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私の「やりたい」はなんだろう。一人ひとりのマインドセットから始まる「ソーシャルイノベーションの未来」【ミラツクフォーラム2017】

フォーラム

2017年12月23日に開催された「ミラツク年次フォーラム」。一般公開はせず、1年間ミラツクとご縁のあった方にお集まりいただき、開催しています。

本記事でお届けするのは、第2会場で行われたセッション3。モデレーターはミラツクの執行役員・宝槻圭美。コメンテーターに「京都市ソーシャルイノベーション研究所」の大室悦賀さんを迎え、「株式会社レキサス」の比屋根隆さん、「公益財団法人五井平和財団」の松浦由佳さん、「一般社団法人re:terra」の渡邉さやかさんと共に「ソーシャルイノベーションの未来」について考えました。

(写真撮影:Rie Nitta)

この記事は、ミラツクが運営するメンバーシップ「ROOM」によって運営されています。http://room.emerging-future.org/

登壇者プロフィール

比屋根隆さん
株式会社レキサス 代表取締役社長
沖縄国際大学商経学部卒。大学在学中にITの可能性を感じ、学生ポータルサイト開発、企業向けの独自サービスを提供するIT企業を従兄弟とともに設立。1998年、独立して株式会社レキサスを設立。Web/クラウドサービス/スマートフォン向けアプリケーションの企画・開発・販売事業および投資・インキュベーション事業などを手がける。また「人材育成を通して沖縄県経済の自立と発展を目指す」という大きな理念のもと、沖縄県内の人材育成に取り組む。2008年より、沖縄の次世代リーダーを発掘し育成するために、人財育成プロジェクト「IT frogs(現Ryukyufrogs)」をスタート。沖縄県内の学生を対象に、起業家精神の形成、及びグローバル視点研修や各種技術研修への参加、IT産業の世界的中心地・シリコンバレーへの派遣などを実施。2017年9月に人財育成事業部門が独立。「株式会社FROGS」となる。
松浦由佳さん
公益財団法人五井平和財団 ネットワーク担当
「白光真宏会」会長代理。1980年生まれ。幼少時代にアメリカとドイツで育つ。学習院大学法学部卒業。平和について幼少から考え、そのために祈りと対話という二つの軸を大切にさまざまな活動を行っている。2009年からは「Evolutionary Leaders」の一員となりディーバック・チョブラ、バーバラ・マークス・ハバードやリンマクタガードをはじめとするスピリチュアルリーダー、科学者、ベストセラー作家、意識啓蒙家らと共に、意識の力によって変化していく人類の未来、進化の行方について研究している。
渡邉さやかさん
一般社団法人re:terra 代表理事
長野県出身。東京大学大学院修士。国際協力に関心を持ち、大学・大学院は国際関係論を専攻。ビジネスを通じた社会課題の解決の必要性を感じ、2007年に「IBMビジネスコンサルティングサービス(現IBM)」に入社。新規事業策定や業務改善などのプロジェクトに携わりながら、社内で環境や社会に関する(Green&Beyond)コミュニティリードを経験、プロボノ事業立ち上げにも参画。2011年6月退職。現在「株式会社re:terra」代表取締役、その他女性支援やBoPビジネスに関わる組織の理事や、岩手県女性活躍推進委員。2017年4月より慶応大学SDM博士課程。
大室悦賀さん(コメンテーター)
京都市ソーシャルイノベーション研究所 所長
1961年東京都府中市生まれ。一橋大学大学院商学研究科博士後期課程満期退学。1985年東京都府中市入職、2007年京都産業大学経営学部専任講師、同准教授を経て、2015年から同教授。社会的課題をビジネスの手法で解決するソーシャル・ビジネスをベースにNPOなどのサードセクター、企業セクター、行政セクターの3つのセクターを研究対象として全国各地を飛び回り、アドバイスや講演を行っている。著書に『サステイナブル・カンパニー入門:ビジネスと社会的課題をつなぐ企業・地域(学芸出版社、2016)』など。

自立の先にソーシャルイノベーションがある

宝槻今日集まっていただいたお三方は、若手の人材育成やアジア女性の支援などをされています。「ソーシャルイノベーションの未来」がテーマですので、それぞれの活動を通してどんな未来をつくろうとしているのか。良い未来とは何か。そこに対して何かできるだろうかということからお話ししていただければと思います。

比屋根さんは沖縄で若手人材を育成されていますが、事業を通してどのような社会を実現したいとお考えなのでしょうか?

比屋根さん沖縄って国から補助金をたくさん貰っているんですね。だから私たちは「補助金がなくてもやっていけるよね」と言える環境をつくろうと、さまざまなセクターの人たちと取り組んでいます。多様性の中でしっかり人を育て、事業を育て、補助金がなくてもやっていけるような状況をつくることが大切だと思っています。

もう一つ、沖縄で生まれた起業家が世界に出ていってほしいという思いもあります。沖縄は観光地なので、世界から人を受け入れて交流することができるんですね。これからの時代、平和・調和ということが重要になります。だから僕たちは地域を越えた真理というところで、地球人としてどうあるべきか考える、時代に求められるリーダーを生み出していきたいです。そうしたリーダーが日本から生まれたら、世界が日本にこれからのリーダーシップを求めにくるのではとイメージしています。

地球規模で違いを受け入れながら、一方で国もセクターも越えて地球人として一つの目標に向かっていく。そうした未来をつくって子どもたちにつなげていきましょうという動きを地球規模でやっていきたいし、そのために日本人が果たす役割は重要だと思います。

宝槻補助金がなくてもやっていける沖縄について、もう少しお話をお伺いしたと思います。私も父が沖縄の人間で、閉塞感を感じて沖縄から東京に出てきた話や、ウチナーンチュ(沖縄人)としてよりも一人の人間として生きていきたいという話を聞きながら育った背景があります。

比屋根さん補助金はわかりやすい例えで、いわゆる経済的自立をしないといけないということなんです。大学生が親元を離れて大学に通うあいだ、親が仕送りをしたり家賃を補助したりしているときは自立していませんよね。でもその大学生が就職をしたら、たぶん「仕送りはもういらない」と言うと思うんです。

それが自立、自分で稼げるようになることだと考えると、沖縄が国民の税金から毎年いただいているものを「もういらない。自分たちで外貨を稼げるようになったよ。この税金はもっと困っている人やアジアの中の日本の役割のために使ってください」と言えたときに初めて、精神的そして経済的な自立につながっていくのだと思います。

宝槻精神的そして経済的な自立というのは、渡邉さんが普段活動されている領域ともシンクロするかなと思いますが、いかがでしょうか。

渡邉さん状況は異なりますが、精神的そして経済的な自立については「まさに」という感じです。私はこの12月に、フィリピンのマニラから20時間かかるような田舎に行ったんですね。そこに住んでいる少数民族の子どもたちが、他の村の人たちと一緒に6ヶ月間同じ場所に住んで、アントレプレナーシップを学ぶというプログラムがあって、「最後に英語で2分間のピッチをするから見に来てほしい」と言われて。

もうすごいんですよ。もともと自己紹介で名前以外に何を言えば良いかわからなかった子どもたちが、6ヶ月の間に今までにはなかった視点を身につけて、自分の村や自分の役割について考えるように変わっていくんです。

渡邉さんその中で一番良かったと思うのは、彼らが持っている文化的・家族的なプレッシャーを自分の力で破れるようになったことです。彼らのアントレプレナーシップを狭めていたのは、ビジネスモデルをつくる難しさではなくて、「農家の息子だから農家にならなきゃいけない」「大学を出たから村の行政に入らないと」というプレッシャーだったんです。

でも違う民族と6ヶ月暮らす中で、自分のこと、自分のやりたいことを語れるようになった。これは精神的・経済的な自立の第一歩だなと思うんですよね。親に言われたことに初めて反対したという経験はすごく大きいから。地球規模で自分を見つめ直す時間を持つことの大切さを感じますし、イノベーションの根本は自分の中にあるプレッシャーへの殻を破ることなのかなと思います。

宝槻そうですね、セッションのテーマに「ソーシャルイノベーション」と冠がついていますが、イノベーションは社会からではなく一人ひとりの内側から始まるんですよね。松浦さんは平和財団で活動されています。心の平和が世界の平和をつくるという意味で通ずることがあるんじゃないかと思いますが、どうでしょうか。

松浦さん比屋根さんと渡邉さんのお話に共通していると思うのが、これからは「一人ひとりがリーダーになっていく時代だ」ということかなと。一人のリーダーに頼って生きていくのではなく、一人ひとりが自分ごととして平和を考えたり、自分の人生を築いたり。そのプロセスの中で、まず自分の固定概念や常識を壊すことから始めないといけないんじゃないかと感じます。

多くの人が「女性はこうあるべきだ」「大学に行ったらこうしなきゃいけない」と、疑問を持たずに答えだけを鵜呑みにしてしまっている。そこから立ち上がり、自分で考えて自分らしく生きること、それが一人ひとりがリーダーシップを持つ世の中なんじゃないかなと共感しました。

あるべき民間と行政の関わり方

大室さんソーシャルイノベーションは外にあるもののように捉えられるんですけれど、完全にマインドの話なんですよね。自分という社会、自分という世界そのものをどう変化させるかという話以外の何者でもありません。

私は前々から比屋根さんに聞きたいことがありまして。新しいイノベーションの動きを行政と一緒にやり始めると、尖らないプロジェクトになる、もっと言うと、行政システムの中に取り込まれて行政のマインドセットに変わってしまう怖さを感じることはありませんか?

というのも補助金も含めて、関わらない選択をする方が正解だなといつも思っていて。イノベーションはマインドの話なので、行政を巻き込むとマインドに影響が出てしまうのではないだろうかと考えているんですね。

比屋根さん僕たちは民間がやるプログラム領域と、行政にお願いするプログラム領域は完全に分けるようにしています。例えば、僕たちが実施しているトップガンのプログラムを高度化しようとしたら、入ってくる子どものレベルを一定以上にしたらいい。そして行政にボトムをお任せする役割分担はあっていいかと思います。

ボトムを広げることは、子どもたちにとってもチャンスになりますしね。いかに民間のプログラムの質を上げるために、行政がサポートするシステムを民間主導で一緒につくれるかがこれからのチャレンジです。あと行政の中にも起業家マインドを持った人がいるので、そういう方が担当になったら、最大限仕組みの中で闘ってもらって一緒に頑張りたいですね。

渡邉さん私たちも政府系の機関とイベントをすることがありますが、役割分担はしています。「ここからは干渉させない」というラインを決めないと、コミュニケーションだけで疲れ果ててしまうこともありますし、表面的になっちゃうんですよね。

最近難しいと思っていることが、マインドセットのチェンジをデータで見せにくいことです。「たった5人のマインドセットが変っただけでしょう? 300人の雇用をつくるのとどっちがいいの?」と300人の雇用にお金が流れるわけで。でもマインドセットが変わると、例えばその5人が各村に帰ってその先でもっと変わる未来は見えるけれど、お金はつきにくいという難しさがあるのを感じています。

特に先ほどお話ししたフィリピンのプログラムはインキュベーションだったのでお金がつきにくくて、どうしたらいいかなと考えながら帰ってきたところです。民間でサステナブルに回せるプログラムがつくれたらいいんですが、そうではない場合、行政にどう見せるのか。

内部にアントレプレナーシップを持った人がいない場合に、とても綺麗なレポートに終わってしまい、現場のパワフルさや感動が伝わらないのでもったいないなと感じています。持続可能にするために、どうお金を集めていけばいいのかは模索中です。その一方でお金を集めるにしてもフィロソフィーが合わない人からは断ることも大事だと思いますね。

大室さんそこを外すとぶれてしまいますよね。自分のフィロソフィーに対して何百億円投資されても、拒否する選択肢がないと、結局信頼を失っていくことになるんじゃないかと思います。お金ではなくて、そのものがすべての基準になっているとわかると、経済は変わっていけるのかな。たぶんその辺が一つの大きなポイントかなと思っています。

最近、沖縄は開業率も全国で1位になり頑張っていますが一方で、自立する沖縄を目指すにあたり「せっかくもらえる補助金を捨てるのか」という反発はありませんか?

比屋根さん色々な考えの方がいるので。ただ僕は僕がやりたいことをやっていくだけです。戦後から莫大なお金をつぎ込まれても未だに自立したと言えない状況だから、これ以上もらい続けても変わらないという未来は確実に見えています。だから「補助金はなくていい」と言える状況を、30年、50年かけてつくっていかないといけない思います。先ほどの行政と民間の話でいうと、将来的に行政機能は弱くなり、民間主導で変えていけることが増えると思うんですね。

民間主導でいくために僕は二つのことが必要だと思っていて、一つは子どものうちに起業家マインドを身につけること。マインドが身についていれば教員でも公務員でも政治家でも現場から変えていく人が相対的に増えていきます。

そしてもう一つは、時間軸のとり方の変化。2~3年では変わらないことも、10年、30年という時間軸を準備すれば、起業家マインドを持つ子どもを輩出しようという状況もつくれるのではないないでしょうか。キーになるのは人なので、みんながそれぞれの場所でもっとこうした方がいいと動き出せば、ソーシャルイノベーションという言葉はなくなるはずなんですよ。

すると行政の力は借りなくてもいいと言えるくらいのお金を、ビジョンやメッセージを発信することで何億円単位で集められると思います。人材育成こそ日本が最もやるべき投資なんじゃないですかね。

価値観は違っていい。同じ方向を向いていることが大切。

松浦さん今一つ注目している動きがあって、友人が海外で「フェイリアクラブ」という活動を始めたんです。何かというと、普通みんな「やってみたいけれど失敗するからできない」とか、「どうせ僕なんかできない」とか言ってしまうことを、全力でみんなで応援しようというクラブで。

「絶対失敗するってわかっているんだから、とりあえずやってみようよ」と背中を押すんです。例えば、あるおばあさんが「本当は絵の先生になりたかった」と言って、でもお金もないし生徒もいないわけです。そのような状況の中で、みんなが「うちの学校のクレヨン貸すよ」「うちの子どもたちを生徒として連れていくよ」と、お金ではないけれど人と人とのつながりの資本から失敗を始めるんですね。

「失敗してもいいんだ」というマインドセットから、いろいろなストーリーが生まれていて。「失敗が怖い」「お金がない」などの理由で踏みとどまる人は多いけれど、「フェイリアクラブ」には一歩を踏み出すヒントがあるんじゃないかなと思います。

比屋根さん「Ryukyufrogs」でも、子どもたちに「たくさん失敗しなさい」と言うんですね。失敗は成長のために必要な体験だからとメッセージを出しつづけることって、すごく大事だなと思います。

渡邉さんその通りですね。先ほどの大室さんのお金のお話に関連するのですが、私は今年すごく当たり前のことに気付いたんです。例えば財団から「100億円の補助金を出せる」と言われて100億円を取りにいくと、100億円のことしかできないんだって。でも100億円のためにやっているのではなくて、「私はこれがやりたい。それを実現できたらいい」と思っているわけで、そこに値段はつけていないはず。

でも「お金がある」と言われると、お金の枠にはまっちゃうなと。結局財団にお金をもらいにいくと、力関係ができてしまうんですよね。だから「まずは自分が楽しくやることが大事」ということに気付いて。自分の思いが明確になり大きくなっていくと、それだけサポートも大きいものがくるんじゃないかなと。そうすると失敗も怖くなくなるのかなと思います。

宝槻大室さんの「尖ったものを尖らせたままにすると」いうのはキーワードで、それがまさにイノベーションですよね。尖らせたままにするには、失敗を恐れない心やビジョンと違うものは断っていく強さや軸が必要だということ。みなさんのお話を聞いて思いました。

比屋根さんは、時に補助金を断り、イノベーターマインドのある担当者からそうでない人に変わった場合、潔く取り下げようという姿勢でいらっしゃいますが、その強さはどこからやってくるのでしょうか。

比屋根さん楽しくやりたいから。価値観の違う人とやると疲れますよね。それよりも小さい動きかもしれないけれど、同じ価値観の仲間と頑張りたいなと。価値観が同じならセクター関係なく「一緒にやろうよ」と声をかけますし、違うなら「できませんね」となる。

宝槻価値観の違う人と対話をして、乗り越えていこうという発想はない?

比屋根さん価値観という言葉が違ったかもしれません。要は同じ方向を向いているかどうかが重要だと思っていて、立ち位置や役割はみんな違っていいと思うんです。だけど反対方向に向かっている人に「ここに向かおうよ」というのは違うし、労力がかかるなと思うんです。

宝槻行きたい方向が同じなら、価値観は違っていいということですね。だから今、比屋根さんがやっていることもおもしろい動きになっているんだと思う。子どもに対しても、こうあるべきを押し付けるのではなく、最低限のルールがあるだけで「何をやってもいいよ」というスタンスですよね。

大事なのは価値観ではなくて、どんな未来を見ているか。こんな沖縄にしていきたいよねというのはあるけど、そこへの行き方は何万通りもある。どう行こうが自由だけど、同じところを目指していて、もし「Ryukyufrogs」が一つのチャネルになるんだったら協力してよと言っている、そんなイメージですよね。

比屋根さんそうですね。ビジョンを掲げることはすごく大事だと思います。「Ryukyufrogs」の話でいうと、「JTA(日本トランスオーシャン航空)」はお金は出せないけど飛行機を出すなどと物的協賛をしてくださったり、同じ通信会社でも「au」さんはお金を出してくれて、「docomo」さんはイベントを一緒にやってインフラ設備を全部揃えてくれて。それぞれがやれる形でやれる範囲で、無理することなくやっています。

ビジョンがあって関わり方がいろいろあるってこういうことですよね。同じ志で子どもたちに向き合えるか、ビジョンに向き合っているかということを大事にしたら、コミュニティは長く続いていくんじゃないかなと実感しています。

大室さん日本の大企業はCSVが大好きなんですけど、CSVではイノベーションを生めないんですよね、実は。「Creating Shared Value」、シェア共有された価値を創造しましょうって論理的に考えるとおかしい。あくまで戦略としてお金儲けをしましょうと言っているだけの話なので。

本当に大切なのは、価値じゃなくてビジョンなんですよ。日本のNPOって実はミッションはあってもビジョンがない組織が多くて。そこは日本のNPOの弱いところかなと思います。

曖昧さがイノベーションを生む

大室さんもう一度、比屋根さんにお戻ししたいんですが、おそらくビジョンといっても具体的なビジョンではないですよね?「沖縄が元気だったらいいな」「世界がもっとハッピーだったらいいな」くらいの抽象度の高いものでないと、コラボレーションできないと思いますが、その辺はいかがですか?

比屋根さんそうですね。「Ryukyufrogs」のサイトには思いや向かう方向、沖縄はこうあるべきじゃないかということをいろいろな形で書いています。がちっとしたものというよりは「なんかいいね」「そうだよね」という感覚になるんじゃないかと思います。行き方もいろいろあるし、会社のステージや個々のライフステージにもよるので、「こうあるべき」よりも「ここの向かうとワクワクしませんか」という出し方が大事なんじゃないかなと思います。

宝槻松浦さんはまさに、さまざまな文化背景のある方たちと、平和や調和などのビジョンでつながる活動をされていますよね。

松浦さん平和がテーマになると難しいところもあります。戦争をするのも平和のためと言えるので。平和という言葉には多様性があります。私が感じている流れとしては、今までは自分を犠牲にして周りのために動く人か、他人はどうでもいいから自分のために動く人のどちらかだった。でも今では少しずつ昔の「三方よし」のように、自分も周りも社会も良くしていこうということを大事に生きている人が増えているように思います。国・文化・宗教を越えて活動している人たちはつながりやすいですし、一緒に動いていきやすいですね。

大室さん「ビジョン」と言うとき、どんな絵を描くかがすごく大事ですよね。戦争の話もそうですけど、「平和」と言うときの「平和」ってどんな絵なのかなというのは逆に聞いてみたくて。その「平和」の概念ができれば、戦争も選択肢の一つになるかどうか判断できます。

日本のNPOや海外のNGOを見ていると、最初から選択肢がないところが多くて。例えば地域を元気にしたいという思いで活動しているのに、地雷を除去する選択しかないとか。そこがミッション、使命という言葉のいたずらになるのかなと思うんですけど、選択肢をどんどん狭めてしまっていますよね。マインドの話も出ていましたが、NPOが自分たちで壁をつくっちゃうってよくあるんです。

松浦さんの話に少し戻すと、大学生に起業家教育って難しいなと感じていて。極端なことを言うと、本当に起業家になりたい人ってアルバイトもしたらダメだと思うんですよね。ぶら下がったら、そこに居るだけでも楽にお金をもらえることを覚えてしまうから。一度マインドができあがってしまうと変化させることは厳しいと、大学生と一緒にいて感じています。

何が言いたいかというと、イノベーションは抽象度の高い絵を描けるかどうかなんですよね。ソーシャルって実は曖昧な言葉で、社会ってみんなそれぞれに違う絵があるじゃないですか。だから「ソーシャルイノベーションの未来」と言ったときに、「曖昧なイノベーションの未来」と訳してみるとおもしろくならないかな。

イノベーションってロジカルなものだと日本人は思っているんですけど、実は曖昧。先ほどから尖ったままと言っているのは、曖昧なまま残せるかだと思っていて。でも多くの人たちはその曖昧さを許せないんですよね。特に西洋の方は。だからアジアが頑張れるかどうか。渡邉さんの動きも、そうなのかなと聞いていました。

渡邉さん「曖昧さ」って、確かに大事かもしれないです。先ほどのフィリピンの事例でいうと、はじめ彼女たちは「村のために何かする」という以外に選択肢がなかったわけですよね。でもソーシャルイノベーションが何かもよくわからないまま6ヶ月違う村で過ごして、彼女たちは変われた。それはぶら下がってなかったからだと思うんです。

「この村のために何とかしなくちゃいけない」「親が夜逃げしたから妹と弟を食べさせないといけない」と自分を犠牲にして生きてきたけれど、自分を大事にしないといけないことに気付いた。そうすると、尖る尖らないじゃなくなって、自分の信じるものに向かうという面があって。それが曖昧さなのかわからないですけど。

そのプログラムはソーシャルイノベーションはこういうものだよ、こうあるべきという内容はまったくなくて、「あなたは村のことをどう思っているの?何を大事にしたいの?」と問うものだったんですね。すると自然と彼女たちから「今まで地球儀の中のこの村だけのことを考えてきたけど、他にもできることがあるんだ」と気付きが生まれて。その上で、「村の課題を解決したいんです」というよりも、村の人同士が「なんかできたらいいね」「やりたいね」と話すのはとても説得力がありました。

課題よりも「やりたい気持ち」が共創の可能性を生む

大室さん課題から入るかやりたいから入るかって、すごく違いがありますよね。課題にとらわれるのではなく、「どうしたいのか。私はこうしたい」という課題設定の方がイノベーティブな動きが出てくるんじゃないかと思います。比屋根さんはそちら側の設定な気がしますが、いかがでしょうか?

比屋根さん「Ryukyufrogs」に課題はなくて、「あなたの身の回りで関心を持ち、熱意を込めてやってみたいことは何ですか?」と問うています。例えば、足の不自由な家族がいて、車いすでも行ける階段のないお店を増やすためにサービスを考えたとか、耳の不自由な子と親のコミュニケーションを見て、それをサポートする仕組みを考えたとか。その方が課題を与えるよりも自分ごとになるんです。だから「やりたい」というのは大事ですよね。

松浦さんそれで思い出すのが、レイチェル・レーマンの「3つの捧げ方」という考え方です。それによれば、誰かを「助けよう」とするとき、どこかで相手を弱い存在としてみる対等ではない関係性が生まれていて、でも「奉仕しよう」とするときは対等の関係性の中にあり、「co-creative possibility」がある。つまり、共創の可能性が存在しているということです。

そうしたものを探すと、誰が尽くしていて、誰がやっていてではなく、本当にやりたいことをみんなが共にやっていく、共創が生まれる可能性を秘めていますよね。課題や問題って、その意識自体がその概念をつくり上げてしまっていて、反対に尽くす、何かさせていただくっていう意識は、上下関係や共創が生まれるというのが好きで、そこにもつながるのではと思います。

比屋根さん自分がやりたいと思ったものは、人の共感を呼びやすいんですよね。心の底からそれをやっていきたいという思いが、周りに伝わるんです。それで「僕はこんなことができるよ」と巻き込めることにもなる。先ほどのビジョンと似たような質感があると思います。だからそれは重要で、小さい頃からそうした感性をもとに行動する、人を巻き込む経験をしている人が増えるといいですよね。

渡邉さんとはいえなんですけど、私はビジョンないかもしれないと思って…(笑)。私は結構、ビジョンをもってやっている人を応援したいと思う方だから、「私のビジョンってなんなんだっけ」ってふと思うこともあるんですよね。自分はどうなんだっけと思って聞いていました。

そんな中でひとつ思ったのは、私が訪れたインドネシアのある田舎で、村のお母さんたちが手作業でカゴをつくっているんですが、その方々がある起業家の采配によって、「JAL」のビジネスクラスの搭乗者向けにカゴを売っているんですよ。でも日本は品質チェックが厳しいから、100個送って40個リジェクトされることもあって、お母さんたちはショックを受けて。

初めて出会う大きな資本主義に困惑してしまうんですよね。そのとき私は、「あえて『JAL』のビジネスクラスで売る必要あるんだっけ」と思ったんです。「やりたい」という気持ちでカゴをつくり始めたけれど、資本主義に出会ったときに「やりたい」から「やらなくちゃ」になると思って。

起業家としては儲けないといけないから、売り先として「JAL」を開拓したと思うんだけど、お母さんたちにとって良いことなのかというのは悩むところです。「やりたい」気持ちが、自分ではどうしようもない大きな力によって潰されることもある。社会ってどうあったらいいのかなと、最近多くの起業家に出会って悩むんですよね。

起業家精神を持つことは大事だし、それが地域を変えていくパワーにもなるけれど、多くの問題がある社会システムに出会ったときに、私に何ができるだろう、見守ることしかできないのかなと考えてしまいますね。

比屋根さん課題の先に「なりたいもの」があると、その人が、そう思うんだったら何かやると思うんですよね。それが起業家だから。少しやってみて無理そうだから諦めるにしても、やらない選択をしているということ。今しかないし、やらないといけないという思いが強ければ、きっといろんな人を巻き込むか、やる。

それがまたその人のエネルギーや学びになっていくから、ほっといていいんじゃないですか。何か言われたらサポートするし、私たちが持っているリソースでできるヘルプをしてもいいですけど。

渡邉さんほっといてもいい、わかります。でもその後、「やりたい」と思ったときにリソースをつないであげるってすごく大事だなと思って。インドネシアの村の人たちの視野が広がったときに、その視野に必要なリソースを100%は提供できないけれど、取りに来てくれるなら準備しておくのが、まさにできることなのかな。

最近、起業家教育がよく分からなくなってきているんです。マインドセットにプラスして頑張れって応援するだけみたいな(笑)。必要だったらリソースを持ってくることしかできなくて。頑張れ、頑張れと過保護にすると、手放したときにアジアの女性起業家たちが自走できないというのが、私の3年間の反省なんです。

だから自分を囲んでいる壁を突破するきっかけづくりとして何かできたらいいですし、そのきっかけを次につなげる用意を持っていられるようになれたらいいなと思います。私は、コミュニティで頑張る起業家たちが何か大きな資本主義に飲み込まれてしまうんじゃないかと心配になったりするので、辛抱強く待つことも大事だなと思いました。

「ソーシャルイノベーションの未来」とは曖昧なイノベーションの未来

宝槻ではそろそろラップアップに入って行きたいと思います。「ソーシャルイノベーションの未来」をテーマに話を進める中で、みなさんの異質なものを受け止める力や見守り力を実感しました。そして何かアドバイスしたり提供したりするよりも、本当にそこに共にあるということ、その人が持っているマインドセットの枠組みを越えていくためのサポートをしていることがしっくりきました。

ソーシャルイノベーションといった途端に、正解があってそこに当てはめていくような形の窮屈さを感じていたんですけれど、「曖昧なイノベーションの未来」という表現はすごく魅力的でかつその曖昧さをホールドする胆力が求められるなと感じました。最後に、みなさんから一言ずついただいて、このセッションをお開きにしようと思います。

松浦さん今日はありがとうございました。ソーシャルイノベーションとは何か? 曖昧なイノベーションという話にもなりましたが、やはり自分ごと、自分から始まることしかないと思います。「何のためにやるのか、何が自分の幸せなんだっけ」ということをもっと自分の中に深く問いを持たないと飲み込まれてしまうし、飲み込まれたときに生き抜く力、苦しいときに乗り越える力や意識、つながる強さを私は大切にしていきたい。そこから始まるんじゃないかと常に思っています。

比屋根さん「曖昧って何だろう」と考えると、劇的に変わっていく未来に対して適応していくプロセスそのものなんだろうと思うんですね。だからこそ変わりつづけなければならない。その中で必要なことって、僕は人だと思います。常に変化する未来に適応する、あるいは0.5歩先に対して仕掛けていける人材をどれだけつくれるか。社会人になってから変えるのは難しいと思うけど、次の世代に対して、そうした価値観や行動を学習していく環境を、大人も一緒になってつくっていくことが未来そのものなんじゃないかと思います。

重要なことは、当てはめるとか押し付けるとかではなくて、一人ひとりの価値観や個性をいかしに伸ばしていくか。ビジョンがあって、そこに向かう中に自分の輝ける何かがある人はより幸せだと思うんですね。そういう未来に、社会構造に、あるいは資質を持った人で溢れる未来を日本からつくっていけたらいいなと思います。ありがとうございました。

渡邉さん現代社会において、「自分の好きなことって何だっけ」とか「オーナーシップを持つって何だっけ」ということを放棄した方が楽にというか、生きやすくなってしまっている気がしているんですけど、そこを掘り起こすと、もっと自分の好きなことがわかるし、「これやりたい」と言えると思うんです。

私がアジアの途上国と言われる地域に惹かれているのって、良くも悪くも持ち込まれた「こうあるべき」というものがないからなんです。あるとしても文化的・伝統的なもの。大きな資本主義の中ではこう生きるべき、会社の中ではこう生きるものだということがないんですね。だから「これやりたい」ってみんな素直に言えるんです。

タイの農家さんが「政府から指定された化学肥料を使って米をつくりなさいと言われてつくったけれど、僕は幸せじゃなかったからやめました。むしろやめたら収入が上がったし、僕は健康にもなったし、家族も喜んでいます」って言うんです。人間ってプリミティブには強い何かを持っていて、本能的に判断できる気がしていて。

タイの農家さんにとっては、農家として誇りを持って仕事をしたら、政府の言いなりになることをやめるのは当たり前だったんですけれど、外から見たらイノベーションみたいなことが起きていて。私たちは勝手にイノベーションと呼んでいるけれども、現場で自分に素直に生きてみるといろいろなことが起きていて、それを大事にしながらグローバル社会の中でどうやってつながっていけるのかなと日々考えています。

大室さんやっぱり誰しも、失敗したくないんですよね。僕は「昨日と今日と一個違うことをやろう」と、よく学生に言うんです。降りる駅を変えるとか、電車に乗る時間を変えるとか、箸を持つ順番を変えるとかってことをしばらくやると、変化が怖くなくなってくる。「何をやったらいいかわかりません」という学生が、違うことを少しずつやるうちに、「私はこうしたい」と言い始めるんですね。

だから、すごくしたいことがあるって素敵だなと、今日みなさんのお話を聞いて改めて思いました。「やりたい」という視点で生きられる人が一人でも増えたら、日本はもっと良い国になるんだろうなと思います。ありがとうございました。

宝槻それでは今日は長い時間ありがとうございました。

この記事は、ミラツクが運営するメンバーシップ「ROOM」によって運営されています。http://room.emerging-future.org/

次回ミラツクフォーラムに参加を希望される方は、ミラツクが運営するメンバーシップ「ROOM」にご参加ください。ミラツクフォーラムは、メンバー向けの招待制の会として開催されます。
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NPO法人ミラツク では、2016~2019の4年間でミラツク年次フォーラムにおいて行われた33のセッションの記事を分析し、783要素、小項目441、中項目172、大項目46に構造化しました。詳しくは「こちら」をご覧ください。
北川由依 フリーライター
京都で暮らすフリーランスのライター。中小企業やNPOの広報・PR支援をしています。関心の高いテーマは、「食」「ものづくり」「人や組織の関係性」など。人や企業、地域のコミュニケーション領域で活動中。つくる人と食べる人。過去と現在。海と山。言葉を通じて、あちら側とこちら側をつなげたらいいな。