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連携する適材適所がイノベーションを生む。個の力に回帰するオープンイノベーションと企業の未来とは?[ミラツクフォーラム2016]

フォーラム

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2016年12月23日に開催された、毎年恒例の「ミラツク年次フォーラム」。
一般公開はせず、いただいたご縁の感謝をお返しする会です。

26人の登壇者と10のセッションを行い、ミラツクと共に取り組んでくださった全国各地の方々、ミラツクのメンバーの方々を中心に、100人を超える多くの方に足を運んでいただきました。

今回お届けするのは、メイン会場で行われたセッション2。コメンテーターに「京都大学 こころの未来研究センター」の内田由紀子さんを迎え、「READYFOR株式会社」米良はるかさん、「レノボ・ジャパン株式会社 / NECパーソナルコンピュータ株式会社」の留目真伸さん、「オムロン株式会社」の竹林一さんというメンバーで、「個の力に回帰するオープンイノベーションと企業の未来」をテーマに語り合いました。

(photo by kanako baba

この記事は、ミラツクが運営するメンバーシップ「ROOM」によって運営されています。http://room.emerging-future.org/

登壇者プロフィール
留目真伸さん
「レノボ・ジャパン株式会社」 代表取締役社長
「NEC パーソナルコンピュータ株式会社」 代表取締役 執行役員社長。
1971 年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。総合商社、コンサルティング等を経て2006 年「レノボ・ジャパン」に入社。常務執行役員として戦略・オペレーション・製品事業・営業部門統括を歴任。2011 年から「NEC パーソナルコンピュータ」の取締役を兼任し、NEC とのPC 事業統合を成功に導く。2012 年、「Lenovo Group」 米国本社戦略部門に全世界の企業統合の統括責任者として赴任。2013年4 月よりレノボ・NEC 両ブランドのコンシューマ事業を統括。2015 年4 月より現職。
米良はるかさん
「READYFOR株式会社」 代表取締役 2010年
慶應義塾大学経済学部卒業。2012年同大学院メディアデザイン研究科修了。大学院在学中に米国・スタンフォード大学に留学。帰国後、2011 年3月にWebベンチャー「オーマ株式会社」の一事業として日本初のクラウドファンディングサービス「Readyfor」を設立。2014年7月に株式会社化し、NPOやクリエイターに対してネット上での資金調達を可能にする仕組みを提供している。2012年には世界経済フォーラム「グローバルシェイパーズ2011」に選出され、日本人として最年少でダボス会議に出席。St.Gallen Symposium Leaders of Tomorrow、内閣府国・行政のあり方懇談会委員など国内外の数多くの会議に参加。一般社団法人クラウドファンディング協会代表理事。
竹林一さん
「オムロン株式会社」IOT戦略推進プロジェクトリーダー
オムロン入社後、関東のパスネットシステム等、大型プロジェクトのプロジェクトマネージャを務める。以後、新規事業開発、事業構造改革の推進、「オムロンソフトウェア」代表取締役社長、「オムロン直方」代表取締役社長、「ドコモ・ヘルスケア」代表取締役社長を経て現職。各種委員会の諮問委員他、プロジェクトマネージメント、モチベーションマネージメント、ビジネスモデルマーケティングなどの講演、執筆などを通じて“日本のエンジニア”“日本の経営者”を元気にする活動を実施中。
内田由紀子さん
「京都大学 こころの未来研究センター」 准教授
1998年、京都大学教育学部心理学科卒業。2003年、同大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。博士(人間・環境学)。ミシガン大学、スタンフォード大学での客員研究員を経て、2005年より甲子園大学人文学部心理学科専任講師に着任。2008年1月より「京都大学 こころの未来研究センター」助教、2011年より現職。幸福感・他者理解・対人関係についての文化心理学研究を中心に行う。2010年〜2013年、「内閣府幸福度に関する研究会」委員。

それぞれが「本当にやりたいこと」を見つけられる時代がやってくる

西村このセッションのテーマは「個の力に回帰するオープンイノベーションと企業の未来」です。

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例えば、「コンピューティング」は本来“個の力”を開放していくためにあるわけです。“個の力”を開放していくことができたとき、どんなことができるのか、話をしていけるといいなと思っています。まずは留目さんからお話を伺えますか?

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留目さん世の中は、インターネットによって目まぐるしく変わっていっています。そして、これからようやくインターネットの本来の力、本質が浮き彫りになってくるんじゃないかと思っています。

極端なことを言うと、インターネットとは、最適化・再配分をする究極のツールです。全てがつながって、水が高いところから低いところへ流れていくように、必要なところに必要なリソースがいくというツール。それによって、あらゆるものが変わっていきます。

大企業は、第三次産業革命の主役として世の中に必要だった社会的なインフラや工場をつくってきました。しかしながら既に主役としての役割を終えているんだと思うんです。個別の課題を解決していくために現場の多様な視点を取り入れたり、企業やその他団体等の枠を超えて関係者と一緒になって何かをつくり上げるような働き方、フレキシビリティを大企業は実現できていない。

インフラを効率良く提供していくことと、多様なプロジェクトに細かく対応していくことの両立は難しいのです。製品やサービスが溢れている一方で、解決されないで残ってしまっている個々の課題が沢山ある。ですので、個別の課題を定義し、企業が提供している製品やサービスを組み合わせて全体としてのソリューションをデザインして解決していくということは、そもそも不得意な大企業がやるのではなくて、熱量を持った個人が集まってプロジェクトごとにやればいい。

お金については、米良さんの「Readyfor」がありますから、必要とされるプロジェクトにはお金が集まるようになっていくと思いますし、そうやってフレキシブルにプロジェクトに参画していくことによって、企業に従属するのではなく、一人ひとりが自分らしく、自分のやりたいことを見つけられる、わくわくする時代がやってくると感じています。

そして、みなさん一人ひとりがやりたいことを見つけて、やりたい事業を10年以内のサイクルでしっかり回していくことが大事なんじゃないかなと。そういう意味では、これから本当に新しい人間の生き方、企業と人間の関係が生まれていく、まさに第四次産業革命と言われるパラダイムシフトが起きつつあるのだと思います。

西村「Readyfor」では、どういうプロジェクトが育ってきていますか? 内容や数など、当初と最近の現象や傾向を教えていただけますか?

米良さん「Readyfor」で支援している6割ぐらいが企業やNPOではない任意団体の人たちのプロジェクトです。ただ、任意団体ってボランティアなわけじゃなくて、肩書を見ると、大企業や省庁で働いている人たちが集まって何かをスタートしていて、その後、会社を辞めて起業したりということが起こったりしています。

今までは、ファイナンスも金融機関も、会社や構図をつくらないとお金を貸してくれなかったし、ましてや実績がないとお金を手に入れられなかったんですが、「何かやりたい」と思っているプロフェッショナルたちがゆるく集まることによって、そこにお金が集まって、どんどんプロジェクトが起こるようになっています。

プロジェクト単位で始まって、それがうまくいきそうになれば本腰入れてやりますか、みたいな形でどんどん進めていくという、あまり箱は関係ない状況になってきています。そういうプロジェクト単位でのスタートが増えているから、「起業しろ」とか「会社をつくれ」って言われても、「何でそんなリスクを取らなきゃいけないんですか」みたいな感じもあって。

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でも、ゆるく集まったプロジェクトから会社をつくったり、NPOをつくったり、投資が集まったり、うまくいかなかったら解散するみたいな、そういうやり方の方がおもしろいイノベーションが生まれるんじゃないかなあと思っています。

なぜ、オムロンは社員を3ヶ月休ませるのか。

西村竹林さんいかがですか?

竹林さんオムロンって、もともと創業者が「イノベーションは新しい価値をつくること。総務であろうが人事であろうが、新しいことをやったら全部イノベーションやで」って言ったんです。オムロンは日本で初めて自動改札機をつくったり、いろいろな新しいもんをつくってきたんですが、それは技術の一面で、生産の仕組みとか、新しいあらゆるものがイノベーションです。だから、人事であろうが総務であろうがイノベーション起こせるでって言っているんです。

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オムロンって、管理職になって6年目に、3カ月会社に来なくていい制度があるんです。管理職になって6年目というと部長クラスなんですけど、要は「部長が会社に来なくても会社回ってるで」っていう制度ですよね。

大体みなさん、「俺がいないとこの会社は回わらへん」って一生懸命がんばります。ところが回るんですね、会社って。3カ月ぐらいいなくても。6カ月いなくても、下手したらずっといなくても回る(笑)。回るぐらいだったらいいんです。「部長がいないとき、コミュニケーション良かったで」とかね。部下の意見をたくさん吸い上げてくれて、職場が変わってきましたっていう話ですね(笑)。

これは何を言っているのかというと、最初に言った未来観が伝えられて、きちんと人材育成がされてるのかという話と、もう1個が、「お前オムロン入って何したかってん?」っていう話です。30〜40歳前後になってくると、仕事に追われて何のためにオムロンに入ったのか、何のために働いているのかを忘れてしまう。これを3カ月間考えてくるための期間なんです。

それで、「やりたいことがあったら帰ってこい」っちゅう話です。逆にいうと、やりたいことがなかったら帰ってこなくていいんですね。現場回ってますから。僕の先輩が、「一度遊牧民を見たい」とモンゴルに行って、そのまま戻ってこなかった。それが彼にとってやりたいことであって、幸せなら、それが幸せなんです。

そのときに、一体何のために働いているのかを考えて、会社でやりたいことがあったら帰ってきて、オムロンのいろんなヒト・モノ・カネを使ってやったらええやんって話です。

この制度が、ずっと続いています。それはなぜか。大体の大企業は「イノベーションを起こせ」っていうんですけど、20代ぐらいの人はイノベーションを起こそうと思って入社して、30代ぐらいで挑戦する、そして40代ぐらいで叩かれて叩かれて「あかん」って思って様子を見始めるんです。

そして50代になった逃げ切ろうっていう、重力の法則が働いてしまうんですね。だから、もう一度20代のところに戻れるタイミングをつくろうと。売り上げとか新商品開発じゃなくって、そんなこともイノベーションだなっていう話をさせていただきました。

西村内田先生いかがです?

内田さん研究者ってそもそも個人の名前がばんばん出る仕事なんです。例えば、私はもちろん京都大学に所属してるんですが、私がやった業績というのは京都大学に吸い上げられるわけじゃなくて、私の名前で論文を書くし、本は出るし、私の名前でいろんなことが出る。すごく個人化されているんです。

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じゃあ私たちって大学のような“箱”が必要ないのかっていうと、“箱”は必要なんです。

つまり企業さんだと、大きな箱があるとブランディングができるとか、そこに対してアプローチするマスができるとか、イノベーターとフォロワーみたいな人もいて1つのものがつくり出せるっていう形だと思うんですけれども、個人化された集団になってくると、結果も個人に帰属することになる。

では研究者はフリーでやればいいのかっていうと、案外そうでもなくて。論文を書く、研究をするという価値を新しく提供していくのと同時に、それ以外の部分のアウトプットも提供することが大事だったりします。例えば大学に所属すると大学の業務として発生する「教える」とか「事務を回す」とか。。

でも、そういうところで気が付くことが数多くあったりして、一見個人の研究と関係がないようなことが、箱の中で発生するからこそ、新たに自分の力として、まさに個に回帰するみたいなこともあって。

今まで企業や省庁にいて名前が出てこなかった人たちが個別の技術者集団化をしていくとすれば、結局そこに残る箱が提供する価値って何だろうと、お伺いしてみたいなと思いました。

上質なアウトプットにつながる第3の空間

西村ちょっと戻るんですが、竹林さんの話された3ヶ月休んでゆっくり考えて、やりたいことがあったらオムロンに戻ればいいっていう話、すごくいいなあと。何のためにやるのか、目的意識がないとただやってるだけになっちゃう。オープンイノベーションにしろ共創にしろ、この“何のために”がないと、結局何のためのオープンかよく分からなくなってしまう。

だから、会社で働いている人がオープンイノベーションをやっていくときに、目的意識とか、それを支えるための制度が必要だと思うんです。それは、例えばレノボではどうですか? 既に取り組んでいることや、こうすれば個人がより目的意識を持って取り組めるようになるんじゃないかと思うことがあれば伺いたいのですが。

留目さんそもそも会社自体が本来は目的をもったプロジェクトなのですが、それが徐々に共同体優先になってしまって、本来の事業の目的よりも共同体を維持するのが目的になってしまうとおかしくなると感じています。

会社は目的ありきなんです。今の我々でいえば、「コンピューティングパワーでもっと人を豊かにすること」であり、それをオープンイノベーションで実現するために、社員にはどんどんいろんなところに参加していってもらいたいんです。提供しているものは結局はコンピューティングのためのハードウェアというインフラなので、それをどう活用して、どんな課題を解決していくのかというのは個別の課題に委ねられていているからです。

インターネットで全てが繋がる時代において自社の製品だけでソリューション全体をデザインすることは不可能です。それを促す制度ということで、会社に来ないで仕事をする「無制限テレワーク」を推奨しています。

西村「会社に来ないでください」って言ったら、みんなちゃんと来ないんですか?

留目さんははは(笑)。「来ないでください」と言っても、みなさん来るんです。制度を作っただけではだめですね。アクセントとして「テレワークデー」をつくったりすると、その日は95パーセント来なくなりますが、そういうことをしないと、やっぱり来ちゃうんです。

働き方や文化を変えていくのは、一朝一夕にはいかないのかなと思いますが、コラボスペースで働いてきて、得た学び、新しいプロジェクトを共有してくれる社員もいたりして、そういう人たちがもっと増えてくるといいかなと思っています。

西村さっきの内田先生の話で、箱の意味みたいな話が出ましたが、「来なくてもいいよ」と言っても来るというのは、何か求めるものがあって、来た方がやりやすいと感じているのかなと思ったんですが、その辺りっていかがですか?。

留目さんもちろんフェイス・トゥー・フェイスの場がとても大事だと思っていて、フェイス・トゥー・フェイスを軽視しているわけではないんです。それが必要なタイミングでは、しっかり集まってミーティングをやりたいと思っていますし、何かしら生まれるきっかけにはなると思うんです。

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ただ、今ではサテライトとかコラボスペースでも仕事できるじゃないですか。そんなどこでも働ける時代に、もし会社がオフィスを持つ必要があるとすれば、そこは社員同士のコミュニケーションが円滑になったり、極めて生産性が上がったりする本当にインテリジェント空間なのかなと思います。

西村竹林さんって会社には行ってるんですか?

竹林さんえっ? 会社には行ってますよ。会社って定義が難しいですけど。部下たちがいるんで、オフィスには時々行きます。

西村時々行く理由というか、何しに行ってるんですか? 行ってなさそうな感じ……。

竹林さん行ってなさそうな感じしますか……オフィスっていうところでいくと、「ドコモ・ヘルスケア」という会社をやっているときに、高層マンションの21階に秘密の場所を持っていたんですが、これまでと違うアイデアを出すときには、会社の中でも家でもなくて、第3の空間っていうのをクリエイトしてて。

そのマンションにはビールからあらゆるものが用意されていて、集まって飲みながら「俺らの会社やけど、これどうすんねん」って話をするんです。

そこは何のしばりもなくて、組織とか株主とか関係なしで、ただ、アウトプットだけは出すという約束だけがあるので、そのアウトプットが出てくるのは、本当に早いんです。あらゆるいらんもんを取り除いた場を活用した秘密空間をつくっていたんですけど、それはおもしろいですよ。

内田さんやっぱりオンとオフだと思うんです。オープンっていうのはどこかにクローズがあるからオープンもあり得るような気がしていて、箱の意味を考えたときに、箱ってオープンな部分をちょっと閉じてくれるみたいなところがあるなと。

人間って、毎日同じ何かをしていると定常状態で動くようになっていくんです。それは同じオフィスにずっといたり、同じ場所で同じメンバーが集まったりしていると意思決定やいろんな感情が定常化していって、隠されているものがぱっと出てこなくなる。

でも、場所をちょっと変えることでそれが出てくるようになる。多分その秘密の場所も、いつもそこで集まっちゃうと、きっとだめなんです。「今こそ」みたいなときにこそ、秘密の場所がすごく生きてくるような気がしていて。それはどっちがオンかオフか分からないですけど、そういうスイッチの切り替えがとっても大事で、そのために場所というものがうまく機能することってあるんだろうなと思いました。

西村米良さんが最初に話してくれた、プロジェクトをやっている人は意外と企業で働いている人だというのに近いのかと思いますが、いつもと違うプロジェクトを外に持つことで、ちょっと違うものが出てくるのかなと思って……。

米良さんそうですね。昔に比べると今の方が圧倒的にいろんなネットワークが構築されやすいような状況になってきていますよね。それこそフェイスブックなどができて、イベント量も圧倒的に増えたと思うんです。

趣味や関心に近いイベントにとりあえず行ってみたら、そこでまた新たなネットワークができたりして。今までは、家族と会社っていうネットワークが基本だったのが、それ以上にいろんな個人にネットワークができていると思う。

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働き方についても、それこそ大企業が労働時間の改善を行っていくと、若い人たちは時間ができるので、その時間で出会いが生まれる。それが何かしらのアウトプットにつながるというのが、以前と今で違うことですかね。とはいえ、そのコラボレーションを生み出す力を持っている人と持っていない人がいるなあと思っています。

イノベーションに必要な起承転結の人材バランス

竹林さん“起承転結”って物語をつくる時の良いとされる構成のことですが、今、「起承転結型人材育成モデル」っていうのを研究しているんです。それが会社を構成する人材にも当てはまると思っていて。

どういうことかと言うと、“起”は0から1を生むイノベーションを起こす人、“承”は1を100ぐらいにする人です。“転”は徹底的にレビューしてくれる人。「こんな事業立ち上がるんか?」とか、「リスク大丈夫か」とか。“結”は、最後までやり続けてくれる人。

そんなことを分析していてだんだん分かってきたのは、この頃の日本では、“起承”の人が減っているということ、そして大企業の中に、“転”の人が増えてきているということです。ただ、もちろん“転”も大事なんです。“起承”だけでやっていると、会社つぶれるんで。

より具体的に言うと、“起”の人は外に出て、新しいビジネスや人材・人脈を掴んでくる人です。“承”の人は、これどう組み合わせたらビジネスになんねやろなと考える人。ただ、ビジネスにしようと思ったらこの2つだけではだめで、会社の金を引っ張ってこなあかんのですね。

引っ張ってくるためには“転”の人を会議で説得せなあかんのです。そして最後に、やり続けてくれる人がいる。このバランスが大事なんですね。“結”側になるほど、オペレーションする人なんです。これはイノベーションがいいとか、オペレーションが悪いとかではなくて、どっちの役割も必要なんです。

例えるなら“起”は望遠鏡で見る人、“結”は顕微鏡で見る人なんです。“起”の人は、ほとんど妄想設計です。承ぐらいになってくると構想設計。転の人は機能設計ですね。最後、結の人は詳細設計なんですけど、往々にして問題なのは、まだ“起”の人が妄想設計しているときに、機能設計のレビューを入れたり詳細設計を求めたりする。これだと“起承”が育たないでつぶれていくんです。

そこで“起”の人たちは何をするかっていうと、企業の中で認められへんからアイデアソンやハッカソンに行くんです。「おもろいな」って言うてもらえるから。でも、「おもろいな」でもビジネスは立ち上がらないんですね。

“転結”はCompanyの理論で、“起承”はCommunityの理論。この2つの理論はすぐには交わらないんです。社長が来ているところはいいですが、そのまま会社に持っていって、ここで言うたこと言ったって、なかなか通じないですよね。そこで、“承”と“転”をつなぐのがConferenceです。この3Cがあると、うまくいくんですね。

米良さん“起”の人材が少ないっておっしゃったんですけど、“承転”の人間が少ないからいいレビューができなくて、“起”が弱まっちゃってっていうことなんですかね? それとも、そもそも企業の中にいないということ?

竹林さん“起”はいるんですけど、減ってきているなと。“起”には、ひいきにしてくれるタニマチという存在が必要で、企業の中でも、この“起承転結”をうまいバランスでコントロールして、「金払ったる」っていう人がいないと、“起”の人は遊んでるみたいに見えるんです。

「あの人会社来てへんなぁ」みたいに。ところが働いてんねんっていう話ですね。この「タニマチ」が会社の上の方にいてくれると楽ですよね。「ちょっとやらせといたりや」って。

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“起承”のマネジメントと“転結”のマネジメントは違うんで。“転結”のマネジメントはKPIを設定して、いかに効率上げて儲けるかです。“起承”はまだそこまで行っていないので、変なマネジメントを入れたらだめなんですよね。

こっちが泳がしとかなあかんし、おもろいなって言うだけで働くんです、起の人は。そういうマネジメントが大事だというのは、僕も泳がしてくれる上司がいてたり、金払ってくれる上司がいてたりしたことから感じていることですね。

ただ、“起承”だけでやってると会社がつぶれるっていうのもあるんです。おもろいけど計画もリスク管理もできてへんやんて。でも、“転”の人ばかりで会社やっちゃうと、やりやすいんですけど、ここができてへん、あこができてへんばかりになる。それじゃあイノベーションは起こらないですよね。

クラウドファンディング=クラウドタニマチ?

西村僕はどう考えても“起”の人間です。転は無理。レビューできないし。それと同じで、“承”の人にレビュー側に回ってもらうって難しいじゃないですか。その人たちを昇格してマネージャーとかにしても、「戻りたい」ってなったり、下手したら辞めちゃうこともありますよね。

だから「タニマチ」はすごく重要だなと思ったんです。“承”の人は偉くしても辞めちゃうんだから偉くなる必要はなくて、このままでいいんだけれど、それを認めてくれる上の人がいるというのがすごく大事で、クラウドファンディングって、クラウドタニマチだなあってちょっと思ったんです。

米良さんまさにそうだと思う。だから会社の単位でも、これからそういうことが起こっていくかもしれなくて、「外の人にこんなに言われたからやりましょう」みたいな、言い訳になるようなものになればいいなと思っています。

それと、“起承”の話で、シリコンバレーではすでにそうなっていますけど、立ち上げる人は、立ち上げたら終わってまた戻って、みたいな形で、CEOの役割と、まさにアイデアを形にする役割がもっと分離していく方がいいのかもしれないですよね。

西村竹林さんみたいに1個終わったら3年で次のところに行くみたいな、そういうことをやってくれる人がいるからいいですね。そこが適所なんだから、それでいい。それ以上やらせてもうまくいかないんで。今回、個の力みたいなテーマなんですけど、それぞれ適材適所で生かしていくことができるといいなと。

留目さん確かに、大事なのは適材適所だったり役割分担だったりすると思うんです。個々の課題を解決するためのソリューションをつくるのは苦手でも、固定化されたオペレーションを拾って一層効率を上げていくのは結局大企業だったりしますし、そういう意味ではそれぞれの立場で参加すればいいと思っています。そういう場が多くできあがってくるということがイノベーティブだなあと。

もしかしたら、そのうち本当にAIが自動的に「この人とこの人とこの人でプロジェクトをやりなさい」みたいになるかもしれませんからね。そうしたらおもしろいでしょうね。

西村「タニマチ」っていう言葉自体が。もうちょっといい日本語ないですかね? そもそもあまり知られていない。

竹林さん回収しないから投資家でもないんですよ。育てる感じですよね。あかんかったら、あかんでええわっていう。

内田さん「あしながおじさん」だと困っている人に投資するイメージが強いじゃないですか。もうちょっと積極的に関わってくれる「あしながおじさん」ですね、イメージ的には。

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それと、“起承転結”の話がすごくおもしろくて、今は“転”が強くなり過ぎてるっていうのは本当にそうだと思います。

今日、みなさんのお話を聞いていて、大学って1周遅れてしまっているのかもしれないと思ったんです。というのも、“起承”のアイデア勝負みたいなところがあるのに、“転”のレビュアーが強過ぎて、例えばちょっと変わった研究計画だと、「これは本当に実現できるのか」という議論になったり、結果が出るまでの猶予を3年くらいの短期で考えざるを得なくなってしまったり。

息の長い基礎研究ではなく、短期で結果を出すように勝負をかけるプレッシャーむしろ企業からきたカルチャーのように思われているのですが、最近の企業はだんだんそうではなくなっているのかもしれないですね。

“承”と“転”の人たちがうまく連携しないといけない。途中をつなぐ哲学みたいなものがシェアされる過程が必要で、それをどうやっていくのかが、オープンを支える在り方なんだろうなと私自身も感じました。「タニマチ」に変わるいい言葉を見つけられず残念ですけが、宿題にさせてください。

西村ありがとうございます。そしたら最後にコメント一言ずついただいてこのセッション閉じようと思います。

竹林さん京都に450年続いている一見さんお断りのお茶屋さんがあって、先輩が僕を連れて行ってくれたんですが、彼は僕にとっての「タニマチ」なんです。どういうことかというと、もし僕がお金払わへんかったら、僕を紹介した彼がお金を払うって話で、それでも「こいつ育てたってくれ」っていう意味で紹介いただくんです。

いずれ僕が偉くなったら金払うからええやんって。それでまた偉くなった人が、また誰かを連れてきて「彼頼むわ」って。だから450年も続くんですね。ただ単なる競争だけでなくて、その次に対して投資していける人、それが「タニマチ」だと僕は定義したいと思います。ありがとうございました。

米良さん「エンジェル」って投資家のことだけど、「タニマチ」って立ち上げのところはひたすら支える「いいエンジェル」なんじゃないかなと思いました。

“起承転結”の話ですが、それぞれの役割は確かに違うんだけど、“起”だけで逃げると“承”の人は「おまえやれよ」みたいな感じになっちゃう。「ここまでもっていきたいよね」って共通認識をもたないで、役割と決め切っちゃうと、うまくいかないのかなって思います。

例えば大企業とベンチャーが、リソースを提供する側とアイデアを考える側に分かれるのではなくて、つなぎ目を一緒に考えるから“起承転結”が回るんだと思って、竹林さんがそういう“起”の人だとしても、経営者として“起承転結”をちゃんと回していらっしゃるからそこが分かっているということだと思います。だから、それを分かろうとする人間をつくることも大事なんじゃないかと思いました。ありがとうございました。

留目さん会社のあり方も個人の生き方も、ある意味本質に近づいているんじゃないかなと思います。もともと固定化され過ぎていたものが、今よりも流動的になっていく。そういう中で、大企業は長期的な課題解決のために、技術的なイノベーションにも投資をしていくだろうし、タニマチ的なサポートもしていくんじゃないかと思うんですね。

一方で、そうは言っても現場は一つ一つ違うので、大企業がお仕着せでやっても課題を解決はできない。個別の課題を個別で解決していく主体がないといけないし、その個別の主体がもしかしたら大きなプロジェクトになって、将来的な大企業になるかもしれない。

ただ、大企業ですら、これから何十年も安泰ということがあり得ない時代に、会社にしても個人にしても、長期的にも短期的にも、何をしたいのか、どんな課題を解決したいのか、意識して取り組んでいくことが大事なんじゃないかなと思うんです。

本来人間ってそうやって生きてきたはずだし、むしろ無理に固定化されてたものがフレキシブルになるという意味では、社会と関わって、貢献ながら生きて生かされていくっていう本来の世界に近づいていくんじゃないか、それが個の時代っていうことかなと思っています。

西村ありがとうございました。例えば米良さんがクラウドファンディングの説明するときに「要はタニマチなんです」みたいな話をし始める、「イノベーションに何が必要かっていうと、要はタニマチなんです」みたいなことを竹林さんが永遠に言い続ける。その方がわかりやすいってなってきて、アルファベットで「TANIMACHI」というのが通じるようになってくるとおもしろいなと思いました。というわけで、セッション2はここまでです。登壇者のみなさま、ありがとうございました。

この記事は、ミラツクが運営するメンバーシップ「ROOM」によって運営されています。http://room.emerging-future.org/

次回ミラツクフォーラムに参加を希望される方は、ミラツクが運営するメンバーシップ「ROOM」にご参加ください。ミラツクフォーラムは、メンバー向けの招待制の会として開催されます。
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NPO法人ミラツク では、2016~2019の4年間でミラツク年次フォーラムにおいて行われた33のセッションの記事を分析し、783要素、小項目441、中項目172、大項目46に構造化しました。詳しくは「こちら」をご覧ください。
赤司研介 ミラツク研究員
SlowCulture代表
1981年、熊本県生まれ奈良県在住。東京の広告制作会社でライターとしてのキャリアを積み、2012年に奈良県へ住まいを移す。2児の父。移住後は大阪の印刷会社CSR室に勤務。「自然である健やかな選択」をする人が増えていくための編集と執筆に取り組んでいる。奈良のものごとを日英バイリンガルで編集するフリーペーパー「naranara」編集長。Webマガジン「greenz.jp」や「京都市ソーシャルイノベーション研究所 SILK」のエディター・ライターとしても活動中。