女性経営者が生み出す新しい組織のあり方 [ミラツクフォーラム2016]
2016年12月23日に開催された、毎年恒例の「ミラツク年次フォーラム」。一般公開はせず、いただいたご縁の感謝をお返しする会です。
当日はメイン会場と第2会場合わせて26人の登壇者と10のセッションを行い、ミラツクと共に取り組んでくださった全国各地の方々、ミラツクのメンバーの方々を中心に、100人を超える多くの方に足を運んでいただきました。
第二会場の午前のセッションでは、 「女性経営者が生み出す新しい組織のあり方」をテーマに、ミラツク理事でもあるREADYFOR株式会社の米良はるかさんがモデレーターになり、株式会社ケイト・スペード ジャパンの柳澤綾子さん、株式会社ビザスク端羽英子さんと3名の経営者が登壇。その様子をお届けします。
この記事は、ミラツクが運営するメンバーシップ「ROOM」によって運営されています。http://room.emerging-future.org/
登壇者プロフィール
READYFOR株式会社 代表取締役
2010年慶應義塾大学経済学部卒業。2012年同大学院メディアデザイン研究科修了。大学院在学中に米国・スタンフォード大学に留学。帰国後、2011 年3月にWebベンチャー・オーマ株式会社の一事業として日本初のクラウドファンディングサービス「READYFOR」を設立。2014年7月に株式会社 化し、NPOやクリエイターに対してネット上での資金調達を可能にする仕組みを提供している。2012年には世界経済フォーラムグローバルシェイパーズ 2011に選出され、日本人として最年少でダボス会議に出席。St.Gallen Symposium Leaders of Tomorrow、内閣府国・行政のあり方懇談会委員など国内外の数多くの会議に参加。
株式会社ケイト・スペード ジャパン 代表取締役社長
1998年に大妻女子大学卒業。同年サンエー・インターナショナル入社。2007年にケイト・スペード事業部事業部長、2009年にケイト・スペード ジャパン代表取締役社長就任。同社では、「kate spade new york」と「JACK SPADE」の2ブランドを取り扱う。日本の女性にinteresting lifeを提案している。持ち前の明るさと積極性で、全国有名百貨店に多数の店舗を有するブランドにまで育てたファッションエグゼクティブ。一児の母でもあり、子どもを育てながら会社経営の舵を切るその姿に、多くの女性からロールモデルとして注目を集めている。
株式会社ビザスク 代表取締役社長
東京大学経済学部卒業。ゴールドマン・サックス証券に入社し投資銀行部門で企業ファイナンス等に従事、1年で妊娠・出産のため退社し女児を出産。USCPAを取得後、日本ロレアルに入社。化粧品ブランドのヘレナルビンスタインの予算立案・管理を経験。MITでMBA取得後、投資ファンドのユニゾン・キャピタルに入社、企業投資を5年間経験後、2012年株式会社walkntalk(現株式会社ビザスク)を設立。2013年10月ビザスク正式オープン。世界中の知見をつなぐ新しい「スポットコンサル」プラットフォームの事業拡大に日夜奔走している。
パン屋さんか、南場智子さんか!?
米良さん「ミラツク」の理事をしている「READYFOR」の米良と申します。今日は、まだ日本では少ない女性経営者について話していきたいと思います。
女性リーダーが出てくる時代になり、競争というよりも調和をしていくような経営スタイルが求められる時代になっていると思うので、その辺りを一緒に考える場にしたいと思っています。簡単に自己紹介をお願いします。
柳澤さんはじめまして。「ケイト・スペード ジャパン」の柳澤綾子と申します。「kate spade new york」はアメリカで1993年に生まれたブランドで、今世界38か国で展開しています。私はその日本法人の社長で、社長になったのは2009年です。
プライベートでは14歳の息子一人と、3歳の犬と、旦那と、渋谷区で暮らしております。どうぞよろしくお願いします。
端羽さん「ビザスク」の端羽と申します。1時間からピンポイントに相談できるスポットコンサル「ビザスク」という、ビジネスの課題を解決するためにビジネスマンにインタビューするサービスを提供しています。今約2万7千人のアドバイザーが登録していて、主な依頼者は法人または起業予定の個人です。
スタッフは25名の会社で、14:11で男性が多い会社の社長です。私も14歳の娘と3歳の猫がおります。よろしくお願いします。
米良さんありがとうございます。端羽さんは、ある記事で「あなたは南場智子さん(「ディー・エヌ・エー」創業者)になれますか」と質問されたことを話していらっしゃいました。ベンチャーで経営者といえば南場さんだというイメージがありますよね。
端羽さん最初にVC(ベンチャーキャピタル)さんに資金を出してくださいと依頼したとき、本当にそう聞かれたんですよ。
はじめに「女性の起業はパン屋さんのような、投資に向かない小規模なものが多い」と言われ、「いえ、私はスタートアップをやりたいんだ」というと、次に「あなたは5年後何をしているのか」と。女性は起業しても家庭の事情などで途中で辞めてしまう人が多いと、複数のVCさんから言われました。
私が「バツイチのシングルマザーで、結婚も出産も人生のイベントは経験済みだから、たぶん5年後も変わらないと思います。稼がなくてはいけないし」と答えたら、説得力があったみたいで本気度は伝わったんですが、次に「じゃあ南場さんになれますか」と聞かれたんです。パン屋さんか、南場さん(笑)。本当にそんな雰囲気の時代でしたから、参考にできる女性経営者がなかなかいなくて、いろいろな方から学んできました。
尊敬する女性経営者でいうと、ご著書の『不格好経営―チームDeNAの挑戦」(日本経済新聞出版社)から伺い知るだけですが、南場さんはやっぱり素敵だなぁと思います。困っていることをちゃんと素直に言えるのが素敵だなぁと。若い人では、ウォンテッドリー株式会社の代表取締役CEOの仲暁子さんはかっこいいと思っています。女性経営者ではそのお二方を参考にしていますね。
米良女性はロールモデルがあまりいないから、探っていることもみんなに言えてしまう点は強いのかもしれないですね。
柳澤さん私も同じで、できないことはできる人に任せています。子どもを育てながらフルタイムでも働くスーパーウーマンではないことをみんなに伝えています。私より得意な人がいる分野もたくさんあって、その分野のエキスパートを信頼して、自分で全部をやろうとしていません。そういう女性経営者は多いと思います。
ファッション業界は女性が多い業界です。でも、80~90%が女性なのに、女性経営者はとても少ない。ファッション業界の女性の活躍支援をするためのある組織の理事会でも女性は少数です。
私の会社は今正社員が約350名いて(日本のみ。販売スタッフを含む)88%が女性ですが、日本ではロールモデルが少なく、女性経営者から学べる機会も少ないんです。本国アメリカでは女性が経営陣にいることはごく普通なので、そうゆう方々を見ながらやってきました。
米良さんなぜアメリカと日本でそれほど違うのでしょうか。人材としてはそれだけ女性がいるのに、日本ではどうして経営者までいかないのでしょう。
柳澤さんどうしてでしょうね。アメリカの場合はスタートアップが多いこと、結婚や出産を経ても就労を継続する女性が多いことが関係しているかもしれません。特にファッションはお客様の対象が女性であることが多いからだと思います。
米良さん88%も女性がいて経営者までいかないというのは、皆さんどこで止まってしまうのでしょうか。
柳澤さんIR、PR、CSRなど“R”がつく職種には女性が多いとよく言いますが、マネージメントになることを選ばないケースも多いですかね。
米良さんそれは、得意不得意みたいな形ですか。
柳澤さんアメリカのファッションの会社では、マーケティングを極めてCMOになったとか、マーチャンダイジングから社長になった方もいらっしゃいます。
日本のファッション業界では事業と経営を分離させて考えている会社が多い。それゆえに結果として男性が経営者になっているところが多いのかもしれません。その分離によってスピード感が遅くなっていて、今日本のファッション業界が少し低迷していることと関係があると思います。
姉をもつ男性のコミュニケーションスキル
米良さん今ご自身で社長業をやっていて、実際にはどうですか。
柳澤さんうちの会社は、私が社長になった2009年の時点ではオフィスは11名だったんです。今は約100名いるんですけど、その11名から自分でチームをつくっていくことができました。
「私はここができないからこれを任せる人を置こう」、「ニューヨーク証券取引所に一部上場している企業とコンプライアンス系を強くしよう」など調整しながらつくっていけたことは、ラッキーでした。女性のリーダーがいやだという人がチームにいるときのストレスってあると思うんですよね。スタートアップだと、そういう人を選ばずに済む良さがあります。
米良さんさっきこのセッション前に端羽さんと話していたら、「うちの男性社員の多くはお姉さんがいる人たちだ」という興味深いお話がありました。
端羽さんそれなりにやんちゃで我が強い、しっかりした男性が多いんですが、お姉さんがいて、女性に幻想や過度な期待を抱いていないところが私ともうまくいく要因かなと(笑)。女性にガミガミと言われることに慣れているから、適度に聞き流した上で、自分の言いたいことをきちんと言うのかなーという印象です。私は血液型占いはあまり信じないのですが、兄弟構成って性格に影響を与えると思っています。あくまで傾向ですけど。
柳澤さんたしかにファッション業界に興味をもつ男性ですから、育ってきた環境で女兄弟など女性との関わりのなかでファッションが好きになるきっかけがあるわけで、金融業界などに行く方とはタイプが違うとは思うんですけど。
端羽さん人事の方、ぜひ兄弟構成を考えましょう(笑)。女性上司は部下にとって大変だと聞くことがありますが、たった一人でもサポーティブな人がいるだけで違うと思うんですよね。
“マジックとロジックのバランス”を重視
米良さん女性特有の感覚的・抽象的にものを語ることで、リーダーとしてうまくチームをまとめるマネージメントスタイルって、ありますか。
柳澤さん私たちのビジネスでは、“マジックとロジックのバランス”を重視しています。そのバランスの取り方で、女性のほうが上手だと思うときはあります。
商品を実際に着れる・持てることも影響しているのかもしれません。たいがいの男性はケイト・スペードのバッグを持って歩くことはできませんので。女性は使ってみることで愛情が生まれたり、良さがわかったりすることがあります。
あとは、ダイバーシティです。11名から約100名になったので、バックグラウンドが違う人がいっぱい入ってきたんですね。でもお互いをリスペクトするよう気を付けてやってきました。女性のリーダーはダイバーシティとして受け入れることが得意なのかなと思います。
米良さん逆の話で、女性は女性のことをあまり応援しないともいいますよね。
柳澤さんそれもたまにあるかもしれません。でも、それもダイバーシティとして受け入れ、ちゃんとやらなきゃだめだよとスタッフに話をしました。
米良さん女性が多いと下の人を育てない状況が生まれやすいのではないかと思っているんですが、そんなことはないですか?
端羽さん育てないというよりは、育て方を学んでいないだけだと思います。組織の中の少数派で、若干腫れ物に触るように扱われるから、男性同士のように厳しく指導されなかったり部下を持つ経験が少なかったり。
というのも、私自身も起業するまでは、明確な部下がいなかったので、社長になったときチームづくりで迷いました。「私は人を育てるのは上手ではないから、難しいと思う」と言って、自立している人、人を育てるのが好きな人を採用するようにしていました。今はもう少し成長したと信じていますが。
振り返ってみても、自分を育ててくれた女性のマネージャーはいなかったので、育て方のロールモデルもいなくて……、どうしたらいいのかわからない部分はあると思います。
米良さん本当にその通りですね。育てられたわけじゃないから、どうやってステップを踏ませていけばいいかが本当にわからない。
柳澤さんうちの会社は、育てることを評価項目に入れています。お店が全国に82店舗あるので、ショップは毎日4人くらいのチームで働いているんですよね。人間関係をきちんとつくった、いい環境がすべてだと思っています。
会社のコアバリューを体現しているチームであること、コラボレーティブであること、カラフルであること、パッショネイトであること……などの項目を、きちんとやっていないと評価されない制度です。
あとは私自身が割り当てられた課題によって成長した経験があるので、プロジェクトを通してクロスファンクションで働くことで、成長する機会を与え続けることを、評価と並行してやっています。
また、女性を育てる場合は、「みんなスーパーウーマンじゃないから安心して」と話す機会を持つようにもしています。
端羽さんメンタリングって大事ですよね。業務に組み込まなきゃいけないんだなと思っています。1 on 1(1対1のミーティング)をやってみたら、いろいろなことをヒアリングできました。人には、それまでやってきた環境がそれぞれあるので、適切なメンタリングは必要だと改めて感じましたね。
柳澤さん私も、週の半分ぐらいは1 on 1に時間をかけています。別の部署や他社からきた人が、最初どうしたらいいのかわからないという状況があったんですが、最近は社内のコミュニケーションの頻度も質も、空気もよくなりました。
違うバックグランドの人がたくさんいるなかで、「何に悩んでいて、何がペインポイントになっているのか」、オフィシャルに言える場とそれを前向きに転換させる機会をつくるのは良いことだと思います。
売り上げはファンの数で、お客の“いいね”の数
米良さんこのあたりで、質問などはありますか。大室先生、何かないでしょうか。
大室さん女性はどうしても感覚的なところから入りますよね。その感覚からうまくロジカルにつなぎたいのですが、なかなか感覚から抜けてきてくれない。どうロジカルへ導いて、その人の会社の成長につなげていくか、いつも悩んでいます。何かヒントがあると嬉しいです。
端羽さん基本的に「ロジカルではない」と言われるのを嫌うのが女性経営者だと思うんですよ。実は「ロジカルでありたい」と思っているんです。
柳澤さんそう、自分ではロジカルだと思っているんですよね(笑)。
端羽さん数字はやっぱり強いですよね。私の会社では最近、週に一回、アドバイザーの方が数字でいろいろなものを分析してくれます。例えば「採用の方法は改善できるのではないか」「ここはもうちょっとこういう風に変えたほうがいいのではないか」と言われると、素直に聞くことができます。目に見える証拠があればロジカルになれると実感していますね。
大室さん感覚が先に入るので、すごく鋭いんですよね。例えば「ソーシャル」というと感覚的に身近なものとしてとらえてくれるので、寄ってきてくれます。それをビジネスにどう落とし込んであげたらいいのかが、わからなくて。
柳澤さんKPIはすごく大きいですよね。
端羽さんはい、素直に認められます。
柳澤さん以前、ロジカルな人と仕事をしたことがあって、その人が「柳澤さんの話はこういうことだよね?」と確認し、話しながらそれをロジックに変えていくのを見たことがあるんです。
端羽さんロジックに変えてくる人、大好きですね。ロジックに変わったのを理解できている私ってイケてる、みたいな(笑)。
柳澤さんそうそう。そのままみんなの前でしゃべっちゃう(笑)。
大室さんなるほど。ありがとうございます。
米良ソーシャルの世界って、どんどん感覚的になっていきますよね。一歩一歩のステップを数字にした瞬間に、「それではない感」が生まれやすい世界なのではないかと思っていて。ソーシャルな世界にも何らかの数字をつくって、そこに向かってしっかりやっていくことが大事になりそうです。
柳澤さんソーシャルだったら、ゴール設定や、何の価値をクリエイトしたいかが大事なのではないですか。
米良さんそこを定量的にも定性的にもきちんとつくって、迷わずやる。よかったか悪かったかをちゃんと見て、その次にまた生かす。そういうことを区切ってやらないと、だんだんモヤモヤしていきますよね。
端羽さん嫌われないKPI設定ってあると思うんですね。ソーシャルの人たちに売り上げや収入ばかり言うときっと嫌われると思うんですけど、例えば、ページを見に来た人の数や、自分たちの理念を伝える上で重要な活動の高さを示す数字であれば、嫌われないのかなと思いますね。
大室さんビジネスである以上、数字や売り上げがベースですよね。でもソーシャルセクター系の人たちはそこを嫌うので、そこから説得していくと時間がかかるんですよ。
端羽さん女性起業家でも嫌う人がいます。「売り上げのためにやっているんじゃないんです!」という人がいますね。
柳澤さん売り上げが好きな女性も、たくさんいるのではないですか。私もそうかもしれない。
端羽さん売り上げが上がらなかったら続かないですからね。
柳澤さん売り上げはファンの数なんですよ。私はこのバッグを買ってもらった売り上げは、お客様の“いいね”の数だと思っているので。
端羽さんそうですよね。お客様が「お金を払いたい」と思うものを提供できた証ですし、それがなければ社員も雇えないし会社も大きくなれない。でも女性起業家には「私はこの価値を提供したいから始めたんです、売上じゃないんです」という人はいますね。
米良さん創業数でも女性経営者の数はけっこう多いんですよ。立ち上げまでは思いが強いからやるんだけど、その後はなかなかゴール設計をうまくできなくて、仕切る力が弱いというか。
大室さんたぶんそうだと思います。僕の感覚では女性のほうが圧倒的に多いですよ。
端羽さん本当に熱意がありますよね。
米良自分の気持ちだけだと社会を引っ張っていくリーダーにはなりづらい。ゴール設定に対して真摯に向き合う力は、もしかしたら女性が鍛えていかないといけないのかもしれませんね。
端羽さん私は起業家が周りにいなかったので、いろいろな人にアドバイスをいただきました。すると、刺激を受けてどんどん野心が大きくなって、もはや止まらないんです(笑)。
柳澤さん女性ってネットワーキングが苦手なんです。ネットワーキングパーパスでメンターをやっている会社もあるぐらいですから。そういうことをすることで、女性に刺激をもっと与えられると思います。
端羽さん刺激をもらえる環境になったらどんどん野心が芽生えました。
時間より成果。多様な働き方を許容する
柳澤さんうちはフレックス制を導入しています。コアタイムが11時から16時までで、月で帳尻を合わせればOKです。朝7時から来て16時に帰る人もいれば、残業してその日はパートナーが子どもの迎えに行くという人もいて、いろいろな働き方があります。
私のタイムマネージメントとしては、基本的に17時以降のミーティングはしない、金曜の午後はミーティングなし、というルールにしています。月火は売り上げの収集、対策や戦略があるので、みんな濃密に仕事をしていますけど、水木金にはミーティングがあまり入りません。
SkypeやFaceTimeなどでミーティングに参加すれば、フィジカルにそこにいなくてもいい。アメリカとのやりとりでは時差もあるので、ロケーションに関してはこだわっていないです。
米良さん社員さんの出産などで、「今のままの働き方は厳しい」という話が出たことはありますか?
柳澤さんあまりないのですが、例えばニューヨーク本社へ出張に行くチームやショップのスタッフなどは一時的に業務内容を変更し、子どもが大きくなってから元の職務に戻れるようにしました。
端羽さんうちはベンチャーなので、人数が足りないし事業は成長するし、基本的にいっぱい働かなきゃいけないんですけども、時間より成果だと思っています。
子どもがいるスタッフはリモートで働くこともありますけど、こちらで管理をしているわけではありません。「うちのチームはここまで達成しよう」という目標設定をしていますから。
ただし、とても頑張って働いている男性は一時期戸惑っていましたね。「僕たちはこんなに頑張っていて、でも一方で(子どものいるスタッフに)配慮しなくてはいけない。僕たちにその余裕はあるのか」という議論があったんです。
そのときに私は「私たちは短期勝負をしているのではなくて、自分たちが成し遂げたいことを実現するために長期の勝負をしている。優秀な人間が給料も高くないベンチャーに入ってくれるからには、働き方は配慮すべきで、むしろ前向きな戦略だ」と話しました。
はじめは摩擦があっても、全員が頑張っているなかでは納得せざるを得ない。「確かにこの人は不可欠な人材だ」という認識になれば、みんなが前向きな戦略として受け入れられます。
柳澤さんそれは大事ですね。会社からすると、人材って投資じゃないですか。結婚や子育てで辞めちゃうのは、大事に育てた会社にとってはロスですよね。
うちは、男性のロールモデルをつくったんですよ。私のエグゼクティブチームで、週に一回夕飯をつくる当番になって夕方早めに帰る男性スタッフがいるんです。代わりに彼は朝早くから仕事をしています。そのように、フレックスはみんなの権利だというベースをつくっています。
米良さん女性リーダーをつくっていくためにはパートナーのサポートは大きいですよね。フラットな関係性を大事にする男性でないと。
柳澤さん私の主人は自営業者なのですが、子どもが産まれる前に、二人でルールブックをつくったんです。ゴミ出しと洗濯は旦那で、朝ご飯は私、と。それだけでも、やってくれるということに対して安心感がありました。
端羽さん私は「子育てしなきゃいけないから早く帰らなきゃ」という社員がいたら、「あなたがやりたいことだったら応援するよ」と女性にも男性にも話しています。もしも「女性だからやらなきゃ」と思っているのだったら、旦那さんと話し合ったほうがいいですから。「やりたいことだよね?」と。
忘れてはいけないのは、独身の女性社員に負担がかかることです。子育てだけが特別ではなくて、将来子育てをするために婚活しなきゃいけないかもしれないじゃないですか。プライベートの予定で早く帰るのはアリですよ。その人が守りたい価値観だったら、それは大事なことです。ちゃんとパフォーマンスを出している社員が大事にしたい価値観を、会社が守ってあげたい。
米良さんそれは超大事ですよね。でも大きく成長していくとき、個人の価値観を充分に理解するのは難しいです。
端羽さんそれはたぶん、また壁にぶち当たっていくんでしょうね。
柳澤さん多様な働き方、人、価値観のゆるされる環境をつくって、社員のみんなが幸せでありたいです。
「女性だからできない」とは考えたことがない
米良さんどなたかご質問があればどうぞ。
敦賀さん津田塾大の敦賀と申します。学生たちをいかに外で学ばせるかという活動をやっていて、実はこの前、仲暁子さんに来てもらって400人の前で話していただきました。すると、学生たちがそういうリーダーの前で引いてしまうんです。一歩踏み出してもらう機会をつくりたいのですが、皆さんは学生時代にそういう原体験を経験しましたか。
端羽さん私は田舎の三姉妹で、「跡継ぎを産めなかった」的なよくあるプレッシャーに断固反発した母から「男女は平等だ」と強く教えられました。その影響で、女性だから何かができないということは一切考えていなかったです。男女差のない家庭で育ったことは、チャンスを躊躇なく掴むポイントだったと思いますね。
柳澤さんうちの母も「好きなことやりなさい」と言う人で、「あなたの好きなことって何?」と日曜の夜に毎週聞かれていました。将来何になりたいのかと。メンタリングみたいでしょう(笑)。好きなことと得意なことを伸ばすよう、育ててもらえたのはよかったです。
端羽さん褒められる環境が重要だと思います。褒められると、本人の意欲も高まりますし、そういう経験の積み重ねって大事ですよね。
米良さん私学生の時、半年だけスタンフォードに行ったんです。自分より2つ上の女性が授業に来て、態度が悪くて偉そうな人だったんですけど(笑)、彼女が「学生のときにつくったサービスがウケて、グーグルにバイアウトして、今グーグルで働いている」と話したんです。そのとき「私もできるんじゃないかな」と思ったことは大きかったですね。立場の近い人が刺激剤になったんです。
敦賀さん身近なほうがいいですよね。学生になるべく近い年代の経営者を呼んでくると、やる気が変わるんですよ。近い世代を呼ぶようにしています。
女性経営者は存在しているだけで差別化できる
女性今うかがっていると、自分の事業としてこれをやりたいから経営者になった、ということだと思うんです。経営者になられて、女性でよかったなと思ったポイントがどこだったかをお聞きしたいです。
端羽さん我々ベンチャーって「知られてなんぼ」の世界です。実は、最初はメディアに女性経営者として取り上げられるのはいやだったんですけど、みなさんに知っていただくいい機会になっていて、存在しているだけで差別化ができています。
柳澤さんそれはわかりますね。珍獣扱い(笑)。イリオモテヤマネコみたいな感じで。
端羽さんそれは得ですよね。やっぱり「自分ブランディング」って重要で、差別化できるポイントをみんな見つけなきゃいけないのに、既に一つもらえているのはプラスです。
米良さんもう一人くらい、何かありますか?
女性今問題として、イノベイティブな若い人たちがいても、結局私たちのようなマネージメント層など、中間層より上が変わらないと、下の子をつぶしてしまうと感じています。中間層より上の人たちを変えるには何をしたらいいと思いますか。
柳澤さんうちは平均年齢が30歳で、若い企業なんですよね。ですから、うちは「チャレンジをすることはいいこと。上司は失敗しても怒らない」と決めているんです。チャレンジのほうが加点性ですね、減点性じゃなくて。
つまり、私はシニアになったとしても進化し続けることを社員に求めています。もしかしたらそれにより会社全体が活性化して、「もっとやらなきゃ」となるのかなと思っています。
端羽さん元気のいい若者が多いということに突き上げられて、上の人が変わらざるを得ないものだと思う。注意力は基本的に若い人へ向けて、若い人は元気に突き上げていくのが、大事なことかな。若い人が文句ばかり言うのではなく「僕はこれしたい」と言える雰囲気、その人たちが刺激を感じられる雰囲気をつくっていくことが大事だと思います。
米良さん女兄弟がいる男性をみんなで頑張って見つけて(笑)、どんどん男女のコラボレーティングな環境を一緒につくっていけたらなと思いました。ありがとうございました。
この記事は、ミラツクが運営するメンバーシップ「ROOM」によって運営されています。http://room.emerging-future.org/
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