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さあ70億人で何をしよう?―― 情報をテクノロジー化して、みんなが「未来を見据えた生き方」を選べる構造をつくりたい。ミラツク代表・西村勇哉インタビュー(前編)

インタビュー

 
Emerging the future, we already have. (今すでにある未来の実現に取り組む)

ミラツクのミッションは、「すでにある未来の可能性を実現する」こと。そのために、セクター、地域、職種などの領域を超えて、人と人の協力が生まれ、一人ひとりが望む未来が近づく、そんな社会の実現に向けた取り組みを行っています。

ミラツクの源流は、2008年に代表・西村勇哉がはじめた「ダイアログBar」という対話の場づくりにさかのぼります。それから10年以上が経ち、ミラツクの取り組みはよりダイレクトに「未来構想をつくること」へと進化しつつあります。

今回は、西村へのインタビューを通して、改めて今のミラツクが取り組んでいることをお伝えしたいと思います。

人間はなぜ、未来を予測しようとするのか?

西村これまでを振り返るとミラツクは、対話や共創、イノベーションといった「未来構想を実現する方法」についてのトライ&エラーを繰り返し、その方法論づくりに取り組んできました。

そしてこの数年、特に2015年ごろからは、個人の発想に留まらない、より構造化された「未来予測」について関心を持つようになりました。

より直接的に「未来構想をつくる方法」が見えれば、誰もが未来についてアイデアを出し、実現に向けて行動できる。未来をつくることの民主化に新しい道ができるのではないか。できるかどうかはわからないけど、可能性があるならやってみよう、という試みです。

人類は、いつの時代も未来を見通すことを試みてきました。

「いつ種を蒔けばちゃんと植物が育つだろう?」「次に暖かい季節がやってくるのはいつだろう?」と考える天文学、「この怪我や病気は放っておいていいんだろうか?」「この病気はどんな進行をするんだろう」と考える医学というように、その時代に応じて生きていくために重要な「解消したい不安」が出てくると、人は未来を予測しようとするのです。

そして今、多くの人が、テクノロジーを「人の手を離れている、よくわからないもの」と感じています。一方で、テクノロジーは世の中に大きなインパクトを与えている。だから、テクノロジーの未来とテクノロジーによる社会の変化を「知りたい」「予測したい」と考えるのは、人としてとても自然な感じがします。

そもそも人類のテクノロジーの歴史は、700万年前、森を追われた人類の祖先である猿が木にぶら下がるために培った「直立」と「モノを掴む手」という所与の力を「二足歩行」と「モノを持って帰って来る」という、別の用途に転用したことに始まります。

さらに、火を、安全を確保したり肉を加熱したりする道具として、石(斧)を引き裂く道具としてなど、自然が生み出した現象や物質を別の用途に転用しながら、道具を用いたテクノロジーが起こり、その進化は一気に加速します。

前のテクノロジーを生み出した知識が次の一歩を早め、より精緻化・複雑化していくのが、テクノロジー進化に組み込まれたプロセスです。例えば石斧の複雑化の歴史を見てみると、時代を追うごとに緻化・複雑化がどんどん早まっていく様子が確認できます。

「最初は一部の人が使い始める」というのも、テクノロジーの性質です。古代エジプトの文字・ヒエログラフは、当初は特権階級だけが使用していましたが、時代が下るにつれて多くの人が文字を用いるようになりました。その後、印刷技術が登場し、今では多くの人が日常的に文字というテクノロジーを自然に活用しています。

まとめると、テクノロジーは、「既にあるもの」を別の用途に用いて新しいものを生み出し、その知識を伝播させていくことでスピードを上げながら複雑化し、やがては一般化して広がり、人々の生活にしみ込んでいくという性質を持っているということになります。

そして、テクノロジーが複雑化する速度を数値化したのが、有名な「ムーアの法則」です。「集積回路上のトランジスタ数は18か月(=1.5年)ごとに倍になる」という見通しが立てられ、この50年間、確かにそれが実行可能だということがわかりました。
 

 
その後、未来学者のレイ・カーツワイルがシンギュラリティの予測の元となるテクノロジー進化の予測に取り組むなど、過去の蓄積された情報を元にテクノロジーの未来を見通そうとする試みは、少しずつ世の中でも認知されるようになってきました。その背景には、前述のテクノロジーの未来に対する人々の関心があると考えています。

ミラツクが実現したいのは、未来予測に関する情報を一部の人だけが持つのではなく、広く社会に共有され、未来社会について多くの人が各自の考えを進めやすくなること。

世の中全体が、未来の見通しを持ちやすくなれば、「そういう未来が来るのなら、自分はこんなことをやってみたい」と、積極的な未来への関わり方が増えていくのではないか、と考えています。

それこそが「希望」ではないでしょうか。

未来社会を考えるための“ツール”を開発する

西村2018年から、「理化学研究所(以下、理研)」の未来戦略室に週1日だけ出向させてもらっています。自分で自分に出向命令を出すので変な感じですが、今はミラツクと同時に理研にも席を持たせていただいて、3,700人いるさまざまな分野の科学者から異なる分野の科学者を選出し、インタビューに取り組んでいます。

人工光合成や再生医療、人工冬眠、シミュレーション科学、新しい物質の開発、宇宙の始まりの研究など、科学者たちの頭の中には、「研究が順調に進むことで何が可能になるのか」という実現可能性を持った未来のテクノロジーの発想があります。その発想を収集し、未来社会の可能性を拓くための試みです。

多くの科学者のお話を伺う中で感じたことは、今はまだ理論や仮説だけかもしれないけど、もし実現したら、今は全く想像もしていないようなことが可能になる、未来の可能性は思っている以上にはるかに幅と奥行きがあるということです。

未来に実現可能性があるテクノロジーは、理研の中だけでなく、未来予測の試みやその結果生まれた情報の中にも数多くあります。ミラツクでは、このような実現可能な未来のテクノロジーを多くの人と共有することで、誰もが、未来の可能性への感覚を大きく開いた上で、未来社会について考えることができようになるのではないかと考え、ふたつのことに取り組んでいます。

ひとつは、世の中にあるさまざまなテクノロジーとその周辺の未来予測を集積してデータベース化すること。いわば、既にある情報の集約作業です。

たとえば明日までに「本を10冊読む」となるとできない人もいると思います。しかし、事前に集積し、まとめ、手に取れるような情報ツールにして、「この中から興味あるものを選ぶ」くらいに簡便化できたら、未来に関する情報を用いることは、一気に一般化するんじゃないかと考えました。

未来予測に関しては、ミラツクのスタッフ全員で15冊の未来学の書籍を分解し、内容をデータベース化して集約し直し、552個の未来予測カードを作ったり、ビジネスモデルのパターンを集積してカード化したり、領域ごとに異なるツールを作ったり。他にも、15〜20名程度の方々のインタビューを書き起こし、データ化した上で分析と集約を行なって、手に取れるツールとしてのカードを作ったりしています。

 


 

そしてもうひとつ着手したのは、社会テーマの探索と集積です。人類学、哲学、社会学の3つの領域で扱われるテーマを集積し、人、社会、環境の3つのカテゴリーで140の項目を抽出。すると、人の営みを考えるための視点として学問的に重視されてきたものが見えてきます。

たとえば、自動車というテクノロジーは、世の中に広がることで、舗装道路、高速道路、モーテル、ショッピングセンター、郊外都市……と、暮らしの諸側面と響き合いながら、人々の生活を変えていきました。

「移動」は「歩く」「馬に乗る」「船を漕ぐ」「飛行機で飛ぶ」など、テクノロジーが進化しても、人類の歴史の中で変わらずに繰り返されていたり、「エネルギー」も、「人力」「牛馬」「石炭」「石油」「原子力」「太陽光」と変化したり、やり方が変わっただけで本質は変わらないように思います。

そこから感じたのは、テクノロジーによって方法が変化していくテーマを見出すこともおもしろいのですが、一方で、そもそもの「人間」についての理解を深めることも未来社会を考えるために不可欠な軸だということ。「人間」と一言で表されるものを、きちんと整理してまとめる作業の必要性でした。

このように、やってみてはわかったことがあり、次の取り組みにまた挑戦し、使ってみることでさらに見えてくるものがある。試行の繰り返しから、徐々に実際に動くツールができてきます。ミラツクでは、実践と研究のサイクルを行き来しながら、まだやり方がわからない一方で可能性があるものへの挑戦を日々行なっています。実践者でもあることが、高速でサイクルを回せる楽しさへとつながっているのが嬉しいです。

共に未来を考える方法を見つけたい

西村社会課題の解決とソーシャルイノベーションは、混同して考えられがちですが、両者は決してイコールではないと思っています。もちろん、社会課題の解決はソーシャルイノベーションの入り口になります。しかし、「課題を解決すれば良い社会になる」とは限らない点に盲点があります。

たとえばそれは、「風邪を引いたから治療する」というときに、風邪が治るかどうかだけでなく、「風邪が治ったら何がしたいか」がないと、風邪が治った後にそこで止まってしまうような感覚です。

ソーシャルイノベーションは、「マイナス」を「ゼロ」にすることと、「ゼロ」から未来に向けて「プラス」へと立ち上げていくことの両方で成立します。そして、社会課題の解決への理解や共感が進む中で、「ゼロ」から「プラス」を立ち上げていく部分こそ、方法論として確立する必要があると考えています。

それがどんなテーマであっても実際にイノベーションを起こすということは、基本的には苦労と苦難の多い大変な道です。その中で、実現に向けた強い想いを持ち続けながら、まっすぐ未来に進んでいけるような強い個人はそれほど多くありません。でも、そこまでの強さがなくても、「一緒に考える」ことや「共につくっていく」ことによって、目指したい未来を実現する力を得ることはできるのではないでしょうか。

そのために、未来を考える方法について、今あるもの以上にもう少し明確なやり方があれば良いな、と思っています。テクノロジーの未来予測は、10年、30年、50年後の未来を考えるための軸を提供してくれます。さらにその先の「望ましい未来の可能性」を考えるために必要な情報とツールがまとめられたら、多くの人たちと共に、さらに先の未来について考えることができるはず。

いま見つけたいのは、この「共に未来を考えるための方法」です。

(後編につづく)

この記事は、ミラツクが運営するメンバーシップ「ROOM」によって取材・制作されています。http://room.emerging-future.org/

杉本恭子 ライター
京都在住のフリーライター。大阪出身。東京でさまざまなオンラインメディアの編集者を経験したのち、学生時代を過ごした京都でフリーに。現在は、人の言葉をありのままに聴くインタビューに取り組んでいます。Webマガジン「greenz.jp」シニアライター、「雛形」では徳島県・神山の女性たちにフォーカスした「かみやまの娘たち」を連載中。仏教が好き、お坊さんに詳しい。
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