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物理の理論を駆使し、世の中の役に立つものを生み出す。沖縄科学技術大学院大学教授・新竹積さん【インタビューシリーズ「未知の未来が生まれる出会い」】

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インタビューシリーズ「未知の未来が生まれる出会い」は、ミラツク代表・西村勇哉がインタビュアーとなり、沖縄県恩納村に拠点を置く沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究者にお話を聞くオリジナルコンテンツです。

研究者はこの宇宙の様々なものを対象に、世界中の誰もがまだ知らないことを発見し、人類の知を広げています。そのひとりひとりの研究者は、どのような視点で世界を切り取り、理解しようとしているのでしょうか。その視点を知ることで、私たちの世界観は大きく広がっていきます。先駆的な研究と沖縄の風土が交差するOISTから、未来に向けた新しい視点と出会いをお届けします。

第二回は、量子波光学顕微鏡ユニットの新竹積さん。1980年代から巨大な実験施設を建設し、電子などの粒子を加速、衝突させる加速器実験に関わり、たくさんの装置を開発してきました。さらに理化学研究所に移ると、電子を加速させてX線のレーザーを発生させる「SACLA」という装置の開発、建設をリードしました。そして、OISTに移ってからは、新しい方式の電子顕微鏡や波の力で発電する波力発電装置の開発をしています。その時々で、いろいろなものをつくってきたという印象を受けますが、どのような考えで取り組んできたのかを聞きました。

新竹積(しんたけ・つもる)
沖縄科学技術大学院大学量子波光学顕微鏡ユニット教授。
1955年、宮崎県生まれ。九州大学大学院工学研究科修了。博士(工学)。1983年から2002年まで高エネルギー加速器研究所に所属し、トリスタン計画、B-ファクトリー計画などの研究プロジェクトに参加。2002年から理化学研究所でX線自由電子レーザー施設(SACLA)の建設を指揮した。2011年から沖縄科学技術大学院大学で、ホログラフィーによる量子波光学顕微鏡、波力発電装置などの研究を進めている。US Particle Accelerator School Award、ヨーロッパ物理学会賞、光・量子エレクトロニクス業績賞(宅間宏賞)などを受賞。

生活に余裕がない日本人

西村新竹さんのお話は何度か伺っていますが、以前、「沖縄の海を見ていたら、波の中にどのぐらいエネルギーがあるのだろうって計算を始めたくなった」と話していたのが印象に残っています。ふつうの人が海の波を見ると、「きれいだな」とか「冷たいかな」みたいな、感情面での話になると思います。でも、新竹さんは違いました。「そこにエネルギーがあるかもしれない」という目線を、どうすれば持つことができるのですか。

沖縄本島最西端の残波岬。新竹さんはこの波を見て、エネルギーの計算を始めたくなったという

新竹そうですね。今は、ほとんどの人たちが常に携帯電話を持っていますよね。特に若い人は、いつも携帯電話の画面を眺めていたり、音楽を聴いていたりして、景色をしっかり見ている人は少ないのではないでしょうか。車で海岸近くを走っているときに、「この海岸にはこの音楽がいいかな」というふうに考える人はいても、エネルギー源と結びつく人はいないと思います。

それは、日本が恵まれているからです。環境に恵まれているわりには生活に忙しいから、あまり周りのものを見て考える余裕がないのでは。私は口では「忙しい」とは言うけれど、生活自体はあまり忙しいわけではありません。

西村それは、何に時間を使うかということですか。

新竹そうそう。私は35歳のときにイタリアのローマ近郊で1年間暮らしました。それで時間の使い方についての考えが変わりました。

西村イタリア人は、日本人と時間の使い方が違うのですか。

新竹違いますね。彼らはとにかく楽しいライフありきです。楽しいライフを送るために、仕事をするわけです。私は、彼らの暮らしぶりがとても不思議でした。

暮らしているうちに、イタリアは国の政策で土地などの不動産価格が高くないことがわかってきました。また、イタリアは石造りの家を修理しながら何百年も使う文化の国で、新築の家を持つことが目標ではないのです。そのため、収入や貯蓄が少なくても暮らしていけるので、あくせく働かなくてもいいという雰囲気があります。

西村日本の場合は、古い建物には価値がなくて、土地の価値がものすごく高いから、中古物件の価格は、ほとんどが土地代になっていますよね。

新竹知り合いのアメリカ人と日本の土地の価格について話をすると、ほとんどの人が「信じられない」と言います。彼らからすれば、土地の値段がとても高いことも信じられないのですが、それに加えて、そういう場所に家を建てることも信じられません。「何のために生きているのかわからないじゃないか」という意見をよく聞きます。日本の場合は、不動産に価値をつけすぎてしまったことで、結果として、多くの人が忙しい生活を送っているのだと思います。

西村そうですね。それで土地を買うわけですね。そして、特に何もリニューアルしないというか、ただ古いものをそのまま残していたりしますよね。

新竹私は宮崎の田舎で育ち、土地にはあまり興味がなかったのですが、イタリアで暮らしたことで、改めて「日本人つらいな」と思いました。でも、その後、アメリカのスタンフォード大学や日本の理化学研究所(理研)で、20年ほど忙しい日々を送ることになるのですが。(※)

新竹さんが子どもの頃の宮崎県小林市の風景

それで、理研でのプロジェクトが終わったときに、忙しい生活は卒業すると決めました。沖縄に来てからは、若い研究者と一緒に、失敗してもいいから自由に研究を進めています。忙しい生活をしていないから、海の波を見たときに、「良い波だね、エネルギーになるな」と思えるのでしょう。

※新竹さんはイタリア滞在中に、スタンフォード線形加速器センター(SLAC)から出されていた懸賞金付き問題の解決法を思いき、論文を書きました。その論文のアイデアが採用され、新竹さんは日本とスタンフォードを行き来するようになります。そして、電子ビームの幅をナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)単位で測定できる「新竹モニター」を生み出しました。

物理学で
役に立つものをつくりたい

西村私たちの中には、忙しくないと新しいものが生まれないという思いこみのようなものがある気がします。新竹さんは、ゆっくりしていても波力発電とか、新しいものを生み出しています。新しいものを発想するときには、何が重要なのでしょうか。

新竹そうですね。現在の私のモチベーションは恩返しの気持ちです。前職の理研で建設を指揮したX線自由電子レーザー施設(SACLA)(※)は400億円ほどの予算がついたプロジェクトでした。その予算をもらうときに、当時、文科省の担当者が私に「お金を預けます」と言いました。プロジェクトの予算は、元をたどれば国民の支払った税金です。「預けます」という言葉には「このお金をあなたに託すから実現してくれ」という意味がこめられていたのですね。

SSACLAで電子を光速に近い速度まで加速する加速器

400億円の予算があれば、たくさんの研究者に研究費として広く配るという選択もできたはずです。でも、そうはせずにSACLA建設の予算にあててくれました。「私に託す」ということは、裏を返せば、託されずにチャンスがなかった研究者もいたということです。SACLAのときにたくさんの予算をつけて頂いたのだから、今は自分の知識の範囲で社会に恩返しがしたいという思いで研究をしています。

※新竹さんが建設を指揮したSACLAは、直線状のCバンド加速器と呼ばれる装置で電子を光の速度に近い速度まで加速することで、これまでつくることのできなかったX線のレーザーをつくる装置です。SACLAはユニークな設計と日本の独自技術によって全長700メートルに収められています。当時、欧米につくられていたX戦自由電子レーザー施設は全長2〜4キロメートルもの長さで、コンパクトなSACLAの誕生に世界中の研究者が驚きました。

西村新竹さんの話は、ずっとつながっているような気もします。役に立つものをつくる科学というか、問題を解決するために何をすればいいのかを常に意識しているというか。

SACLAの心臓部である加速管の断面。純銅の板をマイクロメートル(100万分の1メートル)の精度で加工し、ロウ付けする高度な技術が必要となる。この間の中を電子が飛行する。

新竹役に立つものをつくるという視点は常にあります。でも、私の視点はこれだけとも言えます。例えば、スティーブ・ジョブズは携帯電話をつくりました。役に立つものをつくるという点では、私とジョブズは同じです。でも、ジョブズには「お金を儲ける」という視点がちゃんと入っていました。私の中にはお金を儲ける視点はゼロなので、社会の役には立つけれど、お金にはならないものが多いのです。よく、「ベンチャーやりませんか」とか、「ビジネスディブロップメントどうですか」というお誘いを受けますが、そういう分野にはまったく興味ないですね。

西村それは少しわかります。私自身、NPOを運営しているように、収益よりも他のことが先に来ています。ただ新竹さんは、単にお金儲けが頭にないという以外にも、他の人たちとまったく違う発想が出てくるように思います。単に役に立つことを考えるのであれば、困っている人を助ける方法もあると思います。でも、新竹さんは、もっと根本的に解決する方法を考えているように見えます。その突きつめ具合がすごい。

新竹そうですね。妻からも「人を助けたいのだったら、まず私を助けて」とよく言われます。

西村困っている人を前にして、単に「大丈夫ですか」と声をかけるのではなく、そこで「物理学が使えるのでは」と考えるのは、物理学が好きだからだと思いますし、新竹先生が技術者ではなく、物理学者になったこととも関係しているように感じます。

新竹確かに。過去にはマイクロチップや電化製品をデザインする仕事をするのもいいなと思った時期もありました。でも、私は手先がそれほど器用ではありません。それと、パッケージングや見た目をきれいにするとか、そういうことに興味がないのです。あと、マイクロチップのデザインは、あまりダイナミックな話ではないのですよね。社会を変えるような大きな発見はあまりないというか。

経験を通して
プロジェクトの成否を見極める

西村少し話は変わりますが、沖縄でも、日本全体でもいいのですが、社会の問題の根本的な原因はどこにあるとお考えですか。

新竹それはよくわからないですね。沖縄県うるま市に産業高度化・事業革新促進地域という経済特区があります。そこは、条件が合う事業を立ち上げれば、税金が優遇されたり、低金利の融資が受けられたりする利点があります。そこで波力発電機の部品をつくり、船でモルディブに出荷するプロジェクトを展開したことがありました。

モルディブの海に設置された波力発電機

工業製品をつくるには、材料を供給するための会社など、関連する企業群が必要です。自動車メーカーの周りに、部品を供給する会社が集まるような感じですね。関連企業の他に水資源も産業には不可欠です。沖縄にはそのような企業や資源が少なくて、事業を本格化するのは諦めました。

同じ島でも、台湾は水資源があるので、電子産業を発展させることができました。これは台湾が優秀で、沖縄が劣っているという話ではありません。単に沖縄は産業が発展するための資源やインフラが足りないのです。とても残念なことですが。

西村そんな風に話す人に始めて出会いました。今の話は、ものごとを始めるときの基本的な考え方ですね。沖縄で産業振興するのであれば、沖縄の現状や産業が成立する条件を考えていくということですよね。

新竹そうそう。だから、プランニングをするときに、必要なプロセス、人員、時間、廃棄物の量などが、経験として自分の中にないと、工場用地などを見にいっても、何も見えてきません。

西村この話は沖縄に限らないと思いますね。どこの社会でも「できそうだ」という感覚や、「やろう、気合だ」という精神論で話が進んでいき、そもそも成立条件などをしっかりと議論しないまま実行してしまうことがよくありますよね。

新竹補助金や優遇措置をつければ、はじめのうちはうまく回っていくと思います。でも、優遇措置などが終わったときに、ちゃんと自走できるかどうかが問題となります。

うるま市で波力発電装置の部品づくりを産業化しようとイメージして、1年くらい走り回っていました。でも、走り回っているうちに、「なんで俺はこんなことをしているんだろう」と思うようになり、よく考えます。すると、「これはやめた方がいい」「これはいけるかもしれない」という見極めがだんだんできるようになってきます。

もちろん、白黒はっきりとするばかりではなく、「やめたいけど、ここはやめられない」ということも、だんだんと体でわかってきます。今は新型コロナウイルスが流行してしまい、波力発電の方が手薄になってきました。そうこうしているうちに、モルディブの機械に不具合があるようなのですが、今は修理にいけません。何とかしたいと思いますけど、まだ動けないので、もしかしたら自然に淘汰されてしまうかもしれませんが。

水中で回転する波力発電機のタービン

プロジェクトは目的から考える

西村新竹さんにとって、原理に則っているというか、自然の流れのようなものがとても大事なのかなと思います。「だめなものは結果としてだめになる」というような見方ですね。そういうふうに発想するようになったきっかけは何ですか。

新竹私は九州大学で原子力を学んでいました。でも、学んでいるうちに、原子力発電のシステムが信頼性のあるものだとは思えなくなりました。原子力分野の施設は事故を起こす危険性があると考え、高エネルギー加速器の分野を学ぶことにしたのです。加速器は大型実験施設で、その分野の研究者たちは実際に建設工事にも関わります。学生だった私を待っていたのは、建設工事現場での下働きです。

当時は、人手も少なくてしごかれますから、自然と「この加速器は人類の平和のためになるのか」、「自分は何をしなければいけないか」と考えるようになりました。

西村新竹さんは何かの役に立つことを大事にされていますが、それはもともともっていたものなのでしょうか。

新竹どうでしょうね。それはわからないです。

これも昔の話になりますが、私は学位を取った後、高エネルギー物理学研究所(現在の高エネルギー加速器研究機構:KEK)の助手となり、トリスタン計画に関わるようになりました。このプロジェクトは、光速に近い速度に加速した電子と陽電子を衝突させて、新しい粒子や現象を発見しようとしたものです。かなりお金をかけたプロジェクトで、1986年に当時、世界最高のエネルギーを実現することに成功しました。

私が加わったのは、その直後で加速器の性能を上げるために「静電セパレータ」という装置の開発チームのヘッドに指名されたのです。私が担当した静電セパレータは、メーカーの技術者と一緒に開発することができて、加速器の性能を上げることに貢献しました。しかし、トリスタン計画そのものは、失敗といってもいい終わり方でした。

KEKで開発した静電セパレータの内部

トリスタン計画の大きな目的のひとつは、当時、まだ発見されていなかったトップクォークを発見することでした。でも、後から考えると、ちょうど何もないエネルギーの範囲を狙って加速器を設計してしまったのです。当然、新しい粒子は何も発見することができませんでした。今から振り返ると、とても悲しいことですが。

結果的に、失敗したプロジェクトに10年くらい関わったことになります。この経験から、プロジェクトを進めるには、しっかりと目的を考えないといけないと思うようになりました。

西村新竹先生の関わるプロジェクトはすべて成功している印象しかなかったので、失敗の話が出てくるのは意外ですね。

新竹トリスタン計画は、私が学位を取って研究者になりたての頃のものです。とても巨大なプロジェクトで、私が直接関わった装置は無事に開発できたのですが、プロジェクトそのものは失敗してしまったのです。

西村やはり、プランニングの問題だったのでしょうか。

新竹それは高エネルギー物理学の宿命ですね。高エネルギー物理学では、新しい粒子がありそうなエネルギーの範囲を理論的に予測して、その理論をもとに実験を組み立てます。でも、理論的な予測の範囲は一桁くらいの幅があります。

西村ひと桁違う。なるほど。ちゃんと考えればうまくものでもないのですね。

新竹未知の粒子の質量、つまりエネルギーは、スーパーコンピュータを使って計算しても、残念ながらわからないです。

今、世界中の物理学者がダークマター(暗黒物質)の正体を探っていますが、どのくらいのエネルギーかまったくわかっていません。これは宇宙論から計算しているので、わからないのはある意味でしかたのないことですが。

電子ビームのずれを
髪の毛の30分の1の厚みに抑える

西村でも、新竹先生の指揮した「SACLA」はうまくいきましたよね。それはなぜですか。プランニングがよかったのか、課題自体が解決可能な範囲だったのか、どちらですか。

新竹「SACLA」はかなり難しいプロジェクトでした。全長700メートルの大きな機械の場合、設計だけですべての問題を見通し、解決することはできません。ですから、まずは、使用する電気部品の信頼性や安定性を確認します。また、大きな機械の中でも、部分的に大きな負担のかかる装置が出てきます。そのため、そこに無理が集中しないように緩和する装置を入れたりして、全体として成立するようにしていきます。

「SACLA」は、最終的にX線レーザーを発生していきます。その部分は100メートルで3マイクロメートル(1マイクロメートルは100万分の1メートル)の精度が必要です。100メートルで3マイクロメートルずれると機械が止まってしまいます。ちなみに、3マイクロメートルは髪の毛の太さの30分の1くらいです。髪の毛の太さでも、その範囲を出ないように100メートル進むのはたいへんです。その30分の1の範囲からずれないようにするなんていうことですから。普通だったらそこで考えられなくなって、「やめた」と放り出したくなりますよね。

でも、結果から見れば、解決法を見つけることができました。その解決法のヒントは、重さにあったのです。例えば、無重力空間の宇宙では、宇宙船が光速に近い速度で飛んでいても、その軌道はずれません。それは宇宙船が重いからです。

「SACLA」は電子を加速させて、X線を発生させる装置なので、電子そのものを重くすることはできません。でも、装置の床下をとても重くすると、装置が揺れて電子の軌道のずれがとても小さくなります。「SACLA」の建設予定地の兵庫県佐用郡は岩盤がしっかりとしていますし、太平洋から離れているので、荒波の影響は受けません。そして、月の満ち引きや太陽の重力などを分析した結果、何らかの方法で、100メートルで3マイクロメートルの精度をつくり出せば、それをキープできることがわかりました。だから、地盤まで含めて計算し、厚さ2メートルの基礎をつくることで、安定できるように設計しました。

さらに、加速器を支える架台をコージライトというセラミックスでつくりました。コージライトは熱膨張をほとんどしないので、加速器のずれを抑えることができます。固い岩盤の上に分厚い基礎をつくり、コージライトの架台を置くことで、加速器そのものの動きを極力なくすことができました。ちなみにコージライトという名前をあまり聞いたことがないと思いますが、私たちは日常的にお世話になっています。このセラミックは、熱に強いので土鍋や自動車の排気ガスを分解するフィルターなどに使われています。

SACLAのエネルギー源であるCバンドクライストロン。SACLAにはこの装置が81本使われている。1999年に新竹さんの先輩である松本浩博士と。

西村なるほど。装置を動かないようにしておけば、一回しっかりと的に当たるように調整することで、何回でも当てられるようになるということですね。

新竹そうです。土台をしっかりさせて、装置が動かないようになったので、次の課題は、電子をどうやって的に当てるかです。電子は目に見えないので、どこを通ったか正確に測定する装置が必要になります。

実は、スタンフォードで新竹モニターをつくったときに、同時にある装置を開発していました。その装置は、ビーム位置モニターというものです。この部品は、電子の位置を0.01マイクロメートルの精度で測定することができます。

高精度ビーム位置モニター

これを10メートルに1台くらいの間隔で並べて電子を飛ばせば、電子の軌跡がわかります。ただ、最初のうちは、それが本当に電子の軌跡を測定しているのかどうかわかりません。電子を動かすとその周りに、電場と磁場が発生します。そのため、周りに磁石などがあるとその影響を受けて、電子の軌道が変化してしまいます。

「SACLA」では、電子を光速に近い速度にまで加速させることもあり、電子の軌道に一番影響を与えるのが、地球の磁場でした。地球の磁場は複雑な形をしているので、「SACLA」にどのように作用しているのかはすぐにはわかりません。そこで、装置付近の地球磁場の形をコンピューターでシミュレーションしていくのです。

西村なるほど。先に正解を考えるのですね。

新竹逆算に近いですね。例えば、加速器の磁石を変化させたら、電子はどのように動くのかを計算していきます。すると、地球の磁場の形もわかってきます。その影響も加味しながら計算を進めていくと、電子が装置の真ん中を通るような装置のセッティングが導かれていきます。

そのような作業を3か月くらい繰り返していくと、電子を狙った場所に飛ばすことができるようになります。一度できればもう大丈夫です。「SACLA」は10年以上運転を続けていますが、ずっと安定しています。安定させるまでがたいへんでしたけれどね。

当たり前のことを深く考えることで
解決策が見えてくる

西村お話を聞いていて、やはり最初が肝心なのだなと思いました。最初の課題設定がずれていると、せっかくうまくいっても、ただ一発当たっただけみたいになってしまいますよね。

新竹そうなんです。SACLAの場合は、重ければいいという発想がでてこなかったら、成功しませんでした。

SACLAのエネルギー源であるクライストロンに電力を供給するためのモジュレータの前で。目立たない装置だがとても重要な役割を担う。新竹さんは再生可能エネルギーも、目立たずに生活を支えるインフラになって欲しいと願っている。

西村最初の海を見ながらという話や、宇宙の中で宇宙船がという話を聞いていると、想像の段階で、この条件がクリアされればいけるというものがあって、それをどのようにクリアしていくかというふうに考えていくのだなと思いました。

新竹重ければ動かないよねという話は、ニュートンの第一法則です。力は質量に加速度をかけたもの(F = ma)。このF = maの方程式の両辺をmで割ると、a = F/mとなります。つまり、加速度は力を質量で割ったものであるという意味です。この式から導き出されることは、質量が大きければ、力がかかっても動かないということです。よく考えれば当たり前ですよね。大きなトラックは手で押しても動かない。

西村確かに当たり前ですね。

新竹でも、そこを深く考える必要があります。

西村この話は、先ほどの時間の使い方の話にもつながるなと思いました。どんどんと答えを出していったら、こういうふうに深く考える時間がなくなるかもしれないと。このようなやり方は波力発電でも同じなのですか。

新竹波力発電でも同じです。私がOISTで波力発電プロジェクトに取り組んだのは、海岸近くで発電すればコストを抑えることができるので、トータルで考えて発電量とそれまでに使用した電力、資金などがうまくバランスして、人類にプラスになると考えらからです。

今、世界は脱炭素化の方向に向かっています。ヨーロッパでは大規模な洋上風力発電施設がつくられていますが、ヨーロッパ近海は浅瀬が多いのでできることです。水深は10mくらいしかなく、陸上に近い感覚です。

西村確かに。ほとんど陸上ですね。

新竹日本でも洋上風力発電の実証実験などをおこなっていますが、太平洋側は浅瀬が少なく、すぐに水深の深い日本海溝になりますので、風車を立てるのが難しいのです。

再生可能エネルギーを事業化するにはコストを下げないといけないのですが、日本では洋上風力発電には設置費用がとても高くつきます。しかも、建設時に大きなエネルギーを使用するので、そのことも考えると、大気中にたくさんの二酸化炭素を放出することになります。

私が取り組んでいる波力発電は、風車を海に沈めることで、安価に発電するアイデアです。2018年に、モルディブに波力発電の試験機を設置し、発電に成功しました。この成功によって2019年7月に沖縄県恩納村の海岸に新型波力発電機を設置しています。

沖縄県恩納村の海に設置する直前の波力発電機と新竹さん

西村波力発電のしくみだけではなくて、電力全体をシステムとして考えときに、波力発電が入ることで全体がうまくいくような、パズルで足りないピースを埋めるようなものでしょうか。

新竹まだ、そのような高級な話にはなっていません。モルディブでも波力発電は採算が取れてはいないのですが、安全保障の意味合いもあり、再生可能エネルギーの発電施設を稼働させておく必要がありました。モルディブは地理的な要因から中国とインドの争いに巻きこまれる可能性もあるので。

一方、日本の場合は、コストもしっかりと考えて採算の取れる再生可能エネルギーの発電施設をつくる必要があります。私の目標としては、10メガワットクラスの発電施設を、まず北陸につくりたいですね。日本海側の海は、潮位の変化がないので、波力発電の稼働率がよくなります。また、夏場は波のない日が続くことが多いですが、その期間は、設備工事やメンテナンスにあてることができます。

波力発電システムのスケッチ

2020年10月に菅義偉首相が「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」という宣言をしました。そのための予算も組まれるのですが、それらのお金は日本だと、太陽光、風力、水素エネルギーなどの開発費にあてられていくはずです。

その話に呼応するように、ニュース番組で電気自動車の特集を放映しています。このような話題がたくさん取り上げられるようになると、電気自動車の普及に拍車がかかってくるでしょう。当たり前のことですが、電気自動車は充電しないと走れません。だから、電気自動車が普及すると、電気の使用量が今よりも圧倒的に増えます。

今は、需要が増加した分の電力を賄う方法が考えられていません。菅首相は「安全最優先で原子力政策を進める」と言っていますが、廃棄物の処理をきちんと考えないといけないなど、課題もたくさんあります。

新竹塾を開いて欲しい

西村お話を伺っていると、やはり、ゆっくりと考える時間が必要なのかなと思います。最初の状態を把握して、何が起こればいいかをしっかりとイメージすることが重要ですね。考える時間がないと、今やっていることを回していくだけで精いっぱいになりますから。

これは資本主義である限り、しかたのないことなのでしょうか。こういうことをいつまで続けるのかと思ってしまいます。人間は、ずっと先のためにがんばっていますよね。

新竹それほど心配しなくても大丈夫だと思います。子どもたちはしっかりやっていきますから。

西村そうか。そうしたらいっそ、OISTでやるのかは別にして、新竹さんのゼミというか、新竹塾が開講されると楽しいだろうなと思います。

新竹以前は数ヶ月に1回くらいのペースで九州大学に行き授業をやっていました。でも、忙しくなってしまい、今はやっていません。

西村そうなんですね。世の中に対して緩やかに考え続けられる人や、ちょっと立ち止まれる人が必要な気がします。もちろん、物理学がわからないとついていけないかもしれませんが。

新竹今の時代は、学生に余裕がありませんよね。生活をしっかりと維持しないといけないから。私は本当だったらスタンフォード大学に行くはずでした。スタンフォードにプロフェッサーの職を持っていて、それをOISTに振りかえた形になりました。OISTには工学部がないので、実質的に自分のところに学生はいません。

OISTに来る前は、トリスタンでも、SACLAでも、プロジェクトの中に学生がいました。プロジェクトには、いろいろな大学から学生が集まっていたので、そこで新竹塾のような形で鍛えていき、出ていくというようなスタイルになっていました。ですから、学生がいない状況は、OISTに来て初めての体験です。日本で波力発電機の開発を本格的にやるとなったら、重工業の企業と一緒にやる必要があるので、本州の大学に拠点を置いて、そこの学生と一緒に開発していくことになるでしょうね。

西村OISTの10年間で、以前のようにはプロジェクトを一緒にやるような学生がいない状況になって、それで逆に得られたものはあるのですか。

新竹ありますよ。妻から「自分でやるしかないでしょ」とよく言われます。自分で海に入る、自分で研究する。雑用も自分でやります。自分が直接動いて、周りの研究者がついてくるという体制になりました。

西村自分でやるようになって、考え方が変わったりしましたか。

新竹健康になりますね。

西村それはどういうことですか?

新竹自分で動くということは、自分の体力しか頼ることができません。つまり、働き過ぎなくなります。今は、自分の体力を維持するために時間を使うことが多いですね。朝、犬と走るとか、自分の使える時間の半分くらいは体力の向上にあてています。自分にはバックアップがいないので。OISTでは博士課程の学生が、教員主導のプロジェクトを一緒に進めることができないようになっているので、しかたがないですね。博士課程の学生を独立した一人の研究者として、自分自身の研究に邁進させるための取り組みです。

波力発電のプロジェクトを企業と進めるときは、二十代の新人と一緒にやりたいですね。そういう人たちと5年くらい一緒に仕事をすると、彼らは伸びていきます。ですから、結果的に、そのプロジェクトが企業内の大学のような役割をします。

西村授業がなくてもプロジェクトがあればそこが大学になりますね。

新竹そうですね。プロジェクトでの仕事が、理想的なトレーニング環境になります。

「見えていないもの」を
懸命に探す

西村今の話は、結局、何から学ぶべきかという話でもあるなと思いました。何かを実際に動かさないとわからないことがたくさんあるのだなと思います。SACLAもそうですけれど、いくら学んでも、実際に動かないと意味がないという話ですね。

新竹そうですよ。プロジェクトは成功することで、その意味を感じることができます。「学びました」というだけでは、すぐに忘れてしまいます。

西村うまくいくまでやるのは、時間もかかりますし、大変ですよね。でも、最後にうまくいったという記憶も同時に残るので、次に何かをやるときに、自分で考えられるようになりますよね。

新竹そうですね。そういう意味でも、小さいことから始めて、だんだんと大きな責任を持てるようにしていく必要がありますね。重工系の企業では、若手社員を世界中のプラント建設などに行かせます。それも大切な教育になるわけです。

西村新竹さんは、助手のときに関わったプロジェクトは失敗してしまいましたが、しっかりと結果を出していたので、「次はうまくやりたい」という気持ちが生まれて、それが学びになっているという感じですね。何かを覚えるだけの行為は、新竹さんの感覚では学びではないことになりますかね。

新竹そうですね。私は化学や生物のことはわかりません。機械系のプロジェクトしか知らないので、偏った考え方になっているかもしれませんが。

子どもの頃、新竹さんは農機具の発動機の修理をよく手伝った。スケッチは後年、そのときの様子を回想して描かれたもの

西村教育という言葉には、「教」だけでなく、「育」の文字もありますよね。教えるのではなく育つという部分が、もっと沖縄や日本で増えていけばいいなと思います。この部分はがんばってやる部分かなと感じています。

今は教育が大切といわれている時代ですが、教えない教育が増えるといいなと思いました。

新竹メーカーの中の教育は、学校をつくって教えているわけではありません。現場で何かをつくりながら、その場、その場で、日々、教え込まれるものです。

西村プロジェクトをやることでたくさんのことが身につくと思いますが、その中でものの見方がどのように鍛えられていくのでしょうか。新竹さんのお話は、ものの見方につながっていると思います。やはり、プロジェクトを一緒にやるからこそ若い人たちにも、ものの見方が伝わるものなのでしょうか。

新竹私は助手の頃に、筑波から広島県三島市まで行き、企業の人たちと週に3日くらい一緒に働く時期がありました。そして、帰り道で京都のお寺に寄っていました。心を穏やかにして、庭や山を眺めながら、「見えてないものはなんだろう」とよく考えていました。この「見えていないもの」というのは、「見落としがないか」ということです。

最初に関わった加速器のプロジェクトでは数億円規模の資金を30人くらいのチームで使いました。見落としがあると、プロジェクトが失敗して、その資金が無駄になってしまいます。プロジェクトを進めるためには、見えていないものはないという状況が理想的ですが、実現するのは不可能に近いです。でも、そういうことを考えていると、直感的に見つかることがあります。それで慌てて工場に戻ったこともあります。

今も、家にいるときも、散歩をしているときも、ほとんどそういうことを考えていますね。あと、見えているものをイメージとして再構築することもやりました。頭の中でスムーズにイメージが動くかとか、そういうことをやっていました。見えてないものを見る作業は、今も昔もよくやっています。

西村大学院時代に心理学で価値観形成について研究していたのですが、人は自分にないものを受け入れながら価値観を形成していきます。でも、成熟して大人になってくると、「もう自分の中に、ないものはない」と思い始めて成長が止まってしまいます。私は、それは思考の盲点だと思っています。どこかの瞬間で、「盲点がない」と思った瞬間に成長が止まるのだと思います。

新竹それはそうですね。「何でこのことを見落としていたのか」ということはたくさんあります。振り返るとそういうことだらけですね。それをぎりぎりのところで発見すると、「本当に盲点だったな」と思いますね。

西村予想外のところで、自分の知らないことがたくさんあるのだなと、純粋に思います。でも、それが楽しいとも感じます。新しい視点に気がつくと、同じものでも見え方が変わってきますから。

新竹確かに。沖縄は島全体をデザインできる人がいるといいですよね。瀬戸内海の直島のような感じで、沖縄自身もアートであるという発想でデザインできればいいなと思います。

西村それはとてもかっこいいですね。沖縄自体がアートであると。

新竹みなさん、普段は忙しく動き回っているので、そういうことを考える余裕がないと思いますが、沖縄をアートとして見直していけたらいいのかなとは思います。

西村同じ物理学でも、理論分野の人は、自然のしくみを理解したいとかがモチベーションになると思いますが、新竹さんはどういうモチベーションで研究をしてきたのですか。

新竹簡単にいうと闇雲ですよ。私は、自分が生きている間に結果を見たいということを目標にして研究をしてきました。しくみを活かしてものづくりをして、少なくとも自分が生きている間に結果を見たいという基準で研究をしています。

理研でSACLAのレーザー発振に成功したときの記念写真

既に開発していた
ウイルス検出法

新竹私はOISTに来てから、波力発電装置の他に電子顕微鏡の研究をしてきました。そして、2020年2月から新型コロナウイルスの研究も加わりました。この時期、東京を訪れたら、山手線の車内で、たくさんの人たちがマスクをして怯えた顔をしていました。この光景を目の当たりにして、「これはどうにかしないといけない」という思いがわき上がってきたのです。

私はこれまで生物学の研究経験はありません。しかし、ウイルスは生物なのか、無生物なのかという議論があるほど単純な構造で、小さなマシーンと言ってもいいくらいのものです。そのため、機械の知識しかない私でも理解できます。しくみをしっかりと理解できれば、どうすれば壊れるかといったことも、だいだい想像できるようになります。

そして、調べていくと、新型コロナウイルスが低濃度のアルコールに弱いことがわかってきたのです。

西村何がきっかけで、この結論にたどりついたのですか。

新竹ウイルスはアルコールに弱いということはもともと知られていました。WHOで公表されていた手指消毒に使うアルコールの基準は濃度80%です。でも、この濃度だと他のことに応用しにくいので、その後、さらに調べていきました。すると、神明朱美さんが2019年に発表した「殺菌・抗ウイルス効果に及ぼすエタノール濃度の影響」という博士論文にたどりついたのです。その論文を読んでみたら、30%の濃度のエタノールでいろいろなウイルスが不活性になると書いてありました。過去の論文を調べたりすると、25〜30%でウイルスが不活性化するという論文が複数見つかりました。

そこで、自分たちで測定し直したらところ、最終的に、17%のエタノールで新型コロナウイルスが不活性になるという結果が出ました。この濃度であれば、アルコールの蒸気を吸入することで、喉までアルコールが届きます。この結果を、arXiv(アーカイブ)という論文をいち早く世界中に公開するWebサイトで3月に公開しました。このときは、「エタノールで、上気道から肺にかけて新型コロナウイルスを不活化できる可能性がある」と書いただけです。この論文の読者はすぐに2万人を越えました。今は毎日のように、海外からこの論文に関するメールがきます。

西村それはすごいですね。

新竹私は専門が物理なので、医療関係の論文を書いたことがありませんでした。ゼロから勉強して、勇気を出して発表したのが実情です。

西村ところで、手指消毒のアルコール濃度は、なぜ80%なのですか。

新竹まあ、いろいろな条件がありますよね。ウイルスは、コロナウイルスだけではなく、アデノウイルス、ライノウイルスなど、たくさんあります。それらのウイルスへの影響も考えて濃度80%というラインを定めたのだと思います。

西村なるほど、包括的なラインというわけですね。

新竹そうですね。WHOがこのように定めているので、誰もが半ば常識のように考えが固定されてしまったわけです。でも、新型コロナウイルスに対しては、20%の濃度でも効果がありました。

この論文は、アメリカの医師の目にとまったようで、その医師の病院では、新型コロナウイルスに感染した患者に低濃度のアルコール蒸気を吸引する治療もしているといいます。結果がまとまれば、アメリカ国立衛生研究所(NHI)に報告するそうです。私の論文は、学術雑誌には掲載できませんでしたが、たくさんの医師に興味をもってもらえたのでよかったかなと思っています。

西村私はお酒を飲まないのですが、飲んだ方がいいのかなと思いました。

新竹無理に飲む必要はないですよ。例えば、ふたのついたカップの中に焼酎やウイスキーをしばらく入れておいて、そこに溜まる蒸気を嗅ぐだけでも大丈夫です。

西村飲まなくてもいいのですね。

新竹アメリカで実践している人たちは、40%のウイスキーの蒸気を嗅ぐ人が多いですね。実際にウイルスに感染しているのは、鼻の奥がほとんどです。鼻の奥には嗅覚器があります。そこにウイルスが感染しやすいみたいです。ただ、ここに液体のアルコールを直接当ててしまうと神経を刺激して、バランスを失いやすいので、あまりお勧めはしません。

西村そうか、飲む必要はないし、嗅ぐのが良いですね。

新竹1分くらい嗅げばいいと思います。テレビでも観ながらやってもらえればいいのではないですか。

話は変わりますが、最近、超高速でウイルスを検出する技術を考えつき、アメリカで特許出願をしました。最終的には、10秒でウイルスを検出する機械をつくって、できれば空港に設置したいと考えています。これはおもしろいですよ。実現したらワクワクします。

西村それは本当にすごいですね。

新竹振り返ってみると、これまで私が取り組んできたのは、自分でハンドリングできる範囲のものでした。自分の手が届いて役に立つものをつくることができそうだという時点でワクワクします。今年の秋頃には1号機ができるのではないかと期待しています。

実は、この装置は新竹モニターの応用です。実は、つい最近まで忘れていたのですが、新竹モニターの原理そのものが、ウイルス検出器であると気がついたのです。

新竹モニターの前で(スタンフォード加速器センター100年史より)

西村そうかなるほど。新竹モニターは、電子が通ったことを検出するための装置でしたね。検出する相手が電子からウイルスに変わってもいいということなのですね。ウイルスは電子に比べたら圧倒的に大きいから、ウイルスも検出できるのですか。よく考えたらわかると思うのですが、お話を聞くまでまったく思いつきもしませんでした。これも、自分の考えの盲点ですね。

新竹新竹モニターでは、電子ビームが60ナノメートルまで絞られたことが確認されています。それはまさにウイルスの大きさです。それがすぐにつながらなかったのは、私にとっても盲点だったのです。

西村人の考えには、そもそも盲点があります。まず、盲点を潰した方がいいとよく言いますけれど、自分が盲点だらけなので難しいですね。

新竹そう思います。

西村お話を聞いていて、自分の盲点を潰したい気持ちでいっぱいです。やはり、ものの見方がとても大切だなと思いました。同じ海の波を見ても、エネルギーの塊だと思ったのは、新竹さんしかいなかったということがすべてを物語っていますよね。

この記事は、ミラツクが運営するメンバーシップ「ROOM」によって取材・制作されています。http://room.emerging-future.org/

この記事は、OIST(沖縄科学技術大学院大学)とNPO法人ミラツクによる共同プロジェクトとして制作・運営しています。https://www.oist.jp/ja

新竹さんは巨大な実験装置をつくり、自然のしくみを解き明かす実験物理学に長年取り組んできました。実験物理学の研究は、物理学の理論を頼りにしながら、どのような装置を設計するかから始まります。新竹さんが取り組んできた高エネルギー物理学は、この宇宙の根源と考えられる素粒子を対象にしています。とても小さな素粒子を加速、衝突させることで、まだ知られていない新しい素粒子を探し、物理学の理論を発展させようとしてきたのです。

素粒子の実験に使用される装置は全長数十キロメートルもの巨大なものとなります。当然、お金もたくさんかかります。最先端の研究では100%成功するものは存在しませんが、たくさんのお金をかけているために、何らかの成果が求められます。新竹さんの独特の視点やものの見方は、そのようなプレッシャーのかかる研究プロジェクトの中で培われてきたのだと感じました。

また、新竹さんは理論を駆使するだけでなく、自分の体験から得られた情報も活用することで、関わってきたプロジェクトを成功に導いてきたのだと思います。現在、天気予報の分野では、シミュレーションによる予報の精度を上げるために、実際に観測されたたくさんのデータをシミュレーションに反映させる「データ同化」という手法が使われています。

お話を聞いていて、新竹さんのプロジェクトの進め方は、このデータ同化を一人でやっているのではないかと思います。このような考え方やものの見方は、経験を通してでしか身につかないでしょう。プロジェクトは単にものをつくったり、研究を進めたりする場だけではなく、このような考え方やものの見方を伝え、身につけるための場として、うってつけだったのだなとも思いました。

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荒舩良孝 ライター
科学ライター/ジャーナリスト。科学の研究現場から科学と社会の関わりまで幅広く取材し、現代生活になくてはならない存在となった科学について、深く掘り下げて伝えています。最近は、研究者と市民の間にあるギャップを埋められないかと考えています。『重力波発見の物語』『宇宙と生命 最前線の「すごい!」話』などの著作あり。