single-newblog

ミドリムシを理解することは人間を理解すること。株式会社ユーグレナ 執行役員 研究開発担当・鈴木健吾さん【インタビューシリーズ「未来をテクノロジーから考える」】

ROOM

ミラツクでは、2020年7月より、未来をつくるための「場」を提供するオンラインメンバーシップ「ROOM」を開始しました。

インタビューシリーズ「未来をテクノロジーから考える」は、ミラツク代表・西村勇哉がインタビュアーとなり、「テクノロジーを駆使して未来を切り拓く」活動を行なっている人たちにお話を聞くオリジナルコンテンツ。「ROOM」では、記事と連動してインタビュイーの方をゲストにお招きするオンラインセッションを毎回開催していきます。

この記事は、ミラツクが運営するメンバーシップ「ROOM」によって取材・制作されています。http://room.emerging-future.org/

第七回は、それまでは市場が存在しなかった「微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ、以下「ユーグレナ」)」という生物の生産から社会実装までを可能にした「株式会社ユーグレナ」の執行役員 研究開発担当の鈴木健吾さん。

持続可能な循環型社会の実現に向けて、食品や化粧品などのヘルスケア、バイオ燃料事業など、様々な事業を展開しているユーグレナ社で創業時から研究・開発の責任者として走り続け、現在でも多領域での研究を進めている鈴木さん。

「SFをノンフィクションに」を自身のキーワードとして掲げている鈴木さんが描く、細胞研究の展望とは。ユーグレナが持つ可能性、そこから派生して成し得る研究の未来図について伺いました。

鈴木健吾(すずき・けんご)
株式会社ユーグレナ執行役員 研究開発担当。東北大学特任教授。農学・医学博士。
東京大学農学部生物システム工学専修卒、2005年8月株式会社ユーグレナ創業、取締役研究開発部長就任。同年12月に、世界でも初となるユーグレナの食用屋外大量培養に成功。2006年東京大学大学院農学生命科学研究科修士課程修了。2016年東京大学大学院農学博士学位取得。2019年北里大学大学院医学博士学位取得。ユーグレナの利活用およびその他藻類に関する研究に携わるかたわら、ユーグレナ由来のバイオ燃料製造開発に向けた研究に挑む。

(構成・執筆 代麻理子)

ユーグレナでサステナブルな社会を実現させる

西村では、まず鈴木さんがどんなことを行なっているのかを教えてもらえますか?

鈴木僕は、動物と植物両方の特徴を合わせ持つ単細胞であるユーグレナを、バイオ燃料や培養土、食料品、化粧品などの製品に変えるという研究開発をしています。主な研究対象は大学院時代から扱っているユーグレナなのですが、「SFをノンフィクションに」というキーワードを自分の中に持っていて、2019年3月には医学の博士号を取得しました。

将来的には分子生物学や宇宙医学、再生医療、有機化学、生物工学、航空宇宙などの技術を習熟し、「Sustainability First (サステナビリティ・ファースト)」をテーマに、研究開発・技術開発に尽力していこうと思っています。

西村「ユーグレナは健康食品として活用されている」というイメージをお持ちの方もいるかもしれませんが、ユーグレナの特徴をお聞きしていいですか?

鈴木ユーグレナは5億年以上前に誕生した原生生物です。和名ではミドリムシと呼ばれ、その名前から、よく虫と勘違いされることがありますが、昆虫ではなく、植物と動物の両方の性質を持っている微細藻類です。体長は直径10~300マイクロ(ミリの0.001倍)で、現在に至るまで約50以上の種類が確認されています。

ユーグレナならではの大きな特徴としては、植物のように葉緑体を持ち、光合成をして体内に栄養分を自らつくり出し、蓄積する点が挙げられます。さらに、鞭毛(べんもう。毛状の細胞小器官)を動かして光に向かって泳ぎ、動物のように細胞を変形させて動き回ることもできます。加えて、特定の環境変化に強いという特徴もあります。例えば、二酸化炭素の分圧が高い環境に強いですし、栄養源が乏しい場所でも光さえあれば生きていける。

また、酸欠状態にすると体の中に蓄えた炭水化物を油に変える働きもあり、育て方によってつくるものを変えることができるおもしろい生き物です。そのように様々な特徴があるユーグレナですが、僕はユーグレナを育てることによって世の中の多くの社会課題を解決することができるのではないか、という思いで研究をしているんですね。

例えば、現在人が食を選ぶときの基準はおいしさや価格、健康的であるかどうかだと思うのですが、20年後には環境負荷が低いか、五感で楽しめるか、なども重要な選択基準になると思っています。ユーグレナは二酸化炭素や生活排水を使用して育てることができるので地球環境に負荷が低いですし、将来的には宇宙の閉鎖空間で育てることも可能だと考えています。

食糧生産の面で言えば、2040年には地球上で肉や魚介類といったタンパク質が不足するのではないかと言われています。限られた資源下では食糧生産はいずれ限界を迎えます。ユーグレナは1平方メートルあたりの生産性が通常の農作物より高く、二酸化炭素の排出量は低い上に、大豆よりも効率よくタンパク質をつくることができます。 

地球環境に低負荷なのはもちろんのこと、これまでは「おいしい」とは言えなかった味の改良も進めている他、味覚に関連するデバイスの開発も進めているので、様々な側面から新しい食文化を提案できのではないかと思っています。

開発中の味覚デバイスを使用している鈴木さん

また、ユーグレナからは「食」だけでなく、バイオ燃料やプラスチック、培養土、動物の飼料などもつくりだせます。ユーグレナや他の素材を用いながら、バイオリファイナリー(石油ではなく再生可能エネルギーであるバイオマスを原料に燃料や樹脂を製造する技術)という形で、今までは価値がないとされていたものを価値あるものへと変えるサイクルを生み出したいと考えています。

その他にも、約2年前からサハラ砂漠に自生している野生種のスイカであるカラハリスイカの研究も進めています。カラハリスイカは乾燥時にも実や水分がきちんと保存され、放置しておいても3年くらいもつんですね。現地の人は水瓶や井戸代わりに使用しているくらいです。保水力と抗酸化力の両方を持ち合わせているのではないかと言われており、それを食品や化粧品にするプロジェクトを進めています。

自身が得た知識や研究成果を、社会に還元するところまで見届けたい

西村ありがとうございます。鈴木さんはカラハリスイカや、理研での微細藻類の油脂生産性を向上する培地添加剤の開発研究など、ユーグレナだけではなく様々なチャレンジをされていますよね。その理由というか、鈴木さんの中での「こういうことがやりたい!」という思いを教えてもらえますか?

カラハリスイカを観察・研究するためにサハラ砂漠へ

鈴木僕は「サイエンス」というものにすごく興味があるんです。中でも特に、「ナチュラルサイエンス」と言われる自然科学に高い関心を寄せています。つまり、人がいようがいまいが起こるような現象について精緻にまず理解したいという考えが強いんです。その領域が少しずつ広がりつつあるというのが現状ですが、自身のそもそもの根っこはサイエンティストだと思っています。

僕が少し変わっているとしたら、サイエンティストとして単純に自分の知識を増やして論文に書き記して終わり、ではなく、自身が得た知識や研究成果を社会に還元するところまで見届けたいと考えるところかもしれません。サイエンスの探求と社会への還元の両輪があるというか。現在、社会への還元は様々な領域で推し進められていますが、サイエンスとの複合領域を生み出せる人はまだまだ足りていないと感じているので、そうした軸で貢献していけたらと考えています。

西村例えば、工学系からのアプローチで社会実装を試みる人などは結構な数がいるかと思うのですが、鈴木さんは植物や基礎研究など、サイエンスの中でも手前の部分からの挑戦をされていますよね。基礎研究やナチュラルサイエンスだからこそできることがある、というような思いなのでしょうか?

鈴木複雑なパズルにチャレンジしたい、という思いが強いのかもしれません。生き物を介すと問題がめちゃくちゃ難しくなるので。その中でも特に「生き物による生産」つまり、「価値あるものを細胞の中で生み出す」ということに僕自身の興味が合っているのだと思います。

西村なぜ細胞の中でやりたいんですか?

鈴木複雑なところや制御しきれないところにおもしろさを感じるんだと思います。

西村普通、事業家は制御できないことを嫌うと思うんですが、鈴木さんは事業づくりもしたいけどそれが一番ではないという感じですか?

鈴木もちろん、つくりたくないわけではないのですが、社会における課題解決という文脈に沿ってモノの研究ができることが僕にとって一番おもしろさを感じる部分かもしれません。

西村社会かモノ、どちらが起点かと聞かれたらどちらだと思いますか?

鈴木僕は「サイエンスを社会に実装したい」という思いから理系に進みましたし、自分にできることで社会に貢献することは? という思いなので、プロダクトアウトに重きを置いています。なので、「困っている人がいるからいきなり助けたい」というよりは、困っている人のニーズなども聞くと、自身の研究の価値がさらに高まるのでは? という発想に近いかと思います。

西村一方で、同じものをずっと扱い続けるわけではないですよね。もちろん、ユーグレナがメインだと思いますが、スイカなど他のものにも手を出していますよね。そこはどういうバランスなんですか?

鈴木僕はランチェスター戦略(戦力に勝る「強者」と戦力の劣る「弱者」にわけ、それぞれがどのように戦えば戦局を有利に運べるのかを考えるための戦略論)がすごく好きなんです。例えば、20代の人が「なんでもできますよ」と言っても、それはなんにもできない人だと認識されてしまいますよね。どこかの領域で一番でなければならないとすると、ユーグレナという領域は会社にとっても僕自身にとっても重要だったと感じています。

ユーグレナ

僕はユーグレナという、もともとはマーケットがなかったものを生産から実装まで落とし込むということを15年間やってきたので、その信用を糧に他の領域でも研究させてもらえるようになったのだと思っています。

「宇宙への進出」と「不老不死の実現」を見据えた未来

西村最終的には様々な領域でやりたいんですか?

鈴木はい。ユーグレナでできないことは他の生き物でできるようにしたいと思っていますし。中長期的には、宇宙への進出と人間の不老不死を実現させるための研究につなげていきたいと思っています。

西村前からお聞きしたかったんですが、鈴木さんにとって宇宙は結構大事なんですか?

鈴木宇宙は物理をはじめとするサイエンスの基本ですよね。

西村そうか、大事なんだ。おもしろいですね。バイオ系の人ってそんなに宇宙は好きじゃないと思うので。

鈴木そこは結構分かれるかもしれませんね。スペースフードスフィアの小正さんの友人の藤島皓介さんは宇宙の生命探査に情熱を注いでいますし。生き物を扱う人の中で僕が少し特徴的だとすると、物理などが好きだったところから生命科学へとおりてきているからかもしれません。

演繹と帰納という二極があるとしたら、「物理や化学が嫌いだから生物を」という人は帰納的なものごとの見方をしているのだと思います。僕自身は「なぜ生き物が生まれたのか」「どういう形でモノがつくられているのか」といったところの原理原則から知りたいという思いが強いんです。なので、細胞の中でどのようにエネルギーを受けて、どんなエネルギーが使われながら別のものへと変換されているかなどを掴みたいと思いながら研究を進めています。

西村なるほど。物理学的なものの見方を持ったまま生物に興味があるんですね。

鈴木そうですね。生き物は触媒反応(触媒の作用によって進行する化学反応)の連続で成立していると思っているので、単純に観察日記をつけたいというよりは、結果を予測しながら答え合わせをするといったアプローチが好きですね。

西村おもしろいなあ。先ほどおっしゃっていた、不老不死の方についても伺ってよいでしょうか。

鈴木こちらは純粋に、自分が1ユーザーとして不老不死の技術を活用したいという思いもありますね。というのも、研究者はだいたい65歳を迎えたら名誉教授になり、80歳になったら研究の最前線からは去らなければなりません。ですが、脳も肉体も健康であれば、100歳でも200歳でも研究を続けられるんじゃないかと思うんですね。

自分が一生を終えるには残り40年は少し短過ぎると思っているので、それを延長したいという思いがまずあります。そして、それを実現させるための鍵は、微生物や細胞を扱うチームで解決できる答えに近いんじゃないかと考えているので、チャレンジしたい課題として抱き続けています。

そもそも宇宙と医療はリンクしている部分が多いんですね。太陽系外に出て行く、といったときには砂川さんの冬眠・休眠研究なども必要になるでしょうし。

写真:iStock

休眠したとしても少しずつ歳をとるのだとしたら、細胞を若返らせなきゃいけないという課題も生じるので、そういったことを実現できたらおもしろいんじゃないかなと思っています。加えて、かなり難しいと思いますが僕自身も地球の外にある生命体とコミュニケーションをとってみる、ということをすごく体験してみたいですしね。

その際には分身でもいいかなと思っているんです。マインド・アップロード(人間の意識を機械にアップロードすること)みたいな形で実行するのもいいですし。あとは、生き物の中にある記憶の一部分もしくは全部をインストールし「このマインドには宇宙に行ってもらいましょう」といったこともできるんじゃないかと考えています。

西村そこのアプローチは細胞からじゃなくてもいいんですね。

鈴木可能ならば細胞をベースにしたインターフェースに乗せたいとは思っています。僕は宇宙の中では無人探査よりも有人飛行と宇宙空間での居住のほうに興味があるのですが、宇宙での持続可能な社会を実現させようとした際に必要とされる技術は、生き物を介したモノの再生産や利用だと思っているんですね。その辺りは社会課題と自分の興味とが完全にリンクするので、今後も突き詰めてやっていきたいです。

別の学問を体系立てて理解することが目標達成への近道に

西村やりたいことがたくさんある中で鈴木さん自身が「ここのピースを一番自分で埋めたい」と感じる部分はどこになりますか?

鈴木先ほどお伝えしたランチェスター戦略やオープン&クローズ戦略(自社の基幹技術を独占して自社の競争力を高める一方、自社にとって基幹ではない技術を開放して市場の拡大を図る戦略)などから考えると、交換できるものがないのに違う分野に行っても「うるさい」と言われて終わってしまうだけだと思っています。なので、僕自身が最も貢献できるのはやはり細胞を扱う技術の部分だと認識しています。

細胞に関しては、分子生物学と呼ばれる領域から大量生産までの知見があるので、その辺りを自身が出せるひとつのカードとして差し出す。そして、自分たちが持っていない細胞腫の種類や細胞の育て方の一部などを持っている人と組み合わせて補いながらチームとしてやっていけたら、より効率良く課題解決ができるんじゃないかなと思っています。

西村今までお聞きしたことがありませんでしたが、今日お話を伺っていたら、鈴木さんは戦略的な部分を結構意識されているのだと感じました。

鈴木時間の使い方にしてもそうですが、僕はものごとを体系立てて理解して動きたいという気持ちが比較的強いのかもしれません。限られた資源のなかで正解にたどり着くためには、サイエンスという自身の専門分野だけでなく、例えば経営学のような別の領域の学問に対しても体系立てて学ぼうと心がけています。将来的には経営学の博士も取りたいと思っているくらいです。

2019年には医学の博士号も取得

西村ユーグレナのような細胞に関する領域はもちろんのこと、宇宙や経営などの分野にも学ぶ意味を感じたら取り組んでいくんですね。

鈴木はい、僕自身の興味もどんどん広がってきているので。

西村サイエンスに軸を持つ人の中ではそう考えて実際に行動にまで落としている人は結構珍しいですよね。多領域までリソースを割いたほうが、最終的には最も早く目標にたどり着けると。

鈴木そうですね。自身の競争力をどのように持つかを考えながら行動したほうが、最終的に達成したい目標への研究を進められると思っています。

西村研究者はそれぞれ自身の好きなことを追求している人が多く、それ自体はとても大事なことだと僕は思っているのですが、全体として早く前に進むためには何が必要だと思いますか?

鈴木当たり前な答えになってしまいますが、実現可能なゴールのイメージをいかに合意をとりながら形成するかだと思います。例えば、2040年の話だとすると、そのときにつくっていたいモノや未来像のプロトタイプがあると断然想像しやすいですよね。想像できることに対しては、人の関心も含め、様々な資源が集まってくる。なので、数字や映像など、全体像が見えるような具体的な事柄が重要なのではないでしょうか。

具体が描ける部分は大抵達成できる。逆に、具体を描けない部分は検証が必要です。検証が必要な部分には、ではどうしたら今後描けるようになるのかを話し合っていけます。そうしたプロセスを踏んでいくと、実現できることがどんどん増えていくのではないかと思います。

西村なるほど。では例えば日本で考えたときに、日本全体で研究者たちがそれぞれの目標に向かって尽力していますが、国全体としてどこに向かうのかの像が必要だということですか?

鈴木僕は日本という括りやナショナリズムについてはあまり考えないようにしています。というのも、サイエンスは等しく世界に存在しているものなので。でも、もしそのようなテーマで考えるならば、「研究者を厚遇しよう」という話はよく出ますが、どのように厚遇するのか、どんな研究者が望まれるのかなどをきちんと定義し、KPIを設定するのがいいのかもしれませんね。具体的な数値がなければ、「対策」といってもなんとなくお金を使って終わり、になりがちでしょうし。

「良く生き永らえたい」=「積分の期間を大きくしたい」?

西村なるほど。では「日本」という括りは外して、それぞれ様々なことを探求している科学者たちがいる中で、人間はどのような未来像に向かっていると思いますか?

鈴木そうですね……。人間には「より良く生きたい」という欲求があるので、食欲や睡眠欲などの本能的な欲求に関する研究が進みやすいのではないでしょうか。と同時に、これらは宇宙研究のテーマになるものでもあると思っています。

西村おもしろいですね。僕は大学院の頃に人間の動機を探求するマズローの研究をしていたのですが、人間は生存と関係性、成長の欲求を持っている。だから生きづらくても成長を目指したりするんだけれど。その中で、生存については意外とみんな大事にしない。マズローも成長が大事だという話だし、最近だと「関係性が大事」という風潮が強い中、生存か、なるほどと思いましたね。そこを推すかと。

鈴木やはり「良く生き永らえたい」という欲求は多くの人が持っているので。それは時間当たりに対して、与えられるものがマイナスじゃなくてプラスな限り生きたいという、積分の期間を大きくしたいことに他ならないと思うんです。

西村それを「積分」と表現する人はなかなかいないですけどね(笑)。

鈴木そうですかね?(笑)つまり、生きていて嫌なことがあっても、次はまた良いことがあると期待するから終止符をそこに打たないわけですよね。

西村たしかに。それは心理学的な感覚だと真逆に捉えます。「将来への不安」から起点して、その間に鬱などの問題があるなど、ミクロ視点で見る。なので「積分で見たときに幸せがプラス」のようには考えたこともありませんでしたが、たしかにマイナスになったら嫌だなと思います。

鈴木「将来が期待できない」「将来が不安だ」と感じている人は、現時点で将来の価値を総計してマイナスにならないかを懸念しているだけなのかなと。今しんどい人が、「今はしんどいけど頑張ろう」というときは、それもやっぱり将来に対しての積分で考えられるんじゃないかなと思っています。

西村おもしろいですね。鈴木さんはなぜ物理学にいかなかったんですか?

鈴木僕自身はいっていないつもりもなくて。量子力学などの研究も、いまキャッチアップを進めているところです。まだオリジナリティのある論文を書けるまでには至っていないんですが、電子のパターンと生命にみられる反応の仮説などについてはディスカッションができるくらいには理解しているつもりですし、研究領域としてすごくおもしろいところだと思っていますね。

西村なるほど。ジム・アル=カリーリとジョンジョー・マクファデンの共著『量子力学で生命の謎を解く』(SBクリエイティブ)のように、物理と生物を統合したいんでしょうか?

鈴木まさにそうですね。複合領域で進めていったときに見えてくるものがあると考えています。

西村そうか。鈴木さんの中ではそこはもう感覚としてはくっついているから、別の領域を学ぶことも全然変な話じゃなくて、当然のように学んでいくということですね。

鈴木はい。

西村それは例えば、ユーグレナと向き合っていても同じように感じるのでしょうか? それとも、おそらく概念的につながっているはずだから、みたいなところから入るんですか?

鈴木そこはあまり考えたことがなかったかもしれません……。やはり、両方のスペシャリティを合わせると、様々な角度から新しいことがわかるようになるということは至極当たり前の話だと思っていたので。なので、例えば量子で説明する生命現象についても、量子コンピュータで計算できるようになることで細胞の中のシミュレーションがより精緻に検証できるみたいなところでもつながるよね、ということだと思います。

西村ユーグレナがよくわからなさ過ぎて、別の領域も必要だというわけではない?

鈴木そういうわけではありません。ユーグレナを理解するのにもその領域が役立つということと、量子力学の内容を実証するのにミドリムシなどはすごくおもしろいケーステーマのひとつとして提案できる可能性がある、という思いです。ユーグレナが光を感知するメカニズムなどでは関連するたんぱくが見つかっていたりしますが、まだ実証されていないことも多かったりします。こういう仕組みも将来のハードウェアに活用できる要素を含んでいる可能性もあったりします。

ユーグレナを理解することで、人間への理解が進む

西村なるほどね。冒頭でもお話してもらいましたが、鈴木さんにとってのユーグレナのすごさを改めて伺ってもいいですか?

鈴木今年の4月に東北大学で医師をしていた人が研究チームにジョインしくれたのですが、その人は「人の治療をやっていても結局人の中で何が起こっているのかを全部把握するには全然足りない」と言っているんですね。演繹と帰納の話でいうと治療は帰納の連続で、そこを積み上げても積み上げても限界があるので、「生命の神秘」の「理」の部分を理解したいと。

人の細胞も、60兆個の細胞からとってきた1つで何かを語れるかというと、どうしても難しい部分があります。相互に影響せずとも生きていける単細胞のユーグレナが、生命としてどんなものをつくり、どんなものを細胞の外に出して、といったところを理解することによって、最終的に細胞そのものから高等生物まで理解が及ぶようになるんじゃないかということに興味があって、その人はユーグレナ社に入社しました。

そこからも見られるように、ユーグレナは「モデル生物」としてのおもしろさが詰まっている生き物だと思っています。単細胞のくせに光合成もするし、鞭毛を持ってそれを動かしながら動き回れるし、といったバイオロジーのおもしろさですね。それに加えて、産業面においてもひとつの細胞で様々なものをつくれるというおもしろさがあります。やっぱり、ユーグレナにしかつくれないものがあるんですよね。

例えば、β-1,3-グルカンの集合体であるパラミロンという多糖はユーグレナしかつくりませんし、酸欠状態にしたらそれがワックスエステルという特徴的な油に変わるんですね。そのように、ユーグレナしかつくらないものを平気でつくるところなどにもおもしろさを感じています。それがジェット燃料の生成にもつながったりと、ダイナミックなものに転換されたりもしますし。

次世代バイオディーゼルのサンプル

また、ユーグレナは1日で倍に増えるので、実験や研究のサイクルとしてもすごくいいんですよね。今日お話している中で気づいたのが、僕には研究として高度化されているものよりも、単純なもので見てみたいという思いがあるのかもしれません。

西村すごくいいですね。日本の生物の教科書には和名でミドリムシとして出てきますよね。どちらかというと、まだ最初のほうの生物という立ち位置で登場するので「しょぼい」と思われがちだと思うんですが。そうではなくて、単純な生物だからこそおもしろい、というところがうまく伝えられるといいな。というのも、若いとどうしても難しかったりややこしかったりするものを扱いたがるけれど、「単純さ」をわかったつもりになるのではなく、まだ全然わかっていないからおもしろい、ということに気づけるようになるといいなと思います。

ここまでお話を伺ってきた中で、鈴木さんがユーグレナに感じている魅力や今後やりたいと思っていることが伝わってきました。ご自身がやりたいことを進めていくために課題として感じていることはありますか?

鈴木僕が苦労しているのは、伝え方の難しさでしょうか。わかりやすい話はみんなが応援してくれる反面、わかりにくい話は支援者が減るんですよね。研究が先端にいけばいくほど進捗はしていても、本人以外の周りの人にはどれぐらい進んだかや、この先に何があるかなどがどんどん見えにくくなっていきます。社内でもよく「鈴木さんの話はわかりにく過ぎる」「説明が長い」などと言われています(笑)。

一方で、「1行で説明して」というのは研究者に対してある意味失礼なことだとも思うんですよね。と同時に、理解してもらうことを諦めるのはまたそれも違うでしょう。なので、研究の進捗やその先にあるものに対しての理解を得ながら研究を進めるという点には、僕自身もジレンマを感じながらやっています。そのように、研究を続けるための土壌をより盤石なものにしていくところが大変であり、おもしろくもあるところだなと思っています。

ユーグレナからつくったハンバーグとともに

西村それは研究者が抱える共通の悩みかもしれませんね。最後に、鈴木さんとサイエンスとの出会いというか、原体験をお聞きしてもいいですか?

鈴木そうですね……。僕は小さい頃からいろんな本をおもしろいと思って読んできたんですが、一番おもしろさを感じたのが「理科辞典」でした。これを見たら虹の仕組みから星、生き物の分類、熱力から何から全部わかるという、この世界の攻略本であり説明書が理科辞典だと思ったんですね。森羅万象がここにバンッと全て詰まっています、みたいなところにすごく惹かれて。今でも、自分の目の前で起きている事象や、世の中のことを詳しく理解したいという思いが自分の中にあり続けています。

ユーグレナや再生医療、宇宙研究に限らず、例えば光の屈折など。たった一度の人生だからこそ、目の前におかれている現象をただ受け入れるのではなく、なぜそういうことが起こっているのか? ということを理解しているほうがいろんな事を楽しめるのではないかと思っています。

この記事は、ミラツクが運営するメンバーシップ「ROOM」によって取材・制作されています。http://room.emerging-future.org/

冷静な語り口ながらも「SFをノンフィクションに」という熱い思いを抱えている鈴木さん。鈴木さんは、細胞や培養やユーグレナなどに対して全く無知な私にも、言葉と理を尽くして語ってくださいました。

90分お話を伺った中で、自身が成したい未来像を体現するために領域に捉われずに学び続ける鈴木さんは、きっと夢を叶えていくのだろうなと確信にも似た思いが生じました。

地球上ではもちろんのこと、持続可能な宇宙での暮らしや不老不死など。このインタビューシリーズを担当するまでは想像もつかなかったお話ですが、「ひとりが描いている夢物語」ではなく、数々の方が思い描いている共通のビジョンを体感することができ、とても貴重な体験をさせていただいているなと感じます。

次回は「少年時代に食べていた畑直送のフレッシュな野菜を地球でも宇宙でも食べられる未来を」をキーワードに循環型栽培システムの開発を行なっているTOWINGの西田宏平さんに未来の可能性を伺います。幼い頃に思い描いた夢を温め続け、弟や仲間と共に実現させつつある西田さんのお話もとても胸打たれるものでした。こちらもぜひお楽しみに!

代麻理子 ライター
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。渉外法律事務所秘書、専業主婦を経てライターに。心を動かされる読みものが好き! な思いが高じてライターに。現在は、NewsPicksにてインタビューライティングを行なっている他、講談社webメディア「ミモレ」でのコミュニティマネージャー/SNSディレクターを務める。プライベートでは9、7、5歳3児の母。
タグ