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移行期の違和感や不快感をホールドした先に、新しい「インテンション(意図)」が生まれる。未来共創を実現する企業とは【ミラツクフォーラム2017】

フォーラム

2017年12月23日、ミラツクは「ミラツク年次フォーラム」を開催しました。「ミラツク年次フォーラム」は一般には公開せず、一年の終わりにミラツクとご縁のあった方々に感謝をお返しする会です。

本記事では、メイン会場で行われたレノボ・ジャパン株式会社代表取締役社長(当時)留目さん、ワコールスタディホール京都館長(当時)鳥屋尾さん、株式会社代表取締役社長比屋根さんによるセッション1「未来共創を実現する企業とは」の内容をお届けします。

(写真撮影:Rie Nitta)

登壇者プロフィール
留目真伸さん
レノボ・ジャパン株式会社 代表取締役社長
NEC パーソナルコンピュータ株式会社 代表取締役 執行役員社長。
1971 年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。総合商社、コンサルティング等を経て2006 年「レノボ・ジャパン」に入社。常務執行役員として戦略・オペレーション・製品事業・営業部門統括を歴任。2011 年から「NEC パーソナルコンピュータ」の取締役を兼任し、NEC とのPC 事業統合を成功に導く。2012 年、「Lenovo Group」 米国本社戦略部門に全世界の企業統合の統括責任者として赴任。2013年4 月よりレノボ・NEC 両ブランドのコンシューマ事業を統括。2015 年4 月より現職。
鳥屋尾優子さん
ワコールスタディホール京都 館長(2018年3月31日時点)
「株式会社ワコール」入社後、経理・財務部門に配属。その後、広報部門にてワコールの社外向けPR誌の編集、社内報の編集に携わり、多数の文化人、学者、医療従事者などへのインタビューを実施。ワコールの経営者や社員、世界で働くワコールの仲間への取材を通じてワコールに根付く経営理念を体感する。その後、宣伝部門でPR・企業広告制作業務に従事。広報・宣伝を行うPR部門とCSR活動や情報開発を行う宣伝企画部門の課長を経て、現職に就き、ワコールが2016年10月に京都駅前にオープンした、美をテーマにした学び場「ワコールスタディホール京都」を立ち上げる。
比屋根隆さん
株式会社レキサス 代表取締役社長
沖縄国際大学商経学部卒。大学在学中にITの可能性を感じ、学生ポータルサイト開発、企業向けの独自サービスを提供するIT企業を従兄弟とともに設立。1998年、独立して「株式会社レキサス」を設立。また「人材育成を通して沖縄県経済の自立と発展を目指す」という大きな理念のもと、沖縄県内の人材育成に取り組む。2008年より、沖縄の次世代リーダーを発掘し育成するために、人財育成プロジェクト「IT frogs(現Ryukyufrogs)」をスタート。沖縄県内の学生を対象に、起業家精神の形成、及びグローバル視点研修や各種技術研修への参加、IT産業の世界的中心地・シリコンバレーへの派遣などを実施。2017年9月に人財育成事業部門が独立、「株式会社FROGS」となる。
井上英之さん(コメンテーター)
INNO LAB International co-founder
慶應義塾大学 特別招聘准教授、「NPO法人ミラツク」アドバイザー。
2001年から、「NPO法人ETIC.」にて、日本初のソーシャルベンチャー向けプランコンテスト「STYLE」を開催するなど、若い社会起業家の育成・輩出に取り組む。2003年、NPOや社会起業にビジネスパーソンのお金と専門性を生かした時間の投資をする「ソーシャルベンチャー・パートナーズ(SVP)東京」を設立。2005年より、慶応大学SFCにて「社会起業論」などの、ソーシャルイノベーション系授業群を開発。「マイプロジェクト」と呼ばれるプロジェクト型の手法は、高校から社会人まで広がっている。2012~14年、米国スタンフォード大学、クレアモント大学院大学に客員研究員として滞在。近年は、マインドフルネスとソーシャルイノベーションを組み合わせたリーダーシップ開発に取り組む。軽井沢在住。

異なる地域と業種で「未来共創」に取り組むゲスト

西村このセッションは、「レノボ・ジャパン」の留目(とどめ)さんと、「ワコールスタディホール京都」の鳥屋尾(とやお)さん、「レキサス」の比屋根(ひやね)さんという、初見で読める人が少ないお名前の3人(笑)と、そしてコメンテーターの井上さんの4人で進めていきたいと思います。最初に、みなさんから簡単に自己紹介をお願いします。

留目さん「レノボ・ジャパン」と「NECパーソルコンピューター」という会社の社長をやっています。日本の会社と外資系の会社の両方を経験していたので、なんとなく自分の役割はグローバルと日本をつなぐことかなと思っていた時期がありました。2011年には「NEC」とのPC事業統合を責任者として実現。「日本企業とグローバル企業はどう調和していくのか」にすごく興味を持って取り組んできました。

ところが最近、「レノボ」はPCの会社からコンピューティングの会社にもう変わってきてるんですね。PCだけじゃなく、タブレットやスマートフォン、さらにはVRのヘッドセットと新しい技術がたくさん出てきてしまう。こうした新しい技術による製品にはまだ市場がありません。「どこにどうやって売ればいいのか?」という答えを、社長である私自身も持っていないわけです。

その市場をどうやってつくるかというと、共創、オープンイノベーションでつくっていくしかありません。社内に知見がないなら、社外に出ていってやるしかない。すると会社のなかも、新しい働き方が必要ですので、2年前から真剣にテレワークを推進しています。社員には「もう会社に来ないでください」と言っていて、「テレワーク・デー」には95%くらいが出社しません。

なかなか難しいこともありますが、オープンイノベーションで新しい市場を共創するために、僕は今ここにいるんだろうと思っています。

比屋根さん僕は「沖縄国際大学」という地元の大学4年生の時に起業し、沖縄の経済自立を実現するモデルをつくるため、2030年まで3つの領域に10年単位で取り組む計画をつくりました。

最初は、沖縄から県外・海外に打って出られるプロダクトやサービスをつくるテクノロジーの会社になる10年。2007年からの10年では、未来の沖縄を担う中学生、高校生、大学生を選抜して次世代のイノベーションを起こせる人材を発掘・育成する「Ryukyufrogs」というプロジェクトをやってきました。これからの10年のテーマは「沖縄」。沖縄にしかないものを活用し、沖縄でしかできないことをやっていきたい。

テクノロジーの時代に、テクノロジーを使う人間として、どういう思想を持つリーダーを沖縄から生み出していくのか。沖縄にしかない体験とは何なのかを含めて、沖縄の自立経済を実現させていく取り組みをしています。今日は、ここ10年間で取り組んできた「Ryukyufrogs」について、少しでも多くのみなさんと共有させていただければと思っています。

鳥屋尾さんみなさんご存知の通り、「ワコール」は下着メーカーなのですが、2016年10月に京都駅前に“美”をテーマにしたまなび場「ワコールスタディホール京都」をオープンしました。ライブラリー・コワーキングスペース、スクール、カフェやギャラリーがある館です。

ワコールは「世の女性に美しくなってもらうことによって広く社会に寄与する」というミッションを掲げる会社です。「ワコールスタディホール京都」は、学びを通して女性の「美しくなりたい」という気持ちを応援する“新規事業”として始まりました。

新規事業ですから、いろんな共創が日々起こっているのを実感しているのですが、自分たち自身も気づいていないような共創もあるだろうとも思っていて。自分自身も、いろんな人とのつながりからアイデアの発想をもらってくることが多いですし、“共創”という大きなことではなくても、小さな日々の活動にも共創があると思いながら日々を過ごしています。

まだオープンして1年を過ぎたばかりで、私も迷いながらやっていることもすごくあります。今日は「ワコールスタディホール京都」を皆さんに知っていただくと同時に、皆さんから勉強させていただきたいと思って参加させていただきました。

次世代の沖縄のリーダーを輩出する「Ryukyufrogs」の取り組み

西村まずは、比屋根さんに。さきほどのお話では、未来に向けて考えてこられた30年のうち、最後の10年が来年から動いてくることになりますね。

比屋根さん簡単に言うと、いかに沖縄県民や県内企業を巻き込んでいくか。県外・海外で沖縄を応援している企業や個人を巻き込んでいくか。そこにある教育、創出される新規事業の中心にある理念って何だろうか? ということを、しっかり形にしていきたいと思っています。

沖縄には、『沖縄振興特別措置法(2012年に2020年まで延長する改正法を制定)』に基づく補助金や助成金が投じられてきました。「補助金を使うのが当たり前という意識はおかしい」ということにすら気づかない状況があります。

これから、沖縄が民間主体でやっていくときには、「どんなリーダーを輩出するのか」「大人たちはどんな思いで関わるのか」「いかに応援してくれる人とつながっていくか」が重要です。これまでの20年でそれぞれに機能をつくりあげてきたと思っていますので、次の10年間ではその機能をつなげて、沖縄の自立経済を可能にするエコシステムをつくっていきたいというところです。

西村この10年間で取り組んでこられた「Ryukyufrogs」について簡単にご紹介いただいてもよろしいですか?

比屋根さん「Ryukyufrogs」は、起業家マインドを持つ次世代の沖縄のリーダーを発掘・育成する半年間のプログラムです。知的好奇心に溢れていて、変化を恐れずに自ら考えて行動する力を持っている子どもをとにかく輩出したい。将来は、公務員になっても政治の世界に行ってもいいですし、企業で新規事業をしてもいいし、どこかで起業してもいい。未来を変えていくエンジンを持った子どもたちが増えてほしいと思ってやっています。

毎年、中学生から大学生を対象に10人程度選抜します。その費用は民間の協賛企業で出し合っています。第一期は7社の民間企業からスタートしたのですが、今は約70社の企業がお金も出し、いろんな形で物的協賛をしてくれています。たとえば、「日本トランスオーシャン航空(JTA)」さんは2年前から、選抜された子が50〜60回往復するためのシートを提供してくれています。

みなさんの応援を受けながら、子どもたちは起業家マインドを磨くプログラムを受けるのですが、最も重要なのは夏休み期間に行くシリコンバレーでの10日間研修。なぜ、それが重要かというと、本当に世界を変えようと思っている人たちがいる環境に放り込んで、「私もこうなりたい」とか、「自分にもできるじゃないか」という気持ちを若いうちから持ってもらいたいんです。

6ヶ月間の最後、12月に「LEAP DAY」という最終成果報告会を開きます。そこで、彼女/彼らが自分たちで考えた課題を「こういうビジネスモデルで解決します」と、英語で6分間のプレゼンテーションを行います。

サポーター企業は10年間で10倍に。
「Ryukyufrogs」の熱はどこから生まれるのか?

西村僕は、去年の「LEAP DAY」を見て本当にすごいと思い、今年は最初の選考から最後の「LEAP DAY」まで関わらせていただきました。ホントにすごいと思ったのは、そこまでやるかっていうぐらい徹底的にやりきることです。

たとえば、選ばれた7人は毎週来るんですよね。離島からでも毎週来るし、必要があれば週2回でも、3回でも集まってディスカッションする。最後のプレゼンは「プレゼンすればいいよね」とか「これから始めます」とかではなくて、何十回も叩きなおしてたどり着いたようなもの。なかには「もう始めています」というものもあります。

年齢の差も全然なくて、むしろ一番すごいのは中学生で。中学生が出したプレゼン内容は、正直そこらへんの大人よりものすごく価値のあるものだと思いました。それを応援する大人たちも、応援しているというよりは「そこに自分の一部がある」みたいな感覚で関わっている。「このプログラムのためなら何でもします!」みたいな人たちが集まっていて、その本気度がすごいと思いました。

なんで、あそこまで本気の度合いを込めているのかも聞きたいですし、だからこそ見えてきたものがあれば伺ってみたい。そこを軸にして、今日はお話を展開できればと思います。

比屋根さん7社から70社まで増やしていくときに、僕らが大事にしていたのは、やはりビジョンなんですよね。「このビジョンに共鳴いただけるのであれば是非一緒に参加してください」と、しっかり入口でビジョンマッチをして、仲間集めをさせてもらっているのがひとつです。もし、「協賛金出すから学生何名か雇用させてくれる?」みたいな、そういう価値観だったらやめたほうがいいですし、「入らないでください」と言います。

大人から見ると、子どもはすごい可能性に溢れています。その子どもたちが一ヶ月単位で劇的に変わっていくのを目の当たりした大人たちは、自分が忘れてしまった大切なものを投影していると思うんですね。最後の「LEAP DAY」で中学生、高校生、大学生がプレゼンテーションするのを見て泣いちゃう大人もいます。本当に子どもの可能性って無限大だし、大人ももっとやれることがあるんじゃないかって。

それを一度体験すると、「また来年も応援する」じゃなくて「ボランティアとして関わることで学べることがあるんじゃないか」という気持ちになる。そんなサイクルが起きています。あと口コミでも広まっていますね。

(LEAP DAY2017の動画はこちら

西村たとえば、この年次フォーラムも、何回か来てくださっている方は「楽しい」と思っているから来てくださるのだと思いますが、「LEAP DAY」は僕らのフォーラムより楽しいし、クオリティもはるかに高い(笑)。登壇者の話もおもしろいし、プレゼンのレベルも高いし、つくり込みもすごいし、来ている人たちもおもしろい。熱があるので一日中議論が続くし、翌日までその熱は続きます。

内容だけを取り上げれば、似たようなプログラムはあると思うんです。なぜ「Ryukyufrogs」では、子どもたちの成長も含めてこのレベルまでいけるのかを知りたいです。

比屋根さん単純に、6ヶ月で子どもがこんなに変わるということは、やっぱり今までの教育のシステムがおかしいのだと思います。環境次第で子どもたちはどんどん変わっていくし、その姿を見た大人たちは「こんな子どもたちが沖縄を支えてくれたらいいよね!」と思う。そういう「before/after」のライブがあるんですよね。

このライブは、ネットの動画で見ても伝わりませんので、会場に来て感じてもらうしかありません。10回目の「LEAP DAY」の会場には670名に来ていただきましたが、うち1割は県外からです。ライブで変化を見るってすごく大事です。「LEAP DAY」もただの発表会ではなくて、子どもたちの保護者や先生、行政で人事予算を持っているような人にもお声がけしますが、その人たちにも伝えたいんですよね。「子どもって変わるんだよ」「大人の一言で可能性をつぶしているかもしれないんだよ」「学校教育のあり方って、このままではいけないんじゃないの?」と。

そういったメッセージを、8時間のプログラムのなかでしっかりつくり込んで、会場を巻き込んでいく。そして、参加した人たちが2〜3人連れて来年また来てくれることをイメージしながら設計していますね。

自分の手を離れていく物事の行く末を「想像できているか?」

西村「Ryukyufrogs」のプログラムづくりや運営に関わってきた、「レキサス」の執行役員・山崎暁さんは、2017年夏に「レキサス」の人財事業部門を独立させて「株式会社FROGS」を起業。「Ryukyufrogs」を会社として運営しはじめました。会社のプログラムだったものが、ひとつの生命として誕生している。そこまでいくのかと思いました。

なんかこう続くんですよね。一回で終わりじゃなくて、何回も繰り返されて凝縮されているのを感じます。ここで、鳥屋尾さんに伺ってみたいことがあります。鳥屋尾さんといろんな取り組みをしたり、お話を伺っていると“ホンモノ”みたいなことをすごい大事にされているのを感じます。鳥屋尾さんが仕事のうえで「ホンモノを大事にする」とはどういう感覚ですか?

鳥屋尾さん「ホンモノを大事にしたい」という気持ちはめちゃめちゃあって、常に。ただ、言葉にして「ホンモノを大事にしています!」っていつも言ってるってことではないですよね? 常にそんなこと言っているなんてなんだか嘘っぽいことじゃないじゃないですか(笑)。

西村はい、言葉としては(笑)。

鳥屋尾さん正直、ホンモノを大事にしています。初めて問われたことなので、考えながらお話ししますね……多分ですけど、振り返ったときに確信が持てることとして、自分のなかに“ホンモノ”という基準を置いていて、そこがブレていないかを確認したいからだと思うんです。「ホンモノにこだわる」というのは、「ウソをつきたくない」ということとイコールかもしれません。

ワコールは、品質にすごくこだわっているメーカーですので、ホンモノという意識が高いのは確かです。ものづくりは、すべてのことを一人では完結できません。前の工程にいる人たちの判断を信じられていないと、すばらしい品質のものは生み出せません。相互の信頼があるからこそ、バリューチェーンは回っていって、私たちは自分たちの製品に自身をもって「品質が高い」と言っています。

「プロとしての仕事をして次の人に渡さなければいけない」という感覚は、私たちの社風のなかにずっとあります。そうしないと、自分から離れていったボール、たとえば言葉ひとつであっても、誰かの手に渡ったときに「とんでもないことになってしまうんじゃないか」という不安もあるからだと思います。

西村ワコールというものづくりの会社で、ものづくりではない新規事業「ワコールスタディホール京都」に取り組まれて、いろんなトライアルがあったと思います。そのなかで、ホンモノという感覚に関してうまくいったこと、うまくいかなかったことはありますか?

鳥屋尾さんちゃんと真理をついていることについては、そんなに間違わなかったなっていう感じがします。オープンの少し前から、ミラツクさんと一緒に「クリエイティブな学びを生む空間」の要素を分解して143のワードにするというプロジェクトをさせていただきました。

これは、先ほどのホンモノにも通じるのですが、ワコールは学びについても、空間をつくることに対してもプロではない。プロではない私たちが挑戦するのだから、ちゃんと調べて原理原則をつかもうと思ったんです。これからは、この143のワードに基づいていろんなことをやっていけばいい。今は「内面の美」に近づくためにどんな行動や習慣が必要かを調べています。

外部の方とお話しするときにも、原理原則を共有できると一気に本質に近づく会話ができる。そういうものを持てたということは、今後の成功に導いてくれる最初の一歩になるものだと思っています。

西村うまくいかなかったことについても教えてください。

鳥屋尾さん想像できないことをやったらアカンなと思いました。「やりたい気持ちがある」「こうなっていたら素敵!」という気持ちがあって、ぱっと手をつけてしまったけれど結局できなかったことってけっこうあるんですよね。

実際にやってみたときにこの空間はどうなっているのか、参加してくれた人はどんな顔をしてくれるのか、終った後にメンバーはどんな雰囲気になっているのか? そこまで想像できないままに進めたときは、あまりうまくいかなかった感じがします。

西村留目さんは経営者の立場なのでいろんなトライアルを考えられると思うんですね。「こういう時にはうまくいくんだけれども、こういう時にはうまくいかない」みたいな経験がたくさんあるのではないでしょうか。

留目さんやっぱり、うまくいってないときは、ビジョンが共有できていなかったり、メンバーの気持ちが一緒になっていないと思います。あと、わかっているつもりでやっていたことが実は現場とは全然違っていたり、ライブの状況が全然わかってなかったり。
企業活動とは、社会課題を資本主義のしくみで解決することだと思います。そういう意味で、社会の課題をしっかり理解していなかったり、携わっていく人の気持ちの部分で共有するものがなかったりするとうまくいかないですよね。

どうすれば「個」と「全体」はつながり、うまく回るのだろう

井上さん面白いですね。さっき鳥屋尾さんがおっしゃった「想像できていないとうまくいかない」という話はものすごく大事だと思います。また、「ワコール」のものづくりで、「自分の前の工程にいる人たちの判断を信じている」とか、「工程に相互の信頼があるからバリューチェーンは回る」、「プロのとしての仕事を次の人に渡さなければいけない」という意識は、日本の社会にずっとあった「心をこめる」とか「関係性を大切にする」といった、身体感覚に通じていると思います。

同時に、ぼくたちの想像には限界があります。企業活動は拡大を続けるし、社会の課題は大きく複雑です。他方、子どもたちに見えている世界は、解像度が高くうつくしい。今、ここにフォーカスして世界を広げていく感動もある。この二つをどうつないでいくのか。目の前の人は大事にできるかも知れないけれど、想像の範囲を超えた社会の動きも、ぼくたちの日々に大きな影響がある。

朝起きたとき、「さあ、今日も順調に、地球の気候は悪い方向に向かっているぞ、しめしめ!」と、誰も思ってはいないけど、全体として、地球環境は壊れていく。「家族を傷つけてやろう」と家族の誰も願ってなんていないのに、僕たちは生まれてから最初に傷つくのはたぶん家族のことですよね。もしくは、地域のことを思う人がたくさんいるのに、地域が全然うまくいかない、とか。

個々の思いや意図していることと、結果としての全体がどうもフィットしないことが多々ある。どうしたら、個と全体の両方がつながってうまく回っていくのか?これはたぶん、政治でも経済でも、会社でも家庭内でも起きているシステムエラーというか、なんとかしなければいけないことじゃないかと思います。大きなテーマになってしまいますが、どなたかこの問題についていかがでしょうか?

留目さん個と全体ですよね。たとえば、どの会社にもグローバルとローカルというテーマがあると思います。グローバルで統一したものをつくれば効率は上がるけれど、ローカルのニーズにはだんだん答えられなくなり、しまいには使い道のないものをつくってしまうことになるわけですね。

たとえば、テクノロジーから発想して「タブレットは薄くて軽くあるべきだ」「画質がいいほうがいい」と思い込むけれども、現場では全然違うものが求められていた……ということはよくあります。このバランスってすごく難しいと思うのですが、やはりいかに多様性を残しつつ効率を上げるか、それを考えることがすごく大事なのではないかと思います。

ただ、一方でおもしろいなと思っているのは、IoTで世の中のすべての製品やサービス、データがつながっていくと、会社という存在すら全体から見ると一市民でしかない。僕らが提供するサービスは、全体のシステムをつくるためのパーツでしかなくなる。それが「モノからコトへ」ということだと思います。

「コト」という「Service Experience」を、どの単位で見るのか? 地域、家族、あるいは社会、コミュニティで区切るかによって、ソリューションも変わっていくと思います。それはもう、バラバラにあっていいし、ひとつである必要もない。本当に人の数だけ課題があり、ソリューションがあるべきだと思います。

だからこそ。企業内のプロセスは可能な限り簡略化して、オフィスワークで疲弊するより外に出て行って課題に向き合って解決をしてもらいたいですよね。会社人ではなく、社会人として生きていきましょうということじゃないかと思います。少し楽観的なところもあるけれど、だんだんそういう方向に近づいているのではないかと私は思っていますね。

進化する「intent(真意)」を自らに問い続ける

西村そこが聞きたいところなんですけども、「オフィスワークなんかしてほしくない」と思っている留目さんは、どうやって「本当はこれをやってほしい」という方向に移ってもらうのか。そのコミュニケーションのところが大変だなと思うのですね。人間は脳を移転できるわけではないので。

留目さん本当に難しいですよね。でも、我々は課題解決をするために社会人として生きているわけです。それを楽しいと思ってもらえるように「我々は本来何をする存在なんだっけ?」というところから問いかけていくしかないと思います。そういう言葉をしっかり投げかけられるような存在であれば、私も経営者としてやっていけるだろうし、そうでなければ違う誰かが経営をやったほうがいいと思うんですよね。

西村もうひとつ、留目さんに聞きたいことがあります。「attention(注目)」の話を今日午前、井上さんがしてくれて。いろんなことを考えないといけない中で、「attention」の量が決まっているから、そんなにたくさんのことを同時には考えられない中で、どうやって絞り込んでいっているのか。留目さんだったらどうやって、「attention」の量を、限られた範囲に対して絞り込んで行っているのか。ここが大事だという絞り込みをどうされているのか。これを今日は考えようとか今年これをやろうとかその絞り込みをどうされているんですか?

留目さん難しいテーマですね、「クリティカルフュー(critical few/少数の重要な行動)」にフォーカスしましょうとか言われていますよね。午前のお話でおもしろいなと思ったのは、はじめに「attention(注目)」があって、そこから「awareness(気づき、認知)」があり、「choice(選択)」が出てきて、その先に「intent(真意)」が現れるみたいな。結局のところ「intent」が大事なわけですよね。「自分は何がやりたいのか?」というところが。

たとえば、昔の僕は「グローバルと日本を近づけたい」ということが自分の「intent」でした。でも今は「会社という存在自体がこうなるべきではないか」「自分も一社会人として生きるには、こういう存在になっていくべきじゃないか」みたいなことが「intent」であり、そこからまた「attention」が現れて「choice」をしていく。そのなかで、自分も進化していくんだと思います。

3年前と今では、自分が考えているプライオリティは全然違うと思うんですよね。それでも、いろんなステークホルダーから選ばれるなら、経営者としてやっていけるでしょうし、違ってきているなら自分が経営をしないほうがいいなと思います。

井上さん人は変化に抵抗して現状を維持したがるけれども、その不快さを重要視しすぎると、自分たちがほしい結果が出なくなることってあると思うんです。どうも、日本は「気持ちいい」が大好きで、ちょっとでも気持ちいい方にすぐに飛びついてしまう。環境が壊れるとか、日本全体の経済が沈むとか、決定的に望まない結果に向かっているにも関わらず、今この瞬間の気持ち良さに持っていかれる感じがあって。

昔の日本の文化には、多少しんどいことがあってもその向こうにある何かのために、今は不快に感じる行動を意識的に選択するということがあった。なぜなら、自分の家族や地域、会社の命運がかかっていたから。今は、こうした体感が失われて、自動反応的な快・不快の部分にのみ引っ張られている気がします。

多様化と標準化は両極にあります。多様であるとイノベーションが起きて新しいものが生み出される。標準化するとシンプルになり大量生産がしやすくなる。結局、両方必要なんです。このパラドクスのなかで、いかに両方をできるか。そのなかで“不快さ”と共にいれるかどうか。脳って中途半端で宙ぶらりんな状態を非常に嫌うので、未決であることは不安を呼び起こしますし、不安が増すとどちらか一方を取りたくなる。

だけど、移行期においてはこういう不安感もあるものだと受容して、もう少しホールドしたままでいられる、ということが大事な気がしています。

「強烈な原体験」はどこから生まれるのか?

西村少し戻るようですが、「気持ちいいを選択してしまう」という話に関連して比屋根さんに。冒頭で沖縄県の補助金の話をされていましたが、「お金をもらえる」という状況はたぶん「気持ちいい」と思うんです。比屋根さんはその状況を、どうやって変えてこられたのかを伺いたいです。

比屋根さん「Ryukyufrogs」では、子どもたちに「やるかやらないか。人生はシンプルにその2つだ」ということを伝えています。迷った時は苦しい方を選んだ方がいいと思う、ということを。6ヶ月のプログラムのなかで、子どもたちはやるべきかやらないべきかを迷うんですよ。「その選択はあなた次第ですよ」と常に問いかけるトレーニングをしている、というのがひとつです。

もうひとつの質問に答えると、強烈な原体験はすごく大事だと思うんですね。僕が、補助金に頼らない経済的に自立した沖縄をつくりたいと思ったのは、学生時代の強烈な原体験があるからです。97年頃、東京でいわゆるソフトウェア分野の方々と話していると、「東京で100万円の仕事を、沖縄なら50万円でやってくれるんでしょう?」と言われたんです。

僕は、学生ながらカチンときたんですよね。なんで同じものをつくるのに、東京と沖縄に単価の違いがあるんだと、すごいムカつきました。でも、沖縄に戻ってソフトウェア業界の人たちに「東京でこんなことを言われたんだ」と話すと、「それは当たり前だよ」となるわけです。

そういう“常識”がわからない僕は東京でムカついたし、沖縄の業界が「当たり前だよ」という状況がすごく居心地が悪かった。なぜ、こんなことになっているのか? よくよく見ると補助金があるからだということも、全部つながってきたんですね。このままだと、まさにゆでガエルになってしまうし、業界だけでなく沖縄全体がおかしくなる。だからこそ、ちゃんとこの業界を変えるアプローチをしたいと思ったんです。「やるか、やらないか」でいうと、「しんどいけどやる」ということを選んだんです。

西村比屋根さんが、「東京なら100万円の仕事を沖縄では50万円で」と言われたときに、「ムカつく」と思える元みたいなのがすごく大事なんだろうなと僕は感じました。それは、まだ言語化できていない強さみたいなことがあると反応が出るし、ないとすっと抜けてしまう。鳥屋尾さんが話していた“ホンモノ”に近いのかなと思うのですが、そういった感覚はどうやってできてくるのでしょうか。

鳥屋尾さん違和感について、2つの方向性があると思いながら聞いていました。

ひとつは、現状に違和感を持って変わっていこうとする方向。もうひとつは、自分のなかにある「こうなりたい」との違いで違和感を感じて変わっていこうとする方向。私がカチンとくるとしたら、後者だと思います。「こうなりたいと思うけど、このままいくとなれないよね」と追認することにカチンとくる。

現状に対して怒って「課題だ」と考えてしまうとブレイクスルーできないけれど、「自分はどうなりたいのか」から考えると新しいアイデアが広がってくる。そっちの方が強い気がするんですね。自分のなりたい方向に向かうために、いろんなアイデアを膨らませることもできるし、新しい選択肢も生まれてくる。そのプロセス自体が価値にもなっていくような気がします。

「未来共創」の実現に向けて、三者三様の思い

西村まだまだお話を続けたいのですが、時間になりましたのでセッションを閉じていきたいと思います。「未来共創を実現する企業とは」というテーマで、新しく自分の糧になったこと、発見したことをひとことずつ教えていただけますか?

鳥屋尾さんたくさんの発見がありましたが、つながりということに関して、「やっぱりそうだったんだな」と思ったことをひとつお話させていただきたいと思います。

いろんな方に会ってお話をさせていただくときの発見は、次のコマに進むための“のりしろ”みたいなものではないかと思います。そんな“のりしろ”になる発見があるから、次に進むことができるのではないかと、遠くまで続いている道をイメージしています。その道は、少し先までしか見えていないし、どうすればたどり着くのかはわからない。だけど「ここに行きたい」という目的地は見えている。

いつか、その目的地にたどりつくには、大小の“のりしろ”を一つひとつ見つけていくことが、大事なのではないかと考えています。

比屋根さん今日、学生時代のエピソードについてお話しましたが、後になって「比屋根くんは学生だったから(東京と沖縄の発注金額の違いに)ムカついたんだ」と言われたことがあります。つまり、違う世界にいたからこそ驚いたり、怒ったりすることができたんだ、と。

自分とは異なる領域の人とどんどん会って話すことが、未来を共創するうえでは重要だし、異なるフィールドの人とどんどんつながることが、これからさらに大事になるだろうと、今日は改めて思いました。自分とは異なる業界や地域の人たちとつきあうことで、他から見ると自分の世界の“常識”が非常識だと気づくことができる。その視点でジョインしてもらえば新しいことを起こせるし、その人たちの熱が“常識”の世界にいた人たちの心を動かすかもしれません。

留目さん未来を思い描く一方で、すでに起きている変化にも気づかなければいけないと思っています。たとえば、「働き方改革」と言われていますが、単に「ワークライフバランスを改善しましょう」ということなのかというと、その文脈はもっと深いところにあって。本当に価値のつくり方が変わってきているから、みなさんもここに集まっているわけで、そのことと「働き方改革」はつながっているわけじゃないですか。

昔は、ほとんどの人は地元と企業という2つのコミュニティしか持てませんでしたが、今はいろんな共創プロジェクト、オープンイノベーションのプロジェクトなど、複数のコミュニティを持つことができる時代です。そんななか、新しい未来を共創していくときには、企業はおそらくひとつのピースでしかないんだけども、そうは言っても大きなツールでもあります。企業によってつくりたい未来について、自分もどんどん発想を新しくしてやっていかなければいけないのではないかと思いました。

井上さん今、留目さんがおっしゃった、「すでに起きている変化」っていうのはおもしろい言葉だなと思います。みなさんのお話で「違和感」「ムカつく」「居心地が悪い」という言葉が何度も出てきていましたが、変化って、心地よくないところから始まりますよね。一方、僕たちは「すでに起きている変化」に対してすら、実はなるべく目を背けようとする。そのため、変化は起きているのに、向き合うのは先に延びるし、向き合わない分、余計こわくもなってトラウマ化もしていると思います。

ある痛みが生じたとき、「痛い」という感覚に対して抵抗すればするほど、痛みは強くなります。たとえば、飛行機で気に入らないシートを指定されたとき、「なんでこんな席に。二度とこの航空会社は使わない!」と5時間考え続ければ、5時間ずっと苦痛が続きます。一方で「リクライニングできないから、瞑想していようかな」とか、環境に対する捉え方を変えた瞬間に新しいチョイスが生まれます。

不快でしんどく感じても、もう一歩留まってみる。そこから、新しい気づきやインテンションが生まれていく。今、この瞬間への気づき、すでに起きていることへの気づき、そして未来への気づきが、個人でも、チームや会社でも起きているし、地域でも起きている。そういうことなんじゃないかなと思いながら、みなさんそれぞれの現場のお話を聞かせていただきました。ありがとうございました。

杉本恭子 ライター
京都在住のフリーライター。大阪出身。東京でさまざまなオンラインメディアの編集者を経験したのち、学生時代を過ごした京都でフリーに。現在は、人の言葉をありのままに聴くインタビューに取り組んでいます。Webマガジン「greenz.jp」シニアライター、「雛形」では徳島県・神山の女性たちにフォーカスした「かみやまの娘たち」を連載中。仏教が好き、お坊さんに詳しい。
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