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一人ひとりが空間や働き方のオーナーシップを取り戻すために必要な“揺らぎ”とは?「未来が求める働き方と場のデザイン」【ミラツクフォーラム2017】

フォーラム

2017年12月23日、ミラツクは「ミラツク年次フォーラム」を開催しました。「ミラツク年次フォーラム」は一般には公開せず、一年の終わりにミラツクとご縁のあった方々に感謝をお返しする会です。

本記事では、メイン会場セッション2「未来が求める働き方と場のデザイン」の内容を一部抜粋にてお届けします。

この記事は、ミラツクが運営するメンバーシップ「ROOM」によって運営されています。http://room.emerging-future.org/

登壇者プロフィール

河崎保徳さん
ロート製薬株式会社 広報・CSV推進部 部長
1960年大阪生まれ、「日本生命保険相互会社」を経て1986年「ロート製薬」入社。商品企画部長、営業部長、営業企画部長を歴任。その後、「3.11東日本大震災復興支援室長」として3年間被災地で震災復興に尽力する。部門参加に地域連携室も率い、地域と企業の連携による地域課題解決にも取り組む。
塩浦政也さん
株式会社日建設計 NAD 室長
早稲田大学理工学部大学院修了後、「株式会社日建設計」に入社。東京スカイツリータウンなどの設計業務に携わった後、2013年に「アクティビティ(=空間における人々の活動)が社会を切り拓く」というコンセプトを掲げた領域横断型デザインチーム「NAD」を立ち上げる。近作は「羽田クロノゲート」「仙川キユーポート」「ポピンズナーサリースクール」「東京インターナショナルスクール」ほか多数。
沖本尚昭さん
株式会社パーク・コーポレーションparkERs Produce Division Manager
1975年兵庫県生まれ。人材教育業界を経て、人が育ち、人が活きる空間づくりに関心を持ち2010年に「株式会社パーク・コーポレーション」に入社。植栽を活かした空間デザイン事業部「parkERs」の立上げに参画し、数々のオフィスや居住空間の内装デザインを含め「羽田空港ANA Suite Lounge THE PARK」や「メルセデスベンツ浦安」の植栽環境など、“日常に公園の心地よさを”デザインする空間プロデュースに取り組む。
當間一弘さん
SmallStandard 代表
1977 年埼玉県生まれ。2001 年に東京藝術大学大学院建築科修了。2004年にカフェ・カンパニー株式会社に入社。「IYEMON SALON KYOTO」の設計、「WIRED HOTEL ASAKUSA」の企画、PMなど、事業企画から空間デザインまで多岐にわたり活躍。個人では、中房総国際芸術祭「ICHIHARA ART MIX2014」に夫婦でアーティストとして参加し、イノシシなどの地域食材を活用した期間限定のカフェなどを運営。2017年9月、同社を退職し、京都府与謝郡伊根町に家族で移住し独立。来秋には、小さなCAFE&HOTELを開業予定。
渡邉さやかさん(コメンテーター)
一般社団法人re:terra 代表理事
長野県出身。東京大学大学院修士。国際協力に関心を持ち、大学・大学院は国際関係論を専攻。ビジネスを通じた社会課題の解決の必要性を感じ、2007年に「IBMビジネスコンサルティングサービス(現IBM)」に入社。新規事業策定や業務改善などのプロジェクトに携わりながら、社内で環境や社会に関する(Green&Beyond)コミュニティリードを経験し、プロボノ事業立ち上げにも参画。2011年6月退職。現在、「株式会社re:terra」代表取締役、その他女性支援やBoPビジネスに関わる組織の理事や、岩手県女性活躍推進委員。2017年4月より慶応大学SDM博士課程。

働き方を「制度」と「空間」から考えるために

西村「未来が求める働き方と場のデザイン」というテーマは、僕の関心を直球で投げ込んだものです。「働き方」には、制度的な側面だけでなく、空間的な要素もあります。このセッションでは、場のプロフェッショナルと、非常におもしろい働き方を実現されている方々をゲストに迎えて一緒に考えていきます。コメンテーターは渡邉さやかさん。年間移動距離が非常に多い方で、“働き方イノベーター”です。では、最初にみなさんから自己紹介をお願いします。

河崎さんロート製薬は「120年の歴史がありながら働き方改革をして副業を解禁した企業」として、あるいは「薬に頼らない製薬会社になりたい」と宣言したことで、ちょっと変わった製薬会社として見られているのかなと思います。

変革のきっかけは、1997年の阪神・淡路大震災の被災企業として、東日本大震災を経験したこと。「企業がビジネスだけを考えていてはダメだろう」と気づいたことから、いろんな変革が始まっていきました。

副業の解禁から1年半で、社内にはいろんな現象が出てきつつあります。そういったことも踏まえて、今日はお話ししたいと思います。

塩浦さん 「日建設計」という設計事務所で、スカイツリーのような大きなものから、小さな飲食店まで、建築士としてさまざまな設計をしています。2013年10月からは「NIKKEN ACTIVITY DESIGN lab(NAD)」という部署の室長をしています。

「アクティビティデザイン」とは「人の行動を中心に据えて場をつくっていくこと」。空間は、床や壁、天井だけではなく、イベントやシステム、サービス等もデザインしていくことになると思います。

今日のテーマ「働き方と場のデザイン」は、私にはドンピシャです。私の経験のなかから、みなさんのヒントになるようなことが申し上げられたらと思っています。

沖本さん「パークコーポレーション」という会社で、「青山フラワーマーケット」という花屋に併設するカフェの店舗開発や、花やグリーンを用いた空間デザイン、内装デザインのプロデュース・営業のマネージャーを務めさせていただいています。

屋外に植物を増やすのもよいけれど、実際に人は9割以上の時間を室内で過ごします。もっともっと、室内に公園のような快適で居心地の良い空間をつくれないかと考え、「parkERs」という、花とグリーンを使った空間デザインの事業部も展開しています。

自分たちでも、本当に生産性が高い、クリエイティブなオフィスとは何かを日々研究していて。人を中心として、植物や自然の関係性をデザインしていきたいと考えております。近未来的な話題も多いなか、アナログな視点からもお話しできればと思います。

當間さん僕も一級建築士という建築系の仕事をやっております。つい最近まで「カフェ・カンパニー」という会社に13年間勤めていて、「WIRED HOTEL」というホテルや、高速道路のサービスエリアまで、さまざまな設計から事業企画まで携わっていました。

3ヶ月前に、京都の日本海側にある与謝野郡伊根町という、“舟屋”という船のガレージがある伝統的な建築物で有名なまちに移住しました。それは、釣りが趣味ということが大きな理由のひとつなのですが、日本でこれほど海に近いまちはないということもあったんです。

伊根町で小さな物件をひとつ買い、これから1階をカフェにして、2階は一組限定の宿にすることを計画しています。今は「向井酒造」というところでお酒をつくっているという、けっこうめちゃくちゃな経歴なのですが、今日はできたての新酒を一本持ってきましたので、みなさんと共有できたらと思っています。

(会場拍手)

おそらく僕は“変態枠”で呼ばれているのではないかと(笑)。よろしくお願いします。

渡邉さん「移動が多い」とご紹介いただきましたが、まさに、11〜12月は3分の1も東京におらず、アジアを飛び回っていました。その理由は、アジアで女性の起業家支援と、政府や企業がアジアで事業開発をするときのお手伝いをしているからです。

私は、持ち歩いているアロマスプレーとイヤホンがあれば、どこでも生産性が上がると思っていまして、移動が多いからこそ、固定された場にこだわらずにどう “自分の場所”を確保するかを常に考えています。

働き方や生き方は、人生の時間軸によっても変わると思うんです。たとえば、私は「この歳になったらこの国に住みたい」「この町に住みたい」というイメージがあるんですよね。今日はみなさんと、時間軸のなかでの働き方と場づくりについてもお話しできたらと思います。

大企業は20代のマグマのようなエネルギーを生かせていない

西村今日は空間ありきではなく、自分たちの動き方や「本来こうやっていきたい」というものに合わせた「空間のあり方」も考えたいと思っています。

まず、河崎さんに。昔は「ロート製薬といえば目薬」というイメージがありました。ところが、今は目薬とは全然関係ないものにも着手されています。こうした動きの背景にある社内の人たちの感覚がどう開かれていっているのかを聞いてみたいです。

河崎さん薬は病気に苦しむ人のために絶対に必要ですから、情熱を持って開発をしています。しかし、一方で「こうすれば元気に暮らせる」「幸せに暮らせる」という提案を、医学的なエビデンスに基づいて提案できればと思うんです。

再生医療の研究開発が進んでいますし、新しい医療技術が「人生100年時代」をつくりあげていくのだと思います。しかし、製薬企業は「人生100年時代」に貢献するだけでいいのか? それでは、責任を半分しか果たしていないのではないか…つまり、100歳まで人の命を引っ張っておいて、健康に暮らせる提案を怠ってはいけないのではないかという発想です。

現在の「ロート製薬」の売り上げは30%が目薬、化粧品が60%です。製薬会社でありながらどんどん化粧品を扱うようになり、次はアグリ(農業)事業に向かっていこうとしています。「人の命に貢献する、幸せに暮らす」ということでなら、薬の開発も再生医療も、美しく生きるための化粧品も、食による健康も全部つながっているからです。

毎日、私たちの身体の細胞を活性化させ、新陳代謝させるエネルギーは食からきます。食をきちんと見直すなら農業や水産業からだろうという思いから、石垣島の農業生産法人「やえやまファーム」とともに農業の6次産業化に挑戦しています。

また、各都道府県の地元の農産物と発酵を掛け合わせれば、一切の添加物を使わずに腸内フローラに良い影響を与える新しい発酵飲料ができます。僕ら製薬会社がきっちりエビデンスを取って、日本人が大事にしてきた味噌や醤油、漬物や酒などの食が、人の命に貢献していることを証明できれば、日本食はいろんなところに打って出られる。そういう思いで取り組んでいます。

「石垣島に行って豚を育ててくれる人」「有機栽培で育てたパイナップルの搾りかすを使って豚の餌を開発し、豚を育ててくれる人」と社内公募したら、大学院で修士や博士をとったような人たちが20人も手を挙げました。

西村「石垣島に行きたいと20人が手を挙げる」ということが、どうやって起きているのかをちょっと聞きたいです。彼らは、どんなことを求めて石垣島に行きたいというのか、そこでどんな新しいことを求めているのか。

河崎さん手を挙げてくれた人たちには2通りのパターンがあります。ひとつは、今の自分の仕事から逃げて、きれいな海のそばで働きたい人。もうひとつは「命に関わる開発をやってみたい」という、エネルギーの出しどころとして手を挙げる人。僕らは、エネルギーが前に出ている方を選んで行かせます。このクレイジーなエネルギーが新しいものをいろいろ生み出すんですね。

このエネルギーの源にあるのは、志のようなものです。「企業は金儲けだけじゃダメだ」「世の中の役に立つために薬剤師免許を取った」とか、眠っていた学生時代の熱い思いが呼び起こされる。特に大手の企業は、社員に「社内における選択の自由を差し出させる」という犠牲を強います。すべての人事権は会社にあり、社員が唯一持っている自由は会社を辞めることだけです。

僕ら企業は、マグマのようなエネルギーを溜めこんでいる20代に、「お前たちはまだ修業の身だ」と何もやらせていない。日本中の大企業の20代のエネルギーを集めたら、恐ろしい何かができるほどのものがあるような気がします。これは国家の損失じゃないかと思うぐらいです。

だから、会社の仕事を人生の豊かさや自己成長につなげたい人にとって、一番大事なことは選択肢を与えるということだと思います。自ら選択をすれば自ら責任を負い、新しい自己選択をしながら「世の中の役に立ちたい」というエネルギーの出口を求めますから。

働く場に“生き物”を介したコミュニケーションをつくる

西村もう少し働き方の話をして、前に進めていこうかと思います。沖本さんも、会社でいろんな働き方をされていると思います。いろいろ考えないと植物という生き物と一緒にやっていけないと思うので、普通に毎日同じことを繰り返すのとはちょっと違うと思うんですね。

沖本さん僕たちのオフィスには、花とかグリーンがあふれています。入社してすごくいいなと感じたのは、毎週月曜日の朝に全社員でする水やり。「水やり」という気軽な行動を通して、普段はしゃべらない人たちとコミュニケーションが生まれるんです。

そういうことを踏まえて、内装デザインをさせていただいたある企業さんで「新人さんの積極性がなかなか見受けられない」というお話を聞いた時に、「各スペースのグリーンに3人1組のチームで水やりをする」という仕組みを提案しました。

室内の植物に水をやるのはめちゃめちゃ難しくて、プロでも3年かかると言われています。完全に任せるとすぐに枯れてしまうので、うちのスタップが毎週お伺いして新人さんにだけ技術を教えるんですね。そして、新人さんは水やりのリーダーとして技術を覚えて、チームにいる他の部署のベテランさんに指導する。

すると、水やりで自信がついたことをきっかけに、新人さんが仕事でも積極的に発言するようになったそうです。また、部署を越えてコミュニケーションすることで、社内の雰囲気が非常に良くなったというお声もいただきました。

グリーン業界は、基本的に水やりやメンテナンス管理を業者側が全部やってしまいます。でも、育てる喜びもありますし、社内コミュニケーションのきっかけにもなるので、広げていきたいと思っています。

西村「parkERs」のオフィスは、「オフィスにグリーンがある」というより「森のなかにオフィスがある」という感じで、緑の匂いもするし水の音もする。「そこまでやるか」というような空間なんですね。ここで當間さんに、何に惹かれて伊根町に引っ越したのか、住んでみて「これが求めていたことなのか」と感じていることがあれば聞きたいんですけども。

當間さん前職でたくさんのカフェをつくったんですけども、一つ特徴的だったのは千葉の房総半島にある「市原サービスエリア上り」の設計です。企画から担当して、オープンしてからは房総の生産者とマルシェで農産物を販売したり、新たな商品開発をして物販コーナーで販売したりしていました。

「地域に関わりたい」という気持ちは10年ぐらい前からずっとあって、社内でも公言していたこともあり、地域の仕事にも多く関わらせてもらいました。でも途中から「もうちょっとこの生産者にフォーカスして商品開発したらおもしろいのにな」と思うけれど、会社のロジックと合わなくて踏み込めないみたいなことが起きはじめていて。都心側ではなく、地域側のプレイヤーとしてトライしたいという気持ちがありました。

ただ、僕は埼玉の海も山もないところの出身なので、Uターンする気持ちはさらさらなくて。「そこに骨を埋める覚悟で行くならどこに?」と考えるなかで、たまたま伊根に出会いました。会社で定年まで勤めるというビジョンはまったくなかったので、いつか辞めるなら地方創生で補助も手厚い今だな、と。60歳で移住するより、40歳で移住するほうが地域へ貢献できることは大きいのではないかと思いました。あと、「老後も釣りさえできれば楽しい人生が送れる」というイメージもありましたね。

移住してよかったのは、単純に食がすごく豊かだということ。伊根浦地区では、漁港に水揚げされた魚を「今日はブリがとれました」「イワシがとれました」と各家庭に設置してある防災無線で毎朝放送するんです。競りに出す前の魚を、各自が勝手に自分のバケツに入れて、重さを計って購入する仕組みなので、魚屋がないんですよ。

さばいた魚の内臓を網に入れて海のなかに置いておくと、またそこにタコとかいろんな小魚が入っている。その小魚を舟屋の水辺で育て、大きくなったら食用にして、またその内臓を餌にするという、海に隣接しているからできる特殊な魚の循環スタイルがあります。

また、山間部に行けば無農薬栽培にこだわる農家さんから直接野菜を購入することもできます。伊根浦地区では、地元民が集まる居酒屋などがほとんどないので、新鮮な魚介や野菜を調理したものを持ち寄って、誰かの家に集まって飲むコミュニケーションも盛んで、とても楽しい毎日を過ごしています。

空間に対して、人間は本能的に何を求めているのか?

西村塩浦さんは、いろんな感覚を持っている人に空間を提案していると思います。どんなやり方でアプローチしているんですか?

塩浦さん僕は、オフィスをたくさん設計するんですけど、最初にクライアントのみなさんに2週間ほど写真日記を撮ってもらうんですね。「ご自身の一日のなかで、何でもいいから気になったものを写真に撮ってください」と。1人10枚で20人くらいに撮ってもらうと、だいたい200枚。多い時は400枚くらいになります。

集まった写真を全部壁に貼って「どうですか、みなさんこの感じは?」と言うと、けっこうみなさん「ゾッとする」という感想が多いです。そういう仕事をしていると、なんか見えるんですよね、“ダークマター”が(笑)。それをベースにしながら新しいオフィスをデザインします。

西村ちょっと待ってください。“ダークマター”ってなんですか?

塩浦さん具体的に言うとテレビモニターが多い会社って結構つらいですよね。ぱっと見、遠くで景色として見たときにグレイッシュな写真が多い。よく見ると書類とかモニターとか。白黒みたいな写真が多い会社を「ダークマター」と呼んでいます。

そうじゃなくて、極彩色みたいなものが入っている会社っていうのは、頼みもしないのに土日の写真とか入れてくれているわけですよ。「仕事日記です」と言っているのに、週末の家族の写真とか入っていたり(笑)。写真を撮ってくれない会社もあるし、1枚で10分語る人がいる会社もある。いろんな企業さんの“らしさ”が出ます。

多分、みなさんのなかでは本能的にグレイッシュな空間から逃れて、ウッドや明るい色、やわらかい色を求めるベクトルが動いていると思います。

最近、僕が特に気にしているのは、空間がすごく制度化されていること。所与のものとして、床と壁と天井があるので「この空間はイヤだな」という感じは出てこないものなのですが、よくよく考えるとその空間に侵されているわけですよ。だから、言葉になっていないものをえぐり出すために写真日記みたいなものをつくってもらっています。

そのとき、気をつけているのはマイナーセンスです。香りや音のコントロールに、デザインのテーマが移ってきていると見ています。クライアントは視覚的な部分で「ウッディな感じがいい」とか言うのですが、それはメジャーセンスのほう。本当に求めているのは音環境や香りだったりするんです。

西村沖本さんのオフィスは、森にするだけじゃなくて水の流れもつくっていますよね。視覚の話だったら緑でいいし、森のような香りもあるし。でも水までやるっていうのは何かのこだわりがあるんですか?

沖本さんそうですね。もともと「公園を室内に」ということで始めたので、「公園ならグリーン以外にも風や水がほしいね」とか「蝶を飛ばしてみようか」といろんなことをやろうとしました。水のせせらぎの音はすごく心地いいので、実験的に給排水なしの水の什器をつくっています。植物を含めた内装デザインを手がけるなかでも、正直に言うと植物よりも水の方が圧倒的に反響がいいです。

人類の歴史のなかで、産業革命以降の時間はわずか0.04%くらいしかありません。DNAのレベルでは人間にとって自然のなかにいるのが自然。人間は、水の音だけでなく、木漏れ日とか光の揺らぎなどを求めているんじゃないかなと思うので、そういうものを室内に落としていきたいです。

実は僕、入社したときにJRさんに「みどりの窓口に緑がないじゃないですか」と提案を持っていって、きれいに玉砕したんですけど(笑)。最近は、JRさんなどの鉄道や、いろんな規制のあるところにもちょっとずつ取り入れていただいているので、そういう流れをどんどんつくっていきたいと思っています。

21世紀の空間に求められるのは「自在化」

西村渡邉さんにコメントをいただきたいと思います。冒頭で「アロマとイヤホンを持っていれば私はどこでも働けます」って言われましたが、緑と水もあったほうがいいですか?

渡邉さんもちろんあった方がいいと思います。私が行くのはアジアの農村で、緑とか水はあるので。匂いや音ってすごく大事だなと思ってるんです。出張先によっては、花を買って、1〜2日しかいないときでもホテルの部屋に活けたりしています。

西村でも、匂いって人によって好き嫌いが違ったりすると思うんですけど、塩浦さんはどう思われますか?

塩浦さんそうですね。とある企業さんとコラボレートして、ワークショップ中にアイデアが出るアロマっていうのを開発したんです。どうやら、香りってずっとあると不愉快なもので、ワークショップが始まる前にぱっとかぐわしい感じがあり、途中で消えていくのがいいみたいです。また、終わり頃にシュッとやるとリフレッシュする。

日本には香道という伝統文化がありますが、どのタイミングでどの瞬間に香るのか、そういうところは空間のデザインに近いので、気をつけるようにしています。香りの好みは人によってそれぞれですね。柑橘系がいい、ミント系がいい、香ばしい香りがいい、とか。

西村一方で、ずっと香らせるみたいなこともやるじゃないですか。ホテルとか行ったらずっと香りがあるというような。「ずっと香らせる前提ならこういう香りがいい」みたいなことはありますか?

塩浦さんうーん。どうでしょう。それこそ趣味の世界になってくると思いますけどね。例えばロンドンなんて香水の町ですから、常に香水の香りがしますよね。それは文化だと思いますけれども。日本はちょっとそういうのはないんじゃないですかね。香道みたいに。まず無臭であって、途中からふわっと出るとか、押し入れとかクローゼットを開けたときにするとか、そういう感じがいいんじゃないかなと思っています。

西村渡邊さんは移動が多いから「いつもの感じを」「自分を持つ」みたいな感覚が必要なんだろうなと思ったんですね。もはや「いつもの場所」がないから、いつも持ち歩くということになる。空間は「いつもの場所」という感覚をつくり、サポートするのにすごくパワフルだと思います。

塩浦さん21世紀の空間ってまだまだ遅れていると僕は思っています。空間のなかで、人間以外あまり動いていないじゃないですか?これはおかしいと思うんですよ。照明には揺らぎがあるべきだし壁も動いているべきだと思うんですよね。常に何かが動いているっていう状態まで行くのが、僕らがやろうとしているIoTと空間の融合です。

20世紀の空間づくりは「自動化」でした。自動ドアや自動運転のエレベーターなどによって、なんとなくみんな快適になったような気がしていました。21世紀にやるべきことは「自在化」。つまり、人のエモーションやその日のテンションによって、自在に空間が動く状態をつくりたい。

さらに、大人数がいるパブリックスペースで、自分の空間の好みをつくれるという個別空調などの仕組みをつくっていくのも自在化のプロジェクトのひとつ。最終的には、それぞれ個別に快適な状態の人間が物理的に集まっているほうが、一人で部屋にこもっているより楽しいという状態を目指すことになると思います。

別々の興味を持つ人が、同じ空間を共有することによって生まれる新しいおもしろさを、僕らのようなつくり手が21世紀の空間としてどう提供できるのか。そのテーマに、水やグリーンが新しいかたちで入ってきているんじゃないかと感じています。

今、企業の働き方には“揺らぎ”が必要なのかもしれない

西村しばらく空間の話が続きましたが、河崎さんはどう聞いておられましたか?

河崎さん僕は空間というより、“揺らぎ”に少し反応しています。実は、薬は揺らいではダメなんですよね。薬は『日本薬局方』に定められた、ある狭い枠のなかに入っている化学成分だけでつくっています。確かに薬の品質は揺らいではいけないのですが、もうちょっと揺らぎがあってもおもしろいのかなと。

そういう意味では、たとえば2017年に限定発売した「『ロートジー』スライム型目薬」なんかは、ちょっとした“揺らぎ”なのかもしれません。目薬の挿し方って、だいたい7パターンに分かれるんです。右目から挿すか、左目から挿すかを含めて。薬には同じ効き方をしてほしいから、パターンのなかにはめようとするんです。

みなさんのお話を聞きながら、薬のようなものほど“揺らぎ”の部分が必要なのかもしれないと考えていました。風邪薬のカプセルが、一個ずつ三角、四角、星形と違うとかね。そういう発想を、カチカチの製薬会社のなかに持ち込んだ方がいいのかな、と。

西村副業解禁の話もまさに“揺らぎ”を持ち込んだケースだと思うんですけど。全員が「ロート製薬」の仕事をしている状態から、みんなバラバラの副業を始めるわけですよね。その“揺らぎ”はどんな影響を?

河崎さんたしかに。今、気づいたのですが、副業解禁は“揺らぎ”だったんですね。今は50人くらいが副業をしていて、うちの場合は申告制で何でもOKなのですが、65%は自分の地元のための仕事をしています。田舎から出てきて、東京や大阪で働いている人には「地元に貢献できていない」というコンプレックスがどこかにある。

会社員は、毎朝9時に出勤したら6時まで帰っちゃだめ。昼休みは12時から1時までの1時間。これは昭和の工業化時代につくってきた労働環境です。時間外、平日の夜と土日に社員が何をしようが、法律的には止められないのですが「副業を禁じる」という規制もありました。情報漏洩の観点から同業他社に勤めることは、法律的に止められるんですけどね。

パターン化された1週間はおもしろくないから、本来は揺らいでいたい。ところが、会社は揺らがない薬をつくるかのごとく社員を扱う。副業解禁は、これに対する僕らの反抗なのかもしれません。

西村ちなみに、ミラツクが「出勤しない」っていう働き方をしている理由は、僕ができないからなんです(笑)。しかも、僕が年に1回1ヶ月休まないとやっていられない人間なので、そういうリズムできているんですね。自分のバイオリズムを崩すと絶対に生産性が落ちる。毎日同じところに絶対行くということができないんですね。

河崎さん西村さんの場合は、存在そのものが揺らいでいるんだと思うんです。「ゆるい」「やわらかい」とかいろんな表現がありますが、やっぱり揺らいでいるんでしょうね。企業というのは、揺らがないようにする力が自然に働いているけれど、これではイノベーションを起こさないようにするひとつの枠にハマっていくのではないかと思います。

都市や空間は、一人ひとりのユーザーがつくっている

西村揺らいでいる最たるものが海だったり水だったりすると思うんですけども。當間さんは、海のそばで住んでいるからこそ感じることはありますか?

當間さんちょっとその質問を置いておいて(笑)。河崎さんの話を聞きつつ、ピンと頭に浮かんでいるアイデアみたいなものがあって。酒蔵で働いているので、麹を育てるために「室(むろ)」に入るんです。30℃弱くらいに保たれているので、熱いからパンツ一丁に白衣を着て。すると、30分くらい入るだけで肌がすべすべになってくるんです(笑)。

それはともかく、地方の酒蔵はおそらくどこも人手不足で、僕らみたいな移住者がお手伝いするのをすごくありがたがってくれます。「ロート製薬」さんも、研修で地方の酒蔵を手伝うプログラムなどを行うと、麹や発酵を学ぶ意味ですごく有意義になるんじゃないかなと思いました。

西村人がちょっと移動したり、別の仕事をしてみたり、知見や知恵を交流したりすることで、社会全体が揺らいでいくわけですよね。いつもと違うつながりのなかで新しいアイデアが生まれるといったことは、揺らいでいるなかで今までと違うこととぶつかったりすると起こる。

副業解禁は、会社を主体とした揺らし方みたいな話だと思います。だったら、社会全体で揺らしていくことができると思うんですよ。塩浦さんは、空間の話をしてくださったけれど、都市全体で揺らしていく都市デザインみたいなこともできるのでしょうか。

塩浦さんその通りだと思いますね。ちなみに、最近知ったんですけど、東京の空気ってかなりきれいらしいんですよ。石原知事の時代に、屋上緑化とディーゼル規制もやりまして。実は東京って、なんとなく地方からするとゴミゴミしたイメージがありますが、実は空気はきれいで緑化率も非常に高いというふうになっている。

都市のなかには、実はどこにでも居場所を見つけられる可能性があると思います。そのときに、僕ら「NAD」でやっているのは、都市のパブリックスペースにオーナーシップを持つということ。自分の家以外に“自分の居場所”が多いほど都市は魅力的です。たとえば、通勤電車に自分の指定席があれば心地いい都市になるかもしれません。

ところが、みなさんは「通勤電車である」という固定概念で、その可能性を見逃しがちなんですよね。座二郎さんというマンガ家さんは、ゼネコンの設計部の仕事をしながら朝夕の電車のなかだけでマンガを描いて、世界的な評価を得ています。僕らは、たとえそれが駅前の花束ひとつでもいいと思いますが、自分のオーナーシップを見つけることを東京のなかに植え付けていきたいと思います。

西村塩浦さんは「空間が変わらないというのは幻想だ」とよく言われます。結局「都市や空間は変わらない」と思い込んでいるのは、僕らの側の考え方もけっこう大事なのだなと思います。

塩浦さんそうですね。たとえば「CEATEC JAPAN」のようなイベントに行くと、僕も含めてサラリーマンは黒っぽいスーツを着ていますよね。それが群衆になると、ものすごいカチッとした会議に見えます。一方で、同種のイベントで米・オースティンで開かれる「SXSW」はみんなTシャツと短パンで楽しそうです。

やっていることもコンテンツもいいんだけど、服装のせいで全体の風景が固くなってしまって、イノベーションが起きにくくなっていると考えると、実は都市空間を構成する要素のひとつは自分たちのファッションかもしれない。都市づくりは、実は都市のユーザーであるみなさん一人ひとりが担っているという認識を持ってもらえると、僕らとしてもやりがいがあるなと思います。

「働く」という動きを解き放つために必要なこと

西村僕のなかでちょっとつながりました。だから、最初の沖本さんの花をみんなで育てるみたいなのは、まさに一緒につくっていくみたいな感覚。「任せます」ではなく「一緒に育んでいこう」ということですよね。

そろそろ時間なので、「未来が求める働き方と場のデザイン」というセッションのテーマについて、「今後こういう場が求められるのでは」「こういうことが起こっていくから、こういう仕組みや取り組みが行われるのではないか」といことを、一言ずついただければと思います。

河崎さんまだ“揺らぎ”に頭を引っ張られています。僕は、大企業の新卒一括採用のところに、“揺らぎ”をつくらないといけないと思っています。

若い人のためのインターンシップなど、学生時代の彼らに起業やイノベーションの種を蒔いてくれているのに、大学を出ると一括採用の10ヶ月間だけがチャンスみたいになっています。また、新入社員は一律に教育をして30歳になったら2%ぐらいをうつ病にしている。これは、良くないと思いますね。

僕らは、20代の失敗経験を買いたいから、28歳とか30歳とか人生が変わっていくところで来て欲しい。この仕組みは「ロート製薬」だけではできないので、2020年のオリンピックイヤーに向けて、企業コンソーシアムを組んで動き出しています。

塩浦さん今夏に、働き方に関する文章を書いたときに「働く」という言葉の語源を調べたら、「はた」という言葉にたどりつきました。今日のお話になぞらえるわけではないけれど、「はためく」などハタハタと揺らいでいる状態を「ハタ」というらしいんですね。

「働く」の語源が、「はためく」とか「揺らめく」とか、「動く」「モビリティ」という意味のある言葉にあるなら、本来は勝手に動いているわけですよね。自由に勝手に動いている状態をどれだけキープできるかを考えたほうが、僕はこれからの働き方や働く場に対するデザインに近いのではないかと考えています。

おそらく、来年、再来年はもっともっと世の中は劇的に動いていくので、それに乗り遅れないように自分自身もただ意味もなく、目的もなくはためいていたいなと思います。今日は、すでにはためきまくっている方々と一緒にお話しさせていただいて、すごくエネルギーをもらった気がします。

沖本さん先ほど塩浦さんの方からありましたが、「揺らぎ感が各所で起こるようなデザインってどうなのかな」と、うちも社内でよく議題をしています。また、オフィスが便利に進化するにつれて、実は人間が退化しているのではないかと思うんです。特に感覚の部分で失っているものが多いんじゃないかと。

「1/fゆらぎ」という言葉を聞かれたことがあると思います。人の心拍の間隔やろうそくの炎の揺れかた、水のせせらぎなどに含まれるゆらぎで、人間は五感で1/fゆらぎを感知すると、自律神経が整えられ活力が湧くそうです。

このような“揺らぎ”を、働き方のなかにどう実現していくのか。うちのオフィスは、木の素材を生かした机ですので、ガタガタで商談中にお客さんがどんどんお茶をこぼしますし、レンガを敷き詰めた床はちょっと危ないんです。でも、その足の裏の感覚から何かおもしろい発想が出るんじゃないかと思いますし、そこにお金をかける意味がある。そういう場所をいろんな方と連携してつくっていきたいと思っています。

當間さん今回のテーマで、ソフト面とハード面で思うことをお話しさせてください。副業や働き方の多様性みたいなソフト面の話で言うと、前職の「カフェ・カンパニー」代表の楠本さんは「リクルート」を辞めて起業した人でした。やっぱり、「リクルート」の方って辞めて独立している方がすごく多くて、相当に揺らいでいる会社だからいろんなイノベーションが起きているのだと思います。

楠本さんはやはり「カフェ・カンパニー」でも「副業OK」と言っていて。僕も実際に少なからず副業をしていました。それが、本業での仕事につながったり、自分のスキル向上に実際に役立っていると思うと、組織のなかで副業を認めることは、ソフト面でのプラスになるという意味もあるのかなと思います。

またハード面では、僕が死ぬまでの残り50年ぐらいの間に「伊根の環境をどのくらい良い状態で子どもたちに残せるか?」ということを考えていますが、その全部が自分ごとであるという感覚があります。

50年後、世界中の人たちとVRなどで言語の壁も越えて簡単にコミュニケーションがとれるようになっているだろうと考えると、都市にいる意味もけっこう薄れてくるんじゃないかという思いもあって。そうなると、100年単位ぐらいでは絶対変わらない、地形が織りなす自然環境の価値が高まって、場所の取り合いになるということも起き得るんじゃないかという気もしています。今後は都心部ではなく、そういった世界各地の自然豊かでユニークな田舎をつなぐような、サテライトオフィスネットワークなどもできたら良いなと思います。

渡邉さん働き方に関しても、場所に関しても、細胞レベルで知っているニーズに基づく「そこに自分がいる」という安心感を持っていることが大事なのかなと思いながら聞いていました。

結局、自分が好きなものをちゃんと知っていることが、とっても大事だなということ。「オーナーシップ」「自分ごと」という話がありましたが、自分の働き方、あるいは生き方にちゃんとオーナーシップを持てているかというと、意外と持てていないですよね。

人間は、自分が寝たいと思ったら寝て、食べたいものを食べたらちゃんと必要な栄養を採れるはずなのに、そのプリミティブな能力を失ってきているのかなって。「自分はこれが好き」「これがやりたい」というプリミティブな部分を取り戻していかないと、自分にオーナーシップを持つことができません。

都市でも社会でも「オーナーシップを持って生きていいよ」「副業していいよ」と解放されたときに、「何をしていいかわからない」とならないようにしないといけないなと、改めて思っているところです。

西村ありがとうございました。僕の発見は自分が“揺らぎ”だということでした(笑)。“揺らぎ”がほしい人がいたら呼んでください。ありがとうございました。

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杉本恭子 ライター
京都在住のフリーライター。大阪出身。東京でさまざまなオンラインメディアの編集者を経験したのち、学生時代を過ごした京都でフリーに。現在は、人の言葉をありのままに聴くインタビューに取り組んでいます。Webマガジン「greenz.jp」シニアライター、「雛形」では徳島県・神山の女性たちにフォーカスした「かみやまの娘たち」を連載中。仏教が好き、お坊さんに詳しい。
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