抽象的な話になっていって、基本的にアウトプットにつながりにくいはずなんですが、勇哉さんが選んでいる人たちがみんなすごく実行力があって、パッションを持ってる方々で、そこが集まることによって抽象的なものがちゃんと具体化していく、そんなシーンをミラツクはつくれている、かなりまれな場だなと思っています。

田村さん出会うことによって隙間が生まれる設計みたいなのってある気がします。みんな違う人たちで、同じことを話しているようでいてもちょっと違う視点だったり、お互い持ってる良さが顕在化されていないところが逆に発見できたり、そういうのはもっとあるような気はします。

太刀川さんさっき日建設計の塩浦さんが話していた、クライアントに「それ本当にやる意味ありますか?」って聞くという話、僕もものすごく同じ話するぁなって思って聞いていたんですけど、何でそれを話すのかというと、その問いの上流に戻って組み立てをし直すことって、いわゆる「仕事をつくること」だからだと思ったんです。

その仕事をなぜやらなきゃいけないのかが分かる。目標が分かる。結果的に同じことをやるかもしれないし、新しい仕事が生まれるかもしれない。その実現したい状況に向けてどういうものがあるべきなのか設置していくことが、具体的に仕事を生むってことだと思うんです。

さっきの米良ちゃんが言っていた、「具体から抽象へ向かうことは大事だけど、そこから具体に実現する知恵がもっと大事だと思う」っていうのは、そうなんだけど、具体から抽象へ向かうことすら、さっきの共感が生まれていないとできないことで、共感が生まれないと抽象へも向かえないんですよ。細部の話で終わっちゃうので。

それぞれのパートで具体化できる人が集まっていることも大事だし、それがある種共感によって、「ここでは割と抽象的な話しかしなかったし、誰だったのか結局最後まで分かんなかったけど、すげえおもしろい人だった。とりあえずあだ名とフェイスブックアカウントをもらったけど、後で見たらあの人はすげえ人だった」ってことが起こるのはすごくいいことですよね。そういった出会いから生まれるプロジェクトのほうが、チームも企画も力が出るように思います。

ミラツクにいたから気がついたメディアの必要性

太刀川さんそこで、ちょっと工藤さんに聞いてみたい。普通には虐げられて可能性にふたがされてしまっている人たちをアシストするメディアをつくっているでしょう。なんでやっているの?

工藤私は『soar』というウェブメディアをやっていて、障害や病気があったりとか貧困状態であるなど、自分が持っている何らかの要素や今の社会の仕組みのせいで可能性を発揮できずにいる状態にいる人々、いわゆる社会的マイノリティーの方たちを対象としています。

図10

そのマイノリティーの人たちに対して、デザインやアート、仕事をつくるとか、さまざまな手段で、その人たちが持っている可能性を広げている事例を紹介するようなメディアです。

太刀川さん何でメディアというものによって、そういうことが実現できると思っているのかを聞いてみたいなと思って。ミラツクにいたから始めたっていうこと?

工藤それはそうです。私、身近な人が統合失調症になってしまったり、「実はゲイなんだ」って打ち明けてくれた友達がいたり、「発達障害があって働きたいのに働けない」って人がいたりして、どうしたらいいか分からなくて無力感を感じることが多くて、世界中の悲しいニュースに傷つくみたいな状態だったんです。

でも、ミラツクに来たときに、いろんなスキルを使ってそういう人たちをサポートする活動や、ネガティブだったはずのことをポジティブに変える活動をしている人たちがいることを知って、「こんなに素晴らしい人たちがいるんだ」って思って。

そう思ったんだけど、どうにもこうにも分断されていて、その理由を考えたときに、やっぱり知らないんだなって思ったんです。私は知っているけど、本当に困っている人たちはそのいい情報を知らない。すごくシンプルなんですけど…。

太刀川さん分断されているっていうのは、社会的マイノリティーと社会起業家が分断されているってこと?

工藤そうです。たどり着いていないというか。社会的マイノリティーの人たちって情報弱者の側面もあるので、そこをつなごうと。世間に流されている悲しいニュースと、この場に来ている、社会のためにいろいろやってる人がいるという高揚感があまりにもかけ離れていて、媒介になる人が必要なんじゃないかって思って、まずは可視化しようって。

可視化するだけでも何かがつながるんじゃないか、マッチングはできないかもしれないけど、つなげることはできるんじゃないかと思って始めました。社会を良くする活動をしているけれど、意外と当事者に会った事がないという人もいたりして、そこがもっとつながったらいいなあって思ったっていうのがあります。

そういった分断されているものがつながる場としてのミラツクはすごくいいなあって感じたんです。

リアリティーの体感が可能性を見える化する

田村さん ソーシャルイノベーションとビジネスイノベーションを分けようという話があるんですが、「そうかなぁ?」って思っていて。

図11

例えば、障がい者の平均工賃は大体月額で14,000円ぐらいなんですが、障がい者業界では、それをどうやって上げるのかって議論になるんですけど、その話を聞いた太刀川さんが「安っ! 雇おうか」って言ったのがすごく印象的で、そういう見方ができるんだなって思ったことがあるんです。

ソーシャル業界から見ると、月額14,000円というのは結構深刻な課題で、「最低賃金ぐらいまで上げられないと、この人たちが自立できないから何とかしよう」みたいな話になってるんだけど、逆から見ると、「この人たちにもう少しいい金額を払って一緒にやろう」みたいなことってできるんだなって、そのときハッと気付いた。

それがソーシャルイノベーションかどうか僕はよく分からないですけど、ビジネス視点でソーシャルな課題を見ることによって初めて気付くことって結構あるし、現場に行って、当事者のリアリティーを見ているからこそ、そこにある可能性に気付けたりする。

CSR、いわゆるフィランソロピーみたいな見方でいくと、その課題をどう解決するかって話になっちゃうんですけど、そうじゃないなって思うことはリアリティーに接すれば接するほど多い。

僕らはついついクリエイティブな仕事をする方が尊いって思いがちだから、アートとかやってる障がい者の方が上で、クッキーを詰めている障がい者は下で、とかなんとなく思っちゃっていたんだけど、実際に施設に行ってみたら、クッキーを詰めている人たちが超楽しそうにやってるんです。こっちの方が幸せなんじゃないのって。そのとき、自分たちの尺度を持ち込むこと自体が、可能性をスポイルするなあって強く感じましたね。

小さな起業家との出会いが大企業を変える期待

太刀川さんビジネスイノベーションとソーシャルイノベーションを分ける流れがあるけれども、それ本当かなっていうのは僕もすごく思うところです。

僕が何かの事業に関わるときに、事業構想とかあるいは製品の工夫やイノベーションの部分を考えることもあるんだけど、それとは別にマーケティングやブランディングを考えたりするパートもある。

これらが一直線につながって、すごいものができて、それが売れて、社会に広げていくところまで考え抜けて、そのソーシャルイノベーション的、CSR的といわれていることを、一番コアな事業企画とか製品開発のところに深く込められた場合に、それは市場に出たときに戦える価値になってる場合が往々にしてあるはず。

そういうものの接続がうまくできていないだけなのではないかなって気はするんです。製品開発の部分やマネタイズの部分を見ると、「それで本当に回収できるのか?」みたいに、既存のビジネスとの比較で感じるかもしれないけど、その後で勝負できる瀬が広がっている部分には、結構無自覚だったりして。

例えばコトラーさん(フィリップ・コトラー)の『マーケティング4.0』でいうところの「自己実現がこれからのマーケティングの基本的な軸になっていく」という話は、より良い社会を一緒につくっていく一員としての自己実現だったりするわけなので。それが消費行動に対して与える影響ってものすごく大きいし、ソーシャルイノベーション的な意味合いを初めから取り込んだ事業にするというのは、実は構想し得るし、時代的にもいいんじゃないって気はするんですよね。

少なくとも試してみるべきなんですよ、大きな会社が。100パーセントじゃなくて3パーセントずつぐらい、そういう新規事業を試してみるべきだってみんな思い始めている時代だと思うので。

でも100パーセントのうちの3パーセントって、例えば1兆円企業がやったらいきなり300億の事業ができるって話ですから、それぐらいの試し方は本当に考えていいんじゃないかなあって思う。

図12

僕は企業内のイントラプレナーを応援することもあるんですけど、イントラプレナーを応援する必要性を強く感じるのは、日本の基盤の中に大きな会社とかがあまりにも深く食い込んでるので、そこが変わらない限り変わらないなって、いろんなところで思うからなんです。

もし新しい萌芽があっても、無視できる範囲は取りあえず泳がせておくけど、本当に脅威になったら絶対つぶしますからね。そうなる前に、流れを一緒につくっていくところに乗っかるマインドセットになってもらうよう、ウイルスみたいな感じで徐々にやっていくのがいいかなって、そういうバランスで考えています。

だから両方ともやる、その中でそれらを出会わせる。アントレプレナーは自分でコントロールできるので、それによって理念がすごい先鋭化するんです。そして、その理念は大きなものを変えるときにめちゃめちゃ働くことがあるんですよ。

だから、小さい起業家と大きな会社をつなげてみることを、全くデザイン業務じゃないんだけどよくやる。そういうことによって、大きなものにも変わることを期待するからなんですよね。

NPOを買収するという選択肢

米良さんNPOってバリエーションの概念ってありますよね? それって何で見てるんですか。

田村さん何で見てるんだろうなあ。でも、ソーシャルインパクトとかってよくいわれるところですよね。

米良さんNPOを買収するという話がもっとあっていいんじゃないかなって思うんですよね。NPOの人たちって本当に現場を見ていて、つながっていて、信頼されていて、大企業が行っても長期投資になっちゃうようなものをコツコツやっていて、そのネットワークをうまく活かせば、すごくおもしろくできることがたくさんある気がする。

NPOの人たちはM&Aされるのって自分たちの理念を放棄している気持ちになっちゃうのかもしれないですが、でも、インパクトを起こすことが一番大事なんだとしたら、そういう概念が生まれてもいいんじゃないかなと思うんです。

起業がいいことで、「どんどん起業しましょう」みたいに言われますけど、無理やり生き永らえるぐらいだったら、いい形でコラボレーションして、本当に社会を変えるおもしろいことをやっていく方が大事な気がします。

そういう意味ではNPOもそうだし、普通の会社のスタートアップも、イグジット(売却)先がもっとあった方がいいと思うんですよね。日本は長生きの企業が多くて、それをだめだとは思わないんですけど、これだけ環境が変わっていく時代に、100年その企業でいることが本当にいいことなのか、よく分からないじゃないですか。

だとしたら、その理念を持ったまま、いろんな事業体がもっと輝きやすくなるために、もっと外とコラボレーションできるよう、ベースマッチングじゃなくて企業買収とかもやって、そうすればNPOも個人もキャッシュが入るので、また次違うことができるようになる。もっともっと大きい社会課題を解決できるようになると思うんですよね。

渡邉さんNPOとか社会起業の買収は結構途上国ではある話で。そのときにやっぱり難しいのは、「理念をつぶすんじゃなくてインパクトを大きくするんだ」ということをまずNPO側が理解していないといけない、というのが一つ。もう一つは、大きなものが合わさるとどうしてもどこかにつぶされちゃうっていうのがあると思うんです。大きな企業の中で、イントラプレナーががんばりきれないのも、どこかでつぶされちゃうからというのもあると思う。

図13

イントラプレナーもそうだし、買収したNPOとか社会企業の思いも含めてスケールして、一緒に育ててあげようみたいな意識の人が、まだ日本の大企業には少ないかもしれない。

そういう意味では企業の人の意識も変わりつつ、そこを接続する人が両方の意識を少しずつ変えながら、「じゃあこうしたらインパクトが大きくなるから一緒になりなよ」ってことをしてあげなきゃいけないんだと思う。

組織でイノベーションを起こすときの作法

太刀川さんイントラプレナーがイノベーションを超こすときに作法があるなって思っていて、その作法があまり共有されていないことが結構問題ですね。チームの人数の少なさも大事なことだし、人数の少ない中に多様性があるのもすごく大事なことだし、その人たちが自発的に遠くの目標を共感できてるってことも、すごく大事なことだろうと思う。

あと、球を転がすときに、企業の場合は資金を集めるとか、だんだん事業を大きくしていくことができるんだけれど、大企業の中でそれを始めると、だんだん上の人の意思が入ったりして方向がぶれてくるんですよね。

最初に自発性を持っていたチームでやり切ることができにくくなる。でもその時に、例えば、「若手に任せて始めてみたけど、ちょっと役員クラスも入れて50人体制にしてみようか」みたいなことは言わず、最初のチームをちゃんとトップに据え、その人たちがちゃんと自発性を持ってできる状況を保ったまま、さらに共感性があるメンバーを社内から見繕ってだんだん仲間にしていけたらぶれない。

球の転がし方を上が決めるんじゃなくて、自発的に球を転がせるんだっていう状況を企業が用意できるかどうかってが、すげえ大事なことだと思うんです。それができている日本企業はほとんどないんじゃないかと。

でも、特に抽象的な意思決定ができるのはやっぱり経営層なので、そういう人たちがそういう環境をつくるために、ちょっと1回下地をつくってみるというか、そういう生態系を一部だけでも用意してみることをやれるかどうかというのが、大企業の中ですごく問われてるんだと思います。

コレクティブであることがインパクトを生む

工藤そろそろ時間が迫ってきたので、井上さんにコメントをいただこうかと思います。

図14

井上さん井上さん とてもおもしろくて、いっぱいメモ取っていたんですけど、途中でこどもにメモもペンもを奪われて、諦めました(笑)。

ここに登壇している方々はみんな、人や地域の可能性をどうやって引き出すか、ということを、いろんな手法でやっていらっしゃいますね。同時に「隙間を埋めてしまっていないか」とか、ご自身のやり方への迷いもあったりする、というのを伺えてよかったなあと思いました。

迷いを持ち続けることって、すごい大事だと思うんです。これが正解だ、と確信を持った瞬間から見落とされてしまうこともたくさんある。本当に今の方法がいいのか、確かめ続ける感覚が必要だと思います。
そして、今日の話を聞きながら「曖昧さ」っていう言葉がキーワードとして浮かんできました。

というのは、私はミラツクの創業当時から理事として関わっているんですけれど、当時、ゆーや(西村さん)が話してることって、全然よく分からなかったんです(笑)

太刀川さんそうだと思う。めっちゃ整理したもん、俺、一緒に(笑)。

井上さんその時と比較すると、最近は結構理解できるようになってきていて。でも、それって必ずしもいいかどうかはわからないなあと。曖昧さの中に、イノベーションやリアリティが潜んでいるのかもしれない。そう思うと、曖昧さが残っていることが実はいいんじゃないかと、昨日の理事会でも話していたところです。

そして「多様性」の話が出てきました。多様性というと、ステークホルダーみたいな外側の話になることが多いですが、一人の人の中にもいろんな自分、多様性があって、その多様性に気がつくことで、つながっていないピースとピースがつながって新しいことが生まれる。

では、その人の内側にある多様さをどうやって見つけるかというと、一人で自分の内側を覗き込んでもなかなかわからない。やっぱり誰かと出会ってぶつかって見つけるものなんですよね。だから、ミラツクという場があって、いろんな方々が出会ってつながっていくことに意味があるんだなと。

以前、ゆーやと一緒にアメリカの「コレクティブ・インパクト」のリサーチをしたことがあるんです。例えば教育問題とか、子どもの肥満問題とか、川の汚染問題とか、一つの組織だけでは解決できない問題に対して、企業やNPOや行政や市民が、ビジョンや指標を共有して、継続的にコミュニケーションをとりながら何年もかけてインパクトを出すんですね。

その時、例えば教育問題、と一言で言っても、人によって考える教育問題の定義や背景が全く違う、ということを、丁寧に対話してそれぞれの考え方やマインドセットを認知した上で、共有ビジョンを決めていく…とか、多様な関係者との集合知で問題解決するために個々の思惑や利益を一旦脇に置く、だとか、成果指標の作り方や使い方とか、大事なエッセンスはいろいろあるんですが。

このリサーチをしていた時に、ゆーやが言ったことがおもしろかったんです。「ミラツクはコレクティブにインパクトを出そうとしてるんじゃなくて、コレクティブでいること自体がインパクトにつながると思っている」って言ったんですね。おもしろいなあと思いました。

成果を出すためにコレクティブになろう、というよりも、コレクティブでいることそのものを追求すると、結果おもしろいインパクトが生まれる、というのがミラツクの目指していることなのかな、と。思いつくままに、感想を述べさせていただきました。

工藤私、毎年このフォーラムに来てるんですけど、本当にこのフォーラムって多様性に気付く場だなと思っていて、いいまとめをありがとうございました。それでは、このセッション終わりにしたいと思います。みなさんありがとうございました。

この記事は、ミラツクが運営するメンバーシップ「ROOM」によって運営されています。http://room.emerging-future.org/

次回ミラツクフォーラムに参加を希望される方は、ミラツクが運営するメンバーシップ「ROOM」にご参加ください。ミラツクフォーラムは、メンバー向けの招待制の会として開催されます。
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NPO法人ミラツク では、2016~2019の4年間でミラツク年次フォーラムにおいて行われた33のセッションの記事を分析し、783要素、小項目441、中項目172、大項目46に構造化しました。詳しくは「こちら」をご覧ください。
赤司研介 ミラツク研究員
SlowCulture代表
1981年、熊本県生まれ奈良県在住。東京の広告制作会社でライターとしてのキャリアを積み、2012年に奈良県へ住まいを移す。2児の父。移住後は大阪の印刷会社CSR室に勤務。「自然である健やかな選択」をする人が増えていくための編集と執筆に取り組んでいる。奈良のものごとを日英バイリンガルで編集するフリーペーパー「naranara」編集長。Webマガジン「greenz.jp」や「京都市ソーシャルイノベーション研究所 SILK」のエディター・ライターとしても活動中。