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共創型人材の育成に必要なこれからの組織のあり方とは?【共創型人材の育成と未来企業の実現シンポジウム その3】

シンポジウム

NPO法人ミラツクでは、2017年9月から「富士通株式会社」「株式会社ワコールホールディングス」「レノボ・ジャパン株式会社」「株式会社日建設計」「大阪大学」の5つの組織とともに、文献調査による「人が育つ組織」の要点の集約、企業に所属する15名の共創型実践者インタビューによる「共創型人材の成長プロセス」の調査と分析、集約などに取り組むコンソーシアム型調査プロジェクトを実施しました。

このコンソーシアムの成果共有として、2018年2月13日に東京・飯田橋のNSRIホールで『共創型人材の育成と未来企業の実現シンポジウム』を開催しました。「レノボ・ジャパン株式会社」代表取締役・留目真伸さんの基調講演のほか、調査結果から得られた知見を元に、パネルディスカッションやアイデア形成ワークショップなどが行われました。

本記事では、4名のパネラーと進行役のミラツク・西村によるパネルディスカッション「共創型人材の育成と組織・働き方のデザイン」の様子をお届けします。

Photo by MIKI CHISHAKI

この記事は、ミラツクが運営するメンバーシップ「ROOM」によって取材・制作されています。http://room.emerging-future.org/

登壇者プロフィール
留目真伸さん
レノボ・ジャパン株式会社 代表取締役社長/ NECパーソナルコンピュータ株式会社 代表取締役 執行役員社長
1971年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。総合商社、コンサルティングなどを経て2006年「レノボ・ジャパン」に入社。常務執行役員として戦略・オペレーション・製品事業・営業部門統括を歴任。2011年から「NECパーソナルコンピュータ」の取締役を兼任し、NEC とのPC事業統合を成功に導く。2012年「Lenovo Group」米国本社戦略部門に全世界の企業統合の統括責任者として赴任。2013年4月よりレノボ・NEC両ブランドのコンシューマ事業を統括。2015年4月より現職。
川路武さん
三井不動産株式会社 ビルディング本部法人営業統括二部 統括
1998年、「三井不動産」入社。官・民・学が協業する街づくりプロジェクト「柏の葉スマートシティ」など、大規模案件におけるコミュニティづくりや環境マネジメント案件の企画開発に多数携わる。現在は新規事業「WORKSTYLING(ワークスタイリング)」の立ち上げ運営業務がメイン。「三井不動産レジデンシャル」出向時(マンション事業の新商品開発などを担当)に、朝活「アサゲ・ニホンバシ」を開催するNPO法人「日本橋フレンド」を立ち上げる。
仙田圭一さん
パナソニック株式会社 AIソリューションセンター ロボティクスソリューション部 部長
1973年大阪生まれ。京都大学大学院を経て、1997年、「松下電器産業株式会社(現パナソニック)」入社。研究開発部門では、カーナビやデジタル家電向けプラットフォーム「UniPhier」開発を担当。企画部門では世界初の「103型」や「ビエラリンク」商品企画、BtoB事業シフトを機軸としたR&D構造改革を推進。現在、AI・ロボ分野を担当する傍ら、オープンイノベーション強化に向けた共創型ラボ「WonderLAB」企画・運営。
西原(廣瀬)文乃さん
立教大学 経営学部 国際経営学科助教
知識創造経営とソーシャル・イノベーションを研究テーマとする。知識創造経営では、組織における暗黙知と形式知の相互変換による知識創造のプロセスに注目し、組織的な価値創造やイノベーションと、それを駆動するリーダーシップについて事例研究を行う。ソーシャル・イノベーションでは、社会課題の解決や社会的価値の共創のプロセスについて、社会関係資本や知識創造の見地から事例研究を行っている。共著書に「実践ソーシャルイノベーション -知を価値に変えたコミュニティ・企業・NPO」「イノベーションを起こす組織 革新的サービス成功の本質」など。

普通のサラリーマンを変えていきたい

川路さんみなさんはじめまして。「三井不動産」の川路です。僕は日本橋で「日本橋フレンド」というまちづくりのNPOを6年半くらいやっていました。あとは「つなぐ人フォーラム」という、130人ぐらいで3日間ワークショップしまくるっていうフォーラムの実行委員をやったり、社外でもいろいろなことをやっています。

でも今日はその話じゃなくて、僕が愛してやまない「ワークスタイリング」の話をしていいということなので、たっぷり話したいと思います。すごく簡単にいいますと、企業が契約するシェアオフィスを全国30か所につくりました。契約企業の会社員が会員登録するとIDが振られて、一つのIDで30か所が全部使える。それがすべて会社払いになるという仕組みです。

「ワークスタイリング汐留」の内観。(写真提供:三井不動産)

僕の強い思いとして、普通のサラリーマンを変えたいということがありました。レノボさんみたいに働き方において先に進んだ会社ばかりではなく、9時〜5時で同じ職場に出勤して、マネージャーの前に座って仕事しなさいという会社はたくさんあります。僕もこの事業を始めるまでは、毎日同じ席に、大雪の日でさえ通っていました。それを変えられないかなと思ったんですね。

ただの時間削減だったら駅前のカフェに行けばいいわけですけど、ワークスタイリングではその後にいくつかの段階を想定しています。まず、メール一つ打つのにもこんなに時間がかかっているとか、自分の仕事の見直しが入りだします。そのあと、仲間と会議を変え始めます。ワークスタイリングは普通のコワーキングスペースと違って会議室をかなり多くつくっています。

自社同士で会議することもありますし、他社さんと会議している姿も目にします。単なる打ち合わせ会議だけではなく、イノベーションのためのブレスト会議をしたい、そこまできている企業さんも何社かあるように思います。会員企業同士でコラボレーションが始まったり、その先には企業以外のNPOや財団と一般企業の方が触れ合うようになると、普通のサラリーマンがどんどん階段を上って先にいってくれるんじゃないかなという思いがあり、この事業をやっています。

共創空間「WONDER LAB OSAKA」はどのようにして生まれたのか?

仙田さん「パナソニック」の仙田です。私は、大阪の門真という辺鄙なところに共創空間「WONDER LAB Osaka(ワンダーラボ大阪)」をつくりました。門真は、私も入社して初めて行ったくらい、普通の人はあまり行かない土地なんです。そこにあえてつくったということですね。

2008年にリーマンショックがあり、iPhoneが2007~8年ごろに出て、IT企業や大企業がプラットフォーマーとしてやってきました。iPhone以降どうなったかといいますと、たとえばうちの会社には「LUMIX(ルミックス)」というカメラがありますが、ルミックスはスマホのなかにある無料のカメラアプリと戦わなければならなくなりました。カーナビは無料のグーグルマップと戦わなければいけません。一つ数千億から一兆円あった事業が全部無料アプリに取って代わられた。その結果、2年連続で8000億円以上の大赤字になりました。会社潰れるんじゃないかなって真面目に思いました。

ここからが「ワンダーラボ」に関係してくるんですが、それくらい大赤字になるとどうなるか? ただでさえ辺鄙な門真に、誰も人が来てくれなくなるんですよ。それまでは、いろいろな大学の先生や技術のパートナーさんが「最新の技術で一緒にやりませんか」「テレビにこんな機能がいるんじゃないですか」って話に来てくれていたんですけど、みごとに誰も寄り付かなくなります。

その後、プラスの改革をしていきたいという流れになったときに、門真にこれだけ人が来ないのは問題だという話になりました。共創の場をつくられている方に相談したところ、社員がたくさん働いているんだから、門真に場をつくったら人が集まるよ、たまには売り込みだって外から来てくれるに違いないっていうアドバイスをいただいたんです。それで、800坪を使ってババーンと「ワンダーラボ」をつくりました。

「ワンダーラボ」の設計はこのようになっている。(写真提供:パナソニック)

でも最初は誰も近寄りませんでした。なぜか? そこにいると遊んでいると思われるから。必死でイベントを仕掛けたり、共創的な活動や実証をやり始めました。

そこから風向きが変わったのが、利用した人が勝手に自慢し始めたんですよね。こんな場所だよ、実証できちゃうんだよと。その姿を見て、これは勝手に広がるなと確信できました。今はベンチャーの方々も来てくれるようになって「共創の場の聖地巡りの一つです」とか言ってもらえたりしています。自分のなかでは、東京じゃなく門真っていうのがブルーオーシャン戦略でよかったんじゃないかなと思います。

留目さん私は会社の話はさきほど講演でさせていただいたので、個人的な話をします。『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)―100年時代の人生戦略』(東洋経済新報社)という本を昨年読みまして、そこからだいぶ考え方が変わってきました。自分はまさに3ステージの人生が通用しなくなる入口の世代であり、自分のやるべきことは会社や社会の仕組みを変えて次の世代につないでいくことなんじゃないかなと思うようになりました。今、そのことを考えながらいろいろやっています。ご興味のある方は、ぜひ一緒にやらせていただきたいと思っています。

会社も社会のために何かをつくる存在である

廣瀬さん西原(廣瀬)文乃と申します。西村さんには旧姓で廣瀬さんと呼ばれているので、ここでは廣瀬さんでいこうかなと思います。私は大学を卒業したあと、留目さんのいらっしゃるNECパーソナルの元であるNECに入りまして、コンピュータ系の海外営業をやっていました。

シリコンバレーに出張しているうちに、現地法人では MBA取得者が多いので、彼らと渡り合うには自分の知識が足りないんじゃないかと思うようになり、上司に内緒で一橋大学のMBAコースにアプライして、「受かったんで行かせてください」とお願いしました。理解のある上司だったので社内派遣という形で、一橋大学の国際企業戦略研究科でMBAをとりました。

一橋大学では『知識創造企業』という日本を代表する本を書いた野中郁次郎先生が教鞭をとっておられ、竹内弘高先生が研究科長でした。野中郁次郎先生のゼミ生になりまして、そこから人生が変わっちゃったわけなんです。野中先生の下でもっと研究したいということで、2006年に会社を辞めて博士後期課程に入りました。

野中先生のところで博士を取得し、特任講師として修行させてもらい、 2016年 4月に独り立ちして立教大学に移りました。今任されているのは国際経営とか経営戦略論なんですけれども、学生と話をしていると、これから自分たちがどういうふうに社会に貢献したらいいんだろうということへの関心が非常に高いんですね。彼らを見ていると、私たち一人ひとりが社会課題をジブンゴトとして解決していくようになるようだということは、最近すごく感じています。

イノベーションというのはいろいろな人たちがマルチステークホルダーで関わり合って起こしていくものです。それを突き詰めていくと、会社は自社や株主のために利益を出す存在ではなく、社会のために何らかの価値をつくる存在である、ということがわかります。自分たちのために価値をつくるんじゃなくて、社会のために価値をつくるからこそ自分たちに利益があがる。最近は、オープンイノベーションもソーシャルイノベーションも、全部イノベーションと言うだけでいいんじゃないかというくらいに思っているところです。

1000人に「好きなことをやって」と言えば、999人がいいことをする

西村今の廣瀬先生の話に関係なさそうで関係ある話をするんですけど、あるプレゼンのために、世の中を良くしたくない人がどのくらいいるんだろうということを調べてみたんです。サイコパシーという心理学的な尺度があるんですが、社会に対してやってはいけないことをあえてする、もしくはそこにまったく罪悪感を感じないという人格が、1000人に1人いるというデータを見つけました。

1000人に1人なので、1000人に「好きなことやって」と言ったら、999人がいいことをするというのがこの話です。僕は999人がいいことをするのであれば、1000人に「何もしないで」というよりも「やりたいことやってみなよ」と言ったほうが前に進むんじゃないかなと思っています。

それは10年前からずっと言っていることなんですけれども、このデータを見つけて、やはり多くの人はいいことを考えているんだとわかりました。自由にやると崩壊するのではなく、一定のいい方向にいくんじゃないかなと思います。

今回のコンソーシアムの調査では、そうやって動き始めた人がどんな障壁に当たったのかを調べました。パネルディスカッションのひとつめのテーマにしようと思っていたのが、この障壁の話です。4人には調査結果のカードのなかから1枚ずつ気になったものを選んでいただいて、コメントしていただきたいと思います。

組織から社会へとウエイトが変わり、会社人から社会人になる

留目さんこれはおもしろいですね。「本業がなあなあになることを恐れる。複業が認められない」っていうのを選ばせていただいたんですけど、これって「あるある」ですよね。複業・兼業OKだよって言いつつ、本業がおろそかになるんだったらダメだよって言われたら、実質ダメってことですよね。

管理しようと思うからこうなるのかなと思うんです。実際は、誰もそこまで管理なんかできないですし、する必要もないんですよね。上司が部下のやっていることをどれだけ知っているのかというと、会社で同じ島に座っていたとしても、ほとんど知らないんですよ。部下にその日にやっていることを聞いてみると、上司が思っているのとまったく違うことをしていたりします。

うちはテレワークを熱心にやっていますが、それなら社内においておく必要ないんじゃないの、と。極端な話をすれば「これを達成しよう」ということがしっかり共有されていれば、本業はなあなあにはならないんじゃないかなと思うんですよね。

西村その辺を川路さんにも聞いてみたいんですけど、川路さんはご自分でNPOをやったりしていましたが、本業はなあなあではないですよね。新規事業を立ち上げていますし、それがちゃんと回るように普通の人がやり切らないようなところまでやり切っています。そのモチベ―ションの元ってどんなところにあるんでしょうか?

川路さん今、配られたカードを見て全部当てはまっていると思いました。「今までと違うことをやろうとして主力から外される」「上司に対して指摘し、目を付けられる」「板挟みにあう」とか、これ全部僕のことです(笑)。

僕も、なんでこんな苦行みたいなことをしてるんだろうなっていつも思うんです。怒られないようにすれば楽なんですが、かっこいいことをいえば、ビジョンに向かってさえいれば、こういう問題は別にどうでもいいと思っているのかもしれません。

ただ、話すことはだんだん大きくなってきている気がします。最初のうちは小さな新規事業だったのがトライ&エラーを繰り返して成功体験が積み重なっていくと、もうちょっとできるかなと思って大きな投資計画を書くようになって、なんとなく役員を味方につければ、こんなこともいけるんじゃないかみたいに思うわけです。自分では、もう経営者くらいの頭の中になってるんですね。なってるんだけど、しょせん僕は平社員なんです。なんなんですかね? ごめんなさい、答えになってます?

留目さんそれは、会社のなかのプロセスよりも本質的に解決すべき社会の課題にウエイトがいったわけで、さっき私がいった会社人から社会人になっているということなんじゃないかな。

人が自由に移動したり、兼業することで得られるプラスの効果


西村ちなみに川路さんは何のカードを選んだんですか?

川路さん私は「立場による感覚、考えの違いを埋めるのに苦労する」です。例えば大学の先生って、基本オープンなんですよ。特に情報系やロボット系の先生は発信してなんぼっていうところもある。先生はオープンにしたいし、企業でやっていることも喋りたがる。会議の様子をfacebookにあげちゃったりするんですよね。企業としては「そこ、もう少し待って」みたいなのがあるんだけど、会社全体が「まぁ喋ってもいいか」ってだんだん思うようになってきていますね。

西村外の人が入ることによって会社側も変わっていくわけですね。

川路さん社員が会社の規制を飛び越えるのは、なかなか勇気がいります。でも外の人は社内ルールを知らないので勝手にやっちゃう。そうするとみんな「まぁいいか」みたいになって変わっていく。そこは結果的にすごくいい効果が出ていると思います。

西村仙田さんのところには、谷口さんという変な人間がいるんですけど、会社人ではない人を一人受け入れたわけですよね?

仙田さんそうですね。谷口さんは大学の先生で人工知能を担当しています。人工知能は、2012年ごろにディープラーニングっていう新しい技術ができて、急に第三次ブームが立ち上がったんですよね。でも会社には、まだ第一次、第二次ブームの頃の社員しかいないので、外の人を連れてくるしかないっていう事情がありました。国もいろいろ考えてはくれていて、大学の先生が企業や研究機関にいくことができる「クロスアポイントメント」という制度をつくってくれました。でも、大学から企業にいく事例はまだ一つもなかったんですよね。

企業側からすると大学の先生って偉いから、正直気を使うところもあるんですよ。でもAIは新しい分野で、教授も30代だったりします。谷口先生もお若いので、うちの若手でも物怖じしないでコミュニケーションができるかなと思って、週1回兼業で来てもらうことになりました。

谷口先生に聞くと、会社に対する見方が変わったっていいますね。僕らは僕らで、身内に先生がいるだけでスピード感があるし、全然やり方が変わりました。大学の給料+αが企業から支払われるので先生も嬉しいし、我々からすると共同研究でお金を払うよりもものすごく安く済むので、こんなにいい制度はない。そうやって人が自由に移動したり兼業したりっていうのはものすごくいい効果があるんだっていうことは実感しています。

西村谷口先生一人に対して、「パナソニック」の何十人もいるチームが影響を受けて変わっていく。企業側がどんどん変わっていくっていうのは興味深いですね。

場を知らないから、イノベーションが起こせる

廣瀬さん私が選んだカードは「リスクを負うことを恐れてチャレンジできない」です。今の話だと、「パナソニック」さんは谷口先生がいらしてチャレンジする雰囲気ができたんだろうなと思うんです。外からきた人がなぜイノベーションを起こせるのかというと、場を知らないからなんですね。「知らないからやっちゃいました」ということで認めてもらえたり、視点が新しいので自分たちの中の暗黙知が刺激されて、もっといいものが出てきたりする。それがよく言われる「よそ者、若者、バカ者」です。

知識創造的にいうと、みなさんが同じ経験をしたり、同じ知識を持っていたりすると、単一的になって場が固まってしまうんですね。同じ知識、経験を持っている間ではイノベーション起こそうと思っても新しい結合ができない。だからリスクを恐れて動けなくなっちゃう。そういうときは2枚目3枚目の名刺を持って外にいったり、自分の地域でゴミ拾いをするだけでも全然違う発見があると思います。

西村みんながある程度違う経験をしてくれているほうが、場が固まらずに済むということですか?

廣瀬さんそうですね。テレワークがいいのは、まさに同じ場にいないことです。人って多面的な存在なので、常に何かしら自分にインプットしています。その機会が外にいくことによって知らず知らずのうちに増えるということじゃないかなと思っています。

西村それは川路さんのワークスタイリングで動かしていけそうな気もしますね。

川路さん以前ワークスタイリングを使って、ある会社さんが研修をやりました。それは講師がいなくて、みんながいつもと違う場所に行って、ある人の話を聞いた感想をテレビ会議でバンっとつないで3か所で話し合うだけっていう研修だったんですが、これがものすごい効果があったそうなんです。場所が違うと感覚が変わってよかったねって、事業会社さんにもすごく感動していただいて。

西村めちゃくちゃおもしろい実証ですね。そんな実証自体、なかなかできない。

川路さんそうなんです。でもチャレンジしていただいた会社さんがいて。場所や時間が違うだけで変わってくるというのは、イノベーションのきっかけにもなると思いますね。

管理職は勝海舟みたいになったらいい

留目さん私は幕末が好きなんですけど、管理職は勝海舟みたいになったらいいんじゃないかなって思います。幕末って大きなイノベーションじゃないですか。徳川幕府が300年続いて変わらなければならないってなったときに、西郷隆盛や坂本龍馬が出てきて、単なる尊王攘夷でも開国でもなく、まったく違うものになった。

でも、大政奉還が行われ、その結果として今の日本につながっていったので、結果からみると悪くなかったという。勝海舟って幕府の要人なのに、いろいろなところに出かけて多様な人と会って刺激を受け、刺激を与え、みんなを泳がせつつ、そういうところまで想像して寄せてたと思うんですね。

今成功しているスタートアップを見ても、その裏側には「ザグミスト」みたいな人がいて、ちゃんと座組をつくっているわけです。大企業側はそのぐらいのつもりでいて、異質な人たちに混ざって泳いでもらい、最後に予想もしなかった、もともとのプラン以上の何かになればいいわけですよね。

西村「ザグミスト」っておもしろいですね。きっかけを仕掛ける人ですよね。共創型人材育成ってことは育てることがテーマだから、どんなきっかけを得て進んでいくのかも大事かなと思っています。今すでに仕掛けられていることや、こういうきっかけや仕組みがあったらおもしろいんじゃないかって思う話があれば伺いたいです。

川路さん僕は以前、「Clipニホンバシ」という、新規事業の担当同士が傷を舐め合うコワーキングスペースを立ち上げました(笑)。新規事業の担当って孤独なんですよ。いつもこの話してるから聞き飽きた人もいると思うんですけど、新規事業って経営に近い人たちから「なんかやれ」って言われて、出張したりどっか行ったりして、一見遊んでいるように見える。

「お前は楽しそうだな」って言われて、企画書書いて持っていくと「全然違う」って返されて、企画の千本ノックをやるんですけど、本人はすごくつらいわけなんですよね。給料をもらっているのに結果が出なくて、給料泥棒的な感覚になってくるんですよ。

それで「みんな同じだよ」って傷を舐め合うコワーキングをつくってみたんですけど、そのときに傷を舐め合う同士でうまくいったらいいなと思っていろいろマッチングをしてみたんです。でも、ビジネスマッチングはあんまりうまくいかなくて、最近は、パーソナルマッチングなんだなということを思うようになりました。

だから今、僕がやろうとしているのは、日々の仕事のなかで人と人が出会える場所づくりなんです。日本人は心のバリアが強すぎるので、シリコンバレーみたいにバーで「はーい!」って知らない人同士が会ってナプキンに書いたアイデアから成功譚が生まれる、みたいなことはなかなか起こらない。だからいっそ僕は、オフタイムじゃなくてオンタイムで出会えばいいと思っています。

「ぎりぎりアウト」がコンセプト。人は自分で発信すると行動が変わる

西村仙田さんはいかがですか? 「ワンダーラボ」だとどういうふうにしているんでしょうか。

仙田さんうちのラボには「交流」と「実証」と「発信」という3つのコンセプトがあります。「交流」はさっき話した、門真に人がこないのでなんとかするという話です。「実証」は、AIの時代でデータをとらないといけないことが多いので、それができるようにしたこと。「発信」というのは、リスクをとることを後押しするためのものです。人って自分で発信するとちゃんと考えるようになるし、行動が変わるんですよね。

うちの会社は大量生産しているだけで、個人が表に出ることはこれまで絶対にありませんでした。でも「ワンダーラボ」だけは特区にしてくれということで、個人にフューチャーした発信や、まだ生煮えなんだけどこんな企画をやっていますっていうものも、どんどん発信していいことにしたんです。

西村もうちょっと深く聞きたいんですけど、要は写真撮影可ということですよね。

仙田さんはい。そういうことです。

西村一方で、実証をいっぱいやっているという話だったので、そこら中に新しいロボットが走ってるわけですよね。撮っていいものと撮っちゃダメなものを同じ場所に持ってくることは、どうやって解決したんですか?

仙田さん「ワンダーラボ」は基本的には撮っていいものしかやってないですね。例えば、まだ生煮えでプレス発表まではやらないんだけど、お客さんが勝手に撮って口コミ的に上げる分には誰も止めないという微妙な状況です。微妙にグレーだけど微妙にOK。むずかしいんですけどね。あんまりやりすぎて問題が起こっちゃうと逆風が起きますので、すごく気を遣って制度設計はしました。

西村興味があるからもう少し突っ込むんですけど、気を遣うって何に気を遣うんですか?

仙田さん私はこれを「ぎりぎりアウト」っていうコンセプトで進めています。完全にはみ出ると一気に叩き潰されるから、アウトなんだけどぎりぎりアウトで。

西村仙田さんだけじゃなくて「ワンダーラボ」を使う人がみんな、ぎりぎりアウトゾーンで留まってくれることが大事ですよね。調子に乗って誰かがバーンといってしまうと、連鎖して5人組的に全員アウトになる。

仙田さん大企業のサラリーマンは真面目な人が多いのでそこまで飛び出しません。でもコラボしている外の方が「うわぁ、そこまでやるんだ」みたいなことはありますね。

西村あるんですね。でもみんな、なんとかぎりぎりアウトで留まってくれていると。リスクの話と絡んでくるんですけど、ぎりぎりセーフだと「絶対セーフのところにいよう」ってなると思うんです。でもぎりぎりアウトって言われると「どこまでがアウトなんだろう」みたいなことを考えて行動し始める。そこがおもしろいですね。

2番手、3番手に育ってもらうために必要なこと

西村そうしたら、2番手、3番手に育ってもらうためにこういうものが世の中にあるといいな、もしくは組織の中にあればいいなと思っていることを最後に伺いたいと思います。

川路さんやっぱり成功体験は気持ちを大きくしてくれます。でもそれ以上に、圧倒的にインプットが大事だという結論になってきました。もちろん打席に立つことも大事なんだけど、今は野球っていうルールさえも知らないなかで打席に立てみたいな雰囲気になっています。

留目さんの基調講演も、社員全員に聞かせてあげたかったなって思います。こういった話を聞いたことがあるかないかで全然違ってくる。大企業の中で歯車的に仕事をしていたらインプットの時間はあまりないので、どうやってそのインプットを彼らに与えてあげられるのかということを、最近ずっと考えています。

仙田さんさっき発信の話をしたんですけれども、プロジェクトを横断で組もうとしたときに、海外の企業さんはslackなど、いろいろなツールを使って、バーチャルなコミュニケーションが簡単にできちゃうんですね。日本企業同士はまだそれができない。

個人としてはfacebookなんかでやりとりしているのに、いざ真面目なプロジェクトをやろうとすると、急にバーチャルな場の障壁があがってしまう。そこを仕組みとして突破できるようにすると、各企業から一人ずつが入るようなプロジェクトも組みやすくなるんじゃないかなと思っています。そこの風穴をあけられるようにしたいです。

留目さんオープンイノベーションとか共創って「必要だよね」って言えばみんな「必要だよね」って言うと思うんです。でも具体的にどうやろうかとなると、できないことばかりです。だから社会や会社のつくり方、社員に対する寛容度、働き方やツールであったりというものが「当たり前だよね」って言われるくらいにならないといけないですよね。経営者が変わらないといけないと思いますし、そこは経営者同士がオープンイノベーションについてもっと議論しないといけないと思います。

あるいは、株主ですよね。株主はもっと声を上げるべきだと思うんですけど、日本は株主がおとなしくてガバナンスがきかないから経営者が変わらない。そこのプレッシャーが圧倒的に足りていないなと感じています。

一方で働き方改革ってこれだけ言われているので、そういうものがサポートされる環境は整ってきていると思います。世の中は、何もベンチャーを起業しようっていう人たちばっかりじゃありません。普通に会社で働きながら、社会に意味のあるプロジェクトに参加したり、自分の会社の意味合いを見出してどんどんプロジェクトに携わっていくような、そんな「社会人」が活躍できる社会になるといいなと思います。

廣瀬さんみなさんのお話を伺って、会場の様子も見て、やっぱり一番大切なのは「共感」なのかなと改めて思いました。知識創造ってむずかしい言葉なんですけれども、何を大切にしてるかというと、最初は共感です。そこがあって人を信頼して、はじめてオープンになれる。

4人のなかでは私が一番年上なんですけど、私たちの頃って飲みにケーションがすごく大事でした。もちろん愚痴もありましたけど「自分はこんな体験をしてな」みたいな話を上司がしてくれたことは、学びでもあったと思うんです。それがなくなって、職場でパソコンに向かってるだけっていう状態になっちゃうと、物語を共有できずに共感も起きないんじゃないかなと思っています。それをブレイクする方法があると、2番手、3番手に伝えていけるんじゃないかなと思いながら、今日の話を聞いていました。

西村登壇していただいた川路さん、仙田さん、留目さん、そして廣瀬先生、改めてありがとうございました。

この記事は、ミラツクが運営するメンバーシップ「ROOM」によって取材・制作されています。http://room.emerging-future.org/

平川友紀 ライター
リアリティを残し、行間を拾う、ストーリーライター・文筆家。greenz.jpシニアライター。1979年生まれ。20代前半を音楽インディーズ雑誌の編集長として過ごし、生き方や表現について多くのミュージシャンから影響を受けた。2006年、神奈川県の里山のまち、旧藤野町(相模原市緑区)に移住。その多様性のあるコミュニティにすっかり魅了され、気づけばまちづくり、暮らしなどを主なテーマに執筆中。