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空間で何かが混ざり合う「共創」によるイノベーションと場のデザイン

フォーラム

空間と場の中で何かが混ざり合い、何かが起こる。ミラツクでは、そうした現象を「共創」と呼んでいます。その「共創」によるイノベーションと場のデザインについて、本木時久さん、鳥屋尾優子さん、高嶋大介さん、下河原忠道さんに語っていただきました。

会場は、下河原さんが運営する高齢者向け住宅「銀木犀」。まるで“センスのいい知り合いの家”に遊びに来たかのような、人を和ませる空間デザインが特徴です。まさに“場の力”があったのではないでしょうか。温かみ溢れる空間で、興味深い意見が交わされました。ぜひご堪能ください。

ファシリテーターは、ミラツク代表・西村です。

(2017年4月に開催されたフォーラムをまとめた記事です)
(写真撮影:工藤瑞穂)

この記事は、ミラツクが運営するメンバーシップ「ROOM」によって取材・制作されています。http://room.emerging-future.org/

登壇者プロフィール

本木時久さん
生活協同組合コープこうべ 執行役員
(2018年6月25日より、日本生活協同組合連合会 生活用品事業本部 本部長)
福祉事業部を担当。また、子会社2社の取締役を兼任。大学卒業後、1989年に「灘神戸生活協同組合(現コープこうべ)入所。宅配の現場を経て、宅配事業の改革に2010年まで従事。夕食サポート事業「まいくる」を立ち上げた後、2012年より組織改革「次代コープこうべづくり」を担当。創立100周年となる2021年のビジョンとして「社会的課題を解決する事業体のトップランナー」を掲げ、生協価値の再構築を推進している。
鳥屋尾優子さん
ワコールスタディホール京都 館長(2018年3月31日時点)
(2018年4月1日より、株式会社ワコールホールディングス ダイバーシティ・グループ人事支援室 副室長)
「株式会社ワコール」入社後、経理・財務部門に配属。その後、広報部門にてワコールの社外向けPR誌の編集、社内報の編集に携わり、多数の文化人、学者、 医療従事者などへのインタビューを実施。「ワコール」の経営者や社員、世界で働く「ワコール」の仲間への取材を通じて「ワコール」に根付く経営理念を体感する。その後、宣伝部門でPR・企業広告制作業務に従事。広報・宣伝を行うPR部門とCSR活動や情報開発を行う宣伝企画部門の課長を経て、現職に就き、「ワコール」が2016年10月に京都駅前にオープンした、美をテーマにした学び場「ワコールスタディホール京都」を立ち上げる。
高嶋大介さん
富士通株式会社 ブランド・デザイン戦略統括部 デザインシンカー
大手ゼネコンにて現場管理や設計に従事後、2005年に「富士通株式会社」入社。ワークプレイスやショールームデザインを経て、現在では企業のワークスタイル変革や自治体の将来ビジョン、地方創生のデザインコンサルティングなどを担当。「社会課題をデザインとビジネスの力で解決する」をモットーに活動中。「HAB-YU」を軸に人と地域をつなげる研究と実践を行う。富士通グループは、大田区の「FUJITSU Knowledge Integration Base PLY(通称PLY=プライ)」や、浜松町の「FUJITSU Digital Transformation Center」など、「共創」の場を広げている。
下河原忠道さん
株式会社シルバーウッド 代表取締役 
1971年生まれ。1992年より父親の経営する鉄鋼会社に勤務し、薄鋼板による建築工法開発のため、1988年に単身渡米。「スチールフレーミング工法」をロサンゼルスのOrange Coast Collegeで学び、帰国後2000年に「株式会社シルバーウッド」を設立。7年の歳月をかけ、薄板軽量形鋼造「スチールパネル工法」を開発し特許取得(国土交通省大臣認定)。店舗・共同住宅等へ採用。2005年、高齢者向け住宅を受注したのを機に、高齢者向け住宅・施設の企画開発を開始。2011年、千葉県にてサービス付き高齢者向け住宅「銀木犀<鎌ヶ谷>」を開設。介護予防を中心に看取り援助まで行う終の住処づくりを目指し「生活の場」としてのサービス付き高齢者向け住宅を追求する。「一般財団法人サービス付き高齢者向け住宅協会」理事。

本質的な地域の価値ってなんだろう?

西村今日はミラツクのアワードの方たちとセッションをやろうと思っています。アワードとは、一緒にお互いの価値共創ができる方にミラツクから贈りたいと思っているもので、横のつながりをつくっていきたいという思いもあります。今日お越しいただいた皆さんが、そういう方たちです。

本木さんとは2014年から、ソーシャルデザインを軸としたプロジェクトをやらせていただいています。ちょっと今までと違う、中だけを変える変革ではなく外も含めた組織変革に取り組ませていただいています。

高嶋さんははじめ、地域の新しいワークスタイル、ライフスタイルを調査しようというところから始まりました。こちらで調査して渡すような形ではなく、一緒に各地へ行き、一緒に取り組んできました。

そしてワコールの鳥屋尾さんとは、クリエイティブな学びが生まれる空間の調査とコミュニティ開発をしています。これまで組織変革と調査って別々の話だったんですね。でも実際に調査した内容を元に実験的に取り組むところまでやったほうがおもしろいので、それを一緒にさせていただいています。

3人の方からそれぞれ活動のお話をしていただいたうえで、2016年のミラツクアワード受賞者である下河原さんに入っていただいて、4人で話したいと思います。

本木さん「生活協同組合」とは何か、というところからお話しします。「生活協同組合」って、実は農協や漁協が兄弟のようなものなんですね。主体が誰かというと、出資しているいわゆる組合員です。

「生協運動の父」といわれる賀川豊彦という人が二十歳くらいのときに神戸のスラム街に入り込んで施しを与えたのですが、当時は大正時代で世の中が荒れているときですから、いくら与えても結局もらったものがなくなったら、また「くれ」という話になる。そこで「この人たちが自立的に変わっていく仕組みをつくらないと」と説き、日本で最初の消費生活協同組合として、「灘購買組合」と「神戸消費組合」(後に合併し、現在の「コープこうべ」)ができました。

現在は全国で生協が550くらいあって、組合員も3000万世帯くらいいるので、事業規模としては3兆円を超えています。でも、「コープこうべ」に関しては供給高が落ちてきているんですね。バブルが弾け、阪神淡路大震災もあって、そこから坂を転げ落ちるように下っていきました。

忘れもしませんが、2012年1月にそのときのトップに「なんとかしなければならない。あなたは40代で若いから、考えてやってみてくれ」と無茶振りをされ(笑)、組織を見つめ直しました。いつの間にか、手段が目的化してしまっている。「もう一度根本的に原点に戻そう。もう一度、社会課題を解決する事業体のトップランナーになろう」と考えたんです。

結果として功を奏したのが、ワールドカフェから始まる職員同士の対話でした。集会をやって、みんながハッピーな顔になったんです。社会活動家や行政、地域の方など、いろんな方とコラボをさせてもらいながら、つながりの輪を広げていこうとしています。

「お店の空いているところで私はこれを教えるのをやりたい」とか、「子ども食堂をやりたい」、「買い物に来た高齢者を少し手伝いたい」などの主体的な声があがるようになりました。

求められること・したいことをどうやって実現させるかということと、社会のためにという根本的なものをどう引き起こすか、取り組んでいます。

西村ありがとうございます。次は、高嶋さん。

高嶋さん2014年9月に、六本木一丁目に「HAB-YU」という施設をつくりました。どんな施設かというと、人(Human)と地域(area)と企業(business)を結んで新しい価値をつくることが理念です。どういう風に未来を描いていくか、企業や自治体が悩んでいるところを一緒に考えさせてもらったり、どうやって都市と地域を学ぶかという活動をしたりしています。

当初は「コトづくりの場所」です、とつくったんですけど、企業とのビジネスに活用できるのは見えていたのですが、それ以外でどう使っていいか僕らも分からなかったんですね。そこでミラツクの西村さんに声をかけました。

大企業を卒業して地域で活動する人を調査することによって、新しい働き方の兆しを見つけたかったんですよね。西村さんたちといろんなところに行きました。ただ地域にフィールドワーク行くだけでなく、そこでいろんなことを聞いている人たちを「HAB-YU」に連れてきて、イベントという形で参加者から意見をリサーチしたんです。

このとき見つけたかったのは、テレワークとかなんとかワークという働き方の型じゃなくて、もっと根本的で本質的な働き方です。根本的に働き方を変えるというのはどういうことか、どんなことをこれからしていかなくちゃいけないのか、西村さんたちと2014年から15年にかけてプロジェクトを行いました。

企業が地域に入ることによって生まれる、本質的な地域の価値ってなんだろう、これを探したいと考えています。

鳥屋尾さん「ワコールスタディホール京都」は、京都駅の目の前にできたワコールの新京都ビルの中にある施設です。新しいワコールの新規事業として、美をテーマにした学びの場となっています。ライブラリー、コワーキングスペース、カリキュラムをするスクールなどがあるスペースです。2016年秋にオープンしました。

ワコールは「世の女性に美しくなってもらうことによって広く社会に寄与すること」を理想と目標とし、70年間事業をしてきた会社です。下着というものを通しこれまで女性の美しさを応援してきましたけれども、この「ワコールスタディホール京都」は下着を提供するその周りの価値観だけではなくて、もっと心に寄り添い、学びを通して女性を応援したいと思って起こした事業です。

ずっと、西村さんって会いたい方の1人だったんですよ。私は(ワコールスタディホール京都の)空間はオープンしてから使ってくれる人と変えていかないといけないと思っていました。西村さんがオープンの3日前ぐらいに見学に来てくださって、西村さんにその話をしたら、クリエイティブな学びの空間というプロジェクトの実験的なお話をしてくださって、ぜひ一緒にやりたいという話になりました。場は空間だけでは成り立たず、そこに入る人によって完成するからオープン後、12月にシンポジウムをして、2月からワークショップをする流れになっていて、本当に出会えて良かったと思っています。ありがとうございます。

西村次に下河原さんに話をしていただいて、ディスカッションしようと思います。

下河原さん今日皆さんにお越しいただきました、ここ「銀木犀」という高齢者住宅を運営しています。

僕たちは、建築の力を信じているんですね。必ず木を使うようにして、全館ヒノキの無垢のフローリングです。従来の高齢者施設は、常にリスク対処、リスク管理、安心安全ということが過剰な状態で、私はそういうのは嫌だったので、業界のこれまでのルールを無視してつくっています。

高齢者や職員を集めて、それで高齢者住宅を運営するのではまだ未完成で、子どもたちや地域住民が普通に中に入って来て、それで初めて運営がスタートするんだと気づきました。

よく「月額費用が高いんでしょう」と言われますが、月額費用は16万円ぐらいで、一時金はゼロですし、敷金・礼金もいただいていません。どの「銀木犀」にも、駄菓子屋さんを必ず設置しています。ある月の売り上げが月50万円だったんです。びっくりしました。ちなみに店番は「銀木犀」の住民が行っています。

お祭りとかも、しょっちゅうやっています。高齢者施設だとどうしても高齢者を喜ばせるためのお祭りというスタンスで、認知症や要介護状態の人たちは「お世話をしてあげる人」という前提なんですよ。
僕はお世話をするだけの人だとは思っていませんから、認知症のある人や要介護高齢者の人たちが、地域住民をおもてなしするためのお祭りとして、準備から運営までお手伝いしてもらっています。皆さん喜んでやってくれるし。

また、なるべく医療的な介入をしないスタイルでやっていて、銀木犀での生活では看取りが前提にあります。実際に看取るのは家族ですから、我々は足りない部分をサポートします。
「私は今後どうなるんだろう」って、漠然と不安がある地域住民に、「銀木犀」で亡くなっていくという安心を与えていくことが我々の高齢者住宅の最大の目標と考えています。あとは、認知症がある人と地域住民が普通に接する機会をなるべくつくるという考え方です。以上です。

「居ていい」「自由に過ごしていい」という安心感を

西村ありがとうございます。ここからディスカッションに入ります。空間と場の中で何かが混ざり合うとか、何かが起こることを「共創」と呼ぼうと、そういう考え方で「共創によるイノベーションと場のデザイン」というテーマにしました。高嶋さん、「HAB-YU」が人とエリアとビジネスをつなぐ、空間を活用してできること、空間がないとできないことって何でしょう。空間があることでどういう評価が生まれるのか……。

高嶋さん「HAB-YU」ができて自分たちが一番びっくりしたのが、宣伝は全くしていないのに口コミで広がって、人に来ていただけることです。運営するメンバーが少なかったので、あまり宣伝していなかったんですね。いっぱい来ていただいても対応しきれない(笑)。でも「HAB-YU」に来てくれた人が、別の人を連れてきてくれるので、普段の仕事では会えないような人に出会えるようになっていき、いつの間にか新しいことが生まれる可能性が見え始めています。

場が人をつないでくれて、人が人をつなぐことが、すごく起きているんですよね。
場を持つ意味って、人を引き寄せるという力もあるんだなと思っています。ただ重要なのが、場を使う人、来てくれた人に対して見学案内をするような対応をしていると何も生まれません。一緒に物事を考える人間がそこにいることが大事かなと思ったりしています。

西村案内だけじゃない対応とは、どんな話をしているのか、聞いてもいいですか?

高嶋さん場所のコンセプトを話すときに、その人たちが本質的に何をしたいのかを聞きます。「富士通」には会議室がたくさんあり、何で「HAB-YU」なのか? なんでここでしたいのか? ここでこそやるべきことに対してはどうしたら一緒にできるか? 考えていきます。

西村下河原さん、ここも入居募集の宣伝を全くしていないじゃないですか。実際にどういうことが起こっているのか、口コミで広がっているんですか。

下河原さん駄菓子屋さんをつくるとき、近所にも駄菓子屋さんがあったので、ご挨拶に行ったんですね。「僕たち駄菓子屋さんやろうと思っているんです」と伝えたら、「ああ、よかった」とおっしゃるんです。「なぜですか?」と聞いたら、「もう私は閉めようと思っていたの」と。
でも、閉めると子どもたちの居場所がなくなっちゃうので、すごく困っていたんですって。「そちらでやってくださるのであれば、私は喜んで閉められます、ありがとうございます」と言っていただき、バトンタッチしたんです。

でも、子どもたちがここまで来るとは思っていなかったです(笑)。子どもたちは駄菓子屋さんがなくなると、コンビニでお菓子を買うんですけど、消費税がかかっちゃうんですよね。
うちは営利目的ではないですから取ってないので、安いほうに集まるという。家の中も、入居者の部屋以外は基本的に入っていいよと、制限していないので、子どもがわんさか来るようになりました。

そうすると、お母さんたちが視察に来るんですよ。職員が「どうぞ中に入っていってください」と言っているうちに、ここで持ち込みランチが始まるようになって、近所のお母さん同士で交流しています。

住宅の中で声が聞こえているだけでも「いつもここに人がいる」というそれだけでもいいのかなって。無理に「銀木犀」住民と地域住民を交流させようとすると、福祉的な発想になっちゃうんです。それも違うような気がしていて、自然な形に。

「銀木犀食堂」という、ワンコインで食事ができるというレストランも始めています。そうすると、近所の高齢者たちもここで食事するようになり、地域の人も普通に使う形になっていくのがいいんじゃないかなと思っています。

西村口コミという意味では子どもたちなんですね?

下河原さんそうです、子どもたちです。子どもたちが「銀木犀」と言いまくるわけですよ。「銀木犀って知ってる?」「銀木犀って何?」って。ちなみに、子どもたちの間では「ぎんもく」って呼ばれてます。セーフティーゾーンなんですよね。「ここは居ていいんだ」「誰でもここに入ってきて、自由に過ごしていいんだ」という安心感を与えてあげることが、子どもたちが集まる理由になっているのかなという気がするんです。

すべきことをやりたいことに変えてしまえる人

西村空間は、運営する人によってすごく変わってくるという話がありました。空間全体のリーダーや現場にいる人の理想形を伺いたいんですけど、どんな感じですか?

鳥屋尾さん目的をみんなで共有することにすごく時間かけていますね、チームをつくるときは。目的さえしっかりみんなが握れていれば、どんな行動、手段でも、結果みんなそこに持っていける話なので。最低限のルールとして「これとこれはやめてね」と伝えたうえで「あとは自由にお願い」と言うと、安心して動けるんじゃないかなと今は思っているんです。

自由に動いて、勝手に自分で考えて「こういうことやろうと思っています」と言ってもらえるのが1番いいなと思っています。その自由に動くのも、「やりたいからやりました」は絶対に良くなくて、「やりたいこと」と「やるべきこと」が一致していないといけない。

また、お金、自分の力、仲間の人数などを含めて、自分がそれをできるかどうか。全員が疲弊することにならないよう、「すごいね、やろうか、でもいまはやめておこう、1年後ね、半年後ね」などとコントロールしています。ギブアップする人が出るのは嫌なので、その配分は気にしています。

高嶋さんありがたいことに、「HAB-YU」のコンセプトと自分がやりたいことの方向が一致しているのと、実験的に何ができるのかを探している最中なので、いろいろなチャレンジをさせてもらえています。知らない人から見ると私物化しているんじゃないかとか、思われていないか不安ですけど(苦笑)。

鳥屋尾さん高嶋さんがおっしゃることわかります。私も、本質に沿ったことしかしていないけれども、ただ、そのなかでも自分がやりたいと思うことをやろうと思ってやっているから。でも私がやりたいと思うことばかりやっていると、みんなのスタディールームじゃなくなってしまうので、みんながやりたいことができるといいと思っています。

高嶋さんただ、会社員の方は分かると思うんですけど、意外とみんなやりたいことをやらないんですよね。会社の外ではやっていても。

実は、社内で自分たちのビジネスと関係してできることってすごくいっぱいあるんですよ。「HUB-YU」は自社のものだから、使えばいいんです。でもみんな使わないんですよね。

鳥屋尾さんがおっしゃったように、やっちゃいけないこと、ちゃんと抑えないといけない部分はあると思うんですけど、企業の人は場所があるのに、場を使って何かをするチャレンジってあまりしない。だから、「高嶋さんがやっているならやってもいいんだ」となればいいなと思っているんです。

本木さん組織の改革をやってきて思うのは、「やりたいこと・できること・すべきこと、どれが1番だと思いますか」といろんなところで聞くと、ほとんどの方が「やりたいこと」と答えます。僕も最初はそう思っていましたけど、実は違っていて、本当に力を出せる人って「すべきことをいつの間にかやりたいことに変えてしまえる人」なんです。

僕に「やりたいこと」があって、「これを全部自分でできないから、やってくれよ」と言ったときに、その人はやりたいわけじゃないんだけど、やっていくうちに僕以上にのめり込んでやる人がいるんです。こういう人はものすごく楽しそうだし、成果を出します。こういう人を見つけて育てるほうが早いです。

鳥屋尾さんすごく共感します。やりたい気持ちとやり切る気持ち・力って全然違うんですよね。
今はなんとなく世の中にやりたいことがないといけないという風潮があるように思うので、やりたいことがあるのがいいことで、やりたいことがないというのが良くないとなりやすい。「やりたいことは何?」って聞かれると「やりたいことを言わなきゃいけない」というプレッシャーもあるみたいで、最近はやりたいことを聞かないようにしました。

やり切る力というのは、自分がやりたいという1人の気持ちだけじゃなくて、使命のような「やるべきこと」がくっついていると、やり切れる。後押ししてくれるんですよね、やり切ることを。

社会にとってやるべきこと、会社にとってやるべきこと、来てくださる方のためにやるべきこと……、という相手があること、必要とされていると実感できることって、「自分のやりたい」だけじゃない、支えになりますよね。

西村会社の中にいるからこそ、会社の中にいても壁を突破できるようなことというのはやったほうがいい? 「やりたい」とはちょっと違って、力が出てくる?

高嶋さんそうだと思いますね。結局、やらなきゃいけないことでみんないっぱいになっているんですね。やりたいことがあるけど、やらなきゃいけないことで、やりたいことがやれないんじゃないかなと思っていて、「もうちょっとやりたいことやったら」と思うんです。
自分たちの仕事の外にもっとやれることがいっぱいあるんですけど、みんな枠組みの中で「いかに最大限発揮できるか」と一生懸命考えている。一歩足を踏み出したらその外に出れるんですね、いつでも。

西村なるほど。下河原さんに伺いたいんですけど、ここまでやり切るって、何をもって言えるのでしょう。

下河原さん「最大限をこの中で」という発想は、僕にはないですね。最初から飛び越えていく気持ちで、「そういうことやったら面白くない?」とか「どういう風に地域住民の気持ちを喚起するか」とか、全部が実験的な活動です。

僕は、高齢者住宅で看取りを増やしたいんですよ。もう社会保障費がこれだけ増えていてどうするの? この借金全部子どもたちに回すんでしょう? と。そこをみんな見て見ぬフリしているけど、実は全部、自分ごとの問題なんですよね。

病院で人が亡くなっていくコストと、高齢者住まいで何もしないで亡くなっていくコストでは明らかに大きな差があるし、本人にとっても家族にとっても、満足度も絶対に違うので、高齢者住まいで看取りを増やすことが活動の原動力になっています。

僕は知ってもらいたいんです。「安心して人が死んでいける場所がここの地域にあるよ、大丈夫だから」と。いきなり看取りの話をしても驚かれてしまうので、その活動を地域の人に知ってもらうために、人が訪れてくれるおもしろい理由をつくって、そこでさりげなく伝えていくんです。

今VR(バーチャル・リアリティ)のプロジェクトを進めていて、ある映像は、病院に担ぎ込まれるところからスタートするんですよ。本人はストレッチャーで寝ている状態で、ガラガラと運び込まれているところを寝ながら体験するんです。医者が一緒に走りながら瞳孔をチェックして、集中治療室に連れて行かれ、救急医療の現場で自分に何が起こるのか体験できるVRなんです。

西村そう思った瞬間はいつですか。社会保障の話は、誰かから聞いたのでしょうか?

下河原さん闘病されている村上智彦さんという医師が北海道にいらっしゃって(編集部補足・2017年5月に逝去されました)、2012年まで夕張医療センター(旧・夕張市立総合病院)のセンター長をされていました。夕張は市政が破綻したまちで、高齢者率は40%以上で、日本の行く末そのまんまがあるんですよ。

市の財政難のために公設民営化され、夕張市立総合病院がなくなったとき、地域住民が不幸になったかというと、逆だったんですよ。地域医療を変える活動を実践したんですよね。

彼に会いに行って、「地域医療はまちづくりだ」という話を聞き「下河原くん、これから高齢者住まいはね、必ず鍵になるから。あなたの活動を応援するし、今やっていることを信じて進んでいきなさい」と言われたことがスタートでした。

自分のモチベーションは常に高い状態においておく

西村本木さんは、これはやらなきゃいけないと感じた瞬間って? 誰かに言われたとかじゃない?

本木さんもともとこんな性分です。よく言われるんです、「前職はなんですか」、「どこかでコンサルタントとかされていましたか」、「学生時代に特別な運動されていたでしょう?」とか。どれもないです。「そのモチベーションはどこから来るんですか?」もよく聞かれますが、正直わからないですね。

西村下河原さんは、元は建築の事業をされていたのに、なぜ福祉の事業を始められたんですか?

下河原さんじいちゃんばあちゃんで一儲けしてやろうというやましい気持ちからスタートしました(笑)。でも、やっているうちに見えてくるじゃないですか、逆に社会の教育を受けている感じです。

フィールドに出て初めて課題と直面せざるをえない、認知症とか人の死ぬ場所とか。そういうところで自分が教えてもらっている感じですね。この事業を始めて本当に良かったと思っています。

西村鳥屋尾さんは長年「ワコール」にいらっしゃいますよね。「ワコール」は、ちゃんと頑張る社員が多いというイメージがあるんです。何か新しいことをやろうというより、社会にとってちゃんと良いことをしようという印象で、なんでその中からちょっと変わった鳥屋尾さんのような方が出てきたのかなと(笑)。なんで「ワコール」に入ろうと思ったんですか?

鳥屋尾さん まったく考えなしに入ったんですよ。京都に生まれて、京都の会社がいいなと思って。入社したときは経理財務に配属になり、ファイナンスでお金の運用をしたり。ある程度、財務の仕事もやらせてもらえて、では次の仕事をと思ったときに、異動というよりも、辞めることを考えていました。

ただ、そのときに広報を1回やってみないかと言われ、「わかりました、3年だけ」と言って。そこから会社のことを学んだり、世の中の女性のことをマーケティングで知ったりしたら、めちゃくちゃおもしろくなってしまって、今もいるんです。

それからモチベーションが下がったことがないんですよ。一番怖いのが、自分のモチベーションが下がることです。上げ方が分からないから(笑)。なので、自分のモチベーションは常に高い状態においておくことを必ずやっています。

人から「これをやって」と言われて動く仕事がことごとくできないタイプなので、自分でやりたいことを見つけて、ちゃんとできるというところまで経験を積んで、提案して、その仕事を常にやらせてもらってきました。幸せなことです。

それを見つけるということが、自分の原動力になっているというか。幸いにして、うちの会社は「やりたい」と言うとやらせてくれる社風があるので、応援してもらえています。

西村高嶋さんはモチベーションの上がり下がり、上げ方とか、どうされていますか。

高嶋さん上がったり下がったりしますね。やりたいことをやるしかないですよね。やりたいことしかやらないのが理想だと思うんですけど、残念ながら、組織からやらなきゃいけないことがくる。そこってモチベーションではなく、チームとしてしないといけないから淡々とやるだけです。

昔は会社から言われた仕事を自分の仕事だと思って入ってしまって、それを100%としてやっていたんですよね。でも途中からやりたいことをやりたいなと思って、100+20にして、120%で回したんですよ。

そしたらだんだん、80と20くらいになってきて、自分がやりたかったことがやるべきことになってきたんですよ。80と20になると、不思議とやりたいことが20増えるんですよ。

120%で回すのには変わらない。そうすると、80:20が、50:50くらいまでいくんですよね。やらないと組織が回らないし、ライフワークのところとやりたいところは分けて考えたりもしています。でも、やればやるほど、100が80:20に変わってくるなと感じているので、そういう風にしてモチベーションの高い仕事の比率を増やすとか。

鳥屋尾さん私はやらなきゃいけない仕事をもらったときに、「これをなんのためにやるの?」という目的をすごく深く掘って、そこで納得したら、やりたい仕事に変換できて。やりたいことをやって、その範囲をどんどん増やしていったら、結局自分のやりたいことになっていたなと、話を聞いて思いました。

人がつながるプラットフォームとしてコミュニティを持つ

西村空間に人が集まるというだけじゃなくて、より新しいことをやるときに、自分にない要素やできないところを外部と一緒にやろうとする場合があると思うんですね。どうしたら外部の人とうまくコラボレーションできるか、そこをみなさんに伺いたいと考えています。

高嶋さんそう考えると、「HAB-YU」を通じて人と物事を考えるときは、「富士通」としてやっているので機密性を担保しないといけないと思っていて。程よくクローズされたオープンな共創空間というのがビジネスには活きると思うんですよ。社会に対してオープンで、というのは若干違うかなという気がしています。

僕自身は、基本的に巻き込むようにしています。自分にないものを自分で一生懸命頑張っても仕方がないので、自分よりもっと優れた人など、「この人とくっつけたらおもしろいな」と考えます。そもそも「おもしろい」が原動力なので。

西村その出会いとか交流ってどういう風に生まれているんですか?

高嶋さん港区とのプロジェクトの場合、港区の行政の方がたまたま「HAB-YU」にいらして、「港区にいる人たちと何かできないか。港区の企業だから一緒にやってくださいよ」と言われたんです。本当は、会社は川崎にあるので「あれ?」と思ったんですけど、彼らからみれば、場を持っているところが事業所で、それは港区だと。

「HAB-YU」という場所があるからこそ、そこで働く人たちにフォーカスをして、その人たちをつないでいく活動ができないかと思ったんですよね。その前の自分の課題として、場所はあるもののコミュニティがなかったんです。お客さんと物事を考えていく場所だから、コミュニティが必要なかったんです。

でも、共創の場所なので、毎回専門家を連れてきてもしょうがないんです。いろんな人がつながるプラットフォームとしてネットワークやコミュニティを持つ必要がある。自分たちからそういう人をつなげて、周りをつくっていかなきゃいけないかなと思って、そういう人のつなげ方を僕らの場のやり方としています。

本木僕の場合は、どんどん出かけていきます。出かけていって「生協の本木です」と話すと「あぁ、あのスーパーの!」となることも。そこから話をしていると逆に相手が興味を持ち始めて、「それものすごくいいじゃないですか、世の中を変えられるかもしれません」という反応がくるのが、典型的なパターンです。

こちらから話をすると、「前から何か一緒にやりたいと思っていたけど、誰に話をしたらいいか分からなかった」と言われることもあります。あとは、西村さんが「この人とつなげたらおもしろいんじゃないか」とどんどん紹介してくれる(笑)、それが3分の1ぐらいです。

西村(コープが)宅配サービスだとは思っていない人もいますよね。僕は組合活動だと思っています。事業化していってやる場合もあるし、事業化できないダンス講座とかお菓子講座とかみたいなのもあるし、みたいな。

本木さん外にネットワークを広げすぎたせいか、外の人は本木=「コープこうべ」だと思っているから、人工知能について、とか教育問題について、とかいろんな相談や依頼が寄せられるようになりました。

鳥屋尾さんいろんな人に会って、「自分がこんなことをしたい」「スタディホールはこうなっていてほしい」「ワコールがこうなっていってほしい」などと話したとき、すごく良いねと言ってくださった方と、どんどんやっていきたいなと思っています。だから自分がいつも考えていることをよく話すようにしています。相談なんですよね、「これどう思います?」っていう。

積み重ねて蓄積していきたいんです、いろんな体験を。それも情報のアーカイブではなくて、体験のアーカイブみたいものを蓄積していきたいです。

また、もっと何かほかのやり方で蓄積することってできないんだろうか、パッと思いついたときにそのモードに入れるみたいな、そんな蓄積の仕方ってできないんだろうか、とも考えています。場のほうにも、また、来た人側に蓄積できることって何かできないんだろうかと。

高嶋さん浜松町に共創ワークショップ空間として2016年5月にオープンした「富士通デジタル・トランスフォーメーション・センター」があるんですけど、今度そこを一度見てほしいです。デジタルを使ってどういう風に体験を残していくか、試しています。

例えばマイクをつけて、音声を取りながらログにしたり、画面にアーカイブが残っていてすぐに取り出せたり、デジタル的な仕組みを展開しています。ちょっと体験としておもしろいかなと。

鳥屋尾さんもう一つは、コミュニティがつくれればと思っています。その人たちが何かやりたいことがあれば、それが一緒にできるようになっていくとおもしろいことになるだろうなと思っていて、それはやりたい。

下河原さん最近、すごくおもしろいコラボレーションを見つけたんです、シンガポールで。「Airbnb」の制作担当の方がご講演をされていて、「今Airbnbはシニアに力を入れている。日本のAirbnbの使用率や、提供するホスト側のシニアの数は先進国のなかでダントツに伸びていて、それは65歳以上の引退された方が自宅を開放するケースが多い」と聞きました。

そこでハッと思いついたのが、高齢者住宅と「Airbnb」のコラボレーション。入居者がお亡くなりになったり、入院されたりして、空くことがあるんです。そのタイミングを狙って、「この期間、高齢者住宅に住めます」みたいな。すごくいいなと思って。高齢者たちも外国人と交流する機会もないし。「銀木犀<浦安>」はディズニーランドが近いし、食事もちゃんとあるし(笑)。

その場でAirbnbの方に「ご質問ありますか」と言われて、「はい!」と挙手して、「日本の高齢者住宅の事業者です。今思いついてそれをやりたい。Airbnbにそういう実績はありますか」と言ったら、「たぶんないと思います」って。「それを日本で初めてやりますから」と言ったら、welcomeって感じでしたね。

おもしろいアイデアを持っている人たち、いっぱいいるじゃないですか。アンテナを立てて、会いにいって、こっちからアプローチして、「一緒にやらない?」といかないとダメなんだろうなと思います。

本木さん今後やりたいことはたくさんあるんだけど、一つは、元気な高齢者。政府は「74歳まで生産年齢人口だ」と言っていますけど、こういう時代なので、60代70代80代でひとくくりじゃなくていいと思うんです。それぞれの年代の元気な人が、どうやって死ぬ間際まで本当に困っている人の助けになるのか、それをどう事業化できるか。これが目下の課題です。

西村鳥屋尾さん、高嶋さん、本木さん、下河原さん、ありがとうございました。

この記事は、ミラツクが運営するメンバーシップ「ROOM」によって取材・制作されています。http://room.emerging-future.org/

小久保よしの 編集者
フリーランス編集者・ライター。編集プロダクションを経て2003年よりフリーランス。担当した書籍は『だから、ぼくは農家をスターにする』高橋博之(CCC)、『わたし、解体はじめました ─狩猟女子の暮らしづくり』畠山千春(木楽舎)など。 当サイトの他、雑誌『ソトコト』やサイト「ハフィントンポスト」などの取材で全国を駆け回り、東京と地方の行き来のなかで見えてくる日本の「今」を切り取っている。「各地で奮闘されている方の良き翻訳者・伝え手」になりたいです。