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共創が生まれる空間デザインは可能なのか? 4人の実践者に聞くトークセッション【京都流議定書2017】

シンポジウム

家、学校、会社、カフェ、あるいは駅や電車のなか。
ふだんは、あたりまえすぎて意識しない人も多いかもしれませんが、それぞれの空間には「どんな風に振る舞うべきか」というルールがあります。自宅の寝室やお風呂ではリラックスしてよいし、会社の会議室ではきちんと座っていたほうがいい、という風に。

もし空間が人の行動に作用するのなら、“共創”が生まれる空間をデザインすることもできるのではないか――2017年8月3日に開かれた「京都流議定書2017」のセッション3では、「共創が生まれる空間のデザイン」をテーマに、異なる分野で空間づくりに関わる4人のゲストと2人のコメンテーターによるディスカッションが行われました。司会進行はミラツク代表・西村勇哉です。

登壇者プロフィール
筧裕介(かけい・ゆうすけ)
NPO法人issue+design 代表理事。
1998年、「株式会社博報堂」入社。2008年、ソーシャルデザインプロジェクト「issue+design」を設立。以降、社会課題解決のためのデザイン領域の研究、実践に取り組む。代表プロジェクトに東日本大震災支援の「できますゼッケン」、子育て支援の「日本の母子手帳を変えよう」他。主な著書に『ソーシャルデザイン実践ガイド』(英治出版)など。グッドデザイン賞、竹尾デザイン賞、日本計画行政学会学会奨励賞、カンヌライオンズ(フランス)など、国内外の受賞多数。
塩浦政也(しおうら・まさや)
日建設計株式会社 NAD(Nikken Activity Design)室長。
日本最大の建築設計事務所である「日建設計」で、スカイツリータウンをはじめ、さまざまなプロジェクトに取り組む。2009年から、ハコモノをつくらない新たな事業チームを立ち上げ、2013年に新規事業としてNADを設立。NADでは、空間におけるアクティビティのデザインに取り組む。
http://www.nikken.jp/ja/nad/
高嶋大介(たかしま・だいすけ)
富士通株式会社 ブランド・デザイン戦略統括部 デザインシンカー。富士通総研 実践知研究センター 研究員。
大手ゼネコンにて現場管理や設計に従事後、2005年に「富士通株式会社」入社。ワークプレイスやショールームデザインを経て、現在では企業のワークスタイル変革や自治体の将来ビジョン、地方創生のデザインコンサルティングなどを担当。「社会課題をデザインとビジネスの力で解決する」をモットーに活動中。「HAB-YU」を軸に人と地域をつなげる研究と実践を行う。富士通グループは、大田区の「FUJITSU Knowledge Integration Base PLY(通称PLY=プライ)」や、浜松町の「FUJITSU Digital Transformation Center」など、「共創」の場を広げている。
http://hab-yu.tokyo/
村上豪英(むらかみ・たけひで)
アーバンピクニック 事務局長。神戸モトマチ大学 代表。株式会社村上工務店 代表取締役社長。
小さい頃から自然に興味をもち、京都大学大学院で生態学を学んだ後シンクタンクに勤務。その後、「自然を破壊する力をもつ建築の世界に飛び込んでこそ、自然を守り育てる力を持ち得る」と考え、村上工務店に入社。2002年に神戸青年会議所(神戸JC)に入会した後、日本青年会議所の議長などを経て、2012年度に神戸青年会議所第54代理事長。2011年に神戸モトマチ大学を設立。2015年より、神戸市内の公園「東遊園地」にて「アーバンピクニック」を開始。
http://urbanpicnic.jp/
仲隆介(なか・りゅうすけ)
京都工芸繊維大学 デザイン建築学系 教授。1957年大分県生まれ。1983年、東京理科大学大学院修士課程修了。1983年、PALインターナショナル一級建築士事務所。1984年、東京理科大学工学部助手。1994年、マサチューセッツ工科大学建築学部客員研究員。1997年、宮城大学事業構想学部デザイン情報学科専任講師。1998年、同大学助教授。2002年、京都工芸繊維大学デザイン経営工学科助教授。2007年、京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科デザイン経営部門教授。新世代オフィス研究センター長、公共建築協会次世代建築研究会新ワークスタイル部会長、国土交通省知的生産性研究委員会建築空間部会委員、日経ニューオフィス賞審査委員など、様々な機関で研究、啓蒙活動を展開するとともに、様々な企業においてワークプレイスデザインを実践している。
馬場正尊(ばば・まさたか)
オープン・エー代表取締役/建築家 /東北芸術工科大学教授 1968年佐賀生まれ。1994年早稲田大学大学院建築学科修了。博報堂、早稲田大学博士課程、雑誌『A』編集長を経て、2003年オープン・エーを設立。 都市の空地を発見するサイト「東京R不動産」を運営。東京のイーストサイド、日本橋や神田の空きビルを時限的にギャラリーにするイベント、CET(Central East Tokyo)のディレクターなども務め、建築設計を基軸にしながら、メディアや不動産などを横断しながら活動している。

地域の木材を使い、共創による新しい仕事をつくる「さかわ発明ラボ」

筧さん今日はクリエイティブディレクターとして、共創をテーマにしたまちづくりのお仕事をさせていただいている、高知県の佐川町という人口1万3000人の町のお話をします。

佐川町は、高知市内から車で約1時間の山あいにある美しいまちです。著名な植物学者・牧野富太郎の出身地、あるいは高知の蔵元「司牡丹(つかさぼたん)」のある町としてご存知かもしれません。僕らがこの町に関わるようになったのは4年前。これからの10年ビジョンを決める町の総合計画を住民参加のもと、共創型でつくっていくお手伝いをしました。

2年間で17回、約300名の住民が参加する、未来づくりのワークショップを開催。住民の皆さんから出てきた、これからの10年でやりたい453の「未来アクション」をまとめて、「みんなでつくる総合計画:高知県佐川町流ソーシャルデザイン」という書籍もつくりました。この書籍は町内全戸に配布し、また書店でも販売しています。


「第5次佐川町総合計画」PDF版

このワークショップで一番議論になったのは、若い人たちが地域に残りたくても、仕事がなくて流出してしまうという課題でした。そこで、町の資源である木材、特にC材(角材や合板がとれない細い木や曲がった木)の活用を検討。デザインとデジタルを掛け合わせて新しい仕事をつくろうと始まったのが、2016年4月にオープンした「さかわ発明ラボ」のプロジェクトです。

僕たちは「ものづくりの民主化」という言葉を使っているのですが、インターネットとデジタル機器の普及によって、個人がつくりたいものをつくって生計を立てられる環境が整いつつあります。「さかわ発明ラボ」では、住民みんなの共創によって新しいものをどんどん生み出す活動をしています。

たとえば、「住民の人たちの健康づくり」という課題において、「座るベンチがあれば散歩したくなるんじゃないか」というアイデアの実現もそのひとつ。人と会って話したり、休憩できたり、花を眺められるベンチを町にどんどん増やそうと、お子さんから高齢の方まで約30名が参加してベンチづくりをしています。

まずは、みんなで町を歩きながら「どこにどんなベンチがあるといいか」をフィールドワーク。6チームに分かれてボール紙で実物大の模型を制作し、現場に持って行って大きさや高さを検証しました。ラボのなかには、大型のデジタル加工機器があり、デジタルデータからかなり精密に木材を切り出すことができるので、皆さんの考えたものをすぐかたちにできます。

ベンチは、1台ずつみんなでやすりがけや塗装をし、最終的には設置場所で組み立て。今は6台のベンチができあがっています。ユニークなものでいうと、「牧野富太郎先生に腕枕してもらえるベンチをつくりたい」と言った子がいて、牧野先生の全身とお花の絵をレーザーカッターで刻印したベンチをつくりました。こうしてみんなでつくり上げていくと、みんながベンチに対して愛着を持ってくれますし、月に一回メンテナンスも行っています。

また、「さかわ発明ラボ」では、外部のデザイナーや研究者と一緒に「この木材で何がつくれるだろうか」を考えるワークショップも開催しています。すでに発売されているのは、東京大学で音の研究をしている研究者のアイデアから生まれた「write more」という製品。筆記音を大きくすることで書くことを楽しむというボードです。地元の福祉作業所で制作をし、地元のガソリンスタンドで販売をする、というコラボレーションによってひとつの商品を販売することにトライしました。

やはり、共創という環境をつくるためには外から、そして内から、いろんな方が関わる多様性が非常に大切です。このラボの活動を通じて移住促進にも取り組みながら、いろんなかたちでいろんな人がコラボレーションしながら、佐川の木材を使った新しい仕事をつくっていく、共創空間をつくりたいと思っています。

建物をいったん人間のアクティビティに分解する

塩浦さん日建設計は、「東京スカイツリー」など、かなり大きな建物を設計するファームです。ところが、近年は「こんな建物つくってください」っていうような依頼よりも、「企業のブランディングをしたいんだけど」とか、「地方を何とか活性化したいんだけど何かつくれませんか」という依頼が多くなっています。

たとえば、2015年にインテルは、何もないアリゾナの砂漠の真ん中で「Drone100」というイベントを行いました。一方で、2015年の渋谷のハロウィンは、誰も仕掛けていないのに奇天烈な若者たちがわんさか出てくる現象が起きました。これは一体何なのか。SNSによって起きた「ジャスミン革命」も、記憶に新しいと思います。設計事務所もデベロッパーも電鉄会社も、誰もコントロールしていないのに不思議な現象が起きている。これらはとても今日的なことです。

私どもの設計事務所が、口を開けてのんびりと与件を待っているだけでは、なかなか捉えづらい現象が洋の東西かかわらずぼこぼこと出てきているわけです。

会社名や業界名に基づくポジショニングトークだけでは、どんどん零れ落ちてしまうような新しいアクティビティというものが問われている。これに対して「建築家の末裔であるNikken Activity Design(NAD)はどうしていこうか?」というのが私どもの問いのベースです。そのためには、オフィスではなく「働く」を設計するというように、ハコモノをいったんアクティビティに分解してみる。非常に真面目な人間中心主義に戻ってみることが大事だと考えている次第です。

巨大ファームである日建設計が、「建築家は、図面を引く人、手段を司る人ではなくて、課題を可視化する人なんだ」と定義を変える。そして、「ユーザーの能動性を豊かにするデザインを生み出すことで、空間や社会にイノベーションをもたらすことを目指す」というマニフェストを出すことには、価値があるのではないかと思っています。

私たちは、クライアントと契約をさせていただく前に、「能動性を豊かにしたいですか」「イノベーションをやりたいんですか」という質問をします。「能動性を豊かにする」「イノベーションを起こす」ためには、お金も覚悟も必要です。「ぜひやりたい」と応えてくださるクライアントは10社に1社くらい。そういったクライアントとイノベーションを起こすプロジェクトを、ものすごく大事にしています。


私たちのプロジェクトでは、デザイン案の段階で約8割のエネルギー、お金と時間を使います。具体的に何をするかというと、現場と社会課題を実際に見に行きます。たとえば、NADが保育園のデザインを手がけたときは、神奈川県の認定こども園を40件くらい見学するフィールドワークを行いました。

つまり、デザインを描くまでの段階できちんと問題を可視化することが非常に大事だと思っています。試しにつくって意味がないと思えば捨てていく態度は必要ですし、どんどんつくっていくことも大事にしたい。そして、初期の段階では、「何をデザインするか最初から決めない」ことがポイントです。目的が変わればつくるものも変わりますので、「NADに頼めば何かつくってくれる」と思ったら大間違いでして、「つくらない」という結論もあるというスリルもあります。

日建設計の組織の中で、大企業であるとか行政上の方々とイノベーションプロジェクトを行っているというチームがあり、それがNADだと。まずは、こんなふうに思っていただければ幸いです。

人と地域と企業を結い合わせる共創の場「HAB-YU」

高嶋さん僕たちは2014年の9月に「HAB-YU platform(HAB-YU)」という場所を東京・六本木1丁目にオープンさせました。HAB-YUという名前は、人「Human」・地域「Area」・企業「Business」(=HAB)を多種多様な方法で「結う」(=YU)ことを意味しています。あらゆるところに存在する課題、アイデア、技術を集めることで、一緒に解きほぐし、結いなおす場所というコンセプトで活動しています。

HAB-YUは、基本的には富士通のデザイン部門が関わるプロジェクトに優先して使ってもらっています。これまで、富士通のなかで、デザイナーの仕事は商品開発のプロセスの後工程に入っていて、色やかたちのデザインをしていることが多かったんです。HAB-YUは、僕ら富士通のデザイナーが前にたちお客さんとの接点をつくることで、商品開発の前段階にある行動や仕組みのデザインに取り組むために生まれました。

最近、営業からHAB-YUへの相談の8割くらいは「自社の強みを活かして、新規事業をしなければ、何かしないといけないと言う気持ちはあるけれど、というお客さんに対してどうしていいかわからない」と言う方は多くいらっしゃいます。そういう方たちと対話をしていくと、そもそも根っこになる「解決したい課題」が見えていないんですよ。HAB-YUでは、こういう相談に対して、課題の可視化をお手伝いしながら、富士通として何ができるかをお話しする役割をしています。


HAB-YUの空間(プロトタイプで構成されている)

HAB-YUの空間は、「目的に合わせて場を変えていく」というコンセプトでつくりました。什器の置き方によって、「この空間で何が出来るか」が左右されないように、すべてプロトタイプで構成しています。たとえば、机の天板はホワイトボード。足の部分はツールキャビネットになっていて、ペンや付箋紙などワークショップで使う文具が一式入っています。

HAB-YUができてから、富士通も「共創する場はいいものだ」とわかってきて、2016年には富士通のシステムエンジニア(SE)が集まっている蒲田のソリューションスクエアの一角に、SEがお客さんと共創する場「FUJITSU Knowledge Integration Base PLY (PLY)」をつくりました。工数に制約されるSEの動き方を変えて、お客さんと一緒にPLYに来てもらうことができます。

ほかにも、浜松町にあった富士通のショールームを、共創ワークショップ空間「FUJITSU Digital Transformation Center(DTC)」にしたり、六本木に会員制DIY工房「techshop Tokyo」をつくったり。富士通全体に、共創の空間、お客さんとの対話の場がたくさん生まれています。


FUJITSU Knowledge Integration Base PLY (PLY)

共創ワークショップ空間「FUJITSU Digital Transformation Center(DTC)」

HAB-YUで私たちは、ワークショップをしたり、フィールドワークを通して“兆し”を見たりしながら、世の中にないものを目指しています。あとは、本当に「何をしたいか」が見えていないお客さんが来られたときに、まずはビジョンを一緒につくっていくこと。我々も、このパートに一番時間を使っていますね。

また、六本木という立地を活かして地域と都市を結ぶ活動もしています。地域の人は「都会の人に来てほしい」「都会の人に買ってほしい」と思っている一方で、「都会の人が地域に求めるもの」をわかっていないことがあります。そういうときに、隣のアークヒルズで開かれているマルシェを使ってテストマーケティングをしたり。地域と都市を結ぶことで見えてくる課題を、できれば富士通と一緒に解決できないかなと思っています。

個人的には、HAB-YUが空いている時間をフルに使いたいと思っていて。いろんな方との対話の場をつくったり、コミュニティをつくることもしています。そういうなかから、次の兆しを探していく、自分たちの次のご飯のタネを探していくこともしています。HAB-YUも3年が経って、他にも共創の場はたくさん生まれてきています。我々も、そういった場を使って次のステージに上がっていかなければとも思っています。

放置されていた公園を市民みんなで共創する

村上さん私は、「共創が生まれる空間」ではなくて「空間を共創してみたらどんなことが見えたのか」ということをお話したいと思います。

神戸は海と山が近く、コンパクトシティとして生きていかないといけないのに、市役所に隣接する東遊園地は、砂漠みたいな状態で放置されていたんです。公園が良くなれば、周りの土地の価値も高まるはずだし、公園を拠点としてWalkableなまちに変わっていけるのではないかと思い、「東遊園地を日常的に豊かに過ごせる公園にしよう」と神戸市に提案しました。

ところが、公園を管理する部署の方は「村上さん、公園っていうのは誰も使わないからクレームもないんですよ」と、目ではっきりとわかる意思表示をされまして(笑)。それなら、まずは自分たちでやってみようと、2015年の春に東遊園地に芝生を植えてみたところ、いきなり人がやってきてにぎわいができてきたんです。

そうなると、市役所は隣接していますから、すぐに「うまくいったよね」ということが共有できまして。「村上さん、何もしないでほしい」と目で訴えてきた公園を管理する部署の方も、「芝生は素晴らしい。ぜひ公園を変えていこう!」と変わってきたんですね。空間の持つ力ってすごいなと思いました。私たち自身は「一般社団法人 リバブルシティ イニシアティブ」を立ち上げて、東遊園地で学生さんによるガイドツアーしたり、カフェをしたり、いろんなプログラムを実施しています。


東遊園地で行われる社会実験「アーバンピクニック」のウェブサイト

こうした実験をしているとき、私の頭のなかにはずっと「公園を育てるということにどれだけ多くの市民が参加してくれるか」という言葉が巡っていました。

使われていない公園を空間的に素敵なところにして、芝生を植えたり、カフェやイベントを開けば人は来ます。でも、「そのこと自体がすごいことなのかな?」と思うんです。使われていない公園を眺める僕らの姿が「傍観者」だとしたら、「公園に芝生やカフェやイベントがあるなら行こうかな」と選んでいる自分は「消費者」です。そうではなく、「その場所を自分たちでつくれる」ということの方がはるかに素晴らしいですし、それが市民力ではないかと思うんです。

東遊園地では、公共空間を育てることによって僕たち自身の市民力も育てていこうと、いろんなメニューをつくっています。ひとつは「アウトドアライブラリー」。「一人一冊」と限定して市民の皆さんに寄贈をお願いしています。「自分が寄贈した本はこれだ」という、思いのこもった本をくださるんです。すると、一冊ごとに市民の思いが公園に集まるし、公園としての魅力もあがりますよね。本の説明は、子どもたちにも書いてもらっています。「子どもだって公園を良くする側に回るぞ」というわけです。

ほかにも、別のイベントで使った芝生をもらってきて植えなおすことで、芝生をくださった方に参加意識を持っていただいたり、市民から集めたTシャツでガーランドをつくったり。そうしていると、頼んでもいないのに公園を良くする側に回る市民も生まれてきて、いいダイナミズムだなと思っています。「公園を育てる側に回る」ことをスムーズにわかってもらうために、「本を寄贈する」「ガイドツアーに参加する」などのスターターキットも用意しています。

大阪や京都では町衆がまちをつくってきた歴史がありますが、神戸は行政がまちづくりをリードしてきました。ところが、阪神・淡路大震災以降は行政にお金がなくなって手も足も出なくなり、市民が自らまちづくりに関わる動きが生まれました。震災から22年が経つ今、ようやく財政を立て直した行政と市民が恊働する思いが満ちあふれ始めています。我がまちに、そういう風土ができ始めているのがうれしいし、この公園での取り組みがその一歩になっていると感じています。

建築空間とアクティビティの間にはどれくらいの距離があるのか?

西村それでは、コメンテーターの仲先生と馬場さんにも加わっていただきディスカッションに入っていきたいと思います。まず塩浦さんに伺います。「建物がある」ということと「人が動く」ことの間には、実際にはどのぐらい距離感があるのでしょうか。

塩浦さんまず、完成までの時間的な距離があります。たとえば、新築の建物をつくる場合、住宅でいえば1年、オフィスビルなら1年半とか2年とか。次に、竣工したあとに皆さんがその建物に馴染む時間。新築の建物に入るとみんなうれしくなっちゃって舞い上がるのですが、半年ぐらい経つと慣れますよね。そこからが勝負で、それらをうまく使いこなすまで、1年ぐらいの時間を見ておいたほうがいいと思います。

アクティビティと建築の間の距離は、人、それからチーム、あるいは風土にもよると思っています。空間軸と時間軸を見ながら距離を計測して、その空間との関わりを「自分ごと」にしていただくのがプロの仕事なのかなと思っています。それには1年かかるときもあれば、1カ月で済むときもあるし、10年見ていく必要があるかもしれない。距離を短くするというより距離をきちんと計測していくということが、今の西村さんの質問に対する私なりの答えです。

西村さん今の話を踏まえて筧さんに伺いたいのですが、地域に入って行かれるときの距離感、「どうすれば一緒にやってもらえるのか」「使ってもらえるのか」ということをどんな風に考えておられますか?

筧さんつくりたい場所と住民の方の間の距離みたいなものは、確かにすごく丁寧に探りますね。やはり、「何をつくるか」の種みたいなものを、まちとまちの人たちの気持ちのなかから見つけ出すためのプロセスが一番大切です。

佐川町の場合は、総合計画の10年ビジョンをつくるなかで、まちの人たちの声を丁寧に聞きながら、新しいアクションへの覚悟をつくることを大事にしました。また、「さかわ発明ラボ」ができたときも、かなりハイテクな機器が並ぶ工房でしたので、まちの人たちが興味ありそうなものとデジタルの世界をつなぐワークショップを丁寧に企画しました。

西村相手に近寄って距離を縮めることもできるということですね。デジタル工房と地域の方の間にある距離を考えて、一緒にできそうなことを見つけていくのでしょうか。

筧さん距離の取り方は、来てもらいたい人によって変わります。子どもは、ちゃんと誘えばけっこう来てくれますので、比較的新しいものやおもしろいものを設定して飛び越えてもらってもいいかな、と。でも、高齢者の方に来てもらいたいなら、そちら側に寄り添ってみたいなことはすごく丁寧に考えた設計をしました。

西村空間を使ってもらう、参加してもらうためにどうやって距離を超えていくのかということについて、馬場さんか仲先生に伺ってみたいです。

馬場さん僕は建築が専門なので、距離感を「スケール」に置き換えて聞いてました。近代では、エリアとか建築を考えるためには、小さい縮尺から大きい縮尺にスケールをリアルにしながら計画的に物事を詰めていました。しかし最近は、そのプロセスが逆転している感覚があります。

つまり、「計画する>つくる>使う」という順番で物事が進んでいたのが近代だとすると、最近は「まず使う>つくる>計画する」という逆のプロセスで物事が動いていて、そっちの方がドライブがかかっているように感じているんですね。

行政や建築家や設計者から、リアルに使う人の方に完全に主導権が移っている。僕が「空間の運営をしなきゃ」と思ったりするのも、今は空間の当事者の方、1分の1のスケールの方にいないと、設計ができなくなっちゃうんじゃないか、という感じを持っているからなんです。今日のゲストの布陣を見ても、みんなそれに気がついて、使う側から思考しているのだなあと解釈しています。

アクティビティが生まれることを後押しする空間の可能性

西村何か生まれることを後押しする、そういう空間をつくることは可能なのでしょうか?

仲さん学術的に言うと、近代は「環境行動決定論」、つまり建築をつくれば人間はその機能に従って動くと考えました。たとえば、「コミュニケーションスペースをつくればそこでコミュニケーションが生まれるだろう」ということを前提に設置をしたのですが、実はそんなこと起きないわけですね。そこで、次に出てきたのが「相互作用論」。人間の行動と建築が相互作用しながら、行動がだんだん決まっていくという考え方になってきていますね。

僕がすごいなと思ったのは、伊東豊雄さんが設計された「せんだいメディアテーク」です。これまで図書館は図書館として設計し、美術館は美術館として設計し、コミュニティスペースはコミュニティスペースとして設計していたけれど、伊東さんは図書館とギャラリーとスタジオを同じ建物のなかにつくり、人間と空間が相互作用する余地を残したんです。

「こういうふうに行動しなさい」と決めつけるのではなくて、「この空間をこう読み取れるんだ」と気づかせてくれる、促しを受ける。そんな空間がいいんじゃないかなと思います。

西村ちょっと分かってきた気がしました。高嶋さんと村上さんに伺いたいのですが、お二人は、空間をつくりきる手前で手を止めているように思います。でも、ゼロだと駄目なんだろうなと思うんです。ゼロ過ぎても、つくりすぎてもアクティビティは起きないかもしれない。その、人の行動を促すときの塩梅について、感じていることがあれば伺ってみたいです。

村上さん「市民の方々に参加してもらえる公園をつくりたい」という全国の自治体の方などが視察に来られて、「村上さんみたいに、自分で動いてやる人がいないときはどうしたらいいでしょうか」と聞かれることがあります。

もし、空間を先につくる場合は、その空間のゴール設定だと思います。「たくさんの人が使いました」だけでは、消費者目線の市民を増やすだけになります。そうではなく、新しい公園を使い始める市民たちが「ひょっとして、自分にはこの空間をつくる力があるんじゃないか」というゴールを設定できたら、次第にアクティビティが優先していくのではないかと思うんですね。

西村その場合も、最初につくられる空間がちょっと素敵で、何かやってみたくなる空間である方がスタートを切りやすいのではないかと思うんです。アクティビティを生みやすい空間があるなら、どんなものか知りたいです。

塩浦さん「いい公園」って、必ずイチャイチャしたり、意外な使い方ができる「名もなき空間」が含まれていると思うんです。「セクシーな空間」と呼んでいますが、僕はそういう空間をつくりたいと思っています。

ニューヨークに「The Cooper Union」という歴史ある芸術系大学がありますが、そこの校長が「きっと縦につながると何か来るはずだ」と床に穴を開けていたら、後にそこにエレベーターが入ったそうです。「どれだけ先を見越して名付けえぬ空間を用意できるのか?」を考えていて、何となく見えてきたのはガウディの「サグラダ・ファミリア」。完成しないから人気があるのだと思うんですよね。

空間は完成したら終わりなんですよ。常に穴を開けてみたり、変な場所をつくるっていう意味で、セクシーな空間には相互乗り入れみたいなところがある。そういった空間を持っている街っていうものは強いですし、だから京都はすごく人気があるんだと直感的に思ってます。

人が自然に語り出し、行動を始めるために何が必要か

馬場さんどういうものがあれば、空間のコミュニケーションのトリガーになるか。空間のセッティングがあるといいかみたいな問いだったと思うんですが、キッチンや食事をする空間など、人間の最も原始的な行動をする空間がポンとそこにあると、コミュニケーションが生まれやすいことに気が付きました。

うちの事務所も、40〜50人ぐらいのシェアオフィスになってるんですけど、巨大なキッチンをつくったんですよ。すると、キッチンの周りで出会いも会話も起こっていくんです。やっぱり「食べる」っていう、人間の原始的な行為を共有しているからなのかなと思いました。

西村それは「食べる」ってこと自体が重要なのか、あるいは原始的な行為であれば「寝る空間」みたいなのも効果的なのでしょうか。

馬場さん原初的な活動のなかで、「排泄する」「性交する」とかはオープンにできないじゃないですか。「寝る」も比較的プライベートなので、オープンにしていいのは「食べる」くらいしかないかもしれません。

高嶋さん空間には、何となく「何をしてもいい場所なんだよ」というオーラが宿ると思っていて。さっき塩浦さんもおっしゃっていましたが、落書きが多い場所では落書きをしていいと思われるとか、場には人の行動を促す作用があると思うんですね。HAB-YUでいえば、空間はきれいに整えていないんです。カチッとしすぎない、その不規則によってすごく人がリラックスできるということもあるのではないかと思います。

西村高嶋さんは、HAB-YU のなかで共創が起き始めているなと思ったきっかけは何かありますか?

高嶋さんHAB-YUは広告宣伝を一切していないんです。ところが、半年ぐらい経つと、一度来た人が「おもしろそうだから」って勝手にほかの人を呼び出したんです。すると、僕らが普段接点を持てない人たちが人づてに来始めた。「何が起きているんだろう」って思いました。

すると「何かここはおもしろそうですよね」って来た人たちに対して、「せっかく来てくれてるんだから何かしましょう」と応えていく。場があることによって人が来てくれて、人が来ることによって変化が生まれることを、1年ぐらい経った頃に気がつきました。


西村「何かできそうだよね」を扱うっていうのは、すごくおもしろいです。普通だと「ちゃんと考えてから言ってください」「プランニングしてから来てください」みたいな話になってしまう。「何かできそうだよね」を受け止めるのは、人なのか。あるいは空間として固定できるものなのでしょうか。

仲さん全然まっすぐな答えじゃないんですけど、うちの研究室でカルチャーの枠組みを超えた共創空間の研究をしていて、出てきたのは、「人が安心できる場である」ということ。あるがままに感じたことを言ったり、自然に行動したりする前に、自分で勝手にルールを決めて、「これは言えない」「言っちゃいけない」とか、内部のディスカッションで止まっちゃう。もし、安心してそこでやりたいこととか言いたいことが言える状況になれる空間があれば、素晴らしい共創の空間になると思うんですね。

西村「安心」っていうのは「こういうことは言ってもいいんだ」っていう感覚ですか。

仲さん「やっちゃいけない」という枠組みは人によって違いますが、社会性があるほどに強くなるんですよ。たとえば、僕らが富士ゼロックスさんの共創空間で提案したのは、学生に空間をハッキングさせること。学生20人が好きなことを、たとえば床で寝る子もいるんです。すると「オフィスで寝ていいんだ」みたいになるし、これまでと違うレベルで空間を考えられるようになってくるんですよ。空間とは関係ないですが、枠組みを越えやすい人がいると、トリガーになると思います。

空間をデザインする数百の要素に目を向ける

筧さん僕は、新しいオフィスを1年前ぐらいにオープンしたのですが、いろんな人が来たときに、うちのプロジェクトに参加してもらえるような仕組みをつくれないかなと考えたんですよね。自分がやりたいことって聞かれてもすぐにはわからない。誰かがやりたいことの話を聞いたときに、「自分はこういうことがやりたいのかも」みたいに、思考との連鎖や衝突が起きて、はじめて自分の気持ちに気づいて活動が生まれると思うんです。

今は、1.2m×2mのパネルに、プロジェクト単位の企画書やアイデアのポストイットを貼っているものが30枚くらいあります。すると、全然違うプロジェクトで来た人が、他のプロジェクトを見て「実は、僕もこんなことをやっているんです」という会話が起きたりする。思考の痕跡を残せる空間をつくれたらいいなと僕は思っています。

西村すごいおもしろいです。「こう使っていいんだよ」というメッセージをどうやったら出せるんだろうと考えていたので。痕跡を残すという方法もあるかもしれません。

塩浦さん最近ね、すごい空間の「先生」に会ったんです。東京・京橋に「桝久」という、1920年くらいからやっている立ち飲み屋があるんですよ。かなりご高齢の女将が場のオーナーとしてものすごくて。僕がインタビューに行ったら「ほとんどみんな死んじゃったけどね」って言いながら、かつて様々なビジネスマンがそこに来ては、今でいうミートアップして、いろんな事業を契約して去っていった話をしてくれました。

オフィスだとか何とかだと急に堅苦しくなるんですけど、まちにそういう場所があってそこで握って終わりっていう、ね。昔からそういう文化はたくさんあったわけで、それをわれわれが今に置き換え直しているところなんですよ。

場のオーナーは、空間におけるファクターとしてはすごく大きい。僕の私見では、場のオーナーにふさわしいのは女性。空間っていうのは、脳の一番古いところをノックしますから、母性的なものが僕はいいと思います。もうひとつ、たぶん西村さんが個人的に興味があることを僕の言葉で言うと、場のコード(CODE)です。

今、この会場は結構フォーマルですが、BGMにボサノバでも流れていたら大きく変わりますよね。今日は皆さん比較的カジュアルですけれども、全員がスーツ姿だとまた全然インプットが変わると思います。あるいは、ニューヨークの「ブライアント・パーク(Bryant Park)」では、トイレの入り口にすごいフラワーアレンジメントを置いていて、それを見るだけで「汚く使ってはいけないんだ」とわかる。こういった要素によって、空間のコード修正ができるんです。

プロは床から天井まで、こういった空間の要素を400くらい見つけられる。それらを使ってコード修正をしながら空間をつくり上げていく。その総合芸術が空間だと僕は思っています。

高嶋さんうちのHAB-YUには常駐者がいないんですよね。デザイナーが使うときに、僕ら運営側が毎回いるとは限らないので、「好きなように使ってくれ」と言っています。そういう意味では、場の使い方をわかっている人が揃っていて。机の天板になっているホワイトボードを立てかけて使う人もいれば、低く置いて床に座りながら書く人もいます。それを見ながら「おもしろそうだから、次やってみよう」という話も出ますし、僕らも刺激をもらっています。

塩浦さんがおっしゃったように、場をつくる要素という意味では、匂いや香り、入った瞬間の驚きとか、そういった演出も気持ちを上げるうえでは大事だと思います。たぶん、空間の質によって会議の質も変わると思うし、場の力って絶対にある。詳しく計測できないのは悔しいけど。

西村ちなみに塩浦さん、どのぐらい場をデザインできるものなんですか。

塩浦さんむちゃくちゃできますよ。たとえば、「LEF(レフ)」というフューチャーセンターでは、タイムテーブルによって家具を全部移動して場を変えているんです。今、僕のところに依頼いただいたクライアントは、もれなくハマーリムジンに乗っていただきます。つまり「未来の都市を考えよう」という会議を会議室でやるのではなく、「とりあえず都市を見に行きましょう」と行くんです。

というように、「場というのは空間と空間をつなぎ合わせる移動に価値がある」という発想があるので、スタティック(静的)な場そのものを語るというよりは、場と場をどうつなげるか、そういう発想のほうがおもしろくて。今「何でもデザインできますよ」って言ったのは、時間軸の中でデザインすることがすごく大事だと。茶道もそうじゃないですか?「どうやって招いてどうやって帰すか」ですよね。

空間を時間軸のなかでどうデザインするか?

西村そこに来る人が100人いたら100人分の時間の軸があるじゃないですか。そこはどう見ていくんですか?

塩浦さんアムステルダムには、世界で最もイノベーティブなオフィスだと言われている「The Edge」というスマートビルがあるんですよ。ここの設計の際には、設計者が200通りのUXストーリーつくったそうです。もし、100の居住者がいたら100のストーリーをつくって、それでもつくらなければいけないものをつくる、こういうことを世界はやっています。

西村200か100の平均を取るわけじゃないんですね。代表性をできる限り活かしていこうっていうことですね。

塩浦さんエッジの効いたストーリーをつくるのが大事ですね。

仲さん聞いていて思ったのですが、さっきの「環境行動決定論」「相互作用論」みたいな話までは、空間と人っていうのが分かれているんです。その次は、「相互浸透論」といって分離できないんですよ。デザインの対象は空間だけではなくて、空間と人の両方という時代です。

西村とってもいいところで時間になりました(笑)。考えなければいけないことが何なのかはわかった気がします。最後に一言ずつコメントをお願いいたします。

筧さんさきほど、「空間は竣工したら引き渡せる」みたいな話がありましたが、僕の仕事は引き渡さないですよね。2年ほど「さかわ発明ラボ」を運営していて、今は「これをどう定着させて次に行くのか」を一番に考えています。でも、結局は「女将」を育てるしかないんです。共創空間の場合はオーナーシップ、なかでも運営チームみたいなものを複数どうつくっていくのかが目下の課題です。続けていくための仕組みづくりをテーマとして考えたいなと思いました。

塩浦さん僕は日建設計という事務所にいまして、比較的大きなものも担当しますが、何度もやっていて思うのは、自分の家のリビングルームも京都駅も、結構同じ手法で見れるということなんです。

空間は、時間と同様に、すべての都市ユーザーに平等に与えられているものです。我々のように壇上にいる実践者だけではなくて、ぜひ皆さんの家庭から、地域からあるいは自分の使っている駅を、同じような目線で見ていただきたい。要は、「自分だったらこうするな」みたいなところから順番に、コミットメントする態度が始まると思うんですよね。

そういった人が多ければ多いほど、すごく豊かな社会が生まれる可能性が高くなると思います。ぜひ「プロに任せたからうまくやれ」とかいうことではなくて、一緒につくっていくというリテラシーを上げていただけると、すごくうれしいなと思いました。

高嶋さんHAB-YUがうまく回っているのは、たぶんガチガチのKPIがないからだと思うんですよね。共創の場では、どんな価値が生まれるか分からない。もし、目の前のKPIに縛られたら結局本当にしたいことができなくなるんじゃないかと思います。

残念ながら、もう3が年経ちますので「そろそろお前ら稼げ」「どうするんだ?」と言われています。ですけど、本当にこれからこういった場所を持つ方たちにとって、「KPIを設定しない」ことは必要だと思うので、参考になればいいかなと思っています。

村上さん話をお聞きしていると、「もっともっと共創しなくちゃ」「クリエイトしなくちゃ」と頭の中がドライブします。しかしその一方で、70歳になる私の母親や、うちの会社で働いてくれている年上の現場の人たちに、「気づいていないけど、あなたはすでにクリエイトしているよ」「クリエイトできるときもあるよね」と伝わるみたいなことは、すごく大事かなと思って聞いていました。

そういう意味では、筧さんのプロジェクトの写真を見ていて、たぶん参加された方々は普段自分がクリエイトする側だと思ってなかったとしても、何かそういう実感があったと思うんですよね。メディアやアーカイブやいろんな力でそういうレイヤーの人たちのクリエイティブさに光を当てていくことによって、意識を変えていくことも大事かなと思っています。

馬場さんさきほどお話した新しいオフィスの名前は「under construction(工事中)」っていうんです。自分たちのオフィスなので竣工引き渡しは必要ありませんから、永遠にでき上がらない空間であってほしい。そういう意味では時間をちゃんとデザインしていかなければいけないのではないかなと思います。

あと、空間ができるプロセスに個々人がちゃんとコミットできるきっかけとか仕掛けみたいなものをつくってあげるのは重要かもしれません。誰かに与えられた空間で、働いたり食べたりしているのではなくて、自分がつくった空間で働いているなら、その空間は自分で変えてもいいってことになる。すると、マネジメントする側に何かを要求するのではなくて、自分でどんどん変えていける。それをメタレベルでマネジメントしていくルールが絶対なんだけれども、空間生成に個人がコミットできるプロセス実験工房をつくるとか、その辺りは共創のヒントかなと。今日このディスカッションから感じました。

仲さん今日は皆さんのお話を聞いていて僕なりのポイントは2つ。ひとつはユーザー参加。もうひとつは、小さな実験ができるようにすること。きちんと計画を立てて進めていく方法から、いろんな実験がふつふつと生まれるなかで、どんどん仕上がってくるみたいなプロセスに、方法論が変わってきているんですね。

ところが、世の中はきちんと計画をして、承認を得て、予算がついて実行するという固い仕組みがしっかり残っていて、社員が「やりたい」というだけでは絶対にやらせてくれない。皆さんのような突破力がある人はやれるんだけど、同じような思いを持っている人の多くがつぶされちゃっているのが心配だなあと、そんなことを考えています。

西村ありがとうございました。今日は個人的な興味も含めていろんな角度で「あ、そういうことを考えればいいんだ」ということが分かっていく、とてもお得な回でした。筧さん、塩浦さん、高嶋さん、村上さん、馬場さん、仲先生ありがとうございました。

杉本恭子 ライター
京都在住のフリーライター。大阪出身。東京でさまざまなオンラインメディアの編集者を経験したのち、学生時代を過ごした京都でフリーに。現在は、人の言葉をありのままに聴くインタビューに取り組んでいます。Webマガジン「greenz.jp」シニアライター、「雛形」では徳島県・神山の女性たちにフォーカスした「かみやまの娘たち」を連載中。仏教が好き、お坊さんに詳しい。
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