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情報と知恵、そして人の可能性の第一線で、今僕たちに見えている「未来」について話そう。【ミラツクフォーラム2018】

フォーラム

ミラツクと親交の深いオピニオンリーダーや企業関係者が集結し、知見やアイデアを伸び伸びと交わす、年の瀬の恒例イベント「ミラツク年次フォーラム」。2018年12月23日に「東京ミッドタウン日比谷」で開催しました。最後のセッションとなったセッション3では、「すでにある未来の可能性の実現を探る」というテーマで、私たちが毎日接している“情報”と、その先にある“人の可能性”について語り合いました。

(フォーラム撮影:廣川慶明)

この記事は、ミラツクが運営するメンバーシップ「ROOM」によって運営されています。http://room.emerging-future.org/

登壇者プロフィール
比屋根隆さん
株式会社レキサス 代表取締役
1974年生まれ。沖縄国際大学商経学部卒。大学在学中にITの可能性を感じ、学生ポータルサイト開発、企業向けの独自サービスを提供するIT企業を従兄弟とともに設立。1998年、独立して「株式会社レキサス」を設立。また「人材育成を通して沖縄県経済の自立と発展を目指す」という大きな理念のもと、沖縄県内の人材育成に取り組む。2008年より、沖縄の次世代リーダーを発掘し育成するために、人財育成プロジェクト「IT frogs(現Ryukyufrogs)」をスタート。沖縄県内の学生を対象に、起業家精神の形成、及びグローバル視点研修や各種技術研修への参加、IT産業の世界的中心地・シリコンバレーへの派遣などを実施。2017年9月に人財育成事業部門が独立、「株式会社FROGS」となる。ミラツクAward2017を受賞。
坂本大典さん
株式会社ニューズピックス 取締役(*登壇当時。現在は代表取締役社長 COO)
同志社大学商学部在学中に、インターンとしてユーザベースに参画。同大学卒業後、外資系コンサルティング会社を経て、再びユーザベースに入社。SPEEDAの商品企画、顧客対応、営業などさまざまな業務を経験した後、2013年NewsPicks事業の立ち上げに従事。NewsPicksにおいて事業開発全体を統括し、現在に至る。
留目真伸さん
株式会社資生堂 CSO(チーフストラテジーオフィサー)(*登壇当時。現在はSUNDRED株式会社 代表取締役 / パートナー)
早稲田大学政治経済学部卒。総合商社、戦略コンサルティング、外資系IT、日系製造業等において要職を歴任。元レノボ・ジャパン株式会社、NECパーソナルコンピュータ株式会社代表取締役社長。大企業のマネジメント経験、数々の新規事業の立ち上げ、スタートアップの経営を通じ、個社を超えて全体像を構想し自在に社会に対して価値を創出できる「社会に雇われる経営者(経営者3.0)」が求められていると実感。株式会社HIZZLE(ヒズル)を創業し「経営者の育成」「未来型企業へのトランスフォーメーション支援」に取り組む。株式会社資生堂CSOを経て2019年7月よりSUNDRED株式会社の代表に就任し、「新産業共創スタジオ」を始動。2019年8月にVAIO株式会社のChief Innovation Officerに就任。
日下部奈々さん
公益財団法人 孫正義育英財団 運営事務局 コミュニティマネージャー
2004年、ソフトバンク入社。新卒・中途採用、人材開発制度の企画・設計ののち、ソフトバンクグループ人材育成機関「ソフトバンクユニバーシティ」立ち上げにプロジェクトマネジャーとして参画。「ソフトバンクアカデミア」をはじめとしたグループ次世代リーダーの発掘・育成に携わる。現在は、公益財団法人 孫正義育英財団へ出向。また、各世代のキャリア開発プログラム企画、組織のダイバーシティ推進、社内外へのカウンセリング、ワークショップ開催など、幅広い年代に対し「自分らしく働く」支援を行っている。米国CCE,Inc.認定GCDFキャリアカウンセラー、MBTI認定ユーザー、BCS認定ビジネスコーチ。
コメンテーター
紺野登さん

多摩大学大学院 教授/エコシスラボ 代表/慶応義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科(SDM)特別招聘教授/一般社団法人 Japan Innovation Network(JIN)及びFuture Center Alliance Japan(FCAJ)代表理事
知識経営、ナレッジマネジメント、デザイン経営戦略やリーダーシップ・プログラム、ワークプレイス戦略等、実務に即した知識経営研究と実践を行っている。著書に『ビジネスのためのデザイン思考』『利益や売上げばかり考える人は、なぜ失敗してしまうのか(目的工学)』『構想力の方法論』などがある。

経営やメディア運営、人財育成に携わるメンバー

西村最後のセッションに入っていこうと思います。例年最後のセッションでは、来年に向けて考えたいことをセッションテーマにしています。一緒に話したい方を4人お招きいたしました。比屋根さんから、簡単に自己紹介をしていただければ。

比屋根さん2017年に、ミラツクアワードを受賞させていただきました。沖縄から来ている比屋根です。沖縄で「Ryukyufrogs」というプロジェクトを10年前からやっています。これは沖縄の未来のリーダー人材を発掘しようと、毎年中学生から大学生を10名程度選抜し、6カ月間いろいろトレーニングをして、夏休みにシリコンバレーに連れて行く取り組みです。継続性を考えて補助金を使わずに、民間のお金だけで運営しています。

毎年12月に、県民に子どもたちの変化を見てもらうため、英語でプレゼンテーションしてもらうイベント「LEAP DAY」があり、その場づくりも行っています。西村さんにも2年連続参加していただいて、外との交わりってすごく大事だなと思っています。沖縄の自立経済のために何ができるか、考えて動いています。よろしくお願いします。

坂本さんはじめまして、『NewsPicks』というメディアを運営しています、坂本と言います。「ユーザベース」という会社が親会社で今上場しているんですが、その会社ができたのが2008年で、そのときに僕は大学生で住み込みで働いていました。創業からずっとやってきて、『NewsPicks』も立ち上げからずっとやってきています。

記事の部分は佐々木紀彦(元・編集長。現・CCO)に任せて、今は『NewsPicks』のビジネスをつくっていく部分を担当しています。僕自身メディア業界は素人なんですけど、日本がこれからどんどん良くなっていくためにはメディアが変わらないといけないと本気で思っています。素人ながらに0からメディアをつくるにはどうあるべきか、ずっと考えていて、今やっています。横にいる留目さんにはピッカーとして大変お世話になっております。今日はよろしくお願いいたします。

留目さん最近、記事が足りていないピッカーの留目です(笑)。今は「資生堂」という会社でチーフストラテジーオフィサーをやっているんですけど、これは実は2018年7月からで、その前はコンピューティングハードウェアの『レノボ』の日本法人『レノボ・ジャパン』の代表をやっていました。

そのときから新規事業に力を入れていて、PCのビジネスは日本の「NEC」のパソコン事業を買収してかなりシェアが高くなったので、PC以外のビジネス、例えばスタートアップと一緒にタブレット、VR、スマートスピーカーの市場をつくることをやっていたんです。その延長で「HIZZLE(ヒズル)」を創業して、エンジェルの投資とスタートアップの支援などを始めました。

自分としては“社会に雇われる経営者”を目指したいと思っています。個社の視点だけにこだわりすぎると、個別最適になって全体最適できないんじゃないかなと今考えていて、新しいやり方を模索しているところです。よろしくお願いします。

日下部さんこんばんは、日下部と申します。私はほかの方たちと違ってなにかの代表やリーダーをしているわけではなく、本当に一会社員という立場です。一貫して15年間、「ソフトバンク」で、組織で人が力を最大化させるというのはどういうことなのかに向き合い、人材の採用や育成、組織開発に携わってきました。

それとは別に、2018年の春から、会長の孫正義が私財を投じて若者の育成や未来の人材を育てるために設立した財団「孫正義育英財団」のコミュニティマネージャーをしています。財団の活動は、25歳以下の異能人材の支援です。留学支援だけではなく、コミュニティづくりを大事にしています。小中学生から社会人までの145人がどう交わって刺激を受けて、感じて、自分の可能性を広げていくのか、コミュニティデザインという視点で試行錯誤しながら仕事をしている立場です。今日はよろしくお願いします。

紺野さん皆さん、こんにちは。紺野と申します。大学院でMBAを教えていますが、「一般社団法人Future Center Alliance Japan(FCAJ)」という組織でイノベーションの場にかかわる活動もしております。その関係で未来洞察やシナリオといった接点があり、やってまいりました。どうぞよろしくお願いいたします。

沖縄の未来をつくるため、本気で人を育てる

西村ありがとうございます。このセッションで考えたいことは、「すでにある未来の可能性の実現」です。「すでにある未来」をどう感じとって、それをどうやって世の中に出していくのか、真っ向から語り合ったことは実はなくて。それぞれ取り組まれていることがあるので、その話を混ぜていくと、何か見えてくるんじゃないかなと思っています。まず、比屋根さんが「Ryukyufrogs」を立ち上げた原点や、可能性を感じたものをどうやって具体的に目の前に表していったのか、教えてもらえますか。

比屋根さん私は「レキサス」という会社を立ち上げて二十数年になるんですけど、起業したのは大学4年生の頃でした。当時の沖縄のITの会社は人件費が安く「東京から仕事投げてやるよ」という扱いを受けていたんです。県内のソフトウェアの会社の社長と会っていても、それが当たり前。一方で『Yahoo!』や『楽天』が97年、98年に出てきて、いいサービスを沖縄でつくって県外からお金を稼ぐことにチャレンジしたいなと。沖縄のIT産業のイノベーションを起こしたいと、起業したんです。

8年、9年会社をやっているうちに、IT産業というより沖縄のために経営者として何ができるのかと考えるようになりました。そんなときにシリコンバレーに初めて行って、「ああ、学生時代に来れば良かった。もっと大きなスケール感で事業をデザインして動けたかな」と。海外に行ったことがなかったんです。

同時に経営者の視点で、何が一番沖縄のためになるのか考えたとき、リーダーをどんどん出していくしかない。「教育人材育成をやろう!」と思いました。それも社会人ではなくて、子どもを対象に。10年、20年、30年後のリーダーを早く見つけ、シリコンバレーに送って、素敵なエネルギーのある大人に囲まれる。それを10年、20年継続して行いたいので、補助金を使わずにやろうと。

また、沖縄で協賛金を募るので、お金を出す経営者にも共鳴してもらいたいなと。「沖縄の未来をつくるために利益の一部をちゃんと未来に投資する」ということを沖縄で根付かせたく、民間にこだわっています。今は80社を超え、県外からもサポートをいただいています。

きっかけとしては、沖縄の自立のために人に投資すること、長期的に投資すること、民間の思いで本気で子どもたちに向けていい人材を育てていこうというところからスタートしたんです。

西村坂本さんに二つ聞きたいんですけど、一つは、今は情報格差が出てきていて、そこも含めてもう少し具体的にどんな情報をどういうふうに解消していくといいのか。もう一つはメディアの話ではなくて、坂本さん個人として考えている、人のつながりを通じて可能性を実現していく話です。

坂本さん『NewsPicks』は「ソーシャル経済メディア」と言っていて、有識者がコメントできる仕組みで、つまりニュースとコメントが読めるようになっています。情報ってもう世の中にいっぱいあるので、それをどうやって届けるか、どういう流れで知れるかが一番大事になっていると思います。

『NewsPicks』では、世界で活躍している人たちが今どういうニュースに興味があって、どういう未来をつくろうとしているのかを発信してもらい、人をベースに新しいものを知っていけるんです。

もう一つ僕がやっていきたいのは、チャレンジする人たちが増えていくのは、成功事例が出てきてからだと思うんです。例えば「メルカリ」が出てきて、ベンチャーが増えていく。成功事例をつくれそうな、各ジャンルで活躍している人たちを出会わせていくことを意識しています。よく飲み会もしていて、そこから仕事につながったり、成功事例を共有できたりしています。

自分にとって“次の一歩になるような情報”とは?

西村日下部さん、財団生たちが交ざることによってどんなことが起こっていますか?

日下部さんうちの財団は、「(財団生は)プログラミングキッズたちなの?」とよく聞かれるのですが、そうではなくて、さまざまな分野の子たちです。例えば、セミの飛行についての研究で国際的な評価を得ている学生。そういう生物学、心理学、哲学など、いろいろなジャンルの子たちがいます。

彼らが交ざることで、共同研究が始まったり、「事業をやりたいんだけれど、君の才能を貸してほしい」といった共同プロジェクトが始まったりしています。ただ、そういった化学反応が起こる前提として、「みんなが違う角度から高いレベルのアドバイスをくれること」があるのではないかと考えています。

例えば、AIにすごく興味がある小学生の男の子がいても、学校でAIが好きだと言うと引かれちゃうから誰にも言ったことがなかったりする。でも財団のコミュニティに来ると、ほかの財団生から「何が好きなの?」と聞かれて初めてAIのことを語ったら、心理学のお姉さんから「心理学ではAIでここまで解明できる。例えば……」とか、法律に詳しいお兄さんから「アメリカではここまで整備されているけど、日本ではここまで」など、いろいろな角度からディスカッションが始まります。

すると、その子の表情は、親御様もびっくりするくらいにきらきら輝いていきます。ベースとして、個人の価値観を受け止めておもしろがってくれる人たちがいる。そこから一緒に何かやってみようということが生まれていっています。

西村情報はいいっぱいあっても、自分にとって“次の一歩になるような情報”ってなかなか出会えませんよね。同じような関心を持っていると、違う分野の人から話をしてもらえる。

日下部さん『Yahoo!』のニュースを読むときは「自分が知りたい」っていう前提だから、情報を取りにいっている時点であまり目新しいものではないのですけど、全然違う角度からの質問によって、逆に深い視点にたどり着くっていうのがいいなと思いました。

坂本さん大事なのは情報を出すことだと思うんです。得ることじゃなくて。ピッカーの方には『NewsPicks』で一番いい思いをしてほしいんです、僕は。発信をするって、自分の知見をわざわざ出して、ちょっと面倒なことをやって、それが社会のためになっているわけですよね。出すことで、ほかの人が「こんなことできるよ」ってどんどん言ってくるようになると、情報を出す意味がある。

メディアに出るのが嫌って人、多いと思うんです。でも、嫌がっているといい情報が入ってこなくなると思います。うちは、なんとか発信をもっと増やしていきたいなと。

西村留目さんは、個人としても事業を始められて、発信の機会が増えたり、もしくはタイプが変わってきたのかなと思うんですが、どんなことが起こっていますか。

留目さんやっぱり個のコミュニティの時代なんだなと思います。いわゆる昭和型の企業のオペレーションは疲弊して動かなくなっていて、新しい価値観でいろんな人たちがいろんなことをやり始めている。ここから元号が変わってまた大きく変わると思うんです。

ある程度「これをやりたい」「ここに問題があるじゃないか」と旗を掲げる人がすごく大事。最近は、その旗を立てた人をどう盛り上げて、さらにいいものにしていくかという連鎖が起こるようになってきたなと思います。

業界や産業を変えるようなアイデアを個人が発想したり、それによってまた多様な個人や会社とつながって新しいことができるようになったりしている。今後そういうことがもっと自立的に行われる時代になるんじゃないか、なってほしいな、と思っています。

OGの「この子を選んだほうがいい」という発言

西村比屋根さん、「Ryukyufrogs」の選抜生は若いから、動き始める前の人たちもいますよね。伸びしろがあるんじゃないか、こういう機会があると変わるんじゃないかという視点で探していると思うんです。どうやって選抜していくんですか? 可能性の見方って……?

比屋根さん最終面接の前に、宿泊型の面接のための研修をするんです。通常の面接では見抜けない部分を、一泊二日で見ていきます。20名でやるんですが、そこから10名に絞ります。言うこととやることが一致しているのかどうか、あとはどういうタイプかを見ていきます。リーダーシップを発揮するのか、それともフォロワーシップか。あと、一次面接のときに言っていた思いが本当に一貫しているのか。

最後はグループでプレゼンテーションをしてもらい、それが終わった後にまた面談をして、こちらでチェックしているシートを確認しながら、どんな言葉遣いをするかも見ます。きらきらした伸びしろ、純粋さがどれだけあるのかを基準に選んでいます。感じるんです、話していると「この子いいな」って。人って、僕はフィーリングもあると思うんです、エネルギーの。

西村何とかもっと言語化したいな(笑)。伸びしろを見るって論理的には無理ですけど、感覚的にはできる感じがするんですよね。中学生が20人、10人って絞られていく。年によって10人以下のこともありますよね。こういう子たちだけを残そう、という考え方がきっとあると思って。

比屋根さん今、10年やってきてOB・OGが88名かな。毎年、年に2回集まっていて、ものすごい熱量があります。それぞれ「2030年までに沖縄をこうしたい」というイメージがあるので、「それまでにどんな用意をするか」という考えも持っているんです。こうして卒業後も継続的にメンターとして後輩を見たりして、仲間が増えていきます。

何でそういう状況をつくれたかというと、面談で、これも感覚かもしれないんですけど、「この子は自分自身の可能性を伸ばしながら、本当に沖縄の未来のために、僕らの思いに共鳴してやってくれる人材か」という視点で選んでいるからだと思います。

西村僕は一度、審査会にお邪魔させていただいたことがあって、(選抜される子どもたちに)すごく幅があるのがおもしろいと思いました。適切な表現ではないかもしれませんが、きらきらしているきれいな子ばかりではなくて、ちょっと折れかかっていてもすごく伸びるかもしれないとか、スタート地点や伸びしろの大きさが異なる子たちが混ざっていて。その観点は何でしょう?

比屋根さんそれこそロジカルじゃないと思うんです。「この子を6カ月のプログラムに入れてあげたい。状態はいろいろあるけど、この子にとって絶対プラスになる」っていうのがあって。例えばこんなことがありました。最後の審査会で、審査員全員がどうしようかっていう離島在住の子がいて、「今回はやめよう」という話になりかけたんです。理由は費用の問題です。

選抜されると6カ月間毎週ワークショップがあり、(離島と沖縄本島を)往復しなければならないのですが、「JTA」という地元の航空会社が「離島の子どもにチャンスをあげたい」と手を挙げてくれ、毎年2名を離島から選抜し、すべての航空券を無償で支援してくれています。そのとき、すでに2名の枠は埋まっていました。

すると事務局でアルバイトをしている女の子が、「私のアルバイト料は全部いらないので、この子を選抜してください」と言ったんです。彼女はOGでした。面接や研修を見ていて「絶対に選抜したほうがいい」と。僕自身もうれしかったのは、「Ryukyufrogs」を熟知していて、子どもをそばで見ていたOGの「絶対にこの子は選抜に入れます。チャンスになると思う」という感覚。それは理屈じゃないんですよね。

西村日下部さん、「Ryukyufrogs」と「孫正義育英財団」は対象者が違うけど、やっていることはとても近いですよね。「孫正義育英財団」で子どもの変化や成長を感じた事例を教えてください。

日下部さん財団生に、海洋生物が大好きな小学生の男の子がいます。ある大学の研究室に呼ばれて生物学を学んでいる人たちとディスカッションもできるレベルの子です。彼が財団の施設に来て「サメの歯の形をリアルに把握したい」と歯の形を3Dプリンターでつくることにチャレンジしたんです。いわば、テクノロジーの力を生物学と掛け合わせることをしたんですね。

現在彼は、「STEM(ステム)教育(科学・技術・工学・数学分野を総称する教育モデル)」に関して最先端である海外のスクールへ財団の支援で通っています。

そこでのカリキュラムで興味深かったのは、1日1個身の回りの生活に役に立つものづくりをすること。何でもいいんです。自分の頭で考えたものを実際の形にすることをやっているそうです。なにかの文献で読んだことがあるのですが、どうやら頭で考えていることと、手先で何かを実現することが一番シンクロするのがちょうど小学5年生くらいのようなんです。そうやって、さまざまな情報や経験を掛け合わせて可能性が広がっている彼の存在が、ほかの財団生の励みになっているところもあります。

小さいメディアが自発的に生まれる仕組みをつくりたい

西村坂本さん、情報の出会いって仕掛けることができるんですか。

坂本さん異分野の人たちの情報をどんどん出して、その情報を混ぜて、横の業界とのつながりをつくっていくのはできると思っています。

コミュニティってつくった人の思いがはっきりしていて、なおかつ、どういうコミュニティか言語化されて形があることがすごく大事です。そういうコミュニティしか結局残らない。そういうコミュニティの中で、どんどん人が交ざって成長していくのだと思います。

西村メディアを起点にしたコミュニティづくりって、可能ですか。

坂本さんできると僕は信じています。『NewsPicks』は一つの大きなコミュニティなんです。ビジネスで何か新しいことをしたい人、海外やIT分野が好きな人を中心にコミュニティができています。その中で人が出会っているんです。

ただ、今考えているのは、コミュニティを広げるとき、現在のコミュニティを残したまま広げていくのか、どうするのか。最近おもしろいと感じたのは、2008年からフィンランドの首都・ヘルシンキで毎年開かれている世界最大級のスタートアップイベント「Slush(スラッシュ)」には、気温がマイナス2度くらいのところなのに約2万人も集まるんです。始めたばかりの頃は来場者数が数百人だったのに、今は約2万人。なぜそんなに成長しているか、実際に行った人に聞きました。

初めから「Slush」という一つのコミュニティではなくて、「Slush」から自発的に「自分たちはこんなのをやりたい」という小さいコミュニティが周りにいっぱいできていった結果、まち全体が「Slush」になったそうです。それを聞いたときに広いコミュニティの中にもっと小さいコミュニティをいっぱいつくっていく仕組みをつくらないといけないなと。

役割の違う業界を無理にくっつけようとすると、たぶん薄まるんです。小さいコミュニティもあるし、大きいコミュニティもあるし、となっていくとよりいいんだろうなと思います。

西村ある意味小さいメディアをつくるみたいな感じでもある?

坂本さん小さいメディアが自発的に生まれる仕組みをつくりたいと思っています。要は、ユーザが勝手にオフ会をするような。世界のビジネスコミュニティで活性化されているものってどういう種類があるか調べたら、地域か業界か会社、そういうものくらいしかないんです。それはつくれるようにしようかなと。

自分のコミュニティにどういう人がいるかをはっきり示すのはすごく大事だと思うんです。『NewsPicks』にはメディアとプラットフォームの側面がそれぞれあって、僕はプラットフォームのほうが強いんですけど、プラットフォーマーとしてはいろんなコミュニティが入ってこれるような場所にしたい。

なので、提携している各メディアさんのコミュニティを『NewsPicks』の中でつくれるようにしていきたいです。例えば、『LIFULL HOME’S』が好きなコミュニティもあって、『NewsPicks』の独自の記事が好きなコミュニティもあるみたいな。

西村土台は提供して、メインのコンテンツは『NewsPicks』がつくり、その周りのいろいろはつくっていいよという状態?

坂本さんうちがメインとはあまり考えていなくて、『NewsPicks』は実験だと思うんです。これからのメディアは広告だけで稼ぐんじゃなくて、コミュニティをつくって稼ぐしかないと僕は思っています。それをまず実験して、その形を全メディアにどんどん開放していきたいです。

難しいのはそれをどうビジネスにするか。そこから何か新しいチャレンジが起きたら売り上げが上がるような仕組みを、ちゃんと考えればできるんじゃないかと思っています。

みんなで意図的に目的をつくる

西村留目さんはいかがですか。どうやったら実験歯止めみたいなものをなくして、実験し始めるのか。

留目さん濃さにこだわらなければできるんじゃないかなと思うんです。今日も一日いろいろな人がおもしろいアイデアを話していますし、既存の会社の既存の目的の壁を超えると、皆、いろんな話ができて、ビジネスモデルの話もアイデアも生まれる。ものすごく可能性に満ちているんです。

誰かが旗を立てたら本当はやれるんです。でも、業界や会社の壁があって「これはちょっと自分たちの既存の事業と違うし、これ言うと上司が怒るかもしれない」という、そこがネックですよね。いろんな理由で問題を解決しようとする動きがあまりできてないのが実情じゃないかなと思うんです。

「本当はもっと自由にそういうことがやれるんだ。一つひとつの課題を解決したい」というコミュニティができあがっていけば、そこがビジネスモデルとして回っていくんだと思う。メディア化してもいいし、コミュニティ自体がビジネスモデルになるんじゃないかなと思います。

比屋根さん「LEAP DAY」では、子どもたちの発表を聞いて大人や周りも変わっていくモデルにしようと、県外からもいろんな方に来てもらっています。2年くらい前から「自分の地域でもやりたい」という人がたくさん出てきて、2019年から新たに始めるところもあります。

全国展開は東京のある大手の会社が「一緒にやりたい」と思ってくれて、地域を巻き込むような「frogs」ができていくんじゃないかなと思っています。その収益も基金として戻ってくるようになれば、ビジネスとして少しずつ広がり、11年目からいろいろ新しい展開ができるんじゃないかなと。

コミュニティを広げていくときに、一緒にその場にいて「これ一緒にやろうよ」と言うことがすごく重要だと思うんです。僕はメディアだけではきっとダメで、リアルな場所、同じ熱を共有する場をどうデザインするかだと考えています。つながりや学び合いをセットでデザインし、リアルなコミュニティづくりもセットで仕掛けていくとものすごく活性化するんじゃないでしょうか。

西村紺野先生、ここでコメントを少しいただけますか。

紺野さんいろんな未来がありますよね。僕は目的工学というのを研究テーマにしているんです。情報は、目的がないと何の価値もないんです。例えば東京駅に行くという目的があるとき、渋滞しているという情報がそこで初めて意味を持つ。目的をどうやって持つかが結構大事だと。

一方でさっきのいろんな可能性というのは、知識なんです。概ね知識というのは暗黙知なので、地下茎みたいにひとびとの間にネットワークしている。この地下茎みたいなものに目的を与えることで活性化する、広がっていく。こういうオーケストレーションは大人の役割です。こういうモデルのことが今日は議論されていたんだと思います。

一方、子どもは可能性に満ちているので、すでに力が湧き出ている。放っておいてもどんどん出てくる。他方大人は可能性がなくなってきているわけですよね。日本の会社人は官僚制の中に住み込んでいる。いまだに市場、業界、消費者、機能価値、意味価値とか、プロダクト周りのことばかりやっています。

だから、意図的に目的をつくっていかないと、たぶん可能性は単なる可能性で終わる。そこでどうやってメディアなどがうまく力を発揮して、そういうことができるかを真剣にやらないとダメだと思います。

西村目的は目的工学だから作れるんですよね。つまり段階を経ることによって到達することができる。

紺野さん目的は一つじゃなくて、何を目的にしようか議論してみんながつくるもんです。いくつかのレベルがありますよね。非常に共通善に近い大きいものもあれば、個々の目的もあるし、それをいつまでにこれだけの時間や資源でこう実現しようっていう目的もあるんです。

西村『NewsPicks』で目的工学をやってほしい。読者がみんな目的を持ったらおもしろい。自分の情報を発信するし、欲しい情報は変わっていきますよね。

坂本さんメディアの特性でいうと、目的を持っている人を出すほうが得意なんですよね。メディアって「こういうふうなものいいよね」という象徴をどんどんつくっていく存在だと思っていて。それで、メディアが逆に「目的をつくろうよ」まで降りてくると、そのバランスがけっこう難しくなるんです。中途半端になって、何をしたいか分からなくなる。

メディアというビジネスの特性上、やりやすいのは目的が明確な人をどんどん出して「そういう人がかっこいいよね」という文化をつくっていくことかなと思っています。ただ、目的を持っていくってすごく重要なことですよね。メディアビジネスの横でやっていくんだろうなと。

西村僕は元々教育部なので、教育の分野とメディアの分野はすごく距離がある感覚で。次の展開となると、1人じゃなくてほかの人にっていう展開になるので、それがメディアってことなのかなって。

坂本さんうちの佐々木は福沢諭吉のファンで、福沢諭吉の何がすごかったかっていうと、コミュニティとメディアと教育の学校を別々につくっているんです。慶応義塾大学とつくったメディアは違うんです。それは一つあると思っていて、僕らは今メディアに加えて教育として「NewsPicksアカデミア」っていうサービスをやっています。

一つのグループ内でやるんだけど、目的が違うから別のサービスなんですよね。『NewsPicks』は世界最先端のおもしろい情報や人に出会える機会、場所。「アカデミア」は学んで成長を実感できる場所にしていく。

旗を立てて新しいことをやるときが来ている

西村このセッションは個人の興味を満たす場でもあるので(笑)、すごくおもしろかったです。お一人ずつ、来年こういうことやってみたいなとか、実はこういうことを考えているなど、コメントをお願いします。

日下部さんありがとうございます。私は財団生を通じて「年齢は関係なく、みんなが何かを持っている」ことに改めて気付かせてもらって、その何かを磨いてきた子たちを目の当たりにしたときに、これは企業でもできるなと感じました。

会社では、仕事のタスクの話をすることはあっても、本当は何が好きで、何をやりたいかみたいなことをそもそも言う場がなかったりしますよね。「ソフトバンク」で二日間かけて自分がやりたいことをお互いに語り合い、自分のキャリアビジョンに向き合う場をつくっています。この研修は数百名規模の社員が受講していて、会社にとっても好ましい新しいチャレンジや提案が生まれる事例が出てきています。

個に光をあて、そしてその価値を発信していく場をつくることで、何かにつながる。それが、個の可能性を支援することなのかなとおぼろげながら思っています。

肩書きや属性にとらわれずにシンプルに人として向き合って、その人のいいところを見つけて、私がその価値を心から信じて発信することを、財団でも会社でも、地道にやっていきたいなと思います。

留目さん2019年以降は、新しい時代を迎えるにあたって、自分自身も新しいことをやっていきたいなと思っているんです。子どもたちだけではなく、我々にもまだまだやれることがたくさんあると思います。一人ひとりが自分の能力を発揮しながら幸せに生きていく社会の仕組みをつくっていきたい。一人ひとりが自分の取り組みたい目的を見出して、旗を立てて生きていく時代が来ているんじゃないかなと。

紺野先生の構想力のお話って素晴らしいなと思っているんです。昭和の企業戦士の時代を中和し、個社の視点を超えて自由に全体構想を持てる雰囲気をつくってきたのが平成の時代だと思っていて、新しい時代はいよいよそれを使って新しい価値をつくりあげていくことになると思っています。

坂本さんうちの会社のミッションは「経済情報で、世界を変える」です。読んで終わりではなくて、読んだ結果ビジネスが変わって世界が変わっていくところまでちゃんとコミットしたいなと。

一番うれしかったことは、読者の女子高生が起業したんです。起業して自分でnoteを書いてそれを投稿したら、みんながアドバイスしたりして応援しまくるんです。そういうのをどんどんつくっていって、少しずつでも世の中が動いていくことをやりたいと思っています。

2019年にチャレンジしたいことは、2018年にアメリカの経済メディア「Quartz(クオーツ)」を買収したので、グローバル化していきたいなと思っていて、数年以内に絶対やりたいのは、「ダボス会議」のように世界の有識者が集まるような場づくりもやっていきたいと思います。(編集部注:取材日は2018年12月)

比屋根さん今感じているのは、地球の中で沖縄が持っている役割があるということ。平和にもっと貢献できると思っています。人材育成を通して思想を持った次のリーダーを育てて、社会起業家をたくさん輩出するような場所にしたい。

2017年のミラツクフォーラムで一緒に登壇した『一般社団法人re:terra(リテラ)』の代表・渡邉さやかさんと、2018年12月に沖縄で「アジア女性社会起業家ネットワークサミットVol.0」をさせてもらったんです。

参加者から「通常の起業家とは全然違う」「女性的で社会的な、たくましいけど優しい社会への起業の形が見えた気がする」というフィードバックをたくさんいただきました。女性起業家のネットワークを沖縄に接続することで、沖縄にとっても日本にとってもアジアにとっても価値のあるコミュニティになるんじゃないかな、と。今後も、沖縄を起点に未来を良くするものをつくっていけたらいいな、沖縄を一緒に良くしようという仲間が増えるといいなと思っています。

西村ありがとうございました。ミラツクフォーラムは僕がコーディネートをしているんですけど、僕ではない人やコミュニティが各セッションをやるフォーラムもおもしろいんじゃないかと思いました。やりたいことが生まれた、生産性の高いセッションでした。

この記事は、ミラツクが運営するメンバーシップ「ROOM」によって運営されています。http://room.emerging-future.org/

次回ミラツクフォーラムに参加を希望される方は、ミラツクが運営するメンバーシップ「ROOM」にご参加ください。ミラツクフォーラムは、メンバー向けの招待制の会として開催されます。
ROOMの登録:http://room.emerging-future.org/
ROOMの背景:https://note.com/miratuku/n/nd430ea674a7f
NPO法人ミラツク では、2016~2019の4年間でミラツク年次フォーラムにおいて行われた33のセッションの記事を分析し、783要素、小項目441、中項目172、大項目46に構造化しました。詳しくは「こちら」をご覧ください。
小久保よしの 編集者
フリーランス編集者・ライター。編集プロダクションを経て2003年よりフリーランス。担当した書籍は『だから、ぼくは農家をスターにする』高橋博之(CCC)、『わたし、解体はじめました ─狩猟女子の暮らしづくり』畠山千春(木楽舎)など。 当サイトの他、雑誌『ソトコト』やサイト「ハフィントンポスト」などの取材で全国を駆け回り、東京と地方の行き来のなかで見えてくる日本の「今」を切り取っている。「各地で奮闘されている方の良き翻訳者・伝え手」になりたいです。